2023 Volume 56 Issue 5 Pages 273-279
症例は25歳の男性で,心窩部痛にて当院を受診した.腹部CTにて回腸末端近くで腸管の急峻な口径差と腫大した虫垂を認めた.急性虫垂炎と腸閉塞の診断となり,緊急手術を施行した.Treves’ field(回結腸動脈とその最終回腸枝との吻合枝に囲まれた部位)に袋状の線維性膜があり,メッケル憩室基部の回腸から回腸末端までが覆われる内ヘルニアであった.メッケル憩室はヘルニア門に沿って背側を走行し,先端は腹側に回り込んで回腸腸間膜に癒着していた.ヘルニア囊を開放してメッケル憩室を基部で切離した.本症例は,Treves’ field に生じたヘルニア囊を有する内ヘルニアであり,Treves’ field pouch hernia(以下,TFPHと略記)であった.TFPHはメッケル憩室と同じく先天性疾患であり,それらの合併の報告は本症例を含めて4例あり,ヘルニア囊の成因にメッケル憩室の関与が考えられる.

A 25-year-old man was referred to our hospital with a chief complaint of epigastric pain. Abdominal CT confirmed small intestine dilation with caliber change near the end of the ileum and a mildly swollen appendix. Emergency surgery was performed under a diagnosis of acute appendicitis-associated intestinal obstruction. A cluster in the ileum from the base of Meckel’s diverticulum to the terminal ileum, which was encapsulated with an internal hernia sac in Treves’ field (the terminal ileum mesentery circumscribed by the ileocolic branch of the superior mesentery artery and its anastomosis with the last ileal artery) was revealed. Meckel’s diverticulum tip adhered to the ileal mesentery along the hernia orifice. The sac was incised and trimmed, and Meckel’s diverticulum was resected at its base. Treves’ field pouch hernia (TFPH) is a mesenteric pouch hernia with the orifice in Treves’ field. Our case is an example of a congenital condition in which TFPH and Meckel’s diverticulum coexisted. Including this case, there are four reports of combined TFPH and Meckel’s diverticulum, which suggests that Meckel’s diverticulum may cause TFPH.
Treves’ fieldとは回結腸動脈と最終回腸枝,それらの吻合枝に囲まれた部位である.その部位に生じるヘルニア囊を有するTreves’ field pouch hernia(以下,TFPHと略記)は非常にまれな先天的な内ヘルニアである1).メッケル憩室は,胎生第5~7週で消退する卵黄腸管が遺残した回腸の先天性憩室である.我々はTFPHとメッケル憩室が合併した1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
患者:25歳,男性
主訴:腹痛
既往歴:特記事項なし.
家族歴:特記事項なし.
現病歴:心窩部痛が出現し,近位を受診して急性胃腸炎の診断で内服薬を処方された.翌日,夕方には右下腹部痛となり,急性虫垂炎疑いで当院へ紹介となった.
入院時現症:腹部は平坦であったが,右下腹部に圧痛と筋性防御,反跳痛を認めた.腫瘤は触れなかった.眼瞼結膜に貧血なし.眼球結膜の黄染なし.
血液生化学検査所見:白血球数24,600/μl,CRP 15.43 mg/dlと高値であった.肝機能障害や腎機能障害はなかった.
腹部単純X線検査所見:立位で鏡面像を有する小腸ガスを認めた.
腹部造影CT所見:小腸全体が拡張していた.回腸末端で腸管同士が交差するような形で急峻な口径差を認めた(Fig. 1A).骨盤腔に壁肥厚のある回腸を認めた(Fig. 1B).腫大した虫垂を認めた.直腸膀胱窩に腹水の貯留を認めた.

CT showed a caliber change near the end of the ileum (A, arrow) and a cluster of the ileum with a thickened wall (B, arrowheads).
以上から,腸閉塞を伴う急性虫垂炎の診断で緊急手術を施行した.
手術所見:腹腔鏡手術で開始した.盲腸の内側に線維性膜で覆われた構造物を認めた(Fig. 2A),線維性膜を切開したところ内容物は回腸であった(Fig. 2B).内容物の回腸に虚血性変化や腸管拡張はなかった.炎症による強固な癒着が剥離困難であり,開腹術に移行した.炎症の強い構造物はメッケル憩室であり,袋状の線維性膜の入口を背側から囲むように終末回腸の腸間膜腹側に癒着していた(Fig. 3A).メッケル憩室基部の回腸から回腸末端までがヘルニア囊の内容物であった.線維性膜はほとんどが癒着なく遊離していたが,ヘルニア門近くでは回腸腸間膜に癒着していた(Fig. 3B).メッケル憩室を基部で切離して摘出した.

Laparoscopic findings. (A) The hernia sac was encapsulating the ileum. (B) The hernia sac was incised.
Fig. 2-video Intraoperative video of Treves’ field pouch hernia.

Intraoperative findings: (A) Schema of operative findings. (B) Hernia sac extending from the ileal mesentery (arrowheads) and close to Meckel’s diverticulum (arrow).
病理組織学的検査所見:メッケル憩室は囊状の消化管組織であり,組織学的には筋層を含めて小腸全層を認めた.全層に変性壊死,出血,炎症性細胞の浸潤,うっ血,浮腫,繊維化があり,一部で上皮が脱落していた.線維性膜は,脈管および膠原線維,線維芽細胞を含む組織を挟む2層の膜であった(Fig. 4).

Histopathological findings revealed a fibrous membrane with two layers sandwiching tissues containing vessels, collagen fibers and fibroblasts.
術後経過:経過良好にて術後第9病日に退院した.
腸間膜ヘルニアはまれな内ヘルニアであり,ヘルニア囊がない腸間膜欠損部へのヘルニアと腸間膜にヘルニア囊があるヘルニアに分類される.上腸間膜動脈から分岐する回結腸動脈と最終回腸動脈との吻合に囲まれた部位であるTreves’ fieldに生じる腸間膜ヘルニアがあり,この部位で腸間膜の欠損が門となるヘルニアはTreves’ field transmesenteric hernia(以下,TFTHと略記)と呼ばれる.この部位に発生するヘルニア囊を有するヘルニアはTFPHであり,TFTHに比較してまれと報告されている2)3).
TFPHのヘルニア囊は腸間膜体壁概念からは説明のできないヘルニア囊である.このようなヘルニア囊の成因についてはPapez4)の概念が報告されている.Papez4)の概念とは,生理的臍帯ヘルニアとして臍帯内の胚外体腔(exocoelom)に脱出していた腸ループ(Fig. 5A)が,腹腔内に戻ろうとするときに胚外体腔を腹腔内に引きずり込んでヘルニア囊を形成するという概念である(Fig. 5B).Batson5)はPapez4)の概念によるヘルニア囊形成モデルを考え,いろいろな内ヘルニアの成因として報告している.Papez4)の概念で形成されるヘルニア囊は胚外体腔を裏打ちしている臍帯壁側腹膜(parietal peritoneum of umbilical cord)または胚内体腔壁側腹膜(parietal peritoneum of intraembryonic coelom)と臍帯壁側腹膜が癒合した2層の膜と考えられる(Fig. 5C)6).本症例のヘルニア囊は,脈管および膠原線維,線維芽細胞を含む組織を挟む2層の膜であり,この概念に一致する膜の所見であった.

Schematic representation of Papez’s concept (modified from Figure 155 of reference 6). (A) The intestinal loop escapes into the exocoelom of the umbilical cord. (B) The intestinal loop drags the exocoelom into the abdominal cavity. (C) Fusion of two layers forms the hernia sac.
卵黄腸管は胎生第5~7週で消退するが,卵黄腸管が遺残して回腸の憩室となったのがメッケル憩室である.胎生第6週中に一次腸ループは急速に伸長するため臍帯内の胚外体腔の中へ脱出し,胎生第10週以降に脱出していた腸ループが腹腔内に戻りはじめる7).メッケル憩室の発生と腸ループの腹腔内への還納は同じ時期であり,メッケル憩室の存在がヘルニア囊形成に関与していることが示唆される.本症例のメッケル憩室はヘルニア囊の入口を囲むように存在し,ヘルニア囊とメッケル憩室はヘルニア門のところで癒着して一体化していた.中腸ループが腹腔内に還納するときにメッケル憩室があることで臍帯壁側腹膜の腹腔への引き込みが生じ,メッケル憩室の肛門側から終末回腸までの回腸を包む形で戻ることになり,TFPHが形成された可能性が考えられる.
医学中央雑誌(1964年から2022年)およびPubMed(1950年から2022年)で「TFPH」,「Meckel’s diverticulum(メッケル憩室)」,「abdominal cocoon」をキーワードとし検索し,抽出した論文を精読したところTFPHとメッケル憩室が合併する症例と考えられる報告は3例であった8)~10).本症例を含めてまとめると,発症年齢は9~25歳で,女性1名,男性3名であった.術前診断には腹部超音波検査,腹部CTが用いられていた.術前診断は内ヘルニアが1例,腸閉塞が3例であった.中村ら9)の報告ではメッケル憩室に関連した腸閉塞の術前診断であったが,CTでヘルニア囊に覆われた回腸は術前に同定できなかった.一方,Whanら10)はヘルニア囊に覆われた回腸を内ヘルニアと診断しているが,CTでメッケル憩室は術前に同定できなかった.本症例も術前診断できておらず,その困難さが示唆される.全例に開腹手術が行われ,メッケル憩室が切除されていた.4例全てに腸回転異常は認めなかった.メッケル憩室に本症例を含めて3例で炎症所見があった(Table 1).本症例の患者は,生後25年間,腸閉塞の既往はなかったが,術中所見から先天的にTFPHとメッケル憩室が存在していたと考えられる.TFPHのヘルニア門に存在するメッケル憩室に憩室炎が起きることでヘルニア門が締めつけられて腸閉塞が発症したと考えられる.本症例の術前CTにおいて小腸の走行を丁寧に追うと,Fig. 1Aの矢印が盲短に終わるメッケル憩室,Fig. 1Bの矢頭はヘルニア囊に覆われた回腸であり,メッケル憩室が合併するTFPHが存在することを知っていれば術前診断は可能であったかもしれない.Mackeyら11)によると無症候性メッケル憩室の長さは86%が5 cm以下であり,5 cm以上は比較的まれとされている.メッケル憩室が合併するTFPHの憩室の長さは6~8 cmと通常のメッケル憩室より長く,CTで同定できる可能性が高い.ヘルニア囊については中村ら9)の報告でのみ「腸管を包んでいた膜は血管を含み,脂肪組織および膠原線維からなる膜様組織」と記載があり,本症例の線維性膜の病理組織学的所見と同様であった.
| No. | Author | Year | Sex | Age | Presentation | Initial diagnosis | Surgical treatment | Length of MD (cm) | Inflammation of MD |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Pandove8) | 2015 | male | 14 | Abdominal pain | Small bowel obstruction | Diverticulectomy with ileo-ileo anastomosis | unknown | + |
| 2 | Nakamura9) | 2017 | male | 9 | Abdominal pain | Intestinal obstruction assitiated with Meckel’s diverticulum | Resection of Meckel’s diverticulum | 8 | unknown |
| 3 | Whan10) | 2020 | female | 16 | Periumbilical pain | Internal hernia | Resection of the encapsulated bowel and Meckel’s diverticulum | 6 | + |
| 4 | Our case | male | 25 | Epigastric pain | Intestinal obstruction due to appendicitis | Resection of Meckel’s diverticulum | 8 | + |
MD, Meckel’s diverticulum.
Nakazawaら3)は,9例のメッケル憩室の合併のないTFPHの報告をまとめている.剖検で診断された67歳を除くと,年齢は2か月から14歳で若年であった.性別は女性が6名,男性が3名であった.術前診断は胃癌1例,腸閉塞3例,内ヘルニア2例,急性虫垂炎1例であり(2例が記載なし),手術は6例で施行されていた.腸回転異常は7例で認めていた.Vaosら12)は4例のTreves’ field congenital herniaの報告をしており,3例がTFTHで,1例がTFPHであった.TFPHの1例は7歳の女性で十二指腸空腸曲の位置異常という腸回転異常を認めていた12).これらの報告を合わせて考えるとメッケル憩室の合併のないTFPHには腸回転異常の合併が多いことが示唆される.TFPHは本症例のようなメッケル憩室が合併してヘルニア囊の形成に関与しているタイプ,腸回転異常を合併するタイプ,腸回異常を合併しないタイプの三つに分類できると考えられる.
TFPHはまれな疾患であり,その存在を知らないと,腸管が線維性膜で覆われるという単なる内ヘルニアとして報告されるかもしれない.実際,中村ら9)とWhanら10)の報告ではTFPHの診断には至っておらず,論文の内容と図から本症例との類似性を見いだし,文献として引用して報告した.TFPHを認識し,症例を集積することで,メッケル憩室との関係とその成因のより深い理解につながる可能性がある.
利益相反:なし