2024 Volume 57 Issue 12 Pages en12-
編集後記の執筆を担当させていただくのもこれで3回目,任期を考えるとこれが最後と思います.編集委員の中でも古株の部類に入り,これまで色々と経験させていただきました.ひとつ感じることは,各臓器領域で編集委員の襷が引き継がれても,委員の査読に対する真摯な姿勢と論文を育てようとする愛情は一貫していることであり,これは本学会雑誌の創設以来の伝統なのだろうと思います.編集委員はさまざまな施設から集まっておりますが,やはり消化器外科医を選び,その環境で育った人間は「根っこ」が同じなのかもしれません.
さて,第57巻12号には原著論文1編と症例報告7編が掲載されています.いずれも経験豊かな編集委員と著者との度重なるキャッチボールを経て完成された価値の高い論文です.今月の「一押し論文」は,『クローン病合併小腸癌の臨床病理学的特徴』とさせていただきました.著者らの経験症例17例と本邦報告例26例を合わせた計43例のクローン病合併小腸癌の臨床病理学的特徴が原著論文としてまとめられており,増加傾向にある本疾患の理解に有益な情報を提供しています.クローン病に合併する小腸癌の術前診断の難しさや,有効な薬物治療の欠如が再認識されると共に,著者らが問題提起する短腸症例や活動期クローン病症例における化学療法の是非に関するエビデンス欠如は,今後は喫緊の課題として議論されるであろうと感じました.本邦では大腸癌研究会を中心に小腸癌や炎症性腸疾患関連腫瘍に対するガイドライン策定が始まっている状況であり,本論文で提起されている問題点が近い将来に解決される方向に進むことを願うばかりです.
「査読への想い:如何に教育的な査読によりいい論文を作り出すか?」
本雑誌に投稿される多くの論文は症例報告です.症例報告に大切な要素は新奇性であるとの声を時々耳にします.確かに新奇性は魅力的な論文の条件のひとつではありますが,読者が論文に求めるものは,同様の症例が目の前に現れた時に参考にできる有益な情報です.診断法や治療の選択肢,そして予想される治療成績が明快に,論理的に示されている必要があります.本雑誌の大きな特徴のひとつは,教育的な論文を大切にしていることです.疾患・病態に新奇性が高いとは言いがたい論文でも,臨床医が必要とする知識が正確に整理されている論文は読者にとって価値があり,例えば治療に難渋した症例も,この治療経験が有用な情報としてメッセージ化されていれば論文掲載されています.今も昔も本学会誌は本邦における若手消化器外科医の学術活動における登竜門として大切な価値があります.ご施設の指導者の先生方におかれましては,この観点からもご支援を賜りたく,本学会雑誌への投稿の推奨ならびにご指導をよろしくお願い致します.
(上野 秀樹)
2024年12月21日