2025 Volume 58 Issue 2 Pages 95-104
症例は75歳の女性で,健診にてCA19-9の上昇と,腹部エコー検査で膵頭部の腫瘤と膵管の拡張を指摘され当科受診した.CT,MRIでは膵鈎部に漸増性に造影効果を示す腫瘤を認め,胃結腸静脈幹から第一空腸静脈合流部直上の上腸間膜静脈に180°未満の接触を認めた.FDG PET-CTでは,FDGの結節状高集積(SUVmax 6.3)を認め,浸潤性膵管癌が疑われた.また,上腸間膜静脈の左縁で膵体尾部が欠損しており,膵体尾部欠損症に合併した膵鉤部癌cT3N0M0 Stage IIA,切除可能膵癌と診断した.術前化学療法を施行後,亜全胃温存膵全摘,上腸間膜静脈合併切除再建術を施行した.術後の病理検査では,invasive ductal adenocarcinoma,pT3N1(No. 14,17)M0,背景の膵組織には主膵管,副膵管を認め,切除膵の脂肪置換はなく,膵体尾部欠損症は低形成型と診断した.術後は1型糖尿病に準じて強化インスリン療法による糖尿病管理を行い,術後22日目に退院した.膵体尾部欠損症に膵癌を合併した症例は非常にまれであり,本邦報告例を集計し合わせて報告する.

A 75-year-old woman was referred to our hospital due to an elevated CA19-9 level and a mass in the pancreatic head on abdominal ultrasonography. CT and MRI revealed a mass in the uncinate process of the pancreas, which exhibited gradual contrast enhancement and less than 180° contact with the superior mesenteric vein (SMV) just above the confluence of the gastrocolic trunk and the first jejunal vein. In addition, the pancreatic body and tail were absent at the left margin of the SMV. FDG-PET/CT showed nodular FDG uptake with a maximum standardized uptake value of 6.3. The patient was diagnosed with resectable pancreatic cancer of the uncinate process with congenital agenesis of the dorsal pancreas. After preoperative chemotherapy, she underwent total pancreatectomy, SMV resection, and regional lymph node dissection. A pathological examination confirmed invasive ductal adenocarcinoma (pT3N1M0). Considering the presence of the main and accessory pancreatic ducts and the absence of pancreatic fat replacement, congenital agenesis of the dorsal pancreas of the hypoplastic type was diagnosed. Postoperatively, the patient’s diabetes was managed with intensive insulin therapy consistent with type 1 diabetes, and she was discharged on postoperative day 22. We report this case as a rare example of pancreatic cancer with congenital agenesis, with a review of previous cases reported in Japan.
膵体尾部欠損症は,胎生期の背側膵原基の欠如により発症するまれな疾患である1).膵体尾部欠損症に膵頭部癌を合併した報告例は極めて少ない.また,手術は膵全摘となる可能性が高く,術後は糖尿病管理が重要となる.今回,我々は膵体尾部欠損症に膵鉤部癌を合併した症例を経験し,膵全摘術を施行した症例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.
患者:75歳,女性
主訴:体重減少
既往歴:2型糖尿病,高血圧症,32歳時胆石症にて手術.飲酒歴,喫煙歴はなし.
家族歴:特記事項なし.
現病歴:2023年4月に当院の健診にてCA19-9:887.2 U/mlと腹部エコーにて膵管の拡張と膵頭部に16 mm大の腫瘤を認めた.5月MRIを施行し,膵鉤部癌(T3N0M0 Stage IIA)として当科紹介となった.
現症:身長147.1 cm,体重47.8 kg
眼球黄染なし,皮膚黄疸なし.
腹部 平坦・軟,自発痛なし,圧痛なし,肝・脾・腫瘤は触知せず.
検査所見:末梢血に異常所見なし.血液生化学検査では肝・胆道系酵素,膵アミラーゼは正常範囲,空腹時血糖は188 mg/dlで,HbA1c 7.0%であった.また,腫瘍マーカーはCA19-9 1,625.1 U/ml,DUPAN 307 U/mlと高値であった.
腹部超音波検査所見:膵管の拡張と膵頭部に16 mm大のhypoechoicな腫瘤を認めた.
腹部CT所見:膵鉤部に1.7 cm程の漸増性に造影効果を示す腫瘤を認めた.膵後方へ浸潤が疑われ,上腸間膜静脈(superior mesenteric vein;以下,SMVと略記)の第一空腸静脈分岐部に180°未満の接触を認め,浸潤も否定できなかった.肺転移,肝転移は認めず,そのほか明らかな周辺臓器への浸潤も認めなかった(Fig. 1a).また,門脈左方から膵体尾部が欠損しており,膵体尾部欠損症の合併を認めた(Fig. 2).


3D-CT所見:胃十二指腸動脈から膵頭部に至る上前膵十二指腸動脈が発達し,CT画像上背側膵動脈や大膵動脈が確認されなかった.また,門脈系では左右の中結腸静脈が合流し本幹を形成後,脾静脈に合流していた(Fig. 3).

腹部MRI所見:膵鉤部に脂肪抑制T2強調画像で高信号,拡散強調画像で低信号,造影で漸増性に染まる2 cm弱の腫瘤を認めた.肝転移は認めなかった.
FDG PET-CT所見:膵頭部に境界不明瞭な約2 cm大の腫瘤を認め,FDGの結節状高集積(SUVmax 6.3)を認めた.周囲リンパ節には転移を疑う所見は認めなかった(Fig. 1b).
術前診断と治療方針:膵鉤部癌cT3N0M0 Stage IIA,切除可能膵癌(resectable)と診断した.SMVの第一空腸静脈分岐部と広く接しており(180°未満),当科初診後2週間後のCA19-9は2,646 ng/mlまで上昇し,生物学的切除可能境界2)と考え,術前化学療法としてゲムシタビン+nab-パクリタキセル(GnP)療法を施行する方針とした.
診断後治療経過:GnP療法による化学療法を3コース施行した.腫瘍マーカーCA19-9は,339.2 ng/mlまで低下,術前の画像検査で腫瘍の30%未満の縮小を認めstable diseaseと診断し,最終化学療法終了後31日目に手術を施行した.
手術所見:開腹時,腹膜播種,肝転移は認めず,ダグラス窩も明らかな腫瘤を触知しなかった.腹水細胞診も陰性であった.中結腸静脈に沿って結腸間膜を切開剥離した.体尾部は欠損しており,膵頭部腫瘤は胃結腸静脈幹合流部から第一空腸静脈合流部までSMVとの強固な癒着を認めた(Fig. 4a, b).癌浸潤の疑われる胃結腸静脈幹合流部から第一空腸静脈合流部直上までのSMVを合併切除,再建し,亜全胃温存膵全摘術を施行した.術前画像では明らかなリンパ節転移を認めなかったが,腫瘍が膵鈎部に存在したことから上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)周囲から十二指腸・上部空腸間膜領域の郭清を入念に行った(Fig. 5a~c).手術時間は7時間59分,出血量は240 mlであった.


病理組織学的検査所見:膵組織では,間質の線維化を伴う異型腺管の浸潤性増殖を認め,浸潤性膵管癌の所見であった(Fig. 6a).SMVへの直接の浸潤は確認されなかったが,近傍には炎症細胞浸潤を伴う肉芽組織や線維組織を認め,化学療法前には血管近傍への癌浸潤の存在が示唆された(Fig. 6b).背景の膵組織には,主乳頭(Fig. 6c),副乳頭(Fig. 6d)と考えられる像がみられ,膵組織の脂肪置換は認めず(Fig. 6e),膵体尾部低形成に合致する所見であった.膵癌取扱い規約(第8版)に沿って記載すると,infiltrative type,invasive ductal carcinoma,well differentiated,ypT3,ypN1b(No. 14d(3/8),No. 17(1/1)),int,INFb,ly0,v0,pn0,mpd0,pCH0,pDu0,pS0,pRP1,pPV0,pA0,pPL0,p000,pPCM0,pBCM0,pDPM0,R0,組織学的治療効果判定 Grade 1bであった.

術後経過:術後の蓄尿C-ペプチドは0.4 ng/ml(基準値:22.8~155.2)で,インスリンの分泌がなく,膵組織の残存なしと判断した.術後は,超速攻型のインスリンと持効型のインスリンを併用し強化インスリン療法にて糖尿病管理を行った.術後7日目の消化管透視検査で,造影剤の停滞を認め,胃内容排出遅延が疑われた.食事摂取量の回復が遅れ,糖尿病管理にやや難渋したが,術後22日目に退院した.術後2か月目の現在,術後補助化学療法を開始し,外来通院中である.
膵体尾部欠損症は,1911年Heinberg3)により報告され,本邦では1934年赤崎4)が剖検例を報告したのが最初である.膵体尾部欠損症とは,先天性と後天性の2種類に分けられ,さらに先天性のものは背側膵原基の完全欠損(副膵管が認められない)である膵体尾部形成不全症と,発達障害である膵体尾部低形成症(副膵管が認められる)が含まれる.後天性なものとしては膵小葉の萎縮,線維化を伴った広汎な膵脂肪置換のことを指し,成因としては膵血流障害,膵管閉塞などが報告されている5)6).
過去に膵体尾部欠損症として報告された症例の検証では,副乳頭が確認された低形成例と考えられる症例が,塩崎ら7)は51例中31例(60.8%),高崎ら8)は18例中14例(77.8%)に確認されたと報告している.また,高橋ら9)は,膵体尾部欠損症の報告例には膵欠損部の術中肉眼所見として脂肪置換されていた症例が29例中7例(24.1%)認められ,一部には脂肪組織内に膵組織の混在が確認されたと報告している.膵体尾部低形成例の報告例には,先天性の低形成例と後天性の脂肪置換例などの症例が含まれていると思われるが,臨床的に鑑別することは困難なことも多い.本症例では,術前の画像検査で膵体尾部は認められず,術後の病理検査では主乳頭,副乳頭の存在を認め,膵臓の脂肪置換は認めなかったことから先天性の膵体尾部低形成症と診断した.また,術後に測定した,24時間尿中C-ペプチドは0.4 μg/dayであり,インスリン分泌は欠如していると判断され,膵組織の遺残はなく膵全摘状態と判断された.
医学中央雑誌(1903~2023,11月,会議録は除く)の期間において,「膵体尾部欠損」または「膵,脂肪置換」をキーワードに検索しえた膵体尾部欠損症の中で,膵癌を合併し膵切除が可能であった本邦報告は,本症例を含めて12例認めた(Table 1)10)~20).また,PubMed(1903~2023,11月)で「dorsal agenesis」,「pancreatic cancer」をキーワードに検索したが,2011年にRittenhouseら21)が44例の膵体尾部欠損症の報告中,膵腫瘍の合併を3例認めたと報告しているのみで,詳細が記載されているものは認めなかった.検索しえた膵癌を合併した膵体尾部欠損症の中では,狭義の膵体部欠損症が3例,低形成が本症例を含め4例,後天的脂肪置換が疑われた症例が5例であった.膵癌の組織型が記載してあった症例のうち10例がinvasive ductal carcinoma,1例がmucinous carcinomaであった.
| No | Author | Year | Age | Gender | Cause of dorsal pancreatic agenesis | Operation (pancreatic anastomosis) | Combined resection of SMV, PV | Histology | Metastatic lymph node | Preoperative DM | Postoperative DM |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Matsusue10) | 1984 | 53 | F | Congenital | TP | None | Adenocarcinoma (N.D.) | N.D. | (+) | (+) |
| 2 | Fukada11) | 1991 | 54 | F | Hypoplasia | TP | None | Adenocarcinoma (mod) | N.D. | border | (+) |
| 3 | Yamamoto12) | 1992 | 67 | M | Acquired | PD; (+) | None | N.D. | N.D. | border | (–) |
| 4 | Furuichi13) | 1996 | 49 | M | Congenital | TP | None | Adenocarcinoma (mod) | n1(+) 13* | (+) | (+) |
| 5 | Kuroki14) | 1999 | 75 | F | Hypoplasia | PD; (+) | None | Adenocarcinoma (mod) | n1(+) N.D. | (–) | (–) |
| 6 | Nio15) | 2001 | 72 | F | Hypoplasia | PD; (–) | None | Mucinous carcinoma (muc) | n0 | (–) | (–) |
| 7 | Mori16) | 2003 | 49 | F | Acquired | PD; (–) | None | Adenocarcinoma (mod) | n0 | (–) | (–) |
| 8 | Toyama17) | 2004 | 68 | M | Acquired | PD; (–) | (+) (partial resection) | Adenocarcinoma (well) | n0 | (–) | (–) |
| 9 | Yamada18) | 2004 | 73 | F | Acquired | PD; (–) | None | Adenocarcinoma (well) | n1(+) 13* | (–) | (–) |
| 10 | Oki19) | 2013 | 65 | M | Congenital | TP | None | Adenocarcinoma (mod) | n0 | (+) | (+) |
| 11 | Ebihara20) | 2015 | 56 | F | Acquired | TP | None | Adenocarcinoma (mod) | n0 | (+) | (+) |
| 12 | Our case | 75 | F | Hypoplasia | TP | (+) | Adenocarcinoma (mod) | n1(+) 14,17* | (+) | (+) |
F, female; M, male; TP, total pancreatectomy; PD, pancreatoduodenectomy; N.D., not described.
*Number of metastatic lymph nodes based on the General Rules for the Study of Pancreatic Cancer (8th Edition)
本症例では,膵臓癌は左胃大網静脈と上前膵十二指腸静脈の合流部,第一空腸静脈合流部のSMVに浸潤が疑われ,SMV合併切除を要した.報告例の中ではSMVを完全に合併切除した症例は,今回の症例のみであった.腹側膵原基は膵頭部の後下部と鉤部を形成し,背側膵原基は頭部残りの前上部と体尾部を形成すると報告されており22),腹側膵原基に発生した腫瘍は膵頭部の下側に位置することからSMVへの浸潤や結腸間膜への浸潤が問題となる可能性が高く,手術において同領域の浸潤には注意が必要と思われる.
本症例では,CT画像上胃十二指腸動脈から膵頭部に至る上前膵十二指腸動脈が発達し,背側膵動脈や大膵動脈が確認されず,術中にも確認されなかった.膵体尾部低形成や脂肪置換症例では,膵体部の血流障害が関係している可能性も報告されている.膵臓癌を合併した12例では,血管分布に関して7例で血管造影が施行されており,狭義の膵体部欠損症,低形成,後天的脂肪置換のいずれにおいても,一般的に認められる脾動脈からの膵体尾部に分布する血管は認められなかったと報告されている(Table 2)10)~20).また,SMAと共通幹を形成した総肝動脈が膵実質内を走行していた症例や十二指腸前門脈,脾静脈欠損に伴う側副路の形成などの合併例の報告を認めた10)23)24).血管の破格が多い膵体尾部欠損症の手術では,術前から血管構築を十分把握して手術に臨むことが重要であり,また近年発達の著しいCT画像解析ソフトを用いた検討は,膵体尾部欠損症と膵周囲血管との関係の解明の一助となるかもしれない25).
| No | Author | Year | Angiography | DP | IPDA | GP | TP |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Matsusue10) | 1984 | (–) | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
| 2 | Fukada11) | 1991 | (–) | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
| 3 | Yamamoto12) | 1992 | (+) | (+) | N.D. | N.D. | N.D. |
| 4 | Furuichi13) | 1996 | (+) | N.D. | (–) | (–) | (–) |
| 5 | Kuroki14) | 1999 | (+) | (–) | N.D. | (–) | (–) |
| 6 | Nio15) | 2001 | (+) | (+) | (+) | (–) | (+) |
| 7 | Mori16) | 2003 | (+) | (–) | N.D. | N.D. | (–) |
| 8 | Toyama17) | 2004 | (+) | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
| 9 | Yamada18) | 2004 | (+) | (–) | N.D. | (–) | (–) |
| 10 | Oki19) | 2013 | (–) | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
| 11 | Ebihara20) | 2015 | (–) | N.D. | N.D. | N.D. | N.D. |
| 12 | Our case | (–) | (–) | (–) | (–) | (–) |
N.D., not described; DP, dorsal pancreatic artery; IPDA, inferior pancreaticoduodenal artery; GP, great pancreatic artery; TP, transverse pancreatic artery
腹側膵からのリンパ流は,十二指腸水平脚レベルまで降下したのちにSMAの背側から小腸間膜根部リンパ節群(SMA周囲リンパ節;No. 14)に合流すると報告されている26)27).腹側膵領域を主体とする膵体尾部欠損症では,SMA周囲リンパ節(No. 14)への転移が起きる危険性が高いことが予想されたが,No. 14リンパ節転移が陽性と診断された症例は今回の症例のみであった.実際,Imamuraら28)はuncinate prosess領域の膵頭部癌において,SMA周囲,十二指腸間膜領域のリンパ節転移をそれぞれ30%,17%に認め他の領域から発生する膵癌よりリンパ節転移の頻度が高いことを報告している.過去の報告でSMA沿いのNo. 14リンパ節転移の報告例が少ない理由として狭義の膵体尾部欠損症の割合が少ないこと,膵癌の主座や進行度の違いなどが考えられる.
2007年にGockelら29)がmesopancreas30)として提唱した膵頭部背側とSMA間にある神経・リンパ組織の概念は,膵頭部癌のR0切除の観点から重要視されている.また,2012年Kawabataら31)はSMA背側から左側の十二指腸から上部空腸間膜までを含む領域のリンパ節を切除する必要性からmesopancreasを発展させたmesopancreatoduodenumという用語を用いてその領域の切除の重要性を報告している.ただ,膵癌取扱い規約第8版ではその概念や解剖学的境界に関するコンセンサスが得られていないことからこれらの用語は採用されていない32).Honjoら33)は膵鈎部に連続する空腸静脈をduodenojejunal uncinate process veinと呼称し,十二指腸・上部空腸間膜切除に置いてランドマークとなることを報告している.今回の手術でもこの静脈を露出するように間膜切除を施行しSMA周りのリンパ節郭清を施行した(Fig. 5a~c).今後これらの切除領域が明確化され,術式の定型化によりこの領域へのリンパ節転移の頻度に関する検討がさらに,進むことが期待される33)~35).今後の症例の集積が必要である.
膵体尾部欠損症に合併した膵癌の切除術では,温存可能な膵組織を見極め膵体部領域の膵臓を温存した症例を6例認めた.膵管が再建された症例は2例で他の4例では膵管再建は行われていなかったが,全例術後に糖尿病の出現はなかったと報告されている.ただ,膵管再建を施行しなかった症例は長期には残存膵組織が萎縮し糖尿病へ進行した可能性もある.糖尿病を予防するために膵温存が可能であれば考慮すべきと考えるが,膵癌手術では根治性を損なうことがないよう,また残存膵の血流や膵管再建が可能かどうか慎重に見極め,術式を判断すべきと考える.
膵全摘後のインスリン治療に関しては,インスリン治療薬の発達とともに安定して管理が可能であり,今回の症例では,術後1日4回の血糖測定を行い,1型糖尿病に準じた超速攻型のインスリンと持効型のインスリンを併用する強化インスリン療で大きな問題なく対応可能であった.現在,患者さんの血糖値変動を観察できる機能をつけた持続皮下インスリン注入ポンプ(sensor-augmented pump)なども開発されており36),術前からの糖尿病内科医師と連携し術後の糖尿病対策を立てて手術に臨むことが重要である.
膵体尾部欠損症に合併した膵鉤部癌の1例を経験した.血管の破格が多い膵体尾部欠損症の手術では,術前から血管構築を十分把握すること,また解剖学的特徴からSMV足側への浸潤やSMA周囲のリンパ節転移に注意が必要で,手術は膵全摘術となる可能性も高く術後の糖尿病対策を立て手術に臨むことが重要と思われた.
利益相反:なし