The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Pathological Complete Response of Duodenal Cancer Following Neoadjuvant S-1/CDDP Chemotherapy: A Case Report
Akitaka SasakiYuichi NakasekoRyota IwaseTeruyuki UsubaMasaichi OgawaKazumasa KomineKen Eto
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2025 Volume 58 Issue 2 Pages 86-94

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Abstract

症例は66歳の男性で,下血,動悸を主訴に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査で十二指腸に2型病変を認め,十二指腸癌の診断で当科紹介となった.CTで12pリンパ節が下大静脈および門脈を圧排しており,治癒切除不能と判断した.通過障害も認めたため胃空腸バイパス術を施行し,その後化学療法としてS-1/CDDP療法を3コース行ったところ,原発巣,リンパ節とも著明に縮小し,バイパス術の4か月後に治癒切除目的で膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織診断で切除標本,12pリンパ節ともに悪性所見を認めず,組織学的完全奏効(pathological complete response;以下,pCRと略記)と診断した.本症例は術前化学療法が奏効しただけでなく,pCRを得たことから,リンパ節転移を伴う進行十二指腸癌に対しS-1/CDDP療法は有用な術前療法である可能性が示唆された.

Translated Abstract

A 66-year-old male presented to a local clinic with chief complaints of melena and palpitations. Upper gastrointestinal endoscopy revealed a type 2 lesion in the duodenum, and he was referred to our department with a diagnosis of duodenal cancer. CT imaging indicated that the 12p lymph nodes were compressing the inferior vena cava and the portal vein, initially suggesting that curative resection was not feasible. To address the obstruction, gastrojejunostomy was performed. The patient then underwent three courses of chemotherapy with S-1 and CDDP, resulting in substantial shrinkage of the primary tumor and the involved lymph nodes. Four months after bypass surgery, pancreatoduodenectomy was performed with curative intent. Pathological examination of the resected specimen, including the 12p lymph nodes, revealed no residual malignancy, showing a pathological complete response (pCR). The achievement of pCR in this case illustrates the effectiveness of neoadjuvant chemotherapy and suggests that S-1/CDDP may be a useful preoperative option for advanced duodenal cancer with lymph node metastasis.

 はじめに

原発性十二指腸癌はまれな疾患であるため,確立された治療法はなく,予後も不良と報告されている1)~3)

今回,我々は著明なリンパ節転移を伴う進行十二指腸癌に対してテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(以下,S-1と略記)/シスプラチン(以下,CDDPと略記)療法を施行することで治癒切除が可能となり,病理組織診断で組織学的完全奏効(pathological complete response;以下,pCRと略記)を認めた1例を経験したので報告する.

 症例

患者:66歳,男性

主訴:下血,動悸

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:下血,動悸を主訴に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部後壁に潰瘍性病変を認め,精査加療目的にて当院紹介となった.

初診時現症:身長158.0 cm.体重47 kg.BMI 18.83.眼瞼結膜に軽度貧血を認め,腹部は平坦,軟で,腫瘤を触知しなかった.

血液生化学所見:Hb 9.5 g/dlと貧血を認め,Alb 2.6 g/dl,Pre Albは未測定であった.腫瘍マーカーはCEA 2.9 ng/ml,CA19-9 25 U/mlと基準範囲内であった.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸球部後壁に1/2周性の2型病変を認めた(Fig. 1a).また,腫瘍による壁外性圧排を胃前庭部後壁に認め,幽門狭窄を来していた(Fig. 1b).生検の結果はadenocarcinoma(tub1)であった.

Fig. 1  Upper gastrointestinal endoscopy. a: Type 2 lesion in the posterior wall of the duodenal bulb. b: Pressure displacement in the gastric vestibule and pyloric stenosis due to the tumor.

腹部造影CT所見:十二指腸球部に不整な壁肥厚を認めた(Fig. 2a).また,bulkyな12pリンパ節の腫大と,下大静脈および門脈への圧排所見を認めた(Fig. 2b).以上より,幽門狭窄を伴う進行十二指腸癌と診断した.Bulkyなリンパ節転移を認め,下大静脈および門脈への浸潤が疑われたため腫瘍学的に治癒切除は困難と判断し,胃空腸バイパス術を施行した後,化学療法を行う方針とした.胃空腸吻合はBillroth II法でdevine変法を付加して行った.その際に腹水洗浄細胞診を施行し,Class IIであった.Cancer Boardでは化学療法をまず3コース行い,3か月後のCTにてリンパ節の変化を判断することとなった.化学療法はS-1/CDDP療法を選択し,S-1 80 mg/m2(Day 1~21),CDDP 60 mg/m2(Day 8),S-1休薬(Day 22~35)を1コースとし計3コース施行した.食事摂取は良好であり,体重は48.4 kgまで増加し,Albは3.7 g/dlまで改善した.

Fig. 2  Abdominal enhanced CT. a: Irregular thickening of the duodenal bulb wall and significant gastric dilation. b: Bulky 12p lymph nodes exerting pressure on the inferior vena cava and portal vein.

上部消化管内視鏡検査所見(化学療法後):原発巣は瘢痕化し,胃前庭部の圧排所見も消失した(Fig. 3a, b).同部位からの生検結果はGroup 1で悪性所見を認めなかった.

Fig. 3  Upper gastrointestinal endoscopy after chemotherapy. a: The primary lesion was reduced in size and scarred. No cancer cells were detected on biopsy. b: Disappearance of pyloric stenosis.

腹部造影CT所見(化学療法後):原発巣および12pリンパ節は著明に縮小し,下大静脈および門脈への圧排所見も消失した(Fig. 4).

Fig. 4  Abdominal enhanced CT after chemotherapy. a: Improvement of wall thickness in the duodenal bulb. b: Disappearance of pressure displacement on the inferior vena cava and portal vein by the 12p lymph node.

以上より,本人の全身状態は良好,効果判定のCTにて切除不能因子であった12pリンパ節は縮小し,門脈や下大静脈との境界はスムースとなっていた.RECIST:PRであり,3コース施行した時点で治癒切除可能と判断し,膵頭十二指腸切除術を予定した.12pリンパ節が門脈浸潤高度であった場合には門脈合併切除・再建を行うことを考慮した.

手術所見:まずは切除可能か判断することを優先した.Kocher授動を行い,背側の12pリンパ節は比較的容易に下大静脈および門脈から剥離可能であった.胃癌および膵癌に準じたD2リンパ節郭清(No. 1, 3, 4sb, 4d, 5, 6, 7, 8a, 8p, 9, 12a, 12b, 12p, 13a, 13b, 14p, 14d, 17a, 17b)を施行し,再建はchild変法(PD II-A-2),手術時間は6時間50分,出血は腹水込みで3,800 mlであった.輸血は術中に6単位投与し,周術期はそれ以外には輸血は行わなかった(Fig. 5).

Fig. 5  a: Preoperative schema. b: Intraoperative schema: There was neither dissemination nor liver metastasis. The stomach was sectioned with a surgical stapling device. c: Intraoperative schema: The afferent loop was sectioned with the surgical stapling device, the main artery around the pancreatic head was taped, and the lymph nodes were resected. d: Intraoperative schema (reconstruction).

切除標本肉眼所見:十二指腸球部後壁に1/2周性の瘢痕化した陥凹性病変がみられ,同部位の壁肥厚,硬化を認めた(Fig. 6).

Fig. 6  a: Photograph of the gross resected specimen. b: The specimen revealed a concave lesion with wall sclerosis in the duodenal bulb.

病理組織学的検査所見:瘢痕化を伴う浅い陥凹性病変および同部の壁肥厚,硬化を認めたため,原発巣は十二指腸側を中心として,幽門輪部に小彎側を除きほぼ全周性に拡がる病変を認めた(60×20 mm).組織的には粘膜下層から固有筋層にかけて線維化を認め,癌細胞は認めなかった(Fig. 7a, b).十二指腸筋層下・膵臓間の結合織内に繊維化巣を認めたが,明らかな膵浸潤の形跡や静脈侵襲の形跡は認めず,治療による腫瘍の消失・瘢痕化と考えられた.12pリンパ節も治療後の変化と思われるリンパ節小節の増生と線維化を認め,癌細胞は認めなかった(Fig. 7c, d).以上より,pCRと診断した.

Fig. 7  Histopathological findings for the primary lesion. a: Extensive fibrosis spanning from the submucosal to muscularis propria layers (HE ×40). b: Predominance of fibroblasts with no identified atypical cells (HE ×100). c: Enlarged lymph nodes and increased nodal hyperplasia (HE ×40). d: Absence of atypical cells (HE ×100).

術後経過:Grade Cの膵液瘻を認め,再手術および長期ドレナージ管理を要したが,肺炎は認めなかった.退院時には術前の48 kgまで戻り,筋力低下も認めず,術後88日目に軽快退院となった.その後,外来では食事摂取良好,体調良好で体重は50 kgまで増加,それを維持し続けていた.退院2週間後からS-1単剤による術後補助化学療法を1年間施行し,完結した.副作用もないため,本人と相談し,S-1内服を継続した.無再発生存中であったが,術後3年6か月後に交通外傷による頭蓋内出血で死亡となった.

 考察

原発性十二指腸癌は全消化管癌の0.12~0.3%とまれな疾患であり4),本邦の粗罹患率は人口100万人に23.4人と欧米に対して高いことが知られている5).部位別発生頻度は球部21%,下行脚53%,水平脚19%,上行脚7%と下行脚が約半数を占める6)7).早期癌では無症状のことが多いが,進行癌では閉塞,出血,黄疸などで発見されることが多いと報告されている6)8).5年生存率は17.5~38%,切除率は25~60%と報告され,非切除例の2年生存率は20%以下と予後不良である1)~3).菅原ら9)は予後因子として高分化腺癌,膵浸潤がない,リンパ節転移がない,静脈侵襲がない4項目を満たせば有意に予後は良好であると報告している.

本症例の術後から3年経った2021年8月に十二指腸癌診療ガイドラインが作成された10).治療法として,粘膜癌に対しては内視鏡治療が行われることが多く,粘膜下層以深の浸潤癌に対しては原則として外科的切除術,特にリンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除が推奨されている10)11).十二指腸癌に対する有効な術後補助化学療法は現時点では確立されておらず,ガイドラインでは術後補助化学療法を行わないことを弱く推奨するとされている.本症例も,初診時に粘膜下層以深の浸潤癌であり膵頭十二指腸切除を施行した.また,十二指腸癌診療ガイドライン作成前ということもあり,胃癌に準じて術後化学療法として,S-1を選択した.1年間の術後補助化学療法を完結した.副作用なくS-1内服を継続し,再発なく3年半経過したところで残念ながら他因死された.

十二指腸における腫瘍の局在によってリンパ節転移の好発部位が異なる可能性も報告されており12),現状リンパ節郭清の意義,至適郭清範囲に関する報告はない.そのため,切除範囲,リンパ節郭清の範囲,周術期を含めた化学療法のレジメンなどの治療方針は各々の経験や過去の症例報告を参考に決定されているのが現状である.球部の十二指腸癌の場合にも,まずは膵頭十二指腸切除術を検討するが,全身状態を考慮し,13番リンパ節郭清を伴う幽門側胃切除術も考慮される.

一方,切除不能例に関しては化学療法が第一選択となり,閉塞症状がある場合には消化管バイパス術を先行して行うこともある.十二指腸癌診療ガイドラインによると切除不能・再発十二指腸癌を含む小腸癌にフッ化ピリミジン,オキサリプラチンを用いた全身薬物療法を行うことが弱く推奨されている.今後統一した治療レジメンを用いてのRCTの実施が必要である.術後化学療法に関してもまだまだ議論の余地があり,JCOG1502Cの結果が待たれる.

本邦においては,十二指腸癌に対するS-1を用いた化学療法の有用性について医学中央雑誌で1903年から2023年8月の期間で「十二指腸癌」,「化学療法」,PubMedで1950年から2023年8月の期間で「duodenal carcinoma」,「chemotherapy」をキーワードとして検索した結果,自験例を合わせて10例の報告を認めた.石田ら13)は術後肝再発に対するS-1/Docetaxel併用療法で3年の長期生存を得たと報告し,大内ら14)は術後の腹膜播種再発に対してS-1単剤で再発後1年延命を得たと報告している.羽田野ら15)は術後リンパ節再発に対するS-1/CPT-11療法で画像上CRを得た症例を,松橋ら16)は同時性肝転移に対してS-1/CDDP療法を行い,3年の長期生存を得た症例をそれぞれ報告している.池内ら17)は切除不能の原発性十二指腸癌に対してS-1/L-OHPのSOX療法で腫瘍の縮小効果を認めた2症例を,横田ら18)は肝転移を伴う原発性十二指腸癌に対してSOX療法で腫瘍の縮小を認めた症例をそれぞれ報告している.一方,切除不能例に対し化学療法施行後に手術可能となった症例は,3例の報告がある.美馬ら19)は上腸間膜静脈と膵頭部への浸潤を伴う局所進行十二指腸癌に対してS-1/CDDP療法を行い,治癒切除を施行,術後12か月無再発生存中であると報告している.康ら20)は傍大動脈リンパ節転移を有する症例に対してS-1/CDDP療法を行い,奏効が得られた後に治癒切除を施行,腹膜転移を来し術後15か月で死亡した症例を報告している.江川ら21)はbulkyなリンパ節転移を伴う症例に対してそれぞれS-1/CDDP療法を行い,奏効が得られた後に治癒切除を施行,術後6か月無再発生存中であると報告している(Table 113)~21)

Table 1 Reported cases of duodenal carcinoma treated with chemotherapy

No. Author Year Case Chemotherapy The result after chemotherapy
1 Oouti14) 2005 Postoperative peritoneal metastasis S-1 12 months alive
2 Ishida13) 2007 Metachronous liver metastasis S-1/Docetaxel 36 months alive
3 Egawa21) 2008 Unresectable metastatic duodenal cancer with bulky lymph node metastasis S-1/CDDP Curative resection, 6 months alive after surgery with no recurrence
4 Yasu20) 2009 Unresectable metastatic duodenal cancer with para-aortic lymph node metastasis S-1/CDDP Curative resection, 15 months alive after surgery
5 Matsuhashi16) 2009 Simultaneous liver metastasis S-1/CDDP 36 months alive
6 Hadano15) 2011 Postoperative lymph node recurrence S-1/CPT-11 Complete Response on CT
7 Mima19) 2011 Unresectable locally advanced duodenal cancer S-1/CDDP Curative resection, 12 months alive after surgery with no recurrence
8 Yokota18) 2018 Simultaneous liver metastasis S-1/L-OHP Partial Response on CT
9 Ikeuti17) 2020 Unresectable locally advanced duodenal cancer S-1/L-OHP Partial Response on CT
10 Our case Unresectable metastatic duodenal cancer with bulky 12p lymph node metastasis S-1/CDDP Curative resection, 42 months alive after surgery with no recurrence

原発性十二指腸癌に対し化学療法施行後に根治切除を行い,pCRを得られた報告は我々が検索しえたかぎりでは本邦初で,かつ術後3年半の長期生存を得た.術後は再手術を行うなど合併症を認めたが,肺炎もなく,退院時には術前の48 kgまで戻り,筋力低下も認めなかった.その後外来では食事摂取良好,体調良好で,体重は50 kgまで増加し,それを維持し続けていた.本患者の他因死は交通外傷による頭蓋内出血であり,ADL低下もフレイルもないため,手術合併症とは無関係であると考えられた.

今後の症例の蓄積が必要であると考えられるが,術前S-1/CDDP療法がリンパ節転移を伴う進行十二指腸癌に対する治療戦略の一つになりうると考えられた.

利益相反:なし

 文献
 

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