2024 Volume 57 Issue 5 Pages 258-264
症例は72歳の男性で,発熱と右側腹部痛を主訴に来院した.急性胆囊炎と診断し,経皮経肝胆囊ドレナージと抗菌薬治療を行った.画像所見上,悪性所見も否定できなかったが,胆汁細胞診では悪性所見を認めず,黄色肉芽腫性胆囊炎(xanthogranulomatous cholecystitis;以下,XGCと略記)と診断し,待機的全層胆囊摘出術を施行した.病理学的検査で,XGCを併存したintracholecystic papillary neoplasm(以下,ICPNと略記)with associated invasive carcinomaと診断された.近年,ICPNは前癌・早期癌病変としての概念が認知されており,ICPNとXGCの合併は非常にまれである.今回,我々はXGCを合併したICPN with associated invasive carcinomaの1例を経験したので報告する.
A 72-year-old male presented to our hospital with fever and right abdominal pain. Physical examination revealed a painful and palpable mass on the right hypochondrium. Laboratory findings showed elevated inflammatory markers. Abdominal CT showed a swollen and irregularly thickened wall of the gallbladder and fluid collection around the gallbladder, suggestive of an abscess. Acute cholecystitis with abscess was diagnosed, and the patient was treated with percutaneous transhepatic gallbladder drainage and antibiotic therapy. Cytology of bile showed no malignant findings. One month later, complete cholecystectomy was performed. The resected specimen showed a raised cauliflower-like lesion throughout the gallbladder mucosa. Histopathological examination gave a final diagnosis of intracholecystic papillary neoplasm (ICPN) with associated invasive carcinoma with xanthogranulomatous cholecystitis (XGC). In recent years, the concept of ICPN as a precancerous/early cancerous lesion of the gallbladder has been recognized, but its coexistence with XGC is extremely rare. Therefore, we present this case as an example of this condition with a literature review.
Intracholecystic papillary neoplasm(以下,ICPNと略記)は,胆管内乳頭状腫瘍(intraductal papillary neoplasm of extrahepatic bile duct;以下,IPNBと略記)の胆囊内病変として,2010年のWHO消化器腫瘍分類1)および胆道癌取扱い規約第6版2)に記載された比較的新しい概念であり,最新の2019年のWHO消化器腫瘍分類第5版3)では,胆囊腔内で塊状,隆起性増生を示す上皮性腫瘍と定義された.今回,我々は術前に黄色肉芽腫性胆囊炎(xanthogranulomatous cholecystitis;以下,XGCと略記)と診断し,ICPN with associated invasive carcinomaの併存を認めた1例を経験したので報告する.
患者:72歳,男性
主訴:発熱,右側腹部痛
既往症:高尿酸血症,脂質異常症,前立腺肥大症
内服薬:フェブソキスタット,ω-3脂肪酸エチル,タムスロシン塩酸塩
現病歴:1週間前より発熱を認め,徐々に右側腹部痛が出現し,増悪傾向を認めたため,当院救急外来を受診した.
来院時現症:体温37.9°C,呼吸循環動態は安定していた.腹部平坦・軟,右季肋部に圧痛を伴う腫瘤を触知した.
入院時血液生化学検査所見:白血球9,200/μl,CRP 26.75 mg/dlと高度の炎症反応を認めた.肝胆道系酵素の異常は認めなかった.CEA:1.8 ng/ml,CA19-9:<2 U/mlであった.
腹部CT所見:胆囊の緊満,壁肥厚・不整,胆囊周囲の脂肪織濃度の上昇,胆囊壁内と周囲に膿瘍を疑う液体貯留を認めた.胆囊壁に造影不良は認めず,粘膜層の連続性は保たれていた(Fig. 1).
以上より,中等症急性胆囊炎と診断した.発症から1週間以上経過し,CTで胆囊周囲の炎症性変化が高度であること,ω-3脂肪酸エチルを内服していたことから,手術操作に伴う出血量増加の可能性を考慮し,経皮経肝胆囊ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage;以下,PTGBDと略記)と抗菌薬治療を行った.加療後,速やかに腹部症状および炎症反応は改善した.PTGBDで胆囊管は描出されず,採取した胆汁細胞診では,悪性所見は認めなかった.PTGBD施行後14日目にPTGBDは計画外抜去となり,18日目に退院し,手術目的に当科紹介となった.
術前MRCP所見:胆囊の壁肥厚と粘膜全体に多発する隆起性病変を認めたが,壁構造は保たれ,肝臓および周囲臓器への浸潤は認めなかった.総胆管に明らかな異常所見は認めなかった.明らかな造影CTで認めた胆囊壁内と周囲の膿瘍を疑う液体貯留は消失していた(Fig. 2).
以上より,黄色肉芽腫性胆囊炎と診断した.胆囊癌の合併を完全に否定できなかったため,1か月後に全層胆囊摘出術を施行した.
手術所見:上腹部正中切開で開腹したところ,胆囊は緊満し,胆囊周囲は大網と十二指腸,横行結腸が強固に癒着していた.漿膜面に悪性所見を疑う所見は認めなかった.肝床剥離面に肝床への浸潤を疑う所見を認めなかったため,予定通り全層胆囊摘出術とNo. 12cリンパ節のサンプリングを施行した.胆囊管断端には肉眼的に異常を認めなかった.手術時間は1時間45分,出血量は109 mlであった.
切除標本肉眼的所見:粘膜層から無数にカリフラワー状に隆起する腫瘍を認め,粘性の強い白色混濁胆汁で充満していた(Fig. 3a).
病理組織学的検査所見:乳頭状で腸粘液上皮類似の異型細胞の増殖を認め,核および構造異形が亢進し,茎の間質進展を認めた.粘膜下層への浸潤は認めず,粘膜内病変であった.Rokitansky-Aschoff(以下,RAと略記)洞内の上皮にも置換性の進展を認めたが,浸潤は認めなかった(Fig. 3b~d).胆囊内胆汁細胞診は行わなかった.免疫組織化学検査では,MUC6(Fig. 4a),MUC1(Fig. 4b)で一部陽性,MUC2は陰性(Fig. 4c),MUC5AC(Fig. 4d)は陽性と陰性が混在していた.背景胆囊壁は,軽度から中等度の炎症細胞浸潤と壁肥厚を呈し,肥厚した胆囊壁にxanthoma cellの集簇と組織球からなる肉芽腫を認め,XGCの所見であった.切除断端に腫瘍性病変は認めなかった.また,No. 12cリンパ節にも転移は認めなかった.以上より,XGCを合併したICPN with associated invasive carcinomaと診断した.
術後経過:術後経過は良好であり,術後6日目に退院となった.胆囊癌取扱い規約に準じ,pT1aと判断した.切除断端陰性で,粘膜下層への浸潤や胆囊頸部周囲のリンパ節に腫瘍性変化は認められなかったことから,付加的手術や補助化学療法は行わず厳重な経過観察の方針となった.
2019年のWHO消化器腫瘍分類第5版では胆管,胆囊,膵臓に共通する疾患概念として,前浸潤性の上皮内腫瘍が発生し,その後,浸潤癌に進展するという“benign and precursor lesions”が提唱されている3).ICPNは,IPNBの胆囊内病変として考えられており,肉眼的に胆囊内に見られる乳頭状,絨毛状,ポリープ状,大顆粒状の病変でIPNBに類似した像を示し,組織学的には胆囊内腔に,狭い線維性血管芯を有する乳頭状の腫瘍上皮が互いに接するような病理像を示すことが報告されている4).異型度分類は,低異型度,高異型度があり,間質に浸潤するICPNは,ICPN with associated invasive carcinomaと分類され,胆囊癌取扱い規約第7版で浸潤を伴うICPNは胆囊癌(ICPNに由来する)として取り扱われる5).臨床症状としては,無症状から胆囊炎や胆管炎を呈し,一般的な胆囊癌と大差はない.本症例においては,無石性胆囊炎として発症し造影CTで,胆囊壁不整と胆囊内に隆起性病変を認めたが,細胞診で悪性所見を認めず,壁構造は保たれ,肝臓および周囲臓器への浸潤を認めなかったため,XGCと診断した.
XGCは,1948年にWeismannら6)により報告された1亜型である.XGCに特異的な臨床症状はほとんどなく,胆囊炎に伴う腹痛,発熱,閉塞性黄疸,腫瘤触知などである.XGCの胆囊癌の合併率は,6.8~14.3%と報告されており,胆囊癌併存頻度が比較的高いことが知られている7).
XGCの発症には,胆囊結石,胆囊内圧の上昇,慢性細菌感染などの関与が考えられている.胆囊内圧の上昇により,RA洞から胆汁が胆囊壁内に漏出し,これを貪食した組織球を中心とした肉芽腫が形成される8)9).北川ら8)は,急性胆囊炎発症から1か月で肉芽腫が形成されうると報告している.これらの報告からXGCは,急性炎症から慢性期炎症への過程で発生する可能性が考えられる.中村ら10)は,ICPN産生粘液による急性閉塞性胆管炎を報告しており,本症例においては,ICPNにより産生された粘液が,胆囊管の閉塞を来し,慢性炎症をじゃっ起したと推測される.IPNBにおいては,33%で粘液産生があり,特に,gastric type,intestinal typeの組織型で著明であったと報告されている11).本症例は,PTGBD造影で,総胆管への造影剤の流出は確認できず,摘出された胆囊内には,白色混濁粘稠胆汁貯留を認め,組織型は,intestinal typeであった.MRCPで総胆管に明らかな異常所見を認めず,胆囊壁筋層を中心に肉芽腫を認めていたことから,ICPNによる粘液産生により,胆囊内に粘液が充満し,慢性炎症を来し,XGCの発生に関与していた可能性が推測される.
XGCとICPNが合併する症例はまれであり,医学中央雑誌で1964年から2023年2月の期間で「胆囊内乳頭状腫瘍」,「黄色肉芽腫性胆囊炎」で検索するとAidaら12)が1例を報告するのみで,PubMedで1950年から2023年2月の期間で「xanthogranulomatous cholecystitis」,「ICPN」で検索すると,Trisalら13)が報告する1例のみであった(Table 1).Aidaら12)の報告では,先行する胆囊炎や胆管炎の症状は認めず,肝浸潤を伴う胆囊癌と診断し,拡大胆囊摘出術を施行し,最終的に,病理組織学的所見において,ICPNの診断に至っている.一方,Trisalら13)の報告では,胆囊周囲に液体貯留を伴う急性胆囊炎および胆囊穿孔を疑い,保存的加療後,胆囊摘出が施行されている.病理組織学的所見では,低異型度ICPNと診断された.いずれの症例もICPNの術前診断には至っていない.
No. | Author | Year | Age | Gender | Cholecystitis | Preoperative diagnosis | Operative method | Degree of dysplasia | Histological subtype |
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1 | Aida 12) | 2021 | 65 | Female | – | Gallbladder cancer | Extended cholecystectomy | N/A | Gastric type |
2 | Trisal 13) | 2021 | 48 | Male | + | Acute cholecystitis | Cholecystectomy | Low-grade dysplasia | N/A |
3 | Our case | 73 | Male | + | XGC | Complete cholecystectomy | Associated invasive carcinoma | Intestinal type |
XGC: xanthogranulomatous cholecystitis, N/A: not available
ICPNもXGCも,胆囊癌と臨床経過や画像検査所見が類似し,術前鑑別診断や術式選択に苦慮することが多い.胆囊内に乳頭状腫瘤を認めた際は,ICPNが鑑別に挙がる.一方,XGCの画像的な特徴は,粘膜下層を中心とする壁肥厚を認める点と粘膜層の連続性が保たれている点とされる.胆道上皮内腫瘍の良悪性鑑別に,経腹壁超音波検査(AUS)や造影超音波内視鏡(EUS)が有用であるとの報告もみられる14)15).本症例では,PTGBD抜去後,造影CT,MRCPを施行したものの,AUSやEUSは施行しておらず,また,ICPNの併存を疑わなかったため,術前診断に至らなかったものと考える.
ICPNやXGCの術式選択については定まった見解はない.前者は前癌病変であり,後者は癌合併率が高いことを考慮すると,癌併存を想定した術式選択が重要となる.本症例では,悪性だとしても胆囊外に進展する所見を認めなかったため,全層胆囊摘出術を施行した.Akitaら16)は,乳頭状腫瘍と診断・手術された31症例につき検討し,その中でICPNと診断がついた7例の組織診断について検討している.いずれも脈管侵襲やリンパ節転移はなく,経過観察中に再発も認めず,5年生存率も100%と非常に良好な結果であったことを報告している.また,pT1胆囊癌の本邦でリンパ節転移の頻度は0~1.9%で5年生存率も85.9%と比較的良好である.本症例でも,病理組織診断では,pT1aN0M0,Stage Iであり,予後の観点からも全層胆囊摘出術を施行したことは妥当と考える.
PTGBDについては,Takahashiら17)は胆管癌症例の経皮経肝でのドレナージ施行症例のうち,5.2%で腹膜播種再発を認め,60日以上の長期留置や複数のカテーテル留置などが瘻孔播種の危険因子であると報告している.また,胆道癌根治切除術後の補助化学療法については,T2-4N0M0もしくはT1-4N1M0の胆囊癌に対するS-1の有効性が証明された18).本症例では,pT1aN0M0で,補助化学療法の対象には含まれず,切除断端陰性であること,前述の危険因子に当てはまらないことから,播種再発の可能性も患者本人に十分インフォームドコンセントを行ったうえで,追加切除や術後補助化学療法は施行せず厳重な経過観察を行うこととした.
XGCとICPNが併存した非常にまれな1例を経験したので報告した.両者の術前鑑別診断を得ることは,非常に難しいが,XGCを疑う場合,ICPN併存や胆囊癌の可能性も念頭に,術前精査や術式選択を行うことが重要である.また,このような症例では,できるかぎりPTGBDは避けることや術中に胆囊管断端や周囲リンパ節のサンプリングを行うことが望ましいと考えられ,永久病理標本での壁深達度や水平方向の進展を評価も併せて,付加的手術の検討も必要であると考える.
利益相反:なし