2023 Volume 56 Issue 7 Pages en7-
昨年,大阪公立大学に異動したタイミングで本誌の編集委員を拝命しました.小学校から続く進学の過程で皆体験する「世の常」として,新人教授にも「一年生」として学内外の「係決め」があり,結果として複数の(無数の?)委員会に参加することになります.その中で,本学会の査読委員は,まるで施設の枠を越えて術前・術後カンファランスに参加しているような,緊張感と生産性のある役務です.私自身,一編一編の原稿から多くのことを学んでおります.
さて第56巻第7号の一押し論文は,宮下遼平先生の「特徴的な画像所見を示し術前に診断しえた浸潤性胆囊内乳頭状腫瘍の1例」です.アプローチが限定される胆囊病変の良悪性診断は,現代でも未解決の課題です.特に病変が胆囊に限局している場合,手術侵襲が比較的小さいために,安易に「診断的胆摘」が適用されることも実臨床では決して少なくないと思われます.本報告では,著者らは「腫瘍の芯のわずかな石灰化」を手掛かりとして,手術前に胆囊内乳頭状腫瘍(ICPN)の診断に到達しました.上記の背景の中で,術前診断を尽くし,治療方針の決定に役立てている点が注目に値すると考えました.
「査読への想い:如何に教育的な査読によりいい論文を作り出すか?」
私は査読委員の「一年生」ですので,大層なことは言えません.ここでは,「症例報告」の大切さについて,私が先輩方から授かってきたメッセージを若い先生方に伝えます.
①外科医=医学者の責務である:医療の目標は広くヒトの健康に役立つことです.貴重な症例を経験した場合,あるいは新しい治療手段が奏効した場合,その知見を自分の中に留めてしまうことは「究極のケチ」と言えるでしょう.外部に批評を仰がなければ,実は大変な思い違いをしていたり,「たまたま上手くいっただけ」であったりする可能性も拭えません.
②自分の可能性を拓く:素晴らしい学会発表をしても,そのままでは「記録」として不十分です.医学誌に収載されて初めて,日本中・世界中の「誰か」があなたの情報にアクセスし,またあなたの履歴書に「論文発表の業績」として堂々と記載できるようになるのです.「メス一本で生きていく!」外科医にも,採用書類には必ず「業績」欄があるはずです.記載が「ゼロ」と「イチ」には天と地ほどの差があります.
③日本語でも価値がある:IF偏重の潮流の中で症例報告の機会が減っています.しかし,リアルワールドは非典型的な症例の治療で動いており,個別の症例を深堀りする意義は全く薄れていません.また,日本語で論理的に文章を構成し,査読コメントに対応する経験を積むことは,将来の英語原著論文作成の際に必ず役立ちます.症例報告の「イロハ」は英語論文の「ABC」に通ずるのです.
(石沢 武彰)
2023年7月1日
