2023 Volume 56 Issue 3 Pages en3-
三月も中旬となり,北野天満宮をはじめとする京都の梅の名所では,満開の見頃を迎えています.街中では多くの外国人観光客の姿が見受けられ,観光地はかつての賑わいを取り戻しつつあります.先日何年かぶりに,欧州での国際学会に参加する機会がありましたが,街中にマスク姿の人は皆無で,日本とのあまりの違いに驚かされました.国内外を含め,学会の現地対面形式が主軸に戻りつつあり,顔を見合わせながら議論し,交流を深められる有難みを改めて噛みしめています.
さて,第56巻第3号の掲載論文は,原著1編,症例報告5編の計6編です.いずれも興味深い内容のものばかりですが,今月の一押し論文には,渡部晃子先生の「胃切除後食物停滞による残胃拡張に対する簡易な治療介入インデックスの同定」を選ばせていただきました.胃癌術後においては残胃の病的拡張を早期に診断し,胃内減圧などの適切な処置を行うことが,肺炎をはじめとする術後合併症防止に重要です.本研究では,腹部単純レントゲン検査で簡便に測定可能な指標を用いて,胃切除後食物停滞に対する治療介入インデックスを同定することを目的としています.幽門側胃切除77症例の解析から,治療介入と最も強く相関した臨床指数は,“椎体の中心から左横隔膜角までの距離と,胃泡の最大幅の比”であることが示されています.著者らにより新たに定義された,この“胃拡張インデックス”は,日常臨床において治療介入を予測する有用な指標となる可能性が期待されます.学術的意義が高く,非常に興味深い内容となっていますので,ぜひご一読ください.
「査読への想い:如何に教育的な査読によりいい論文を作り出すか?」
本誌はかねてより若手医師の研究・臨床症例報告の登竜門として,英文誌投稿とは一味違う教育的役割を担ってきた経緯があります.毎月行われる会誌編集委員会では,教育的観点からも熱心な議論が交わされています.症例報告論文を例に挙げましても,明確かつシンプルで,教育的に有意義なメッセージが含まれることが重要です.稀少性,新奇性を主張する際には,グローバルな観点から明瞭な根拠を示すことが望まれます.これらの根幹が,科学論文として体裁の整った文章,理解しやすい図表により支えられる必要があります.本誌には懇切丁寧かつ教育的な査読で,質の高い論文に仕上げるための体制が整っていますので,若手の先生方には,ぜひ活用いただけたらと思います.
(塩﨑 敦)
2023年3月16日