Article ID: 96.23402
Anger regulation is significant because anger can lead to social problems such as aggressive driving and abuse. This study aimed to systematically review anger regulation strategies and to synthesize research on their characteristics, concerns, and effectiveness. A literature search using the Web of Science and citation screening identified 76 articles on anger regulation. Based on the framework of the process model of emotion regulation, each anger regulation strategy was classified into the specific groups of situation modification, attention deployment, cognitive change, response modulation, strategies to increase the effectiveness of anger regulation, and assessed for validity on subjective anger experience, physiological responses, and aggressive behavior. For subjective anger, cognitive change and attention deployment, such as reappraisal and distraction, were shown to be most effective, whereas response modulation, such as acceptance, venting, and suppression, were not. For aggressive behavior, response modulation by inducing sadness and situation modification that counteracts approach motivation were suggested to be more effective than reappraisal. It is important to use the most appropriate anger regulation strategy depending on the purpose and context.
基本情動は文化や年齢にかかわらず誰もが同じように経験・表出するもので,生存と繁殖において適応的な役割を果たすと考えられてきた(Darwin, 1890)。基本情動のなかでも特に強い主観的経験として自覚される怒りは,資源や集団といったさまざまな意味での縄張りを守る機能があると考えられており(川合,2017),状況に応じて怒りを高めたり表出したりすることは,理不尽な攻撃に立ち向かい身を守るために必要である。
このような怒りの性質は,環境への順応を促す反面,特に現代の社会生活において,過剰な反応や,不必要な反応を引き起こす危険をはらんでいる。その結果,怒りは家族や友人,同僚といった他者との関係の悪化や(Baron et al., 2007; Hershcovis et al., 2007; Norlander & Eckhardt, 2005),心理・社会的な幸福感の低下(Laing et al., 2015),薬物使用(Horváth et al., 2022)に繋がる。また怒りと暴力には強固な関係があり(Chereji et al., 2012),怒りの制御不全は本人のみならず,社会に深刻な悪影響をもたらす。たとえば,運転中の怒りは危険運転や,交通事故を引き起こす原因となる(Deffenbacher et al., 2016)。さらに怒りは,配偶者や交際相手(Stith et al., 2004),自身の子ども(Rodriguez & Green, 1997)といった,自身の愛する人に対する身体的虐待の原因にもなる(Veenstra et al., 2018)。子どもは親から適切な感情表現や行動を学ぶが(Denham & Kochanoff, 2002),虐待を受けた子どもは,怒りを制御する方法を学ぶ機会が不足している可能性がある。その結果,虐待を受けた子どもは自身の怒りの制御や(Heleniak et al., 2016),他者の怒りの認識(Pollak et al., 2000)に困難さを示し,外在化問題行動を示す傾向がある(Denham et al., 2000)。過去数世紀にわたって暴力は世界から着実に減少しているものの(Pinker, 2012),怒りや暴力は依然として深刻な社会問題であり続けている。このように,怒りとその行動的現れである攻撃性は,発達心理学,人格心理学,認知心理学,臨床心理学など多様な領域にまたがるテーマとして,数多くの研究が行われてきた(Beames et al., 2019; 川合,2017; Veenstra et al., 2018)。
怒りを減少させる方略の有効性は,実験研究や質問紙を用いた調査研究,介入研究など,多様な方法で検討されてきた。実験研究や調査研究において,怒りを減少させる方略は,感情制御の枠組みから検討されることが多い。感情制御は一般に,「自身の情動状態を制御しようという目標に基づき駆動する,意識的または非意識的な認知活動」と定義される(Gross, 2015)。これまでの怒りを含む感情制御方略に関する研究は,情動が心の中で制御されるという仮定のもと(Koole & Veenstra, 2015),情動を誘発する刺激の解釈を変えることで情動を制御する「再評価」のように,自身の感情を制御するために行われる,いくつかの認知的方略に集中してきた(Aldao & Dixon-Gordon, 2014)。実際,怒りに対する再評価の使用は生活の質や幸福感の向上,社会関係の改善と関連しており(Phillips et al., 2006; Scheibe & Moghimi, 2021),怒りを標的とした代表的な介入法である,認知行動療法の中核的要素となっている(Clark, 2022)。認知行動療法は多くの患者にとって有用であるが,メタ分析によると,治療効果の大きさは不安障害やうつ病などの情動障害に比べ遅れている(Lee & DiGiuseppe, 2018; Saini, 2009)。また,治療の初回面接で33%から50%が脱落し,治療を開始しても30%から40%が途中で脱落することから(Howells & Day, 2003),効果的な代替方略の特定や開発は喫緊の課題である(Veenstra et al., 2018)。そこで本研究では,怒りの制御方略の系統的レビューを行い,その特徴や問題点,有効性に関する研究の蓄積を包括的に分析・整理・検討する。怒りの制御は認知的方略のみならず,対人相互作用や,音楽や映像といった感覚刺激など多様な方略が検討されてきた。しかし感覚や対人相互作用の有効性が注目を浴び始めているにもかかわらず(Rodriguez & Kross, 2023; Zaki & Williams, 2013),怒りの制御方略の有効性を包括的にレビューした論文はこれまでにない。そこで本研究では,怒りを減少させるあらゆる方略に焦点を広げ,その有効性や問題点を明らかにすることで,怒りの制御方略を包括的に理解することを目的とする。
怒りに影響を与えるあらゆる種類の活動が(少なくとも原理的には)怒りの制御に利用できることを踏まえると,これまでの研究において検討された方略のレパートリーは膨大であることが予想される。したがって,怒りの制御方略の有効性を検討するためには,個別の方略の共通項を特定して体系化し,個々の知見を統合する必要がある。そこで本研究では,感情制御のプロセスモデル(Gross, 1998)に基づき,怒りの制御方略を,それらが制御の対象とする感情生成システムの違いによって分類する。感情制御のプロセスモデルでは,情動反応が,状況・注意・評価・反応の段階を経て生成されることを前提とする。このモデルでは,感情制御方略を,制御の対象とする感情生成システムによって,状況選択(situation selection),状況修正(situation modification),注意配分(attention deployment),認知変容(cognitive change),反応調整(response modulation)と呼ばれる5つのグループに分類する。状況選択と状況修正は感情を誘発する状況自体を,注意配分は感情誘発刺激に向ける注意配分を,認知変容は感情誘発刺激に対する解釈を,反応調整は生成された感情反応(主観的経験・生理的反応・行動反応)を制御のターゲットとする。たとえば注意配分には,情動を誘発した刺激から注意を逸らす「気晴らし」や,情動を生み出した出来事について繰り返し思い出す「反すう」が含まれる。認知変容には,怒りを生じさせた出来事や状況の解釈を変える試みである「再評価」が含まれる。反応調整は,表情や行動からの情動表出や,情動の内的経験を抑圧する意図的な試みである「表出抑制」や「思考抑制」と,情動体験を変化させようとせずに,そのまま受け入れる意図的な試みの「受容」が含まれる。このように,プロセスモデルは主に認知的方略の分類に使用されてきたが,多様な認知的・行動的方略を分類するための概念的枠組みとしても使用できる。たとえば,ヒートアップした議論の会場を,会議室から落ち着いた雰囲気のカフェに変更したり(状況修正),イライラする状況から注意を逸らすために他者と世間話をしたり(注意配分),怒りの対象へ同情を試みたり(認知変容),物体に八つ当たりして発散したりすることもある(反応調整)。感情の制御段階は一方向の時系列として定義できないとの指摘もあるが(Koole, 2009),感情制御のプロセスモデルは感情制御方略をシンプルかつ体系的に説明できるため,本研究では感情制御のプロセスモデルに基づき方略の整理を行う。また怒りの制御は多様な領域にまたがるテーマであり,研究の数が膨大であるため,本研究では実験的な手続きを用いて怒りの制御を検討した研究に焦点を当てる。ランダム化比較試験のような内的妥当性の高い研究デザインを用いた臨床的介入は,実験研究と同様に,因果関係について高い蓋然性を持った結論を得ることが可能である。またそのような研究は実験室環境で感情を誘発するという人工的な状況を設定しない点で,状況の観点での外的妥当性も高いと考えられる。しかし実験研究は,感情制御の操作や自律・中枢神経反応といった生理指標の測定においてより精緻な操作が容易であるため,基礎にあるメカニズムやその有効性について多角的に検討できる。また一般健常者を対象としている点で,母集団の観点での外的妥当性が高いことから,本研究では実験研究に焦点を当てた。
実験的な手続きを用いて怒りの制御を検討した研究を,以下の方法で収集した。文献収集のフローチャートをFigure 1に示す。文献収集にはWeb of Scienceを使用し,2021年3月5日までに出版された全論文を対象とした検索を行った。怒り制御方略に関する実験研究を同定するため,怒りに関するキーワード“anger”,“angry”と,制御に関連したキーワード“inhibit*”,“regulat*”,“reduc*”,“suppres*”,“extinguish*”,“attenuat*”,“decreas*”を使用した3。怒りと制御のキーワード群は,怒り以外の制御に関する研究を除外するために,検索演算子“NEAR/5”で繋いだ。これは,怒りに関する単語とその制御を意味する単語が,同じ文の中で5単語以内に併存しなければならないという「制約」を示す。また,本研究の目的と合致する文献を抽出するために,感情認知,疾患,薬剤や化学物質,教育的および臨床的介入,犯罪,縦断・横断研究,尺度作成に関連するキーワードを含む研究を,検索演算子“NOT”を使用し除外した。さらに,政治や公共政策などに関する研究群を除外するため,研究分野をPsychologyまたはScience Technology Other Topicsに限定した4。
PRISMA flow chart of article retrieval and selection (based on Moher et al., 2009)
検索の結果,450報が抽出された。これらの中で書籍または総説論文であった56報と,尺度作成に関する22報を除外し,372報が対象となった。上記文献のなかから,本研究の目的と合致する文献を抽出した。本研究における文献の適格基準は,(a)健常者を対象とした実験であること(特定疾患の患者や,非行および犯罪歴のある参加者を対象とした研究は除外),(b)怒り制御方略の有効性を検討していること(個人特性や文化と誘発された怒りの関係,薬剤や化学物質の投与を検討した研究は除外),(c)方略を実施しない統制条件,あるいは統制条件と実験条件双方において,状態怒りが誘発されていること(気分としての怒りや,ストレス課題に共起した怒りの制御を報告した研究は除外),(d)再現可能な実験的手続きが用いられていること(集団セッションや,教育的・臨床的介入のような創発的な対人相互作用を伴う研究は除外),(e)人に対する怒りを対象としていること(外集団やブランド,神に対する怒りを検討した研究は除外),(f)英語で執筆されていること,であった。上記適格基準に基づいて第一著者によるスクリーニングを行った結果,67報の文献が抽出された。さらに,これらの研究の引用・被引用文献を上記適格基準に基づいて精査することで12報を追加し79報の文献が抽出された。適格性の詳細な評価のため,第一著者が79報の文献の全文を再度精読することで3報の文献が除外され,最終的に76報の文献が適格と判断された。第一著者が除外と判断した3報の文献は,第二著者を含め協議を行い,合意を得たうえで除外した(Figure 1)。
方略の分類まず,76報の文献において検討された方略は,それらが標的とする感情生成システムの違いによって,状況修正,注意配分,認知変容,反応調整,感情制御方略の有効性を高める方略に分類された。
情動を誘発する状況の修正を行う状況修正グループの方略には,接近動機づけの高まりを妨げる状況(リラックスチェアに横たわるなど)を利用した諸方略(Koole et al., 2022)が含まれた。
刺激に対する注意を標的とする注意配分グループの方略は,情動を誘発した刺激に注意を向けるか否かによって,反すうと気晴らしに分類された。なお気晴らしの手続きは研究間で異なる場合があり,肯定的な感情価を有する対象に注意を向ける手続きが検討されることがある(Webb et al., 2012)。しかし気晴らしは「注意配分」グループに分類される(すなわち,注意の転換がメカニズムとされる)代表的方略であるため,中立的な感情価を持つ(異なる情動状態を誘発させない)対象に注意を逸らす方略のみが分類された。これらの中には,記憶を用いた認知的な手続きのほか,他者との相互作用を含む手続き(たとえば,運転者の注意を周囲の運転環境に向けさせる機械音声:Jeon et al., 2015)や,物体との相互作用を含む手続き(たとえば,日用品や記号といった中立的な感情価を有する視覚刺激へ注意を向けさせる課題:Dutton et al., 2016; McClelland et al., 2009)が含まれたため,結果を区別して評価した。
また刺激に対する解釈を標的とする認知変容グループには,再評価のほか,再評価の下位方略(McRae et al., 2012)や評価理論(Lazarus, 1991)の枠組みを根拠とし,自己距離化(Ayduk & Kross, 2010),大局的視点の誘発(Summerell et al., 2019),怒りの対象への同情(Harmon-Jones et al., 2004)や幸せの祈り(Bremner et al., 2011),安全基地プライミング(Dutton et al., 2016),自身を支えてくれる他者の想起(Ratnasingam & Bishop, 2007),怒り体験の語り(Wainryb et al., 2018),怒りの対象からの謝罪(Kubo et al., 2012)などが分類された。
生成された怒りの反応を標的とする反応調整グループの方略には,表情や行動からの情動表出を隠したり抑えたりしようとする表出抑制,反対に怒りを身体的あるいは言語的に表現する発散(Bresin & Gordon, 2013; Bushman, 2002),怒りの主観的経験を標的とした思考抑制と受容および,音楽等を用いて怒りと異なる情動状態を誘発した諸方略(Miron et al., 2008)が分類された。
なお3つの方略は,感情制御方略の有効性を高める方略として分類された。これには,感情制御方略と組み合わせ行う心的対比・実行意図(Gallo et al., 2018),情動反応を制御する腹内側前頭前野を標的とした経頭蓋直流刺激法(Gilam et al., 2018),感情制御能力のバイオマーカーである心拍変動を標的とした呼吸統制(Francis et al., 2016)が分類された。
対象となった研究では大別して,主観指標,生理指標,行動指標の3種類から,主観的な怒り,怒りや攻撃的衝動の高まりを反映する生理的状態,主観的・生理的状態に基づく意思決定の結果として出力される攻撃行動(Allen et al., 2018)がそれぞれ測定された。
主観指標は一般に参加者の怒り状態を測定するために使用され,参加者に現在どの程度怒りを感じているかを数値で評価させることによって測定される。行動指標は一般に,攻撃行動の測定を目的として使用される。代表的な手続きでは,報復として敵対者に与える騒音の強さや時間(Taylor Aggression Paradigm: TAP)もしくは敵対者に下す否定的な評価を測定する。また他の手続きでは,たとえば参加者が敵対者の目標(お金を得ることなど)をどの程度阻止するかを測定する。これらの手続きにより測定される攻撃行動は,生態学的妥当性に優れるという証拠が豊富に存在する(Anderson & Bushman, 1997)。なお行動指標には,攻撃的概念の取り出しやすさを測定する手続きも少数含まれた。これらの手続きでは一般に,提示された文字系列が単語であるかどうかの判断(Lexical Decision Tasks: LDT)に要する時間を,攻撃に関する単語を用いて測定する。
生理指標は,研究によって比較的多様であった。対象となった文献では,最高血圧(systolic blood pressure: SBP)および最低血圧(diastolic blood pressure: DBP),心拍出量(cardiac output: CO),全末梢血管抵抗値(total peripheral resistance: TPR),心拍数,心拍変動(heart rate variability: HRV),前駆出期(preejection period: PEP),皮膚伝導水準(skin conductance level: SCL),前頭外側部活動(frontal lateral cortex activity),呼吸性洞性不整脈(respiratory sinus arrhythmia: RSA)などの測定が行われていた5。
対象となった研究は大別して,(A)非怒り状態である安静時と方略実施後の怒り指標に有意差がない,(A+)かつ条件(方略を実施しない統制条件および感情制御方略を実施した条件)と時期(たとえば,方略実施前と後)の間に有意な交互作用が認められる,(B)統制条件と比較して,方略実施後の怒り指標が有意に低い,(B+)かつ有意な交互作用が認められる,(C)怒り誘発直後と比べ,方略実施後の各怒り指標が有意に低い,(C+)かつ有意な交互作用が認められる,(D)統制条件で認められる特性怒りと怒り誘発後の怒り指標の間の有意な正の相関関係が,方略を実施した条件で消失するという,7種いずれかの基準から,統計的有意性の検定をもとに怒り制御方略の有効性が判断された。
怒りの制御方略の有効性と問題点適格と判断された76報の文献でそれぞれ検討された怒り制御方略とその有効性をTable 1に示す6。以下は,Grossの感情制御プロセスモデルの枠組みのもと整理された,個別の方略の有効性と問題点について俯瞰したものである。
Summary of included studies
Authors | Strategy (details) | Self- report | Behavioral | Physiological | |
---|---|---|---|---|---|
Note. ○ = positive effect; △ = non-significant; × = negative effect; A = no significant difference in anger indices between baseline; B = anger indices were significantly lower than in the control condition; C = anger indices were significantly lower than after the provocation; + = significant condition × period interaction; D = disappearance of significant positive correlations between trait anger and anger indices at the provocation; BX = behavior; CA = construct accessibility; SCL = skin conductance level; BP = blood pressure; SBP = systolic blood pressure; DBP = diastolic blood pressure; SV = stroke volume; CO = cardiac output; TPR = total peripheral resistance; PEP = pre-ejection period; HR = heart rate; HRV = heart rate variability; HF = high frequency spectra; LF = low frequency spectra; SDNN = standard deviation of NN intervals; rMSSD = root mean square successive difference; RSA = respiratory sinus arrhythmia; vmPFC = ventromedial prefrontal cortex; EEG = electroencephalogram; tDCS = transcranial direct current stimulation; CPT = cold pressor test; MCII = mental contrasting and implementation intentions; ER = emotion regulation; AER = automatic emotion regulation; IER = interpersonal emotion regulation. | |||||
Type of strategy:Situation modification | |||||
Harmon-Jones & Peterson (2009) | Counteracting approach motivation (supine) | △B | ○B(EEG asymmetry) | ||
Krahe et al. (2018) | Counteracting approach motivation (supine) | △B | △B(BX) | ||
Veenstra & Koole (2018) | Counteracting approach motivation (darkness) | ○D | |||
Koole et al. (2022) | Counteracting approach motivation (lean back) | ○D | ○D(BX) | ||
Type of strategy:Attention deployment | |||||
Rusting & Nolen-Hoeksema (1998) | Distraction | ○B+ | |||
Neumann et al. (2004) | Distraction | ○B | ○B(HR, LF/HF, LF, HF) △B (SV, CO, rMSSD, TPR, PEP, SBP, DBP) |
||
Bond et al. (2006) | Distraction (word-fragment completion task) | ○C | |||
McClelland et al. (2009) | Distraction (Eye movement or Forehead tracking task) | △B(SBP, DBP, HR) | |||
Denson et al. (2012) | Distraction | ○C+ | |||
Bresin & Gordon (2013) | Distraction | △C | |||
Jeon et al. (2015) | Distraction (IER: situation notes) | ○A | |||
Dutton et al. (2016) | Distraction | △B | |||
Lievaart et al. (2017) | Distraction | ○C | |||
Pasupathi et al. (2017) | Distraction | ○C+ | |||
Rusting & Nolen-Hoeksema (1998) | Rumination | ×B+ | |||
Bond et al. (2006) | Rumination | △C | |||
Glynn et al. (2007) | Rumination | ×A(SBP, DBP)△A(HR) | |||
Ray et al. (2008) | Rumination | △B | |||
Wimalaweera & Moulds (2008) | Rumination | ×A | |||
Denson, Pedersen et al. (2011) | Rumination | ×B(BX) | |||
Szasz et al. (2016) | Rumination | △B | |||
Lievaart et al. (2017) | Rumination | ×C | |||
Peuters et al. (2019) | Rumination | △C | |||
Type of strategy:Cognitive change | |||||
Wimalaweera & Moulds (2008) | Self-distancing (analytical rumination) | ×A | |||
Denson et al. (2012) | Self-distancing (analytical rumination) | △C+ | |||
Kassam & Mendes (2013) | Self-distancing (analytical rumination) | ○B(HR, CO)△B(TPR)× B(PEP) | |||
Pasupathi et al. (2017) | Self-distancing (analytical rumination) | ○C+ | |||
Wimalaweera & Moulds (2008) | Self-distancing (distanced-experiential) | ○A | |||
Self-distancing (distanced-analytical) | ×A | ||||
Mischkowski et al. (2012) | Self-distancing (distanced-analytical) | ○B | ○B(CA)○B(BX) | ||
Ray et al. (2008) | Reappraisal | ○B | |||
Denson, Grisham et al. (2011) | Reappraisal | ○A | ○C(HRV, HR) | ||
Denson et al. (2012) | Reappraisal | ○C+ | |||
Zhou & Bishop (2012) | Reappraisal (Chinese) | ○B(SBP, DBP, PEP) △B(HR, CO, TPR) |
|||
Reappraisal (Caucasian) | △B(SBP, DBP, PEP, HR, CO, TPR) | ||||
Germain & Kangas (2015) | Reappraisal | ○C | ○C(SBP) | ||
Szasz et al. (2016) | Reappraisal | ○B | |||
Pasupathi et al. (2017) | Reappraisal | ○C+ | |||
Zhan et al. (2017) | Reappraisal | ○B | △B(BX) | △B+(SCL) | |
Reappraisal (after CPT) | △B | △B(BX) | △B+(SCL) | ||
Blake et al. (2018) | Reappraisal (high quality relationship) | ○B(BX) | |||
Reappraisal (low quality relationship) | △B(BX) | ||||
Gallo et al. (2018) | Reappraisal | △A+ | |||
Reappraisal (after MCII) | ○A+ | ||||
Jiang et al. (2018) | Reappraisal | △B(BX) | |||
Peuters et al. (2019) | Reappraisal | ○C | |||
Bond et al. (2006) | AER (vulnerability) | ○C | |||
Mauss et al. (2007) | AER (ER goals) | ○B+ | △B(HR, BP, TPR, PEP, RSA, HRV) | ||
Dutton et al. (2016) | AER (secure base priming) | ○B | |||
Zhang et al. (2017) | AER (ER goals) (high trait AER) | ○B | ○B(SCL)△B(HR) | ||
AER (ER goals) (low trait AER) | ○B | △B(SCL, HR) | |||
Summerell et al. (2019) | AER (cognitive browding) | △B | △B(CA) | ||
Summerell et al. (2020) | AER (humility) | △B | |||
Osgood et al. (2021) | AER (non-hostile interpretation) | ○B | |||
Harmon-Jones et al. (2004) | Sympathy | △B | ○B(EEG asymmetry) | ||
Ratnasingam & Bishop (2007) | Social support schemas | ○B | ○B(HR, SBP, DBP) | ||
Bremner et al. (2011) | Praying for others | ○B | ○A(BX) | ||
Krieglmeyer et al. (2009) | Apology | △B(CA)○B(BX) | |||
Kubo et al. (2012) | Apology | ○A+ | ○A+(EEG asymmetry) ○A(HR)△A(SCL) |
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Wainryb et al. (2018) | Narrate (IER:anger experience) | ○C+ | |||
Type of strategy:Response modulation | |||||
Suchday & Larkin (2001) | Suppression (high trait Anger-In) | △B | △B(DBP, HR, SBP) | ||
Suppression (low trait Anger-In) | △B | ○B(DBP)△B(SBP, HR) | |||
Hosie et al. (2005) | Suppression (female) | ×B | |||
Suppression (male) | △B | ||||
Denson, Grisham, & Moulds (2011) | Suppression | △A | △C(HR, HRV) | ||
Zhou & Bishop (2012) | Suppression (Chinese) | ○B(PEP)△B(SBP, DBP, HR, CO, TPR) | |||
Suppression (Caucasian) | △B(SBP, DBP, HR, TPR) ×B(PEP, CO) |
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Kao et al. (2017) | Suppression (primed with self-transcendence) | ○B | |||
Suppression (primed with self-interest) | ×B | ||||
Germain & Kangas (2015) | Suppression (thought suppression) | ○C | ○C(SBP) | ||
Acceptance | ×C | △C(SBP) | |||
Szasz et al. (2016) | Acceptance | △B | |||
Bushman et al. (1999) | Displaced aggression (hitting a bag) | ×B(BX) | |||
Bushman (2002) | Displaced aggression (hitting a bag) | ×B | ×B(BX) | ||
Denzler et al. (2009) | Displaced aggression (imagining hitting a bag) | ×C+(CA) | |||
Denzler et al. (2011) | Displaced aggression (violent video game) | △B | ○B+(CA) | ||
Pels & Kleinert (2016) | Displaced aggression (hitting a bag) | △C+ | |||
Dorr et al. (2007) | Revenge (evaluating / African American) | △A(CO,TPR,PEP) ×A(SBP,DBP, HR,HRV) | |||
Revenge (evaluating / Europian American) | ○A(CO) △A(SBP,DBP, TPR,HRV, PEP) ×A(HR) |
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Denzler et al. (2009) | Revenge (imagination) | ○C+(CA)○B+(BX) | |||
Revenge (poking needles into voodoo dolls to harm) | ○C+(CA) | ||||
Vella & Friedman (2009) | Revenge (evaluating / high trait Anger-In) | ×B(SBP) | |||
Revenge (evaluating / low trait Anger-In) | ○B(SBP) | ||||
Bresin & Gordon (2013) | Revenge (evaluating) | ○C | |||
Roseborough & Wiesenthal (2014) | Revenge (legal punishment or karmic payback) | ○C | |||
van Doorn et al. (2019) | Revenge (legal punishment) | ○C | |||
Incompatible states (compensating the victim) | ○C | ||||
Baron (1980) | Incompatible states (pleasant scent) | ×B(BX) | |||
Hosie et al. (2005) | Incompatible states (happiness / female) | △B | |||
Incompatible states (happiness / male) | ×B | ||||
Miron et al. (2008) | Incompatible states (happiness) | ○B | ○B(BX) | ||
Wainryb et al. (2018) | Incompatible states (IER: narrate / happiness) | ○C+ | |||
Liu et al. (2019) | Incompatible states (IER: humor / fun) | ○C | |||
Li et al. (2020) | Incompatible states (IER: praise / positive) | ○A | |||
Sharman & Dingle (2015) | Incompatible states (relaxed) | ○C | △C+(HR) | ||
Wainryb et al. (2018) | Incompatible states (respite) | ○C+ | |||
Krahe & Bieneck (2012) | Incompatible states (uplifting) | ○B | △B(CA) | ||
Incompatible states (unpleasant) | △B | △B(CA) | |||
Sagioglou et al. (2014) | Incompatible states (disgust) | ×B | ×B(BX) | ||
Zhan et al. (2015) | Incompatible states (fear) | ×B+ | △B(BX) | ||
Incompatible states (sad) | △B+ | ○B(BX) | |||
Zhan et al. (2017) | Incompatible states (sad) | △B | ○B(BX) | ○A+(SCL) | |
Incompatible states (sad / after CPT) | △B | ○B(BX) | ○A+(SCL) | ||
Lutz & Krahe (2018) | Incompatible states (sad) | ○B(BX) | |||
Type of strategy:Increasing the effectiveness of anger regulation strategies | |||||
Gallo et al. (2018) | MCII | ○A+ | |||
Francis et al. (2016) | Psychophysiological (HRV biofeedback) | △B | ○B(LF)△B(SDNN, HF) | ||
Gilam et al. (2018) | Psychophysiological (tDCS / middle vmPFC) | ○B+ | ○B+(BX) | ||
Kelley et al. (2013) | Psychophysiological (tDCS / left or right vmPFC) | △B |
状況修正 状況修正には,接近動機づけの高まりを妨げる状況を利用した諸方略が含まれた。
接近動機づけの高まりの妨げ 接近動機づけの高まりの妨げは,左右前頭部活動が左優勢になることを妨げる諸方略を指し,攻撃行動や攻撃的衝動の高まりを反映する生理指標の制御に限り,有効性が示されている。これまでの研究から,左右前頭部活動における左優勢の不均衡状態は接近動機づけの高まりを反映しているとの考え(Davidson et al., 1990)が受け入れられるようになった(Harmon-Jones & Gable, 2018)。接近動機づけとは,何か(刺激など)に対して近づこうとする衝動のことである(Harmon-Jones et al., 2013)。怒りは対象への接近行動を誘発する典型的な情動であるため(Darwin, 1890; Ekman & Friesen, 1975),怒り状態における左優勢の不均衡状態は,内的な攻撃的衝動の高まりを反映しているとみなされる(Harmon-Jones & Gable, 2018; Kubo et al., 2012)。したがって,左優勢の前頭部活動が生じにくい状況ならば,攻撃行動も生じにくくなると考えられる。左右前頭部活動の左右差は,身体活動や状態によって調整でき,左手の収縮は右優勢の前頭部活動を,右手の収縮は左優勢の活動を引き起こす(Harmon-Jones, 2006)。Peterson et al.(2008)の参加者は,ゴム製の球を右手または左手で握って約4分間収縮した後の状況で,別室にいる(という仮定の別の)参加者から侮辱された。次に,参加者は自らを侮辱した参加者に対し,騒音を用いて攻撃する機会を与えられた。その結果,左手を収縮させた参加者は,右手を収縮させた参加者に比べ左優勢の前頭部活動が生じず,攻撃行動が少なかった。社会的排斥を用いて怒りを誘発させたPeterson et al.(2011)でも同様に,左手の収縮は右手の収縮に比べ左優勢の不均衡状態が生じず,また主観的な怒りが低かった。ただしこれらの研究は統制条件との比較がなされていないため,左手の収縮が攻撃行動や主観的怒りを減少させたのではなく,右手の収縮が増加させた可能性を否定できない。
Harmon-Jones & Peterson(2009)は,仰向けに寝転んだ状況(仰臥位)で侮辱された参加者は,左優勢の前頭部活動が生じなかったことを報告している。この実験の参加者は,座位か仰臥位の姿勢で侮辱され,そのときの左右前頭部活動を測定された。その結果,座位はこれまで通り左右の前頭部活動に左優勢の不均衡状態が観察されたが,仰臥位で侮辱コメントを受け取った条件では,左右前頭部活動の不均衡状態が生じなかった。この結果は,接近動機づけが高いときには前のめりになるが,仰臥位は何かに向かおうとする衝動と相反する「姿勢」のために,侮辱されても接近動機づけが高まらないと解釈された。仰臥位による接近動機づけの高まりの妨げを検討した2報の研究では,主観的な怒りの減少は認められていない(Harmon-Jones & Peterson, 2009; Krahe et al., 2018)。しかしながら,接近動機づけの高まりは主観的な怒りや攻撃行動を増幅させる内的衝動であるため,特性怒りが高く接近動機づけが高まりやすい人ほど,主観的な怒りの制御にも有効な可能性がある(Koole et al., 2022)。たとえば明所(188 Lux)に比べた暗所(2 Lux),座位に比べた後傾座位,物体を手で押しのけ遠ざける動作といった操作を用いて接近動機づけの高まりを妨げると,低い特性怒りを持つ個人に比べ,高い特性怒りを持つ人の状態怒りや攻撃行動がより減少した(Koole et al., 2022; Veenstra & Koole, 2018)。これらの研究結果は,特性怒りが高い人ほど,接近動機づけの高まりが妨げられる状況へ修正すること(暗所,後傾座位や仰臥位,事前に左手を収縮しておくなど)が効果的である(すなわち,これ以降の方略を実施する必要がそもそもなくなる)可能性を示唆している。
注意配分 状況修正による制御に失敗した場合,刺激に対する注意配分を変化させることでも怒りを制御できる。これには,気晴らし,反すうが含まれた。
気晴らし 気晴らしは情動を誘発した刺激から中立的な感情価を持つ対象に注意を逸らそうとする試みのことで,即時的な怒りや生理反応の減少に優れる一方,根本的・継続的な減少は見込めないことが示唆されている。怒りの制御研究において,気晴らしは中立的な感情価を持つ対象(たとえば,建造物の外観など)の想起,もしくはその記述を行うことで実施される。中立的な感情価を持つ対象の想起あるいはその記述は,主観的怒り(Lievaart et al., 2017; Rusting & Nolen-Hoeksema, 1998)を減少させる。怒り状態の指標として心血管反応を指標としたNeumann et al.(2004)は,参加者に大学の校舎を想起させることで気晴らしを行わせた結果,最高/最低血圧(SBP,DBP),前駆出期(PEP),全末梢血管抵抗値(TPR),隣接心拍間隔の差の二乗平均平方根(RMSSD)などは変化しなかったものの,心拍数と心拍変動性の低周波成分(LF)の減少と,心拍変動の高周波成分(HF)の増加および,LF/HF比の減少(すなわち,交感神経系活動の減少と副交感神経系活動の増加)が認められたことから,気晴らしが怒り状態を反映した心血管反応を解消したと結論づけている。また危険運転や交通事故のリスクを高める運転者の怒りは,運転者の注意を周囲の運転環境に向けさせる機械音声(たとえば,この先危険な交差点があります)によって減少し,運転ミスも低下する(Jeon et al., 2015)。一方で,日用品や記号といった中立的な感情価を持つ視覚刺激へ注意を向ける課題では,主観的怒り,および心血管反応(HR,SBP,DBP)のいずれも減少しなかった(Dutton et al., 2016; McClelland et al., 2009)。課題の容易さゆえに,怒りを誘発した刺激から十分に注意を逸らすことができなかったと解釈されている。
気晴らしと再評価の有効性を直接比較したDenson et al.(2012)では,再評価と気晴らしの双方が,誘発された主観的な怒りを減少させたが,気晴らしは再評価に比べより大きく怒りが減少した。気晴らしは怒りから即座に注意をそらすが,再評価は怒りのきっかけとなった記憶に注意を向け続け,新たな解釈を生成する必要があるため,気晴らしのほうが即時的な怒り減少効果に優れると解釈されている。しかし,怒りを誘発する刺激の意味そのものを変化させる再評価に対し,気晴らしは刺激の解釈を変化させることなく注意を逸らすため,怒りを誘発した対象人物に再び暴露されたとき,怒りが再燃する(Fabiansson & Denson, 2012)。
反すう 反すうは情動を生み出した出来事について繰り返し思い出すことであり,多くの場合,主観的な怒りや生理的状態,攻撃行動の減少に有効でないことが示されている。反すうは通常,自身の視点から過去の情動や感覚に浸るように(体験的に)想起される(Ayduk & Kross, 2010)。反すうは,過去の体験の具体的特徴(たとえば,一連の体験やそのときの情動)の追体験を引き起こすとされ(Kross et al., 2005),主観的怒りや心血管反応の維持や再燃を引き起こし(Glynn et al., 2007; Ray et al., 2008),自己制御の低下や,攻撃行動の増加を引き起こす(Denson, Pederson et al., 2011)。
認知変容 情動を誘発する刺激から注意を逸らすことができなかった場合,状況の解釈の変化によって怒りを制御できる。これには,再評価のほか,自己距離化,大局的視点の誘発,怒りの対象への同情や幸せの祈り,安全基地プライミング,自身を支えてくれる他者の想起,怒り体験の語り,怒りの対象からの謝罪など多様な方略が含まれた。
再評価 再評価は,怒りを生じさせた出来事や状況の解釈を変える方略であり,主観的・生理的な怒りの減少に有効だが,生理的ストレス状態では効果が減じられる。再評価は,感情制御に関連した脳神経活動(右眼窩中前頭回)を活性化させ(Jiang et al., 2018),自己報告尺度を用いて測定される主観的怒りを減少させる。また再評価はコリン作動性の交感神経活動を反映する皮膚伝導水準(SCL)は減少させないものの(Zhan et al., 2017),アドレナリン作動性の交感神経活動(SBP,HR)の減少(Denson, Grisham, & Moulds, 2011; Germain & Kangas, 2015)や副交感神経活動(HRV)の増加のように,怒り状態を反映した心臓血管反応を解消させる。しかし攻撃行動の減少に関する研究は,再評価が攻撃行動を減少させないか(Jiang et al., 2018; Zhan et al., 2017),特定の集団でのみ減少させることを示している(Blake et al., 2018)。たとえば,パートナーの浮気(を想像したこと)に対する怒りの再評価を試みると,パートナーとの関係を良好と報告した集団(+0.82SD)の攻撃行動は減少したが,良好でないとした集団(‒1SD)は減少しなかった(Blake et al., 2018)。
上述のように,再評価は怒りに伴う心血管反応や,主観的に経験される怒りを効果的に減少する。しかし,情動の再評価は,背側前帯状皮質,背内側―,背外側―,腹外側前頭前野といった認知制御領域の機能によって実現されることから(Buhle et al., 2014),感情制御方略の中でも特に努力を必要とする(Orvell et al., 2019)。より強い情動体験に対し再評価を試みることはさらに努力が必要であることから(Silvers et al., 2015),攻撃衝動の高まりを伴うような強い怒りに対し再評価を試みることは非常に困難であると考えられる。怒りの対象との関係が良好な者でなければ攻撃行動は減少しないことや(Blake et al., 2018),怒り状態を誘発させた参加者に自由に浮かんだ思考を記述させたときに,気晴らし(85%),反すう(19%)と比べ,再評価の記述(4%)が非常に少ないことは(Denson et al., 2012),怒りの再評価には多大な努力が必要であり,その実施には強い動機づけを要することを示唆している。また,情動の再評価は前頭前野の機能によって実現されるが,前頭前野の機能に依存した課題(反応抑制課題や意思決定課題)の成績は,生理的ストレス状態において低下する(Wolf, 2016)。そのため,参加者に氷水へ手を浸けさせることで生理的ストレス反応(唾液コルチゾール値の増加)を生じさせながら再評価を実施させても,主観的怒りは減少しない7(Zhan et al., 2017)。
また上述した研究では区別されていなかったものの,再評価はいくつかの下位方略に分類されることがある。これには,距離化,客観化,希望的観測や,代理,明確な肯定などがある(McRae et al., 2012)。いくつかの研究は,これらの再評価と類似した方略を検討している。たとえば,当該状況に対して心理的な距離をとる「距離化」や,観察者の視点から考える「客観化」と関連する代表的方略には,自己距離化(self-distancing)がある。自己距離化は,自己を観察する際に,観察する立場の自己と,観察される対象である自己との心理的距離を遠ざけることを指す(Ayduk & Kross, 2010; 清水他,2021)。過去の情動体験に対する心理的距離は,その体験を想起する際の視点を自己から観察者に変えたり,想起する方法を体験的なものから分析的なものに変えたりすることによって拡大する(Metcalfe & Mischel, 1999)。そのため,自己距離化は一般に,怒りを生じさせた体験を観察者の視点(彼,彼女など)で記述したり(Michel-Krohler et al., 2021),観察者の視点から視覚的にイメージしたりするほか,当該状況を引き起こした根本的原因を分析することを求めることもある(Mischkowski et al., 2012)。観察者の視点から怒り体験の根本的原因について振り返る自己距離化の分析的反すう(self-distanced analytical rumination)は,自身が被害者であるとの立場に固執せず広い視点から状況を俯瞰するため,結果的に再解釈を引き起こすとされ(Mischkowski et al., 2012),主観的な怒りや攻撃行動を減少させる(Katzir & Eyal, 2013; Mischkowski et al., 2012)。また観察者の視点から情動や身体感覚に注目し実施する反すうは,自己距離化の体験的反すう(self-distanced experiential rumination)と呼ばれ,こちらも実施前と比べ主観的怒りが減少したとの報告がある(Wimalaweera & Moulds, 2008)。しかし,視点を操作せず,単純に当該状況を引き起こした原因の分析のみを求めた研究では,一貫した結果は得られていない。たとえば,反すうと比較して主観的怒りを減少させる(Ding & Qian, 2020)という結果や,主観的怒り,心拍,最高/最低血圧(SBP,DBP)を減少させないが,攻撃行動は減少させる(Lok et al., 2009)といったように,多様な結果が得られている。これは人によって,当該状況を引き起こした根本的原因を分析する視点が異なるために,自己距離化の程度に違いが生じたことが原因である可能性がある。参加者に誘発された怒りの根本的原因について記述させたDenson, Moulds et al.(2012)は,怒りに浸って(怒りに関する単語を用いて)記述した参加者の主観的な怒りが維持または増加したのに対し,冷静に(怒りに関する単語を用いず情報的に)記述した参加者の主観的な怒りは減少した。またPasupathi et al.(2017)は,怒りの根本的原因について,過去形の単語を多く使用し記述した参加者ほど,主観的な怒りが減少する関係が示された。これらの結果は,原因分析を行う視点が参加者によって異なること,また原因分析を行う視点の違いにより結果が変化することを示唆している。ただし自己距離化は,恥を伴う怒りの減少には有効でない可能性がある。恥は自身が他者からどのように評価されるかを意識する過程で誘発される情動であり(Baldwin & Baccus, 2004),批判や侮辱に対する怒りと強い相関がある(Retzinger, 1991)。そのため,観察者の視点を促してしまう自己距離化は,恥そのものも(Katzir & Eyal, 2013),恥の伴った怒りも減少させなかった(Ding & Qian, 2020)。その他,大局的視点を要する単語完成課題(Summerell et al., 2019),怒りの対象への同情(Harmon-Jones et al., 2004)や幸せの祈り(Bremner et al., 2011)のように,観察者の視点(すなわち,客観化)が求められる方略においても質問紙で測定される主観的な怒りや特性攻撃性の減少が示されており,そのメカニズムとして再評価が挙げられている(Bremner et al., 2011)。
また,希望的観測(当該状況が将来的に良い方向へ向かうだろうと考えること)や代理(他者が状況を改善してくれるだろうと考える)に関連した手続きには,安全基地(すなわち,愛着の対象が支えてくれるという認知の)プライミング(Dutton et al., 2016)や,自身を支えてくれる他者の想起(Ratnasingam & Bishop, 2007)がある。これらの手続きは,知覚されたソーシャルサポート(個人がストレッサーに直面したとき,周囲から援助を受けられるという主観的認知)を増加させるため,これらの方略による怒りの減少は,希望的観測や代理のような再評価が関与している可能性がある。
さらに,怒りの体験を他者に語る行為は,明確な肯定(当該の状況は悪くなく,むしろ積極的に良いと考えること)を引き起こし,主観的な怒りを減少させる可能性がある。自らの情動体験を他者に語る行為は,その体験が現在の自分を形成するうえでどのような役割を果たしたのか再考させ,その体験を肯定的に意味づけさせる(Lilgendahl & McAdams, 2011)。Wainryb et al.(2018)では,怒りを伴う過去の記憶を想起したのち,実験者にその体験を語ることで,主観的な怒りが減少すること,またその体験を再度想起しても,怒りが再燃しないことが示された。さらに語りの中で,その体験を肯定的に意味づけた話者ほど,より大きく怒りが減少していた。この結果は,怒り体験を他者に語る行為が,その体験の意味を肯定的に変容させることで,怒りを長期的に抑制したことを示唆している。
また,自らの欲求充足を阻止する他者の行為は,その行為が意図的なものと評価されると怒りを生じさせるとされる(Lazarus, 1991)。すなわち,欲求充足を阻止する他者の行為(たとえば,自尊心を満たすという参加者の目標を,参加者に低い評価をつけることによって阻止すること)は,その行為者にとって意図しないものであると再評価されることで怒りを誘発しなくなる可能性がある。参加者に対する評価を誤って低く評定してしまったことを伝える謝罪文や(Krieglmeyer et al., 2009),参加者同士がお互いの文章に評価をつける課題において,低い評価をつけてしまったことを謝罪する文章(Kubo et al., 2012)は,不快感を解消するまでには至らないが,主観的な怒りや攻撃性(左優勢の左右前頭部活動)を減少させる(Krieglmeyer et al., 2009; Kubo et al., 2012)。
反応調整 生成された情動反応を直接的に調整する方略もある。これには,表出抑制と思考抑制,発散,受容,異なる情動状態の誘発が含まれた。
抑制 抑制は,表情や行動からの情動表出を隠したり抑えたりしようとすること(表出抑制)のほかに,情動の内的経験を抑圧する意図的な試み(思考抑制)を含むこともある。抑制は主観的怒りを減少させないか,もしくは,反対に増加させ(Denson, Grisham, & Moulds, 2011; Hosie et al., 2005; Suchday & Larkin, 2001),心拍数を低下させたり低い心拍変動(RMSSD)を回復させない(Denson, Grisham, & Moulds, 2011)。しかし,抑制は特に実施者の文化や規範(情動表出の望ましさ)に影響を受ける方略だと考えられており(McRae, 2016),情動表出の抑制を重視する文化では,他者を傷つけず,意思を尊重する目的で抑制が使用されることがある(Kao et al., 2017)。このような向社会的な動機から実施する抑制は有効である可能性がある(Kao et al., 2017)。たとえば,抑制はヨーロッパ系参加者の前駆出期を減少させたが(交感神経活動の増加),反対に,中国系参加者の前駆出期を再評価と同程度に増加させた(Zhou & Bishop, 2012)。同様に,自己よりも他者の利益を追求することをプライムされた人や,日常的に情動表出や情動体験を抑える傾向のある人は,抑制によって主観的な怒りや最高血圧が減少した(Germain & Kangas, 2015; Kao et al., 2017)。
発散 発散は,言語的,身体的に怒りを表出することを指し,怒りの源泉そのものへ攻撃(報復)するという目標が達成された場合に限り,主観的な怒りや攻撃行動を減少させることが示唆されている。たとえば,怒り体験についてイライラした話し方(早口かつ大声)で語ると,ゆっくりとした柔らかい口調と比較して,主観的怒りや心血管反応(SBP,DBP,HR)を高めてしまう(Siegman & Snow, 1997)。また怒りを反すうしパンチングバッグを叩くような,怒りの源泉ではない他の対象へと置き換えられた攻撃(displaced aggression)も,主観的怒りや攻撃行動を増加させる(Bushman, 2002; Bushman et al., 1999)。エクササイズとして物体を殴打したとしても,主観的怒りや攻撃行動は減少しないことから(Bushman, 2002; Pels & Kleinert, 2016),怒りの源泉への報復という目標を達成できない攻撃行動は,主観的な怒りや攻撃行動をむしろ増加させる可能性が高いと考えられる。しかし,目的に関連した思考は目的が達成されると急速に消失するため(Förster et al., 2007),怒りの源泉そのものへ攻撃(報復)するという目的を達成する行動は,怒りや攻撃行動を減少させる(Denzler et al., 2009)。たとえば,ブードゥー人形(呪いの人形)へ針を刺すことが,怒りの対象そのものへ危害を加えることのできる報復行為と解釈されると,攻撃行動は減少する(Denzler et al., 2009)。また怒りの原因となった人物に関するアンケートに低い評価をつけ間接的に攻撃することでも,日常的に怒りを外に表出する傾向が高い人に限られるが,主観的な怒りや最高血圧が減少する(Bresin & Gordon, 2013; Vella & Friedman, 2009)。このように,報復攻撃は怒りを表出する傾向の高い人にとって,短期的には有効な怒り制御方略かもしれないが,人間関係を壊す可能性が高いうえに,肯定的な気分を誘発する可能性があるため(Threadgill & Gable, 2020),報復攻撃が自身の攻撃行動をさらに増加させるという悪循環を形成する危険性がある(Martens et al., 2007)。なお法治国家では一般に,報復攻撃は自身ではなく司法から刑罰という形態で対象に下される。司法の介入による刑罰は報復攻撃と同様に,肯定的な気分の誘発と主観的怒りの減少を引き起こすが(Roseborough & Wiesenthal, 2014),自身の報復とは異なり,肯定的な気分が自身の報復攻撃を増加させる強化子として働くことはない。
受容 受容は,情動体験を変化させようとせずに,そのまま受け入れる意図的な試みを指す。ただし,これは主観的な怒りを減少させない。受容は再評価と比較し主観的怒りを高く維持し(Szasz et al., 2016; Szasz et al., 2011),怒り減少方略を実施しない統制群と比較して,怒りは減少しない(Szasz et al., 2016)。情動の受容はAcceptance and Commitment Therapy(以下,ACTとする)の中核技法であり(Hayes et al., 2006),怒りを含む否定的な情動に対し有効な方略であるとみなされてきた(Eifert & Heffner, 2003)。受容はACTの特徴の1つだが,ACTに基づく介入の有効性を予測する中核的要因は,自己の抱いた思考や情動を,心の中の思考プロセスにすぎないと認識できるようになることだとされる(Arch et al., 2012)。怒りの受容を検討した2つの研究は,このような認知的脱フュージョン(cognitive defusion; Luoma et al., 2007)を実験参加者に実施させていなかった。そのために怒りの減少に失敗した可能性がある。
異なる情動状態の誘発 異なる情動状態の誘発は,制御の標的とする情動(怒り)とは異なる情動や感情を誘発する諸方略を指し,幸福,悲しみといった,特に怒りと相反した情動や感情が,主観的な怒りや攻撃行動の減少を引き起こすことが示されている。心理学や神経科学において,情動はその内容が快か不快かという軸,すなわち感情価(valence)と,覚醒度(arousal)の二次元から分類されることがある。怒りは一般に高い覚醒度と否定的な感情価をもつ情動として位置づけられることから,いくつかの研究は,肯定的な感情価を持つ情動の誘発が怒りを減少させる可能性を検討した。その結果,5ドルの商品券の受領や(Miron et al., 2008),クラシック音楽の聴取(Krahe & Bieneck, 2012),肯定的な感情価を持つ過去の体験の記述や他者への語り(Pasupathi et al., 2017; Wainryb et al., 2018)といった肯定的情動を誘発する課題を実施させることで,主観的怒りや攻撃行動が減少したことを報告している。また上述のように怒りは高い覚醒を特徴とする情動であるため,覚醒度を高める可能性のある音楽ジャンル(エクストリームミュージック)は,怒りや攻撃行動の制御に役立たないとの考えがある(Sherman & Dominick, 1986)。この主張を支持する知見もあるが(Krahe & Bieneck, 2012),一方でエクストリームミュージックを嗜好する参加者のみを対象とした実験(Sharman & Dingle, 2015)では,このような音楽が無音環境下で静かに過ごす統制条件と同程度にリラックス感を誘発させ,主観的な怒りが減少した。音楽刺激に対する情動反応には大きな個人差があることから(Juslin et al., 2008),音楽カテゴリではなく,その音楽によって生じる肯定的な感情価や覚醒度の減少が,怒りの減少を導く核心的要因であると考えられる。
基本情動のうち,悲しみや嫌悪,恐怖は,怒りと同様に否定的な感情価を持つ情動である。しかし上述したように,情動は感情価や覚醒度の次元だけでなく,接近・回避動機づけの次元に位置づけられることもある。この次元では,悲しみや嫌悪,恐怖は回避動機づけの高まりを特徴とする情動であり,接近動機づけの高まりを特徴とする怒りと相反すると考えられる。このような回避動機づけの高まりと関連する情動は,たとえ否定的な感情価を持つとしても,怒りの接近動機づけ(攻撃的衝動)成分を減少する可能性がある(Lutz & Krahe, 2018)。悲しみの誘発による怒りや攻撃行動の減少を検討した3報の研究では,主観的な怒りが減少しない一方,攻撃行動が減少した(Lutz & Krahe, 2018; Zhan et al., 2015; Zhan et al., 2017)。また悲しみの誘発は,怒り体験の意味を再解釈することを求められる再評価と比較して複雑な認知的処理を必要としないため,前頭前野の活動に依存した課題(反応抑制課題)の成績が低下する生理的ストレス状態においても攻撃行動は減少した(Zhan et al., 2017)。
また,嫌悪は感染源への接触を忌避するために進化した,回避動機づけを誘発する情動とされるため(Rozin & Fallón, 1987),怒りの接近動機づけ要素を解消する可能性がある(Pond et al., 2012)。個人特性としての嫌悪感受性が高いほど,身体的および言語的攻撃が低い関係にあるという予備的な証拠があるが(Pond et al., 2012),苦味による嫌悪の誘発は,主観的な怒り及び攻撃行動を増加させた(Sagioglou & Greitemeyer, 2014)。恐怖の誘発も同様に攻撃行動を減少させず主観的怒りを増加させることから(Zhan et al., 2015),どのような情動や気分が怒りや攻撃行動を減少させるのか明らかにするために,さらなる検討が求められる。なお異なる情動状態の誘発による怒りの減少は,注意のプロセスによって部分的に説明できるかもしれない。たとえば,悲しみを誘発する映像(Zhan et al., 2015)は,参加者の注意を引き付けることで攻撃行動を減少させた可能性がある。しかし,悲しみに比べより強く注意を引き付ける恐怖映像は,攻撃行動を減少させず主観的な怒りを増加させた。これは,誘発された情動の種類が重要な要因であることを示唆している(Zhan et al., 2015)。
感情制御方略の有効性を高める方略 感情制御方略の有効性は,いくつかの手段によって高めることができる。これには,心的対比・実行意図,腹内側前頭前野を標的とした経頭蓋直流刺激法,心拍変動を標的とした呼吸制御が含まれた。
心的対比・実行意図 心的対比・実行意図(Mental Contrasting and Implementation Intentions,以下,MCIIとする)は心的対比と実行意図という2つの過程から構成され,再評価のほか,さまざまな感情制御方略の有効性を高める可能性がある。心的対比では,目標を明確に想起し(たとえば,怒りと上手につき合う),その目標が達成されることで生じると期待されるポジティブな結果と,その目標の達成を阻害しているものを想起させることで,望ましい将来と現実の障害とを対比させる。その後,現実の障害を解決するための実行意図を,「もし障害Xに遭遇したら,対処行動Yを実施する」という形で形成する。MCIIは再評価と組み合わせる(怒りが生じたときに再評価を実施するという実行意図を形成する)ことで,再評価に比べ大きく主観的怒りが減少し,また自由に対処行動を決めた際にも減少した(Gallo et al., 2018)。
腹内側前頭前野を標的とした経頭蓋直流刺激法 腹内側前頭前野を標的とした経頭蓋直流刺激法は,抑制を習慣的に用いる参加者ほど主観的な怒りや攻撃行動が減少することが示唆されているが,明確な結果は得られていない。腹内側前頭前野は外側前頭前野とのやり取りを介し,扁桃体や島皮質などの情動反応に関連した領域を制御する機能を担うと考えられている(Ochsner & Gross, 2005)。また腹内側前頭前野の活動は怒りを制御する際に高まり,その活動の大きさは習慣的に抑制を用いる傾向と正の相関がある(Gilam et al., 2015)。Gilam et al.(2018)は,脳活動を調節する非侵襲的な手法である経頭蓋直流刺激法(transcranial direct current stimulation: 以下,tDCSとする)を用いて腹内側前頭前野の活動を増加させることで,主観的な怒りや攻撃行動が減少するかを検討した。その結果,腹内側前頭前野を標的としたtDCSは,偽刺激と比較して主観的な怒りと攻撃行動が減少したが,これは習慣的に抑制を用いる傾向が高い参加者ほど顕著であった。なお,Gilam et al.(2018)の実験では陽極を腹内側前頭前野に配置し,陰極を右肩に配置し電流を流したため,左右前頭部活動における右優勢の不均衡状態が引き起こされ,このことも主観的な怒りの減少を引き起こした可能性があるとしている。実際,Kelley et al.(2013)は,右背外側前頭前野(F4)への陽極性tDCS(右優勢の不均衡状態を誘発)は,左背外側前頭前野(F3)への陽極性tDCSに比べて主観的な怒りの有意差を抑制した。
心拍変動を標的とした呼吸制御 心拍変動を標的とした呼吸制御は主に交感神経活動を反映する心拍変動の低周波成分(LF)を上昇させるが,主観的な怒りを減少させるか,明確な結果は得られていない。心拍の時間的変動である心拍変動は,情動反応に関連する扁桃体とその制御を行う内側前頭前野との機能的接続性に正の相関があり(Sakaki et al., 2016),感情制御能力のバイオマーカーとされる。心拍変動(LFおよびSDNN)は呼吸数を1分間に7回未満に抑えることで大幅に増加することから(Lehrer et al., 2003),Francis et al.(2016)は,呼吸を用いて心拍変動(LFおよびSDNNの標準偏差)を増加させることで怒りが減少するか検討した。この実験の参加者は,ディスプレイに表示された呼吸数をもとに,1分間に6回というペースで5分間呼吸したのち怒りを誘発する動画を視聴し,主観的な怒りが測定された。その結果,呼吸数を制御しなかった統制群はLFは増加したものの,主観的な怒りに変化は生じなかった。ただし呼吸数を抑えた群は,LFが大きいほど主観的な怒りが減少した。怒りの制御ではないが,呼吸制御を通して心拍変動(LF)を増加させる5週間の介入は,介入前と比べ内側前頭前野と右扁桃体の機能的接続性を高めたものの,否定的な視覚刺激に対する再評価の有効性は高まらなかったことが扁桃体活動から示されている(Nashiro et al., 2023)。再評価は内側前頭前野を経由せずに扁桃体活動に影響するため(Buhle et al., 2014),有効性が変化しなかった可能性がある。プライミングを用いた方略(Dutton et al., 2016)のように,非意識的・自動的に生じる感情制御(Mauss et al., 2007)は内側前頭前野領域の活動に依存するため(Braunstein et al., 2017),呼吸制御によって有効性が高められる可能性がある。
本研究の目的は,主観的・生理的な怒り状態や攻撃行動を減少させるあらゆる方略に焦点を当て,その有効性と問題点を明らかにすることであった。本研究では,Grossの感情制御のプロセスモデルに基づき,怒りの制御方略を状況修正,注意配分,認知変容,反応調整,感情制御方略の有効性を高める方略に大別し,各グループにおいて,個別の方略の有効性を検討した。感情制御のプロセスモデルの枠組みにおいて,生成された情動反応を制御の対象とする反応調整は,感情が生成される過程を制御の対象とする注意配分や認知変容に比べ感情制御の努力が大きく(Sheppes & Gross, 2011),怒りに対し有効でないことが示されてきた(Hernández-Gómez & Hervas, 2022; Kjærvik & Bushman, 2024; Navas-Casado et al., 2023)。
これらの知見と一致して,本レビューは主観的な怒りに対し,再評価や(82%:11件中9件減少)気晴らし(78%:9件中7件)といった注意配分や認知変容が最も効果的であった一方,受容(0%:2件中0件),怒りの対象以外に向けた発散(0%:3件中0件)や抑制(13%:8件中1件)といった反応調整が効果的でないことを示した。さらに本研究は怒りの制御方略を感情生成という見地から整理することで,接近動機づけの高まりを妨ぐ状況修正が攻撃行動の減少に効果的であることや,再評価の有効性が低下する生理的ストレス状態においても悲しみの誘発が攻撃行動を減少させるように,反応調整には努力を要さずに攻撃行動を減少させる方略が含まれることを明らかにした。
また本研究の結果は,ある方略が有効である(有効でない)というよりも,方略の有効性が制御の対象(主観的な怒り,攻撃行動,生理反応)や期間(短期的,長期的),認知資源の多寡といった,さまざまな状況的要因に左右されることを示している。たとえば再評価は主観的な怒りを鎮めるための最も有効な方略の1つであるが,即時的な怒りの減少量は気晴らしに劣り(Denson et al., 2012; Offredi et al., 2016),生理的ストレス状態のような個人の認知資源が限られた状況において有効性が減じる(Zhan et al., 2017)。また攻撃行動や攻撃的衝動(左優勢の前頭部活動)の減少を目的としたとき,再評価の成功率は20%(5件中1件)であり,悲しみの誘発(100%:4件中4件)や接近動機づけの高まりの妨げ(67%:3件中2件)より低かった。
これらの結果は,目標や状況に応じて最適な方略を使い分けることが重要であることを示唆している。実際に,我々は日常生活や実験室環境において複数の感情制御方略を使用しており(Naragon-Gainey et al., 2017),異なる感情制御方略を柔軟に使い分けられるほど,感情制御能力が高い(Blanke et al., 2020; Cheng, 2001)。したがって臨床的介入においても,個人が状況や目的に応じて最も効果的な方略を選択できるように,方略の長所と短所を考慮した介入を行うことが重要である。特に,特性怒りの高さは低い自己制御能力と強く関連するため(Wilkowski & Robinson, 2010),再評価のような努力的方略が効果的でないクライエントも多いかもしれない。このようなクライエントに対しては,怒りや攻撃行動の制御に必要以上の努力を割かずとも済むよう,あらかじめMCIIを用いて対処方略を決めておくこと,また接近動機づけの高まりが妨げられる状況設定(薄暗い場所でリラックスチェアに後傾して座るなど)を行っておくことも重要だと考えられる。さらに,方略の有効性を高める組み合わせを検討することも重要である。たとえば,攻撃行動の減少に対して有効性が低い(ただし,主観的な怒りの制御に優れる)再評価は,攻撃行動の制御に優れる接近動機づけの高まりの妨げ(たとえば,仰臥位や後傾座位)と組み合わせることで,主観的な怒りと攻撃行動双方に有効な方略となる可能性がある。なお本研究の文献検索からは得られなかった知見ではあるが特に有効なのが,怒りの体験をできるだけ客観的に紙に記述したのち30秒間記述した内容を振り返り,シュレッダーあるいはごみ箱に廃棄させることで,主観的な怒りが減少する(廃棄させなかった条件はしない)方略である(Kanaya & Kawai, 2024)。これは,内的表象(怒り)が物体(怒りを書いた紙)と同一視されたために,内的表象(怒り)そのものも廃棄されたように感じられたためだと考えられる(中田・川合,2019)。このように,日常生活の中で怒りが生じた際,個人が独力で取り組みやすい簡便な方略は,努力的な方略の使用に困難さを示す個人に対して有望かもしれない。
実験研究のみを対象とした有効性の検証は短期的なスパンのみに限られているため,心理療法への示唆としては一定の限界があるかもしれない。しかし本研究は,怒りをうまく制御して他者との関係をよりよく保ち,充実した生活を送るためのヒントを与えている。
本研究において,開示すべき利益相反関連事項はない。
本研究結果の一部は,日本認知科学会第38回大会(2021)で発表された。
2補足的情報に関するTable S1―S2は,J-STAGEの電子付録に記載した。
3“regulat*”は怒りの減少に限らず制御全般を指す単語であるが,怒り制御方略に関する研究を網羅的に検索するために追加された。なお,レビュー対象となったすべての研究は,怒りの減少を検討していた。
4本研究で用いた検索式をTable S2下部に記載した。
5各指標の定義と反応の解釈をTable S1に記載した。
6怒り制御方略間で有効性を比較した研究群の結果を,Table S2に記載した。
7生理的ストレスはコルチゾールだけではなく,アドレナリンやノルアドレナリンといったカテコールアミンも誘発する(Joëls & Baram, 2009)。いくつかの研究は,コルチゾールの投与が再評価の感情制御効果を高めることを報告しており(Langer et al., 2020; Langer et al., 2022),生理的ストレスによる再評価能力の低下は,カテコールアミンの放出がもたらす,扁桃体活動の増加および前頭前野活動の減少が原因である可能性が指摘されている(たとえば,Langer et al., 2022; Wolf, 2016)。