The Japanese Journal of Psychology
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Research Reports
Effects of speech from a joint attention perspective on arithmetic problem solving in cooperative situations
Makito HiramiMoe OhkumaHiroko SumidaDaisuke Fujiki
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2025 Volume 96 Issue 1 Pages 41-47

Details
Translated Abstract

It is necessary to acquire the viewpoints of others and relate them to one's own ideas through interaction in cooperative situations. This study examined the effects of speech from a joint attention perspective (guided and tracked) on problem solving in three fifth-grade classes for learning formulas for finding the area of a figure, as speech that attempts to acquire another person's viewpoint. In order to clarify the effects of interactions that only cooperative learning situations can provide, which are not present in individual learning situations, this study analyzed the speech of the participants by distinguishing between their own speech and that of their partners. The results showed that the partner's tracking of the event that the actor had guided facilitated post-task problem solving. Furthermore, it was shown that the influence of such speech occurs in the problem of understanding formulas.

平成29年7月に告示された新学習指導要領において「主体的・対話的で深い学びを実現する」という方針が示された。このことに伴い,学校現場ではそのような学びを実現するための方法として協同学習を取り入れた実践が盛んに行われている2。協同学習とは小集団を活用した教育方法であり,生徒たちが一緒に取り組むことによって互いの学習を最大限に高めようとするものである(Johnson et al., 2002 石田・梅原訳 2010)。

協同学習の有効性は多くの実践的な先行研究において示されている(例えば,伊藤他,2012; 河﨑・白水,2011)。特に,協同中に対話を通じてなされる相互作用が学習の成果を規定する。例えば,高垣他(2008)は小学校理科の仮説検証型の授業において,協同中にどのような相互作用を経て自らの思考を変化させるのかを検討した。その結果,対話を通じて自分と他者の考えの違いを明確化し,考えを統合して新たな解釈を形成することで知識を獲得することを示した。ほかにも益川他(2016)は,小学生を対象に縦断的な検討を行い,分からない状態を表す発話が契機となり,それぞれの視点から理解を深めるような相互作用が生起し,複数の知識や経験を統合した理解が構築されることを示唆した。このように協同学習の有効性には相互作用の質が関わっており,対話を通じて他者の考え方を獲得し,自らの知識と関連づけることが求められる(橘・藤村,2010)。

協同学習においては,相互作用を介して知識構築するための前提として対話そのものを成立させる必要があり,互いの考えに注意を向け,課題に取り組む際の視点を共有することが重要である。このような注意と視点の共有を捉えるうえでは,指示対象に対する注意を他者と共有し発話の意図を推測する共同注意(Tomasello, 2001 大堀他訳 2006)の概念が参考になる。共同注意は乳幼児期の語彙発達との関連についての研究が盛んに行われてきたが,授業中の相互作用を共同注意の観点から分析しようとする試みもわずかではあるが行われている。例えば,古市(2016)は高等学校の公民科の授業における事例検討を通じて2者が同じものを連鎖的に注視する過程を詳細に記述することで,生徒の発話や身振り,位置関係が影響し合い教室空間全体の相互作用が形成されることを示し,注意の共有が集団活動の成立に寄与することを示唆した。相互作用の過程で学習者が教材や内容等に向けた注意を共有することが知識構築の契機となると考えられる。

共同注意が知識構築につながる相互作用と関わることを直接的に示した研究には住田・森(2019)がある。この研究は,共同注意の観点から小学校の算数科の授業において協同中のどのような相互作用によって個々の児童が深い概念理解に至るのかを検証した。まず,どのような発話の特徴を持つ児童が深い概念理解に至るかを確認するため,児童を,自らの既有知識の枠組みに基づく発話のみを行う自己中心性タイプ,他者が持つ知識の枠組みを理解しようとする発話を含む他者視点取得タイプ,自己の知識の枠組みが変容したことを表す発話を含む協調タイプに分類し課題成績を比較したところ,協調タイプの児童でより適応的な解決方略への変化が生じていることを示した。そのうえで,他者と注意を共有する過程を詳細に捉えるため,共同注意の観点に基づき発話カテゴリーを作成し(Table 1),児童の発話を分類した。発話は,自分が既に注意を向けている事象に対して相手の注意を向けさせようとする「誘導的共同注意発話」と相手が注意を向けている事象に対して自分の注意を向け追跡しようとする「追跡的共同注意発話」に分けられた。さらに,「追跡的共同注意発話」のうち,「未追跡的」な追跡的共同注意発話と「未操作的」な追跡的共同注意発話はどちらも追跡操作していないことを示す発話であるため,この2つをまとめて「未追跡的共同注意発話」とし,「誘導的共同注意発話」,「未追跡的共同注意発話」,「追跡的共同注意発話」の3種類のカテゴリーに分類された。児童のタイプごとにこれらの発話から次の発話への推移率を比較したところ,協調タイプの児童では他のタイプの児童に比べて「追跡的共同注意発話」から「追跡的共同注意発話」への推移率が高いことが示された。このことから,協同中の相互作用において相手が注意を向けている事象に対して自分の注意を向けるような循環を起こすことが概念理解を促すことが示唆された。

Table 1

共同注意の観点に基づく発話カテゴリー

カテゴリー コード 定義 使用例
注)住田・森(2019)のTable 2(p.47)を転載した。
誘導的共同注意発話

自分が既に注意を向けている事象に対して相手の注意を向けさせようとする
質問 自分が注意を向けている事象に関して,相手に何らかの反応を求めて発せられた疑問形の発話 「これ何?」,「1kmを20分,30分,どれ?」
指示・命令 自分が注意を向けている事象に対して,相手に何らかの行動をさせるための発話 「これ計算して」,「これ見て」
提案 自分が注意を向けている事象に対して,相手に何らかの行動をさせるための間接的な誘いかけ 「計算してみようか」
命名 自分が注意を向けている事象の名称を用いた言及 「1あたり量の考えよ」
教示・説明 自分が注意を向けている事象の状態や使い方を教示・説明したもの 「1kmを何分で歩いたかを考えればいいんよ」,「3kmだから,かかった時間は1時間だね」
追跡的共同注意発話

相手が注意を向けている事象に対して自分の注意を向け追跡しようとする
未追跡的 拒否 相手が誘導した事象が理解できず,操作できない 「まあ,それぞれ考えが違うから」,「……」(無反応)
追従 相手が誘導した事象について追従するが操作はしない 「うん」,「わかりました」
未操作的 模倣 相手が誘導した事象についての発話を模倣するが操作はしない 「20分だ」,「うん,20分」
混乱 相手が誘導した事象について操作できず混乱し注意がずれる 「どう言えばいいかわからない」
発展的 回答 相手が誘導した事象について回答する 「距離が2kmも違うから,それで同じにしました」
焦点化 相手が誘導した事象について追従し焦点化する 「20分,20分,20分で60分だ」
指摘 事象の不整合を指摘したもの 「もし同じだったら,変わると思う」,「なぜそう思うの」
補完 前者のつぶやきを後者の発話が補完するもの 「2×5=10……」,「じゃあ通り過ぎるよ」
言い換え 相手の発言の要点を言い換えたもの 「―なるっていうことです」

このように協同場面において概念理解を促すための相互作用には自分の考えを主張するだけではなく,他者の視点に注意を向け,追跡する発話が肝要と言えるだろう。つまり,共同注意が他者の考え方を獲得し自らの知識と関連づけることを促すと考えられる。しかし住田・森(2019)では,適応的な解決方略への変化が見られた協調タイプの児童で他者が注意を向けている対象を追跡する発話の循環が多いことが示されたものの,課題成績との関連は直接的には分析されていない。また,協同場面では話し手の交代が起こるのが通例であり,他者の発話を聞くことも求められる。すなわち,協同中のやり取りには自らが視点を誘導,追跡する場合と,他者が誘導,追跡する場合が含まれると言えるが,住田・森(2019)では他者の発話内容から受ける影響は考慮されていない。協同場面における発話による概念理解への影響を検証するには,自らの発話による影響のみを考慮するのではなく他者の発話による影響も考慮する必要がある。

そこで本研究では,協同場面における主な情報共有の手段である発話に焦点を当て,自らの発話による影響と他者の発話による影響を区別して,それらがどのように協同学習の成果に影響するのかを直接的に検討する。他者の発話による影響は個人での学習場面では生じない協同場面に特有のものである。他者の発話が契機となり課題解決時の視点が変わることもあり,他者の発話は相互作用による影響を捉えるうえで重要な要因である。また,自分と他者の発話を区別して共同注意が課題解決に及ぼす影響を検討することは,共同注意の概念を学校現場での課題解決場面にも適用できる概念として拡張し,協同に特有の相互作用を探るうえでも意義があると考えられる。

本研究では住田・森(2019)の共同注意の観点に基づく発話カテゴリーを参考に,自分と他者の共同注意に関する発話,及びそれらの組み合わせが協同の成果を測る課題成績に及ぼす影響を検証する。特定の授業でのみ成り立つものではなく,より一般化された発話による影響に関する知見を得るため,類似した構造を持つ複数回の授業でデータを得る。住田・森(2019)で追跡的共同注意発話の循環が概念理解を促すことが示唆されたことから,共同注意を介して他者の発話内容を捉え,自ら追跡することで課題解決が促されると考えられる。したがって,「他者の誘導的共同注意発話が多い場合に自ら追跡的共同注意発話を行うことが課題解決を促す」と予測される。

方法

対象児

広島県内の公立小学校の児童5年生25名を対象とした。児童は2人1組のペア(1組のみトリオ)となり授業に臨んだ。なお,このクラスでは日常的に協同を取り入れた授業を行っており,その経験を踏まえてペアは児童自身が協同しやすい者を選んで形成した。

授業の概要と手続き

著者の1人であるクラス担任が授業者として協同を通じた説明活動に適した内容と判断した算数科の授業を対象とした。これは三角形,台形,ひし形の順に未習の図形の面積を求める公式(求積公式)を学習する3回の授業であった。求積公式を既習である長方形や平行四辺形に変形して公式を導くという構造が3回の授業に共通しており,同じ流れで見通しを持って協同に取り組める単元であった。また,国立教育政策研究所(2012)によれば,児童には図形の性質を基に面積の関係を捉えることやその理由を言葉や式を用いて記述することに課題があるとされる。協同場面で説明し合うことで学習成果に影響すると予測される。

児童はまず,求積公式を導くため,教科書の記述を手がかりにしながら「図形をどの既習の図形に変形すればよいか」,「その変形を基にした場合,どのような公式が作れるか」という課題についてペアで話し合った。教科書を読んだだけで理解できる児童は少なく,既習の求積公式についての知識をもとに協同を通じて正しい理解を構築することが求められた。次に,話し合いを通じて得た理解状況を確認するため個別に課題(以下,直後課題とする)に取り組んだ。最後に,正しい理解に至るために話し合った内容をペアで教師に向けて説明し,教師からフィードバックを得た。フィードバックは,「考え違いをしている箇所を指摘し,考え直すように指示する」,「教科書の記述をそのままなぞった説明をする児童やペアの一方の説明を覚えて繰り返すだけの児童には,自分の言葉で言い直すように指示する」,「正しい道筋で公式を導くことができた児童には,典型的でない形の場合においても公式が適用できるかなど思考を深めるための問いを与える」といった方針で行われた。これらの活動の時間配分は児童に任されており,ペアごとに異なった。発話は,学習の妨げとならないように首に掛けて携帯できる小型のVCレコーダーを児童1人に1つずつ配布し録音した。録音の開始はペアでの話し合いを始める時点を,停止は教師に向けた説明が終わった時点を児童が自ら判断して行った。

また,学習内容の定着を測るため,翌日の授業で直後課題と同様の課題(以下,遅延課題とする)に個別に取り組んだ。

課題

直後課題,遅延課題で用いた課題は,ペアでの話し合いを経て求積公式を正しく導くことができたかを確認するものであった。内容は,公式の理解を測る問題として,面積を求めるにはどのような形に変形すればよいかを言葉で答える問題1問,変形の仕方を図示する問題1問,公式を言葉で記述する問題1問,公式の適用を測る問題として,公式を用いて面積を求める計算問題2問(ただし,台形の求積公式を導く授業では1問)で構成された。

倫理的配慮

本研究は,広島大学大学院人間社会科学研究科の研究倫理審査において承認を得て実施した(申請番号:HR-PSY-000485)。研究実施に先立ち,学校責任者に対して研究目的や方法,データの管理方法等を口頭及び書面にて説明した。研究実施段階では児童に対して,研究への協力は強制ではなく協力しなくても不利益を被らないこと,個人情報は保護されること,話し合い中の発話が録音されること等が授業者から口頭で説明された。

結果

協同中の発話が課題解決に及ぼす影響についてより一般化された知見を得るため,3回の授業を区別せず合算して分析した。発話数が極端に少ないペア1組と話し合いの過程で他のペアの児童に教えてもらった児童を含むペアとトリオを除いた合計23組46名分のデータを分析の対象にした。分析には統計分析ソフトHAD(清水,2016)version 17.20を用いた。

課題の採点

1問1点として採点した。計算問題については,授業の目的が求積公式を理解することであるため,計算を間違えていても正しく立式できていれば得点を与えた。課題の平均得点を算出したところTable 2の通りとなった。遅延課題ではいずれの授業でも平均得点が直後課題と比べて上昇しており,多くの児童が教師からのフィードバックを得て正しい理解に至ったと言える。

Table 2

課題の平均得点(SD

三角形(n=14) 台形(n=16) ひし形(n=16)
公式の理解 公式の適用 公式の理解 公式の適用 公式の理解 公式の適用
注)公式の理解は最大3点,公式の適用は三角形,ひし形で最大2点,台形で最大1点である。
直後課題 2.14(0.77) 0.93(1.00) 2.19(0.66) 0.31(0.48) 2.06(1.00) 1.50(0.73)
遅延課題 2.64(0.50) 1.71(0.61) 2.81(0.54) 0.75(0.45) 2.81(0.40) 1.81(0.54)

発話の分類

発話記録をもとに発話を全て文字に起こした。話者が交代するまで及び5秒程度発話がないところまでを単位として,住田・森(2019)と同様に共同注意の観点から,発話を「誘導的共同注意発話」(例えば,「これはどういうこと。」,「2個分を求めているから半分にすれば良いんだよ。」),「未追跡的共同注意発話」(例えば,「うん。」,「難しい。」),「追跡的共同注意発話」(例えば,「つまり,底辺と高さは変わらないということだね。」,「でもこれは長方形ではないじゃん。」)に分類した。なお,課題内容に関係のない発話(例えば,家で飼育している動物について)はこれらの分類には含めなかった。分類は,分析対象となる23組から無作為に選出した6組に対して,著者2名が独立に行ったところ一致率が89.4 %であった。十分な一致率が得られたためこの6組に対しては第1著者の分類を採用し,残りの分類はその2名で手分けして行った。ペアによって話し合いにかけた時間が異なるため,全発話における各発話の割合を個人ごとに算出して平均値を求めたところ,「誘導的共同注意発話割合」で32.5(SD=14.2)%,「未追跡的共同注意発話割合」で14.9(SD=8.37)%,「追跡的共同注意発話割合」で13.2(SD=9.73)%であった。ペア内でこれらの発話割合に関連が見られるかを確認するため級内相関係数を算出したところ,「誘導的共同注意発話割合」で.613(p=.001),「未追跡的共同注意発話割合」で.159(p=.225),「追跡的共同注意発話割合」で.383(p=.030)であった。したがって,データの階層性を考慮したほうが良いと判断しマルチレベルの分析を行った。本研究ではマルチレベルモデルの1つであり,二者関係の相互作用を検討できるActor-Partner Interdependence Model(APIM)を用いた分析を行った。この分析を用いることで自らの発話による影響とパートナーの発話による影響を区別して捉え,それらが課題解決に及ぼす影響を1つのモデルの中で検証できる。分析に先立ち多重共線性の問題が生じないかを確認するため,自分とパートナーの各発話割合について相関係数とVIFを算出したところ,一部の変数間で有意な中程度の相関が見られ(Table 3),VIFも全ての変数で3.18以上のやや大きい値を示した。本研究では,自らが着目している事象に他者の視点を誘導する「誘導的共同注意発話」と他者が着目している事象を追跡する「追跡的共同注意発話」が特に重要であると考えているため,多重共線性の問題を考慮し,以下の分析は実質的に他者が着目している事象を追跡できていないことを表す「未追跡的共同注意発話割合」を除いて行った3

Table 3

発話割合の相関係数

2 3 4 5 6
**p<.01,*p<.05
1. 誘導的共同注意発話割合(自分) ‒.209 ‒.141 .599 ** .021 .025
2. 未追跡的共同注意発話割合(自分) .121 .021 .137 .577 **
3. 追跡的共同注意発話割合(自分) .025 .577 ** .364 *
4. 誘導的共同注意発話割合(パートナー) ‒.209 ‒.141
5. 未追跡的共同注意発話割合(パートナー) .121
6. 追跡的共同注意発話割合(パートナー)

発話内容が直後課題に及ぼす影響の検証

本研究の目的は,共同注意の観点から,協同中の発話内容が課題成績に及ぼす影響を直接的に検証することであるため,発話内容と直後課題の成績との関連を分析する。

授業ごとに満点が異なるため標準化得点を算出し,目的変数を直後課題の標準化得点としたAPIMを行った。説明変数は,自分とパートナーの「誘導的共同注意発話割合」,「追跡的共同注意発話割合」,自分とパートナーの発話割合の交互作用とした。交互作用は,自らの発話とパートナーの発話の組み合わせの効果を検証するために投入した。その結果,自分の「誘導的共同注意発話割合」とパートナーの「追跡的共同注意発話割合」との交互作用が有意であった(Table 4)。交互作用が有意であったため単純傾斜検定を行ったところ,自分の「誘導的共同注意発話割合」が高い場合,パートナーの「追跡的共同注意発話割合」の影響が有意であった(β=3.84,p=.026)。このことから,自らが誘導した視点をパートナーが追跡することで課題解決が促されることが示唆された。

Table 4

発話割合が標準化得点と公式の理解を測る問題の得点及び公式の適用を図る問題の成否に及ぼす影響

標準化得点 理解問題 適用問題 VIF
注)標準化得点,理解問題に対する数値は標準化係数,適用問題に対する数値は非標準化係数,括弧内は標準誤差である。
**p<.01,*p<.05
誘導的共同注意発話割合(自分) .068(1.03) .118(1.24) 1.53(4.95) 1.90
追跡的共同注意発話割合(自分) .128(1.60) .143(1.56) 3.04(6.01) 1.27
誘導的共同注意発話割合(パートナー) .008(1.23) .015(1.20) 5.41(5.17) 1.90
追跡的共同注意発話割合(パートナー) .007(1.64) .092(1.38) 5.10(6.48) 1.27
誘導的共同注意発話割合(自分) .217(10.1) .036(7.57) 36.5(46.0) 2.05
×誘導的共同注意発話割合(パートナー)
誘導的共同注意発話割合(自分) .407(8.81) ** .333(7.82) * 45.5(48.7) 1.49
×追跡的共同注意発話割合(パートナー)
追跡的共同注意発話割合(自分) .143(10.1) .100(7.86) 19.4(41.1) 1.49
×誘導的共同注意発話割合(パートナー)
追跡的共同注意発話割合(自分) .092(23.6) .059(20.1) 183(146) 1.61
×追跡的共同注意発話割合(パートナー)

さらに,より具体的に発話がどのような種類の課題成績に影響しているのかを確認するため,直後課題を公式の理解を測る問題と公式の適用を測る問題に分けた分析も行った。

公式の理解を測る問題への影響 目的変数を公式の理解を測る問題の得点としたAPIMを行った。説明変数は,同様であった。その結果,自分の「誘導的共同注意発話割合」とパートナーの「追跡的共同注意発話割合」との交互作用が有意であった(Table 4)。交互作用が有意であったため単純傾斜検定を行ったところ,有意差は見られなかったが,自分の「誘導的共同注意発話割合」が高い場合,パートナーの「追跡的共同注意発話割合」が高いほど課題解決が促されるという標準化得点を目的変数とした分析と同じ傾向を示した(β=3.31,p=.088)。

公式の適用を測る問題への影響 授業ごとに問題数が異なるため全ての問題で正しく立式できていた場合に公式を適用できたと判断し,目的変数を公式の適用を測る問題の成否(成を1,否を0)としたAPIM(ロジスティック回帰)を行った。説明変数は同様であった。その結果,いずれも有意な影響は見られなかった(Table 4)。協同中の発話は公式の適用を測る問題の成否には影響しなかったと言える。

考察

本研究では,共同注意の観点に基づき,協同場面における自分の発話やパートナーの発話が課題解決に及ぼす影響を,それらを区別して1つのモデルの中で捉えることのできる分析手法を用いて検証した。その結果,特に公式の理解を測る問題で自分の誘導的共同注意発話割合とパートナーの追跡的共同注意発話割合との交互作用が見られ,自らが誘導した視点をパートナーが追跡することで課題解決が促されることが示唆された。誘導的共同注意発話のコードには「質問」や「教示・説明」が,追跡的共同注意発話のコードには「回答」や「指摘」,「補完」が含まれる。このことから,自らが言及した注意を向けている事象に対してパートナーが追跡的に言及しそれを聞くことで,自らの知識の不整合に気づいたり,自らが考えていることにパートナーの考えを関連づけたりすることにつながり知識の精緻化が促されたと考えられる。ただしこれは,追跡的共同注意発話の循環が概念理解を促した住田・森(2019)の知見に基づき「他者の誘導的共同注意発話が多い場合に自ら追跡的共同注意発話を行うことが課題解決を促す」とした本研究の予測と異なる結果であった。このことに関して,本研究では自分とパートナーとの追跡的共同注意発話割合の間に有意な正の相関が見られた(Table 3)ため,ペアの一方の追跡的共同注意発話が多い場合,他方の追跡的共同注意発話も多かったと言える。このようなペア内の発話の特徴を踏まえると,住田・森(2019)では自分の発話による影響とパートナーの発話による影響を区別していなかったため,パートナーの追跡的共同注意発話による促進効果が,自らの追跡的共同注意発話の影響として現れていたと解釈できる。先行研究からは協同を通じて他者の視点を獲得することが重要であると考えられるが,本研究の知見に基づくとその獲得の仕方としては,他者の考え方を追跡して全く新規の考え方を獲得するのではなく,自分が着目している事象についてパートナーの考え方を追加することが理解を深めることに有効であると言える。

一方で,公式の適用を測る問題には協同中の発話は影響しないことが示された。これは話し合う内容が公式をどうすれば導出できるかであり,面積を求める際にどのように公式を適用するのかに焦点が当たらなかったためであると考えられる。

本研究の意義と課題,今後の展望

本研究は実際の小学校の授業にて得たデータを用いて,ペアをなす両者の発話による影響を区別したうえで,共同注意の観点から協同に特有の相互作用による影響を捉えたという点で一定の価値がある。特に,発話者を区別してそれぞれの発話による個人の課題解決への影響を捉えたことで,集団の成果として捉えていては見えてこない互いの発話内容が影響する様子を直接示すことができた。しかし,本研究では両者の発話がどのように連なっているかは考慮できていない。協同中の相互作用による影響を明らかにするうえでは,発話を誘導的,追跡的といった枠組みで捉えるだけではなく,質的な違いも考慮し,どのようなやり取りが課題解決につながるのかを検討するなど対話を連続的に捉える必要もあるだろう。

また,本研究では小学校の算数科の授業においてデータを得たが,焦点を当てた共同注意の観点に基づく発話が占める割合は発話全体のうち6割程度であった。残りは課題内容には直接関係のない発話であり,このような発話が多く含まれるという事実は学校現場で協同を取り入れた実践を行ううえでは注目すべきである。一方で,課題内容に関係のない発話が,息抜きとなりその後の活動を効率化していたり,ペア内の協力的な関係の調整を助けている等,協同の成果に貢献している可能性もある。このような発話が協同の中でどのような役割を果たしているのかも今後明らかにする必要があるだろう。

利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

大隈 萌恵 現所属:早稲田大学

1

本研究は,JST次世代研究者挑戦的研究プログラムJPMJSP2132の支援を受けた。

2

協同学習の表記には,「共同」,「協働」,「協調」が用いられることもあるが,本研究では協力して学習目標を達成する際の心理的側面に焦点を当てるため,関田・安永(2005)に基づき「協同」の表記を用いる。

3

試みに,「未追跡的共同注意発話割合」と「追跡的共同注意発話割合」を統合したカテゴリーを作成しVIFの値を算出したが,より大きな値になったため分析には用いなかった。

References
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