2023 Volume 56 Issue 9 Pages 504-510
症例は37歳の男性で,幼少時にWilliams症候群と診断され近医に定期通院していた.持続する血膿尿と頻尿を主訴に当院泌尿器科を受診した.腹部CTでS状結腸癌による膀胱浸潤が疑われ,当院消化器内科に紹介された.精査の結果,S状結腸憩室炎による回腸S状結腸膀胱瘻の診断で当科に紹介となった.術中所見で下行結腸,S状結腸に多発憩室を認め,開腹左半結腸切除術,小腸部分切除術,膀胱部分切除術を行った.経過良好で術後11日目に退院した.Williams症候群は染色体7q11.23の微小欠失が原因の比較的まれな疾患である.エラスチンの異常に伴い大腸憩室症を発症しやすいが,大腸憩室炎から回腸S状結腸膀胱瘻を生じた報告例はまれである.心血管系の合併症から麻酔リスクがあること,精神発達遅滞や不安障害の頻度が高いことなどが,周術期の管理に留意すべき点と考えられた.
A 37-year-old man with Williams syndrome diagnosed early in childhood and under regular monitoring presented to the urology department of our hospital complaining of bloody pyuria and frequent urination. Abdominal CT revealed a bladder-infiltrating sigmoid colon tumor and the patient was referred to the gastroenterology department of our hospital. A diagnosis of ileo-sigmoid-vesical fistula due to sigmoid colon diverticulitis was made and he was referred to our department. Intraoperative findings showed multiple diverticula of the descending and sigmoid colon. We performed open left hemicolectomy, partial resection of the small intestine, and partial cystectomy. The patient was discharged uneventfully on postoperative day 11. Williams syndrome is caused by microdeletion of genes on chromosome 7q11.23 and has a relatively low incidence. Colon diverticulosis is likely to occur due to elastin abnormality; however, cases of ileo-sigmoid-vesical fistula in patients with Williams syndrome have rarely been reported. The risk of cardiovascular complications due to anesthesia should be carefully considered during perioperative management, given the high incidence of mental retardation and anxiety disorders in patients with Williams syndrome.
Williams症候群は染色体7q11.23の微小欠失が原因の先天性疾患であり1),心血管病変,妖精様顔貌,結合織異常,精神発達遅滞,成長発達遅滞などを呈することが知られている.結合織異常はelastin遺伝子の欠失に起因し,30%に憩室症を生じるとされているが2),外科的治療を要した憩室炎の本邦報告例は少ない3)4).
今回,S状結腸憩室炎による回腸S状結腸膀胱瘻に対して開腹左半結腸切除術,小腸部分切除術,膀胱部分切除術を施行したWilliams症候群の1例を経験したので文献的考察を含めて報告する.
患者:37歳,男性
既往歴:Williams症候群,右鼠径ヘルニア根治術
家族歴:なし.
内服歴:エナラプリルマレイン酸塩,アロプリノール,ビソプロロールフマル酸塩
現病歴:幼少時よりWilliams症候群と診断され,以降はキャリーオーバー症例として近医小児科・循環器内科に定期通院していた.2か月以上続く血膿尿と頻尿を主訴に当院泌尿器科を受診した.腹部CTでS状結腸癌による膀胱浸潤の疑いがあり,当院消化器内科に紹介となった.精査の結果,S状結腸憩室炎による回腸S状結腸膀胱瘻の診断となり,手術目的に当科紹介となった.
入院時現症:右鼠径部に手術創あり.下腹部に硬い腫瘤を触れるが圧痛なし,腹膜刺激症状なし.
入院時血液検査所見:WBC 8,810/μl,CRP 0.01 mg/dlと炎症反応の上昇なし.CEA 2.27 ng/ml,CA19-9 2.00 U/mlと腫瘍マーカーの上昇なし,その他特記すべき所見なし.
入院時尿検査所見:尿一般検査で潜血(2+),白血球(3+),尿沈渣で赤血球30~49/HPF,白血球50~99/HPF,細菌(3+)であった.尿細菌培養検査ではEscheria coli(3+),Enterococcus gallinarum(3+)が検出され,尿細胞診検査では悪性所見を認めなかった.
心臓超音波検査所見:中等度の僧帽弁閉鎖不全症を認めたが,左室駆出率67%と心収縮能は保たれていた.大動脈弁上狭窄を認めなかった.
腹部造影CT所見:S状結腸と膀胱は接しており(Fig. 1a),壁肥厚と浮腫を認めた.膀胱内にガス像を認めた(Fig. 1b).S状結腸と回腸は癒着していた(Fig. 1c).

Coronal abdominal CT showed wall thickening in the sigmoid colon (white arrows) and bladder (black arrows) and adhesion between them (a), air in the bladder (b), and adhesion between the sigmoid colon and small intestine (white arrowheads) (c).
膀胱鏡所見:膀胱頂部付近に瘻孔を認めた.その他,膀胱粘膜に明らかな異常を認めなかった.
下部消化管内視鏡検査所見:下行結腸からS状結腸にかけて憩室が多発していた.膀胱との瘻孔部分は明らかではなかったが,S状結腸の狭窄(Fig. 2a)や粘膜の発赤・びらんを認めた(Fig. 2b).

Colonoscopy showed stricture (a) and mucosal edema and erosion of the sigmoid colon (b).
下部消化管透視検査所見:下行結腸およびS状結腸に多発する憩室を認め(Fig. 3a),S状結腸から膀胱への瘻孔が造影された(Fig. 3b).S状結腸から回腸が造影された(Fig. 3c).

Gastrografin enema showed multiple diverticulosis of the descending and sigmoid colon (a), colovesical fistula (white arrows) (b) and enterocolic fistula (white arrowheads) (c).
以上より,S状結腸憩室炎による回腸S状結腸膀胱瘻の診断となり瘻孔形成があることから手術適応と判断した.CT,下部消化管透視検査所見から上行結腸,横行結腸には憩室は少なく,上行結腸,横行結腸は温存可能であると思われた.炎症の程度や波及の度合いによっては人工肛門造設の可能性があることを本人・家族に説明し,同意をいただいたうえで手術の方針となった.
手術所見:麻酔導入後,左尿管損傷に備えて左尿管カテーテルを挿入し,上下腹部正中切開で開腹した.S状結腸は炎症が高度で,膀胱に硬く癒着していた(Fig. 4a).同部位のやや口側で回腸末端から100 cmの回腸とS状結腸が瘻孔を形成していた(Fig. 4b).

Operative findings showed strong adhesion between the sigmoid colon (white arrow) and bladder (white arrowheads) (a), and adhesion between the sigmoid colon (white arrow) and small intestine (black arrow) (b).
回腸の瘻孔形成部の口側,肛門側を自動縫合機で切離した.S状結腸および下行結腸を外側から授動し,尿管損傷がないことを確認した.S状結腸と膀胱の癒着を鋭的・鈍的に剥離したが,膀胱側から尿の流出は認めなかった.術前の画像所見同様,下行結腸・S状結腸には憩室が多発しており,左半結腸切除術を行う方針とした.自動縫合機で瘻孔の肛門側のS状結腸を切離し,横行結腸・脾彎曲部を授動し,吻合可能であることを確認した.脾彎曲部付近の口側腸管にアンビルヘッドを挿入した.膀胱留置カテーテルより膀胱内に色素を注入したところ瘻孔から色素が流出し,瘻孔を同定できた.瘻孔部は2-0吸収糸で全層結節縫合と漿膜筋層結節縫合を行い,修復した.自動吻合器で下行結腸とS状結腸を吻合し,吻合部の漿膜筋層を3-0吸収糸で全周性に補強した.吻合部には炎症が波及していなかったことより一時的な人工肛門は造設しなかった.回腸は機能的端々吻合で再建した.手術時間は350分で出血量は520 mlであった.
病理組織学的検査所見:術後標本では回腸結腸瘻が確認された(Fig. 5a).組織学的に穿孔部近傍では憩室形成が認められ,近傍では炎症細胞浸潤を伴っていた(Fig. 5b, c).結腸憩室炎に伴う穿孔形成として矛盾しない所見であり,悪性所見を認めなかった.

Macroscopic view of the resected specimen showed ileocolic fistula (a). Histopathological findings showed diverticulitis and infiltration of inflammatory cells around the perforation (b, c).
手術後経過:術後経過は良好で術後1日目より飲水を開始し,術後4日目より食事を開始した.術後11日目に経過良好で退院した.
Williams症候群は1961年に初めて報告された比較的まれな疾患であり1),染色体7q11.23の微小欠失が原因である.本邦では20,000人に1人の割合で発症するとされ,心血管病変,妖精様顔貌,結合織異常,精神発達遅滞,成長発達遅滞などを呈することが知られている.結合織異常はelastin遺伝子の欠失に起因し,30%に憩室症を生じるとされている2).
心血管病変として大動脈弁上狭窄,末梢性肺動脈狭窄,冠動脈狭窄,弁膜症,高血圧などが含まれるが,1/3の症例で手術もしくはinterventional radiologyによる介入を要するとされている5).生命予後についてまとまった報告はなく,1~55歳の300人のWilliams症候群を対象にした研究では,心血管系に関する致死率は健常者の25~100倍になると報告されている6).
突然死の報告もされており,Birdら7)は突然死を起こした10例のWilliams症候群について若年,鎮静,麻酔,両心室の流出路障害,冠動脈狭窄がリスクファクターであると報告し,Matisoffら8)は麻酔時におけるWilliams症候群患者のリスクを低,中,高と分類し,周術期の管理について報告している.
本症例は中等度の僧帽弁閉鎖不全を認めたため,低から中リスクに該当すると考えられ,経口摂取不可時間の最小化,急速導入,プロポフォールを用いた麻酔,術後の硬膜外麻酔による疼痛コントロール,翌日までのモニタリングなど推奨に従った管理を麻酔科医師の協力のもとに行った.
また,Williams症候群患者は精神発達遅滞や不安障害の頻度が高く,点滴ラインの確保やマスク換気の際に不安が強く出ることも知られており9),周術期のコミュニケーションや栄養管理の点などに配慮が必要と思われた.本症例においては,終日点滴を行っても不安障害が生じないことを確認し,本人,家族に説明,同意を得たうえで右内頸静脈から中心静脈カテーテルを挿入してTPNを行った.患者の負担を考慮すると輸液ルートとして末梢挿入型中心静脈カテーテルも選択肢の一つとして考慮すべきと思われた.
大腸憩室炎の初期診療では,重篤な予後に関連し外科治療介入が想定される膿瘍・穿孔・腹膜炎の合併の有無の評価が必須であり,診断にはCTまたはUSが必要であるとされる10).本症例においてはS状結腸と膀胱は接しており壁肥厚と浮腫を認めたこと,膀胱内にガス像を認めたことからS状結腸膀胱瘻が疑われ,S状結腸と回腸の癒着も認められた.下部消化管透視検査で下行結腸およびS状結腸に多発する憩室を認めた.さらに,S状結腸から膀胱への瘻孔と回腸が造影されたことからS状結腸憩室炎による回腸S状結腸膀胱瘻の診断となり瘻孔形成があることから手術適応と判断した.
大腸憩室炎の外科的治療としては,Hartmann手術,一期的腸管切除吻合術があり,一期的腸管切除吻合術を行う際には予防的回腸人工肛門造設が併施されることがある11).結腸膀胱瘻の外科的治療では上記に加えて瘻孔部の露出,剥離,切離,膀胱壁の部分閉鎖が必要となるが,術前に多発憩室の有無,結腸の狭窄,短縮の程度を確認しておくことは吻合の安全性と予防的回腸人工肛門造設の可能性を予測するために重要であるとされる12).予防的回腸人工肛門を造設するかどうかについてはさまざまな報告がある.Smeenkら13),Dolejsら14)は予防的人工肛門なしで一期的吻合を行った症例で縫合不全が高率であったことから予防的人工肛門の造設を考慮すべきと報告している.一方でKitaguchiら15),Tomizawaら16)は予防的人工肛門なしで一期的吻合を行っても縫合不全の発生頻度が低かったと報告している.本症例においては,術前説明で予防的人工肛門造設やHartmann手術の可能性について十分説明を行い,術中所見で腸管血流が良好で吻合部に炎症・緊張がなかったことから予防的人工肛門造設を行わなかった.
Williams症候群の憩室症に対する外科的治療について医学中央雑誌(1964年~2017年)およびPubMed(1950年~2017年)で「Williams症候群」,「憩室炎」,「Williams syndrome」,「diverticulitis」をキーワードとして検索したところ(会議録を除く),本邦での報告例は3例のみであった3)4)が,全例で結腸切除と人工肛門造設が行われていた.Partschら17)はWilliams症候群の憩室炎に対する治療を行った10例を報告し,1例は保存的治療,1例は虫垂切除後に保存的治療,7例はS状結腸切除を行っており,7例中4例で人工肛門を造設していた.
回腸S状結腸膀胱瘻について医学中央雑誌(1964年~2017年)およびPubMed(1950年~2017年)で「S状結腸膀胱瘻」,「回腸膀胱瘻」をキーワードとして検索したところ(会議録を除く),回腸S状結腸膀胱瘻の本邦での報告例は2例であった18)19).術式はHartmann手術,回腸部分切除術18)とS状結腸切除,回腸部分切除,膀胱部分切除術であった19).千堂ら18)の報告では初発症状は頻尿,排尿時痛,混濁尿といった膀胱炎様症状や気尿,糞尿といった結腸膀胱瘻の症状を呈するとされており,本症例では血膿尿が初発症状であった.憩室炎は憩室周囲組織の炎症が本体で,この憩室周囲炎が反復すると傍結腸膿瘍が形成され,さらに膀胱,小腸などの周囲組織に穿破して内瘻が形成されると考えられている.自験例では初発症状から受診まで2か月以上と長く,最初に結腸膀胱瘻を生じ,炎症の反復により回腸が癒着し,膿瘍形成を介して回腸結腸膀胱瘻を生じたものと考えられた.
Williams症候群の30%の患者で大腸憩室症が認められることから2),憩室穿孔や瘻孔形成を生じ,外科的な介入が必要になるリスクについては少なくないものと考えられ,今後の症例の蓄積が必要である.
利益相反:なし