The Japanese Journal of Psychology
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How do we regulate other's emotions in the here and now? Interpersonal emotion regulation strategies and nonverbal behaviors in immediate social interactions
Kyoko YamamotoMasanori Kimura
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Article ID: 96.24001

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Translated Abstract

This study examined the immediate interpersonal emotion regulation and nonverbal behaviors that occur during short-term interactions. In Study 1, participants were asked to recall an experience of immediate interpersonal emotion regulation and asked about the regulation strategies they employed as well as their nonverbal behaviors. Based on factor analysis, six dimensions for emotion regulation strategies were established, labeled as cognitive support, socioemotional support, emotional amplification, attention deployment, hostility/denial, and cheering up. Meanwhile, among the nonverbal behaviors, five factors were extracted: touch, acceptance, rejection/avoidance, emphasis, and suppression/neutralization. Correlation analyses indicated that nonverbal behaviors were expressed in accordance with the intention of each regulation strategy. Study 2 was conducted using the vignette method, and supported the replicability of the key findings of Study 1. In addition, regulation strategies and nonverbal behaviors were found to differ depending on the type of the target's emotion. In the future, nonverbal behavior should be examined using experimental approaches.

私たちは感情を生じている他者を目の前にしたとき,その人の感情を弱めたり,強めたり,変容しようと働きかけることがある。他者の感情制御を目的としたこのような対人交流のことを対人感情制御という(例えば,Niven, 2017)。なお,対人感情制御は,広義には自身の感情を制御するために他者と社会的交流を持つ行為も含まれるが(Dixon-Gordon et al., 2015; Zaki & Williams, 2013),本稿では他者の感情の制御に着目する1。対人感情制御の研究では,比較的長期的な視点からネガティブ感情の減弱が検討されることが多く,即時的な感情制御や,生じている感情を強めるように働きかける感情の増強の検討は乏しい(Swerdlow & Johnson, 2022)。しかし,現実には落ち込んでいる人を奮い立たせるなど,即座に相手の感情を制御するために,感情の増強や変容を行う場合がある。本研究では短期的相互作用の中で生じる即時的な対人感情制御に着目し,その方略の内容や構造を検討する。

対人感情制御方略の構造

これまで対人感情制御方略の検討にはさまざまな試みがある。Niven et al.(2011)はEmotion Regulation of Others and Self(EROS)尺度の中で,制御方略を制御対象(自己・他者)×制御動機(感情の改善・悪化)により4つに分類している。このうち他者を制御対象とする行為が,本稿で対象とする対人感情制御と言える。この尺度は,感情の改善だけでなく悪化にも注目している点が特徴的である。Williams(2007)は,他者のネガティブ感情を減弱し,ポジティブ感情を増大する方略として「状況修正」,「注意の方向づけ」,「認知的変化」,「感情反応の調整」の4方略を指摘している。Little et al.(2012)はこの4方略を測定する対人感情管理尺度を開発し,職場の上司の対人感情制御方略が,部下から上司への信頼に影響することを見いだしている。野崎(2013)はストレス経験時の対人感情制御方略として「肯定的再解釈のサポート」,「気晴らしのサポート」,「情動の表出サポート」の3種類の方略をあげている。これらは,特性的な観点から対人感情制御方略を検討している。

一方,使用される対人感情制御方略は相手の感情,関係性,状況などにより左右される可能性があり,このような社会的相互作用時の対人感情制御方略に注目した研究もある。Swerdlow & Johnson(2022)は,対人感情制御を伴う相互作用において,感情制御の受け手の立場から制御方略を測定するInterpersonal regulation interaction scale(以下,IRISとする)を開発している。この尺度は「反応性」,「敵意」,「認知的サポート」,「身体的存在」の4因子からなる。「反応性」は,共感的関心,妥当化,社会的共有の推奨などの方略,「敵意」は拒否や攻撃に関わる方略,「認知的サポート」は再評価,問題解決,情報的サポートなどの方略,「身体的存在」は非言語コミュニケーションや身体的存在による制御方略を指す。また,Pauw et al.(2019)は,泣いている友人の感情を制御する場面想定法による実験を行い,制御要求の高さが対人感情制御方略の使用に及ぼす影響を検討している。制御要求が高い条件は,制御対象(友人)にこれから重要な予定があることを教示することによって操作しており,即座の感情制御が求められる状況と言える。「認知的サポート」,「社会情動的サポート」,「気晴らし」,「抑制」の4種類の対人感情制御方略のうち,制御要求が高い条件では「気晴らし」や「抑制」方略が用いられやすく,制御要求が低い条件では「社会情動的サポート」が用いられやすいことを見いだしている。

ところで,感情制御研究はGrossのプロセスモデル(Gross, 1998)を基礎として発展してきた。このモデルでは,感情が生起するプロセスにそって感情制御方略を整理し,状況選択,状況修正,注意配分,認知的変化,反応調整の5つの段階を考えている。プロセスモデルは個人内感情制御に関するモデルであるが,前述のLittle et al.(2012)などのように対人感情制御研究においてもこれを適用し,発展させてきたものが多いように思われる。しかし,対人感情制御は表出されて初めて感情喚起が知覚される他者に対する働きかけであるため,感情の喚起を未然に防ぐ状況選択や状況修正の方略は含まれにくく,注意配分,認知的変化,反応調整段階の制御方略が使用されやすいと考えられる。Little et al.(2012)の「状況修正」,「注意の方向づけ」,「認知的変化」,「感情反応の調整」は,それぞれ状況修正,注意配分,認知的変化,反応調整段階の方略にあたり,野崎(2013)の「気晴らしのサポート」,「肯定的再解釈のサポート」,「情動の表出サポート」は,注意配分,認知的変化,反応調整段階の方略に該当する。一方,Pauw et al.(2019)の「気晴らし」,「認知的サポート」,「抑制」も注意配分,認知的変化,反応調整段階の方略に該当するが,「社会情動的サポート」は対人感情制御に特有の方略であろう。また,Swerdlow & Johnson(2022)は,ソーシャル・サポート研究などの隣接領域も参考に質問項目を生成しており,必ずしもプロセスモデルに対応するわけではない。以上のことから,対人感情制御を個人内感情制御のモデルに完全に沿った形で理解することは難しいと思われる。

また,制御方略の効果に関しても,個人内感情制御と対人感情制御では異なる。Nozaki & Mikolajczak(2022)は,認知的再評価を促す対人感情制御が,弱いネガティブ感情に対しては個人内感情制御と同じように有効であるものの,強いネガティブ感情には有効でないことを示している。また,共感的反応という対人感情制御に特有の反応が,ネガティブ感情を減弱する有効な方略であることも指摘している。さらに,社会的相互作用中に行われる対人感情制御では,他者の感情を即時的に制御することが求められるかもしれない。先述のPauw et al.(2019)では他者の感情を即座に制御すべきか否かによって,使用される制御方略が異なることが示唆されている。これらの研究から,即時的対人感情制御においては,個人内感情制御や時間をかけられる対人感情制御とは,制御方略の構造が異なることが推察され,体系的に整理する必要がある。

対人感情制御時の非言語行動

即時的対人感情制御においては,非言語行動が制御方略の効果に影響を及ぼす可能性がある。Emotion as social information(EASI)理論によれば,感情表出は社会的情報価を持ち,感情の非言語表出が他者の感情に影響する(Van Kleef, 2017)。対人感情制御方略に関する研究では,感情制御の受け手の非言語行動については検討がなされているが(Aragón & Clark, 2018; Nozaki, 2015; Pauw et al., 2019),制御の送り手の非言語行動を検討した研究例は少ない。これは,感情制御方略に着目した研究の多くが,制御者の目標の存在を前提としたプロセスモデルに基づくところが大きいためと考えられる。非言語行動は無意図的に表出される場合もあることから,目標指向的な制御には含められていないのかもしれない。一方,IRIS(Swerdlow & Johnson, 2022)は「身体的存在」因子という非言語行動が含まれる数少ない尺度であると言える。しかしながら,方略の1つとして取り上げられるに留まり,多様な非言語行動を網羅できていないと思われる。

対人感情制御と関連する領域で,非言語行動を扱った例としてはソーシャル・サポートや謝罪の研究を挙げることができる。これらはいずれも他者のネガティブ感情の軽減を意図して行われる行動ととらえられる。ソーシャル・サポートによる痛みの軽減効果を調べた研究では,ポジティブな意図を持つ言語的行動(サポーティブなコメント,再解釈,気晴らし)や非言語的な相互作用(手を握る)によって,痛みが軽減されることが示唆されている(Krahé et al., 2013)。謝罪研究においては,謝罪時の悲しみや悔悛(remorse)の表出が,被害者のネガティブ感情を軽減し,謝罪者のポジティブな印象を向上させることが示唆されている(Hornsey et al., 2020; 田村,2009; ten Brinke & Adams, 2015)。また,社会的違反を犯したとき,羞恥(Keltner & Buswell, 1997)や罪悪感(Baumeister et al., 1994)を表出すると許されやすいという指摘もある。対人感情制御においても適切な非言語行動が加わることで,効果的に他者の感情を制御できるかもしれない。そこで,本研究では対人感情制御における非言語行動の役割も合わせて検討する。なお,非言語行動の検討には行動観察が有効であるものの,制御の送り手がどのような非言語行動を行うかは明らかとなっていない。本研究では,後の研究に有効な指標を得ることを目的として,調査により多様な非言語行動を抽出するとともに,対人感情制御方略と非言語行動の関係を探索的に検討する。

感情による対人感情制御方略の差異

対人感情制御方略やそれに伴う非言語行動は,さまざまな要因の影響を受けると考えられるが,本研究では感情による差異に注目する。個人内感情制御については,感情制御の決定因についてメタ分析が行われており,感情強度や誘意性,感情カテゴリーなどがあげられている(Matthews et al., 2021)。対人感情制御研究に関しても,感情による差異を検討した研究がある。Shu et al.(2021)は,不安にはアドバイスサポートや状況修正が,悲しみには情緒的サポートや再評価が有効だと見なされやすいことを報告している。一方,怒りと不安の感情の差異に注目した研究では,対人感情制御方略に感情による差異はないという結果が得られている(Tanna & MacCann, 2023)。これらの研究では,怒り,悲しみ,不安のみが対象であり,その他の不快感情や快感情との差異については検討がなされていない。なお,ポジティブ感情はネガティブ感情と比べて制御対象となりにくいことが推察される。しかし,対人感情制御の中核的特徴の1つに,「対人感情制御の目標はネガティブ感情またはポジティブ感情を,増加または減少させるかのいずれかである」とある(Nozaki & Mikolajczak, 2020)。したがって,対人感情制御の現象全般を捉えるためには,ポジティブ感情も検討に加えることが重要であると考えられる。

以上のことから,本研究では即時的な対人感情制御方略の内容や構造について検討すること,即時的対人感情制御方略と非言語行動との関連について検討することを目的とする。また,これらの感情の種類による差異について検討する。

研究1

目的

即時的対人感情制御方略と非言語行動の内容や構造を明らかにし,両者の関連を検討する。

方法

調査協力者 成人705名(男性354名,女性347名,ノンバイナリー2名,回答したくない2名,平均年齢49.1±11.04歳)を対象とした。

質問項目 即時的な対人感情制御の経験を1つ想起してもらい,対象者との関係性,経験の具体的内容,対象者の感情について回答を求めた(教示文はTable S1)。対象者との関係性は多肢選択式,経験の具体的内容は自由記述で回答を求めた。感情は複数回答を求めた後,対象者が最も強く感じている感情を1つ選択させた。次に,その際に使用した対人感情制御方略42項目と自身の非言語行動37項目に,「全くあてはまらない =1」から「非常にあてはまる =7」の7件法で回答を求めた。これらの項目は,Swerdlow & Johnson(2022)を参考に著者2名の協議により作成した。また,対人感情制御方略と非言語行動ともに,最後に自由記述欄を設け,呈示した項目以外に該当する振る舞いがある場合は記入するよう求めた。なお,調査協力者がSatisficeを行っていないか判断するため,Directed Question Scale(DQS; 三浦・小林,2016)を制御方略と非言語行動の尺度内に1項目ずつ配置した。

手続き クロスマーケティングに依頼し,Qualtricsで作成した調査に協力者を誘導した。なお,本研究は「神戸学院大学心理学部人を対象とする研究等倫理審査委員会」の承認を得ている(承認番号:SP22-17)。

結果および考察

分析対象者の選定 調査協力者のうち,294名を分析対象から除外し(Table S2),411名(男性179名,女性231名,回答したくない1名,平均年齢49.5±11.12歳)を分析対象者とした。

即時的対人感情制御方略 即時的対人感情制御方略について,最尤法,プロマックス回転による因子分析を行った。分析にはHAD(清水,2016)を使用した。対角SMC平行分析では8因子,MAPでは6因子が提案された。因子数を6―8に指定して分析を行い,1つの因子に少なくとも2つ以上の項目が負荷する6因子解を採用した。主たる因子への負荷量.40未満の6項目を削除し,再度分析を行った(Table S3)。第1因子は,状況の見方を変化させる認知的再評価や,問題解決につながる行動から構成されており,「認知的サポート」と命名した。第2因子は,関心や理解を示すなど相手を肯定する方略であり,「社会情動的サポート」と命名した。第3因子は,感情を強める方略から構成されており,「感情の増強」と命名した。第4因子は,感情を生じさせている出来事から注意を逸らす項目を含むことから,「注意の方向づけ」と命名した。第5因子は,相手の感情反応を否定するような方略であり,「敵意・否認」と命名した。第6因子は,対象を応援しポジティブ感情を増大することを目指す方略であり,「チアアップ」と命名した。

各方略をプロセスモデル(Gross, 1998)から解釈すると,「認知的サポート」は認知的変化段階,「社会情動的サポート」,「感情の増強」,「チアアップ」,「敵意・否認」は反応調整段階,「注意の方向づけ」は注意配分および反応調整段階の制御方略にあたると考えられる。全体的にはネガティブ感情の減弱を意図した方略が多いものの,項目内容全体から推察すると「感情の増強」と「チアアップ」はポジティブ感情の増大を,「敵意・否認」はネガティブ感情の増大を意図しているように思われる。ただし,想起された感情はネガティブ感情に偏っていたことから,単に当初の感情を増大・減弱するというより,ネガティブ感情を宥めつつ,ポジティブ感情に転換するといった働きかけが推察される。制御方略の因子間相関においても多くの方略間に正の相関関係が認められることから,これらの対人感情制御方略は必ずしも排他的なものではなく,同時並行的に使用される可能性がある。加えて,「注意の方向づけ」には抑制に関わる項目も含まれていた。Pauw et al.(2019)においても,対人感情制御方略の「注意の方向づけ」と「抑制」に関する項目が「切り離し(disengagement)」という1つの因子にまとまっていた。一方,個人内感情制御では,「注意の方向づけ」は注意配分段階,「抑制」は反応調整段階に位置づけられ,理論的に異なる制御方略とされている。対人感情制御においては個人内感情制御と比べて,注意の方向づけと抑制の2つの方略が区別されにくいことが示唆される。

非言語行動 非言語行動についても同様に因子分析を行い,対角SMC平行分析では7因子,MAPでは5因子が提案された。5―7因子に指定し因子分析を実施した結果,1つの因子に少なくとも2項目以上が負荷する5因子解を採用した。(a)主な因子への負荷量.40未満,(b)2つ以上の因子に.40以上の負荷量を示す項目を削除し,分析をくり返したところ7項目が削除された(Table S4)。第1因子は,相手の身体に触れる行為を含むことから「接触」と命名した。第2因子は,共感やあたたかさを表す非言語行動であり「受容」と命名した。第3因子は,相手から視線をそらしたり,距離を取ったりする行動を含むことから,「拒否・回避」と命名した。第4因子は,活発な非言語行動に関する項目から構成されていることから「強調」と命名した。第5因子は,感情を表に出さない行動から構成されており,「抑制・中立化」と命名した。

即時的対人感情制御方略と非言語行動の関連 対人感情制御方略と非言語行動との関連を検討するため,相関分析を行った(Table 1)。「認知的サポート」と「注意の方向づけ」は非言語行動の全因子と有意な正の相関があった。「社会情動的サポート」は「接触」,「受容」と有意な正の相関,「拒否・回避」と有意な負の相関を示した。「感情の増強」は「抑制・中立化」を除くすべての非言語行動と有意な正の相関を示した。「敵意・否認」は「受容」と有意な負の相関,「拒否・回避」,「強調」,「抑制・中立化」と有意な正の相関を示した。「チアアップ」は「接触」,「受容」,「強調」と有意な正の相関を示した。これらの結果より,各対人感情制御方略は多様な非言語行動により表出されることが考えられる。

Table 1

即時的対人感情制御方略と非言語行動の相関関係(研究1)

即時的制御方略 非言語行動
接触 受容 拒否・回避 強調 抑制・中立化
**p<.01
認知的サポート .27** .52** .13** .32** .25**
社会情動的サポート .31** .68** ‒.16** .08 .06
感情の増強 .44** .32** .35** .51** .09
注意の方向づけ .29** .22** .31** .29** .24**
敵意・否認 .04 ‒.25** .55** .43** .21**
チアアップ .32** .55** ‒.01 .24** .04

中程度以上の値を示す相関係数に注目すると,「認知的サポート」,「社会情動的サポート」,「チアアップ」は「受容」の非言語行動を伴いやすいと言える。また,「感情の増強」は「接触」や「強調」の非言語行動を,「敵意・否認」は「拒否・回避」や「強調」の非言語行動と.40以上の相関を示した。このことから,「強調」の非言語行動は同時に表出される非言語行動によって,異なる意図を伝達することが推察される。先述したように「感情の増強」はポジティブ感情への変容や増大を,「敵意・否認」はネガティブ感情の増大を意図した方略と推察される。これらのことから,ポジティブ感情への変容や増強を目標とする場合には「接触」を伴うが,ネガティブ感情の増強を目標とする場合には「拒否・回避」の非言語行動を伴うことで,それらの意図を伝達するのではないかと思われる。

研究1では自身の経験した対人感情制御場面を想起して,制御方略や非言語行動について回答してもらったため,日常生活の身近な対人感情制御の実態を示すことができた。しかしながら,想起された感情や他者との関係性には偏りがあった(Table S5―S6)。研究2では,この問題を解消するために,場面想定法による調査を行う。

研究2

目的

場面想定法による調査から,より統制された状況下で即時的対人感情制御方略や非言語行動の構造について再度検討する。また,感情による方略の差異についても検討を行う。感情の種類には,怒り,悲しみ,不安,喜び,緊張,焦りの6感情を設ける。これらの感情の設定理由について,怒り,悲しみ,不安は感情制御研究での検討が多いこと(Smith et al., 2023),研究1でも回答数の上位3位を占めていたことによる。緊張と焦りは即時的な感情制御が求められやすいと予想されることによる。喜びは,ポジティブ感情も含めることで対人感情制御を包括的に検討できると考えたためである。

方法

調査協力者 成人3,169名(男性1,777名,女性1,361名,ノンバイナリー10名,回答したくない21名)を対象に実施した。

質問項目 初めに仲の良い友人を1人思い浮かべ,その人のイニシャルまたはニックネームを記入するよう求めた。続いて,その友人との親しさの程度について回答を求めた。次に,その友人が感情を感じているエピソードを呈示し,場面を想像するよう求めた(Table S7)。6種類の感情エピソードのうち1つがランダムに呈示された。エピソード作成には,研究1の自由記述内容を参考にした。続いて,その友人に対する対人感情制御方略,非言語行動の質問項目について,7件法で回答を求めた。対人感情制御方略については,研究1の自由記述内容に基づく2項目,研究1の因子分析結果で項目数が少なかった制御方略「チアアップ」を表す3項目を追加し,計47項目への回答を求めた。非言語行動においては,研究1の自由記述内容に基づき4項目を追加し,計41項目への回答を求めた。また,研究1同様にそれぞれの尺度内にDQS項目を設定した。最後のページでは,場面想起に関する操作チェック項目に回答を求めた。まず,想起した感情場面を6つの選択肢から1つ選択させた。また,想起場面の鮮明度について5件法で回答を求めた。

手続き 研究1と同様であった。

結果

分析対象者の選定 調査協力者のうち,1,700名を分析対象から除外し(Table S2),1,469名(男性722名,女性744名,ノンバイナリー1名,回答したくない2名,平均年齢48.87±10.57歳)を分析対象者とした。

各尺度の因子分析 即時的対人感情制御方略の項目について,研究1に基づき因子数を6に指定し,最尤法,プロマックス回転による因子分析を実施した。なお,研究1の因子分析で削除された項目も含めていること,新たな項目を追加していることから,探索的因子分析を行うこととした。(a)主な因子への負荷量.40未満,(b)2つ以上の因子に.40以上の負荷量を示す項目を削除して分析をくり返したところ9項目が削除された。また,残った項目のうち,2つの因子に対する因子負荷量の差が.10未満の項目1項目を重複負荷と見なし削除した。抽出された因子は,第1因子「認知的サポート(α=.93)」,第2因子「チアアップ(α=.84)」,第3因子「感情の増強(α=.85)」,第4因子「注意の方向づけ(α=.82)」,第5因子「敵意・否認(α=.88)」,第6因子「社会情動的サポート(α=.80)」であった(Table 2)。適合度はCFI=.98,RMSEA=.03と十分な値であった。非言語行動については,因子数を5に指定し,即時的対人感情制御方略と同様の基準で因子分析を行ったところ,計6項目が削除された。第1因子「接触(α=.91)」,第2因子「拒否・回避(α=.89)」,第3因子「受容(α=.88)」,第4因子「強調(α=.81)」,第5因子「抑制・中立化(α=.78)」であった(Table 3)。適合度はCFI=.96,RMSEA=.04であり,十分な値を示した。

Table 2

即時的対人感情制御方略の因子分析結果(研究2)

項目 F1 F2 F3 F4 F5 F6
a 研究2で追加した項目を示す。
F1:認知的サポート(M=4.01,SD=1.14,α=.93)
その状況について整理する .84 ‒.10 ‒.13 ‒.02 .05 .08
問題を解決する手助けをする .77 .14 ‒.17 ‒.05 .02 .06
その状況に対する別の見方を示す .75 ‒.18 ‒.11 .15 .10 .05
アドバイスをあげる .74 .19 ‒.01 ‒.07 .05 ‒.15
新しい視点で状況を見られるよう助ける .72 ‒.09 ‒.03 .05 .05 .15
どのように行動すべきかを言う .71 .07 .03 ‒.03 .09 ‒.12
計画を立てるのを手伝う .67 ‒.02 .14 .05 ‒.17 ‒.03
試みるよう伝えるa .60 .13 .21 ‒.03 .00 ‒.15
その出来事の意味を見いだせるようにする .59 ‒.06 .25 ‒.11 .02 .06
状況を受け入れられるように手助けする .56 .05 ‒.01 ‒.03 ‒.06 .22
その状況の良い面を指摘する .46 ‒.12 .31 .09 ‒.16 .19
気持ちを伝えるように促す .44 ‒.04 .27 ‒.11 .03 .20
落ち着かせようとする .42 .26 ‒.24 .25 ‒.02 .12
F2:チアアップ(M=4.41,SD=1.33,α=.84)
励ましたり,元気づけたりする .04 .70 ‒.16 .05 .09 .26
頑張るように伝える .14 .65 .12 ‒.03 .04 ‒.17
勇気づける .20 .53 .02 .06 ‒.04 .17
応援するa .11 .51 .15 ‒.07 ‒.11 .19
F3:感情の増強(M=3.06,SD=1.20,α=.85)
その人の感情を強める ‒.10 ‒.05 .81 .03 .09 .08
その人の感情を強めるよう働きかける ‒.11 ‒.04 .81 .06 .07 .04
感情をもっと感じるように働きかける .02 ‒.03 .60 .07 .12 .05
その人の気持ちを奮い立たせる .13 .24 .54 .01 ‒.06 ‒.02
挑戦を促すa .27 .20 .46 .00 ‒.03 ‒.19
F4:注意の方向づけ(M=3.31,SD=1.26,α=.82)
話題を変える ‒.07 ‒.06 .07 .81 .01 ‒.03
気を紛らわせようとする .08 .07 .00 .72 ‒.11 .04
なにか他のことを考えるように言う .12 .01 .08 .59 .09 ‒.04
そのことについて考えないように伝える ‒.03 .03 .08 .55 .22 ‒.02
F5:敵意・否認(M=2.23,SD=1.09,α=.88)
その人に対して怒りや憤りを表す ‒.13 .06 ‒.01 ‒.08 .89 .11
状況に対するその人の反応を批判する ‒.11 .05 .10 .03 .75 .02
その人の悪いところを思い出させる ‒.01 .00 .07 ‒.04 .72 ‒.02
その人の感情は間違っていると言う ‒.03 ‒.01 .07 .11 .67 ‒.03
その状況の悪い面を指摘する .26 ‒.04 ‒.05 ‒.06 .67 ‒.03
感情的になりすぎていると言う .29 ‒.06 .00 .09 .50 ‒.13
F6:社会情動的サポート(M=4.96,SD=1.12,α=.80)
共感や理解を示す ‒.02 .04 .05 .02 ‒.02 .77
話を聞く姿勢を示す .12 .00 ‒.10 .02 ‒.02 .68
その感情が正しいものだと伝える ‒.03 .02 .28 ‒.09 .06 .60
同情や関心を示す .09 .11 .00 ‒.02 .16 .58
否定する態度を見せないa .05 ‒.08 ‒.02 .00 ‒.14 .58
因子間相関 F1 .71 .54 .59 .37 .47
F2 .44 .44 .17 .48
F3 .30 .51 .14
F4 .51 .12
F5 ‒.28
Table 3

非言語行動の因子分析結果(研究2)

項目 F1 F2 F3 F4 F5
a 研究1では削除された項目を示す。b 研究2で追加した項目を示す。
F1:接触(M=2.73,SD=1.36,α=.91)
相手を抱きしめる .91 ‒.08 ‒.02 ‒.01 ‒.01
相手の頭をなでる .86 ‒.05 ‒.17 .09 .08
相手の手を握る .85 .00 .06 ‒.06 ‒.02
相手の肩や背中をなでる .75 .05 .21 ‒.17 ‒.08
相手の頬をなでる .75 .09 ‒.23 .13 .07
相手の肩や背中に手をおく .71 .05 .25 ‒.11 ‒.06
相手の肩や背中をたたく .48 .04 .13 .15 .04
F2:拒否・回避(M=2.28,SD=0.92,α=.89)
うつむく ‒.04 .82 .11 ‒.14 ‒.11
相手を見ないようにする ‒.01 .74 ‒.13 ‒.02 .04
相手から距離を取る ‒.08 .70 ‒.05 .02 .04
眉をしかめるa ‒.05 .64 .02 .16 ‒.11
小さな声で話すa .05 .63 .36 ‒.33 ‒.02
相手とは別の方向に体を向ける .07 .63 ‒.11 .06 .09
首を横に振る .02 .63 .01 .14 .02
相手とは別の,特定の対象を見つめる ‒.07 .59 .04 .10 .11
相手をにらむa .15 .56 ‒.23 .15 ‒.05
上体を後ろに反らす .09 .51 ‒.10 .20 .08
F3:受容(M=4.52,SD=1.13,α=.88)
うなずく ‒.17 ‒.03 .77 .12 ‒.04
相手の方に体を向ける .03 ‒.07 .70 .08 ‒.06
ゆっくりと話すb .05 .07 .69 ‒.17 .17
あたたかい声の調子で話す .05 ‒.10 .69 .05 .02
同情や共感を顔に表す ‒.12 .04 .68 .20 ‒.13
落ち着いた口調で話す ‒.02 ‒.05 .65 ‒.19 .32
相手を見つめる .18 ‒.10 .54 .22 ‒.03
アイコンタクトをとる .11 ‒.04 .53 .29 ‒.02
相手の方に近づくa .34 ‒.01 .52 .08 ‒.06
F4:強調(M=2.84,SD=1.12,α=.81)
ジェスチャーで強調する ‒.01 .06 .23 .65 .05
大きな声で話す .02 .06 .00 .64 .11
ジェスチャーを使って伝えるa ‒.02 .02 .38 .59 .04
興奮した口調で話す ‒.01 .30 ‒.09 .56 ‒.08
前のめりになる ‒.01 .11 .30 .52 ‒.03
F5:抑制・中立化(M=3.52,SD=1.17,α=.78)
声の調子を変えずに話す .03 ‒.13 .12 .06 .73
表情を変えない .08 .05 ‒.16 .03 .71
感情を顔に出さない .03 .07 ‒.05 ‒.01 .68
たんたんと話すb ‒.18 .17 .11 .11 .54
因子間相関 F1 .37 .44 .39 .09
F2 ‒.05 .45 .44
F3 .12 .15
F4 .00

対人感情制御方略の感情による差 即時的対人感情制御方略の下位尺度ごとに項目の素点に基づいて平均得点を算出し,平均値と標準偏差をTable 4に示した。感情条件を独立変数とする1要因6水準参加者間計画の分散分析を行った結果,すべての制御方略において有意な効果が認められた(認知的サポート:F (5, 1463) =44.99, p<.001, ηp2=.13, チアアップ:F (5, 1463) =39.68, p<.001, ηp2 = .12, 感情の増強:F (5, 1463) =22.75, p<.001, ηp2=.07, 注意の方向づけ:F (5, 1463) =49.55, p<.001, ηp2=.15, 敵意・否認:F (5, 1463) =40.08, p<.001, ηp2=.12, 社会情動的サポート:F (5, 1463) =9.87, p<.001, ηp2=.03)。効果量は「社会情動的サポート」を除いて中程度以上の大きさであった。多重比較(Holm法)を行ったところ,「認知的サポート」は,不安,緊張,焦り,怒りが悲しみ,喜び条件に比べて有意に高かった。「チアアップ」は,緊張,不安が怒り,焦り,悲しみ,喜び条件と比べて有意に高く,怒りは悲しみ条件よりも高く,焦りと悲しみは喜び条件に比べて高かった。「感情の増強」は,緊張が不安や喜び条件よりも有意に高く,不安や喜びは怒り,焦り,悲しみ条件との間に有意な差が見られた。また,怒りと悲しみとの間にも有意な差が認められた。「注意の方向づけ」は,焦りが怒り,不安,緊張条件と比べて有意に高く,次いで,悲しみ,喜びの間に有意な差が認められた。「敵意・否認」は怒りが焦り,不安,緊張,喜び,悲しみ条件と比べて有意に高く,焦りは喜びや悲しみと比べて有意に高く,不安と緊張は悲しみに比べて有意に高かった。「社会情動的サポート」は,悲しみと不安が怒り,焦り,喜び条件に比べて有意に高く,緊張が焦り,喜びに比べて有意に高かった。

Table 4

感情ごとの即時的対人感情制御方略の平均値と標準偏差(研究2)

怒り 悲しみ 不安 緊張 焦り 喜び
M SD M SD M SD M SD M SD M SD
注)abcd は,多重比較の結果を表す。異なるアルファベット間に有意な差があることを示す。
認知的サポート 4.26a 0.85 3.54b 1.24 4.33a 0.98 4.33a 1.07 4.30a 0.94 3.28b 1.23
チアアップ 4.41b 1.09 4.07c 1.44 4.85a 1.16 5.08a 1.15 4.32bc 1.18 3.62d 1.45
感情の増強 2.94c 0.95 2.63d 1.20 3.30b 1.12 3.57a 1.22 2.82cd 1.19 3.23b 1.25
注意の方向づけ 3.51b 1.02 2.92c 1.26 3.46b 1.09 3.40b 1.14 4.04a 1.12 2.44d 1.34
敵意・否認 2.95a 0.97 1.77d 0.93 2.20bc 1.06 2.14bc 1.06 2.41b 1.06 1.99cd 1.06
社会情動的サポート 4.87bc 0.93 5.15a 1.22 5.14a 0.98 5.09ab 1.06 4.79c 1.13 4.59c 1.26

非言語行動の感情による差 非言語行動の下位尺度について,感情ごとに平均得点を算出し,平均値と標準偏差をTable 5に示した。感情条件を独立変数とする1要因6水準参加者間計画の分散分析を行った結果,すべての非言語行動において有意な効果が認められた(接触:F (5, 1463) =18.92, p<.001, ηp2=.06, 拒否・回避:F (5, 1463) =3.72, p<.001, ηp2=.02, 受容:F (5, 1463) =23.05, p<.001, ηp2=.06, 強調:F (5, 1463) =20.81, p<.001, ηp2=.06, 抑制・中立化:F (5, 1463) =1.99, p<.001, ηp2=.04)。効果量は小から中程度の値を示した。多重比較(Holm法)を行ったところ,「接触」は悲しみ,不安,緊張が,怒り,喜び,焦り条件と比べて有意に高かった。「拒否・回避」は,怒り,焦り,不安,悲しみが喜び条件と比べて有意に高かった。「受容」は,緊張,不安,悲しみ,怒りが喜び,焦り条件に比べて有意に高かった。「強調」は,喜びおよび緊張が,不安および焦り条件に比べて有意に高く,不安および焦りは悲しみに比べて有意に高かった。また,怒りは焦りおよび悲しみ条件に比べて有意に高かった。「抑制・中立化」は,焦り,怒り,不安,緊張が,悲しみや喜び条件と比べて有意に高かった。

Table 5

感情ごとの非言語行動の平均値と標準偏差(研究2)

怒り 悲しみ 不安 緊張 焦り 喜び
M SD M SD M SD M SD M SD M SD
注)abc は,多重比較の結果を表す。異なるアルファベット間に有意な差があることを示す。
接触 2.45b 1.17 3.12a 1.41 2.98a 1.34 2.97a 1.46 2.31b 1.28 2.35b 1.22
拒否・回避 2.42a 0.86 2.29a 0.78 2.30a 0.91 2.22ab 0.96 2.37a 0.98 2.04b 1.01
受容 4.60a 1.01 4.68a 1.20 4.71a 1.01 4.78a 1.12 4.05b 1.05 4.14b 1.18
強調 3.01ab 0.95 2.41d 1.02 2.85bc 0.99 3.09a 1.17 2.71c 1.09 3.17a 1.33
抑制・中立化 3.65a 1.07 3.31b 1.13 3.62a 1.08 3.60a 1.16 3.79a 1.18 3.11b 1.34

対人感情制御方略と非言語行動の相関 感情ごとに対人感情制御方略と非言語行動の相関係数を算出した(Table S8)。いずれの感情においても各方略は複数の非言語行動と有意な相関関係を示したが,感情により関連が異なる部分があった。中程度以上の相関関係に着目すると,「認知的サポート」,「チアアップ」,「社会情動的サポート」と「受容」との間(それぞれrs=.44―.66; rs=.41―.62; rs=.65―.74),「敵意・否認」と「拒否・回避」の間(rs=.51―.75),「感情の増強」と「強調」の間(rs=.43―.63)に有意な正の相関が一貫して認められた。

考察

研究2では場面想定法を用いて,即時的対人感情制御方略と非言語行動の構造について再検討するとともに,感情による差を検討した。因子分析の結果より,即時的対人感情制御方略と非言語行動のいずれにおいても研究1と同様の因子が抽出され,適合度も十分な値を示した。因子を構成する項目は研究1と2でおおむね一貫していたことから,本研究で得られた因子は即時的対人感情制御方略や非言語行動を的確に捉えていると考えられる。ただし,研究2では友人を想定させており,研究1では家族や友人の想起数が多かったことから,主として親密な他者に対する感情制御に制限される可能性がある。

即時的対人感情制御方略の平均値を参照すると,「社会情動的サポート」,「チアアップ」,「認知的サポート」の得点が高く,これらが使用されやすい方略であることが考えられる。感情の種類による差異はすべての下位尺度で有意であり,「社会情動的サポート」を除いて中程度以上の効果量が認められた。喜びはほとんどの下位尺度において最も低い得点を示した一方,「感情の増強」においては,緊張・不安に次いで3番目に高い得点を示した。この結果より,喜び感情はポジティブな感情のため,減弱される方向へ制御されることは少ないこと,増強する方向への制御が行われやすいことが伺える。ネガティブ感情については,(a)怒り,(b)緊張および不安,(c)悲しみ,(d)焦りの間で使用されやすい方略に差異があるように見受けられた。怒りは「敵意・否認」の得点が他の感情に比べて高いことが特徴的であり,他者から否定的な反応を引き出しやすいことが推察される。この結果は,怒りの表出は反発を招き,被表出者からの攻撃を引き出しやすいという知見(阿部・高木,2005; 大渕,2011)と整合する。緊張および不安は,「チアアップ」や「感情の増強」の得点が高く,情動反応に焦点づけた反応調整段階の方略がとられやすいと考えられる。悲しみは「社会情動的サポート」が高く,それ以外の方略においては不快感情の中で最も低い得点を示したことから,認知や感情を変容しようとする方略よりも,気持ちに寄り添う方略が使用されやすいことが示された。焦りは「注意の方向づけ」の得点が他の感情と比べて高く,認知や情動に働きかけるよりも,注意段階の方略が使用されやすいことが考えられる。即時的制御の必要性がより高いと想定していた緊張や焦りは,注意段階や反応調整段階の方略で高い得点を示した。即時性が求められる場合には,認知や反応への働きかけによって目下の状況への対処を促す方略がとられやすいことが推察される。さらに,緊張と類似の結果を示した不安も,即時的制御の必要性が高い可能性がある。また,個人内感情制御においては,快感情に比べて不快感情に対して気晴らしが使用されやすいが(Matthews et al., 2021),対人感情制御においても同様であると考えられる。先行研究と照らし合わせると,「認知的サポート」が不安において悲しみよりも用いられやすいこと(Shu et al., 2021),怒りと不安では「認知的サポート」や「注意の方向づけ」に差がないこと(Tanna & MacCann, 2023)は,一致しているように思われる。

非言語行動においては,「受容」がすべての感情において最も得点が高かったことから,即時的対人感情制御において使用されやすいと言える。ほとんどの非言語行動において,喜びはその他の感情と比べて低い得点を示したが,「強調」においては最も高い得点を示した。喜びのような快感情は上方制御されやすく,それが制御者の非言語行動にも反映されていると考えられる。その他の非言語行動は概ね不快感情で得点が高くなっており,不快感情の対人感情制御を行う際には,「接触」や「受容」といった支持的な非言語行動が表出されるとともに,「拒否・回避」や「抑制・中立化」など相手と距離を取るような行動も伴うことが考えられる。これは,不快感情の表出が他者からのサポートを引き出し感情の軽減につながる可能性と,他者からの拒否を招くという可能性があるという指摘とも整合する(Rimé, 2009)。

ただし,本研究では単一の場面を想定させる方法をとったため,場面の特徴に影響された可能性は否定できない。例えば,場面によって制御の容易性が異なり,それが結果に影響した可能性がある。本結果が各感情の普遍的な特徴をとらえているのか,想定場面に固有のものであるのかについて,さらなる検討が必要である。個人内感情制御のメタ分析では感情強度による方略使用の差異が見いだされており(Matthews et al., 2021),本研究でも認知された感情強度が結果に影響した可能性も考えられる。また,対人感情制御方略は,状況や個人によっても変わることが指摘されている(Tanna & MacCann, 2023)。例えば,喜びは上方制御されやすいと考察したが,過度なポジティブ感情の表出が望ましくない文脈で下方制御されることもあり得る。今後,社会的文脈や個人差についても検討することが望まれる。

総合考察

本研究では,即時的対人感情制御方略およびその際の非言語行動の内容や構造と,両者の関連について探索的に検討した。その結果,2つの研究で共通の即時的対人感情制御方略と非言語行動が見いだされた。即時的対人感情制御方略のうち,「認知的サポート」と「社会情動的サポート」は高い平均値を示し,相互作用時の対人感情制御を扱った研究(Pauw et al., 2019; Swerdlow & Johnson, 2022)とも共通であることから,重要な方略であると考えられる。プロセスモデル(Gross, 1998)から解釈すると,「注意の方向づけ」は注意配分,「認知的サポート」は認知的変化,「チアアップ」や「感情の増強」は反応調整段階の方略に該当すると思われる。反応調整段階に2つの因子が見いだされたことは,他者の感情反応が手がかりとなって始発する対人感情制御の特徴であろう。反応調整段階の代表的な方略として,個人内感情制御では「抑制」があげられるが,本研究では独立した因子として見いだされなかった。対人感情制御においては他者の表出を単に抑え込むようなアプローチは取られにくいのかもしれない。一方,「社会情動的サポート」や「敵意・否認」はプロセスモデルに当てはめることが難しく,対人感情制御特有の方略であると思われる。「敵意・否認」はNiven et al.(2011)の指摘する感情悪化的な制御動機によるものと思われる。「敵意・否認」は,単に制御不全な方略かもしれないし,目標を達成するための道具的な方略であるかもしれない。今後,各方略の効果の検討が必要である。

即時的対人感情制御方略と非言語行動との関連については一対一対応ではなく,各方略が多様な非言語行動を伴い表出されることが考えられる。ただし,研究1と2ともに「認知的サポート」,「チアアップ」,「社会情動的サポート」は「受容」と,「敵意・否認」は「拒否・回避」と,「感情の増強」は「強調」と中程度以上の正の相関を示し,方略の意図と関連の強い非言語行動は特に表出されやすいことが推察される。しかしながら,本結果が自己報告式の調査に基づく点は注意が必要である。特に,非言語行動を質問項目により測定したことから,制御者が自覚しうる行動しか扱えていないと言える。非言語行動は無意図的に表出される場合もあり,それが対人感情制御に寄与する可能性も考えられる。意図的な非言語行動は方略の影響を受けて調整されやすいが,無意図的な非言語行動は方略と並列的に生起するかもしれない。また,Koole & Veenstra(2015)は,対人感情制御は必ずしも意図を必要とせず,環境との相互作用によって生起すると主張している。そして,二者間のしぐさ,姿勢,発話速度の同期といった対人シンクロニーが,受け手の適応的な感情制御を促進することを示唆している(Koole & Tschacher, 2016)。今後はコミュニケーションを伴う実験中の非言語行動を観察し,質問項目で測定した非言語行動と実際の行動との関連を検討することが重要であろう。

利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

助成

本研究は,JSPS科研費21K02972の助成を受け実施した。

電子付録

教示文や記述統計等についてはJ-STAGEの電子付録に記載した。

1

Zaki & Williams(2013)は,自身の感情を制御するために他者と交流を持つことを内的対人感情制御,他者の感情を制御することを外的対人感情制御と分類している。この分類に基づくと,本研究の対象は外的対人感情制御と言える。本文内において,対人感情制御は外的対人感情制御を指す。

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