The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Pararectal Lymph Node Metastasis from Pelvic Peritoneal Dissemination in Which Curative Resection of Transverse Colon Cancer Resulted in Long-Term Survival after Preoperative Systemic Chemotherapy and Surgery
Kyoko SakamotoKoji OkabayashiShimpei MatsuiRyo SeishimaKohei ShigetaYohei MasugiYuko Kitagawa
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2023 Volume 56 Issue 4 Pages 214-220

Details
Abstract

症例は75歳の男性で,72歳時に横行結腸癌に対して腹腔鏡補助下結腸左半切除術を施行し病理組織学的診断はpT2N1,tub2,ly1,v2,pStage IIIaであった.術後補助療法としてUFT/UZEL6コース施行後再発なく経過していたが術後2年11か月目のCTで骨盤内腹膜播種再発が診断された.TEGAFIRI+Bev療法12コース施行後stable diseaseであり切除の方針となった.手術所見では直腸前壁漿膜面に結節を認め,低位前方切除術を施行した.病理組織学的所見では直腸結節は横行結腸癌の腹膜転移として矛盾しなかった.No. 251リンパ節に2個の転移リンパ節を認め,腹膜播種結節からのリンパ行性転移と考えられた.術後補助療法としてXELOX 3コース施行し以降無治療経過観察しているが,術後9年無再発生存中である.腹膜播種結節からのリンパ節転移は非常にまれであり報告する.

Translated Abstract

The patient was a 75-year-old male who underwent laparoscopy-assisted left hemicolectomy for transverse colon cancer at age 72 years. The pathological diagnosis was pT2N1, tub2, ly1, v2, pStage IIIa. After 6 courses of UFT/UZEL as adjuvant therapy, there was no recurrence. However, 2 years and 11 months after surgery, recurrence of pelvic peritoneal dissemination was diagnosed by CT. After 12 courses of TEGAFIRI+Bev, the disease stabilized and the metastatic nodule was resected. A nodule on the serosal surface of the anterior rectum was found in surgery, and low anterior resection was performed. Histopathologic findings showed peritoneal metastasis of transverse colon cancer to the pararectal node. Two metastatic lymph nodes were found in the No. 251 lymph node, leading to diagnosis of lymphatic metastasis from a peritoneal dissemination nodule. Three courses of XELOX were administered postoperatively as adjuvant therapy and the patient has been recurrence-free for 9 years.

はじめに

腹膜播種は,種を蒔いた時のように癌細胞が腹腔内に広がっていく転移形式である.大腸癌根治切除術後の腹膜播種再発の頻度は1.2~1.7%とされ,一般的に予後不良と考えられている1)2).腹膜播種巣は自律的に徐々に増加・増大していくと考えられ,血行性転移やリンパ行性転移などの他の転移形成能をどのように獲得していくのかについては明らかでない.我々は横行結腸癌治癒切除後に生じた骨盤内腹膜播種再発巣が,直腸前壁の漿膜外から直腸傍リンパ節へリンパ行性転移を来したと考えられる症例を経験した.腹膜播種巣からのリンパ行性転移の報告は少なく,極めてまれな症例であるため報告する.

症例

患者:75歳,男性

現病歴:72歳時に横行結腸癌に対して腹腔鏡下結腸左半切除術を施行した.病理組織検査は中分化型管状腺癌,pT2N1(#221),ly1,v2,pStage IIIaであった.術後補助療法としてUFT/UZEL 6コース施行した.初回手術後2年11か月,術後経過観察目的で施行した胸腹部骨盤造影CTで直腸右側の直腸間膜内に増大傾向を有する結節影が指摘された.PET-CTで同結節に一致した集積(SUVmax:5.8)を認め,腹膜翻転部レベルの直腸前壁にも結節状の高度異常集積(SUVmax:14.9)を認めた.直腸間膜内の結節は解剖学的に播種性転移とは考えにくい位置であり,骨盤内腹膜播種再発および腹膜播種巣からのリンパ行性リンパ節転移と診断した.初回化学療法として,TEGAFIRI+ベバシズマブ療法12コース施行した.化学療法12コース施行後に行った胸腹骨盤造影CTで,直腸前面の腹膜播種巣,直腸傍リンパ節はともにstable diseaseであり,PET-CTにおいてFDGの集積低下を認めた(Fig. 1, 2).新規病変の出現も認めなかったため,切除可能病変と診断した.腹膜播種切除および全直腸間膜切除を伴う直腸切除術を行う方針とし,手術目的で入院となった.

Fig. 1 

(a) A CT scan before chemotherapy showed a nodule of 9 mm in diameter on the right side within the mesentery of the rectum (arrowhead). (b) A metastatic nodule showed no change in size after chemotherapy (arrowhead).

Fig. 2 

(a, b) A FDG-PET scan before chemotherapy showed a hot lesion on the right side within the mesentery of the rectum (SUVmax=5.8, white arrowhead) and in the anterior wall of the rectum (SUVmax=14.9, black arrowhead). (c, d) FDG accumulation decreased after chemotherapy.

既往歴:糖尿病あり.

家族歴:特記すべき事項なし.

術前血液検査所見:特記すべき異常値はなかった.

術前上部消化管内視鏡検査所見:特記すべき所見はなかった.

術前下部消化管内視鏡検査所見:AV 35 cmに吻合部は存在し,腸管内腔には新規の原発巣や局所再発所見を認めなかった.

術前胸腹部骨盤造影CT所見:直腸前壁の軽度壁肥厚と直腸間膜右側に結節影を認めた.結節影は下部直腸の高さに存在した.どちらも化学療法前とサイズ変化は認めなかった(Fig. 1).

術前FDG-PET所見:直腸間膜内結節の集積の低下を認めた(SUVmax:2.2).直腸前面の集積は不明瞭となった.新規病変の出現は認めなかった(Fig. 2).

手術所見:中下腹部正中切開で開腹した.腹腔内を検索したところ,2か所の腹膜播種結節を認めた.腹膜翻転部左側から直腸前壁にかけて10 mm大の播種結節を1か所(①),右側腹部の傍結腸溝に10 mm大の大網に被覆された播種結節を1か所(②)を認め,P2相当の腹膜播種と診断した.その他に明らかな転移の所見を認めず,根治切除可能と診断した.前回手術の吻合部の血流を確保するためにS状結腸動脈第1枝分岐後の末梢側で上直腸動脈を切離し,同レベルで下腸間膜静脈を切離した.結腸を自動縫合器で切離した.自律神経を温存しながら,①からマージン確保しつつ全直腸間膜切除を施行した.直腸を自動縫合器で切離し,検体を摘出した.Double stapling techniqueで結腸と直腸を吻合した.術中内視鏡で吻合部は肛門縁から4 cmであった.S状結腸動脈第1枝分岐を温存した影響で吻合部の緊張が強くなったため,diverting ileostomyを造設した.②は結節からマージンを確保しつつ周囲の脂肪組織および腹膜とともに単純切除した.

病理組織学的検査所見:直腸には肉眼的に確認できた①を含め顕微鏡的に漿膜面に合計三つの結節があり,いずれも組織学的に異型細胞が腺管構造をとりながら増生していた.二つは直腸漿膜下層まで,一つは直腸固有筋層まで浸潤していた.既往の横行結腸癌と類似した組織像であり,腹膜播種再発として矛盾しない所見であった.②の結節は炎症細胞,線維化が主体であり,viableな腫瘍細胞はないが腹膜播種が化学療法により壊死した結節としても矛盾しない所見であった.No. 251リンパ節には2個(/6個中)腺癌の転移を認めた(Fig. 3, 4).

Fig. 3 

Macroscopic findings of peritoneal dissemination nodules after 10% formalin fixation. (a) Rectum after removal of the mesentery. There were three nodules on the anterior wall of the rectum (arrowheads). (b) Transverse section of peritoneal dissemination nodules (arrowheads).

Fig. 4 

Microscopic findings of primary transverse colon cancer (a: HE, loupe), a peritoneal dissemination nodule on the anterior wall of the rectum (b: HE, loupe), and a lymph node in the mesorectum (c: HE, loupe; d: HE, ×10). The primary tumor was composed of moderately differentiated adenocarcinoma (a). The recurrent peritoneal nodule and lymph node in the mesorectum had the same histology as the primary tumor (b, c). The peritoneal dissemination nodule invaded the rectal muscularis propria from the serosa side and the rectal mucosa was intact (b, black arrowhead).

術後経過:術後17日目に退院となった.術後45日目より補助療法としてXELOX 3コース施行し,手足症候群などの副作用のため中止となった.術後7か月目に人工肛門閉鎖術を行った.現在術後9年経過し,再発所見なく当科外来通院中である.

考察

本症例は,大腸癌腹膜播種再発が特殊な形で進展した症例であり,化学療法施行後に外科的切除を行い長期生存を得ることができた非常に示唆に富む症例であった.本症例で認められた直腸傍リンパ節転移は,腹膜表面で自律的に増加・増殖する腹膜播種の典型像に合致しない再発所見であり,直腸前壁の腹膜播種巣からリンパ行性にリンパ節転移が生じたと考えられた.再発病変は限局的であり切除可能であったため,化学療法を施行したのちに手術治療を行った.結果的に全直腸間膜切除によるen blocな切除を施行することができ,長期生存を得ることができている.

本症例の転移形式に関して考察する.リンパ節転移は癌原発巣からリンパ行性に転移する転移形式である.結腸のリンパ流には支配動脈に沿った中枢性の流路と辺縁動脈に沿った腸管軸方向の流路があり3)4),大腸癌の占居部位により所属リンパ節が定義されている5).本症例のような所属リンパ節外の孤立性リンパ節転移の報告はまれである.本症例の原発巣は左側横行結腸であり,初回手術で中結腸動脈,左結腸動脈を支配動脈としたD3郭清が行われ腸管傍リンパ節にのみ転移を認めていた.直腸傍リンパ節へのリンパ流は直腸および肛門管からであるはずだが,本症例では左側結腸の腸間膜内のリンパ節に転移再発を認めず,横行結腸から別の流路でリンパ行性転移したとは考えがたかった.リンパ節近傍の直腸前壁臓側腹膜に腹膜播種結節があり,この結節が漿膜側からリンパ管浸潤を起こし直腸傍リンパ節へ転移したと考えるほうが病態生理学的に妥当であると思われた.そもそもT2大腸癌からの腹膜播種再発はまれである.初回手術時の所見を再検討し,播種再発につながる原因究明に努めたが,原因を明らかにすることはできなかった.本症例の原発巣は,病理学的にリンパ管侵襲陽性であり,手術操作の間にリンパ液中に含まれていた癌細胞が飛散していた可能性がある.腹膜播種は癌細胞の腹腔内への到達,腹腔内環境への適応,腹膜への接着という三つの段階を経て形成される6).高い運動能と浸潤能を持つ癌細胞が腹腔内に達した後,低酸素および非足場環境である腹腔内で生存できた細胞が腹膜へ付着する7)8).腹膜に付着した癌細胞は腹膜中皮細胞の細胞間接着を分解することで中皮下層を露出し,結合組織に接着する9).その後結合組織層に癌微小環境を形成し浸潤性の発育をしていく.癌細胞は自身の生存,転移に有効な微小環境を形成する特性があり,その一つにリンパ管新生作用がある.癌細胞巣辺縁や組織内にリンパ管形成を誘導し,リンパ行性転移を促進する10).さらに,癌細胞巣由来のリンパ管新生因子は,リンパ管を介しリンパ節にも癌細胞が転移するための環境(転移前ニッチ)を整えるとされている10).このような転移形成メカニズムにより,直腸間膜内のリンパ節転移が形成されたと考えられた.

一方,本症例のような転移形式を報告した症例報告は少なく,医学中央雑誌にて1964年から2021年7月の範囲で「腹膜播種」,「リンパ節転移」(会議録除く)をキーワードに検索したところ,477件の検索結果が得られたが結腸癌の腹膜播種巣近傍のリンパ節転移を報告した報告はなかった.報告例がない理由として,腹膜播種とは非常に予後の悪い病態であり,本症例のような局所的な浸潤を確認する前に他臓器再発や死亡といった転帰を迎えている可能性が考えられた.また,直腸壁内浸潤部のリンパ管侵襲(D2-40免疫染色検査)は陰性であったため,本症例では直腸前壁腹膜播種巣から直腸傍リンパ節転移の間のリンパ管に癌細胞が存在することは証明できなかったが,報告が少ない病態であるため診断時に十分な病理学的検索ができていない可能性も考えられた.類似した病態の報告は胃癌では1件存在し,S状結腸への腹膜播種巣浸潤によるS状結腸間膜リンパ節への転移を伴う症例が報告されていたが,この報告においても転移リンパ流の病理学的検索は行われていなかった11).今後症例の蓄積と病理学的な証明が期待される.

また,本症例では転移形式を踏まえ局所的な腹膜再発として全身化学療法後外科的切除を行うことで9年を超える長期生存が得られた.大腸癌腹膜再発に対する治療指針に関しては,本邦の大腸癌治療ガイドライン2022年版においては全身性疾患の一環とみなし切除不能な再発進行大腸癌として全身薬物療法を行うことが推奨されている5).限局性の腹膜転移について同時性の場合は原発巣とともに切除することが推奨されているが,原発巣切除後の異時性腹膜再発の場合は病勢が制御されていたとしても切除の有効性は明らかでなく,耐術能や術後のQOLを十分に考慮し適応を決定すべきとされている5).明確に治療方針が定まっていないため,限局性腹膜再発を診断した際には全身化学療法,外科的切除,温熱化学療法,それらを組み合わせた集学的治療などさまざまな治療が行われている.限局性腹膜再発に対する外科的切除の治療成績は,R0/R1切除が可能であった場合の5年生存率 26.5~68.7%,R2切除では5年生存率 0~6.3%という報告がある12)13).症例報告では外科的切除と全身化学療法を組み合わせることにより10年を超える長期生存を得られた症例も散見される14)~16).温熱化学療法も腹膜播種に対して効果的な治療法であると報告されているが,一般の医療機関で実施できる治療法ではない.最近の多施設共同第III相ランダム化比較試験(PRODIGE 7)では,完全切除が可能な大腸癌腹膜播種患者において腫瘍減量手術+温熱化学療法は腫瘍減量術単独と比較し生存期間延長効果を認めず17),その適応については議論があるのが現状である.このように腹膜再発は再発部位および浸潤形式が多岐に渡り,治療に関しても術式や術前・術後の補助療法,再々発時の治療方法など検討すべき課題は多い.今後も症例を蓄積し病態の解明と治療の最適化を進める必要がある.

利益相反:なし

文献
 

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