The Japanese Journal of Psychology
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A study of the prevalence of auditory hypersensitivity in university students: Aspects of hyperacusis and misophonia
Yumi YamazawaAkira Midorikawa
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Article ID: 96.23333

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Translated Abstract

This study aims to reveal the characteristics of auditory hypersensitivity among Japanese university students with a particular focus on two elements of auditory hypersensitivity: hyperacusis and misophonia. We conducted an investigation of the prevalence and interrelationship of these conditions in a non-clinical sample of 439 individuals using self-reported measures. Additionally, we performed a meta-analysis to compare our findings on hyperacusis and misophonia with the existing literature. Our results revealed a prevalence of 8.2% for hyperacusis, 40% for misophonia, and a 7.2% comorbidity rate for both conditions. Our meta-analysis indicated that our hyperacusis and misophonia scores are consistent with those reported in previous studies, but also suggested variability in these conditions across different countries. This implies that cultural and gender-related factors might influence the prevalence rates of hyperacusis and misophonia in the general population.

近年,音環境に対する社会的な配慮が浸透し始めている。空港では周囲の騒音が軽減されたカームダウン・スペースが設置され,ドラッグストアなどでは音や照明を一定時間に限り制限するクワイエット・アワーが導入されるようになった。これらの背景には,発達障害への理解の浸透とともに,発達障害に随伴することが多い各種刺激に対する敏感さへの配慮があげられる(朝日新聞,2023)。聴覚刺激に敏感な者にとっては,一般には気にならないような日常的な環境音でも耐え難いことがある。このように音への耐性が低下した状態が聴覚過敏である(Henry et al., 2022)。聴覚過敏は自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)において高頻度でみられる(Khalfa et al., 2004; Rosenhall et al., 1999)。これまでにASDを対象とした多くの研究によりこうした感覚過敏を含む特異的な感覚処理の存在が示され(Ben-Sasson et al., 2009; Leekam et al., 2007),「精神疾患の診断・統計マニュアル」(DSM-5)に感覚過敏・鈍麻,感覚探求の項目がASDの診断基準に追加され(American Psychiatric Association, 2013 高橋・大野訳 2014),ASDの特徴の一つとみなされている。

聴覚における感覚過敏は,日本では「聴覚過敏」と表現されるが,欧米では「ほかの人にとってはなんともない日々の音に対して耐えることができない状態」を意味するDecreased Sound Tolerance(DST: 音耐性の低下)とも呼ばれ,音過敏症(Hyperacusis)と音嫌悪症(Misophonia)に分類されている(Jastreboff & Jastreboff, 2014)。音過敏症は日常的な音を実際よりもより大きく感じる状態である。刺激に対する反応は物理的特性のみに依存し,音が生じた文脈や意味とは無関係で,不快感や痛みを伴うこともある(Aazh et al., 2014; Fackrell et al., 2019)。一方,音嫌悪症は音の物理的特性ではなく,音の特定のパターンや意味によって反応が生じ(Jastreboff & Jastreboff, 2002; Swedo et al., 2022),嫌悪対象となる音は人によって異なるという特徴がある。嫌悪対象は他者が発生させる音である場合が多く(Jastreboff & Jastreboff, 2014; Palumbo et al., 2018),たとえば他者が食事をする時の音や呼吸や咳,あるいはペンのクリック音,タイピング音などが挙げられる(Henry et al., 2022; Zhou et al., 2017)。さらに音嫌悪症者ではこうした音に曝された際に怒りや不安などの否定的感情を経験し心拍数の増加や発汗などの自律神経覚醒の亢進がみられることも指摘されている(Rinaldi et al., 2023; Swedo et al., 2022)。

聴覚過敏はASDにおいてよく見られる症状として知られているが(Khalfa et al., 2004; Rosenhall et al., 1999),一般集団においても一定の割合で認められることが示されている。しかし国ごとに頻度は異なり,自記式質問紙によるスウェーデンの調査では6.8%(Andersson et al., 2002),ポーランドでは15.2%(Fabijanska et al., 1999),日本では4.6%が音過敏症であることが報告されている(熊谷他,2013)。性差については女性の割合が高いという報告が多いが(Khalfa et al., 2002; Paulin et al., 2016; Yilmaz et al., 2017),一部には男性(児童)の割合が高いとする研究(Hall et al., 2016)や性差はないという報告もあり(熊谷他,2013),一貫した結果は得られていない。音嫌悪症の保有率は,自記式質問紙による調査で,アメリカでは20―23.4%(Brennan et al., 2024; Wu et al., 2014),中国では23.1%(Zhou et al., 2017),日本では41.4%であることが報告されている(多田他,2022)。音嫌悪症には性差がないとする研究が多いが(Jakubovski et al., 2022; Wu et al., 2014; Zhou et al., 2017),日本では女性の得点が高いことが報告されている(多田他,2022)。このように音過敏症と音嫌悪症は国によって大きな開きがあるのが特徴である。特に音嫌悪症は日本での保有率が際立っているが,その報告数は限られている。また,音過敏症および音嫌悪症の性差についてはいずれも一貫した結果が得られていない。

音過敏症と音嫌悪症は異なる病態であることが示されているが,両者は併存しうることが指摘されている(Henry et al., 2022)。Jager et al.(2020)では音嫌悪症者のうち過去に音過敏症の診断を受けた人の割合は1%程度であったが,自記式質問紙による調査では音嫌悪症に分類された参加者の音過敏症の併存率は71%であった(Enzler et al., 2021)。Brennan et al.(2024)の調査においても両者の強い関連が示されている。一方で,日本では音嫌悪症の概念はほとんど知られておらず音過敏症と音嫌悪症の併存に関する研究はみられない。また,坂田(2017)は聴覚過敏を「多くが不快感,恐怖,苛立ちなど,負の情動を併せ持つ。……きっかけになる音声は限定される場合もそうでない場合もあり,音量もさまざまである(坂田,2017, p.1184)」と説明しており,音過敏症と音嫌悪症は聴覚過敏として包括的に検討されている(たとえば,松井・佐久間,2020; 辻,2018など)。音過敏症と音嫌悪症は異なった性質であり,分けて検討されるべきであるが,これまで日本では両者が十分に整理されないまま検討が進められてきた。

以上の状況を踏まえ,本研究は以下の点を目的とする。第一に,本邦では音過敏症と音嫌悪症は十分に区別されずに検討されてきたため,両者の関係については不明である。そこで,本研究では音過敏症と音嫌悪症を区分して同一の大学生を対象に調査を実施し,本邦における保有率と併存率を明らかにする。第二に,性差について検討する。第三に,国ごとに保有率の違いが示されているが,保有率を算出するための基準が研究ごとに異なっているため本研究では同一の尺度で検討された文献を対象とし,メタ分析の手法を用いて尺度の得点にもとづいた比較を行うこととする。

方法

対象者と手続き

調査は2023年7月から10月にかけて行われた。調査対象者は都内の私立大学で心理学の授業を履修する大学生440名(男性257名,女性183名)であり,すべての項目に回答していた439名(男性256名,女性183名,平均年齢19.57歳(SD=1.35))を分析対象とした。

質問項目

音過敏症を評価するため,Khalfa(2002)の音過敏症尺度(Hyperacusis Questionnaire: 以下,HQとする)の日本語版(熊谷他,2013)を用いた。計14項目からなり,注意,社会,情動の3因子に分けられる。Khalfa(2002)は4件法を用い,最高得点は42点であったが,日本語版では6件法を用い,最高得点は70点であった。得点が高いほど音過敏症の程度が強く,40点がカットオフ値とされている。本研究では日本語版の採点・分析方法に準拠した。

音嫌悪症を評価するため,Wu et al.(2014)の音嫌悪症尺度(Misophonia Questionnaire: 以下,MQとする)の日本語版(多田他,2022)を用いた。2つの尺度から構成され,特定の音に対する嫌悪感を評価する音嫌悪症状尺度は7項目,情動反応や行動を評価する情動・行動尺度は10項目からなる。5件法を用い,最高得点は68点であり,得点が高いほど音嫌悪症の程度が強くなる。Wu et al.(2014)により音嫌悪症状尺度の得点において14点がカットオフ値とされ,本研究においてもこれに準拠した。

文献収集

メタ分析を用いて音過敏症および音嫌悪症の平均点の比較を行うため,文献を選定した。文献を収集するため,Google ScholarとPubMedで“Hyperacusis”,“Misophonia”をキーワードとして検索を行った。また,国内の研究については,Google ScholarとCiNiiで,「聴覚過敏」,「ミソフォニア」,「音嫌悪症」をキーワードとして検索を行った。文献の選定基準を,(a)HQまたはMQを使用している,(b)一般集団を対象としていることとし,臨床群を対象としたものは除外した。その結果,音過敏症については5件(Table 1),音嫌悪症については4件が選定された(Table 2)。

Table 1

Studies included in the meta-analysis of hyperacusis

Study n Mean SD
Note . As Kumagaya et al. (2013) and the current study used a six-point scale, the values were converted to scores using the four-point scale.
Khalfa (2002) 201 15.00 6.70
Kumagaya et al. (2013) 216 10.14 6.96
Yilmaz et al. (2017) 536 16.34 7.91
Erinc & Derinsu (2020) 529 15.69 6.63
Cogen (2024) 333 10.86 6.76
Current study 439 12.94 7.54
Table 2

Studies included in the meta-analysis of misophonia

Study n Mean SD
Wu et al. (2014) 483 19.76 10.78
Zhou et al. (2017) 415 19.58 10.23
Jakubovski et al. (2022) 2,519 8.91 8.65
Tada et al. (2022) 180 33.30 10.80
Current study 439 26.89 11.70

分析方法

保有率および相関分析 音過敏症および音嫌悪症の保有率はHQ,MQのそれぞれのカットオフ値に基づき算出した。併せてHQ得点とMQ得点とのPearsonの積率相関係数を算出した。

性差 音過敏症と音嫌悪症の性差についてはHQ,MQそれぞれの総合得点および下位尺度の得点について対応のないt検定を行った。

先行研究との比較 先行研究と本研究における音過敏症および音嫌悪症の平均点を比較するため,メタ分析を行った。効果量として各研究の平均値とそれぞれの信頼区間を求め,先行研究全体の平均値と比較した。研究全体の平均値はランダム効果モデルを用いて推定した。なお,音過敏症のメタ分析に含む文献のうち熊谷他(2013)および本研究はHQに対して6件法で回答を求めていたため,4件法の得点に換算して分析を行った。

分析ソフト メタ分析には統計分析ソフトR 4.3.2(R Core Team, 2023)のmetaforパッケージ(Viechtbaur, 2010)を用いた。相関分析および性差の検討にはIBM SPSS Statistics 29.0(SPSS Inc., Chicago, IL, United States)を用いた。

倫理的配慮

調査にはGoogleフォームを用い,初めに調査目的と以下の倫理的配慮を説明した。調査への参加は任意であり,参加の可否に関わらず不利益を被らないこと,調査の結果は個人が特定される形で公表されないことを記載し,回答をもって参加に同意するものとした。

本研究は,中央大学における人を対象とする研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:2023-94(2))。

結果

音過敏症および音嫌悪症の保有率

HQ得点,MQ得点の散布図をFigure 1に示す。Pearsonの積率相関係数を算出したところ中程度の相関が認められた(r=.649, p<.001)。全対象者のうち音過敏症尺度のカットオフ値を超える割合は8.2%(n=36),音嫌悪症尺度のカットオフ値を超える割合は40%(n=176),音過敏症尺度と音嫌悪症尺度双方のカットオフ値を超える割合は7.3%(n=32)であった。

Figure 1

Scatterplot of overall scores on HQ and symptom scores on MQ

Note. ▲ = Groups with both hyperacusis and misophonia; □ = groups with misophonia; ○ = groups with neither hyperacusis or misophonia; * = groups with hyperacusis, The dashed lines indicate the cut-off points for HQ and MQ respectively.

音嫌悪症および音嫌悪症の性差

Table 3にHQ,MQおよびそれぞれの下位尺度の平均値,標準偏差および信頼性係数としてCronbachのα係数,t検定の結果を性別ごとに示す。本研究においては性別による年齢の差はみられなかった。性差について対応のないt検定を行ったところ,HQ総合得点および全ての下位因子において性差がみられなかった。一方で,MQについては総合得点および全ての下位因子において性差がみられ,いずれも女性の得点が有意に高かった。

Table 3

Means, standard deviations, reliability coefficients and t-test results for HQ and MQ by gender

Male
(n = 256)
Female
(n = 183)
t p Cronbach’s α
Mean (SD) Mean (SD)
Note. HQ = Hyperacusis Questionnaire; MQ = Misophonia Questionnaire.
Age 19.57 (1.43) 19.56 (1.23) 0.087 .099
HQ total 21.32 (11.93) 21.92 (13.41) 0.491 .312 .88
Attentional dimension 7.46 (4.54) 7.67 (5.19) 0.444 .328 .78
Social dimension 6.88 (5.11) 6.96 (5.91) 0.157 .438 .77
Emotional dimension 6.98 (4.34) 7.28 (4.51) 0.720 .236 .73
MQ total 25.35 (11.65) 29.05 (11.46) 3.305 .001 .86
Symptom 10.60 (5.89) 12.61 (5.61) 3.587 .001 .77
Emotions and behaviors 14.75 (7.24) 16.44 (7.26) 2.417 .008 .81

メタ分析による先行研究との比較

HQおよびMQの平均値を比較するため,メタ分析を行った。HQ得点の分析の対象となった研究は本研究を含め6件で,標本サイズの総計は2,254名であった(Table 1)。HQ得点のメタ分析の結果をフォレスト図としてFigure 2に示す。本研究のHQ得点は先行研究全体の平均値の範囲内であった。個別の研究と比較すると熊谷他(2013),Cogen(2024)より高く,Khalfa(2002),Yilmaz et al.(2017),Erinc & Derinsu(2020)より低かった。また,MQ得点の分析の対象となった研究は本研究を含め5件で,標本サイズの総計は4,036であった(Table 2)。MQ得点のメタ分析の結果,本研究のMQ得点は先行研究全体の平均値の範囲内であった(Figure 3)。個別の研究と比較するとWu et al.(2014),Zhou et al.(2017),Jakubovski et al.(2022)より高く,多田他(2022)より低かった。

Figure 2

Meta-analysis for HQ scores

Figure 3

Meta-analysis for MQ scores

考察

本研究の目的は第一に日本の大学生における音過敏症と音嫌悪症の保有率と関係性を検討すること,第二に音過敏症と音嫌悪症の性差を明らかにすること,第三に得られた結果と文献との対比を行うためメタ分析を用いてこれらの差を比較検討することであった。

音過敏症は,HQのカットオフ値を超えた割合が8.2%であった。大学生を対象とした先行研究では,保有率は3.9―5.8%であった(Brennan et al., 2024; 熊谷他,2013; Yilmaz et al., 2017)。日本の大学生を対象とした熊谷他(2013)と本研究とではHQ得点に明らかな違いは認められなかった。平均点のメタ分析では,本研究の結果は先行研究全体の平均の範囲内であるといえる。また,音過敏症の性差はみられなかった。先行研究では,女性の割合がより高い(Khalfa et al., 2002; Paulin et al., 2016; Yilmaz et al., 2017),男性(児童)の割合がより高い(Hall et al., 2016),あるいは性差はない(熊谷他,2013)という報告があり一貫した結果は得られていない。しかしこれらの先行研究は対象者の年齢範囲が大きく異なっており,Paulin et al.(2016)は高齢であるほど音過敏症の保有率が増加することを報告していることから音過敏症は生物学的な違いや文化差を反映している可能性が考えられる。

音嫌悪症については,40%がMQのカットオフ値を超えていた。国外の研究では,音嫌悪症の保有率はいずれも20%程度であったが(Brennan et al., 2024; Wu et al., 2014; Zhou et al., 2017),日本で実施された多田他(2022)の検討では41.4%であった。メタ分析の結果からも,本研究は過去の研究全体の平均範囲内であったが,本邦で行われた本研究と多田他(2022)では相対的に得点が高く,文化的な要因が影響している可能性がある。なお,メタ分析に含まれた文献のほとんどが若年者を対象とした研究であったのに対し,得点が顕著に低かったJakubovski et al.(2022)の調査は対象者の年齢範囲が16―96歳と広かった。Kılıç(2021)は音嫌悪症の発生率が年齢とともに低下することを報告しており,調査間の得点の違いには対象者の年齢が影響している可能性も考えられる。質問項目の分析では,アメリカ,中国では,最も嫌悪感が高い音は「繰り返される音」や「人が食事をする音」であったが(Brennan et al., 2024; Wu et al., 2014; Zhou et al., 2017),本研究では「周囲の騒音」であった。Norena(2023)は,音嫌悪症が生じる音は,マナーの観点から抑制することが義務付けられる音であり他者が社会的規範から逸脱することへの感受性の高まりが音嫌悪症を引き起こすと指摘している。したがって,音嫌悪症により嫌悪対象となる音や嫌悪の程度は,文化間で異なることが推察される。

音嫌悪症の文化差を直接比較した研究は見られないが,Brennan et al.(2024)がアメリカの大学生を対象に,人種によるMQ得点の違いを検討したところ,MQ得点や嫌悪感を抱く音の種類には人種ごとの差はみられなかった。このことから,音嫌悪症は生物学的な違いによって規定されるのではなく環境や文化によって規定されるものであり,多田他(2022)や本研究の結果からも日本文化は特に音嫌悪症を促進しやすい性質があるのかもしれない。こうした文化的影響の受けやすさは音過敏症と保有率が大きく異なったことの一因であると考えられる。音過敏症は音の物理的特性にのみ依存する状態であるとされており,異なる文化間で明らかな差はみられなかった一方,音嫌悪症は異なる文化間での差が大きい。Namba et al.(1991)は,国により日常的な音環境は多様であり,騒音意識にも違いがみられることを報告しており,こうした研究からも社会文化的要因が音嫌悪症の保有率の違いに関連していると考えられる。

音過敏症と音嫌悪症との間には中程度の相関(r=.649)がみられ,双方のカットオフ値を超える割合は7.3%であった。Jager et al.(2020)の報告では音嫌悪症者のうち過去に音過敏症の診断を受けた者の割合は0.7%であった。一方で,自記式質問紙を用いた研究では音嫌悪症の基準を満たす者の70%以上が同時に音過敏症の基準を満たしているとする報告もあり(Aazh et al., 2022; Enzler et al., 2021),併存については聴取方法やカットオフ値によって大きく異なるが,本邦でも両者の相関が認められることからも,音過敏症と音嫌悪症は共通の背景を有し,一定の割合で併存すると考えられる。なお,音過敏症と音嫌悪症はいずれもASDや気分障害との関連が指摘されており(Jager et al., 2020; Khalfa et al., 2004; Paulin et al., 2016; Rinaldi et al., 2023),これらの生物学的な要因が背景として存在した上で異なった病態が表出されている可能性が考えられる。

本研究の限界点として調査対象者が都内の大学生に限られた点,文化的背景について未検討であった点があげられる。先行研究との比較から,特に音嫌悪症には文化差が影響している可能性が考えられるが,都市部と地方とでは生活環境などに差異が存在する可能性がある。また対象者の文化的背景も不明であり,本研究の結果が日本文化における若年全体の傾向を反映しているかについては疑問が残る。今後の調査では調査対象を全年代に拡大し,文化的背景なども含めて検討することで,文化的な影響の有無がより明確になると考えられる。

これまで聴覚に対する過敏性は発達障害において高い頻度で生じることが知られていたが,本研究では一般対象者の中に一定の割合で存在することが改めて確認された。本邦では音過敏症と音嫌悪症は共通の対象者に対して同時に検討されることがなかったが,両者は異なった現象であると考えられることから,今後は発達障害などにおいても聴覚過敏として一括りに扱われるのではなく,分けて検討される必要があると考えられる。

利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反に関する事項はない。

1

本研究は,中央大学特定課題研究費と科研費(22K04477)の支援を受け,実施された。

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