2024 Volume 57 Issue 3 Pages 109-116
目的:悉皆性の高い一医療圏の統合データベースを用いて,Stage IV大腸癌の診療実態を明らかにし,予後予測の観点から,大腸癌取扱い規約第9版における亜分類の臨床的妥当性を検討する.方法:2008年から2015年の期間で福島県がん診療連携拠点病院の院内がん登録を利用しStage IVの確診が得られた症例を研究対象とした.転帰不明,追跡不能な症例は除外した.結果:Stage IV大腸癌1,187例を解析対象とした.観察期間中央値は18.6か月[四分位範囲: 7.5~32.9]で,878例(73.9%)に死亡イベントが発生した.転移部位の割合は肝臓69.0%,肺26.0%,腹膜播種 28.7%,領域外リンパ節24.4%,その他7.8%であった.治療は原発巣切除が67.3%,遠隔切除は18.5%,化学療法は56.4%,best supportive care 15.7%であった.大腸癌取扱い規約第9版のM分類別(M1a,M1b,M1c1,M1c2)の生存期間中央値はそれぞれ25.0,19.6,21.3,12.1か月であった.結語:医療県単位の大規模な調査研究により,Stage IV大腸癌の診療実態,予後を明らかにした.取扱い規約上のStage IV亜分類は予後予測に関して一定の妥当性を認めた.
Purpose: The aim of the study was to examine actual practice for patients with stage IV colorectal cancer and to investigate the clinical validity of the subclassifications of M factor in the 9th edition of the Japanese Classification of Colorectal Carcinoma from the perspective of prognosis prediction. Materials and Methods: The subjects were consecutive patients diagnosed with stage IV colorectal cancer between 2008 and 2015 at all designated cancer hospitals in Fukushima prefecture, Japan. Patients with unknown outcomes and untraceable cases were excluded. Result: A total of 1,187 patients were enrolled in the study. The median observation period was 18.6 months [interquartile range: 7.5–32.9] and 878 (73.9%) patients had a fatal event. The percentage of metastatic sites was 69.0% for liver, 26.0% for lung, 28.7% for peritoneal dissemination, 24.4% for extra-regional lymph nodes, and 7.8% for other sites. Patients underwent primary tumor resection in 67.3% of cases, distant lesion resection in 18.5%, chemotherapy in 56.4%, and best supportive care in 15.7%. The median overall survival for cases with M classification M1a, M1b, M1c1 and M1c2 was 25.0, 19.6, 21.3 and 12.1 months, respectively. Conclusion: A prefecture-based cohort study showed the descriptive statistics and prognosis of patients with stage IV colorectal cancer. The M subclassification was found to have a certain validity to predict prognosis.
大腸癌は我が国で最も罹患者数が多く,死亡者数は2番目に多い悪性腫瘍である1).なかでも遠隔転移を有するStage IV症例は,集学的治療の開発によりその予後は改善しつつあるものの2),Stage IV大腸癌全体の5年生存率は約17%3)4)と報告されており,十分な治療成績とはいえない.治療戦略を立てるうえで高い精度の予後予測法が必要とされるが,地域医療の現場ではStage IV症例は臨床像が多彩で,標準的治療の実施が困難なことも多い.そのため診断時点での予後予測はかなり大きな幅をもって説明せざるをえない.
既存報告はハイボリュームセンターにおける専門的治療の成績を示したものが多く,かならずしも大腸癌Stage IVの診療実態を示したものではない.大腸癌研究会の全国登録事業において大規模な予後調査が行われているが,外科診療を中心としたデータベースでありStage IVは約7%しか含まれていない5).我が国におけるStage IVの全体像,診療実態,予後を記述した研究は少ないのが現状である.
Stage IV症例の多くは地域の基幹病院で治療を受けており,地域医療の診療実態に即した予後予測に関する分析を行うことは,大腸癌診療を行っている多くの臨床医にとって価値のある情報である.
悉皆性の高い一医療圏の統合データベースを用いて,Stage IV大腸癌の診療実態を明らかにし,予後予測の観点から,大腸癌取扱い規約第9版6)における亜分類の臨床的妥当性を検討する.
研究デザインは多施設共同コホート研究である.福島県のがん診療連携拠点病院は9施設あり,その全ての施設における院内がん登録を利用しStage IV大腸癌を抽出した.抽出条件は,1.2008~2015年の期間,2.International Classification of Diseases for Oncology 3版(ICD-O3)の病名コードC18.0,C18.2~C18.9,C19.9およびC20,3.組織学的に腺癌,4.病期分類がStage IV,とした.抽出された症例の診療録を2名の消化器外科専門医がレビューし,病理診断,CT画像検査,手術を行っている場合は手術所見からStage IVの確診が得られた症例を研究対象とした(Stage I/II/IIIの術後再発例は含まれていない).遠隔転移の診断に確証が得られない症例,診断のみが研究対象施設で実施され,治療内容が不明な症例やフォローアップが行われていない症例は除外した.
調査項目は,診断時の患者情報(年齢,性別,転帰),腫瘍情報(腫瘍占居部位,組織型,原発巣による症状,リンパ節転移,転移臓器の部位と程度)とした.
生存期間は院内がん登録日(診断日)を起点に算出した.死亡イベント発生日は,診療録,転出先からの情報提供書,死亡診断書の記載を確認し決定した.また,最終観察日は2017年12月31日とし,以後の生存例は打ち切りとした.
2. アウトカムと統計解析アウトカムは記述統計量を示すことである.具体的には転移臓器の部位,程度を明らかにし,大腸癌取扱い規約第9版6)のM分類(M1a M1b M1c1 M1c2)の割合,全生存期間を示す.治療内容は手術,化学療法(2剤以上の殺細胞性抗腫瘍薬の併用療法を実施した症例),best supportive care(原発切除または2剤併用薬物療法を行わなかった症例;以下,BSCと略記)について例数の割合と,全生存期間を記述する.生存時間および生存率は,Kaplan-Meier法を用いて記述する.
3. 研究倫理本研究は,ヘルシンキ宣言に基づく倫理原則及び,人を対象とする医学系研究に関する倫理指針に準拠し,事前に研究実施計画書を作成した.また,全ての参加施設において倫理委員会の承認を得て,研究内容の公開と対象者の組み入れ拒否の権利を保障するオプトアウトの手続きにより実施した.
対象期間に,院内がん登録に10,582例の大腸癌が登録されており,Stage IVは1,471例(13.9%)であった.診療録を調査し,除外基準に該当する症例を除き,最終的に1,187例(11.2%)を解析対象とした.観察期間中央値は18.6か月[四分位範囲:7.5~32.9]で,878例(73.9%)に死亡イベントが発生した.
患者背景をTable 1に,転移臓器をTable 2,治療内容をTable 3に示した.転移部位の割合は肝臓69.0%,肺26.0%,腹膜播種28.7%,領域外リンパ節24.4%,その他7.8%であった.治療内容は原発巣切除が67.3%,遠隔切除は18.5%,化学療法は56.4%,BSCは15.7%であった.
Total No. (n=1,187) | ||
---|---|---|
Age, years | Median (IQR) | 68 [60–77] |
Sex, n (%) | ||
Male | 727 (61.2) | |
Female | 460 (38.8) | |
Symptoms from primary tumor, n (%) | ||
Absence | 383 (32.1) | |
Obstruction | 639 (53.9) | |
Bleeding or anemia | 129 (10.8) | |
Perforation | 40 (3.2) | |
Tumor location, n (%) | ||
Right colon cancer | 418 (35.0) | |
Left colon cancer | 473 (40.0) | |
Rectal cancer | 275 (23.3) | |
unknown | 22 (1.7) | |
Differentiation, n (%) | ||
Well to moderate | 997 (84.0) | |
Por, muc, sig | 109 (9.4) | |
unknown | 74 (6.6) | |
cT-Stage, n (%) | ||
T1, 2 | 40 (3.3) | |
T3 | 364 (30.5) | |
T4a | 546 (46.4) | |
T4b | 227 (19.8) | |
cN-Stage, n (%) | ||
N0 | 179 (15.5) | |
N1 | 399 (33.3) | |
N2 | 601 (51.0) | |
unknown | 2 (0.2) |
IQR: interquartile range, Por: poorly differentiated adenocarcinoma, muc: mucinous adenocarcinoma, sig: signet-ring cell carcinoma
Total No. (n=1,187) | ||
---|---|---|
Liver metastasis, n (%) | ||
Absence | 370 (31.0) | |
H1 | 316 (25.6) | |
H2 | 268 (22.5) | |
H3 | 233 (20.9) | |
Lung metastasis, n (%) | ||
Absence | 879 (74.1) | |
PUL1 | 98 (8.2) | |
PUL2 | 210 (17.8) | |
Peritoneal dissemination, n (%) | ||
Absence | 846 (71.3) | |
Presence | 341 (28.7) | |
Non-regional lymph node metastasis, n (%) | ||
Absence | 900 (75.8) | |
Presence | 287 (24.2) | |
Other organ metastasis, n (%) | ||
Absence | 1,095 (92.2) | |
Presence | 92 (7.8) | |
cM-Stage, n (%) | ||
M1a | 580 (48.9) | |
M1b | 286 (24.1) | |
M1c1 | 146 (12.3) | |
M1c2 | 175 (14.7) |
Total No. (n=1,187) | ||
---|---|---|
treatment, n (%) | ||
primary tumor resection | 799 (67.3%) | |
chemotherapy | 670 (56.4%) | |
metastasectomy | 220 (18.5%) | |
best supportive care | 186 (15.7%) |
Fig. 1に大腸癌取扱い規約第9版のM分類別(M1a,M1b,M1c1,M1c2)の生存曲線を示した.それぞれの生存期間中央値は25.0,19.6,21.3,12.1か月,3年生存率は36.8%,25.0%,31.3%,15.8%であった.Fig. 2に治療別の生存曲線を示した.治療は,①手術±化学療法,②化学療法のみ,③BSCに分類し,それぞれの生存期間中央値は26.7,16.4,4.5か月,3年生存率は39.5%,11.2%,2.2%であった.さらに,手術を行った症例については,①原発巣切除+遠隔転移巣切除+化学療法,②原発巣切除+化学療法,③原発巣切除+遠隔転移巣切除,④原発巣切除のみに分類し,Fig. 3に生存曲線を示した.それぞれの生存期間中央値は62.9か月,27.4か月,45.9か月,14.6か月,3年生存率は73.5%,34.9%,56.6%,19.4%であった.
本研究により以下の三つの知見が得られた.第一に,医療圏全体のStage IV大腸癌の臨床像を明らかにしたこと,第二に診療実態とその予後明らかにしたこと,最後に大腸癌取扱い規約第9版の亜分類についてその臨床的妥当性を示したことである.
大腸癌Stage IVの基本戦略として,原発巣と遠隔転移巣の両方が外科的切除可能であれば,切除を行うことが推奨されている7)~10).また,2021年にJCOG1007試験の結果が報告され,遠隔転移巣が切除不能な場合は,原発巣による症状がなければ,手術は行わず化学療法を行うことが標準治療となった11).本研究は2008年から2015年の期間を対象にした診療調査であるが,Stage IV大腸癌に対する原発巣切除は67.3%,遠隔転移巣切除18.5%に行われており,原発巣のみを切除した症例も多く含まれていた.既存研究においては同様の傾向を認める12)13).2022年のガイドライン改訂を受けてStage IV症例に対する原発巣のみの切除例は減少していくことが予測されるが,実際には無症候例は全体の32.1%しかない.狭窄,出血,穿孔など何らかの症状を認める症例の方が多く,今後は化学療法の速やかな導入のために,原発巣の外科切除以外の症状緩和治療(ステント挿入,人工肛門の造設など)の有用性を検討していく必要があるだろう.
治療別の生存期間は,BSCで約4.5か月,化学療法のみで約16.4か月,手術±化学療法を実施した群では26.7か月であった.手術例の中でも原発巣および遠隔転移巣の切除で約45か月,化学療法を加えると約58か月であり,遠隔巣の切除可否が予後を決定する大きな因子である.一方で,遠隔転移巣が切除不能であっても,原発巣切除と化学療法の実施で2年以上の予後が期待できる.耐術能を有する比較的全身状態の良い患者においては,このような予後予測を念頭に多角的な視点で治療戦略を立てていく必要がある.近年では化学療法の進歩により切除不可能であった症例が切除可能となるconversion therapy の報告が散見される14)~16)ことから,定期的な遠隔転移巣の病例評価および切除の可否を複数の外科医の目で評価していく必要がある.
大腸癌取扱い規約第9版では,転移臓器数,腹膜播種の有無によって遠隔転移分類(M分類)を細分化している.複数臓器への転移と腹膜播種は今回の結果においても予後不良因子と考えられたが,特に複数臓器の転移と腹膜播種の両方を有する症例では生存期間中央値は約12か月と厳しい結果であった.転移臓器個数に加えて,腹膜播種の有無を分類に加えることは,Shidaら17)の報告と同様に予後予測の観点から妥当な分類法であると考えられた.注意点としては,腹膜播種単独のM1c1の扱いである.本研究では,M1c1の症例の予後はM1aとM1bの中間に位置しており,切除可能例はM1aと遜色ない結果と考えられた.腹膜播種は他の遠隔転移と比較して化学療法が奏効しにくく,また腹水貯留や消化管閉塞から全身状態の悪化につながるため切除不能な場合は予後不良である18)19).しかし,切除可能な限局した播種は長期生存例も報告されており20)~22),大腸癌治療ガイドラインでは限局性播種(P1,P2)において「過大侵襲とならなければ原発巣と同時に切除が望ましい」としている23).実際,少数の腹膜播種は術前に診断できないことも多く,術中に発見されて同時切除されることが多い.そのためM1c1に分類された症例は,切除可能例の予後はM1aと同等で,切除不能な場合はM1bと同等の予後になっていると考えられた.
本研究の限界は,本研究は福島県内のがん拠点病院を統合したデータベース研究であり,日本全国の代表的なサンプル抽出ができているとは限らない.ただし,既存報告の多くが専門施設や大学病院からの積極的な治療を行った結果であることを考えると,本研究のように医療県単位の詳細なデータからの検討は実臨床に役立つ報告と考えている.
また,海外で行われた大腸癌に対する大規模なコホート研究24)25)はStage I~IIIの症例や根治手術が行われた症例を対象としており,本研究のようにStage IV症例に焦点を当てたコホート研究は珍しいと考えられた.
後方視的な研究であるため,手術や化学療法の適応,治療選択の基準は施設毎,診療医毎にばらつきがある.今後,新たにデータ収集を行い,化学療法の効果や有害事象が予後予測に与える影響ついて検討を行う予定である.
医療県単位の大規模な調査研究により,Stage IV大腸癌の診療実態,予後を明らかにした.本研究は,大腸癌診療に関わる医療者が患者の予後を予測し,治療戦略を検討するために有用な情報を提供するだろう.
利益相反:なし