The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
CASE REPORT
A Case of Granulocyte Colony Stimulating Factor-Producing Retroperitoneal Dedifferentiated Liposarcoma
Yasunobu KobayashiTeruyuki TakishimaYasuhiro TakanoHironori KannoShoko SonobeNobuyoshi HanyuKen Eto
Author information
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2025 Volume 58 Issue 3 Pages 162-168

Details
Abstract

顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony stimulating factor;以下,G-CSFと略記)産生能を持つ後腹膜脱分化型脂肪肉腫に関する報告は非常に少ない.症例は73歳の女性で,右側腹部に腫瘤を自覚し,近医から当院に紹介受診となった.腹部造影CTにて右腎周囲の後腹膜に脂肪と同濃度の25 cm大の腫瘤を認めた.腫瘍内部は一部に高吸収域が存在し,脂肪肉腫を疑った.血液検査では白血球数25,300/μlと好中球優位の増多を認め,血液培養陰性,プロカルシトニン値が正常であることからG-CSF産生腫瘍を疑った.手術は後腹膜腫瘍切除,結腸右半切除,右腎摘出,右副腎摘出術を行った.術後より白血球数は著明に減少して6日目には正常値となり,18日目で退院となった.外来にて術後3年無再発経過観察中である.今回,我々はまれなG-CSF産生後腹膜脱分化型脂肪肉腫を経験したため報告する.

Translated Abstract

There are few reports on granulocyte colony stimulating factor (G-CSF)-producing retroperitoneal dedifferentiated liposarcoma. A 73-year-old woman was referred to our hospital because she became aware of a mass in the right side of the abdomen. Contrast-enhanced CT revealed a 25-cm large mass with the same density as that of fat in the retroperitoneum around the right kidney. A high density area was present inside the tumor and liposarcoma was suspected. Blood tests revealed a predominantly neutrophilic leukocyte count of 25,300/μl, a negative blood culture, and a normal procalcitonin level, leading to diagnosis of a G-CSF-producing tumor. Resection of the retroperitoneal tumor, right hemicolectomy, right nephrectomy, and right adrenalectomy was performed as curative treatment. The white blood cell count decreased postoperatively and normalized on day 6, and the patient was discharged on day 18. She has since been under outpatient observation for 3 years without recurrence. We report this case as a rare example of G-CSF-producing retroperitoneal dedifferentiated liposarcoma.

 はじめに

脱分化型脂肪肉腫は転移,再発が多く予後不良とされる.有効な化学療法は少なく,可能な場合は外科的切除が治療の第一選択となる1)2).また,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony stimulating factor;以下,G-CSFと略記)産生能を持つ後腹膜脱分化型脂肪肉腫に関する報告は非常に少ない.今回,我々はG-CSF産生後腹膜脱分化型脂肪肉腫に対し多臓器合併切除を施行し,術後3年無再発生存を得た1例を経験したため報告する.

 症例

症例:73歳,女性

現病歴:2021年3月に右側腹部腫瘤を自覚し近医を受診した.精査加療目的に当科紹介受診となった.

初診時身体所見:意識清明,体温37.6°C.腹部は全体に軟であるが,右側腹部に20 cm大の弾性軟,可動性不良の腫瘤を触知した.圧痛,反跳痛,叩打痛は認めなかった.

初診時血液検査所見:血液一般検査:白血球数25,300/μl,好中球数21,300/μl,リンパ球数2,800/μl,単球数1,000/μl,好酸球数300/μl,好塩基球数100/μl,血液像:骨髄芽球0%,前骨髄球0%,骨髄球0%,後骨髄球0%,生化学検査:C-reactive protein(CRP)9.05 mg/dl,プロカルシトニン0.09 ng/ml

初診時胸腹部造影CT所見:右腎周囲の後腹膜に,内部に高吸収域が散在する脂肪濃度の腫瘤を認めた.上行結腸との境界が不明瞭であり,腫瘍浸潤が疑われた.遠隔転移は認めなかった(Fig. 1a~c).

Fig. 1  a–c: Contrast-enhanced CT revealed a tumor with fat density in the retroperitoneum around the right kidney. The tumor was a single mass lesion. The margin between the tumor and ascending colon was unclear. d, e: Abdominal MRI showed a retroperitoneal tumor with the same signal as fat on both T1- (d) and T2- (e) weighted images, with heterogeneous high signal areas in the interior.

腹部MRI所見:後腹膜腫瘍はT1,T2強調像ともに脂肪と同信号であり,内部に不均一に高信号を示す部位を認めた(Fig. 1d, e).

以上の画像検査所見より,臨床診断は後腹膜脱分化型脂肪肉腫とした.好中球優位の白血球増多は,腫瘍内部の感染壊死巣が原因であることも考えられた.しかし,抗菌薬非投与の状態で血液培養陰性,プロカルシトニン値が正常であることから,G-CSF産生腫瘍を疑った.G-CSF値の直接測定に関しては,結果が出るまでの期間が長いことと,測定値によって治療方法が変わることはないと判断し,行わなかった.

血液疾患の合併の有無に関しては,白血球分画にて芽球,骨髄球ともに複数回の血液検査で検出されず,急性白血病や慢性骨髄性白血病は否定的であった.

通常の脂肪肉腫に対する治療と同様に,腫瘍切除による根治的治療を行うこととした.腫瘍遺残なく手術を行うため,腫瘍浸潤または強固な癒着が予想される上行結腸,腫瘍に被包された右腎と右副腎を合併切除する方針とした.

手術所見:全身麻酔,仰臥位,上中腹部正中切開で開腹した.定型的な結腸右半切除術を行い,下大静脈,腸腰筋を露出するように腫瘍を剥離した.尾側は総腸骨動静脈を腫瘍切除の下限とし,尿管と性腺動静脈も同部位で切離した.頭側は横隔膜脚の高さまで腫瘍を一塊にして切除した.右腎動静脈は結紮切離し,右腎を合併切除した(Fig. 2).手術時間は7時間12分,出血は580 mlであった.

Fig. 2  The right renal artery and vein were dissected, and the tumor was resected using the inferior vena cava, iliopsoas muscle, common iliac artery, and diaphragm for demarcation.

病理組織学的検査所見:検体は26.0 cm×19.0 cm×9.5 cm,2,195 gであった.後腹膜腫瘍は23.0 cm×16.0 cm×10.0 cmであり,腎周囲を取り囲むように腫瘤を形成していたが腎臓との境界は明瞭であり,腎臓,副腎への浸潤は認めなかった.腸管に対しては盲腸から横行結腸の漿膜下層まで浸潤を認めたが,固有筋層への浸潤はなかった.組織学的検査においては,紡錘形,多稜形,多核巨細胞が混在し,多形性に富む異型細胞が増殖していた.核分裂像は13個/10HPFであった.好中球を含む炎症細胞浸潤を認め,広範に壊死を来していた.断端評価は熱変性により不明瞭な部分もあるが,明らかな腫瘍細胞の露出は認めなかった.腫瘍は高分化型脂肪肉腫と脱分化型脂肪肉腫が混在していた.免疫染色検査にてCDK4陽性,MDM2陽性,G-CSF陽性であり,G-CSF産生脱分化型脂肪肉腫と診断した.G-CSFは部分的に陽性であり,G-CSF陰性腫瘍細胞と形態学的な違いは認めなかった(Fig. 3).

Fig. 3  A pathological examination revealed proliferation of pleomorphic atypical cells and neutrophilic infiltrate, and was negative for the resection margin. Immunostaining was positive for CDK4, MDM2, and G-CSF. a: Overall view of the tumor. The grayish-white tumor was intermixed with yellowish areas. b: Well-differentiated liposarcoma and dedifferentiated liposarcoma, HE staining ×40. c: Well-differentiated liposarcoma, HE staining ×400. d: G-CSF-negative tumor cells, HE staining ×400. e: HE staining ×40. f: HE staining ×400. g: MDM2 immunostaining ×400. h: CDK4 immunostaining ×400. i: G-CSF immunostaining ×400.

術後経過:合併症は認めず,術後1日目より白血球数は著明に減少し,術後6日目に正常範囲内となった(Fig. 4).リハビリテーションに時間を要したものの,術後18日目に軽快退院となった.本症例は右腎摘出の影響でglomerular filtration rate(GFR)推定値が術後30 ml/min台まで低下した.また,変形性膝関節症の術後で術前より杖歩行であり,定期的な化学療法のための通院が困難で,患者本人も希望しなかったため術後補助化学療法は施行しなかった.その後も再発はなく,術後3年経過した現在も,外来で無再発経過観察中である.

Fig. 4  White blood cell count and neutrophil count gradually decreased after surgery and finally returned to normal levels.

 考察

後腹膜脂肪肉腫は希少な疾患であり,その頻度は全悪性腫瘍の0.2%と報告されている3).組織型は高分化型,粘液型,円形細胞型,多形型,脱分化型の5種に分類され,その中でも脱分化型の5年生存率は44%であり,5分類の中で最も悪性度が高いとされている4).一方,G-CSF産生腫瘍は肺癌や頭頸部癌に多いとされ,乳癌でも報告が散見される5)6).G-CSF産生腫瘍の診断基準は,感染症や血液疾患を伴わない著明な白血球数増多,G-CSF値の上昇,腫瘍切除による白血球数の減少,腫瘍内G-CSFの産生の証明とされている7)8).本症例においては,術前の白血球増多の原因が感染症は否定的であったことに加え,腫瘍切除により速やかに白血球数の減少を認めたこと,摘出検体の免疫染色検査で腫瘍内G-CSFが証明されたことが合致し,G-CSF産生後腹膜脱分化型脂肪肉腫と診断した.

一般にG-CSF産生腫瘍はG-CSF非産生の腫瘍より予後不良であるとされている.その理由として組織型が未分化や低分化型が多く,診断時に既に遠隔転移を来していることや,術後の転移再発までの期間が短いことが挙げられている9)10).さらに,G-CSF産生腫瘍においては発熱やC-reactive proteinの上昇を併発しており,これは腫瘍細胞がinterleukin(以下,ILと略記)-1やIL-6などの炎症性サイトカインも産生するためであると報告されている2)11).これら炎症性サイトカインは,骨格筋において蛋白質の異化亢進,合成低下をじゃっ起し,腫瘍関連の死亡や骨格筋萎縮を引き起こすとされ,このこともG-CSF産生腫が予後不良であることの一因となっている可能性がある12)

これまでのG-CSF産生脂肪肉腫における報告をPubMedにて「G-CSF」,「liposarcoma」をキーワードに検索すると1950年から2023年までの期間で5例,医学中央雑誌にて「G-CSF」,「脂肪肉腫」をキーワードに検索すると1903年から2023年の期間に2例の報告のみであり,非常にまれな疾患であることがわかった.本症例を含めた8例の解析では,年齢の中央値は70歳,男性5例,女性3例であった(Table 11)13)~18).後腹膜原発は本症例を含めて2例であり,他の原発部位は大腿が2例,上行結腸が1例,腸間膜が1例,腸腰筋が1例,上腕が1例であった.ほぼ全例で切除が行われ,うち5例が治癒切除であった.3例で化学療法が行われていた.生存期間中央値は7か月であり,2年以上の無再発生存は本症例のみであった.しかしながら,治癒切除のみの4例では2例で術後早期に再発,死亡しており,切除のみで治癒を得ることは難しい疾患であるといえる.一方,術後に化学療法を施行した報告は3例であった.3例とも病理組織学的に治癒切除を得た症例であったが,その内訳は,2例が早期に再発し緩和的化学療法として導入され,1例は術後補助化学療法として行われていた.術後早期に再発して緩和的化学療法を導入した2例は術後1年以内に死亡していたが,補助化学療法を施行した1例は術後1年の無再発生存と報告されていた.症例数が少ないため断定はできないが,この結果からは化学療法が有効であるともいいがたい.使用されたレジメンはpazopanib,doxorubicinであり,定められたレジメンはない.本症例は治癒切除のみで3年以上の生存が得られている稀有な症例ではあるが,化学療法レジメン含め治療法の確立のためのさらなる症例集積が望まれる.

Table 1 Reported cases of G-CSF-producing liposarcoma

No Author Year Age Sex Location Treatment for primary tumor Recurrence Treatment for recurrence Chemotherapy regimen Prognosis
1 Hisaoka13) 1997 69 male iliopsoas muscle curative resection local chemotherapy ND 5 months dead
2 Nakamura14) 1998 77 female mesentery curative resection 7 months alive
3 Sakamoto15) 2007 72 male upper arm non-curative resection lung 3 months dead
4 Hara16) 2011 63 male retroperitoneum non-curative resection ND 6 months dead
5 Kazama17) 2019 50 male ascending colon curative resection+adjuvant therapy doxorubicin 12 months alive
6 Kanzaki1) 2021 82 male thigh curative resection lung, brain chemotherapy pazopanib 9 months dead
7 Eizuru18) 2022 66 female thigh ND ND ND ND ND
8 Our case 73 female retroperitoneum curative resection 36 months alive

ND: not described.

利益相反:なし

 文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top