The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
A Case Report of Modified Hinchey II Colonic Diverticulitis Complicating Portal Vein Thrombosis Treated with Elective Surgery
Hiroshi YamaguchiKiyoteru KashiwagiChikashi KiharaYoko KugaSatoko ItoNanae WatanabeNobuo KondoMasafumi ImamuraMinoru NagayamaTakayuki NobuokaYasutoshi KimuraTosei OhmuraFumitake HataIchiro Takemasa
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2023 Volume 56 Issue 7 Pages 409-418

Details
Abstract

症例は77歳の男性で,下腹部痛を主訴に当院を受診した.入院時単純CTでは回盲部周囲と骨盤内に液体貯留を認め,右側結腸に憩室が多発していたが虫垂は同定できず,虫垂炎あるいは憩室炎による回盲部周囲膿瘍および骨盤内膿瘍を疑った.全身状態が不良のため,抗菌薬投与による保存的治療を開始し,第4病日の造影CTで門脈血栓症を診断し,ヘパリンとantithrombin IIIによる治療を行った.第14病日から食事を再開し,抗凝固療法はエドキサバンの内服に切り替え,第29病日に退院した.退院後の精査では虫垂に異常を認めず,憩室炎による腹腔内膿瘍に門脈血栓症が合併したと診断した.初回退院から3.5か月後に腹腔鏡下右半結腸切除術を施行した.合併症なく退院し,術後1年間,門脈血栓症の増悪や憩室による症状を認めていない.結腸憩室炎による門脈血栓症はまれな病態で,保存的治療後の待機的手術の報告は限られるため報告する.

Translated Abstract

A 77-year-old male patient presented to our hospital with a chief complaint of lower abdominal pain. Plain CT on admission demonstrated peri-appendiceal and intrapelvic fluid collections with multiple diverticula in the right colon, without an identified appendix, suggesting peri-appendiceal and intrapelvic abscesses caused by appendicitis or diverticulitis. Due to the general condition being impaired, conservative antimicrobial treatment was initiated. Portal vein thrombosis was subsequently diagnosed by contrast-enhanced CT on hospital day 4, and treated with heparin and antithrombin III. The patient resumed an oral diet on hospital day 14, and anticoagulation therapy was switched to edoxaban per-oral. He was discharged on hospital day 29. Post-discharge close examination revealed no abnormality in the appendix, leading to a diagnosis of portal vein thrombosis complicating an intra-abdominal abscess caused by diverticulitis. Laparoscopic right hemicolectomy was performed 3.5 months after initial discharge, after which the patient was discharged uneventfully. There has been no evidence of exacerbation of portal vein thrombosis or any symptoms attributed to the diverticulum for 1 year after surgery. We herein present a rare case of portal vein thrombosis associated with colonic diverticulitis, for which there are limited reports of conservative treatment followed by elective surgery.

はじめに

肝硬変を伴わない門脈血栓症(portal vein thrombosis;以下,PVTと略記)はまれな病態であり,その原因の一つとして憩室炎,虫垂炎,腹腔内膿瘍などによる腹腔内感染がある1).今回,回盲部周囲膿瘍および骨盤内膿瘍で初診した症例において,膿瘍と合併するPVTの保存的治療を行い,全身状態と膿瘍の改善を得た後に,待機的に原因精査と手術を施行した1例を経験したため,その経過の詳細を報告する.

症例

患者:77歳,男性

主訴:下腹部痛

既往歴:パーキンソン病,前立腺肥大症

現病歴:3日前より発熱と下腹部痛を自覚し,救急当番病院にてインフルエンザとして治療されたが症状の改善がなく,食事摂取と歩行が不能となり,2020年当院を初診し入院となった(第0病日).

身体所見:身長163 cm,体重65 kg,血圧122/64 mmHg,脈拍66回/分,体温37.5°C,下腹部に圧痛と筋性防御,反跳痛を認めた.四肢にパーキンソン病による不随意運動を認めた.

初回入院時検査所見:血液検査では,AST 122 U/l,ALT 63 U/l,total/direct bilirubin 1.5/0.7 mg/dlと肝機能障害,軽度のビリルビン上昇を認めたがALP,γ-GTPは基準範囲内であった.CRE 1.78 mg/dl,BUN 40.8 mg/dlと腎機能障害を伴い,CPK 1,447 U/l,CRP 36.33 mg/dlと高値であった.白血球上昇や貧血は認めず,血小板は78,000/μlと低値であり,凝固能は基準範囲内であったが,FDP 13 μg/ml,D-dimmer 4.2 μg/mlと上昇していた.CPK高値に対して虚血性心疾患の精査を行ったが否定的で,入院治療の開始に伴い経時的に低下していった.腎機能障害があったため単純CTを施行し,回盲部周囲から骨盤内に脂肪濃度の上昇と液体貯留を認めたが,free airは認めなかった.右側結腸に憩室が多発していたが虫垂は同定できず,虫垂炎あるいは憩室炎による回盲部周囲膿瘍および骨盤内膿瘍を疑った.

初回入院後の経過:補液と抗菌薬の投与を開始し,38°C以上の発熱はなく,腹痛も改善傾向にあったため,保存的治療を継続した.補液により腎機能が改善した第4病日に造影CTを施行した.造影CTでは回盲部周囲に最大径3.4 cm,骨盤内に最大径6.6 cmの液体貯留と,上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;以下,SMVと略記)から門脈本幹に血栓形成を認め(Fig. 1a, d, Fig. 2a, d),ヘパリンの投与を開始した.Antithrombin III(以下,AT-IIIと略記)活性が58%と低下していたため,第5病日からAT-III製剤(商品名:献血ノンスロン)を4日間併用した.第13病日に造影CTを再検したところ,回盲部周囲膿瘍は最大径4.1 cm,骨盤内膿瘍は最大径7.1 cmと増大していたが門脈血栓の縮小を認めた(Fig. 1b, e, Fig. 2b, e).骨盤内膿瘍は大きさからドレナージが必要とされる可能性が高かったが,左方移動や腹部所見が大きく改善してきていたため,ドレナージは施行しなかった.食事を再開しヘパリンの投与を中止してエドキサバンの内服に切り替えた.抗菌薬は第0病日から第4病日までメロペネムを使用したが,PVT診断前に肝機能障害の悪化とビリルビン上昇を認めたため,第5病日からセフタジジムに変更し,第11病日からレボフロキサシンの内服とした.第14病日の血液検査上,CRP値が上昇し,左方移動を認めたため,第14病日から第24病日までタゾバクタム/ピペラシリンを使用した.入院後から頻回の水様便が続き,便培養で緑膿菌とCandida albicansが検出されたため,第11病日から第24病日までフルコナゾールを内服した.第26病日の造影CTでは回盲部周囲膿瘍は最大径1.6 cm,骨盤内膿瘍は最大径3.6 cmと著明に縮小し,門脈血栓も減少していたが,SMVを閉塞するように残存した(Fig. 1c, f, Fig. 2c, f).炎症所見の悪化を認めず第29病日に退院となった.回盲部周囲膿瘍および骨盤内膿瘍とPVTの治療経過をFig. 3にまとめた.第6病日に施行した精査では先天性プロテインC,プロテインS欠乏症や抗リン脂質抗体症候群は否定的であった.

Fig. 1 

Enhanced CT showing peri-ileocecal (white arrows) and pelvic abscesses (black arrows) on day 4 (a, d), day 13 (b, e) and day 26 (c, f) after admission. Both abscesses slightly increased on day 13, but showed clear decreases on day 26.

Fig. 2 

Enhanced CT (coronal image) showing portal vein thrombosis on day 4 (a, d), day 13 (b, e) and day 26 (c, f) after admission. (a–c) Thrombi in the main trunk of the portal vein. (d–f) Thrombi in the superior mesenteric vein (SMV). Thrombi detected on day 4 had decreased on days 13 and 26; however, a thrombus remained in the SMV on day 26. LGV: left gastric vein, SPV: splenic vein.

Fig. 3 

Clinical course after initial admission. The x axis indicates time after admission. The left y axis shows the AST level (U/l) and the right y axis shows the total bilirubin (T-Bil) and CRP levels (mg/dl). Black arrow: CT. *: treatment with antithrombin III (AT-III) agent. adm: admission, disch: discharge, w: week, m: month, Neu: neutrophil fraction, Lym: lymphocyte fraction.

退院後の経過:外来でエドキサバンの内服を継続した.退院から2週間後の血液検査において,AST 21 U/l,ALT 15 U/l,CRP 0.05 mg/dl,FDP 2 μg/ml,D-dimmer 0.7 μg/mlといずれも基準範囲内まで改善した.退院から1か月後の造影CTでは,膿瘍の再発はなく,腫大や炎症のない虫垂が同定され,上行結腸から肝彎曲部に多発する憩室を認めた(Fig. 4a, c, d).SMVの血栓性閉塞は残存し,膵頭部静脈アーケードを介した側副血行路が発達していた(Fig. 4b~d).退院から3か月後の大腸内視鏡検査,および同時に施行したガストロ注腸造影では,全結腸に憩室を認めたが,特に上行結腸から右側横行結腸に多発していた(Fig. 5a).回盲部周囲膿瘍および骨盤内膿瘍を伴ったmodified Hinchey分類2)stage IIの結腸憩室炎にPVTを合併した状態であったと診断した.治療選択肢として経過観察と,憩室の分布を踏まえた右半結腸切除術を提示したところ,手術を希望された.

Fig. 4 

Enhanced CT one month after discharge. (a) The appendix was detected without swelling and inflammation (*). (b, c) A remaining thrombus occluded the superior mesenteric vein (SMV) (white arrows). (d) Collateral circulation via venous arcades at the pancreatic head. Several diverticulums were present in the ascending colon (c, d).

Fig. 5 

Diagnostic and surgical findings of colonic diverticulosis. (a) Contrast enema during colonoscopy showed that the right side of the colon had many diverticulums, and laparoscopic right hemicolectomy was planned. The white arrow indicates the diverticulum at the most anal side of the planned resection area. (b) The same diverticulum (white arrow) detected in laparoscopic right hemicolectomy. (c) Surgical specimen showing diverticulums on the right side of the colon and no abnormalities at the appendix.

第2回目入院経過:退院から3.5か月後に腹腔鏡下右半結腸切除術を施行した(Fig. 5b).エドキサバンの内服は術前24時間以上の休薬期間が得られるように休止した.回盲部や骨盤内小腸に軽度の癒着を認めたが,腹腔鏡下に手術を施行可能であった.手術時間207分,出血量100 ml.合併症なく経過し,エドキサバンの内服は術後3日目に再開し,術後11日目に退院した.切除標本では上行結腸に大きな憩室が多発しており,肉眼的に虫垂に異常を認めなかった(Fig. 5c).病理診断結果は結腸憩室炎で,多発する憩室内腔と周囲に炎症を認めた.虫垂は萎縮性で炎症はみられなかった.外来フォローを継続しているが,手術から1年間,結腸憩室炎を疑う症状を認めていない.PVTの増悪もないが,SMVの血栓性閉塞は残存したままであり,エドキサバンの内服を継続し注意深くフォローしている.初回入院時から抗凝固療法に関連する出血性合併症は認めていない.

考察

PVTは肝硬変を伴うものと,伴わないものに大別され,また発症からの時間経過によって急性と慢性に分けられる.そのうち,肝硬変を伴わないPVTはまれであり,その半数以上は凝固能亢進を引き起こす全身疾患として,血液疾患,自己免疫疾患や悪性腫瘍に発生し,残りが局所原因として腹腔内感染,炎症性腸疾患,腹部手術後などに発生する1)3).腹腔内感染によるPVTの病態は,門脈系にドレナージされる領域,あるいは門脈に隣接する領域の感染に続発する,門脈あるいはその支流の敗血症性血栓性静脈炎である4).腹腔内感染の原因は膵炎,胆管炎,憩室炎,虫垂炎,腹腔内膿瘍など一般的な疾患の頻度が高い5)6).発熱や腹痛といった非特異的症状が高頻度であり,症状のみからの診断は困難であるが,69%でトランスアミナーゼの,40%で胆道系酵素の,55%で総ビリルビンの上昇が認められている5).PVTの画像診断方法ではCTが90%近くを占め6)7),USやMRIの有用性も指摘されているが,CTでは肝内,肝周囲のみならずより広範な門脈系の評価や腸管の状態の評価も可能であること,USでは腸間膜静脈の評価が困難であることに留意すべきである3).また,半数近くが入院から最初の7日間に診断されているが,残りの半数近くの診断はさらに遅れていることに注意が必要である5).血液培養の陽性率は40%程度であり,最多の起炎菌は報告により異なる5)6).治療による完全再開通は19%5),画像上のPVTの改善は48%7)にみられていたが,死亡率は11~19%と比較的高く5)~7),腸管虚血を生じるのは10%5)あるいは4%6),慢性血栓症に至るのが12%6),門脈圧亢進症に至るのが9%5)あるいは20%7)と報告されている.

腹腔内感染によるPVTの治療においては早期の広域抗菌薬使用による感染制御が重要であるとされ,抗凝固療法の是非については議論が続いている4)8).腹腔内感染によるPVT 100例(1974~2009年)を収集した総説では,抗菌薬/抗凝固療法の施行率は100/39%で,抗凝固療法併用群において,有意に非再交通率と死亡率が低かったことが報告されている5).単一施設における観察研究では,Choudhryら6)の95例(2002~2012年)中,抗菌薬/抗凝固療法の施行率は91/82%で抗凝固療法併用群の方が,抗菌薬のみの群よりも死亡率が低かったが有意差を認めなかった.また,Naymagonら7)による67例(2000~2019年)では,抗菌薬/抗凝固療法の施行率は100/70%で,抗凝固療法併用群の方が血栓の改善率が有意に高く,門脈圧亢進症の発生が有意に低かったが,多変量解析で抗凝固療法は生存に対する有意な因子とはならなかった.これらの結果からは,腹腔内感染によるPVTの治療において,抗凝固療法の施行は好ましいと推測されるが,前向き比較試験による検証はなされていない.PVTの中でも腹腔内感染によるものはまれであり,前向き比較試験の実施には困難が予想され,他の原因によるPVTを含む広い条件での治療を参考にする必要性も考えられる.アメリカ胸部医学会のガイドラインでは,有症候の門脈・腸間膜・脾静脈血栓症(splanchnic vein thrombosis;以下,SVTと略記)には抗凝固療法の施行が勧められ,腹腔内感染や手術などの可逆的な原因の場合には,3か月後の中止が支持されることが述べられている9).Valerianiら10)による最新の系統的レビューとメタ分析でも,SVTの治療において,抗凝固療法は無治療と比較して高い再開通率,低い血栓進行率,出血率と死亡率を示した.しかし,SVTの背景原因によって2年間の追跡期間中の出血発生率,血栓再発率,死亡率が異なることが報告されており11),抗凝固療法の至適期間について原因別のエビデンスの蓄積と詳細な検討が今後求められる.抗凝固療法に用いられる薬剤としては,ヘパリン,低分子ヘパリン,ワルファリンの頻度が高いが3)5),至適薬剤についてもエビデンスが不足している.本邦における全国アンケート調査では,PVTに対する薬物療法で施行頻度が高かった順に,ダナパロイド単独,ワルファリン単独,ダナパロイドとAT-III製剤の併用,ヘパリンとワルファリンの併用,ヘパリン単独となっており,これら治療薬間の血栓改善効果に有意差はなく,経過観察のみの群に比べて有意に良好であった12).近年では直接経口抗凝固薬の有効性が期待され1),SVT治療における肝・腎機能への安全性も報告されている13).Hanafyら14)は,C型肝炎ウイルス関連代償性肝硬変症例における脾摘後の急性非腫瘍性PVTに対する,リバーロキサバンとワルファリンの非盲検無作為比較試験を行い,リバーロキサバン群の方がより早期に高い再開通率を示し,合併症や死亡も有意に少なく,短期生存率も良好であったと報告した.

医学中央雑誌で1964年から2021年5月の期間で,「門脈血栓」,「上腸間膜静脈血栓」,「化膿性門脈炎」,「憩室炎」,「憩室症」,「腹腔内膿瘍」をキーワードとして組み合わせて検索したところ(会議録は除く),憩室炎によるPVTとして14例が検索され15)~26),我々の症例を加えた15例(男性13例,女性2例)について検討し,Table 12にまとめた.Modified Hinchey分類2)が可能であった11例中,本症例以外の10例はstage Iaであり,うち2例16)20)では経過中stage Ibに増悪していた.局在は上行結腸が最多であった.憩室が回腸末端部に位置していた症例も3例23)24)報告されており留意する必要がある.PVTの診断は全例CTで成され,S状結腸に病変を認めた2例16)20)では,門脈ガス像も伴っていた.12例で血液検査上,肝あるいは胆道系酵素の上昇を伴っており,憩室炎という一般的な疾患に肝・胆道系酵素の上昇を認めた場合には,PVTの合併を念頭に置いて精査を行う必要があると考えられる.全例で抗菌薬と抗凝固療法による治療が行われ,抗菌薬についてはメロペネムが最も高頻度に使用されていた.抗凝固療法に関連した出血性合併症の記載があったのは1例25)のみであった.入院後,第一に手術が施行されたのは1例24)のみで,残りの14例では保存的治療が行われたが,うち3例16)20)23)では病状の改善が得られず,退院前に手術が施行されていた.PVTを合併した憩室炎は難治性となり,手術の必要性が高いのか,今後症例を蓄積し明らかにしていく必要がある.また,退院から3か月後に憩室炎の再発により1例17)で手術が施行されていたが,詳細な記載はなく,本邦における待機的手術の成績に関しても知見が乏しい.Nobiliら27)は周囲膿瘍を伴うS状結腸憩室炎にPVT,肝腫大,胸・腹水を合併した1例に対して保存的治療を行い,退院から1か月後に精査,2か月後に左半結腸切除術を施行して合併症なく経過したことを報告し,保存的治療による経過を多角的に評価し,手術時期を判断することが適切な治療戦略であると考察している.本症例は入院時に全身状態が悪く,画像上free airを認めなかったことから,保存的治療を開始した.PVT診断後も,状態変化に伴う緊急手術に備え,炎症所見が改善するまでヘパリンを使用した.大腸憩室症ガイドライン28)によると,膿瘍合併憩室炎の保存的治療後の再発率は概ね30~60%と考えられている(CQ30-2).しかし,膿瘍合併憩室炎に対して,再発率の高さから積極的に待機的手術を行うべきかに関しては,まだ十分なエビデンスが確立されておらず,治療選択肢として経過観察あるいは待機的手術を提示した.憩室炎再発と併存するパーキンソン病による今後のADL低下を心配し,ADLが保たれているうちの手術を希望された.本症例においては,初回入院の時点で憩室炎か虫垂炎か原因が診断できなかったこともあり,待機的手術の知見が多い,複雑性虫垂炎において一般的な3か月という待機期間を目標に診療を進めた.保存的治療による手術への影響は少なく,腹腔鏡下に手術を施行可能で,術後合併症や残存するPVTの増悪も認めなかった.今後,待機的手術を行う場合の至適時期や方法に関して明らかにしていく必要がある.

Table 1  Clinical and diagnostic information on cases in Japan with portal vein thrombosis due to diverticulitis
No. Author Year Age/Sex mHinchey Location Diagnosis of PVT (modality/timing) Extent of PVT Liver or biliary tract enzyme Blood culture
1 Tsuji15) 2004 44/M n.d. A-colon CT/n.d. SMV n.d. n.d.
2 Sawada16) 2007 78/F Ia→Ib S-colon CT/day 7 IMV elevated not conducted
3 Okazaki17) 2008 70/M Ia A-colon CT/day 0 SMV, PV elevated Bacteroides fragilis, Pepto streptococcus sp.
4 Fukuda18) 2009 43/M Ia A-colon CT/day 0 SMV elevated negative
5 Fukuda18) 2009 53/M Ia A-colon CT/day 13 SMV elevated Pseudomonas aeruginosa
6 Minami19) 2013 70s/M Ia A&T-colon CT/day 0 SMV, PV, RPV elevated n.d.
7 Komatsu20) 2015 57/M Ia→Ib S-colon CT/day 14 IMV, PV elevated Escherichia coli
8 Shimizu21) 2015 79/M Ia A-colon CT/day 3 SMV elevated n.d.
9 Kashiura22) 2016 59/M Ia S-colon CT/day 0 RPV, LPV elevated Klebsiella pneumoniae, Streptococcus constellatus
10 Kubo23) 2017 59/M not applicable* Ileum CT/day 0 SMV, PV elevated Morganella morganii
11 Taniguchi24) 2019 50s/M not applicable** Ileum CT/day 0 SMV n.d. Bacteroides fragilis
12 Taniguchi24) 2019 70s/F not applicable*** Ileum CT/day 0 SMV n.d. negative
13 Ishihara25) 2019 87/M Ia A-colon CT/day 0 RPV elevated Fusobacterium nucleatum
14 Nishihama26) 2020 70s/M Ia A-colon CT/day 0 SMV elevated n.d.
15 Our case 77/M II A-colon CT/day 4 SMV, PV elevated not conducted

*: Case 10 had barium diverticulitis at the terminal ileum. **: Case 11 had a mesoileal abscess. ***: Case 12 had diverticulitis of the terminal ileum with inflammation of peri-ileal fat tissue. PVT: portal vein thrombosis, M: male, F: female, mHinchey: modified Hinchey classification, A-colon: ascending colon, T-colon: transverse colon, S-colon: sigmoid colon, SMV: superior mesenteric vein, IMV: inferior mesenteric vein, RPV: right portal vein, LPV: left portal vein, n.d.: not described.

Table 2  Treatment and outcomes of cases in Japan with portal vein thrombosis due to diverticulitis
No. Clinical course Antibiotics Anticoagulation (acute phase) Anticoagulation (maintenance) Discharge Duration of ACTs Outcome of PVT Outcome of diverticulitis
1 Cons. (+) not specified UK (Thrombolysis), Hep Warf, Asp day 19 6 y no recurrence for 6 y n.d.
2 Cons.→Sigmoidectomy (day 50) CZOP, MEPM, CLDM Hep (–) day 64 7 d no recurrence for 2 y no recurrence for 2 y
3 Cons.→RHC (3 m) SBT/CPZ, MEPM LMWH Warf day 46 n.d. no PVT 3 m after the disch recurrence 3 m after the disch
4 Cons. SBT/ABPC, DRPM Hep Warf day 35 n.d. no recurrence after the disch no recurrence after the disch
5 Cons. SBT/CPZ Hep Warf day 29 n.d. no recurrence after the disch no recurrence after the disch
6 Cons. MEPM Dana, Hep n.d. n.d. n.d. n.d. n.d.
7 Cons.→Hartman (day 20) n.d. n.d. n.d. day 65 n.d. n.d. n.d.
8 Cons. CMZ, SBT/ABPC Hep, Warf Warf day 12 3 m no PVT 3 m after the disch no recurrence 3 m after the disch
9 Cons. MEPM Hep (–) day 0 22 h dead 22 h after the adm
10 Cons.→Ileocecal resection (day 48) MEPM, CMZ Hep, rTM, Warf Warf day 63 78 d n.d. n.d.
11 RHC (day 1) (+) not specified Hep n.d. day 37 13 d n.d. n.d.
12 Cons. (+) not specified Hep, Warf, DOAC DOAC day 18 58 d no PVT 2 m after the adm n.d.
13 Cons. CTRX, MNZ, SBT/ABPC, AMPC/CVA DOAC (–) day 33 10 d PVT remained 5 w after the initiation of the treatment no recurrence 3 w after the disch
14 Cons. CMZ, LVFX Hep, Warf Warf day 10 7 m no PVT 7 m after the disch n.d.
15 Cons.→Lap-RHC (3.5 m) MEPM, CAZ, LVFX, TAZ/PIPC, FLCZ Hep, AT-III, DOAC DOAC day 29 16 m PVT remained 1 y after the operation no recurrence 1 y after the operation

Cons: conservative treatment, (Lap-)RHC: (laparoscopic) right hemicolectomy, UK: urokinase, Hep: heparin, LMWH: low molecular weight heparin, Dana: danaparoid, Warf: warfarin, rTM: recombinant thrombomodulin, DOAC: direct oral anticoagulant, AT-III: antithrombin III, Asp: aspirin, ACTs: anticoagulation therapies, h: hour(s), d: day(s), w: week(s), m: month(s), y: year(s), PVT: portal vein thrombosis, adm: admission, disch: discharge, n.d.: not described.

本症例は入院後に38°C以上の発熱を認めず,入院時単純CTではPVTの診断が得られなかったことから,血液培養検査を施行しなかった.血液培養の陽性率は文献的に40%程度5)6)とされ,抗菌薬治療を最適化できた可能性があったと反省している.また,SMVの血栓性閉塞が残存したため,可能性は低いが将来,膵頭十二指腸切除術の施行が必要となった場合には問題となり,あるいは,血栓の増大により脾静脈合流部が閉塞した場合には,胃静脈瘤が形成される危険性もあるため,注意して抗凝固療法を継続している.本邦におけるアンケート調査12)でも,SMVもしくは脾静脈のみの血栓は治療に対して不変や悪化の比率が高い傾向が指摘されており,より有効性の高い治療方法の確立が必要と考えられる.

利益相反:なし

文献
 

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