The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Solitary Pancreatic Metastasis from Gallbladder Cancer
Shinya KosugeTakehiro NojiMasaru GoKimitaka TanakaAya MatsuiYoshitsugu NakanishiToshimichi AsanoToru NakamuraTakahiro TsuchikawaTomoko MitsuhashiSatoshi Hirano
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2023 Volume 56 Issue 9 Pages 487-495

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Abstract

症例は54歳の男性で,膵・胆管合流異常症に合併する胆囊癌に対して胆囊全層切除,肝外胆管切除,リンパ節郭清,胆管空腸吻合術を施行された.病理組織学的診断は中分化型腺癌,pT2,ly0,v1,pN0,pStage IIであった.術後2年10か月,腹部超音波検査にて膵体部に不整形で遷延性の造影効果を伴う11 mm大の低エコー腫瘤を認めた.超音波内視鏡下穿刺生検を施行し,腺癌の組織診断を得た.膵体部癌cT3N0M0 cStage IIAと診断し,尾側膵切除を施行した.病理組織診断では膵体部に2か所の病変を認め,いずれの病変も低分化から中分化型の腺癌の所見であった.HE染色および免疫染色検査での形態・形質が既往の胆囊癌の病理組織学的検査所見と一致していたため,胆囊癌膵転移と診断した.術後18か月現在,無再発生存中である.転移性膵腫瘍の多くが腎細胞癌,肉腫,大腸癌,悪性黒色腫からの転移であり,胆囊癌の膵転移は極めてまれである.胆囊癌の孤立性膵転移について報告する.

Translated Abstract

A 54-year-old man underwent radical cholecystectomy, extrahepatic bile duct resection, lymph node dissection, and choledochojejunostomy for gallbladder cancer associated with pancreaticobiliary maljunction. The histopathological diagnosis was moderately differentiated adenocarcinoma; pT2, pN0, and pStage II. Two years and 10 months after surgery, abdominal US revealed a hypoechoic mass of 11 mm with an irregular shape and a prolonged contrast effect in the pancreatic body. Histological examination using endoscopic ultrasound fine-needle aspiration revealed that the tumor was adenocarcinoma. Distal pancreatectomy was performed under a diagnosis of pancreatic cancer cT3N0M0 cStage IIA. Histopathological examination revealed two lesions in the pancreatic body, both of which were poorly to moderately differentiated adenocarcinoma. Since the morphology of the lesions on HE staining and immunohistochemistry were consistent with the gallbladder cancer, the final diagnosis was pancreatic metastasis from gallbladder cancer. At 18 months after surgery, the patient is alive without recurrence. Most metastatic pancreatic tumors are metastases from renal cell carcinoma, sarcoma, colorectal cancer, or malignant melanoma, whereas pancreatic metastasis from gallbladder cancer is extremely rare. Thus, we report this case as an example of solitary pancreatic metastasis from gallbladder cancer.

はじめに

転移性膵腫瘍は膵臓に発生する悪性腫瘍のうち2%未満とされる1).原発腫瘍の内訳は腎細胞癌や大腸癌,悪性黒色腫などが多く,胆囊癌からの膵転移は転移性膵腫瘍の3.3%~5.6%であるとされている2)3).転移性膵腫瘍の画像所見は原発腫瘍によって異なるが,非小細胞肺癌や大腸癌からの転移は乏血性であり,時に膵管腺癌との鑑別が困難な場合があるとされている4).今回,我々は胆囊癌術後経過観察中に膵体部腫瘍を認め,通常型膵癌と診断して切除を行い,病理組織学的に胆囊癌の膵転移と診断した1例を経験したため報告する.

症例

患者:54歳,男性

主訴:なし.

家族歴:祖父 大腸癌

現病歴:検診の血液検査にて肝胆道系酵素の異常を指摘され,精査の結果,胆囊癌,膵・胆管合流異常症と診断した.当科で胆囊全層切除,肝外胆管切除,リンパ節郭清,胆管空腸吻合術を施行した.病理組織学的にGfb,hep-post,flat-infiltrating type,30×15×2 mm,adenocarcinoma(tub2>tub1>por1),pT2,int,INFb,ly0,v1,ne0,pN0(0/22),pDM0,pHM0,pEM0,pPV0,R0,cM0,pStage II(胆道癌取扱い規約 第6版)の診断であった.術後補助化学療法は施行せず,画像検査を約4か月毎に施行して経過観察を行っていた.術後2年10か月に施行した腹部造影超音波検査で膵体部に腫瘤性病変を指摘され,精査を行った.

入院時現症:身長178.2 cm,体重67.6 kg.腹部平坦・軟で腫瘤は触知しなかった.

入院時血液検査所見:特記所見なし.

腫瘍マーカー所見:CEA,CA19-9ともに経過観察中は正常範囲であった.

腹部超音波検査所見(初回手術前):胆囊体部から底部に18.5×18.2 mmの広基性病変を認めた.病変部で胆囊壁外側の高エコー層は菲薄化しており,壁深達度はSS以深と診断した(Fig. 1).

Fig. 1 

Abdominal US showed an 18.5×18.2 mm basal lesion from the body to the fundus of the gallbladder (arrow). The hyperechoic layer outside the gallbladder wall was thinning (arrowheads) and the invasion depth seemed to be SS or deeper.

腹部造影CT所見(初回手術前):肝床部と反対側の胆囊に造影効果を伴う壁肥厚を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Enhanced CT before the first surgery showed wall thickening with a contrast effect opposite the gallbladder bed (arrowheads).

腹部MRCP所見(初回手術前):主膵管と総胆管はOddi括約筋外で合流し,新古味分類IIa型の膵・胆管合流異常症と診断した(Fig. 35)

Fig. 3 

MRCP before the first surgery indicated that the main pancreatic duct and common bile duct joined outside the papilla (arrowhead). The patient was diagnosed with pancreaticobiliary maljunction.

初回切除標本所見:胆囊体部から底部に潰瘍を形成する30×15 mmの腫瘤を認めた(Fig. 4a).ホルマリン固定後mapping所見では,潰瘍の周堤とほぼ一致して浸潤癌を認めた(Fig. 4b).

Fig. 4 

The initial resection specimen showed a 30×15 mm mass forming an ulcer from the body to the fundus of the gallbladder (a). Mapping after formalin fixation showed invasive carcinoma almost in line with the periosteum of the ulcer (b).

初回病理学的検査所見:中分化型腺癌を認めた(Fig. 5a:HE染色×4,b:HE染色×20).腫瘍は漿膜下層への浸潤を認めた.

Fig. 5 

Initial pathological examination revealed moderately differentiated adenocarcinoma (a: HE staining ×4, b: HE staining ×20). The tumor was found to have invaded the subserosa.

腹部造影超音波検査所見(胆囊切除後):膵体部に不整形な11 mm大の低エコー腫瘤を認めた(Fig. 6a).内部は軽度不均一で,病変は膵実質内に限局していた.ペルフルブタン(ソナゾイド®)を用いて造影を行うと,周辺膵実質よりわずかに遅れて辺縁から内部に流入する造影効果を認め(Fig. 6b),後期動脈相で膵実質と同程度に染影を認めた(Fig. 6c).

Fig. 6 

Enhanced US of the abdomen after cholecystectomy revealed an irregularly shaped hypoechoic mass of 11 mm in the pancreatic body (a). The interior was mildly heterogeneous and the lesion was localized within the pancreatic parenchyma, although separated from the main pancreatic duct. Contrast enhancement with perflubutane showed a contrast effect that flowed into the interior from the limbus slightly later than the surrounding pancreatic parenchyma (b). The late arterial phase showed a similar level of staining to that of the pancreatic parenchyma (c).

腹部造影CT所見(胆囊切除後):動脈相,門脈相,平衡相いずれにおいても膵体部の腫瘤性病変は描出されなかった.周囲のリンパ節や遠隔臓器への転移を疑う所見は認めなかった.

超音波内視鏡検査所見(胆囊切除後):膵体部に不整形で内部軽度不均一な低エコー腫瘤を認めた(Fig. 7).穿刺吸引法で生検を施行し,腺癌の診断を得た.

Fig. 7 

Endoscopic US after cholecystectomy showed an irregularly shaped, internally heterogeneous hypoechoic mass in the pancreatic body.

腹部MRI所見(胆囊切除後):拡散強調像を含め,いずれの条件においても膵体部の腫瘤性病変は描出されなかった.

以上の所見から,切除可能膵体部癌(cT3N0M0 cStage IIA)と診断した.

手術所見:開腹所見にて腹水や腹膜播種,肝転移の所見はなく,リンパ節の腫大も認めなかった.膵体尾部・脾切除,リンパ節郭清を施行した.膵臓の切離位置の決定には術中エコーを使用し,腫瘍から20 mmの距離を確保した.手術時間は4時間29分,出血量は110 mlであった.

切除標本所見:膵表面には肉眼的に明らかな腫瘍の露出は認めなかった(Fig. 8a).標本割面の観察では,切除断端付近に2か所の病変を認めた(Fig. 8b, c).

Fig. 8 

There was no grossly apparent tumor exposure (a). When sectioning was performed, two lesions were found near the resection margin (b, c: lesions on sections b and c are contiguous, and the lesion on the pancreatic margin side of section 4 is independent).

病理組織学的検査所見:2か所の病変ではいずれも,淡好酸性の細胞質とクロマチンが細顆粒状に増量し,核小体明瞭で核形は不整,大小不同な腫大核を認め,低分化~中分化型腺癌の診断であった(Fig. 9).免疫染色検査では,MUC1強陽性,MUC2陰性,MUC5AC陰性,MUC6陰性,CDX2陰性,p53陽性,Alcian Blue-PAS染色一部陽性であり,既往の胆囊癌の検体と類似する細胞・組織学的形態および免疫染色形質を呈していた(Fig. 10a~h, Table 1).以上の所見から,胆囊癌膵転移と診断した.

Fig. 9 

Histopathologically, the two lesions were both diagnosed as poorly to moderately differentiated adenocarcinoma (a: HE staining ×4, b: HE staining ×20).

Fig. 10 

Immunohistochemistry showed that the pancreatic tumor was strongly positive for MUC1 (a); negative for MUC2, MUC5AC, and MUC6 (b); negative for CDX2 and positive for p53 (c); partially positive for Alcian Blue-PAS staining (d), and had morphology similar to that of pre-existing gallbladder cancer (e–h).

Table 1  Immunohistochemical staining
Pancreas tumor Gallbladder cancer
MUC1 ++ ++
MUC2
MUC5AC
MUC6
CDX2
p53 + +
AL-PAS + +

術後経過:術後16日目に退院し,補助化学療法としてS-1療法を6か月施行した.CTと超音波検査を4か月毎に施行して経過観察を行っているが,術後18か月現在,無再発生存中である.

考察

転移性膵癌は膵臓悪性腫瘍の2%未満とされるまれな疾患である1).原発巣としては腎細胞癌が最も多く,転移性膵腫瘍の26%~63%を占めるとされている2)3).胆囊癌からの転移も報告されており,転移性膵腫瘍の3.3%~5.6%と報告されている.しかし,胆囊癌膵転移症例は全身転移の1病変として認識されることがほとんどであり,本例のような孤立性膵転移症例は極めてまれであると考えられる.我々は,医学中央雑誌において「胆囊癌」,「膵転移」のキーワードで,1964年から2022年の報告例(会議録を除く)を検索した結果,胆囊癌孤立性膵転移の本邦での報告例は1例のみであった6).同様にPubMedを用いて「gallbladder cancer」,「pancreatic metastasis」のキーワードで1950年から2022年の報告例を検索した結果,英文での胆囊癌孤立性膵転移の報告は認めず,極めてまれな病態であると考えられた.また,Yangら7)の報告においても,胆囊癌の転移先臓器は肝臓が51.4%と圧倒的に多く,膵転移はまれである.

転移性膵腫瘍は部位や大きさによっては閉塞性黄疸を来すなど有症状で発見されることもあるが,多くは無症状であり,画像診断にて偶発的に発見される場合が多い8).高野ら4)は,転移性膵癌の臨床経過や画像所見に特異的なものは少なく,原発性膵癌との鑑別は困難としたうえで,唯一内視鏡的逆行性膵管造影所見では,主膵管が先細り狭窄し閉塞する所見を認める症例は原発性膵癌が多いのに対し,転移性膵癌では主膵管は外側からの圧排・途絶する所見を認めることが多く,鑑別に役立つ可能性があると報告している.また,転移性膵癌のCT所見として,非小細胞肺癌や胃癌からの膵転移は乏血性,腎細胞癌や心筋肉腫からの転移は多血性病変を呈するという報告もある9).しかし,胆囊癌の膵転移はいまだ報告例が少ないため,画像診断上の特徴は明らかになっていない.本症例では超音波検査によってのみ病変を指摘しえたが,CT,およびMRIでは病変は描出されなかった.

転移性膵癌の転移機序に関してはリンパ行性の可能性が最も多く,胆囊癌膵転移もリンパ行性転移の可能性が高いとされている10).武田ら6)は胆囊癌の膵頭部転移の1例を報告しており,胆囊の血流動態より血行性転移の可能性は低く,リンパ行性に転移する可能性が高いとしている.本症例は原発巣にリンパ節転移を認めておらず,周囲のリンパ管やリンパ節にも腫瘍組織を認めなかったことから,リンパ行性による転移とは説明しがたい.本例は膵・胆管合流異常症を背景に発症した胆囊癌であり,胆汁を介した転移の可能性も考えられる.しかし,術後3年経過しての転移であり,膵臓の他部位には転移を認めなかったことから,明確な転移機序は不明である.膵・胆管合流異常症に合併した胆囊癌孤立性転移症例はこれまでに報告がなく,今後の報告例の集積によって,転移機序の解明が期待される.

本症例では術前診断で腺癌の診断を得たが,胆囊癌膵転移の診断には至らなかった.過去の報告より,膵癌と胆囊癌における免疫染色検査の陽性率を表に示した(Table 211)~17).集計結果からは,どの染色項目も陽性になる可能性があり,膵癌と胆囊癌を鑑別することは困難であると推察される.また,本症例は多発性の病変であり,胆囊癌と膵体部の病変は,HE染色,免疫染色検査ともに類似の形態と形質を示したことから,通常型膵癌ではなく胆囊癌膵転移の診断となった.

Table 2  Expression rate of each cancer type (%)
Pancreatic cancer Gallbladder cancer
MUC1 80–85 85
MUC2 10–15 15
MUC5AC 85 40
MUC6 35 40
CDX2 22–36 45
p53 40–80 40

Reddyら1)は転移性膵腫瘍の切除適応基準として,①原発腫瘍が予後良好,②原発巣が制御できている,③多臓器への転移ではない,④手術により転移巣が完全切除可能,⑤全身状態が良好,の五つを挙げている.胆囊癌は予後良好な腫瘍とはいえないが,本症例は②~⑤の条件を満たしており,切除適応基準を満たしていると考えられた.しかし,胆道癌再発症例に対する治療の第一選択は化学療法であり,もし膵転移と確定診断しえた場合には,化学療法の適応が望ましいと考えられる.一方で,極めて限られた症例に対しては切除が行われ,長期生存例も報告されている.三浦ら18)は,胆囊癌の術後再発を認めた長期生存例8例のうち7例で再発巣切除が施行されており,再発巣が限局し切除による制御が可能であれば長期生存が期待されうると報告している.Nojiら19)は胆道癌の再発例27例に対して再発病変の切除を行い,緩和ケア療法を行った123例と比較して有意に生存期間が延長したと報告している.また,Takahashiら20)も同様に,胆道癌の再発例74例に対して再発病変の切除を行い,生存期間が延長したと報告している.以上より,本症例のような胆囊癌孤立性膵転移は,転移巣切除の適応になりうると考えられた.

胆囊癌孤立性膵転移はまれであり,転移機序や治療法に関しては一定の見解は得られていない.さらなる症例の蓄積により手術適応や転移機序が明らかになると考えられた.

なお,本論文の要旨は第77回日本消化器外科学会総会(2022年7月,横浜)において報告した.

利益相反:なし

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