The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Life-Saving Case of Left Common Carotid Esophagogastric Tube Fistula after Subtotal Esophagectomy
Takahiro SatoZenichiro SazeChiaki TakiguchiRyo KanodaMei SakumaHideaki TsumurayaMasanori KatagataSatoshi FukaiKosaku MimuraKoji Kono
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2023 Volume 56 Issue 9 Pages 471-478

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Abstract

症例は75歳の男性で,2015年に食道癌に対して胸腔鏡下食道亜全摘,胸骨後経路頸部食道胃管吻合術を施行した.術後吻合部狭窄を認め,内視鏡的拡張術を頻回に施行していた.2017年,吐血で当院救急外来を受診した.左総頸動脈食道胃管吻合部瘻を来しており,一時心肺停止に陥るも,蘇生可能であり,救急外来で出血部位の直接縫合による緊急止血術を施行した.初回緊急手術から第37病日に左総頸動脈仮性瘤破裂による大量出血を来し,緊急手術を施行した.左総頸動脈に被覆ステントグラフトを留置し,食道瘻・胃管瘻を造設した.皮膚欠損部が大きく,大胸筋皮弁を用いて充填した.術後,縦隔膿瘍を来したが経皮的ドレナージおよび抗生剤にて加療し軽快し,初回緊急手術から第195病日に退院した.その後,再出血なく食道癌の再発も認めずに経過し,2018年に遊離空腸再建術を施行した.現在,外来で経過観察中である.

Translated Abstract

A 75-year-old man underwent thoracoscopic subtotal esophagectomy and reconstruction by cervical esophagogastric tube anastomosis via a retrosternal route for esophageal cancer in 2015. Postoperative anastomotic stenosis developed and endoscopic dilatation was frequently performed. In 2017, the patient presented to our emergency department with hematemesis. He had a left common carotid esophagogastric tube anastomotic fistula and went into cardiopulmonary arrest temporarily, but resuscitation was possible and emergency hemostasis was performed in the emergency room by direct suturing of the bleeding site. On postoperative day (POD) 37, the patient suffered massive bleeding due to rupture of a pseudoaneurysm of the left common carotid artery and underwent emergency surgery. A covered stent graft was placed in the left common carotid artery, and esophageal and gastric tube fistulas were created. The skin defect was large and was filled using a pectoralis major muscle skin valve. Postoperatively, the patient developed a mediastinal abscess, which was treated with percutaneous drainage and antibiotics, and he was discharged from hospital on POD 195. Since then, he has had no recurrence of esophageal cancer and no rebleeding. A free jejunal reconstruction was performed in 2018. The patient is currently under outpatient observation.

はじめに

食道癌術後の動脈吻合部瘻は,大動脈食道瘻(aorto-esophageal fistula;以下,AEFと略記)と同様に大出血を来し致死的となる疾患であるが,本邦での報告はまれである.いずれの疾患も救命率は非常に不良であり,救命には速やかな診断と止血術が不可欠である1)2).今回,我々は食道癌術後に発症した左総頸動脈食道胃管吻合部瘻により心肺停止を来したが,救命しえた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

患者:75歳,男性

主訴:吐血

既往歴:微小変化型ネフローゼ症候群(経口ステロイド5 mg/日で内服中)

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2015年に食道癌に対して胸腔鏡下食道亜全摘術,胸骨後経路頸部食道胃管吻合術(手縫い端々吻合)を施行された(病理診断:SCC,Lt,0-IIc,pT1a(LPM)N0M0,pStage0(食道癌取扱い規約第11版)).術後に縦隔膿瘍を合併し,縦隔ドレナージ術が施行された.また,吻合部狭窄を来し,約2か月毎に内視鏡的食道拡張術を繰り返し施行されていた.2017年9月,前日からの複数回の吐血を主訴に,当院救急外来を受診した.

来院時現症:血圧107/74 mmHg.脈拍89回/分.意識清明.冷汗なし.

臨床経過:救急外来で緊急で上部消化管内視鏡検査を施行し,食道内に動脈性の出血を認め,胃管内には多量の凝血塊を認めた(Fig. 1).内視鏡検査施行中に心肺停止となり,大量輸血療法および心肺蘇生が開始され,心拍再開した.来院3か月前の造影CTで,吻合部背側に左総頸動脈が存在しており(Fig. 2),左総頸動脈食道胃管吻合部瘻による出血と診断した.内視鏡的バルーンを用い,吻合部内腔からの圧迫止血が可能であり(Fig. 3),救急外来で緊急止血術を施行した.

Fig. 1 

Endoscopic findings showed many clots in the gastric tube.

Fig. 2 

Enhanced CT within 3 months after the procedure. The left common carotid artery (white arrow) was present dorsal to the anastomosis (black arrow).

Fig. 3 

Endoscopic balloon hemostasis.

左頸部斜切開をおき,左胸鎖乳突筋内側を剥離し,食道に到達した.CTで食道胃管吻合部は胸骨の背側に存在しており,胸骨正中切開が必要と判断し創を延長,胸骨を一部切除し吻合部に到達した.外科的止血にあたり内視鏡的バルーンは抜去が必要であり,術中の出血をコントロールする目的で,心臓血管外科に依頼し,左総頸動脈末梢側を確保し同部位より5.5 Frフォガティーカテーテルを挿入し,出血点中枢側を閉塞できるように準備を行ったうえで,食道胃管吻合部前壁を長軸方向に切開した(Fig. 4a).内腔を確認すると,吻合部後壁に潰瘍を認め,同部位より動脈性の出血を認めた(Fig. 4b).フェルト付縫合糸により縫合止血が可能であった.再出血の可能性を下げるため,左総頸動脈と吻合部の分離も考慮されたが,全身状態は非常に不良であり,全身状態が安定した後に,吻合部と動脈を分離し,食道瘻を作成する方針とした.

Fig. 4 

a: A Fogarty catheter was used to occlude the central side of the left common carotid artery to control bleeding. The anterior wall of the anastomosis was incised longitudinally. b: An ulcer was observed on the posterior wall of the anastomosis, and arterial bleeding was detected at the same site.

その後再出血は認めず,第5病日に食道唾液瘻,胃管瘻造設術を施行した(Fig. 5).また,創部は壊死性筋膜炎の状態であり,ドレナージ術を施行した.術後,唾液瘻・胃管瘻の間は皮膚壊死を来した.また,第13病日に非閉塞性腸管虚血による小腸穿孔を来し,緊急手術を施行した.壊死・穿孔した小腸を約30 cm切除し,吻合はせず小腸人工肛門および肛門側腸管の粘液瘻を造設した.

Fig. 5 

An esophageal salivary fistula (black arrow) and gastric tube fistula (white arrow) were created.

その後,全身状態は安定していたが,第37病日に頸部創から動脈性の出血を認めた.圧迫止血し緊急造影CTを行ったところ,左総頸動脈に瘤の形成があり,近傍から造影剤の流出を認め,左総頸動脈仮性瘤破裂と判断した(Fig. 6a).また,前縦隔にはairを含む液体貯留も認め,膿瘍の合併と判断した(Fig. 6b).圧迫止血では完全な止血が得られず,心臓血管外科による被覆動脈ステント留置および当科による頸部創周囲のドレナージを予定して緊急手術を施行した.

Fig. 6 

Enhanced CT. a: Aneurysm formation in the left common carotid artery and contrast spillage from the vicinity (white arrow). b: Fluid and air in the mediastinum.

胸鎖乳突筋の前面で皮膚切開し,左総頸動脈を同定し剥離した.術中造影を施行し左総頸動脈から出血していることを確認した(Fig. 7a).左総頸動脈より被覆ステントグラフトを挿入し,計2個を出血部位に展開,止血を得た(Fig. 7b).続いて,食道瘻と胃管瘻を固定してあった周囲の皮膚から外し,壊死に陥っていた食道瘻と胃管瘻の間の皮膚を除去した(Fig. 8a).さらに,皮下に貯留していた膿瘍を洗浄ドレナージした.皮膚欠損部は大きく,再度膿瘍形成の可能性があり,形成外科に依頼し,左胸部乳頭内側に10×6 cmの大胸筋皮弁を作成し(Fig. 8b),欠損部位に充填し,頸部~前胸部の皮膚と再固定した(Fig. 8c).大胸筋皮弁を採取した前胸部の皮膚欠損部は人工真皮で覆い,皮膚と縫合固定した(Fig. 8d).手術時間は335分,術中出血量は630 mlであった.

Fig. 7 

a: Bleeding from the left common carotid artery (white arrow). b: Hemostasis with two stent grafts.

Fig. 8 

a: Necrotic skin was removed. b: A pectoralis major muscle graft was created. c: The graft filling the defect site. d: Coverage with artificial dermis.

術後に軽度の縦隔膿瘍を認めたが,経皮的ドレナージおよび抗生剤にて加療し軽快し,第195病日に退院した.その後,再出血なく経過し,2018年11月に遊離空腸再建術を施行した.第二空腸動静脈をグラフトとする空腸を採取し,前頸静脈および第二肋間動脈と吻合した.術後16日で退院となり,現在は経口摂取可能で外来で経過観察中であり,食道癌の再発は認めていない.

考察

動脈食道胃管吻合部瘻は,食道癌術後に食道胃管吻合部と近接する動脈に瘻孔を形成する疾患である.動脈吻合部瘻による出血はAEFと同様の病態であると考えられ,大出血を来すことから止血しなければ致死的である.Maroneら3)はAEFの60%が在院死したと報告している.また,Saitoら4)は11例中3例(27%)が在院死し,Akashiら5)は47例中22例が6か月以内に死亡したと報告している.Okitaら6)は,食道切除後のAEFの症例22例のうち生存例は3例(13.3%)のみと報告しており,救命率は非常に不良である.救命された症例はいずれも速やかな手術が施行されており,瘻孔部の縫合止血が施行されていた1)2)

動脈食道胃管吻合部瘻の原因として,縫合不全による炎症の波及7)や吻合部潰瘍の直接穿破8),staple lineと大動脈間の慢性的な機械的刺激4)9)などが報告されている.自験例は,初回食道癌術後に明らかな縫合不全は認めなかったものの縦隔膿瘍を来しており,ドレナージ加療が施行された.また,吻合部狭窄に対し,約2か月ごとに計38回の内視鏡的拡張術を施行していた.複数回の拡張術による機械的刺激に加え,ネフローゼ症候群に対するステロイド内服により吻合部に潰瘍が形成され,左総頸動脈と瘻孔を来したものと考えられた.

医学中央雑誌で「食道癌」,「動脈食道瘻」をキーワードに1964年~2020年4月までの期間を検索すると(会議録除く),本邦で食道癌術後に動脈と食道胃管吻合部に瘻孔を形成した症例は自験例を含め5例であった(Table 11)10)~12).Case 1の症例を除き,術後に縫合不全もしくは吻合部狭窄を来したか,術後放射線治療が施行されており,動脈吻合部瘻のリスクになると考えられた.いずれの症例も緊急止血術が施行されており,自験例を除くと,瘻孔部の直接縫合が1例,ステントグラフトが2例,コイル塞栓術が1例であった.

Table 1  Cases of anastomotic arterial fistula after esophageal cancer surgery
Case Author/Year Age/Gender Location T N M Stage Leakage Anastomotic stenosis Postoperative treatment Surgery Reconstruction route Period of bleeding Artery Hemostasis Survival at discharge
1 Sato1)/1999 54/M Lt Unclear Esophagectomy posterior mediastinal 46 day Unclear Stentgraft alive
2 Kajiura10)/2012 71/M LtAe 3 2 0 III + Esophagectomy retrosternal 24 day Brachiocephalic Suture hemostasis alive
3 Ujiie11)/2014 80/M Mt 1b 1 0 II Chemoradiation Esophagectomy posterior mediastinal 6 year Right subclavian Stentgraft death
4 Akita12)/2014 62/M Unclear Unclear + Chemoradiation Esophagectomy Unclear 10 year Left common carotid Coil embolization alive
5 Our case 75/M Lt 1a 0 0 0 + Esophagectomy retrosternal 2 year Left common carotid Suture hemostasis, Stentgraft alive

動脈吻合部瘻の治療は,緊急手術で瘻孔部の直接縫合を行う以外に,近年ステントグラフトの有効性が報告されている4)5).ステントグラフトは大動脈瘤の治療として1990 年代より海外で導入され始め,2000年以降本邦においてもその報告が増えており,良好な成績が報告されている13).感染性動脈瘤に対してはグラフト感染が危惧されるため,原則的に相対禁忌とされているが14),近年感染性動脈瘤に対しても手術より有効であったとの報告が散見される15)

自験例は,吐血し独歩で救急外来を受診し,その後内視鏡検査中に心拍停止となったが,救命することができた.救命可能であった理由として,まず初回出血時の救急外来での迅速な止血術が可能であったことが挙げられる.内視鏡的止血術と血管内カテーテルによる出血点中枢側の閉塞により,出血をコントロールしながら出血点を確認でき,瘻孔部を直接縫合により止血することが可能であった.動脈吻合部瘻は大出血を来すため,出血のコントロールは極めて重要である.

また,2回目の出血時には,ステントグラフトを使用し止血が可能であった.ただし,自験例は2回目の手術の時点で縦隔膿瘍を合併している状態であり,ステント感染による再出血や敗血症を来す恐れがあった.感染のコントロールには,感染部位の十分なデブリドメンと,死腔の充填が重要である.大胸筋皮弁は栄養血管である胸肩峰動静脈を茎として皮膚を島状に付着させたまま移植する筋皮弁であり,体表の骨格筋と皮膚・皮下脂肪を一塊にして利用する筋皮弁は血行が良く生着率が高い.大胸筋皮弁は主に頭頸部手術後の欠損部を修復する方法として応用されてきたが16),食道癌では1980年に村上ら17)によって頸部食道癌手術の再建への使用が報告された.近年では,食道癌術後の難治性縫合不全に対する有用性も報告されている18)~20).自験例では,縦隔膿瘍を来した食道唾液瘻と胃管瘻の間の部位を広範にデブリドメンを行い大胸筋皮弁を用いて死腔の充填が可能であった.また,術後も適切にドレナージが施行されたこと,抗生剤加療を行ったこともステント感染予防に寄与したと考えられる.ステント感染予防目的の抗生剤投与期間は一定の見解は得られていないが,感染性動脈瘤・食道瘻に対するEVER後に4週間以上の抗生剤投与が予後改善に寄与すると報告されており21),清水ら22)はCRPが陰転化するまで4週間以上にわたり抗生剤を投与し,ステント感染を予防できたと報告している.自験例でも,2回目の術後に膿瘍を来したが,炎症が鎮静化するまで3か月にわたり抗生剤を使用し,ステント感染を予防しえた.

今回,我々は食道癌術後に発症した左総頸動脈食道胃管吻合部瘻により心肺停止を来したが救命しえた1例を経験した.初回出血時に止血が可能であったこと,ステントグラフトを用いたが大胸筋皮弁,ドレナージなどの処置により感染をコントロールできたことから,救命しえた.

本論文の内容は第74回日本消化器外科学会総会で発表したものである.

利益相反:なし

文献
 

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