2026 Volume 97 Issue 3 Pages 131-141
This study investigated the directional influence of prosocial motivation for mask-wearing, which is an infection-prevention behavior, on individuals' subjective well-being and loneliness. I also examined the psychological mechanisms mediating these effects. Two short-term longitudinal studies were conducted using a four-wave weekly panel design. Study 1 (January and February 2024) included 1,301 Japanese adults. Study 2 (January and February 2025) included 1,231 unmarried Japanese employees. Analyses using random-intercept cross-lagged panel models (RI-CLPM) did not detect significant cross-lagged effects of prosocial motivation for mask-wearing. However, cross-lagged panel model analyses (CLPM) showed higher prosocial motivation in the preceding week predicted greater satisfaction of relatedness needs in the subsequent week. This satisfaction was associated with higher positive affect (Studies 1 and 2) and reduced loneliness (Study 2). Therefore, prosocial motivation demonstrated significant, although weak, indirect effects through relatedness satisfaction. In the discussion, I consider the influence of prosocial motivation for mask-wearing on emotional well-being and interpersonal experiences through a comparison of the RI-CLPM and CLPM results.
2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは,日常的に感染予防(例えば,マスク着用,手指の消毒)を行う生活を私たちにもたらした。その中で,心理学では,感染予防行動と個人の幸福(well-being)や孤独感(loneliness)との関連が検討されるようになった(例えば,Inagaki et al., 2022)。COVID-19のパンデミックが収束して以降の社会では,日常的に感染予防を行う必要性は低下傾向にある(例えば,Miura et al., 2024)。しかし,日常生活の中で,感染予防を必要とする状況がなくなったわけではない。本研究は,COVID-19パンデミックの経験を経て,以前よりも日常的な行動となった感染予防行動が,本人の幸福および孤独感に及ぼす影響とその心理プロセスを検討する。日本において日常的な感染予防行動であるマスク着用を取り上げ,個人の主観的幸福感(subjective well-being)の指標の1つであるポジティブ感情(Diener, 1984),そして,孤独感との関連を,2つの短期縦断調査によって検討する。本研究は,COVID-19パンデミック以降の社会で私たちの幸福な生活に寄与する心理について,マスク着用という感染予防行動がもたらす影響を詳細に検討する点で意義がある。
感染予防行動と個人の幸福および孤独感との関連COVID-19パンデミックが個人の幸福や孤独感にもたらす影響については多数の研究が行われてきた(例えば,COVID-19 Mental Disorders Collaborators, 2021; Ernst et al., 2022)。その中で,COVID-19パンデミック下で必要不可欠な行動となった感染予防と本人の幸福や孤独感との関連も検討されている。感染予防行動の重要な特徴は,自分が感染しないためという自己利益を志向した行動であると同時に,他者を感染させないため,社会に感染を広げないためという向社会的な動機に基づく行動でもある点にある(例えば,宮崎,2024; 宮崎他,2021; Nelson-Coffey et al., 2021)。社会心理学の領域では,ある行動が他者に利益をもたらすためという向社会的動機に基づくものである場合に,その恩恵提供者の幸福は高まりやすく,良好な人間関係が築かれやすいことが明らかになっている(Crocker et al., 2017)。そのため,感染予防行動と本人の幸福や孤独感との関連を検討するうえで,感染予防行動の向社会的動機に注目することが特に有用である。
感染予防行動の向社会的動機に注目し,本人の幸福との関連を検討した初期の研究として,宮崎他(2021)とNelson-Coffey et al.(2021)があげられる。宮崎他(2021)の日誌法研究(2020年9月と10月に日本で実施)では,マスク着用の動機として,向社会的動機(他者が感染するのを防ぐため,他者を安心させるためといった,他者の福利を促進するという動機),自己利益志向的動機(自分が感染するのを防ぐため,自分が安心するためといった,自己の福利を促進するという動機),他者の評価の懸念(マスクを着用しないことで他者から否定的に評価されることを避けるという動機)を測定し,向社会的動機が強い日ほど,その日のポジティブ感情が強いという日レベルの正の関連を明らかにしている。Nelson-Coffey et al.(2021)の横断研究(2020年4月に米国で実施)では,ソーシャルディスタンスの動機について,向社会的動機と自己利益志向的動機を測定し,ポジティブ感情を含む複数の幸福の指標との関連を検討している。しかし,Nelson-Coffey et al.(2021)では,向社会的動機と幸福の指標との関連は認められていない。
これらの研究の不一致について,宮崎(2024)は,感染予防行動の動機の向社会的な側面を弁別して測定するための妥当性が検証された尺度が用いられていない問題を指摘している。そこで宮崎(2024)は,マスク着用における向社会的動機を,感染予防を目指すという点で共通する自己利益志向的動機,他者を意識しているという点で共通する他者の評価の懸念という動機と弁別して測定するための尺度を作成し,その妥当性を検証している。宮崎(2024)の横断研究(2023年2月に日本で実施)では,まず,過去1週間のマスク着用の向社会的動機は,他の2つの動機を統制したうえで,本人の特性的な向社会性との正の関連が認められた。そして,過去1週間のマスク着用における向社会的動機は,本人のポジティブ感情および協調的幸福感(interdependent happiness)と正の偏相関を持つことが明らかになった。同じ尺度を用いた宮崎(2025)の横断研究(2024年3月に日本で実施)では,探索的分析の中で,過去1週間のマスク着用の向社会的動機は,他の2つの動機を統制したうえで,本人の孤独感との負の関連が認められている。これらの知見は,マスク着用という感染予防行動の向社会的な性質が,本人の主観的幸福感の高さや孤独感の低さとの関連をもたらす鍵となることを示している。
上述した宮崎他(2021)と宮崎(2025)では,マスク着用における向社会的動機とポジティブ感情および孤独感との関連を媒介する変数として,人間の基本的心理欲求の1つとされる関係性欲求(Ryan & Deci, 2017)の充足の関与が認められている。関係性欲求とは,他者とお互いのことを気にかけ,支え合うつながりを持ちたいという欲求である(Ryan & Deci, 2017)。自己決定理論(self-determination theory; Ryan & Deci, 2017)に基づく研究によると,関係性欲求を含めた3つの基本的心理欲求(残りの2つは,自律性欲求と有能性欲求)が充足されることは主観的幸福感を高め(Weinstein & Ryan, 2010),孤独感の低下と結びつく(Adams & Weinstein, 2024)。また,3つの基本的心理欲求の充足は,向社会的行動が幸福を高めるための媒介変数となる(Weinstein & Ryan, 2010)。これらの知見と一貫して,宮崎他(2021)では,マスク着用における向社会的動機が強い日ほど,関係性欲求が充足されやすく,それを介して,その日のポジティブ感情が強まるという間接効果が認められている。また,宮崎(2025)では,過去1週間のマスク着用における向社会的動機が強かった人ほど,同じ週に関係性欲求が充足されやすく,それを介して,孤独感が弱いという間接効果が認められている。
ただし,宮崎(2024, 2025; 宮崎他,2021)の研究は,マスク着用における向社会的動機と主観的幸福感および孤独感との関連を横断的に検討しているという大きな限界がある。同様の限界は,感染予防行動と個人の幸福や孤独感との関連を検討してきた他の先行研究にもあてはまる(例外として,Inagaki et al., 2022)。加えて,感染予防行動およびその動機と個人の幸福や孤独感との関連を媒介するプロセスについて,縦断的に検討した研究はまだ行われていない。向社会的動機によって行われた感染予防行動が,ポジティブ感情の増進や孤独感の低減に寄与するのか,また,寄与するのであればどのような心理プロセスによるのかという疑問は,未解決といえる。
本研究の目的と概要本研究は,2つの短期縦断調査を実施し,マスク着用における向社会的動機と本人の幸福および孤独感との関連,そして,その関連を媒介する心理プロセスについて,影響の方向性を明確にすることを試みる。研究1では,外出時のマスク着用の向社会的動機とポジティブ感情との関連,そして,その関連を関係性欲求充足が媒介するプロセスについて検討する。研究2では,マスク着用の状況を職場での着用に限定したうえで,研究1の結果の再現性を確認する。加えて,研究2では,マスク着用の向社会的動機と孤独感との関連についても検討する。
マスク着用の向社会的動機が本人の幸福や孤独感に及ぼす影響をモデル化する際は,向社会的動機の個人内変化がその後の幸福感や孤独感の個人内変化をもたらすという個人内関係と,向社会的動機の特性的な個人差がその後の主観的幸福感や孤独感を説明するという個人間関係の両方を想定できる。個人内関係を推定するためのモデルとしては,ランダム切片交差遅延パネルモデル(random-intercept cross-lagged panel model: RI-CLPM; Hamaker et al., 2015)を用いることができる。
RI-CLPMは,交差遅延パネルモデル(CLPM)と同様,縦断データに適用されるモデルである。過去(t‒1)の測定値であるラグ付き変数から,現在(t)の同じ変数への効果である自己回帰係数(autoregressive coefficients)と現在の別の変数への効果である交差遅延係数(cross-lagged coefficients)を推定する。RI-CLPMでは,時間的に安定した個人差を反映する成分である特性因子(stable trait factor)をランダム切片としてモデルに含め,その影響を統制するため,各個人の期待値からの偏差としての個人内変動の間の関係を調べることができる(Hamaker et al., 2015; 宇佐美,2022)。RI-CLPMでは,過去の向社会的動機から現在のポジティブ感情経験への交差遅延係数は,ある個人の過去の向社会的動機が1単位上昇したときに期待される過去から現在への本人のポジティブ感情経験の個人内変動の増分を意味する(宇佐美,2022)。
RI-CLPMの制約として,特性的な個人差について交差遅延効果を検討できないことが指摘されている(Orth et al., 2021)。特性因子間の相関に注目することで,各変数の個人差間の関係は検討できるが,その影響の方向性は明らかにできない。そこで本研究は,個人間関係が含まれる交差遅延効果について示唆を得るためにCLPMも併用する。CLPMでは,過去(t‒1)のマスク着用の向社会的動機から現在(t)のポジティブ感情経験への交差遅延係数は,過去のポジティブ感情経験の値が同じである仮想的な集団を想定したうえで,過去の向社会的動機が1単位上昇したときに期待される現在のポジティブ感情経験の増分を表す(宇佐美,2022)。CLPMの交差遅延係数は,個人間関係と個人内関係が混在している(Hamaker et al., 2015)ため,純粋に個人間関係を反映した効果とはいえない。しかし,RI-CLPMで示される個人内関係の交差遅延効果や特性因子間の相関の結果と合わせて考察することで,マスク着用の向社会的動機の個人差が次の時点の主観的幸福感や孤独感を説明するという影響が含まれることについて示唆を得ることは可能と考えられる。
研究1では,過去1週間の外出時のマスク着用の動機,過去1週間の感情経験,過去1週間の基本的心理欲求充足について,4週間にわたって週に1度のパネル調査を行う。研究1で検証する仮説は次のとおりである。過去1週間の外出時のマスク着用における向社会的動機が強いほど,翌週のポジティブ感情経験が多い(仮説1-1)。マスク着用における向社会的動機がポジティブ感情に及ぼす正の影響は,関係性欲求充足によって媒介される。つまり,過去1週間の外出時のマスク着用における向社会的動機が強いほど,翌週に関係性欲求が充足されやすく,そして,関係性欲求が充足されるほど,その翌週のポジティブ感情経験が多い(仮説1-2)。上記の仮説をRI-CLPMとCLPMを用いて検証する。
方法サンプルサイズ設計 RI-CLPMのほうがCLPMよりも回帰係数の標準誤差が大きくなる傾向にあり(例えば,宇佐美,2022),より大きなサンプルサイズが必要になることが想定された。そこで本研究はRI-CLPMを念頭にサンプルサイズを設計した。Mulder(2023)のシミュレーション結果によると,4時点データのRI-CLPMにおいて,それぞれの変数のICC=.50であるときに,α=.05,1-β=.80で,小さな交差遅延効果を検出するために必要なサンプルサイズは1,600であった。Directed Question Scale(DQS)への不正反応や,マスク着用の動機尺度への未回答によって,分析対象者が減少することを想定したうえで,調査のために使用できる予算で収集可能であった2,000名×4時点のデータを得る計画とした。
参加者 調査会社(クロス・マーケティング社)の調査モニターに対してスクリーニング調査を実施した1。「現在,外出時にどのくらいの頻度でマスクを着用していますか?」という質問に,「たまにしている」,「ときどきしている」,「ほぼ毎回している」,「毎回している」のいずれかを回答した20代から50代の日本人成人を対象に,4時点の縦断調査を実施した。2,045名(男性1,004名,女性1,025名,答えない16名)が4時点すべての調査に回答した2。各回の調査に含めたDQSに正反応しなかった718名,すべての時点でマスク着用の動機尺度に未回答であった26名を除き,1,301名(男性618名,女性680名,答えない3名)を分析対象とした(平均年齢=41.31歳,SD=10.89)。
手続き 2024年1月中旬から2月上旬の毎週金曜日(2024年1月12日,1月19日,1月26日,2月2日)の17時に,参加者にweb調査へのリンクを送信し,可能な限り当日中に回答するように依頼した。調査の回答開始ページで,調査への回答は自由意志に基づくものであること,答えたくない項目や答えにくい項目に無理に回答する必要はないこと,回答を始めたあとで自分の意志に基づき回答を途中で辞めることができること,調査によって個人が特定されることはないことを説明した。これらの説明に同意をした人に調査への回答を依頼した。
各時点の調査では,まず,外出時のマスク着用に関する質問として,「あなたは過去1週間に,外出時にどのくらいの頻度でマスクを着用しましたか?」と尋ねた。この質問に,「たまにした」,「ときどきした」,「ほとんど毎回した」,「毎回した」のいずれかを回答した人に対して,マスク着用の動機を測定する尺度に回答を求め,「全くしなかった」と回答した人は回答がスキップされた。その後,過去1週間の基本的心理欲求の充足と感情経験を測定する尺度に回答を求めた。それぞれの尺度の中で各項目の提示順はランダマイズした。
研究1は,学習院大学研究倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号:2023070)。
測度 過去1週間の外出時のマスク着用の動機を測定するため,宮崎(2024)が作成した尺度を用いた(20項目)。この尺度は,感染予防行動としてのマスク着用の動機について,向社会的動機(「自分が原因で他の人の仕事や生活に支障が出ないようにするため」など9項目),自己利益志向的動機(「自分がウイルスに感染しないため」など4項目),他者の評価の懸念(「周りの人の目が気になるため」など7項目)の3つの側面を測定する尺度であった。それぞれの項目について,過去1週間に外出時にマスクを着用した理由としてどのくらいあてはまるかを,7件法(1. 全くあてはまらない―7. とてもあてはまる)で回答を求めた。研究1では,マスク着用の動機尺度の中に,DQSの項目(この質問には「どちらかといえばあてはまらない」を回答してください)を含めた。
過去1週間の基本的心理欲求充足を測定するため,Chen et al.(2015)の尺度の邦訳版(Nishimura & Suzuki, 2016)を用いた(12項目)。過去1週間の欲求充足を測定するため,オリジナル項目の語尾を過去形に変更した。この尺度は,関係性欲求充足(4項目),自律性欲求充足(4項目),有能性欲求充足(4項目)の3つを測定する尺度であった。過去1週間の生活での自分にどのくらいあてはまるかを,7件法(1. 全くあてはまらない―7. とてもあてはまる)で回答を求めた。
過去1週間の感情経験を測定するために,Watson et al.(1988)の尺度(Positive and Negative Affect Schedule: 以下,PANASとする)を邦訳した日本語版PANAS(川人他,2012)を用いた。参加者が同じ尺度に複数回回答することの負担を考慮し,宮崎(2024)のデータの探索的因子分析の結果に基づき,因子負荷量の高かった5項目ずつを選出した。ポジティブ感情を測定する5項目(「活気のある」,「やる気のわいた」,「誇らしい」,「興味のある」,「興奮した」)とネガティブ感情を測定する5項目(「おびえた」,「うろたえた」,「恐れた」,「苦悩した」,「神経質な」)について,過去1週間にそれぞれの気分をどのくらい体験したかを,6件法(1. 全くなかった―6. いつもそうだった)で回答を求めた。
結果と考察本研究の分析には,R(version 4.4.3; R Core Team, 2025)のpsychパッケージ(version 2.4.6.26; Revelle, 2024)とlavaanパッケージ(version 0.6.19; Rosseel, 2012),そしてMplus 8.10(Muthén & Muthén, 1998―2023)を用いた3。
尺度構成 マスク着用の動機尺度(3因子モデル),基本的心理欲求充足尺度(3因子モデル),PANASから選出した10項目(2因子モデル)のそれぞれについて,4時点間の測定不変性を確認的因子分析によって検証した。分析の際は,すべての因子間に相関を仮定するとともに,同じ項目の残差に時点間の相関を仮定した。配置不変モデルを基準として,CFIの低下が.01以下,RMSEAの増加が.015以下であった場合は,弱測定不変あるいは強測定不変モデルを採用した(浅野他,2023; Chen, 2007)。
その結果,いずれの尺度についても4時点間の強測定不変性が確認された(マスク着用の動機尺度について,配置不変モデルの適合度の値から強測定不変モデルの値を減じた差は,ΔCFI=‒.001, ΔRMSEA=‒.001; 基本的心理欲求充足尺度は,ΔCFI=‒.001, ΔRMSEA=.000; PANASの10項目は,ΔCFI=‒.001, ΔRMSEA=.000)。すべての下位尺度について高い信頼性が認められた(αs>.85)ため,それぞれの平均得点を算出した。
RI-CLPMによる仮説検証 仮説1-1を検証するため,1時点前(t‒1)のマスク着用の3つの動機とポジティブ感情が次の時点(t)のマスク着用の3つの動機とポジティブ感情に及ぼす影響について,RI-CLPMによる構造方程式モデリング(最尤法)を実施した4。自己回帰係数,交差遅延係数,残差間の共分散には,時点間で時不変の仮定を置いた。マスク着用の3つの動機間の交差遅延係数は0とした。性別と年齢の影響をモデル化するため,性別と年齢から各変数の特性因子へのパスを仮定した5。性別と年齢から各変数の個人内変動へのパスを仮定した場合,標準誤差が極端に大きくなるパスが生じたため,これらのパスは仮定しなかった。分析の際は,欠測値に対して完全情報最尤法による推定を行った6。モデルの適合度指標は,χ2(112)=382.28, p<.001, CFI=.986, RMSEA=.043(90%CI[.038, .048]),SRMR=.050, AIC=46705.56, BIC=47077.70であり,良好な適合度を示していた。Table 1に示されるように,仮説1-1に反して,マスク着用の向社会的動機からポジティブ感情への交差遅延係数は有意でなかった(3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.02)。マスク着用の向社会的動機とポジティブ感情の特性因子間には有意な正の相関(r=.19, p<.001, 95%CI[.13, .25])が認められた7。
Cross-lagged effects in RI-CLPM (Study 1 and 2)
| Note. n of Study 1 = 1,298; n of Study 2 = 1,227. B = unstandardized coefficient. Prosocial = Prosocial motivation. Self = Self-interested focus motivation. Concern = Concern for others’ criticism. PA = Positive affect. LON = Loneliness. REL = Relatedness satisfaction. | ||||||||||||
| PA (t) | LON (t) | REL (t) | ||||||||||
| B | 95 %CI | p | B | 95 %CI | p | B | 95 %CI | p | ||||
| Prosocial (t-1) | Study 1 | 0.02 | [‒0.02, 0.07] | .332 | ― | ― | ― | ‒0.06 | [‒0.12, 0.01] | .091 | ||
| Study 2 | 0.00 | [‒0.04, 0.05] | .849 | ‒0.01 | [‒0.03, 0.02] | .519 | 0.01 | [‒0.05, 0.08] | .668 | |||
| Self (t-1) | Study 1 | ‒0.04 | [‒0.08, 0.00] | .071 | ― | ― | ― | 0.02 | [‒0.04, 0.07] | .579 | ||
| Study 2 | ‒0.01 | [‒0.05, 0.03] | .661 | ‒0.01 | [‒0.04, 0.01] | .206 | ‒0.00 | [‒0.06, 0.06] | .923 | |||
| Concern (t-1) | Study 1 | 0.01 | [‒0.03, 0.05] | .651 | ― | ― | ― | ‒0.01 | [‒0.07, 0.04] | .666 | ||
| Study 2 | ‒0.02 | [‒0.05, 0.02] | .425 | 0.02 | [‒0.01, 0.04] | .150 | ‒0.12 | [‒0.17, ‒0.06] | < .001 | |||
| Prosocial (t) | Self (t) | Concern (t) | ||||||||||
| B | 95 %CI | p | B | 95 %CI | p | B | 95 %CI | p | ||||
| PA (t-1) | Study 1 | ‒0.03 | [‒0.09, 0.02] | .232 | ‒0.05 | [‒0.10, 0.00] | .070 | 0.00 | [‒0.06, 0.06] | .992 | ||
| Study 2 | 0.03 | [‒0.03, 0.09] | .306 | ‒0.03 | [‒0.09, 0.03] | .356 | ‒0.04 | [‒0.10, 0.03] | .258 | |||
| LON (t-1) | Study 1 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ||
| Study 2 | 0.01 | [‒0.10, 0.11] | .860 | 0.08 | [‒0.03, 0.19] | .167 | 0.01 | [‒0.11, 0.13] | .891 | |||
| REL (t-1) | Study 1 | ‒0.03 | [‒0.06, 0.01] | .215 | 0.04 | [0.00, 0.08] | .046 | 0.00 | [‒0.04, 0.04] | .910 | ||
| Study 2 | ‒0.05 | [‒0.08, ‒0.01] | .014 | ‒0.01 | [‒0.05, 0.03] | .563 | ‒0.06 | [‒0.11, ‒0.02] | .006 | |||
次に,ポジティブ感情を関係性欲求充足に変えて同様の分析を行ったところ,モデルの適合度指標は,χ2(112)=397.44, p<.001, CFI=.985, RMSEA=.044(90%CI[.040, .049]), SRMR=.051, AIC=50274.56, BIC=50646.70であり,良好な適合度を示していた。Table 1に示されるように,マスク着用の向社会的動機から関係性欲求充足への交差遅延係数は有意でなかった(3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=‒.05)。そのため,仮説1-2も支持されなかったと判断し,関係性欲求充足を媒介変数とする分析は行わなかった。マスク着用の向社会的動機と関係性欲求充足の特性因子間には有意な正の相関(r=.34, p<.001, 95%CI[.28, .39])が認められた8。
CLPMによる仮説検証 仮説1-1についてCLPMを用いて検証した。自己回帰係数,交差遅延係数,残差間の共分散についての仮定は上記のRI-CLPMと同様であった。また,性別と年齢から各時点のそれぞれの変数へのパスを仮定した。その際,同じ変数へのパスには時不変の仮定を置いた。モデルの適合度指標は,χ2(122)=1886.71, p<.001, CFI=.909, RMSEA=.106(90%CI[.101, .110]),SRMR=.068, AIC=48189.99, BIC=48510.45であり,適合度は良好とはいえなかった。そこで修正指標を参照して,自己回帰係数に2次のラグも仮定するモデルに修正した。本研究の縦断データは時点幅が短かったことを考慮すると,この修正は妥当と考えられた。修正モデルの適合度指標は,χ2(118)=672.41, p<.001, CFI=.971, RMSEA=.060(90%CI[.056, .065]), SRMR=.077, AIC=46983.70, BIC=47324.83であり,SRMRを除いて改善し(尤度比検定は,χ2(4)=1214.29, p<.001),概ね良好な適合度を示していた。そのため,この修正モデルを採用した。Table 2に示されるように,仮説1-1に反して,マスク着用の向社会的動機からポジティブ感情への正の交差遅延係数は有意でなかった(3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.03)。
Cross-lagged effects in CLPM (Study 1 and 2)
| Note. n of Study 1 = 1,298; n of Study 2 = 1,227. B = unstandardized coefficient. Prosocial = Prosocial motivation. Self = Self-interested focus motivation. Concern = Concern for others’ criticism. PA = Positive affect. LON = Loneliness. REL = Relatedness satisfaction. | ||||||||||||
| PA (t) | LON (t) | REL (t) | ||||||||||
| B | 95 %CI | p | B | 95 %CI | p | B | 95 %CI | p | ||||
| Prosocial (t-1) | Study 1 | 0.02 | [‒0.00, 0.04] | .063 | ― | ― | ― | 0.03 | [0.00, 0.06] | .042 | ||
| Study 2 | 0.02 | [0.00, 0.04] | .024 | ‒0.01 | [‒0.03, ‒0.00] | .022 | 0.05 | [0.02, 0.08] | .001 | |||
| Self (t-1) | Study 1 | ‒0.00 | [‒0.02, 0.02] | .870 | ― | ― | ― | ‒0.00 | [‒0.03, 0.02] | .842 | ||
| Study 2 | 0.01 | [‒0.01, 0.03] | .238 | ‒0.00 | [‒0.01, 0.01] | .926 | ‒0.02 | [‒0.05, 0.01] | .138 | |||
| Concern (t-1) | Study 1 | ‒0.01 | [‒0.02, 0.01] | .404 | ― | ― | ― | ‒0.02 | [‒0.04, 0.00] | .080 | ||
| Study 2 | ‒0.01 | [‒0.03, 0.01] | .170 | 0.01 | [0.00, 0.02] | .014 | ‒0.04 | [‒0.07, ‒0.02] | < .001 | |||
| Prosocial (t) | Self (t) | Concern (t) | ||||||||||
| B | 95 %CI | p | B | 95 %CI | p | B | 95 %CI | p | ||||
| PA (t-1) | Study 1 | 0.02 | [‒0.00, 0.05] | .060 | 0.01 | [‒0.02, 0.04] | .451 | 0.02 | [‒0.01, 0.04] | .250 | ||
| Study 2 | 0.06 | [0.03, 0.09] | < .001 | 0.03 | [0.01, 0.06] | .020 | 0.04 | [0.01, 0.07] | .013 | |||
| LON (t-1) | Study 1 | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ― | ||
| Study 2 | ‒0.04 | [‒0.08, ‒0.01] | .019 | 0.00 | [‒0.04, 0.04] | .960 | ‒0.02 | [‒0.06, 0.02] | .379 | |||
| REL (t-1) | Study 1 | 0.03 | [0.01, 0.05] | .001 | 0.04 | [0.02, 0.06] | < .001 | 0.01 | [‒0.00, 0.03] | .148 | ||
| Study 2 | 0.03 | [0.02, 0.05] | < .001 | 0.02 | [0.00, 0.04] | .047 | 0.03 | [0.01, 0.05] | .005 | |||
次に,ポジティブ感情を関係性欲求充足に変えて同じ修正モデルで分析を行ったところ,適合度指標は,χ2(118)=662.86, p<.001, CFI=.972, RMSEA=.060(90%CI[.055, .064]), SRMR=.076, AIC=50527.98, BIC=50869.11であり,適合度は概ね良好であった9。Table 2に示されるように,マスク着用の向社会的動機から関係性欲求充足への交差遅延係数は有意であった(3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.03)。
そこで,上記のCLPMの修正モデルに媒介変数として関係性欲求充足を加えたモデルで構造方程式モデリング(最尤法)を実施した。マスク着用の向社会的動機から関係性欲求充足への交差遅延係数と関係性欲求充足からポジティブ感情への交差遅延係数の積(間接効果)の95%信頼区間は,バイアス修正ブートストラップ法(5,000回)によって算出した。モデルの適合度指標は,χ2(176)=844.88, p<.001, CFI=.972, RMSEA=.054(90%CI[.050, .058]), SRMR=.068, AIC=60629.12, BIC=61114.96であり,概ね良好な適合度を示していた。仮説1-2と一貫して,マスク着用における向社会的動機から関係性欲求充足への正の交差遅延係数は有意であった(B=0.03, p=.048, 95%CI[0.00, 0.06], 3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.03)。また,関係性欲求充足からポジティブ感情への正の交差遅延係数も有意であった(B=0.08, p<.001, 95%CI[0.06, 0.10], 3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.13)。そして,2つの交差遅延係数の間接効果の95%信頼区間は0.000から0.005であり,効果は非常に小さいものの,0を含んでいなかった10。
研究1の結果から,RI-CLPMを用いた分析では,モデルの適合度は高かった。しかし,マスク着用の向社会的動機の交差遅延係数はいずれも有意でなく,過去のマスク着用の向社会的動機の個人内変動が関係性欲求充足やポジティブ感情経験の変化をもたらすという個人内関係は認められなかった。一方,個人内変動を分離した特性因子間の関係において,向社会的動機が強い人ほど,ポジティブ感情経験が多く,関係性欲求が充足されやすいという相関が認められた。
次に,研究1のCLPMを用いた分析では,自己回帰係数に2次のラグを仮定したモデルにおいて概ね良好な適合度が認められた。そして,効果は非常に小さかったが,マスク着用の向社会的動機が関係性欲求充足を促進することで間接的に,ポジティブ感情経験を促進するという交差遅延効果が認められた。CLPMにおける交差遅延効果は,個人間関係と個人内関係が混在しており(Hamaker et al., 2015),純粋に個人間関係を反映したものではない。しかし,上記のRI-CLPMでは,向社会的動機の交差遅延効果は認められず,特性因子間の相関が認められていることから,研究1のCLPMにおける交差遅延効果を,マスク着用の向社会的動機の特性的な個人差が対人関係や幸福の差異を説明するという個人間関係を含むものとして解釈することは妥当と考えられる。
ただし,研究1のCLPMにおける交差遅延係数の間接効果は非常に小さく,結果の再現性を確認する必要がある。また,RI-CLPMの結果の再現性を確認することは,マスク着用の向社会的動機の影響に関する解釈を補強するうえで有用である。外出時にマスクを着用する状況の個人ごとのばらつきによって,向社会的動機がもたらす影響が検出しにくくなっていた可能性に対処するため,研究2ではマスク着用の状況を職場での着用に限定する。そして,研究1の結果が再現されるかを確認するとともに,孤独感に及ぼす影響を新たに検討する。
研究2で検証する仮説は次のとおりである。過去1週間に職場でのマスク着用における向社会的動機が強いほど,翌週のポジティブ感情経験が多い(仮説2-1)。過去1週間の職場でのマスク着用における向社会的動機がポジティブ感情に及ぼす正の影響は,関係性欲求充足によって媒介される(仮説2-2)。過去1週間に職場でのマスク着用における向社会的動機が強いほど,翌週の孤独感が弱い(仮説2-3)。過去1週間の職場でのマスク着用における向社会的動機が孤独感に及ぼす負の影響は,関係性欲求充足によって媒介される(仮説2-4)11。研究2は,仮説,方法,分析計画をOpen Science Framework(OSF)に事前登録して実施した(https://osf.io/q6e9v/)。
方法サンプルサイズ設計 研究1の結果と研究2のために使用できた予算に基づき,必要なサンプルサイズを1,200名とした12。マスク着用の動機尺度への未回答が発生すること,また,DQSに正反応を示さず分析対象から除外される参加者が生じることを考え,最終的なサンプルサイズを,4時点の調査すべてに回答する人が2,000名となるように設定した。
参加者 調査会社(クロス・マーケティング社)の調査モニターで,研究1の調査に未参加の人にスクリーニング調査を実施した。「現在,職場に出勤しており,勤務中に本人が日常的にマスクをしている20代から50代の未婚の日本人成人」を対象に,4時点の縦断調査を実施した。参加者を未婚者に限定したのは,結婚しているかどうかが,マスク着用を含めた感染予防行動の実践やその動機,そして,孤独感と交絡する可能性があったためである。2,000名が4時点すべての調査に回答した13。各回の調査に含めたDQSに正反応しなかった766名,すべての時点でマスク着用の動機尺度に未回答であった3名を除き,1,231名(男性512名,女性715名,答えない4名)を分析対象とした(平均年齢=42.34歳,SD=9.91)。
手続き 2025年1月中旬から2月上旬の毎週金曜日(2025年1月17日,1月24日,1月31日,2月7日)の17時に,参加者にweb調査へのリンクを送信し,可能な限り当日中に回答するように依頼した。次の3点を除き,手続きは研究1と同じであった。1つ目の変更点として,職場でのマスク着用の動機を測定するため,尺度への回答前に「あなたは過去1週間に,職場でどのくらいの頻度でマスクを着用しましたか?」と尋ねた。この質問に,「たまにした」,「ときどきした」,「ほとんど毎回した」,「毎回した」のいずれかを回答した人に対して,自分が過去1週間に職場でマスクを着用したときの理由について,マスク着用の動機尺度に回答を求めた。2つ目の変更点として,各回の調査の最後に,孤独感を測定する尺度を加えた。3つ目の変更点として,DQSの項目(この質問には「あてはまらない」を回答してください)を基本的心理欲求充足尺度に含めた。
研究2は,学習院大学研究倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号:2024100)。
測度 研究1で用いた3つの尺度に加え,日頃感じている孤独感を測定するために,Russell(1996)のUCLA孤独感尺度(第3版)日本語版の短縮版(豊島・佐藤,2021)を使用した。「独りぼっちだと感じる」などの6項目について,日頃どのくらい感じているかを,4件法(1. 全くない―4. いつもある)で回答を求めた。
結果と考察事前登録した計画に従って分析を実施した。事前登録と異なる分析をした場合はそのことを明記した。
尺度構成 研究1と同様の方法で測定不変性を確認したところ,いずれの尺度についても,4時点間の強測定不変性が確認された(マスク着用の動機尺度について,配置不変モデルの適合度の値から強測定不変モデルの値を減じた差は,ΔCFI=‒.001, ΔRMSEA=.000; 基本的心理欲求充足尺度は,ΔCFI=‒.001, ΔRMSEA=.000; PANASの10項目は,ΔCFI=‒.002, ΔRMSEA=.000; UCLA孤独感尺度は,ΔCFI=.000, ΔRMSEA=‒.009)14。すべての下位尺度について高い信頼性が認められた(αs>.84)ため,それぞれの平均得点を算出した。
RI-CLPMによる分析 事前登録では計画していなかったが,研究1の結果の再現性を確認するため,研究1と同じモデルでRI-CLPMによる分析を行った。ポジティブ感情のモデルの適合度は,χ2(112)=394.30, p<.001, CFI=.986, RMSEA=.045(90%CI[.041, .050]), SRMR=.052, AIC=44895.68, BIC=45263.77,孤独感のモデルの適合度は,χ2(112)=391.36, p<.001, CFI=.988, RMSEA=.045(90%CI[.040, .050]), SRMR=.053, AIC=39869.11, BIC=40237.20, 関係性欲求充足のモデルの適合度は,χ2(112)=430.71, p<.001, CFI=.985, RMSEA=.048(90%CI[.043, .053]),SRMR=.055,AIC=48843.47,BIC=49211.56であり,いずれも適合度は良好であった。Table 1に示されるように,マスク着用の向社会的動機から各変数への交差遅延係数はいずれも有意でなかった(ポジティブ感情への3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.01; 孤独感への3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=‒.02; 関係性欲求充足への3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.01)。特性因子間の相関については,向社会的動機とポジティブ感情(r=.25, p<.001, 95%CI[.19, .31]),孤独感(r=‒.16, p<.001, 95%CI[‒.22, ‒.10]),関係性欲求充足(r=.35, p<.001, 95%CI[.13, .25])のいずれも,有意な相関が認められた15。これらは研究1と一貫する結果であった。
CLPMによる仮説検証 仮説2-1を検証するため,CLPMによる構造方程式モデリング(最尤法)を実施した。研究2で実施したCLPMは,欠測値に対して完全情報最尤法による推定を実施した点,自己回帰係数に2次のラグを仮定した点,そして,性別と年齢の影響のパスを仮定した点で,事前登録の計画とは異なっていた16。
ポジティブ感情について研究1と同じ修正モデルで分析を行ったところ,モデルの適合度指標は,χ2(118)=691.44, p<.001, CFI=.972, RMSEA=.063(90%CI[.058, .068]), SRMR=.081, AIC=45180.82, BIC=45518.23であり,概ね良好な適合度を示していた17。Table 2に示されるように,仮説2-1を支持する結果として,効果は小さいが,マスク着用の向社会的動機からポジティブ感情への正の交差遅延係数が有意であった(3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.04)。ポジティブ感情から向社会的動機への正の交差遅延係数(3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.04)も有意であった。
仮説2-3を検証するために,ポジティブ感情を孤独感に変えて,同じ修正モデルで分析を行った。モデルの適合度指標は,χ2(118)=784.32, p<.001, CFI=.971, RMSEA=.068(90%CI[.063, .072]), SRMR=.085, AIC=40250.08, BIC=40587.49であり,概ね良好な適合度を示していた18。Table 2に示されるように,仮説2-3を支持する結果として,効果は小さいが,マスク着用の向社会的動機から孤独感への負の交差遅延係数が有意であった(3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=‒.03)。孤独感から向社会的動機への負の交差遅延係数(3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=‒.02)も有意であった。
次に,仮説2-2と2-4を検証するため,研究1と同様,CLPMの修正モデルに媒介変数として関係性欲求充足を加えたモデルで構造方程式モデリング(最尤法)を実施した。ポジティブ感情のモデルの適合度指標は,χ2(176)=914.19, p<.001, CFI=.971, RMSEA=.058(90%CI[.055, .062]), SRMR=.072, AIC=58135.49, BIC=58616.05であった。孤独感のモデルの適合度指標は,χ2(176)=974.07, p<.001, CFI=.971, RMSEA=.061(90%CI[.057, .065]), SRMR=.071, AIC=52940.98, BIC=53421.54であった。いずれのモデルも,概ね良好な適合度を示していた。
ポジティブ感情について,マスク着用の向社会的動機から関係性欲求充足への正の交差遅延係数(B=0.05, p=.001, 95%CI[0.02, 0.08], 3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.05)と関係性欲求充足からポジティブ感情への正の交差遅延係数(B=0.07, p<.001, 95%CI[0.05, 0.09], 3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.10)はいずれも有意であった。2つの交差遅延係数の間接効果の95%信頼区間は0.001から0.006であり,効果は非常に小さいものの,0を含んでいなかった。したがって,仮説2-2は支持された19。これは,研究1の結果を再現するものであった。
孤独感について,マスク着用における向社会的動機から関係性欲求充足への正の交差遅延係数(B=0.05, p=.002, 95%CI[0.02, 0.08], 3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.05)と関係性欲求充足から孤独感への負の交差遅延係数(B=‒0.05, p<.001, 95%CI[‒0.06, ‒0.02],3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=‒.10)はいずれも有意であった。2つの交差遅延係数の間接効果の95%信頼区間は‒0.004から‒0.001であり,効果は非常に小さいものの,0を含んでいなかった。したがって,仮説2-4は支持された20。
本研究は,2つの短期縦断調査によって,マスク着用における向社会的動機と本人の主観的幸福感および孤独感との関連,そして,その関連を媒介する心理プロセスについて,影響の方向性を明確にすることを試みた。
研究1と2のいずれも,RI-CLPMを用いた分析ではマスク着用の向社会的動機の交差遅延効果は認められなかった。本研究では,ある個人の中でマスク着用の向社会的動機が強まるほど,本人の幸福感が高まり,孤独感が低下するという個人内関係は認められなかったといえる。1つの可能性として,本研究で実施した縦断調査は時点幅が短かったため,マスク着用における向社会的動機,ポジティブ感情,孤独感の個人内変動は小さく,その影響を捉えにくかったことが考えられる。一方,個人内変動を分離した特性因子間の関係については,向社会的動機が強い人ほど,関係性欲求が充足されやすく,ポジティブ感情経験が多く,そして,孤独感は弱いという相関が認められた。
CLPMを用いた分析では,マスク着用の向社会的動機は関係性欲求充足を促進することで,ポジティブ感情経験を促進し(研究1と2),孤独感を抑制する(研究2)という交差遅延効果の間接効果が, 効果は非常に小さかったが認められた。CLPMにおける交差遅延効果には個人間関係と個人内関係が混在している(Hamaker et al., 2015)ため,向社会的動機の交差遅延効果は,個人間関係のみを反映したものとはいえない。しかし,上記のRI-CLPMの結果と合わせると,本研究のCLPMにおける交差遅延効果は,マスク着用の向社会的動機には個人の中で安定した特性的な個人差があり,それが,次の時点の関係性欲求充足を説明することを介して,その次の時点の主観的幸福感や孤独感を説明するという個人間関係を含むものと解釈できる。他者のことを思いやり,他者の福利を促進するために行動をすることは,満足度の高い人間関係の形成・維持につながる(Crocker et al., 2017)。この知見はマスク着用という感染予防行動にも適用可能であり,他者のことを思いやってマスク着用をしている人ほど,満足度の高い人間関係を経験しやすかったと考えられる。そして,自己決定理論(Ryan & Deci, 2017)から予測されるように,良好な人間関係を経験し,基本的心理欲求の1つである関係性欲求が充足された人ほど,幸福な心理状態を経験しやすかったと想定できる。
本研究の2つの短期縦断調査の結果は一貫していたが,結果を解釈する際はいくつかの注意点がある。まず,本研究のCLPMで認められたマスク着用の向社会的動機の交差遅延効果は,Orth et al.(2022)のガイドラインによるといずれも小さい効果量(交差遅延効果の標準化推定値=.03)に相当していた。また,2つの交差遅延効果の積である媒介効果は非常に小さいものとなった。ただし,主観的幸福感や孤独感に影響する要因が多数ある中で,マスク着用という日常的な感染予防行動の動機の影響を検討していることを考えると,向社会的動機の効果量が小さいことは理解できる。次に,マスク着用における向社会的動機と本人の主観的幸福感や孤独感との関連は双方向的である可能性がある。研究2のCLPMでは,ポジティブ感情経験と孤独感から向社会的動機への交差遅延効果も認められた。この知見は,向社会的行動と幸福の間にはポジティブなフィードバックループが存在するという主張(Hui, 2022)とも一致している。最後に,研究2のCLPMでは,他者の評価の懸念が次の時点の関係性欲求充足を抑制することで,ポジティブ感情経験を抑制し,孤独感を促進するという間接効果が認められた。マスク着用における他者を意識した動機のなかで,他者の福利を促進しようとする動機ではなく,他者から否定的に評価されることを避けようとする動機は,本人に悪影響をもたらす可能性がある。研究2のRI-CLPMでも,他者の評価の懸念から関係性欲求充足への負の交差遅延効果が認められており,対人関係の悪化を経験させるマスク着用の動機として,今後の研究では他者の評価の懸念にも注目する必要がある。
本研究の結果をまとめると,マスク着用という日常的な感染予防行動が,その動機によって,本人が形成する人間関係と経験する幸福に差異をもたらすことが示されたといえる。マスク着用の向社会的動機がもたらす差異は小さいが,マスク着用という感染予防行動が日常生活で繰り返されることで,その差異は蓄積していく可能性がある。COVID-19パンデミック下の社会では,個人の感染予防行動の実践を促すために,感染予防行動の向社会的な性質が強調されていた。本研究の知見は,COVID-19パンデミック以降の社会でも,感染予防行動の向社会的な性質を意識しているかどうかが,良好な人間関係と幸福な生活につながることを示唆する点で重要である。
本研究の限界と今後の研究に向けた課題本研究では,ある人が向社会的動機でマスクを着用するようになると,その人の幸福が高まるという個人内関係は示されなかった。今後の研究では,縦断調査の時点幅を広げてRI-CLPMによる検討を再度行うことが必要である。また,本研究では,マスク着用における向社会的動機によって関係性欲求が充足されることが,マスク着用と主観的幸福感や孤独感との関連をもたらす鍵となることが示された。しかし,向社会的動機でマスクを着用することが,本人の人間関係にどのような変化をもたらすかは明らかでないため,今後の検討が必要である。
結論COVID-19パンデミックを経験し,私たちにとってマスク着用は日常的な感染予防行動となった。感染予防が必要な場面で,マスクをどのような動機で着用しているかは,些細な違いかもしれない。その些細な違いの中で,マスク着用が,他者を感染させないため,他者を安心させるためといった他者の福利を促進しようとする動機と結びついていることは,良好な人間関係と幸福な生活につながることを本研究は示唆している。
本論文について,開示すべき利益相反事項はない。
本研究は,科学研究費補助金(基盤研究C,課題番号JP22K03037)の助成を受けて実施された。
本研究の内容の一部は,日本心理学会第88回大会(2024)と日本心理学会第89回大会(2025)で発表された。
本研究の分析に関する補足資料を電子付録に記した。電子付録はJ-STAGEで提供する。
2024年1月1日に起こった能登半島地震の影響を考え,居住地を石川県として登録している調査モニターは,スクリーニング調査の対象としなかった。
2本調査では,各時点の調査に回答した参加者に,次回の調査へのリンクを送付した。第1回調査には6,000名(男性2,929名,女性2,985名,答えない86名),第2回調査には5,008名(男性2,431名,女性2,509名,答えない68名),第3回調査には4,468名(男性2,178名,女性2,231名,答えない59名)からの回答を得た。第4回調査は,第3回調査までの回答者に実施され,目標のサンプルサイズを達成するまで回答の収集が行われた。
3研究1の各尺度のモデルの適合度指標,各変数の時点ごとの平均値と標準偏差および変数間の相関,仮説を検証した分析(RI-CLPMとCLPM)の全ての非標準化推定値,本文で用いなかった変数についての分析結果を電子付録に示した。研究2についても同様である。
4分析に用いたMplusのコードの例を電子付録内の資料に示した。
5研究1と2のいずれも,性別および年齢はマスク着用の向社会的動機と相関があった(電子付録のTable S5からS8およびS27からS30)。また,性別および年齢と関係性欲求充足およびポジティブ感情との相関が一部の時点で認められた。
6本研究で欠測が生じたのは,マスク着用の動機尺度のみであった。有効回答数に対する欠測の割合は,研究1のT1が2.92%,T2が5.15%,T3が5.30%,T4が5.92%,研究2のT1が0.64%,T2が1.87%,T3が2.68%,T4が2.76%であった。
7マスク着用の自己利益志向的動機と他者の評価の懸念の特性因子もポジティブ感情との正の相関が認められた(それぞれ,r=.13,p<.001,95%CI[.07, .19]; r=.06,p=.042,95%CI[.00, .12])。これは宮崎(2024)と類似した結果であり,マスク着用の向社会的動機と自己利益志向的動機(r=.65,p<.001,95%CI[.61, .68])および他者の評価の懸念(r=.50,p<.001,95%CI[.45, .54])の間に正の相関があるために生じたものと解釈できる。
8マスク着用の自己利益志向的動機と他者の評価の懸念の特性因子についても関係性欲求充足との正の相関が認められた(それぞれ,r=.26,p<.001,95%CI[.20, .31]; r=.11,p<.001,95%CI[.05, .17])。
9関係性欲求充足について,修正前のモデル(自己回帰係数に2次のラグを仮定しないモデル)の適合度は,χ2(122)=1829.09,p<.001,CFI=.913,RMSEA=.104(90%CI[.100, .108]),SRMR=.066,AIC=51686.21,BIC=52006.66であった。
10その他の間接効果として,ポジティブ感情が関係性欲求充足を促進することで向社会的動機(95%CIbs[0.001, 0.008])と自己利益志向的動機に正の影響を及ぼすという効果(95%CIbs[0.003, 0.011])が認められた。
11事前登録では,研究2の仮説を個人間関係についての仮説として記載していた。ただし,CLPMにおける交差遅延係数は純粋に個人間関係を反映したものではなく,CLPMで検証する仮説の記載として適切ではなかったと判断した。そのため,本稿を執筆する際に「向社会的動機が強かった人ほど」という記載を「向社会的動機が強いほど」という記載に修正した。
12事前登録を行った時点では,研究1の仮説検証は,欠測値にリストワイズ削除を行い,性別と年齢はモデルに含まれておらず,そして,CLPMで自己回帰係数に2次のラグを仮定していなかった。研究1のデータに対して当初のモデルで分析した結果,マスク着用の向社会的動機から翌週のポジティブ感情経験への小さな効果(3つの交差遅延係数の標準化推定値の平均=.03)をα=.05で検出できていた。そのため,研究2の事前登録では,研究1と同程度のサンプルサイズを設定していた。
13本調査では,各時点の調査に回答した参加者に,次回の調査へのリンクを送付した。第1回調査には7,462名(男性3,447名,女性3,937名,答えない78名),第2回調査には6,519名(男性3,022名,女性3,435名,答えない62名),第3回調査には6,028名(男性2,792名,女性3,181名,答えない55名)からの回答を得た。第4回調査は,第3回調査までの回答者に実施され,目標のサンプルサイズを達成するまで回答の収集が行われた。
14UCLA孤独感尺度日本語版の短縮版は,1因子モデルに基づき測定不変性を検討した。
15その他の特性因子間の相関は,マスク着用の自己利益志向的動機とポジティブ感情がr=.18,p<.001,95%CI[.12, .24],孤独感がr=‒.08,p=.013,95%CI[‒.14, ‒.02],関係性欲求充足がr=.21,p<.001,95%CI[.15, .27]であった。また,他者の評価の懸念とポジティブ感情がr=.18,p<.001,95%CI[.12, .24],孤独感がr=‒.03,p=.299,95%CI[‒.09, .03],関係性欲求充足がr=.23,p<.001,95%CI[.17, .29]であった。
16事前登録した分析計画に基づく結果を電子付録に記載した(Table S49からS52)。仮説検証に関する主要な結果は,本文中の結果と同じであった。
17ポジティブ感情について,修正前のモデル(自己回帰係数に2次のラグを仮定しないモデル)の適合度は,χ2(122)=1886.08,p<.001,CFI=.915,RMSEA=.109(90%CI[.104, .113]),SRMR=.070,AIC=46367.45,BIC=46684.42であった。
18孤独感について,修正前のモデル(自己回帰係数に2次のラグを仮定しないモデル)の適合度は,χ2(122)=1918.99,p<.001,CFI=.921,RMSEA=.110(90%CI[.105, .114]),SRMR=.071,AIC=41376.74,BIC=41693.71であった。
19他者の評価の懸念が関係性欲求充足を抑制することでポジティブ感情に負の影響を及ぼすという効果(95%CIbs[‒0.005, ‒0.002])も認められた。
20孤独感が関係性欲求充足を抑制することで向社会的動機(95%CIbs[‒0.026, ‒0.002]),自己利益志向的動機(95%CIbs[‒0.025, ‒0.002]),そして,他者の評価の懸念(95%CIbs[‒0.028, ‒0.004])に負の影響を及ぼすという効果,また,他者の評価の懸念が関係性欲求充足を抑制することで孤独感に正の影響を及ぼすという効果(95%CIbs[0.000, 0.002])も認められた。