The Japanese Journal of Psychology
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Integrated inference based on two statistical patterns in young children: An examination focusing on relative probability of occurrence
Fuyumi HayashiKeito Nakamichi
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Article ID: 96.23039

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Translated Abstract

This study examined whether young children integrate pre- and post- observed statistical patterns to infer two types of likelihoods. In Experiment 1 (N = 103, M = 68.47 months) and Experiment 2 (N = 51, M = 67.88 months), we presented 4- to 6-year-olds with two statistical patterns. The results showed that when the integrated probability was 50% vs 50%, participants inferred that the two likelihoods were equal. In contrast, when the integrated probability was 75% vs 25%, participants correctly inferred the height of each likelihood in only one of the three conditions and a certain number of participants incorrectly inferred that the likelihoods were equal. In addition, the older the age, the better the task performance. These results show that young children can infer that two likelihoods are equal based on the two statistical patterns. Furthermore, these results suggest that as children get older, they are able not only to infer that both are possible, but also to infer whether each of two likelihoods is high or low.

確率情報に基づいて推論する能力は,成人においては日常生活の様々な場面で用いられている(Spellman, 1996; Waldmann & Hagmayer, 2001)。例えば,Xがある場合にYが生じる確率(例:果物に放射線を照射したときに,品質の良い果物ができる確率)が,Xがない場合にYが生じる確率よりも高いとき,XがYに関係していると結論付ける。このような確率情報に基づく推論は,常に同じ結果が生じるとは限らない不確実な世界で,物事を論理的に判断する(例:品質の良い果物を作るために果物に放射線を照射すべきだと判断する)ために重要となる。

では,幼児は不確実で変化のある世界をどのように理解しているのだろうか。2000年以降の研究は,幼児も成人と同様に,身の回りの物理的な現象(Gopnik & Wellman, 2012; Kushnir & Gopnik, 2005, 2007; Waismeyer et al., 2015)や他者の特性(Seiver et al., 2013)を推測するために確率情報を利用することを明らかにしている。例えば,Kushnir & Gopnik(2005)は,4歳児に次のような場面を提示した:物体Aが3回中2回(66%)玩具を作動させ,物体Bが3回中1回(33%)玩具を作動させる。その後,実験者は4歳児に「最も玩具を作動させる物体」を尋ねた。その結果,4歳児は3試行のうち2試行で,チャンスレベルを超えて物体Aを選択した(3試行での物体Aの選択率の平均=約81%)。このように,子どもはイベントが生起する確率に基づいて推論する能力を早期から持つようである。

しかし,日常生活では,幼児は多数のイベントに直面する。それらのイベントには,以前に導いた結論とは異なるように見えるイベントが含まれる場合もある。例えば,幼児は「物体Aが玩具を作動させる」と推測した後,物体Aよりも物体Bが高確率で玩具を作動させる場面を観察するかもしれない。このようなデータに対し,幼児はどのように対応するのであろうか。

これまでの研究では,幼児でさえ,自分の考えや知識とは異なる証拠に敏感に反応し,その不一致を解消しようと試みることが示されている。例えば,自分の考え・知識に一致しないイベントに直面したとき,幼児は積極的にその原因を探索し(Bonawitz et al., 2012; van Schijndel et al., 2015),自分の考え・知識が誤っていることを示す証拠を得たとき,考えを柔軟に修正する(Kushnir & Gopnik, 2007; Legare et al., 2016; Macris & Sobel, 2017; Schulz et al., 2007; Schulz & Gopnik, 2004)。

さらに,幼児は,最初に得た情報と新たに得た情報を統合して推論することもできる。例えば,Langenhoff et al.(2023)は,4―6歳児が2つの証言それぞれを支持する証拠の強さを考慮して,物事を推論できることを示した。具体的に,実験者は最初に「ウサギは家に向かった」,次に「ウサギは橋に向かった」という複数の情報提供者による矛盾する証言を参加児に与えた。この際,それぞれの証言を支持する情報提供者の人数が操作された。証言を提示した後,実験者は「ウサギが家に向かったと思うか,橋に向かったと思うか,ウサギがどこに向かったかをもっと多くの人に尋ねたいと思うか」を参加児に尋ねた。その結果,「家に向かった」と推測した参加児の割合は,「家」を支持する情報提供者が多い場合(40%)に高かった(両方同じ場合=24%)。また,「もっと多くの人に尋ねたい」と推測した参加児の割合は,「家」と「橋」を支持する情報提供者の人数が同じ場合(41%)に高かった(「家」の支持が多い場合=25%)。

同様に,Kimura & Gopnik(2019)は,4―5歳児が2つのルールそれぞれの証拠の強さを考慮して,因果関係を推測することを示した。実験者はまず,玩具の上に,その玩具の一部と「同じ『色』の物体を載せると作動するが,同じ『形』の物体を載せると作動しない」(色一致ルール)場面,次に「同じ『形』の物体を載せると作動するが,同じ『色』の物体を載せると作動しない」(形一致ルール)場面を提示した。この際,「色一致ルールを4回,形一致ルールを1回」提示する条件と,「色一致ルールを1回,形一致ルールを4回」提示する条件が設定された。いずれの条件でも,最後に実験者は,3つの物体(色が一致する物体,形が一致する物体,いずれも一致しない物体)から新たな玩具を作動させる物体を選択するよう参加児に求めた。その結果,「形一致ルール」を4回提示された条件の参加児(63.3%)は,「色一致ルール」を4回提示された条件の参加児(21.9%)よりも,「形が一致する物体」を多く選択した。また,「色一致ルール」を4回提示された条件の参加児は,「色が一致する物体」を多く選択した(68.8%)。

このように,幼児は,最初に得た情報と新たに得た情報を統合して推論することもできるようである(Kimura & Gopnik, 2019; Langenhoff et al., 2023)。しかし,これらの先行研究では,明らかになっていない側面が少なくとも2つある。第1に,Langenhoff et al.(2023)で示された「2種類の可能性が同程度であることを推測する」際に,情報提供者の人数の比較ではなく,確率情報を統合することで判断できるかは不明確である。具体的には,Langenhoff et al.(2023)の結果は,幼児が2つの情報を統合し,2種類の可能性が同程度であることを推測したことを示していた。しかし,Langenhoff et al.(2023)では,最初に「家に向かった」と証言する情報提供者,次に「橋に向かった」と証言する情報提供者を提示しており,幼児は2つの証言それぞれを支持する情報提供者の人数を比較することで2種類の可能性が同程度であると判断することができた。そのため,幼児が,2つの確率情報を統合して,2種類の可能性が同程度であることを推測できるかは不明確である。これを検討するためには,最初に得た情報と新たに得た情報で2つのイベントの生起確率が異なる状況や,連続した観察の中でもイベントが生起したりしなかったりする状況を設定した上で,検討する必要がある。

第2に,これまでの研究では,幼児が「生起確率が低い場合でも,そのイベントは生起しうる」ことを理解しているかは不明確である。Kimura & Gopnik(2019)は,玩具を作動させる物体1つを3つの選択肢の中から強制選択させることにより,幼児が玩具を作動させるためのより効果的な物体を選択できることを明らかにした。しかし,幼児が「選択した物体Aのみが玩具を作動させる」と考えていたのか,「選択しなかった物体Bでも玩具を作動させる可能性がある」と考えていたのかは不明確である。

この点に関して,Goddu et al.(2021)は,玩具を作動させる原因について,2種類の仮説(可能性)を含む証拠を19―30ヵ月児が観察したとき,彼らが両方の仮説(可能性)を想定できることを示している。具体的には,実験者は,一度に2つの物体を玩具の上に載せ,その組み合わせが「物体A/B」,「物体A/D」の場合には玩具が作動し,「物体C/C」,「物体E/E」の場合には作動しない場面を提示した。このとき,玩具を作動させる原因として,「物体A」と「異なる2つの物体の組み合わせ」の2種類の可能性が成立していた。その後,実験者は「物体A」と「物体B」のどちらが玩具を作動させるか(質問1)と「物体F/G」と「物体H/H」のどちらの組み合わせが玩具を作動させるか(質問2)という2つの質問を参加児に行った。その結果,参加児の50%が,両方の質問に対して2種類の可能性に対応した選択(質問1では物体A,質問2では物体F/G)をすることができた。このように,19―30ヵ月児でさえ2種類の可能性があることを想定できることを踏まえると,より年長の幼児は,2種類の可能性の高低を想定しているかもしれない。つまり,生起確率が低い場合でも,そのイベントが生起しうることを考慮して推論している可能性があると考えられる。

一方で,幼児は,生起確率の低さの意味を理解していない可能性もある。例えば,Goulding et al.(2022)は,「リンゴジュースがどのようにして作られるのか」を幼児に説明し,「ジュースの作り方」に関する知識を与えても,生起する可能性の低いイベント(例:カリフラワージュースを作る)を「生起しない」と幼児が考えることを示している。この結果を踏まえると,幼児は生起確率がより高いイベントがあるとき,そのイベントを重視し,生起確率が低いイベントは起こらないものと見なすかもしれない。幼児期における確率情報に基づいた推論の発達をさらに明らかにするために,幼児が「生起確率が低い場合でも,そのイベントは生起しうる」ことを理解できるかを検討する必要がある。

上記の不明点を踏まえ,本研究では2つの実験を通して,4―6歳児が,「最初に観察したイベントが生起する確率(以下,先行確率とする)」と「新たに観察したイベントが生起する確率(以下,後続確率とする)」を統合し,2種類の可能性の高さを推測できるかを検討した。この検討のために,本研究では「2つの公園A・Bで虫を探す」という状況を設定し,各公園での「木や石で探して虫が見つかる確率」を操作した場面(Table 1)を提示した。このとき,2つの公園間で生起確率のみを操作するために,両公園で木と石を各4回確認するよう統一することとした。また,公園A・Bを通して計16回確認するうち8回で虫が見つかるように設定した。そして,幼児に,虫が見つかる合計数に一致しないが,2つのイベントの相対的な確率を表すことが可能な「4つのオブジェクト」を,木と石に振り分けるよう求める(例:2種類の可能性が同程度であると推測する場合は,オブジェクトを木と石に2つずつ振り分けるよう求める)ことで,虫が好む場所をどのように推測したかを調べた。

Table 1

各条件での木・石で虫が見つかる確率と,統合した確率に一致する反応

公園A
先行確率(%)
公園B
後続確率(%)
統合した確率(%) 統合した確率に一致する反応
条件
実験1 [50・50→50・50] 50 50 50 50 50 50 2 2
[50・50→0・100] 50 50 0 100 25 75 1 3
[100・0→50・50] 100 0 50 50 75 25 3 1
[100・0→0・100] 100 0 0 100 50 50 2 2
実験2 [75・25→75・25] 75 25 75 25 75 25 3 1
[75・25→25・75] 75 25 25 75 50 50 2 2

多くの先行研究が,幼児が生起確率に基づいて,身の回りの物理的な現象(Gopnik & Wellman, 2012; Kushnir & Gopnik, 2005, 2007; Waismeyer et al., 2015)や他者の特性(Seiver et al., 2013)を推測することを示している。また,別の研究(Kimura & Gopnik, 2019; Langenhoff et al., 2023)は,幼児が最初に得た情報と新たに得た情報を統合して推論することを示している。幼児が,観察した2つの確率情報に基づいて,2種類の可能性の高さを推測するならば,イベントの生起確率が等しい場合にはオブジェクトを2つずつ振り分け,異なる場合には生起確率の高低に応じた振り分けをするだろう。

実験1

本研究では,2つの確率情報を統合すると,2つのイベントの生起確率が等しい場合と異なる場合を設定し,4―6歳児が2つの確率情報に基づいて,2種類の可能性の高さを推測できるかを検討する。これを検討するために,実験1では,統合した確率が50%対50%になる場合と75%対25%になる(一方がより高くなる)場合の両方を設定できること,先行や後続の確率情報によって幼児の反応が異なるかを検討できることから,先行確率を「一方が50%,他方が50%(以下,[ 50・50])」あるいは[100・0],後続確率を[50・50]あるいは[0・100]とし,先行確率と後続確率を掛け合わせた2(先行確率:50・50 vs 100・0)×2(後続確率:50・50 vs 0・100)の4条件を設定した。

Langenhoff et al.(2023)は,2つの証言を支持する情報提供者の人数が等しい場合に,幼児が2種類の可能性が同程度であると判断できることを示している。幼児が,観察した2つの確率情報に基づいて,2種類の可能性が同程度であることを推測することも可能ならば,統合した確率が50%対50%となる,50・50→50・50条件や100・0→0・100条件では,幼児はオブジェクトを一方に2つ,他方に2つ振り分けるだろう。またGoddu et al.(2021)から示唆されるように,幼児が2種類の可能性の高低を推測できるのであれば,統合した確率が75%対25%となる,100・0→50・50条件や50・50→0・100条件では,幼児はオブジェクトを一方に3つ,他方に1つ振り分けるだろう。一方で,Goulding et al.(2022)から示唆されるように,幼児が生起確率のより高いイベントを重視し,生起確率が低いイベントを無視するのであれば,100・0→50・50条件や50・50→0・100条件では,幼児は4つすべてのオブジェクトを一方に振り分けるだろう。

方法

参加児 就学前の4―6歳児103名(男50,女53:M=68.47ヵ月,SD=7.23,範囲=55―82ヵ月)が実験1に参加した。このうち,42名は参加児が在籍する幼稚園で,61名は第2著者の所属大学で実験に参加した。参加児は,4つの条件(50・50→50・50条件,50・50→0・100条件,100・0→50・50条件,100・0→0・100条件)のいずれかにランダムに割り振られた。最終的に,50・50→50・50条件は27名(男13,女14:M=68.37ヵ月,SD=7.49),50・50→0・100条件は25名(男12,女13:M=69.92ヵ月,SD=7.19),100・0→50・50条件は25名(男12,女13:M=68.28ヵ月,SD=7.28),100・0→0・100条件は26名(男13,女13:M=68.31ヵ月,SD=7.35)となった。

材料・手続き 木と石を各4つ設置した公園の模型,虫(直径1.3cmの手芸用フェルトボール2つを接着して作成),虫の好きな場所を表す地図を用いた。公園には事前に4匹の虫を隠しておいた(木・石の計8つのうち4つ)。

4つの条件のいずれにおいても,導入の説明の後,公園Aでの虫探し,公園Bでの虫探し,テスト質問を行った。虫探し,テスト質問の概要をFigure 1に示す。

Figure 1

手続きの概要(100・0→0・100条件の例)

はじめに,実験者は1体の人形を提示し,その人物が「複数の公園を回り,虫の好きな場所が分かる地図を作成している」ことを参加児に伝えた。そして,実験者は,登場人物が虫を木や石で見つけた頻度によってどのような地図を作ったのかを,アリ・ダンゴムシ・セミの地図を用いて参加児に紹介した。例えば,まず木に2つ,石に2つの笑顔のマークを貼ったアリの地図を提示し,「(登場人物は)アリを,木と石の両方で何度も見つけて,こんな地図を作ったよ」と教示した。続いて,ダンゴムシの地図(木に1つ,石に3つの笑顔のマーク)を提示し,「ダンゴムシを石と,木でも少し見つけて作った」ことを教示した。最後に,セミの地図(木に4つの笑顔のマーク)を提示し,「セミを木で何度も見つけて作った」ことを教示した。その後,新奇な虫と,4つの笑顔のマークを下部に並べた未完成の地図を提示し,「(登場人物は)この虫のことはまだ知らず,地図が完成していない」こと,「公園で虫を探してこの虫の地図を作るのを手伝ってほしい」ことを参加児に伝えた。

次に,実験者は公園Aを参加児に提示し,公園の木・石それぞれを探して虫が見つかるかを各4回(各4つ)確認した(公園Aでの虫探し)。4つ全ての木を1つずつ順番に確認した後,同様の手順で,石で探して虫が見つかるかを1つずつ確認した。この際,見つかった虫は公園の角に置いた箱の中に入れた。公園Aでの虫探しを終えた後,実験者はその箱を指し「この公園でこんなに虫が見つかったね」と言って参加児と確認した。

続いて,公園Aの隣に新たな公園Bを提示し,「石と木のどちらから探し始めたら良いか」を参加児に尋ね,参加児が選択した場所から同様に虫がいるかを確認した(公園Bでの虫探し)。その後,2つの箱の虫を1つの箱にまとめ,2つの公園を探して沢山の虫が見つかったことを確認した。この公園A・Bの木・石で探して虫が見つかる確率が,4つの条件で操作された(Table 1)。

最後に,実験者は未完成の地図を提示し,笑顔のマークを地図上の木や石のところに振り分けることで,その虫の好きな場所が分かる地図を作るよう参加児に求めた(テスト質問)。

なお,アリ・ダンゴムシ・セミの地図を提示する順序,木・石で虫が見つかる確率,虫を探し始める場所,[50・50]での虫が見つかる2つの場所,100・0→50・50条件と100・0→0・100条件での最初に提示する確率,50・50→0・100条件と100・0→50・50条件での虫が見つかる確率が高くなる場所はカウンターバランスされた。

倫理的配慮 本研究は,千葉大学教育学部生命倫理審査委員会の承認を得て実施された(承認番号:134)。実施に当たり,幼稚園で参加した幼児については施設の責任者に,大学で参加した幼児については同伴した保護者に,研究内容や倫理的配慮(個人情報の保護,拒否権等)を説明し,書面での同意を得た。また,参加児には,口頭で説明した上で,参加の同意を得た。

統計分析 分析には,SPSS version 28.0を使用した。

結果

4つのオブジェクトの振り分けには「4・0」,「0・4」,「3・1」,「1・3」,「2・2」の5通りがあった。条件別の各反応パターンの人数をTable 2(左側)に示す。はじめに,条件による反応パターンの違いを検討するため,Table 2の実験1の欄を用いて,条件(4)×反応パターン(5)のFisherの直接確率法を行った。その結果,条件による違いが有意で(p<.01),残差分析によると,50・50→50・50条件で「2・2」が,50・50→0・100条件で「0・4」,「1・3」が,100・0→50・50条件で「3・1」が多かった(ps<.05)。

Table 2

条件別の各反応パターンの人数と統合得点

条件
先行確率→後続確率
各反応パターンの人数(%) 統合
得点
SD
4・0 0・4 3・1 1・3 2・2
注)各反応パターンの人数の( )内は,その条件の人数で割った割合を示す。
実験1 50・50→50・50 n=27) 1 ( 3.7%) 0 ( 0.0%) 2 ( 7.4%) 0 ( 0.0%) 24 (88.9%) 0.89 (0.32)
50・50→0・100 n=25) 0 ( 0.0%) 8 (32.0%) 0 ( 0.0%) 7 (28.0%) 10 (40.0%) 0.28 (0.46)
100・0→50・50 n=25) 1 ( 4.0%) 0 ( 0.0%) 13 (52.0%) 0 ( 0.0%) 11 (44.0%) 0.52 (0.51)
100・0→0・100 n=26) 1 ( 3.8%) 3 (11.5%) 3 (11.5%) 1 ( 3.8%) 18 (69.2%) 0.69 (0.47)
合計 N=103) 3 ( 2.9%) 11 (10.7%) 18 (17.5%) 8 ( 7.8%) 63 (61.2%) 0.60 (0.49)
実験2 75・25→75・25 n=25) 3 (12.0%) 0 ( 0.0%) 10 (40.0%) 1 ( 4.0%) 11 (44.0%) 0.40 (0.50)
75・25→25・75 n=26) 2 ( 7.7%) 0 ( 0.0%) 5 (19.2%) 1 ( 3.8%) 18 (69.2%) 0.69 (0.47)
合計 N=51) 5 ( 9.8%) 0 ( 0.0%) 15 (29.4%) 2 ( 3.9%) 29 (56.9%) 0.55 (0.50)

次に,条件によって「統合した確率に一致する反応」の割合が異なるかを検討するため,50・50→50・50条件,100・0→0・100条件での「2・2」,50・50→0・100条件での「1・3」,100・0→50・50条件での「3・1」を1点,その他の反応を0点として得点化した(以下,統合得点とする,Table 2右側)。そして,その統合得点を従属変数とした,二項ロジスティック回帰分析を行った。二項ロジスティック回帰分析の独立変数としては,月齢,先行確率,後続確率,および先行確率×後続確率の交互作用項を投入した。その結果,月齢(B=0.07, SE=0.03, Waldχ2 (1) =4.01, p=.045, OR=1.07, 95%CI[1.00, 1.14]),先行確率(B=1.89, SE=0.64, Waldχ2 (1) =8.74, p=.003, OR=6.63, 95%CI[1.89, 23.23]),後続確率(B=3.21, SE=0.79, Waldχ2 (1) =16.64, p<.001, OR=24.65, 95%CI[5.29, 115.01])の主効果がいずれも有意で,月齢と得点に正の関連があり,先行確率[50・50]より[100・0]で,後続確率[0・100]より[50・50]で得点が高かった。また,先行確率×後続確率の交互作用(B=‒3.97, SE=1.00, Waldχ2 (1) =15.96, p<.001, OR=0.02, 95%CI[.003, .132])が有意だった(Figure 2)。

Figure 2

先行確率・後続確率別の統合得点

交互作用について検討するため,単純主効果の検定を行った。まず,先行確率別に後続確率[50・50]と[0・100]での統合得点を比較した。その結果,先行確率[50・50]群での後続確率の単純主効果(B=3.02, SE=0.76, Waldχ2 (1) =15.95, p<.001, OR=20.57, 95%CI[4.66, 90.75])が有意で,後続確率[0・100]より[50・50]で得点が高かった。先行確率[100・0]群での後続確率による違いは有意でなかった(p=.211)。

次に,後続確率別に先行確率[50・50]と[100・0]での統合得点を比較した。その結果,後続確率[50・50]群での先行確率の単純主効果(B=2.00, SE=0.73, Waldχ2 (1) =7.47, p=.006, OR=7.39, 95%CI[1.76, 30.98])が有意で,先行確率[100・0]より[50・50]で得点が高かった。また,後続確率[0・100]群での先行確率の単純主効果(B=1.76, SE=0.62, Waldχ2 (1) =8.13, p=.004, OR=5.79, 95%CI[1.73, 19.34])が有意で,先行確率[50・50]より[100・0]で得点が高かった。

最後に,各条件の統合得点をチャンスレベルと比較した。4つのオブジェクトそれぞれを木あるいは石に振り分けるとき,全振り分けパターンは16通り,「2・2」となる振り分けは6通り,「3・1」または「1・3」となる振り分けは4通りある。そのため,チャンスレベル検定の期待値を,統合した確率に一致する反応が「2・2」となる条件(50・50→50・50条件,100・0→0・100条件)では「.375」とし,「3・1」または「1・3」となる条件(50・50→0・100条件,100・0→50・50条件)では「.25」として分析を行った。その結果,50・50→50・50条件(t (26) =8.34, p<.001, d=1.61, 95%CI[1.02, 2.17]),100・0→0・100条件(t (25) =3.44, p=.002, d=0.67, 95%CI[0.24, 1.10]),100・0→50・50条件(t (24) =2.65, p=.014, d=0.53, 95%CI[0.11, 0.94])の得点はチャンスレベルより有意に高く,50・50→0・100条件(t (24) =0.33, p=.746, d=0.07, 95%CI[‒0.33, 0.46])の得点はチャンスレベルと同程度だった。

考察

実験1では,4―6歳児が2つの確率情報を観察した際に,それらを統合して2種類の可能性の高さを推測できるかを検討した。実験1は,大きく3つの知見を提供している。

第1に,実験1の結果は,2つの確率情報を統合するとイベントの生起確率が等しい場合に,4―6歳児が2種類の可能性は同程度であると推測することを示した。具体的に,統合した確率が50%対50%となる,50・50→50・50条件(88.9%),100・0→0・100条件(69.2%)において,4―6歳児はチャンスレベルを超えて,オブジェクトを2つずつ振り分けることが多かった。つまり,「虫が木を好む可能性と石を好む可能性は同程度である」と推測することが多かった。Langenhoff et al.(2023)は,「ウサギは家に向かった」と証言した人数と「ウサギは橋に向かった」と証言した人数が同じ場合を設定し,幼児が2種類の可能性が同程度であると判断できることを示していた。本研究では,Langenhoff et al.(2023)とは異なり,2つの確率情報を提示し,4つのオブジェクトを木と石に振り分けるよう求めた。本研究の50・50→50・50条件,100・0→0・100条件の結果は,4―6歳児が2つの確率情報を統合して,2種類の可能性が同程度であることを推測していたことを意味している。

第2に,実験1の結果は,4―6歳児が「生起確率が低い場合でも,そのイベントは生起しうる」ことを理解している可能性を示した。具体的には,100・0→50・50条件において,4―6歳児は75%の確率で虫が見つかった場所に4つ全てのオブジェクトを振り分けるのではなく,25%の確率で虫が見つかった場所にもオブジェクトを振り分けることが多かった。この結果は,幼児が生起確率の高さ(Kimura & Gopnik, 2019)だけでなく,生起確率の低さの意味を理解している可能性を示している。また,このことは,Goddu et al.(2021)の結果に一致するように,子どもが早期から,生起しうる複数の可能性を想定できることを示唆している。

では,Goulding et al.(2022)とは異なり,なぜ幼児は25%の確率で虫が見つかった場所にもオブジェクトを振り分けることができたのだろうか。可能性のある説明の1つは,本研究の参加児は,「生起する可能性の低いイベント」が実際に生起する場面を観察していたため,そのイベントの生起可能性を想定しやすかったということである。具体的には,Goulding et al.(2022)は「生起しうるが,現実世界で一般的にありそうもないイベント」について参加児に尋ねたのに対し,本研究は「参加児が観察した生起確率の低いイベント」に関わる質問を尋ねた。そのため,本研究の参加児は,そのイベントが「低い確率でも生起する」ことを知ることができた。実際,Goulding et al.(2022)の実験2は,幼児は一般的なイベント(例:リンゴジュースを作る)よりも,類似したイベント(例:ブロッコリージュースを作る)がどのように生起するのかを説明された場合に,対象となる生起する可能性の低いイベント(例:カリフラワージュースを作る)を受け入れることを示している。このことから,幼児の「生起確率の低いイベントについての経験」の有無が,幼児の可能性判断に影響したと考えられる。

このように,実験1の100・0→50・50条件の結果は,4―6歳児が「生起確率が低い場合でも,そのイベントは生起しうる」ことを理解している可能性を示した。一方で,50・50→0・100条件(28.0%)での課題遂行は,チャンスレベルと同程度であった。この点に関して,50・50→0・100条件では,他の条件に比べ「0・4」の割合が高く(32.0%),後続の情報に一致する振り分けをすることが多かった。これを踏まえると,50・50→0・100条件では,直前に観察した偏った証拠([0・100])に引っ張られずに,どちらも同程度に生起する([50・50])という先行の情報を保持しながら,後続の情報を処理する必要があるために,統合した確率に一致する反応が少なくなった可能性が考えられる。

第3に,実験1の結果は,2つの確率情報を統合し,2種類の可能性の高低を推測する能力が幼児期に発達し始める可能性を示している。具体的に,まず実験1では,50・50→50・50条件(88.9%)や100・0→0・100条件(69.2%)より50・50→0・100条件(28.0%)で,50・50→50・50条件より100・0→50・50条件(52.0%)で,統合した確率に一致する反応が少なかった。このことから,全体的に,統合した確率が「50%対50%となる条件」より「75%対25%となる条件」で,幼児は統合した確率に一致する反応をすることが少なかったといえる。この点に関して,50・50→0・100条件では40.0%の幼児が,100・0→50・50条件では44.0%の幼児が2つずつオブジェクトを振り分けていた。つまり,これらの条件では,一方のイベントの生起確率(75%)が他方のイベントの生起確率(25%)よりも高い場面を提示していたけれども,「2種類の可能性は同程度である」と誤って推測していた幼児が多くいた。これを踏まえると,統合した確率が75%対25%であるとき,幼児は2種類の可能性のどちらもあり得ると推測するが,2種類の可能性の高低を推測する能力は萌芽的である可能性が考えられる。

このように,実験1では,4―6歳児が観察した2つの確率情報を基に,2種類の可能性の高さを推測できる可能性や,条件による課題遂行の違いを新たに示した。しかし,100・0→50・50条件や50・50→0・100条件では,先行確率あるいは後続確率に[50・50]が含まれていたために,2つずつオブジェクトを振り分けることが多くなっていた可能性も残っている。

そこで実験2では,先行確率や後続確率に[50・50]を含まないが,統合した確率が75%対25%となる75・25→75・25条件を設定することで,幼児にとって,2種類の可能性の高低を推測することが難しいという可能性についてさらに検討することとした。

実験2

実験2では,実験条件として75・25→75・25条件と75・25→25・75条件を設定した。75・25→75・25条件は,2つの確率情報がどちらも同じ[75・25]であり,先行確率と後続確率のいずれにも[50・50]を含んでいなかった。もし実験1の条件間の遂行の違いが,「2種類の可能性の高低を推測する」ことの難しさによるならば,75・25→75・25条件でも幼児はオブジェクトを2つずつ振り分ける傾向があるだろう。一方,先行確率あるいは後続確率に[50・50]が含まれていたことが振り分けに影響していたならば,75・25→75・25条件の場合,幼児は統合した確率に一致する反応(オブジェクトを一方に3つ,他方に1つ振り分ける)をすることが多くなるだろう。

方法

参加児 就学前の4―6歳児51名(男22,女29:M=67.88ヵ月,SD=7.78,範囲=55―81ヵ月)が実験2に参加した。このうち,22名は参加児が在籍する幼稚園で,29名は第2著者の所属大学で実験に参加した。参加児は,2つの条件(75・25→75・25条件,75・25→25・75条件)のいずれかにランダムに割り振られた。最終的に,75・25→75・25条件は25名(男11,女14:M=67.56ヵ月,SD=8.55),75・25→25・75条件は26名(男11,女15:M=68.19ヵ月,SD=7.12)となった。なお,いずれの参加児も実験1とは異なる幼児であった。

材料・手続き 各公園の木や石で虫が見つかる確率が実験1と異なった。具体的に,75・25→75・25条件での虫が見つかる確率は,公園A・Bともに木が75%,石が25%だった。75・25→25・75条件での虫が見つかる確率は,公園Aでは木が75%,石が25%,公園Bでは木が25%,石が75%だった(Table 1)。

なお,4回すべて同じ結果となる[100・0(0・100)]との違いを明確にするため,木や石を4回確認するうち,2回目または3回目に変則的な結果(例:2回目だけ虫が見つからない)を提示した。また,アリ・ダンゴムシ・セミの地図を提示する順序,木・石での虫が見つかる確率,虫を探し始める場所,最初に提示する確率をカウンターバランスした。

倫理的配慮 実験1と同様の手順を経た上で,実験2を実施した。

統計分析 分析には,SPSS version 28.0を使用した。

結果

条件別の各反応パターンの人数をTable 2(左側)に示す。はじめに,条件による反応パターンの違いを検討するため,Table 2の実験2の欄を用いて,条件(2)×反応パターン(5)のFisherの直接確率法を行った。その結果,条件による違いは有意でなかった(p=.281)。

次に,条件によって「統合した確率に一致する反応」の割合が異なるかを検討するため,75・25→75・25条件での「3・1」,75・25→25・75条件での「2・2」を1点,その他の反応を0点として得点化した(Table 2右側)。そして,その統合得点を従属変数とした,二項ロジスティック回帰分析を行った。二項ロジスティック回帰分析の独立変数としては,月齢,条件,および月齢×条件の交互作用項を投入した。その結果,月齢の主効果(B=0.09, SE=0.06, Waldχ2 (1) =2.74, p=.098, OR=1.10, 95%CI[.98, 1.22])が有意傾向で,月齢と得点に正の関連がある傾向があった。条件の主効果(p=.110)・月齢×条件の交互作用(p=.161)は有意でなかった。

続いて,各条件の統合得点をチャンスレベルと比較した。はじめに,75・25→75・25条件に関して,チャンスレベル検定(=.25)を行った。その結果,得点はチャンスレベルと同程度だった(t (24) =1.50, p=.147, d=0.30, 95%CI[‒0.10, 0.70])。次に,75・25→25・75条件に関して,チャンスレベル検定(=.375)を行った。その結果,チャンスレベルより有意に得点が高かった(t (25) =3.44, p=.002, d=0.67, 95%CI[0.24, 1.10])。

最後に,統合した確率が75%対25%となる3つの条件(実験1の50・50→0・100条件,100・0→50・50条件と実験2の75・25→75・25条件)に関して,月齢や条件によって「統合した確率に一致する反応」の割合が異なるかを検討するため,統合得点を従属変数とした,二項ロジスティック回帰分析を行った。二項ロジスティック回帰分析の独立変数としては,月齢,条件,および月齢×条件の交互作用項を投入した。その結果,月齢の主効果(B=0.09, SE=0.06, Waldχ2 (1) =2.74, p=.098, OR=1.10, 95%CI[.98, 1.22])が有意傾向で,月齢と得点に正の関連がある傾向があった。条件の主効果(p=.520)・月齢×条件の交互作用(p=.567)は有意でなかった。

考察

実験2では,75・25→75・25条件と75・25→25・75条件を設定し,幼児にとって,2種類の可能性の高低を推測することが困難である可能性についてさらに検討した。

その結果,まず75・25→25・75条件(69.2%)での課題遂行はチャンスレベルを超えていた。一方,75・25→75・25条件(40.0%)での課題遂行はチャンスレベルと同程度だった。また,2つの条件間で反応パターンに有意な違いはなく,75・25→75・25条件の44.0%の参加児がオブジェクトを2つずつ振り分けていた。つまり,先行確率と後続確率の両方が[75・25]である場合でも,「2種類の可能性は同程度である」と誤って推測する幼児が一定数いたといえる。この結果は,100・0→50・50条件や50・50→0・100条件では,[50・50]が含まれていたために同数の振り分けが多くなっていたという可能性を排除し,幼児にとって2種類の可能性の高低を推測することが困難である可能性を強めている。

さらに,実験1・2の統合した確率が75%対25%の3条件に関して,月齢や条件によって「統合した確率に一致する反応」の割合が異なるかを検討したところ,月齢と統合得点に正の関連がある傾向が示された。この結果から,月齢が上がるにつれて,2種類の可能性の両方があり得ることを推測するだけでなく,その高低を推測できるようになっていく可能性が考えられる。

全体考察

本研究は,2つの実験を通して,4―6歳児が2つの確率情報を観察した際に,それらを統合して2種類の可能性の高さを推測できるかを検討した。本研究の結果は,3つの重要な知見を提供している。

第1に,本研究の結果は,2つの確率情報を統合すると,イベントの生起確率が等しい場合に,4―6歳児が,2種類の可能性が同程度であると推測できることを示した。Langenhoff et al.(2023)は,「ウサギは家に向かった」と証言した人数と「ウサギは橋に向かった」と証言した人数が同じ場合を設定し,幼児が2種類の可能性が同程度であることを推測できることを示していた。一方,本研究では,2つの確率情報を提示し,4つのオブジェクトを木と石に振り分けるよう求めた。その結果,統合した確率が50%対50%となる,50・50→50・50条件(88.9%),100・0→0・100条件(69.2%),75・25→25・75条件(69.2%)のいずれにおいても,参加児はオブジェクトを2つずつ振り分けることが多かった。つまり,「虫が木を好む可能性と石を好む可能性は同程度である」と推測することが多かった。これらの結果は,4―6歳児が,2つの確率情報を統合して,「2種類の可能性が同程度である」と推測したことを示している。

第2に,本研究は,4―6歳児が「生起確率が低い場合でも,そのイベントは生起しうる」ことを理解している可能性を示した。Kimura & Gopnik(2019)は,3つの選択肢の中から,玩具を作動させる物体1つを幼児に強制選択させた。そのため,「選択しなかった物体が玩具を作動させる」可能性を,幼児が理解しているのかは不明確だった。一方で,本研究は,4つのオブジェクトを用いて,幼児が「75%の確率で虫が見つかった場所に4つ全てのオブジェクトを振り分ける」のではなく,「25%の確率で虫が見つかる場所にも振り分ける」のかを調べた。その結果,100・0→50・50条件で,4―6歳児は統合した確率に一致する反応(オブジェクトを一方に3つ,他方に1つ振り分ける)を多く行った(52.0%)。つまり,本研究の結果は,生起確率の低いイベントを無視するのではなく,幼児でさえ,生起確率の低いイベントを考慮して推論していることを示した。

第3に,本研究は,月齢が上がるとともに,2つの確率情報を基に,2種類の可能性の両方があり得ることを推測できるだけでなく,2種類の可能性の高低を推測できるようになっていく可能性を示した。具体的に,本研究において,統合した確率が50%対50%となる条件では,3つすべての条件で課題遂行がチャンスレベルを超えていた。一方,統合した確率が75%対25%となる条件では,50・50→0・100条件(28.0%)や75・25→75・25条件(40.0%)での課題遂行はチャンスレベルと同程度で,これらの条件の約40%の参加児がオブジェクトを2つずつ振り分けていた。さらに,統合した確率が75%対25%となる条件に関して,月齢と統合得点に正の関連がある傾向があった。これらの結果を踏まえると,月齢が上がるとともに,2つの確率情報を統合し,2種類の可能性の高低を推測することが可能になっていくことが考えられる。

以上のように,本研究の結果は,幼児が観察した2つの確率情報に基づいて,2種類の可能性の高さを推測することや,その発達的変化を示したという点で有益なものである。さらに,本研究の結果は,今後取り組むべき課題も提案している。

第1の課題は,幼児が他者の行動に関する確率情報を統合して,他者の特性や内的状態を推測できるかを検討することである。具体的に,本研究の課題では,幼児は木や石で探したときに虫がいるかを観察し,観察から得た情報を直接回答(オブジェクトの振り分け)に反映させることができた。しかし,社会生活では,観察した他者の行動や反応を基に,目には見えにくい「他者の特性や内的状態」を推測することも必要となる。幼児が生起確率に基づいて推論できるかを検討した多くの研究(Kushnir & Gopnik, 2005, 2007)が,物理的な現象を扱っており,心理的な事柄を扱った研究(Seiver et al., 2013)は少数である。今後の研究は,幼児が他者の行動に関する確率情報を統合して,心理的な事柄について推測できるかをさらに検討していく必要があるだろう。

また別の課題は,「2つの確率情報を統合し,2種類の可能性の高さを推測する」ことを可能にしている認知的基盤について検討することである。本研究では,幼児が一定の条件において,観察した2つの確率情報に基づいて2種類の可能性の高さを推測することを明らかにした。しかし,本研究では,なぜこのようなことが可能であるのかや,どのような能力が基盤となっているかは明らかにしていない。例えば,幼児の確率情報に基づく推論を支える認知的基盤の1つには,「数量の異同を理解する能力」(Cooper, 1984)があるかもしれない。具体的に,本研究の課題構造は,虫が見つかった場所を基に,虫の好きな場所が分かる地図を作成するというものであった。この課題では,木と石で見つかった数量が「同じ」か「一方がより多い(少ない)」かを判断して振り分けることによっても正答できるため,課題に正答する上では,必ずしも計数や分数の理解は必要ではなかった。しかし,提示された数量が同じ(異なる)ことを理解できることや,複数のオブジェクトを数量が同じ(異なる)2つの塊に分けられることは,課題に正答するために必要であったと考えられる。

また,特に「2種類の可能性の高低を推測する」ことに関しては,情報の保持・処理に関わるような実行機能が関連している可能性が考えられる。例えば,75・25→75・25条件では,幼児が2種類の可能性の高低を正しく推測するためには,「両方のイベントが生起する」という理解ではなく,一方の生起確率がより高い(低い)ことを正確に保持しながら,後続の情報を処理する必要があった。また,50・50→0・100条件では,直前に観察した偏った証拠に引っ張られずに,どちらも同程度に生起するという先行の情報を保持しながら,後続の情報を処理する必要があった。これらの特徴を踏まえると,「2つの確率情報を統合し,2種類の可能性の高低を推測する」ためには,得た情報を正確に保持・処理することに関わるような実行機能が重要となると考えられる。今後,このような思考を支える認知的基盤について検討していくことは,児童期以降のより複雑な確率情報に基づく推論(Spellman, 1996; Waldmann & Hagmayer, 2001)にどのように繋がっていくかを明らかにする上で重要となろう。

結論として,本研究は,4―6歳児が観察した2つの確率情報に基づいて,2種類の可能性の高さを推測できる可能性や,その発達的変化を示した。この結果は,4―6歳児が,2つの確率情報に直面したときでさえ,それらを統合して論理的に推論できることを示唆している。さらに,観察した確率情報を基に,複数の可能性を考慮しながら物事を推論する能力の萌芽が,幼児期頃から見られる可能性を示している。今後,このような確率情報に基づいて推論する能力の発達をさらに検討する研究は,不確実な世界を幼児がどのように理解していくのかを明らかにするためにも必要である。

利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

1

本論文は,第1著者が令和4年度に千葉大学大学院教育学研究科に提出した修士論文の一部にデータを追加し,再分析したものである。

2

本研究結果の一部は,日本発達心理学会第34回大会(2023),日本心理学会第87回大会(2023)で発表された。

3

本研究は,科学研究費補助金(代表:中道 圭人,課題番号:22H00983,23K22254)の助成を受けた。

4

ご協力いただいた幼児ならびに先生方,保護者の皆さまに感謝申し上げます。

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