The Japanese Journal of Psychology
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Methodological Advancements
Validity of the Japanese McCloskey Executive Functions Scale (J-MEFS): Teacher-rated scale for elementary and junior high school students
Naoko NagoshiKazuhiro YamaguchiToshinori Ishikuma
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2025 Volume 96 Issue 1 Pages 11-21

Details
Translated Abstract

Using primarily normative data, this study examined the validity of the Japanese McCloskey Executive Functions Scale (J-MEFS), a teacher-rated scale for elementary and junior high school students, considering its evidence based internal structure and relationship to other variables. Confirmatory factor analysis for the group with no special educational needs (non-SEN; 556 males and 558 females) showed a good relative fit to the structure of the McCloskey model, which consists of two layers (self-regulation, self-realization/self-determination), nine clusters, and 36 subscales. Analysis of internal correlations and correlations with other variables showed that each layer measured a different aspect of executive function (EF). For the clusters and arenas of the second layer, internal correlation comparisons between the non-SEN (n = 556) and SEN (n = 111) male groups, as well as convergent and discriminative evidence consistent with previous research on non-SEN group (n = 1,114) academic judgment and problematic behavior in the SEN male small group, suggest that different EF aspects can be evaluated. This study discusses the evaluation of the SEN male's small growth with the J-MEFS and future issues.

実行機能(Executive Function: 以下,EFとする)は研究者によって様々に定義されているが,本研究では“Executive functions are directive capacities that are responsible for a person's ability to engage in purposeful, organized, strategic, self-regulated, goal-directed processing of perceptions, emotions, thoughts, and actions.(McCloskey et al., 2009, p.15)”(著者訳:EFとは,知覚,感情,思考,行動が,組織的,方略的に自己調整され,目標に向けて働くように方向づける能力である)を用いる。EFはその時点や将来の適応の予測指標であり(Robson et al., 2020),日本においても,生徒指導で児童生徒(以下,児とする)の自己指導能力の育成(文部科学省,2022a)を行うことが教師に求められる等,EFと類似した目標志向的なセルフコントロールが重視されている。「近年,EFは基礎研究のみならず,発達支援の対象として世界中で注目を集めて(森口,2021, p.44)」おり,EFを使う目的や利点を教え,メタ認知的省察を促すことの有用性(Zelazo & Carlson, 2020)等が示されている。

EFの認知的側面に3構成要素(抑制,認知的柔軟性,更新(Working Memory: 以下,WMとする))を想定するMiyake et al.(2000)のモデルは,発達障害研究にも適用されている。対象者に小学生を含むメタ分析研究によれば,自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)(Demetriou et al., 2018)と学習障害(Learning Disabilities: LD)の1つであるディスレクシア(Lonergan et al., 2019)は3構成要素全て,注意欠如多動症(Attention Deficit Hyperactivity Disorder: ADHD)は抑制とWM(Pievsky & McGrath, 2018)が定型発達群を下回った。また,平均11.7歳から10年間の縦断研究(Fossum et al., 2021)では,ADHD群とASD群のWM発達に差はあるが,共にEF困難が持続していた。日本においても,発達障害に特徴的な困難を示すと担任が評価した小中学生は通常の学級(以下,通常級とする)の8.8%に上り(文部科学省,2022b),これらの特別な教育的ニーズ(Special Educational Needs: 以下,SENとする)児へのEF支援の要請は高いと考える。

支援には実態把握が必要である。EFの代表的な測定法は,EFを要する課題に取り組ませる課題型と教師等による報告型である(Soto et al., 2020; Zelazo et al., 2016)。課題型の多くはEF障害の検出を目的とし,EFの発達的変化の把握に最適ではない(Zelazo et al., 2016)。また,課題型と報告型の関連は弱く(Soto et al., 2020; Toplak et al., 2013),構造化された場面における遂行を評価する課題型よりも,報告型の方が生態学的妥当性は高いとされる(Demetriou et al., 2018; Toplak et al., 2013)。支援を想定した場合,支援の必要性や領域選定の根拠となるEF困難の同定に加え,支援方略に繋がるEFの強みや発達状況も把握できる測定法が必要である。強み・弱み双方の理解と自尊感情向上を重視した本人への検査結果のフィードバック(熊上,2023)の観点からも,強みと困難を同定できることが望ましい。さらに,EFの発達や働きに影響する文化等の考慮の必要性も指摘される(Munakata & Michaelson, 2021)。しかし,これらの要件を備え,日本の学校で利用できるEF測定法は十分に整備されていない。

McCloskeyモデルを用いたEF測定法

McCloskeyの理論と尺度 5―18歳向けのマクロスキー実行機能尺度(McCloskey Executive Functions Scale: 以下,MEFSとする;McCloskey, 2016)は,EFの発達に焦点を当て,EFが効果的に働く様子を評価し,EFの困難に加え,強みも同定する点に特徴がある。MEFSのEFは単一の一般的な認知能力ではなく,多次元的で協働的に機能する複数の認知能力の集合体であり,EFの働きである実行コントロールは幅広い理論と実践に由来する多層包括的モデル(以下,McCloskeyモデルとする)(McCloskey, 2020バーンズ・名越訳2020; McCloskey et al., 2009; McCloskey & Perkins, 2013)(Figure 1)で説明される。第1層の神経細胞の活性化,第2層のその時々の自己調整,第3層の自他の気づき(自己認識)や長期の目標や計画(自己決断),第4層の道徳・倫理の考慮(自己発展),第5層の全ての存在と繋がる意識(超自我統合)は関連しあい,目標志向的調整を支えている。

Figure 1

McCloskeyの包括的実行コントロールモデル

注)McCloskey(2020 バーンズ亀山・名越訳 2020)の図1(p.114)を著者の許可を得て改変した。( )内はJ-MEFSの項目数を示す。

MEFSの測定範囲は第2,3層である。第2層自己調整は,その時々の状況に応じて,知覚,感情,思考,行動の4領域の機能に合図を送り,文脈に応じた働きを促すEFであり,33構成要素が31下位スケールとして位置づけられ,理論および臨床的使いやすさの観点から注意,取り組み,最適化,効率化,記憶,見立て,解決の7グループにまとめられる。第3層自己認識・自己決断の5構成要素は,自己認識と自己決断の2グループを構成する。McCloskeyはこれらのグループをクラスタ(電子付録Table S2)と呼んでいる(McCloskey, 2016, p.4; McCloskey, 2020, p.105; McCloskey & Perkins, 2013, pp.23-26)。クラスタおよび第2層自己調整の文脈はT得点(原版のみ)(名越他,2024)とパーセンタイル順位,下位スケールは累積パーセンタイル範囲が算出される。

BRIEFとの関連と支援への活用 McCloskey(2016)は同じ教師評定法として普及しているBehavior Rating Inventory of Executive Function(以下,BRIEFとする;Gioia et al., 2000)との関連を報告している。日本のBRIEF研究(例えば,永谷他,2022)でも用いられた初版の構造は,3下位尺度(抑制,シフト,情動制御)から成る行動調整指標(Behavioral Regulation Index: 以下,BRIとする),5下位尺度(開始,WM,計画/組織,整理,モニタ)から成るメタ認知指標(Metacognition Index: 以下,MIとする),2指標に基づく合成得点(Global Executive Composite: 以下,GECとする)である。高得点ほどEFの問題が大きいことを意味し,カットオフ値以上は特別な配慮等の提供の根拠となる。BRIEFとEFがうまく働くほど高得点になるMEFSは負の相関関係にあり,MEFS第2層との相関は,GEC(r=‒.76―‒.49),MI(r=‒.61―‒.47),BRI(r=‒.73―‒.28)であった。類似の構成概念の関連は,BRIEF抑制下位スケールと抑制を含むMEFS取り組みクラスタr=‒.71のように強い。MEFS第3層とBRIEFに有意な相関はなかった。両者の相関分析は各々が類似性と独自性を持ち,類似要素の結果の一致は解釈の裏付け,独自要素は追加情報となることを示している。

評価後の介入にはMEFSの情報が役立つ。第2層自己調整では自主性と頻度を組み合わせた評定により,その項目で測定するEFの働かせ方の発達段階とそれに応じた指針が提示される。また,EFがうまく働く様子の評価は本人に受け入れられやすく,第3層自己認識等の育ちを考慮すれば,フィードバックを適切に行える。理論に即した介入方略(McCloskey et al., 2009)も利用できる。

臨床群研究 MEFSの臨床群研究(McCloskey, 2016)は,層,クラスタ,文脈に,障害種に特異的な特徴が表れることを示唆している。ASD群とLD群の第2層自己調整のEFは先行研究(例えば,Demetriou et al., 2018)同様に全体的に低く,対人関係困難を特徴とするASD群は学習文脈が対人文脈よりも高く,学習困難を主症状とするLD群は逆の傾向を示し,特に学習文脈の記憶クラスタが低かった。また,第3層自己認識・自己決断は,ASD群で定型発達群より低く,LD群は同程度であった。これらは群の特徴であり,個人差に留意すべきだが,ASD児は学習文脈における自己調整方略を足がかりに対人文脈を支援し,自己認識・自己決断の育ちが順調なLD児は目標への方向づけと内的コントロール方略(McCloskey et al., 2009)を用いるという強みを生かした介入が考えられる。

他のEFモデルとの関連 実行コントロールの基盤である第2層自己調整と他のEFモデルの関連を見ていく。情動的な状況で作用するHotなEFとニュートラルな状況で働くCoolなEF(Zelazo & Carlson, 2012; Zelazo & Müller, 2002)は,関与する神経ネットワークは異なるが,いずれも実生活の問題解決時に働き,前頭前野に依存し(Zelazo et al., 2016),動機づけや感情の制御の必要度の異なる連続したものとされる(Zelazo & Carlson, 2020)。MEFS第2層自己調整は,日常の学習,対人文脈における自己調整の働きが反映された行動を評価対象としている。Zelazo & Carlson(2012, p.356)はHotとCoolなEFについて「通常,より一般的な適応機能の一部として,一緒に機能する」と述べており,第2層で測る日常場面でのEFには,HotとCoolなEFの両方が含まれると推定される。また,取り組みクラスタは学校での勉強や他者との関わりにおける衝動的な反応の抑制,柔軟な切り替え,記憶クラスタは情報の保持・操作等の自己調整を含み,Miyake et al.(2000)の3構成要素と関わりがあると思われる。この3構成要素は一般的にCoolなEFとして課題型で測定され,学力と正の相関関係がある(例えば,Soto et al., 2020)。McCloskey(2016)は教師判断による学力水準が高いほどMEFSクラスタ得点が高いと報告した。

第3層自己決断クラスタは,長期の目標や計画を立てる際に働くEFである。目の前の報酬への衝動を抑え,より大きな報酬を優先することの利点を認識している必要があり(McCloskey, 2016),HotなEFの作用が前提となっている。ただし,MEFS第3層の評価対象は目標や計画への意識を反映した発言の頻度であり,満足遅延行動ではない。したがって,HotなEFの低下との関連が指摘される(Zelazo et al., 2016)対人関係や情緒的行動の問題と第3層との関連は,あっても弱いと予想される。

J-MEFS研究 名越他(2024)は小中学生用教師評定日本語版MEFS(Japanese MEFS: 以下,J-MEFSとする)を開発し,標準化とそのデータの記述統計特性の検討を行った。MEFS同様にJ-MEFSの妥当性はStandards for Educational and Psychological Testing(以下,Standardsとする;American Educational Research Association et al., 2014)の枠組みで検証している。内容および回答プロセスの側面は,MEFSの開発において精査されており,翻訳版であるJ-MEFSの開発過程でも同様の手順を踏みながら日本文化適合を図った(名越他,2024)。しかし,翻訳尺度の使用で重要となる内的構造や他の変数との関係の側面の妥当性は未検討である。

本研究の目的

本研究では,Standardsの内的構造および他の変数との関係の側面からJ-MEFSの妥当性を検証することを目的とした。初めてのMcCloskeyモデル準拠の日本語版尺度であることに鑑み,ノルムサンプルを用いた。まず,構造的側面として,(a)確認的因子分析,(b)クラスタ間・文脈間相関により,EFを単一の一般的な認知能力ではなく,多次元的で協働的に機能する複数の認知能力の集合体であるとするMcCloskeyモデルに即した構造を仮定できるかを検討する。次に,EF以外の変数との関係の側面について,(c)学力,(d)問題行動,(e)SENの有無との間で理論上予想される関連パタンを検討する。伝統的に信頼性とされてきたものも妥当性の証拠になる(平井,2006)とされるようになっていることを受け,(f)評定の安定性も検討する。具体的な分析方針は後述する。

方法

調査対象者および手続き

倫理的配慮 本研究は,埼玉大学倫理委員会の承認を受けた(承認番号H28-E-18)。学校への調査は,校長会や教育委員会の許可を得た。調査1は,調査対象校長から書面による研究参加への同意を得た後,回答する教師に書面で説明を行い,無記名・任意で回答を求め,提出をもって同意とみなした。調査2は,著者から説明を受けた協力者を介して,学校や機関の長,回答に当たる教師,対象児とその保護者に説明を行い,書面で同意を得るとともに,保護者に任意で診断名の提供を依頼した。教師の負担に配慮し,J-MEFSの全調査において1教師1児回答とした。

データ収集 本研究のデータは2つの調査で収集された。調査1はJ-MEFSの標準化調査(名越他,2024)であり,2019年6月―12月,東日本4都県630校,西日本1県15校の公立小中学校で,通常級,特別支援学級(以下,支援級とする),通級指導教室(以下,通級とする)の教師を対象に,通常級は学年・性別・出席番号,それ以外は学年で指定した1児について回答を依頼した。回答した1,396名(回収率44.6%)の教師の地域に偏りがあったが,全体の78.8%を占めるX県と他地域のデータについて,児の属性(特別支援教育の利用,教師による学力判断等)およびJ-MEFSのクラスタ得点に統計的な有意差はなかった。最終的に通常級在籍のノルムサンプル1,166名(SENなし1,114,SENあり52)とノルム以外の45名(SENあり),計1,211名のデータを本研究に用いた。

調査2は2019年12月―2020年3月に東日本1県1都の公立小中学校7校の発達障害等通級,自閉症・情緒障害支援級と1専門機関に実施した。EF困難があると思われるSEN児1名について2つの検査(J-MEFSを2回,または,J-MEFSと問題行動評定)の回答を依頼し,それぞれ13名,12名,計25名から協力を得た(各平均回答間隔は13.85日(SD=4.72); 13.75日(SD=6.58))。J-MEFSと問題行動評定のカウンターバランスをとるため,回答順序が書かれた個別封筒に入れて質問紙を配布し,1つ目の回答後に封をし,2週間後に2つ目の回答を依頼した。

本研究に用いた1,236名(通常級1,228,支援級8)の地域,回答者の内訳はTable S1-1,S1-2に示した。

群の設定 非SEN群は通常級在籍の支援を受けていない1,114名(男:低学年120,中学年129,高学年139,中学生168,計556;女:低学年125,中学年129,高学年143,中学生161,計558)である。SEN群は支援を受けている児である。J-MEFSの標準化において性差が確認され,SEN群の女子データが少なかったため,罹患率の性差を考慮して男子のみの臨床群を設けた永谷他(2022)も参考に,男子に一定化し,性別要因を統制した。その結果,SEN群男は122名(低学年37,中学年48,高学年20,中学生17)となり,在籍学級は通常級114名(通級利用72名,通級以外の校内外支援利用42名,通級と通級以外の併用は通級に分類),支援級8名であった。非SEN群男との比較は,通常級における様子に基づいて行うため,支援級担任と専門機関指導者による回答を除く111名(低学年34,中学年46,⾼学年17,中学生14)を用いた。SEN群男は上位学年の人数が少なく,非SEN群男の学年段階の比率と異なるが,サンプルサイズを考慮し,本研究では群全体を比較した。

目的(a),(b),(c)の検討には非SEN群男女,(e)にはSEN群男と非SEN群男,(d),(f)には少数のSEN群男(各12名,13名)を用いた(Table S1-3)。

測定内容

J-MEFS 第2層自己調整76項目,第3層自己認識・自己決断14項目,回答の一貫性を見る4項目,計94項目である(項目概要はTable S2を参照)。第2層は6件法(6: いつも―ほとんど自分からできる,5: たいてい自分からできる,4: たまに自分からできる,3: 自分からはしないが,促されればできる,2: 自分からはしないが,直接的に援助されればできる,1: 自分からはしないし,直接的に援助されてもできない),第3層は4件法(4: 非常に多い,3: 多い,2: 時々あるが多くない,1: めったにない―全くない)で回答を求め,評定段階を項目得点とし,合計をクラスタ得点とした。

学力判断を含む基本情報 75研究をメタ分析したSüdkamp et al.(2012)によると,教師の学力判断と標準学力検査の相関はr=.63と強い。基準値のあるAcademic Performance Rating Scale(以下,APRSとする;DuPaul et al., 1991)に始まり,対象(学力全体,教科等),回答法(得点予測,段階評定等),得点化(単項目,複数項目平均)等の様々な判断法があるが,学力検査内容との近接性と情報に基づくことのみが,判断の正確性に影響した。この研究で未検討の教師の個人特性の影響に留意すべきだが,1項目の学力判断は教師の負担を抑えて収集できる学力を示唆する情報になると考え,全体的な学力レベルの判断を5件法(5: 非常に高い,4: 高い,3: 平均,2: 低い,1: 非常に低い)で求め,得点とした。学年,性別,在籍級,利用支援,行動特性(不注意や多動・衝動性,対人関係やこだわりの困難が見られる程度),児との関係,接触期間,学校等所在地等の回答も求めた。

問題行動評定 十分な内的整合性とLDの判別力が確認されているLDI-R(LD判断のための調査票)(上野他,2009)の「行動」(注意力の問題や衝動性)と「社会性」(集団行動や対人葛藤場面行動等のスキルの問題)各12項目を用いた。集中力のなさ等に関する4件法(1: ない,2: まれにある,3: ときどきある,4: よくある)の回答の評定段階を項目粗点とし,領域粗点合計点を算出した。

分析方法

仮説 内的構造の側面の検討では,第1に,(a)確認的因子分析(最尤法推定)を層ごとに行った。McCloskeyモデルにあたる(A)多因子(相関あり)モデルは複数因子(McCloskeyモデルのクラスタを指す)が相互に関連し,各因子に構成要素が負荷する。第2層の場合,相互に関連する注意,取り組み,最適化,効率化,記憶,見立て,解決の7クラスタに2―7ずつ構成要素が負荷する。一般EF因子に全構成要素が直接負荷する(C)1因子モデルやこれらの中間である(B)多因子(相関なし)モデル(一般EF因子の下にある独立した複数因子に構成要素が負荷)よりも(A)モデルの適合が良いと予想した。第2に,(b)クラスタ間相関を分析し,各層は関連を持ちながらも異なる側面のEFを表すというMcCloskeyモデルに基づき,同じ層内のクラスタ間には,異なる層のクラスタ間よりも強い正の相関があると考えた。MEFS(ノルムサンプル全体)では,同層内に中程度―強い,異層間に弱い―中程度の相関が報告されている。

他の変数との関係の検討では,第1に,(c)教師による学力判断と第2層自己調整との間に,先行研究(例えば,Soto et al., 2020)と同程度に中程度の相関があり(収束的証拠),対人文脈よりも学習文脈との関連が強い(弁別的,収束的証拠)と予想した。第2に,先行研究(Gioia et al., 2015; Jarratt et al., 2005)同様,(d)教師評定による外在化問題行動との間に中程度―強い関連があり(収束的証拠),HotなEFと対人的な問題との関連(Zelazo et al., 2016)を踏まえ,第2層の学習文脈よりも対人文脈に強く関連すると考えた(弁別的,収束的証拠)。第3は,(e)SENの有無の比較であり,EFが低い(例えば,Demetriou et al., 2018)発達障害児を多く含むSEN群男のクラスタ得点は,非SEN群男を下回り,ノルムサンプルで見られた天井効果はSEN群男には見られないと予想した。また,今後の臨床群研究や臨床適用への示唆を得るため,SEN群男の内部相関および他の尺度との関連も分析することにした。

最後に,(f)評定の安定性に関して,再検査法信頼係数がMEFS同様に十分に高いと予想した。

統計手法 IBM SPSS StatisticsのBase 26,Advanced 29,Amos29で統計解析を行った。非SEN群はKolmogorov-Smirnov検定,小規模のSEN群男はShapiro-Wilk検定により複数のクラスタで正規分布とは言えないことが確認されたため(p<.05),ノンバラメトリック検定を用いた。

結果

内的構造の側面からの検討結果

確認的因子分析 非SEN群1,114名で確認的因子分析を行い,3モデルの適合度を比較した(Table 1)。予想通り,第2,3層のいずれにおいても,一般EF因子に全構成要素が直接負荷する(C)1因子モデルや一般EF因子の下に独立した因子があり,各因子に複数の構成要素が負荷する(B)多因子モデル(相関なし)に比べて,(A)多因子(相関あり)モデルの適合が良かった(第2層:χ2(413)=3660.11, CFI=.930, RMSEA=.084(90%CI=[.082, .087]),AIC=3826.11; 第3層:χ2(4)=49.26, CFI=.990, RMSEA=.101(90%CI=[.077, .127]),AIC=71.26)。推奨基準(CFIは.90以上,RMSEAは.05以下)(豊田,2003)と比べ,第2層自己調整の(A)モデルのCFI=.93は.90を超え,RMSEAの点推定値は .050を上回り,90%CI[.082, .087]はやや低いものの,.10を上回っておらず極端に悪いとは言えない。また,AICは3モデルの中では(A)モデルが最小であった。第3層自己認識・自己決断においても,CFIとAICの値は良好であった。(A)モデルのRMSEAは.101(90%CI[.077, .127])であり,推奨される値ではなかったが,90%CIが.10を含んでおり,自由度が小さいとRMSEAが高くなりやすい(Kenny et al., 2015)ことから,極端に悪いわけではないと思われた。以上の結果から,McCloskeyモデルである(A)モデルの適合が相対的によいと判断した。

Table 1

確認的因子分析による3モデルの適合度

注)(A)モデルがMcCloskeyモデルにあたる。標準化係数と因子間相関係数は,Table S3-1-2,S3-1-3,S3-1-5,S3-1-6に示した。
第2層のモデル df χ2 CFI RMSEA [90%CI] AIC
(A)多因子,相関有 413 3660.11 .930 .084 [.082, .087] 3826.11
(B)多因子,相関無 427 4668.81 .909 .095 [.092, .097] 4826.81
(C)1因子 434 8558.90 .826 .130 [.127, .132] 8682.90
第3層のモデル df χ2 CFI RMSEA [90%CI] AIC
(A)多因子,相関有 4 49.26 .990 .101 [.077, .127] 71.26
(B)多因子,相関無 5 731.01 .847 .361 [.339, .384] 751.01
(C)1因子 5 299.10 .938 .230 [.208, .252] 319.10

クラスタ間・文脈間の関連 非SEN群男において,同層のクラスタ間は強い正の相関(ρ=.75―.93, p<.001, 95%CI[.71―.91, .79―.94]),異なる層のクラスタ間は弱い―中程度の相関(ρ=.22―.51, p<.001, 95%CI[.14―.44, .30―.57])を示した(Table 2)。非SEN群女(同層:ρ=.66―.90;異層:ρ=.19―.55(Table S3-2-1)),およびMEFSのノルムサンプル全体(同層:r=.67―.93; 異層:r=.32―.55(McCloskey, 2016))においても同層と異層のクラスタ間相関は同様の傾向を示した。

Table 2

J-MEFSクラスタ得点間の順位相関係数(ρ)

クラスタ 1 2 3 4 5 6 7 8 9
注)第2層は自己調整,第3層は自己認識・自己決断である。左下は非SEN群男(556名),右上はSEN群男(111名)の結果である。95%CIはTable S3-2-2に示した。
*p<.05,**p<.01,***p<.001
第2層 1 注意 .77 *** .80 *** .70 *** .44 *** .64 *** .59 *** .20 * .24 **
2 取り組み .85 *** .88 *** .66 *** .38 *** .61 *** .56 *** .08 .17
3 最適化 .84 *** .92 *** .72 *** .44 *** .72 *** .63 *** .13 .20 *
4 効率化 .83 *** .84 *** .87 *** .63 *** .82 *** .78 *** .22 * .34 ***
5 記憶 .76 *** .77 *** .78 *** .85 *** .61 *** .57 *** .21 * .15
6 見立て .81 *** .82 *** .88 *** .92 *** .85 *** .79 *** .38 *** .42 ***
7 解決 .76 *** .75 *** .82 *** .89 *** .81 *** .93 *** .30 ** .45 ***
第3層 8 自己認識 .28 *** .22 *** .28 *** .37 *** .33 *** .39 *** .40 *** .70 **
9 自己決断 .40 *** .36 *** .42 *** .47 *** .41 *** .50 *** .51 *** .76 ***

また,第2層自己調整の文脈得点間には,非SEN群男女共に強い正の相関が見られた(男:ρ=.80―.92, p<.001, 95%CI[.77―.90, .83―.93]; 女:ρ=.74―.89, p<.001, 95%CI[.70―.87, .77―.90](Table S3-2-3))。

他の変数との関係の側面からの検討

教師による学力判断との関連 学力判断に欠測のある12名を除いて分析した。非SEN群男女ともに,クラスタ得点と学力判断の間には,正の有意な(p<.001)順位相関が認められた(Table 3)。第2層では,非SEN群男は中程度(ρ=.50―.60, 95%CI[.43―.55, .56―.66]),非SEN群女は弱い―中程度(ρ = .36―.49, 95 %CI[.29―.42, .43―.55]),非SEN群全体(Table S4-1)は臨床群の教師評定法によるEFと学力の相関(r=.50)(Soto et al., 2020)と同程度だった。また,対人文脈の95%CIの上限値は学習文脈の下限値と同程度か小さく,学習文脈により強く関連することを示した。第3層は男女ともに第2層よりも弱いρ=.25前後の関連であった。

Table 3

学力判断とJ-MEFSクラスタ得点間の順位相関係数(ρ)

クラスタ文脈 非SEN群男
(548名)
非SEN群女
(554名)
ρ 95%CI ρ 95%CI
注)第2層は自己調整,第3層は自己認識・自己決断である。ρは全て有意であった(p<.001)。
第2層 注意 .55 [.49, .61] .42 [.35, .49]
自己調整 学習 .62 [.57, .67] .50 [.43, .56]
対人 .43 [.36, .50] .30 [.22, .38]
取り組み .50 [.43, .56] .36 [.29, .43]
学習 .56 [.50, .62] .43 [.36, .50]
対人 .43 [.36, .50] .28 [.20, .36]
最適化 .52 [.46, .58] .41 [.34, .48]
学習 .59 [.53, .64] .51 [.45, .58]
対人 .45 [.38, .52] .30 [.22, .38]
効率化 .60 [.54, .65] .49 [.42, .55]
学習 .63 [.57, .68] .51 [.45, .57]
対人 .52 [.46, .58] .41 [.35, .48]
記憶 .59 [.53, .64] .44 [.36, .50]
学習 .61 [.56, .66] .49 [.42, .55]
対人 .56 [.49, .61] .38 [.30, .45]
見立て .58 [.52, .64] .46 [.39, .53]
学習 .64 [.58, .68] .52 [.46, .58]
対人 .51 [.44, .57] .37 [.30, .45]
解決 .60 [.55, .66] .45 [.38, .52]
学習 .64 [.59, .69] .51 [.45, .57]
対人 .53 [.46, .59] .37 [.29, .44]
第3層 自己認識 .25 [.17, .33] .22 [.14, .30]
自己認識・自己決断 自己決断 .28 [.19, .35] .27 [.19, .35]

教師による問題行動評定との関連 小人数(SEN群12名)であるため,相関(ρ)(Table S4-2)の95%CIに中程度の関連の目安となる絶対値.40以上を含むことを確認した。LDI-R「行動」では,対人文脈の注意,取り組み,最適化,効率化の4クラスタ(ρ=‒.89―‒.85, p<.001, 95%CI[‒.97―‒.96, ‒.63―‒.52]),学習文脈の注意(ρ=‒.82, p=.001, 95%CI[‒.95, ‒.46]),LDI-R「社会性」では,対人文脈の注意と見立ての2クラスタ(ρ=‒.83―‒.81, p≦.001, 95%CI[‒.95, ‒.47―‒.43])が該当した。負の中程度以上の相関が主に対人文脈のクラスタに認められ,予測と一致した。なお,第2層に比べて第3層クラスタとは関連が弱く,統計的に有意な関連はなかった。

SENの有無との関連 学年段階ごとに非SEN群男とSEN群男のクラスタ得点に対してMann-WhitneyのU検定を行った結果(Table 4),第2層自己調整の全クラスタでSEN群男が有意に低く(p≦.001),効果量(低学年の7クラスタでr=−.30以下,中学年の4クラスタでr=−.40以下)は低中学年の群間差の大きさを示唆した。第3層は低学年の自己決断,中学年と中学生の自己認識と自己決断で群間差が見られた(p=.001―.024)が効果量は小さかった(r=−.17―−.21)。MEFSにおいてもLD群とADHD群は第2層自己調整の複数のクラスタで一般群を有意に下回ったが,第3層の自己認識クラスタに有意差はなかった(McCloskey, 2016)。

Table 4

SEN群男と非SEN群男のJ-MEFSクラスタ得点

Med IQR Med IQR p a
注)第2層は自己調整,第3層は自己認識・自己決断である。Med は中央値,IQRは四分位範囲を示す。p値,効果量rは,Table S4-3に示した。
aMann -WhitneyのU検定の結果を示す。
*p<.05,**p<.01,***p<.001
低学年 非SEN群男(120名) SEN群男(34名)
第2層 注意 28.0 7.0 22.0 10.3 ***
取り組み 89.5 24.0 68.5 27.0 ***
最適化 56.0 19.8 41.5 19.3 ***
効率化 52.5 18.5 38.5 19.3 ***
記憶 28.0 8.0 22.0 9.0 ***
見立て 41.5 15.0 27.0 15.0 ***
解決 46.0 17.0 31.5 13.8 ***
第3層 自己認識 16.0 9.0 15.0 7.5
自己決断 8.0 3.0 6.0 3.0 *
中学年 非SEN群男(129名) SEN群男(46名)
第2層 注意 28.0 9.0 22.0 8.3 ***
取り組み 89.0 23.5 66.0 29.5 ***
最適化 57.0 19.0 39.0 18.3 ***
効率化 55.0 19.0 38.0 20.0 ***
記憶 29.0 8.5 24.0 11.0 **
見立て 44.0 15.0 30.0 11.5 ***
解決 49.0 21.0 34.0 11.3 ***
第3層 自己認識 20.0 9.0 15.5 7.3 **
自己決断 8.0 4.0 6.0 2.0 *
高学年 非SEN群男(139名) SEN群男(17名)
第2層 注意 30.0 8.0 27.0 8.0 *
取り組み 91.0 18.0 80.0 23.5 ***
最適化 59.0 13.0 46.0 14.0 ***
効率化 58.0 15.0 44.0 12.5 **
記憶 30.0 10.0 20.0 7.0 ***
見立て 47.0 15.0 32.0 9.0 ***
解決 54.0 19.0 38.0 14.5 ***
第3層 自己認識 21.0 12.0 20.0 10.0
自己決断 8.0 4.0 8.0 4.0
中学生 非SEN群男(168名) SEN群男(14名)
第2層 注意 30.0 8.0 24.0 8.5 ***
取り組み 93.0 18.8 70.0 20.0 ***
最適化 60.0 16.8 47.0 20.8 ***
効率化 56.5 17.8 44.5 25.3 ***
記憶 30.0 9.8 23.0 10.3 ***
見立て 48.0 15.0 31.5 18.5 ***
解決 54.0 20.0 32.5 13.0 ***
第3層 自己認識 22.0 14.0 14.0 15.3 *
自己決断 9.0 5.0 6.0 5.3 **

次に,群ごとにKruskal-Wallis検定を用いて4つの学年段階のクラスタ得点を比較した。Bonferroniの補正による多重比較の結果(Table S4-4),非SEN群男のクラスタ得点は,低学年と中学年は同程度であり,高学年および中学生は低学年よりも高い(p<.05)が,高学年と中学生に有意差はなかった。一方,SEN群では,第3層自己決断以外に有意な学年段階間差はなかった。

ノルムサンプル(名越他,2024)同様,非SEN群男の上位学年で第2層の注意と記憶クラスタにおける可能最高点取得児率は高く(記憶クラスタの場合,低学年7.50%,中学年13.95%,高学年21.58%,中学生22.02%)(Table S4-5),天井効果が見られた。一方,SEN群男は全7クラスタにおいて上位学年でも低く(0―6.52%),天井効果はなかった。また,SEN群男の第3層自己認識・自己決断の可能最低点取得児率(Table S4-6)は,非SEN群男よりも高く,上位学年でも減少せず(中学生の自己認識14.29%,自己決断21.43%),床効果が示唆された。

SEN群男のクラスタ間の関連(Table 2)は,非SEN群男と同様に同層内のクラスタ間で,異層のクラスタ間よりも強かった。しかし,第2層の記憶クラスタと他の6クラスタの関連が非SEN群男と比べて弱かった(非SEN群男:ρ=.76―.85, p<.001, 95%CI[.72―.82, .79―.87]; SEN群男:ρ=.38―.63, p<.001, 95%CI[.20―.50, .53―.74])。また,異なる層間に,有意な相関のないクラスタが散見される等,非SEN群男と比べて,クラスタ間相関はやや弱かった。

SEN群男の第2層の文脈間の関連(p<.001(Table S3-2-3))を95%CIも考慮してみていくと,取り組み,最適化,効率化のクラスタで強く(ρ=.78―.84, 95%CI[.70―.78, .85―.89]),注意と解決(いずれもρ=.62, 95%CI[.49, .73]),記憶と見立て(記憶:ρ=.71, 95%Cl[.60, .80]; 見立て:ρ=.72, 95%CI[.61, .80])は中―強い程度だった。ρ値は非SEN群男よりも小さく,SEN群男の95%CIの上限値は,非SEN群男下限値以下であった。

評定の安定性

2時点の得点から再検査信頼係数をクラスタごとに求めた(Table S5)。小規模(SEN群男13名)であるため,95%CIがMEFSの再検査信頼性係数(r=.67―.89)の最低値.67を含むかどうかを確認した。その結果,9クラスタ中5つ(取り組み,最適化,効率化,解決,自己決断)は.67を含んでいた(ρ=.90―.93, p<.001, 95%CI[.67―.76, .96―.98])。

考察

ここまで示してきた結果が,J-MEFSの内的構造,他の変数との関係の側面からの妥当性の証拠とどのように結びつくのかについて,以下に考察を行う。

内的構造の側面からの妥当性の証拠

まず,確認的因子分析による適合度は,本尺度構造のMcCloskeyモデルへの適合が相対的に良いことを示した。このことは,理論的に考案された構成要素と臨床的利用も考慮してグループ化されたクラスタ,そして相互に関連し合うクラスタが各層を構成することの妥当性の証拠の1つになりうると思われる。しかし,同様の分析をした先行研究はなく,他のサンプルでの検討が必要である。

次に,非SEN群男女とSEN群男において,同層内のクラスタ間には中程度―強い,異層のクラスタ間にはそれよりも弱い関連が示された。これらは,第2層自己調整と第3層自己認識・自己決断のEFは関連しながら,層ごとに異なる側面も測定するというMcCloskeyモデルに即した尺度構成の証拠の1つになると考えられる。この点に関連した証拠として,学力判断や問題行動との相関が第2層と第3層で異なっていたことが挙げられる。

非SEN群男女の同層内のクラスタ間相関,および第2層自己調整のEFの文脈間相関は強く,SENのない子どもにとって,層およびクラスタの一元性は高く,クラスタや文脈を分けて評価する必要性が乏しいことがうかがえる。しかし,後述するように,他の尺度との相関が,クラスタや文脈により異なる結果が見られ,それぞれ異なる側面も測定する可能性を示唆していた。

他の変数との関係の側面からの妥当性の証拠

教師による学力判断との関連 教師の学力判断とJ-MEFSの第2層自己調整の7クラスタとの関連は,理論的,実証的に示されてきたEFと学力の関連を示唆した(収束的証拠)。また,各クラスタの対人文脈よりも学習文脈で関連が強く(弁別的,収束的証拠),各文脈がクラスタの異なる側面を測定しうることを示唆した。ただし,1項目判断であることや学力判断にEFが反映される可能性があることから,限定的な証拠だと考えられる。同程度の相関(r=.50)を示したSoto et al.(2000)の研究で用いた教師評定尺度APRSの19項目は,学力に加えて課題遂行の速さや集中等のEFと関わる内容を含むため,異なる測定法(EFは評定法,学力は課題型)に基づく相関(r=.36)を上回ったと予想される。本研究の教師もEFを働かせて学習する様子を判断材料にした可能性があり,学力判断は学力を含む学習全般の適応指標と捉えることが適当だろう。学習自体に困難のあるLD児と,EF困難により学習したことの産出が安定しない児は混同されやすいとの指摘もあり(McCloskey et al., 2009),低判断児にはEFを含めた多角的な精査が必要だと考える。なお,教師の特性や学校の学力水準の影響は,本研究では検討できなかった。

教師による問題行動評定との関連 小規模データの限界はあるが,問題行動(LDI-R)とJ-MEFS第2層の複数のクラスタの間に,先行研究(例えば,Gioia et al., 2015)と同程度の中程度―強い負の関連が示唆され(収束的証拠),学習文脈よりも対人文脈の方が強く関連するという結果(弁別的,収束的証拠)も示された。一方で,第2層の記憶や解決クラスタ,第3層とは有意な相関はなかった。以上のことは,文脈が同じクラスタの異なる側面を,複数のクラスタが自己調整EFの異なる側面を,2つの層がEFの異なる側面を測定する可能性を示唆している。

SENの有無との関連 複数の結果がJ-MEFSはSEN群男のEF困難を捉える可能性を持つ尺度であることを示唆した。まず,SEN群男のクラスタ得点は,第2層自己調整において,非SEN群男を有意に下回り,先行研究(例えば,Demetriou et al., 2018)と一致した。一方,第3層自己認識・自己決断は,学年段階やクラスタによって,非SEN群男との有意差がないか,有意差があっても効果量は小さかった。第3層自己認識・自己決断のEFは思春期になってから効果的に働く(McCloskey, 2016)ため,小学校段階ではSEN群と非SEN群に差がないと考えられた。しかし,有意な群間差のなかった低学年や高学年でも,非SEN群男と比べて,SEN群男の自己認識および自己決断のクラスタの可能最高点取得児率は低く,可能最低点取得児率が高めであることから,SEN群男にとって第3層のEFはより難易度が高いことが推察される。

また,ノルムサンプル(名越他,2024)や非SEN群男の上位学年で見られた第2層自己調整の注意と記憶のクラスタの天井効果は,SEN群男では見られなかった。第2層自己調整は天井効果も床効果もないため,本尺度を用いることでその項目で測定しているEFの状態について,指導目標の設定に役立つ情報が得られると思われる。しかし,SEN群男のほとんどのクラスタ得点は学年段階が進んでも有意に上昇しなかった。縦断データでの検討が必要だが,SEN群のEFの伸び率は極めて小さく,得点に反映されにくい可能性があり,McCloskey(2016)が推奨する項目レベルの分析を必要とする児もいると推察される。床効果が示唆される第3層でも同様である。

SEN群男との比較のために非SEN群男の発達的推移を分析した結果,認知的柔軟性や注意の抑制の要素を含む第2層の取り組みクラスタは,低学年(6―8歳)と中学年(8―10歳)に有意差はなく,低学年(6―8歳)は高学年(10―12歳)および中学生(12―15歳)よりも有意に低かった。小学校段階でのこれらのEFの発達は緩やかであることがうかがえる。これはZelazo et al.(2013)が示したCoolなEFである認知的柔軟性および注意の抑制の発達的推移(3―6歳まで急速に向上,しばらく停滞,13―15歳に比較的大きく向上)に類似しており,J-MEFSと多くの研究で実証されているEFとの関連が示唆された。

最後に,SEN群男のクラスタ間および文脈間の関連について考察する。非SEN群男に比べてSEN群男の同層内のクラスタ間,および文脈間相関はやや低く,記憶と他のクラスタの関連でその傾向が強かった。クラスタや文脈のEFの発達は,非SEN群男では比較的一様に進むが,SEN群男ではクラスタや文脈によって異なり,記憶の自己調整が特異的であることを示唆すると思われる。障害種や学年段階を統制した検討はできなかったが,原版において障害種に特徴的な結果がクラスタや文脈に見られる(McCloskey, 2016)ことからも,SENのある児ではクラスタや文脈を分けた評価が役立つ可能性がある。

評定の安定性

複数のクラスタで,時間を経た時の得点の一貫性や安定性が,MEFSと同程度にあることが示唆されたが,少数データであり,他サンプルでの確認が必要である。

まとめと今後の展望

本研究では内的構造や他の変数との関係の側面から,J-MEFSがMcCloskeyモデルに即した構造を有していることを検討した。相対的にはMcCloskeyモデルへの適合がよく,内部相関や他の変数との関連からも,第2層自己調整と第3層自己認識・自己決断が固有の側面も測定しうることが示唆された。第3層で得られる自己認識や長期の目標に対する意識の育ちに関する情報は,結果のフィードバックやEF支援におけるメタ認知的省察(Zelazo & Carlson, 2020)の導入判断にも役立つだろう。

内部相関に基づく妥当性の証拠は,SENのない児にとって,層やクラスタは一元的であることを示したが,SENのある児の内部相関や他の変数との関連は,個々のクラスタや文脈が異なる側面を捉えており,別個に評価しうることを示唆した。今後はノルムサンプル以外や十分なサイズの学年段階や障害種,性別を統制したSEN群で更なる証拠を示す必要がある。また,SENのある児の個人内のEFの強みと困難の同定ができることや,障害種に特徴的なプロフィールを明らかにし,それらが学校等での臨床適用に有用であることの検討も重要な課題である。

他の変数との関係については,より狭義の学力との関連,障害種別の問題行動との関連,他のEF測定法との関連から収束的,弁別的証拠を追加する必要がある。EF発達の縦断的検討,J-MEFSの結果を踏まえた支援とその効果検証も今後取り組むべき課題である。

利益相反

本論文に関して開示すべき利益相反関連事項はない。

1

本研究は,科学研究費補助金(課題番号17K049171)の助成を受けた。

2

本研究の一部は,日本特殊教育学会第56回大会(2018),日本LD学会第30回(2021)大会で発表された。

3

分析結果の一部を補足資料(Table S1―S6)として,J-STAGEの電子付録に記載した。

4

調査にご協力くださった学校及び専門機関の皆様,研究協力者の飯利 知恵子先生,MEFSをご提供くださったMcCloskey, G.博士に感謝を申し上げます。

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© 2025 The Japanese Psychological Association
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