Article ID: 96.23231
In this study, we introduce freely available burnout scales primarily used overseas and examine their reliability and validity. A Web survey was conducted with a total of 953 participants, consisting of 492 nurses and 461 certified care workers. The scales we examined were the Japanese Burnout Scale (JBS), Copenhagen Burnout Inventory (CBI), Shirom-Melamed Burnout Measures (SMBM), Oldenburg Burnout Inventory (OLBI), Burnout Assessment Tool (BAT), and Matches Measure (MM). First, confirmatory factor analysis was conducted to examine the structural validity of each scale. The goodness of fit of the JBS and BAT was confirmed to be good, while the SMBM was moderate; the CBI and OBI were very low. The alpha coefficients of the subfactors were adequate for all the scales. Next, the relationship between the scale scores shows that while all burnout scales share fatigue as a core symptom of burnout, they measure different constructs of burnout from different perspectives. Researchers will need to use these measures differently depending on which symptoms of burnout they are focusing on.
Freudenberger(1974)は,臨床現場において,同僚が疲弊し,業務に対するエネルギーと情熱を失ってしまった状態になってしまうことを目撃した。彼が,バーンアウトと名付けたその状態像は後に示すMaslach Burnout Inventory(以下,MBIとする;Maslach & Jackson, 1981a)によって定量的な測定が可能となって以来,数多くの研究知見が積み重ねられてきた。
多くの国において様々な職種の人々が研究対象となる中で,バーンアウトはDSM-5(American Psychiatric Association, 2013),ICD-10(World Health Organization, 2016)のいずれにおいても,疾病分類の実体としては分類されてこなかった。最新版のICD-11(World Health Organization, 2023)では,バーンアウトの定義が規定されたものの,「健康状態に影響を与える要因」のカテゴリに分類され,うつやその他の精神疾患のような病気や障害そのものとは明確に区別されている。また,あくまで職業上の現象を説明する概念として位置づけられ,生活の他の分野での経験を説明するために適用すべきでないことも明記されている。一方,近年では,離婚バーンアウト(Hald et al., 2020),ソーシャルメディアバーンアウト(Han, 2018)など実に様々な分野においてバーンアウト概念が適用され,一般的に広い意味で使われるようになっている。
バーンアウトの測定とその課題バーンアウト測定のためのゴールドスタンダード(Schaufeli et al., 2009)として90%以上のシェアを誇ってきたのがMBIである。MBIは,バーンアウトの症状を情緒的消耗感(emotional exhaustion),脱人格化(depersonalization),個人的達成感(personal accomplishment)の低下の3側面から測定できる。情緒的消耗感は,心身ともに疲れ果てた感情の疲労や消耗状態を示す。脱人格化は他者に対して,配慮や思いやりがなくなった状態である。個人的達成感の低下は,自らの職務の重要性を低く見積もってしまう状態である。MBIはその後,教育関係者用のEducators Survey,対人援助職用のHuman Services Survey,職業人全般を対象とするGeneral Surveyも開発され(Maslach et al., 1996),因子名や質問項目は異なるもののバーンアウトを3つの症状から多面的に測定する点は共通している。
日本のバーンアウト研究においてMBIと同様の役割を果たしてきた尺度が日本版バーンアウト尺度(Japanese Burnout Scale: 以下,JBSとする;久保,2004)である。JBSはMBIを直接翻訳したものではないが,MBIと同様の3因子構造でバーンアウトを測定することができ,国内での使用率は75%を超える。なお,バーンアウトの中核症状と言われる情緒的消耗感についてはMBIと強い相関(r=.74)が認められるなど両尺度には一定の類似性が認められている(井川・中西,2019)。JBSはMBIを含む海外のバーンアウト尺度を参考に田尾(1987)が日本人にとって回答しやすい質問項目として作成し,日本の看護師を対象とした調査においてブラッシュアップされたものである。こうした開発の経緯からも,日本人の対人援助職にとっては自然に回答しやすい質問項目であることも特徴の一つである。
MBI(日本においてはJBS)は,これまでのバーンアウト研究を牽引してきた強力なツールであり,多くの利用者にとっては,その尺度得点こそがすなわちバーンアウトであったともいえる(Bianchi et al., 2015)。一方,Nadon et al.(2022)は,バーンアウトを測定するために開発されたMBIによってバーンアウトが定義されるようになったという循環性の問題を指摘している。MBIの質問項目は,主に福祉業界で働く人々へのインタビューを基に47項目の予備的質問項目からの反復分析を経て22項目にまで集約された(Maslach & Jackson, 1981b)。このプロセスについては,理論的な根拠がないままに少数の恣意的な項目セットを因子分析することによって導き出された帰納法的なものであるとして批判されており,もし当初の段階でもっと多数の網羅的なリストが作成されていれば,バーンアウトの定義そのものが異なっていた可能性も考えられる(Schaufeli, 2003)。また,情緒的消耗感についてはバーンアウトの中核症状として多くの研究者からコンセンサスが得られている(久保,2004)ものの脱人格化や個人的達成感の低下は,バーンアウトそのものではなく,ストレスに対する個人のコーピング行動を示しているに過ぎないという主張も散見される(Kristensen et al., 2005)。これらの指摘はJBSにも当てはまるだろう。
そもそもバーンアウトはその概念の提唱以来,うつなどの他の概念のラベルの張替えに過ぎないという批判を浴び続けてきた。この批判の背景には,どのような症状や状態をバーンアウトと定義するのかという点が明確に共有されず,ユーザーの多くがMBI(日本においてはJBS)の得点をすなわちバーンアウトとして扱ってきたことが挙げられる。こうした背景の中,海外において複数の新たな視点からのバーンアウト尺度の開発が試みられている。以下に近年海外で利用頻度が上昇しているバーンアウト尺度について列記し,その特徴について示す。
Copenhagen Burnout Inventoryデンマークの研究グループが開発したCopenhagen Burnout Inventory(以下,CBIとする;Kristensen et al., 2005)では,バーンアウトの中核症状として身体的,情緒的,精神的疲労や消耗に着目している。CBIでは,仕事内容や分野に関わらずバーンアウトを測定できるように,個人的(Personal),仕事関連(Work-related),顧客関連(Client-related)バーンアウトの3種類を測定しようとしている。個人的バーンアウトは,疲れや身体的,精神的な疲労に関する質問項目で構成されておりその疲労を引き起こす要因については言及されていない。逆に,仕事関連バーンアウトは仕事に関する疲労,顧客関連バーンアウトは,顧客との関わりに関係する疲労の質問項目で構成されており,ユーザーはすべての尺度を利用してもよいし,それぞれを選択的に使用することもできる。
心理測定学的妥当性検討におけるガイドライン(COSMIN: COnsensus-based Standards for the selection of health Measurement INstruments; Prinsen et al., 2018)の視点から複数のバーンアウト尺度の系統的レビューを行ったShoman et al.(2021)においては,CBIは内容的妥当性,内的一貫性,構成概念妥当性においては中程度のエビデンスが得られており,MBIと比較して,尺度としての信頼性,妥当性が高いことも特徴の一つである。また,オーストラリアの歯科医を対象に,MBIと比較してCBIの信頼性と妥当性について検討した先行研究(Winwood & Winefield, 2004)では,CBIの下位因子のα係数は十分に高く,MBIの情緒的消耗感との相関係数が高くなっていることが報告されている。以上の結果は,CBIで測定する3つの症状が,MBIにおける情緒的消耗感を3つのドメインに分類し,より詳細に測定できている可能性を示す。一方,CBIの下位因子である個人的バーンアウトは,仕事に直接関連しない症状であり,上述したICD-11(World Health Organization, 2023)における定義(職業上の現象を説明する概念)とは異なっており,結果的にうつ病との概念的混同をもたらしかねないとして批判されている(Shirom, 2005)。
近年,CBIは多くの言語に翻訳され,様々な職種を対象とした研究において使用されている。MBIとCBIの利用に関するレビューを行った先行研究(Alahmari et al., 2022)では2022年以降,CBIの使用頻度が増加しており,その傾向はアメリカ国外(特にアラブ諸国)で顕著であることが示されている。この要因としてはCBIが短文の質問項目で構成されており,様々な言語に容易に翻訳可能であることがその理由として挙げられる。なお,日本においてはCBIの利用頻度は少なく,急性期病院看護師を対象とし職業ストレスの指標として使用した石原他(2018),COVID-19における医療福祉従事者のバーンアウトの日英比較を行ったNeill et al.(2022)などに留まっており,質問項目の邦訳版や妥当性などの詳細な情報については報告されていない。
Shirom-Melamed Burnout Measureバーンアウト研究の初期から精力的な研究を積み重ねてきたShirom(2005)はバーンアウトと抑うつ症状のオーバーラップを認めつつも,うつは仕事に限らず生活のあらゆる場面において生じるのに対し,バーンアウトは職場の社会的環境に起因して生じると主張している。そのため,2006年に開発されたShirom-Melamed Burnout Measure(以下,SMBMとする;Shirom & Melamed,2006)では,何らかの職業に就いている人が自然に回答しやすい質問項目を意識して作成されている。
SMBMでは,身体的・感情的エネルギーの低下をバーンアウトの中核的要素であるとし,感情的疲労(emotional exhaustion),身体的疲労(physical fatigue),認知的疲労(cognitive weariness)からなる多次元的な構成要素から疲労を測定しようとしている。MBIと異なり,バーンアウトの前兆となるストレス評価,ストレスに対する対処行動を明確に区別したシンプルな質問項目となっていることも特徴である。SMBMがその理論的根拠とする資源保存理論においては,個人内の資源は互いに影響し合い,一方が欠乏すると他方も欠乏することが多いと仮定している(Hobfoll, 1989)。つまり,職業性ストレスに慢性的に曝された結果,個人の対処資源が継続的に枯渇してしまった状態をバーンアウトとして捉えているといえよう。
SMBMの妥当性等についてのメタ分析(Michel et al., 2022)では身体的疲労,認知的疲労,感情的疲労の3つの下位尺度はすべて強い相関を示し,尺度得点の経時的安定性が示されている。また,Qiao & Schaufeli(2011)では,SMBMの3因子モデルで測定される身体的疲労,感情的疲労,認知的疲労はMBIと有意な正の相関(情緒的消耗感:.61―.87,脱人格化:.71―.78)が示されており,収束的妥当性についても一定の水準にあることが示されている。SMBMは,英語版以外にも多数の言語(例えば,Sassi & Neveu, 2010)に翻訳され,その妥当性についても検討されているが,日本における利用頻度は少なく,邦訳版の質問項目や妥当性の報告は見つけることができなかった。
Oldenburg Burnout InventoryOldenburg Burnout Inventory(以下,OLBIとする;Demerouti & Bakker, 2008)は,MBIへの批判に対処する代替的な方法としてドイツで開発された尺度であり,疲弊(exhaustion)と離脱(disengagement)の2つの因子でバーンアウトを測定するように設計されている。疲弊は,職務上の要求に長期間さらされた結果生じる身体的,感情的,認知的緊張として定義される。MBIで操作的に定義された情緒的消耗感とは異なり,感情的側面だけでなく,身体的側面や認知的側面もカバーしているため,肉体労働や情報処理を主な業務とする労働者への適用も可能である。MBIにおける脱人格化に対応する離脱は,仕事全般,仕事の対象,仕事の内容から自分を遠ざけようとする傾向として測定される。
OLBIの質問項目は,MBIや他の尺度とは異なり各因子の質問項目に肯定的・否定的質問を同数設定し,応答バイアスや黙従反応スタイルなどを防ごうとしている点にも特徴がある。上述したShoman et al.,(2021)による尺度の妥当性検討においては,内容的妥当性,構成概念的妥当性,構造的妥当性が中程度,一貫性も中程度であり,COSMINのガイドラインに基づく心理測定学的妥当性が高いことも示されている。また,ナイジェリアの研修医の一部を対象に,MBIと複数のバーンアウト尺度の比較を行った研究(Ogunsuji et al., 2022)におけるOLBIとMBIの関連性について確認したところ,情緒的消耗感と疲弊の相関は.68,脱人格化と離脱の相関は.45であり一定の外的妥当性が担保されている。
OLBIは各国で翻訳され(例えば,Halbesleben & Demerouti, 2005),複数の職業において疲弊と離脱の2因子構造の良好な適合度が示されている。日本においては,OLBIの利用頻度は高くないものの,ドイツ版から邦訳した熊谷他(2021)の看護師1,480人を対象とした調査においては,1項目を削除した2因子構造の信頼性と妥当性が報告されている。
Burnout Assessment ToolSchaufeli et al.(2020)は,MBIによるバーンアウトの測定について,注意力,集中力の低下といった認知機能の低下症状が測定されていないこと,個人的達成感の低下はバーンアウトの中心的構成要素とは言えないこと,研究用途で作成されたためバーンアウトの重症度などのカットオフ基準がないことなどを上げ,それらの課題に包括的に対処するためにBurnout Assessment Tool(以下,BATとする)を開発している。
BATの開発過程では,バーンアウトの病因論に基づいた演繹的アプローチに基づき既存のバーンアウト尺度の質問項目を分析し,バーンアウト専門家49名へのインタビューによる帰納的アプローチを経たうえで,1,500人の代表サンプルに対する定量的分析が行われている(Schaufeli et al., 2020)。その結果,BAT-Cと呼ばれる4つの中核的次元(疲労感,精神的距離,認知コントロールの不調,情緒コントロールの不調)とBAT-Sと呼ばれる2つの副次的次元(不眠,心配,不安などの心理的症状と心身症的愁訴)を定量化できる尺度として発表された。オランダにおいてはこれらを統合したバーンアウトスコアのパーセンタイルに応じて「低い」,「平均的」,「高い」,「非常に高い」に分類し,深刻なバーンアウト状態に至る前のスクリーニングツールとして利用することができる。Schaufeli et al.(2020)は疲労のみに着目したCBIや,仕事場面以外の状況を測定していないSMBM,認知障害が含まれていないOLBIと比較してBATは非常に有用な尺度であると主張し,多くの言語に積極的に翻訳されている(例えば,Consiglio et al., 2021)。日本においてもSakakibara et al.(2020)が,第1波1,032人,第2波498人の参加者を対象とした縦断調査を行い,中核症状及び副次的症状のそれぞれのα係数,MBI-GSと4つの中核症状の相関係数が十分な水準であること,尺度得点の経時的安定性などを示している。
Matches Measure上述の質問紙調査に加えて,興味深いバーンアウト尺度も報告されている。Matches Measure(以下,MMとする;Muir (Zapata) et al., 2022)では火の消えた複数のマッチ画像から現在の自分の状態像に当てはまるものを選択させることで,参加者のバーンアウトの程度を測定しようとしている。Kunin(1955)は,人の感情を言葉で表そうとするプロセスでは,ある程度の歪みが必ず生じるものだと考え,参加者に「自分が感じているように見える」顔を選んでもらう尺度を提案した。このように,視覚的イメージを利用することで,より直感的に自らの状態を示すことができる。実際,痛みを測定するために広く使われている方法の一つであるWong-Baker Pain Faces Scale(Wong & Baker, 2001)も,提示された患者の顔から直感的に自らの痛みを選ぶものであり,臨床場面において有効な方法として広く利用されている。また,視覚的イメージを利用することで,翻訳の手間や文化的差異の影響を減少させ,マッチが存在するどの国でも使えるという利点もある。
Muir (Zapata) et al.(2022)は研究1―4全体で1,200人以上のアメリカ人データを基に,11もの仮説を検証する大規模な研究を行っている。その結果,MMは,OLBI,SMBM,MBIそれぞれの下位因子と中等度以上の相関を持ち,他の尺度同士の相関係数と同レベルの大きさを示した。また,自律性やストレスなどの既存の尺度との関連をメタ分析推定値と比較した結果も他の尺度と同等のものであった。再検査信頼性に至っては他のバーンアウト尺度よりも高い値を示すなど,MMが直感的にバーンアウトを測定するために有効な手法であることが示されている。単項目の視覚的イメージではバーンアウトの症状を多面的に測定することは難しいが,調査参加者の負担の減少や言語の異なる文化圏での比較を目的とするためには有用な尺度といえるだろう。
バーンアウトの測定APA PsycInfo及びPud Medのキーワード検索を用いて以上の尺度の利用状況を検討した結果をTable 1に示す(MMは1件のみのため除く)。他の少数しか利用されていない尺度については検討できていないものの,2000年代まで95%を超えていたMBIの利用率が,他の尺度の出現によって次第に下がってきており,2020年以降の利用率の変化からは,MBIに代わって他の尺度の利用率が次第に上昇していく傾向がうかがえる。
バーンアウト尺度の使用状況(APA PsycInfo/PudMed)
1980―1999 | 2000―2009 | 2010―2019 | 2020―2023 | |
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注)2023年11月15日時点における検索ヒット数を表す。 | ||||
MBI | 524 / 140 | 1,242 / 416 | 3,079 / 1,348 | 1,244 / 1,529 |
CBI | 0 | 19 / 9 | 178 / 119 | 154 / 244 |
SMBM | 0 | 15 / 2 | 111 / 22 | 39 / 11 |
OLBI | 0 | 21 / 4 | 245 / 71 | 164 / 144 |
BAT | 0 | 0 | 0 | 29 / 47 |
ユーザーはこれらのバーンアウト尺度をどのように使い分ければよいのだろうか。例えば,専門職の離職にフォーカスするのであればMBI(もしくはJBS)の個人的達成感を一つの指標とする方法がある。また,肉体的疲労,認知的疲労がミスを引き起こしやすい職業においてはSMBM,仕事と生活の調和に困難を抱える対象者が多いと想定されるドメインでは職場バーンアウトと個人的バーンアウトを分けて測定できるCBI,尺度の精度を重視するのであればOLBI,個人への介入を踏まえて症状の程度を知りたい場合にはBAT,調査参加者の負担を軽減したいのであればMMを利用するなどの方法が考えられるだろう。一方,これらの尺度のうち日本において妥当性,信頼性の検討が十分になされているものは一部に留まっている。バーンアウトの定義や対策について多様な議論を深めていくためには,ユーザーがそれぞれの尺度の特徴を把握し,目的に応じて尺度を使い分けていくための資料が必要である。
目的以上の議論から本研究では上述の尺度の邦訳版を用いて看護師,介護福祉士の2職種を対象としたWeb調査を行う。それぞれの尺度で想定する因子の内的整合性,確認的因子分析を用いた構造的妥当性に加え,JBSとの相関分析によって基準関連妥当性についても検討する。なお,本研究を行うにあたっては質問項目が広く公開され,誰でも自由に使用することが可能な尺度をピックアップした。利用許諾の詳細については電子付録を参照されたい。
調査は,2023年2月に株式会社クロス・マーケティングのモニター会員を対象に行った。JBSを用いた調査において,比較的バーンアウト傾向が高いという先行研究(井川・中西,2019; 井川他,2013)をもとに看護師,介護福祉士を対象とし,それぞれ500名を目標にデータ収集を依頼し,十分な調査数が得られた時点で回答を打ち切った。調査はWeb上で以下に示す尺度ごとに一画面で教示文を呈示し,回答を求めた。なお,尺度の呈示順序は基準となるJBSを冒頭に固定し,その他の尺度はランダマイズしている1。なお,本研究は東北学院大学人間対象研究審査委員会においてあらかじめ倫理審査を受けて行った(承認番号:2022_025)。
質問項目バーンアウトの測定のために利用したのはJBS(情緒的消耗感5項目,脱人格化6項目,個人的達成感6項目,5件法),CBI(個人的バーンアウト6項目,仕事関連バーンアウト7項目,クライアント関連バーンアウト6項目,5件法),SMBM(身体的疲労6項目,認知的疲労5項目,感情疲労3項目,7件法),OLBI(疲弊8項目,離脱8項目,4件法),BAT中核症状(疲労感8項目,精神的距離5項目,認知コントロールの不調5項目,情緒コントロールの不調5項目,5件法)及びMMであった。各尺度の質問項目の詳細や教示文,選択肢については電子付録を参照されたい。
すでに邦訳版が公開されているOLBIについては,ドイツ語版から邦訳された熊谷他(2021)の日本語版OLBI,BATについては,Sakakibara et al.(2020)によるBAT-J仕事関連版(work-related version)を利用した。CBI(Kristensen et al., 2005),SMBM(Shirom & Melamed, 2006)については英語版を学術論文翻訳会社Ulatusに依頼し,質問項目及び教示文のダブルバックトランスレーション(翻訳及び逆翻訳)を行った。MMについては教示文を著者が翻訳し「バーンアウトとは,肉体的・精神的・情緒的な疲労を感じることを指します。あなたが現在感じている燃え尽きの程度に最もマッチの近い数字を選んでください。」と教示し,6つのマッチ画像を呈示した2。
分析分析には,HAD version 12.30(清水,2016)及びR 4.2.1(R Core Team, 2024)を用いた。まず,それぞれの尺度の内的整合性についてクロンバックのα係数で確認した。次に,構造的妥当性を検討するために原版で想定する因子構造を設定した確認的因子分析によってモデルの適合度を算出した。なお,基準については,適合度指標に関する先行研究を網羅的に検討した星野他(2005)を参考に良好(CFI>.95, SRMR<.05, RMSEA<.05),許容範囲(CFI>.90, SRMR<.10, RMSEA<.10)として設定し,RMSEAについては90%信頼区間の上限(HI 90)も算出した。最後に,MBIと同一構造であり多くの研究が蓄積されているJBSとの相関分析を行うことで,基準関連妥当性について検討した。
収集した1,302名のデータのうち,回答を途中でやめた108名,回答時間の著しく短いデータ(300秒以下)239名,不備があったデータ(2名)を削除した結果,調査参加者の総数は看護師(N=492),介護福祉士(N=461)の合計953名(男性318名,女性630名,その他・答えたくない5名),平均年齢46.42(SD=9.92)歳となった。平均週間労働時間(SD)は,39.91(SD=13.62)時間,職種経験月数は199.66(SD=117.43)ヵ月であった。介護福祉士の参加者は男性253名,女性206名,答えたくない,その他2名,平均年齢(SD)は47.85(9.41)歳,管理職は58名,非管理職は403名,平均週間労働時間(SD)は41.01(13.07)時間であった。看護師は男性65名,女性424名,平均年齢(SD)は45.09(10.21)歳,管理職は39名,答えたくない,その他3名,非管理職は453名,平均週間労働時間(SD)は38.87(14.05)時間であった。
尺度の分析尺度得点及びα係数 それぞれの尺度について先行研究において設定された下位因子ごとに平均値で得点化した。なお得点が高いほどバーンアウト傾向が高くなるように質問項目の一部を逆転している。Table 2に職種ごとの尺度得点の要約統計量及びα係数を示す(全体の平均値,標準偏差,最大値,歪度,尖度等の要約統計量については電子付録参照)。なお,井川・中西(2019)と同様に両職種の尺度得点に顕著な差は認められていない3。それぞれの尺度得点の信頼性係数は概ね良好な水準ではあったものの,他の尺度と比較した場合にOLBIのα係数がやや低い水準にあった。
尺度得点の要約統計量とα係数
因子名(尺度名) | 看護師(N=492) | 介護福祉士(N=461) | |||||
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Mean | (SD) | α係数 | Mean | (SD) | α係数 | ||
情緒的消耗感(JBS) | 3.22 | (1.05) | .86 | 2.99 | (1.04) | .85 | |
脱人格化(JBS) | 2.40 | (0.98) | .88 | 2.32 | (0.99) | .89 | |
個人的達成感(JBS) | 3.52 | (0.84) | .83 | 3.44 | (0.88) | .84 | |
個人的バーンアウト(CBI) | 59.70 | (20.65) | .89 | 57.01 | (21.73) | .90 | |
仕事関連バーンアウト(CBI) | 57.08 | (18.65) | .81 | 54.45 | (18.86) | .80 | |
顧客関連バーンアウト(CBI) | 55.22 | (18.92) | .85 | 53.75 | (19.87) | .86 | |
身体的疲労(SMBM) | 4.03 | (1.43) | .94 | 3.93 | (1.44) | .93 | |
認知的疲労(SMBM) | 3.38 | (1.33) | .93 | 3.23 | (1.35) | .92 | |
感情的疲労(SMBM) | 3.30 | (1.28) | .90 | 3.29 | (1.35) | .90 | |
離脱(OLBI) | 20.85 | (4.02) | .73 | 20.59 | (4.06) | .73 | |
疲労(OLBI) | 21.22 | (4.34) | .80 | 20.74 | (4.22) | .77 | |
疲労感(BAT) | 3.19 | (0.90) | .94 | 3.08 | (0.89) | .93 | |
精神的距離(BAT) | 2.54 | (0.94) | .87 | 2.45 | (0.90) | .85 | |
認知コントロールの不調(BAT) | 2.48 | (0.93) | .93 | 2.44 | (0.92) | .92 | |
情緒コントロールの不調(BAT) | 2.39 | (0.88) | .90 | 2.42 | (0.87) | .89 | |
Matches Measure (MM) | 3.06 | (1.31) | ―― | 3.02 | (1.32) | ―― |
適合度指標 それぞれの尺度について先行研究で想定した因子に質問項目を配置した確認的因子分析を行い,モデルの適合度指標を確認したところ,JBS(看護師:CFI=0.91, RMSEA(HI 90)=0.08(0.09), SRMR=0.07;介護福祉士:CFI=0.93, RMSEA(HI 90)=0.07(0.08),SRMR=0.07)及びBAT(看護師:CFI=0.92, RMSEA(HI 90)=0.08(0.09), SRMR=0.06;介護福祉士:CFI=0.92, RMSEA(HI 90)=0.08(0.09), SRMR=0.07)が良好な水準であり,すべての指標において許容範囲であった。SMBIについてはCFIで許容範囲内,SRMRにおいては他の尺度よりも良好な水準であったものの,RMSEAで低い水準に留まった(看護師:CFI=0.94, RMSEA(HI 90)=0.11(0.11), SRMR=0.04;介護福祉士:CFI=0.92, RMSEA(HI 90)=0.12(0.13), SRMR=0.05)。CBIについては,SRMRにおいては許容範囲であったもののCFI,RMSEAにおいて低い水準となった(看護師:CFI=0.85, RMSEA(HI 90)=0.12(0.12), SRMR=0.06;介護福祉士:CFI=0.86, RMSEA(HI 90)=0.12(0.12), SRMR=0.06)。OLBIについては,すべての指標において低い水準であった(看護師:CFI=0.76, RMSEA(HI 90)=0.12(0.13), SRMR=0.10;介護福祉士:CFI=0.67, RMSEA(HI 90)=0.14(0.15), SRMR=0.13)。なお,職種ごとに顕著な差は認められなかった。
探索的因子分析 本研究で使用した尺度のうちJBS,BAT,OLBIを除いてこれまでその因子構造等を確認したデータは公開されていない。そこで,予備的な分析としてそれぞれの尺度の因子構造を確認するためにすべての参加者を対象とし,最尤法プロマックス回転を用いた探索的因子分析を行った(電子付録参照)。なお,因子数は先行研究の想定どおりに指定し,低負荷量及びダブルローディングの基準は因子負荷量.40とした。JBSについては,脱人格化のうち「こまごまと気くばりをすることが面倒に感じることがある」が低負荷量で情緒的消耗感に配置されたものの,その他すべての因子に想定した質問項目が配置される3因子構造が認められた。BATについては,精神的距離に想定された「自分の仕事に何とか熱意を持とうと苦労している」が疲労感に低負荷量で配置されたものの,他の質問項目の配置パターンは先行研究と同様となった。SMBMについては,感情的疲労の「同僚やクライアントのニーズに敏感になることができないと感じる」が認知的疲労に配置された以外は想定と同じ因子に配置された。CBI及びOLBIについては,想定とは異なる因子に質問項目がバラバラに配置された。
尺度得点同士の相関係数 それぞれの尺度得点の相関係数をTable 3に示す。まず,数多く先行研究が蓄積されているJBSの尺度得点と他の尺度得点との相関係数について確認した。情緒的消耗感(JBS)は,個人的バーンアウト(CBI),仕事関連バーンアウト(CBI),身体的疲労(SMBM),疲労(OLBI),疲労感(BAT)と強い相関(rs>.70)を示し,主として疲労に関係する因子同士に高い相関係数が認められた(看護師と介護福祉士のいずれかの高い係数を採用)。脱人格化(JBS)は離脱(OLBI)も含めどの尺度得点とも強い相関は認められなかった。個人的達成感の低下は他のすべての尺度得点との相関係数が小さい水準に留まっていた。
尺度得点同士の相関係数
尺度 | (1) | (2) | (3) | (4) | (5) | (6) | (7) | (8) | (9) | (10) | (11) | (12) | (13) | (14) | (15) | (16) | ||||||||||||||||
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注) (1)情緒的消耗感 (JBS),(2)脱人格化 (JBS),(3)個人的達成感 (JBS),(4)個人的バーンアウト (CBI),(5)仕事関連バーンアウト (CBI),(6)顧客関連バーンアウト (CBI),(7)身体的疲労 (SMBM),(8)認知的疲労 (SMBM),(9)感情的疲労 (SMBM),(10)離脱 (OLBI),(11)疲労 (OLBI),(12)疲労感 (BAT),(13)精神的距離 (BAT),(14)認知コントロールの不調 (BAT),(15)情緒コントロールの不調 (BAT),(16)Matches Measure (MM)。右上が看護師,左下が介護福祉士を表す。 **p < .01 |
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(1) | − | .67 | ** | .24 | ** | .70 | ** | .70 | ** | .57 | ** | .76 | ** | .46 | ** | .45 | ** | .63 | ** | .70 | ** | .76 | ** | .55 | ** | .48 | ** | .43 | ** | .48 | ** | |
(2) | .72 | ** | − | .15 | ** | .51 | ** | .54 | ** | .50 | ** | .56 | ** | .45 | ** | .52 | ** | .58 | ** | .48 | ** | .55 | ** | .68 | ** | .54 | ** | .53 | ** | .42 | ** | |
(3) | .18 | ** | .21 | ** | − | .32 | ** | .28 | ** | .17 | ** | .31 | ** | .20 | ** | .21 | ** | .55 | ** | .47 | ** | .29 | ** | .23 | ** | .20 | ** | .11 | ** | .23 | ** | |
(4) | .69 | ** | .55 | ** | .24 | ** | − | .84 | ** | .64 | ** | .77 | ** | .50 | ** | .45 | ** | .56 | ** | .74 | ** | .79 | ** | .53 | ** | .51 | ** | .48 | ** | .54 | ** | |
(5) | .69 | ** | .56 | ** | .22 | ** | .85 | ** | − | .70 | ** | .75 | ** | .48 | ** | .45 | ** | .55 | ** | .67 | ** | .74 | ** | .53 | ** | .50 | ** | .47 | ** | .49 | ** | |
(6) | .57 | ** | .55 | ** | .21 | ** | .69 | ** | .73 | ** | − | .57 | ** | .41 | ** | .42 | ** | .45 | ** | .53 | ** | .58 | ** | .48 | ** | .44 | ** | .45 | ** | .39 | ** | |
(7) | .77 | ** | .64 | ** | .28 | ** | .79 | ** | .74 | ** | .59 | ** | − | .62 | ** | .57 | ** | .60 | ** | .75 | ** | .83 | ** | .57 | ** | .55 | ** | .49 | ** | .58 | ** | |
(8) | .50 | ** | .55 | ** | .19 | ** | .53 | ** | .49 | ** | .47 | ** | .67 | ** | − | .77 | ** | .39 | ** | .47 | ** | .56 | ** | .56 | ** | .67 | ** | .57 | ** | .34 | ** | |
(9) | .51 | ** | .60 | ** | .25 | ** | .47 | ** | .48 | ** | .46 | ** | .64 | ** | .79 | ** | − | .40 | ** | .44 | ** | .50 | ** | .55 | ** | .61 | ** | .53 | ** | .31 | ** | |
(10) | .59 | ** | .62 | ** | .56 | ** | .53 | ** | .50 | ** | .48 | ** | .62 | ** | .44 | ** | .54 | ** | − | .67 | ** | .55 | ** | .56 | ** | .43 | ** | .36 | ** | .43 | ** | |
(11) | .67 | ** | .57 | ** | .43 | ** | .70 | ** | .66 | ** | .55 | ** | .78 | ** | .56 | ** | .56 | ** | .71 | ** | − | .78 | ** | .49 | ** | .51 | ** | .45 | ** | .54 | ** | |
(12) | .74 | ** | .57 | ** | .22 | ** | .76 | ** | .72 | ** | .57 | ** | .83 | ** | .60 | ** | .56 | ** | .57 | ** | .76 | ** | − | .62 | ** | .60 | ** | .52 | ** | .50 | ** | |
(13) | .55 | ** | .67 | ** | .26 | ** | .54 | ** | .51 | ** | .49 | ** | .62 | ** | .63 | ** | .64 | ** | .58 | ** | .55 | ** | .63 | ** | − | .75 | ** | .70 | ** | .41 | ** | |
(14) | .46 | ** | .56 | ** | .19 | ** | .45 | ** | .41 | ** | .42 | ** | .53 | ** | .72 | ** | .67 | ** | .45 | ** | .48 | ** | .56 | ** | .79 | ** | − | .74 | ** | .38 | ** | |
(15) | .43 | ** | .56 | ** | .16 | ** | .43 | ** | .41 | ** | .43 | ** | .49 | ** | .60 | ** | .61 | ** | .41 | ** | .43 | ** | .50 | ** | .75 | ** | .78 | ** | − | .35 | ** | |
(16) | .56 | ** | .48 | ** | .19 | ** | .64 | ** | .55 | ** | .44 | ** | .62 | ** | .42 | ** | .40 | ** | .50 | ** | .57 | ** | .57 | ** | .49 | ** | .40 | ** | .37 | ** | − |
それぞれの尺度の因子間相関の特徴を検討したところJBSは.15―.72,CBIは.64―.85,SMBMは.57―.79,OLBIは,.67―.71,BATは.35―.79であった。MMについてはほとんどの尺度得点と中程度の相関係数が認められたが,個人的達成感(JBS)や認知的疲労(SMBM),身体的疲労(SMBM),認知コントロールの不調(BAT),情緒コントロールの不調(BAT)とは低い相関に留まった。
本研究では主に海外で使用されている複数のバーンアウト尺度の特徴について紹介し,看護師及び介護福祉士を対象としたWeb調査によってそれらの信頼性,妥当性について検討した。内的整合性については,すべての尺度の下位因子のα係数は良好な水準であった。また,確認的因子分析を用いて構造的妥当性を検討した結果,適合度指標についてはJBS,BATが良好な水準であり,CBIやOLBIは低い水準であった。それぞれの尺度得点の相関係数を確認した結果,情緒的消耗感と,疲労を中心とする下位因子同士に高い相関係数が認められた。以下に本研究で明らかとなった知見について尺度ごとにまとめ考察する。
JBS JBSの下位因子のα係数及び尺度の適合度指標は先行研究(井川・中西,2019)と同様に良好な水準であり,内的整合性及び構造的妥当性が確認された。この結果は本研究で収集したデータが先行研究と乖離していないこと,JBSを基準関連妥当性の対象とすることが適切であることを示す。次に,他の尺度との相関係数を確認したところ,バーンアウトの中核症状と言われる情緒的消耗感については他の尺度得点と中から高程度以上の相関係数が認められた。一方,個人的達成感については,他の尺度との相関係数は低く,バーンアウト症状のなかで異質であり,中核症状というよりも対処方略の一つであるという指摘とも整合的であった。この結果は,他の尺度得点との相関が中程度に留まった脱人格化とも共通している。序論で述べたようにこれらの副次的症状をバーンアウトの一部として扱うかどうかについては複数の研究者によって疑問が呈されている。一方,個人的達成感や脱人格化が他のバーンアウト尺度と低い相関係数を示していることは,JBSがバーンアウト症状を多面的に捉えることができているとも言える。例えば,バーンアウトの症状の上昇に伴って脱人格化や個人的達成感の低下が出現するというLeiter & Maslach(1988)のモデルなどを応用することでバーンアウトのプロセスを検討することも可能であろう。
CBI CBIの下位因子のα係数はすべて良好な水準であり,内的整合性が確認された。情緒的消耗感(JBS)との相関を確認したところ,個人的バーンアウト,仕事関連バーンアウトとの相関係数は高く,クライアント関連バーンアウトも中等度以上であり,基準関連妥当性も確認された。この結果からCBIの3つの尺度得点は,バーンアウトの中核症状を個人,仕事,クライアント関係のドメインから測定できていると考えられる。一方,確認的因子分析の結果,適合度指標は低く,探索的因子分析においても想定した通りの因子に質問項目は配置されず,構造的妥当性については疑問の残る結果となった。そもそもCBIの3つの下位尺度は,異なる文脈で異なる概念を測定するために作成されたものであり,因子分析等の統計的手法で項目を検定することは想定されていない(Kristensen et al., 2005)。以上の結果を踏まえると,CBIを用いたバーンアウト調査では,どのドメインにおけるバーンアウトに着目しているかをユーザーが予め明確にした上で使用することが重要であると言えるだろう。
SMBM SMBMの下位因子のα係数はすべて良好な水準であり,内的整合性が確認された。適合度指標は十分な水準ではなかったものの探索的因子分析においてオリジナルと同様の因子構造が確認されたという結果から構造的妥当性についても一定の水準にあると考えられる。また,JBSの情緒的消耗感とすべての尺度得点との間に中程度以上の相関係数が認められ,基準関連妥当性も確認された。それぞれの因子間相関が高い水準であるという結果からは,SMBMの下位因子が疲労をより精緻に分類して測定できていると同時に,それぞれの疲労がお互いに関連しているとも解釈できる。以上の結果は,SMBMの基礎理論である資源保存理論における想定とも整合的であった。SMBMの利用頻度はやや減少傾向にあるものの,仕事上の疲労に着目してバーンアウトを測定したいユーザーにとっては有効な尺度であると言えるだろう。
OLBI OLBIについては先行研究(熊谷他,2021; Shoman et al., 2021)とは異なり,下位因子のα係数はやや低い水準であり,適合度指標も許容範囲には至らず,内的整合性,構造的妥当性は十分とは言えない水準となった。想定する因子構造が認められなかった探索的因子分析,離脱と脱人格化の相関係数が中程度に留まっていた結果も踏まえるとOLBIがターゲットとしているバーンアウト症状(疲弊,離脱)をJBSの情緒的消耗感や脱人格化と同じレベルの解像度で測定できているかについては疑問が残る。OLBIは肯定的・否定的質問を同数設定することで,より正確なデータ収集を試みており,調査参加者が質問項目に答えることへの認知的負担も大きい。本調査においては,類似した質問項目に多数回答していることがネガティブな影響を与えた可能性がある。この点を踏まえればOLBIを利用した調査においては,精緻なデータを収集できるという長所と,回答者に認知的負荷を与えるという短所を踏まえた調査設計(質問を冒頭に固定するなど)を行うことが望ましいと考えられる。
BAT BATの下位因子のα係数は良好な水準であり,内的整合性が確認された。また,適合度指標のすべてが許容範囲内かつ,探索的因子分析においてもオリジナルと同様の因子構造が抽出されたことから構造的妥当性についても確認された。さらに,すべての因子と情緒的消耗感(JBS)との相関係数が中程度以上であり,基準関連妥当性も担保されたと考えられる。以上の結果からは,BATの下位因子それぞれが測定している症状は独立的であり,4つの症状から多面的にバーンアウトを測定できていると考えられる。長時間労働医師への健康確保措置に関するマニュアルの改訂のための研究 研究班(2023, pp.52-60)においては,日本人労働者を対象とした調査データ(Sakakibara et al., 2020)の25%,50%,75%,95%を分岐点とした得点基準が公開されている。今後BATの使用頻度が上昇し,これらのデータが蓄積されていくことで,カットオフ基準がさらに明確化され,その応用性はさらに高まっていくかもしれない。一方,尺度の得点を用いてバーンアウトか否かやその重症度などのカットオフ基準を設けることについてはバーンアウト研究初期から議論の対象となってきた。バーンアウトが社会的なものであるからこそ,症状の出現の形は職種によっても異なるとも考えられ,これらの基準を一律に採用することのメリットとデメリットについても自覚的である必要があるだろう。
MM MMは単項目であるため,α係数や適合度指標は確認できていない。他の尺度との相関を確認したところ,身体的疲労に関連する他の因子との相関係数が中程度であったのに対し,認知的疲労(SMBM),感情的疲労(SMBM),個人的達成感(JBS)などに関連する尺度との相関は低い水準に留まった。この結果からは基準関連妥当性については十分な水準にないと言える。MMは仕事に関連する単純な個人の疲労を測るためには有用なツールとなりうる一方で,認知や感情などの多方面でバーンアウトの症状を測定するためには少し,精度に欠ける側面があるかもしれない。先行研究(Muir (Zapata) et al., 2022)よりも低い相関が得られた理由として,日本においてはポジティブな意味を持つ「燃え尽き」という邦訳が古くから使用されていることが関係している可能性がある。MMは,近年公開されたばかりであり,様々な文化圏やサンプルによる妥当性の検証などを待つ必要がある。また,本研究においては世代間で顕著な隔たりは認められていないが,世界的にはマッチの生産量は減少しており,今後これまでと同様の測定特性が見られるかについては検討の余地がある。
構成概念としてのバーンアウト本研究では複数のバーンアウト尺度の特徴を考察し,それぞれの尺度が測定するバーンアウト症状には重複した部分と独自の部分が同時に存在することが明らかとなった。以上の結果はそもそもバーンアウトとはなにかという点についてバーンアウト研究者の間ですらコンセンサスが得られていないことを改めて浮き彫りにしている。例えば,中核症状として情緒的消耗感や疲労のみに着目するのであれば,それはバーンアウト尺度ではなく疲労消耗尺度という名称のほうが適切かもしれない。また,職業領域のドメインにのみ着目するのであれば職業ストレス反応と名付けたほうが自然であろう。このような状況の中で,心的構成概念としてバーンアウトを測定するのであれば,「…がバーンアウトに与える影響」などの単純なモデルでバーンアウト概念を用いるのではなく,それぞれの尺度の特徴を踏まえた慎重な選択が必要になる。また,測定尺度だけでなく,そもそもバーンアウトとはなにかについてコンセンサスを得るための議論も継続していく必要があるだろう。
本研究の限界と展望本研究においては複数のバーンアウト尺度を同時に測定するために,参加者は類似した質問項目90項目(本調査に直接関連しない別質問項目を加えると合計150項目)に回答した。妥当性の基準としたJBS以外の尺度については呈示順序をランダマイズし,回答時間が短かった参加者については削除したものの,多数の質問項目に回答することで認知的負荷が大きくなり,全体的に適合度が小さくなってしまった可能性がある。今後サンプル数を増やし,一度に回答する尺度の数を減らしそのペアをランダマイズするなどの工夫が必要になる。また,本研究では,上述したCOSMINガイドライン(Prinsen et al., 2018)で挙げられている内容的妥当性や信頼性(再検査信頼性),バーンアウト以外の尺度を用いた構成概念妥当性などの検討ができていない点も課題である。本研究の知見を拡大し,系統的レビューにおいて検証に耐えうる測定特性を示していくために,ガイドラインに基づいたアプローチを進めていく必要がある。また,本研究において翻訳会社に依頼してダブルバックトランスレーションを行ったSMBMやCBIについては,COSMINの内容的妥当性(Terwee et al., 2018)の観点からのアプローチが十分とは言えないため,より精度の高い質問項目の作成も存在しうる。今後,これらの課題をクリアした上で,複数の職種を対象とした縦断調査,うつなどの他の概念との関係の確認による外的妥当性などを確認することで本研究の知見を更に拡大していくことが期待される。
本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。
本研究は,JSPS科研費18K13271「典型的バーンアウトの発生メカニズムに関する多角的検討」及び23K02849「典型的バーンアウトの予防研究――セルフチェックシートの開発から社会啓発まで――」の支援を受けて行ったものである。
本研究は,応用心理学会第89回大会において発表されたデータを再分析し,加筆修正を加えたものである。
本研究の資料の一部は,J-STAGEの電子付録で報告している。
本研究と同時に,典型的バーンアウトクラスタの抽出を目的とした他の調査(井川他,2023)を行っているが,本研究と直接関連しない質問項目(仕事コミットメント尺度50項目程度)のため省略する。
2MMは非営利,改変禁止の下でライセンスされており,研究用途であれば無料で使用することができる。邦訳版の使用についてもMuir (Zapata) 氏から許諾を得ているが,教示文についてはダブルバックトランスレーションを行っていないため,使用する際には原版を確認されたい。なお,原版においては,6よりも8段階の画像のほうが,妥当性がやや高い水準であったが,スマートフォンを使用して回答した場合に縦長の表示となることを鑑み,本研究では6段階バージョンを採用している。
3全般的に井川・中西(2019)よりも看護師の尺度得点が高くなっている。尺度同士を比較した本研究において大きな影響があるとは考えにくいが,日本でCOVID-19の初感染者が報告されたのは2020年1月であり,調査時はそれから3年が経過しているものの,まだ5類感染症とはなっていない。特に看護師を取り巻く環境は通常よりもストレスフルな状況であった点については留意されたい。