2025 Volume 58 Issue 10 Pages en10-
神無月(出雲は神在月)にはいり少しは秋めいてまいりましたが,皆様いかがお過ごしでしょうか?
2025年のノーベル生理学・医学賞受賞は「制御性T細胞の発見」の功績により坂口志文・大阪大栄誉教授に,ノーベル化学賞は「金属有機構造体の開発」の功績により北川進・京都大学特別教授に決まり,1949年の湯川秀樹博士以来30名と1団体の受賞となり,本邦の自然科学分野の世界への多大なる貢献に勇気を与えられました.
一方で,全国の多くの病院が経営的に悪化しており,医療機器の更新など施設・設備費が減少し,安全で質の高い医療の提供が危ぶまれています.自由民主党立党70年で初めて女性が総裁に就任し,“多くの不安を希望にかえる”という決意と覚悟を表明しており,抜本的な改革を期待したいところです.
2020年9月より,消化器外科領域の邦文誌の最高峰である日本消化器外科学会雑誌の編集委員を拝命し,早5年が経過いたしました.この間,著者の先生方と共によりよい論文を共同作業で完成させていくことに喜びを感じるとともに,この歳になっても驚くような症例報告や考察内容を査読することで大変勉強させていただいております.
さて,第58巻10号は症例報告8編で構成され,興味深い内容の論文ばかりです.その中で敢えて今月の一押し論文は,三重大学肝胆膵・移植外科所属の山路隆斗先生らによる「腹腔鏡下十二指腸局所切除術にて臓器機能温存しえた下十二指腸角gastrointestinal stromal tumor の1例」を選択いたしました.Vater乳頭近傍に発生し,膵臓に広く接した径15 mmのlow risk GISTに対して,内視鏡下にVater乳頭からの距離や腫瘍マージンを確認しながら,腹腔鏡下に局所切除術を施行し,膵頭十二指腸切除を回避できたという報告です.膵臓に接する十二指腸GISTでは膵頭十二指腸切除術の選択が考慮されますが,内視鏡でVater乳頭部を損傷せぬように観察しつつ,腹腔鏡下に全層切除した後に体腔内縫合した症例は本報告のみとのことです.手術の過程を示す美しい術中写真が掲載されているのでぜひともご一読ください.
本号8編の論文すべてが臨床的な知見からメッセージを与えてくださっています.症例報告は,著者のチームがどのように考え,選択した治療がどのような結果をもたらしたか?,その結果が良好であっても不良であっても臨床医に多くの気づきと教訓を与えてくれます.それが経験値につながりますので,ぜひとも定期的にご一読ください.また,論文の投稿は推敲を重ねて時間を要する作業が必要ですが,優れた臨床医になるために,“振り返り”や“自己反省”作業は重要な過程となりますので,これからも積極的に論文の投稿をお願い申し上げます.
(里井 壯平)
2025年10月10日
