2025 Volume 96 Issue 3 Pages 166-175
The autonomic-based Concealed Information Test (CIT) relies on differential physiological responses to a specific item. We examined the impact of categorization rules on physiological responses in the CIT. The stimuli were numbers presented in various colors and participants randomly selected one to memorize. The CIT items comprised a number-congruent item, color-congruent item, and incongruent items; none were the same as the memorized item. In Experiment 1, these items were presented under different categorization rules. In the "unworkable" condition, participants were asked about the stimulus they had memorized, whereas in the "workable" condition, they were asked the color of the memorized stimulus. Notably, the number-congruent item in the "unworkable" condition elicited differential responses in electrodermal activity. In the "workable" condition, the color-congruent item prompted differential responses across all electrodermal, cardiovascular, and respiratory measures. No measure indicated a differential response to the number-congruent item. The findings from Experiment 1 were replicated in Experiment 2, where combinations of color and number varied across each repetition under the "workable" condition. This consistent pattern suggests the differential responses in the CIT is rule-based.
日本の犯罪捜査において実施されているポリグラフ検査では,隠匿情報検査(Concealed information test: 以下,CITとする)または有罪知識検査(Guilty knowledge test: Lykken, 1959)と呼ばれる手法を用いて,対象者の事件に関する記憶・知識の有無を調べる。CITでは,質問表と呼ばれる多項目形式の刺激セットを作成する。例えば,事件現場への犯人の移動手段を知っているかを調べる場合なら,「自動車」や「バイク」などの項目を4―7項目程度用意する。これらの項目を逐次提示し,皮膚伝導度(Skin conductance: 以下,SCとする),呼吸運動,心拍数(Heart rate: 以下,HRとする),規準化脈波容積(Normalized pulse volume: 以下,NPVとする)などを計測する。質問表は,対象となる事件情報を知らない(認識を有さない)者が,正解の項目(関連項目)を特定できないように作成される。検査対象者がその事件情報を知らなければ,生理反応はどの項目にもランダムに生じると期待される。一方,関連項目を特定できる(認識を有する)検査対象者では,関連項目提示時には非関連項目よりも相対的に高いSC,小さい呼吸運動,低いHRおよびNPVが見られる(Meijer et al., 2014; 小川他,2013)。このようにCITでは,特定の質問項目に他と異なる生理反応(弁別的反応)が生じるかどうかに注目する。CITで見られる弁別的反応の特徴や規定要因,心理的・生理的機序の解明は,CIT研究の重要なテーマの1つであり,幾つかのモデルや理論が提案されてきた(レビューとして,klein Selle & Ben-Shakhar, 2023; klein Selle et al., 2018; 松田,2016)。
本研究では,質問表の主題の違いがCITにおける弁別的反応に及ぼす影響に焦点を当てる。ここでは質問表の主題が,質問項目を分類する基準・ルールとして機能すると考える。例えば,上述の犯人が用いた犯行現場への移動手段が主題である場合,検査対象者がその事件に関する知識を有していれば,各質問項目はこの事件で用いられた移動手段に該当するかどうかというルールで分類され,弁別的反応もこのルールに沿って生起すると考える(Ben-Shakhar et al., 1996も参照)。実際の犯罪捜査の中で実施されるCITでは,生理活動の測定・記録前に質問表の趣旨(主題)の説明と共に質問項目を検査対象者に示す(小林他,2009; 高澤,2009; Verschuere & Crombez, 2008)。検査対象者は,この時点で質問の主題と質問項目を把握できる。さらに,当該事件情報を知っている者であれば,主題(ルール)に関連する質問項目を特定できる。以上を踏まえ,本研究ではCITにおける認識の有無を,検査対象者が質問表の主題に従って質問項目を関連項目と非関連項目に分類できるかどうかの違いと見なし,質問項目を分類できる主題と,そうでない主題の違いが,弁別的反応に及ぼす影響に注目する。
実際に幾つかの研究が,生理反応に対する質問表の主題の効果を示している。例えばAmbach et al.(2011)は,参加者が模擬窃盗課題で盗んだもの(窃取項目),単に見たもの(目撃項目),そして非関連項目で構成される質問表を,「あなたはXを盗みましたか」と尋ねた場合と,「あなたはXを見ましたか」と質問した場合で比較した。前者では窃取項目と目撃項目に差が見られたが,後者では両者の違いは見られなかった。さらにOgawa et al.(2023)も,同一の質問表のどの項目に弁別的反応を示すかが,主題によって異なることを示した。彼らは,参加者に2ヵ所からアクセサリーを窃取させた。質問表には窃取したアクセサリーが2つとも含まれていたが,盗んだ場所を指定して質問すると,参加者は該当する場所から盗んだ項目にのみ弁別的反応を示した。これらの研究は,質問表の項目が同一であっても,質問表の主題に基づく項目の分類ルールの違いに応じて,弁別的反応が柔軟に切り替わることを示したが,いずれも認識を有する条件内で検討している。一方,主題によって認識の有無,すなわち分類できるかどうかが変化する場合,弁別的反応がどの程度その影響を受けるのかは不明である。
また,検査対象者があるルールの下で質問項目を区別・分類できる場合,そのルールとは無関係な刺激属性に起因する反応が減弱する可能性がある。例えば花山他(2011)は,ABO血液型を質問項目に用いた実験を行った。実験1では参加者自身の血液型以外の血液型を,実験2では何も記されていない紙片をそれぞれ選ばせ,選択刺激を尋ねるCITを実施した。その結果,実験1の参加者は,選択した血液型にのみ弁別的反応を示したのに対し,実験2の参加者は,自身の血液型に対して大きな皮膚伝導度反応(Skin conductance response: 以下,SCRとする)を示した。この実験2の結果は,刺激の自己関連性に由来するものとみなせる(Dindo & Fowles, 2008も参照)。彼女らはこれらの結果から,質問の文脈に沿って弁別されるべき項目の存在が,自己関連性などの影響を抑える可能性を論じている。この文脈とは,本研究における質問表の主題・ルールと同義と思われる。その観点に立てば,参加者は実験1では選択した血液型かどうかで質問項目を分類できるが,実験2ではそれができない。したがって彼女らの結果は,適用可能なルールの下では,刺激の自己関連性などルールに無関係な刺激属性に由来する生理反応は抑えられることを示したと解釈することもできる。しかし彼女らの研究では,記憶させた刺激の有無と,ルールの適用可能性が交絡している。この両者はほとんどの状況で共変すると考えられるが,記憶内容・質問項目をそろえ,刺激を区別させるルールのみを操作することで,両者を分離したルールの効果の検討が可能になるであろう。
そこで本研究では,主題に基づいた質問項目を区別するルールの適用可能性の違いが生理反応に及ぼす影響を,実験によって検証する。実験では,参加者に異なる色で印字された複数の数字のカードを1枚選ばせ,それを記憶させる。CITでも,同じく色付きの数字を質問項目とする。ただしFigure 1に例示するように,質問項目には参加者が選んだ刺激と色または数字のどちらかのみが一致する項目(以下,それぞれ色一致項目,数一致項目とする)はあるが,両方の特徴次元で一致するものはない。これらの質問項目を,異なるルールの下で提示する。質問表の主題に従った項目の分類が不可能なルールを与える条件(以下,適用不可能条件とする)では,参加者が選んだカードが何か,すなわち選択カードは何色のどのような数字であったかを尋ねる。しかし,質問表には参加者の選択カードと色・数ともに一致する項目がなく,参加者は正解となる項目とそれ以外の項目を分類できない。質問表に正解が存在しないという意味で,この条件は認識なし条件となる。ただし,刺激の物理的特徴と記憶内の関連情報の表象との類似性が有意性を規定するという特徴マッチングの考えに立てば(Ben-Shakhar & Gati, 1987; Gati & Ben-Shakhar, 1990),色一致項目と数一致項目は,有意刺激としてそれ以外の項目(不一致項目)と異なる反応を誘発すると考えられる。特にStroop課題では単語の意味の方が色に比べて行動への干渉効果が相対的に大きい点(MacLeod, 1991など)などを踏まえると,形態・意味の両方で選択カードと共通点を持つ数一致項目は,色一致項目よりも生理反応に大きな影響を及ぼすと考えられる。一方,適用可能条件では,参加者が選んだカードの文字の色を尋ねる。本研究が予測する,ルールが持つ無関連な有意刺激の影響を抑える効果は,有意性が相対的に低い刺激に注目させるルールがより有意性の高い刺激への反応に及ぼす影響を調べることで明確にできると考え,色を主題とした。この場合,色一致項目がルールを満たす項目となり,一般的な認識あり条件と対応する。この条件では,カードの数字はルールと無関係な特徴次元となり,数一致項目に対する反応は,不一致項目と異ならないと考えられる。一方,もしルールよりも質問項目と記憶表象の類似性が重要ならば,ルールの適用可能性の違いの効果は見られないであろう。
Example of the experimental stimuli
Note. The numbers were presented in colors, and each color was associated with a number.
なお,本研究は,科学警察研究所人を対象とする研究倫理審査委員会による承認を受けて実施した(承認番号:2019014)。
参加者 実験協力に同意した成人44名(男性24名,女性20名,20―40歳,平均32.6±5.5歳)が実験に参加した。実験参加への謝礼として,交通費を含めた7,000円相当のインターネットショップポイントが支払われた。
刺激と装置 0から9までの数字を,奇数と偶数に分けて5項目の質問表とした。奇数は赤・緑・ピンク・黄・青,偶数は紫・水色・オレンジ・茶・黄緑の何れかの色とし,数字と色の組み合わせをそれぞれ2通り作成した。また,後述する緩衝項目として,奇数の質問表では黒もしくは白の11と13,偶数では10と12を用いた。
デジタルポリグラフ装置(PTH-347Mk3,ティアック)を用いて,SC,HR,NPV,呼吸運動を測定・記録した。SCは,参加者の非利き手の第2・3指末節にディスポ電極(PPS-EDA,ティアック)を装着し,0.5 Vの定電圧回路を用いて導出した。信号に5Hzのハイカット・フィルターをかけて,皮膚伝導度水準を測定したほか,時定数6sのフィルターを適用した信号からSCRを計測した。HRは,両足首と右手首にディスポ電極(F-150S,日本光電)を装着し,時定数0.1s,30Hzのハイカット・フィルターを通して導出した心電図のR-R間隔時間に基づいて,拍動ごとにオンラインで算出した。NPVは,非利き手第4指末節に透過型指尖容積脈波のプローブを装着し,時定数0.3sで増幅した信号から求めた各拍動の脈波振幅を,同一心周期の直流値の平均で除した値として求めた。呼吸運動は,参加者の胸部と腹部それぞれにアネロイド・ベローズ型ピックアップを装着して計測した。サンプリング周波数は,1kHzであった。
手続き 実験は個別にシールドルーム内で行った。電極やトランスデューサを装着後,参加者に封筒に入ったカードを1つ選ばせ,実験者に見えないよう確認して数字の種類・色を記憶してもらった。続いて,参加者が選んだカードについて質問すること,参加者は質問に対して全て「いいえ」と口頭で返答し,選んだカードが何かを隠すつもりで検査を受けるよう教示した。
続くCITでは,2つの質問表を適用不可能条件,適用可能条件にそれぞれ割り当てて実施した。奇数・偶数と条件の組み合わせ,条件の実施順序は参加者によって異なった。質問項目は,画像と音声で提示した。最初に,質問として尋ねる質問項目の画像の一覧を,参加者の前方に設置したモニターで示した。適用不可能条件では,検査の目的は参加者が選んだカードが何かを調べることであり,この中に選んだカードがあるかどうか,あるとすればどれかを調べることを告げた。適用可能条件では,検査の目的は参加者が何色のカードを選んだかを調べることであると告げた。また,質問された数字の色が選んだカードの色と同じであれば,たとえ数字が違っていてもそれが正解であることを教示した。質問表の全項目を一通り提示することをもって1セットとし,提示順序を変えて5セット実施した。各セットは,「選んだカードについて尋ねます」(適用不可能条件)もしくは「選んだカードの色について尋ねます」(適用可能条件)というリード文の提示に始まり,6項目の提示が続いた。最初の項目は緩衝項目であった。各項目の画像は5s間提示され,オンセットとあわせてスピーカーで,緩衝項目では「選んだのはこれですか」,それ以外は「これですか」と尋ねた。画像刺激オフセットから次のオンセットまでの間隔は,25sであった。
第5セット終了後,参加者は実際に選択したカードの数字と色を,回答用紙の選択肢から選んで回答した。さらに,CITの質問に選択したカードと同一の質問項目があったかを,「はい・いいえ」で回答させた。回答が「いいえ」の場合,参加者の色一致項目や数一致項目への気づきを確認するため,同じ色,同じ数字の項目があったか,またあったと回答した場合は,それぞれの項目が気になったかを全て「はい・いいえ」で回答させた。両方の項目が気になったと回答した場合には,より気になった方を「色・数字」から選択する形式で回答させた。記入終了後,休憩をはさんで別の条件をカード選択以降同じ手続きで実施した。
実験室の平均気温は,23.66℃(SD=0.60℃)であった。
データ分析 SCRは,質問提示後5s以内に生起した0.03μS以上の変化の最大振幅に1を加えて対数変換した。基準未満の変化は,0とした。呼吸運動は,胸部から導出したものを解析対象とし,呼吸サイクルごとの呼吸曲線の軌跡長を当該呼吸周期で除し,呼吸曲線長とした(Matsuda & Ogawa, 2011)。
SCR,質問提示時点を基準として5s以降15sまでの10s間のHRと呼吸曲線長,5s以降10sまでの5s間のNPVの平均値を分析対象とした。本研究では,生理反応にみられる個人間・個人内の変動を踏まえ,渋谷他(2023)を参考に,以下の式(1)のような構造を持つ階層ベイズモデリングによる分析を行った。
y(cpsi)~N[0,∞)(α(cp)+βC(cp)xC(cpsi)+βN(cp)xN(cpsi),σε(cp)) (1)
α(cp)~N[0,∞)(α(p),σαC)
α(p)~N[0,∞)(μ,σα)
βC(cp)~N(δC(c),σβC(c))
βN(cp)~N(δN(c),σβN(c))
σε(cp)~N[0,∞)(χ(c),η(c))
ここで,y(cpsi)は条件cの質問表実施時のセットsの項目iへの参加者pの反応,α(cp)は,条件cにおける参加者pの生理反応の基線,βC(cp)は色一致項目,βN(cp)は数一致項目に対する弁別的反応の大きさ,xC(cpsi)とxN(cpsi)はそれぞれ色一致と数一致項目で1,それ以外で0をとる指示変数である。また,N(A,B) とN[0,∞)(A,B) は,位置パラメータA,尺度パラメータBの正規分布と切断正規分布である。条件(適用可能条件・適用不可能条件)は参加者内要因であるため,参加者ごとに条件間の基線の類似性を仮定した。事前分布について,μとχ(c)はN[0,∞)(0,10000) ,δC(c)/σβC(c)とδN(c)/σβN(c)は範囲‒5から5の一様分布,σαC,σα,σβC(c),σβN(c),η(c)は位置パラメータ0,尺度パラメータ100の半コーシー分布に従うとした。なお,δC(c)/σβC(c)とδN(c)/σβN(c)は,弁別的反応の大きさに関する標準化された平均値差に該当する。測定単位が任意である呼吸曲線長の値は,参加者ごとに色一致・数一致項目以外の項目の平均値で除し,各参加者の生理反応の基線の期待値を1とすることで参加者間の比較を可能とした。また,モデルも基線に個人差を仮定せず,y(cpsi)~N[0,∞)(μ+βC(cp)xC(cpsi)+βN(cp)xN(cpsi),σε(cp)) と修正した。ただし,先行研究(小林,2011など)との比較や不一致項目の値を示すため,後掲のFigure 2およびFigure 3では刺激提示前2sから20sまでの全てのデータポイントをセットごとに標準化した後,分析対象区間を切り出した値を用いた。上記手法を用いることで,元の測定単位のまま個人間・個人内の変動を考慮した分析が可能となる。
Averages of physiological measures in Experiment 1
Note. Bars indicate standard errors. See the table note for abbreviations.
a SCR values were log-transformed in statistical analyses.
Averages of physiological measures in Experiment 2
Note. Bars indicate standard errors. See the table note for abbreviations.
a SCR values were log-transformed in statistical analyses.
パラメータの事後分布の推定には,マルコフ連鎖モンテカルロ法の一種であるハミルトニアンモンテカルロ法(Neal, 2011)を用いた。15本の連鎖において,最初の5,000ステップをウォームアップ期間として破棄した後,サンプリング間隔50で2,000回のサンプリングを行い,各パラメータにつき30,000個の事後サンプルを得た。連鎖の収束は,トレースプロットの目視と統計量
手続き上のミスやノイズの混入(2名),および黄緑のカードを選択した参加者(6名)で,黄緑の質問項目がなかったと答えた参加者(3名)を除外した。また,各指標の分析では,どちらかの条件で0.03μS以上のSCRが10個以下であったケースや,生理反応の適切な定量化に支障を来すノイズのあるケースを目視で確認して除いた。変数別の有効データ数を,Table 1に示す。
Summary of estimated magnitude and effect size of differential responses
Color Cong. | Number Cong. | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
Measure | Condition | δ_C | ES | δ_N | ES | ||||
Note. Color cong.: color-congruent item; Number cong.: number-congruent item; SCR: skin conductance response; HR: heart rate; NPV: normalized pulse volume; RLL: respiratory line length; ES: effect size. The symbols δs represent posterior modes of magnitude of differential responses for the color congruent item (δ_C) and the number congruent item (δ_N), respectively. The values within parentheses indicate a 95% credible interval. An asterisk is used to signify that a given δ value did not include zero within its 95% credible interval. The ES values were computed based on δ/σβ. | |||||||||
Experiment 1 | |||||||||
SCR(log μS) | Workable | 0.075 * | 0.920 | ‒0.001 | ‒0.400 | ||||
(n = 28) | [0.021, 0.137] | [0.066, 3.831] | [‒0.081, 0.027] | [‒4.997, 1.355] | |||||
Unworkable | 0.030 | 0.576 | 0.061 * | 0.802 | |||||
[‒0.014, 0.071] | [‒0.407, 4.983] | [0.011, 0.118] | [0.024, 4.230] | ||||||
HR(bpm) | Workable | ‒0.849 * | ‒1.679 | 0.000 | 0.179 | ||||
(n = 38) | [‒1.294, ‒0.434] | [‒4.888, ‒0.823] | [‒0.255, 0.454] | [‒3.069, 4.999] | |||||
Unworkable | ‒0.244 | ‒0.597 | ‒0.001 | ‒0.370 | |||||
[‒0.664, 0.113] | [‒5.000, 0.790] | [‒0.444, 0.259] | [‒4.988, 3.319] | ||||||
NPV | Workable | ‒0.078 * | ‒1.209 | 0.000 | ‒0.093 | ||||
(n = 39) | [‒0.142, ‒0.015] | [‒4.760, ‒0.371] | [‒0.062, 0.048] | [‒4.996, 2.994] | |||||
Unworkable | 0.000 | 0.053 | 0.000 | ‒0.432 | |||||
[‒0.042, 0.045] | [‒4.136, 4.529] | [‒0.064, 0.029] | [‒4.999, 2.752] | ||||||
RLL | Workable | ‒0.036 * | ‒0.546 | 0.000 | ‒0.158 | ||||
(n = 32) | [‒0.067, ‒0.005] | [‒1.620, 0.036] | [‒0.023, 0.018] | [‒4.995, 3.431] | |||||
Unworkable | 0.000 | ‒0.070 | 0.000 | ‒0.284 | |||||
[‒0.029, 0.017] | [‒4.997, 1.843] | [‒0.027, 0.014] | [‒4.999, 2.877] | ||||||
Experiment 2 | |||||||||
SCR(log μS) | 0.094 * | 0.993 | 0.000 | 0.072 | |||||
(n = 24) | [0.043, 0.154] | [0.173, 3.947] | [‒0.035, 0.044] | [‒3.013, 4.995] | |||||
HR(bpm) | ‒0.917 * | ‒2.309 | ‒0.336 | ‒0.581 | |||||
(n = 40) | [‒1.354, ‒0.443] | [‒4.987, ‒1.144] | [‒0.812, 0.101] | [‒4.871, 0.160] | |||||
NPV | ‒0.074 | ‒1.010 | 0.000 | ‒0.625 | |||||
(n = 40) | [‒0.167, 0.002] | [‒3.598, ‒0.104] | [‒0.043, 0.019] | [‒4.997, 2.668] | |||||
RLL | ‒0.046 * | ‒2.156 | 0.000 | ‒0.114 | |||||
(n = 30) | [‒0.074, ‒0.022] | [‒4.989, ‒1.043] | [‒0.026, 0.021] | [‒4.523, 3.663] |
選択したカードと同一の質問項目があると答えた参加者は,いなかった。適用不可能条件では,全参加者が色一致項目の存在に気づき,28名(72%)が「気になった」と回答した。数一致項目の存在は,1名を除く全参加者が気づき,32名(84%)が「気になった」と回答した。さらに,色一致項目と数一致項目の両方を「気になった」と回答した参加者28名中16名(57%)が,色の方が気になったと回答した。適用可能条件では,全員が色一致項目の存在に気づいたが,3名は数一致項目の存在に気づかなかった。数一致項目が気になったと答えた参加者は23名(64%)であった。
事後分布の推定では,全パラメータのトレースプロットに異常がなく,
Figure 2に各変数の条件別・項目別の平均値を,Table 1にはモデル式における不一致項目と比べた色一致・数一致項目への弁別的反応βの参加者全体の期待値のパラメータであるδおよびその効果量の事後期待値を示す。効果量の事後最頻値(Posterior modes of effect size: 以下,ESとする)は,δをβの個人差を示すパラメータσβで除したものである(色一致:δC(c)/σβC(c); 数一致:δN(c)/σβN(c))。適用可能条件では,色一致項目に対して,不一致項目よりも大きなSCR,低い値のHR,NPV,呼吸曲線長が見られ,δC(c=workable)の95%確信区間はいずれも0を含まなかった。一方,適用不可能条件では,数一致項目に対して不一致項目よりも大きいSCRが見られ,δN(c=unworkable)の95%確信区間は0を含まなかった。なお全ての変数で,適用可能条件の数一致項目(δN(c=workable))と適用不可能条件の色一致項目(δC(c=unworkable))の95%確信区間は,0を含んでいた。
色一致項目・数一致項目の弁別的反応の大きさは,条件内・条件間で異なった。適用可能条件の色一致項目への弁別的反応は,同条件の数一致項目,適用不可能条件の色一致項目へのものよりも大きい傾向が見られた。適用可能条件の色一致項目に対する弁別的反応(δC(c=workable))と,数一致項目への弁別的反応(δN(c=workable))の差は,SCRとHRでは95%確信区間が,NPVと呼吸では90%確信区間が,それぞれ0を含まなかった。ES3は,SCRが1.31,HRが2.34,NPVが1.26,呼吸が0.79であった。さらに,色一致項目への弁別的反応のルール間の差(δC(c=workable)とδC(c=unworkable)の差分)について,HRとNPVの95%確信区間が0を含まなかった(HR: ES=1.36; NPV: ES=1.68)。適用可能条件の数一致項目に対するSCRの弁別的反応は,適用不可能条件の同弁別的反応よりも小さく,δN(c=workable)とδN(c=unworkable)の差分の95%確信区間は,0を含まなかった(ES=1.26)。
以上の結果は,質問表の主題が生理反応に影響を及ぼすことを示す。適用不可能条件では,数一致項目に対する弁別的反応が,SCRでのみ生じた。それに対し,適用可能条件では,教示されたルールどおり,色一致項目にのみ全ての変数で弁別的反応が見られた。参加者は選択カードの色に関する記憶に基づいて,質問項目を分類し,文字は無視したことを示唆する。
しかし,適用可能条件の結果は,別の解釈も可能である。本実験では,セット間で色と数字の組み合わせが固定であったため,教示とは異なり,色ではなく数に基づいても項目を分類できた。Figure 1の例でいえば,参加者がルールを「青かどうか」ではなく,選択したカードと同色である「3かどうか」と読み替えても同じ結果になるであろう。数一致項目に気づかなかった参加者がいたことから,この可能性は低いと考えられるが,CITにおけるルールの効果をさらに明らかにするため,実験2を行った。
実験2では,選択したカードの色について尋ねる適用可能条件のみを実施した。またルールの読み替えを防ぐため,質問項目の色と数字の組み合わせを,たとえば第1セットでは青の7,第2セットで青の9のようにセットごとに変更した。この条件下で生じる色一致項目への弁別的反応は,教示に由来するルールに基づくといえるであろう。
方法参加者 成人44名(男性24名,女性20名,21―40歳,平均34±5.1歳)が実験に参加した。実験参加への謝礼は実験1と同じであった。
刺激と装置 刺激には,実験1で用いた奇数の質問表の数字・色のみを用いた。使用した装置や生理指標は,実験1と同じであった。
手続き 実験手続きは,以下に述べる点をのぞき,実験1と同じであった。実験2では,選択したカードの色について尋ねる適用可能条件のみを実施し,提示される数字と色の組み合わせをセットごとに変更した。質問項目についての説明では,灰色の数字と正方形の色見本の一覧を示し,これらの数字と色を組み合わせて提示すること,組み合わせは毎回変わることを伝えた。実験1にあわせて5セットを実施したが,選択したカードと異なる色と数字の組み合わせは4種類しかないため,第5セットは参加者が選択したものと同一の組み合わせを提示し,分析からは除外した。さらに終了後の確認では,選択したカードと同一の質問項目の有無を尋ねる項目を省いたほか,数一致項目が気になった程度について,「全く気にならなかった」を1,「非常に気になった」を7とする7件法で尋ねた。
データ分析 適用可能条件のみ行った実験2では,実験1で構築したモデルを以下の式(2)のように修正したほかは,実験1と同じ分析手続きを用いた。
y(psi)~N[0,∞)(α(p)+βC(p)xC(psi)+βN(p)xN(psi),σε(p)) (2)
α(p)~N[0,∞)(μ,σα)
βC(p)~N(δC,σβC)
βN(p)~N(δN,σβN)
σε(p)~N[0,∞)(χ,η)
結果と考察手続き上のミスやノイズ混入のため,4名の参加者を除外したほか,実験1と同様の理由で,指標ごとのデータを幾つか分析から除いた。最終的な有効データ数を,Table 1に示す。
全参加者が色一致項目の存在に,38名(95%)が数一致項目の存在に気づいた。数一致項目が気になった程度の評定の平均は4.58(SD=1.70)であった。
事後分布の推定では,全てのトレースプロットに異常がなく,
項目別の平均値をFigure 3,色一致・数一致項目のδの事後最頻値をTable 1に示す。実験1と同様,色一致項目に対し他の項目よりも大きなSCR,小さなHR,NPV,呼吸曲線長が見られ,δcはSCR,HRと呼吸の95%確信区間およびNPVの90%確信区間(‒0.153―‒0.004)が0を含まなかった。数一致項目と他の項目との差は,全変数の95%確信区間が0を含んでいた。
以上の結果は,実験1の適用可能条件とほぼ同様であった。弁別的反応は,色一致項目に対してのみ見られた。一方,数一致項目は,参加者にとってある程度気になる刺激であったことが評定値から推測されるが,いずれの生理指標でも不一致項目との差が見られなかった。色一致項目に対する弁別的反応(δC)は,数一致項目に対する弁別的反応(δN)よりも大きく,δCとδNの差はSCRと呼吸の95%確信区間とHRの90%確信区間が0を含まなかった(SCR: ES=1.34; HR: ES=1.17; 呼吸: ES=1.81)。実験2では,色と数の組み合わせが毎回異なるため,ルールの読み替えが不可能であった。これらの結果は,実験1の適用可能条件では参加者が色に基づいて質問項目を区別したという解釈を許容するものである。
本研究ではCITにおいて,質問表の主題として表される質問項目を分類するルールの違いが,生理反応に及ぼす影響を検証した。実験1では,参加者が質問項目を与えられたルールに基づいて分類できる場合のみ,先行研究と一致する自律系指標の弁別的反応が見られた。また,記憶内容と類似した特徴を有する質問項目であっても,その特徴がルールと無関係であれば,弁別的反応は見られなかった。一方,ルールに沿った分類ができない場合,記憶情報と類似した特徴を持つ刺激への弁別的反応が,SCRなど一部の変数で見られた。また,ルールの読み替えの可能性を排除した実験2でも,指定された刺激特徴に基づいた弁別的反応が見られた。
以上の結果は,CIT時の弁別的反応が,記憶のみならず質問の主題に由来するルールにも依存することを示す。CIT研究でしばしば目にする,事件の知識を弁別的反応生起の十分条件とする見方(Ben-Shakhar & Furedy, 1990; Lykken, 1974も参照)では,この質問項目と記憶・知識とを関連づける主題やルールの役割・重要性が見過ごされがちになるかもしれない。また弁別的反応が,検査対象者の持つ記憶情報と,提示される質問項目とを関連づける教示の影響を受けるという結果は,Ogawa et al.(2023)とも一致する。応用的観点では,本研究の結果は,質問表の主題・意図を明確に対象者に伝える重要性を示す。また,適用不可能条件で数一致項目に対するSCRの弁別的反応が見られ,かつこの項目を「気になった」と回答した参加者が多かった点は,気になった項目の事後確認(小林他,2009)の意義を示す。
さらに本研究の結果は,適用可能なルールの存在が,無関係な有意刺激への生理反応を抑える効果を持つことを示唆する。実験1の適用不可能条件では,数一致項目に対するSCRの弁別的反応が見られた。この弁別的反応は,数一致項目を質問の主題に対する答えとして認識した結果とはいえない。一方で適用可能条件では,数一致項目と色一致項目に対するSCRの相対的大きさは逆転し,色一致項目へのSCRは数一致項目・不一致項目よりも大きく,後者の2つに違いがなかった。ルール間で比較しても,適用可能条件の数一致項目に対するSCRは,適用不可能条件よりも小さかった。以上から,色を基準とする実行可能なルールの下では,形態や意味が記銘刺激と似ている点で有意刺激と考えられる数一致項目への反応が抑えられたと考えられる。この結果は,同じく有意刺激である自己関連刺激へのSCRの弁別的反応が,認識あり条件では見られなかった花山他(2011)の結果とも類似する。さらにCIT研究ではないが,課題セット研究では,課題セットが課題に無関連な妨害情報を防御する機能を持つと示唆されている(Dreisbach, 2012)。課題セットとは,課題に関連する刺激や反応,刺激と反応間のルールなど,目標志向行動の実行に必要な情報を含んだ表象とされる(佐伯,2015)。CITにおける認識も,課題セットが形成された状態として同様の効果を持つのかもしれない。
また,実験1の適用不可能条件では,特徴マッチングに基づく予測(Ben-Shakhar & Gati, 1987など)と一致し,選択刺激と共通する特徴を持つ数一致項目提示時に大きなSCRが見られた。しかし,弁別的反応がSCに限定された点は,類似刺激への反応と認識している項目に対する反応では,性質や背景機序が異なる可能性を示唆する。特徴マッチングに関する研究の多くは,SCのみを測定しており,他の指標への適用可能性は不明であった(klein Selle et al., 2018)。本研究の結果は,CITの説明モデルとしての特徴マッチングの適用限界を示唆する。
最後に,今後の課題を幾つか述べる。1つは,本研究で見られたルールの防御機能の一般性である。今回示唆された防御機能が,刺激の能動的区別を求める課題セット一般でも見られるかどうかや,効果の大きさの違い,境界条件の詳細などの解明にはさらなる検討が必要である。2つ目の課題は,質問項目が気になったかどうかに関する参加者の事後回答と,生理活動との不一致である。本研究の半数以上の参加者が,正解ではない色一致項目や数一致項目が「気になった」と回答し,また当初の予測に反し数一致項目よりも色一致項目がより気になると回答した参加者も少なからずいた。しかし,適用不可能条件の数一致項目を除き,これらの項目への弁別的反応は見られなかった。この結果は,言語報告と生理活動の乖離を示唆する。これらの事後回答は,実験操作のチェックのためのものであり,言語報告と生理活動の乖離を示唆する参考情報にとどまる。今後,例えば各質問時に感じた感情を詳細に尋ねることで(小川他,2020も参照),言語報告と生理活動の関係に関する新たな知見が得られるかもしれない。最後は,適用不可能条件の数一致項目に対するSCRの弁別的反応とルールの関係である。この弁別的反応は,数一致項目がルールを一部満たすことに由来するのか,ルールとは無関係に実験の中で目にした刺激と似ているから生じたのかは不明である。この点の検証は,CITにおける弁別的反応の理解をさらに深める上で有意義であろう。
本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。
等々力 奈都:実験実施時の所属は科学警察研究所であった。
1本研究の一部は,日本法科学技術学会第26回学術集会で発表された。
2独立変数の効果の有無の判断方法には,他にベイズファクターによる「モデル比較アプローチ」もある(Rouder et al., 2018)が,ベイズファクターの推定における適切な事前分布の設定と検証が困難であったため,本研究では推定アプローチを採用した。
3条件内の色一致・数一致項目に対する弁別反応量,色一致・数一致項目に対する弁別反応量の条件間の違いのESは,それぞれ以下の式に基づいて算出した。