Article ID: 96.24008
This study examines the effects of mental contrasting on creativity among Japanese participants. Specifically, it tests the hypothesis that mental contrasting promotes creative performance in Japanese individuals when they receive negative feedback, reducing the likelihood of goal attainment. Additionally, it explores whether cognitive flexibility and cognitive persistence mediate this mechanism. Participants were adults (N = 432, age range 18-60). The Unusual Uses Task was used to assess their creativity. Results supported the hypothesis that mental contrasting positively affects creativity in Japanese participants facing difficulties achieving goals. Furthermore, results suggested that cognitive flexibility and cognitive persistence mediate the process by which mental contrasting enhances creative performance. The study discusses the potential of mental contrasting as a novel and effective strategy for improving creativity, distinct from traditional creativity training methods.
創造性は人間の心の神秘的で複雑な現象である(Zhang et al., 2020)。その定義は研究者によって多少異なるが,特定の状況や問題に対するアイデアや洞察,解決策を生み出す上で「新奇(novel)」かつ「有用(useful)」であるという点では,研究者の間で一致している(Runco & Jaeger, 2012)。創造性によって人は問題を効果的に解決し(Hélie & Sun, 2010),日常生活における変化(COVID-19による危機など)に対処し(Tang et al., 2021),人間関係を改善し(Liu et al., 2022),自らの幸福を促進することができる(Acar et al., 2021)。
人々の創造的パフォーマンスを高めることに成功した創造性トレーニングはいくつかある(Puccio et al., 2020)。これらの多くは,創造性の問題で要求される問題解決スキルを教えるものである(Barbot et al., 2016; Vries & Lubart, 2019)。本研究では,そのような創造性トレーニングではなく,心的対比という自己調整方略を用いることによって創造性が高まるのかどうかを検討した。
心的対比とは空想実現モデル(model of fantasy realization; Oettingen, 2000, 2012)では,目標を追求する際の自己調整方略として,単に望む未来を想像する「空想(indulging)」,望む未来を阻む障害を想像する「反芻(dwelling)」,そして,望む未来とそれを阻む障害を想像させることで両者を対比させる「心的対比(mental contrasting)」の3つのモードを仮定している。
先行研究では,目標が達成できた場合のポジティブな結果を想像させる「空想群」,目標達成の障害となる要因を想像させる「反芻群」,そして,目標が達成されることで生じるポジティブな結果を想像させた後で,その目標を達成することを妨害する要因を想像させる「心的対比群」を設定し,これら3つの自己調整方略が目標追求に及ぼす影響について検討が行われている。その結果,心的対比を用いることで,目標の達成可能性が高い場合には目標の追求を促進し,目標の達成可能性が低い場合には目標の追求を抑制することが示されている(Oettingen, 2000; Oettingen et al., 2001; Oettingen, Mayer et al., 2010; Oettingen, Stephens et al., 2010)。一方で,単に望む未来を想像する「空想」や障害のみを想像する「反芻」では,目標の達成可能性が目標追求を導くことはないことも併せて報告されている。
心的対比と創造性心的対比は,学業,対人関係,健康などさまざまな領域における目標追求を促進する(レビューとしてOettingen, 2012)。また,研究の数は限られるが,心的対比の使用によって創造性が向上する可能性が示されている。Oettingen et al.(2012)は,ポジティブなフィードバックを受けた(目標の達成可能性を高める操作を行った)際に,「心的対比」を用いた参加者は,単にポジティブな未来を想像した「空想」や障害のみを考えた「反芻」の参加者よりも,創造的パフォーマンスが高いことを示している。これは,創造性向上において,目標の達成可能性を高めることだけでは十分ではなく,そこに,望む未来とそれを阻む障害を想像させる心的対比が重要になってくることを示している。では,なぜ,心的対比を用いると創造性が向上するのであろうか。
創造性の2過程モデル(dual pathway to creativity model)では,創造性につながる2つの認知経路があると仮定している(De Dreu et al., 2008)。1つ目の経路は,カテゴリーをまたぐ多様な概念の情報処理を一度に行う認知的柔軟性で,もう1つの経路は,少数の概念に対して深い情報処理を持続的に行う認知的持続性である。どちらの認知経路も創造的な成果をもたらすが(Chermahini & Hommel, 2010; De Dreu et al., 2008; Nijstad et al., 2010; Sagiv et al., 2010; Zhang et al., 2020),心的対比は,創造性の2つの認知経路に影響を及ぼす可能性が考えられる。
既に述べた通り,心的対比は目標追求のコミットメントを強める。たとえば,達成可能性が高い目標の心的対比は,努力の程度を促進させることが示されている(Oettingen et al., 2001)。創造性は,個人が認知資源を投入し,目の前のタスクに粘り強く取り組む認知的持続性から生じる(De Dreu et al., 2008; Nijstad et al., 2010)ため,心的対比によって,認知的持続性が活性化されることによって,創造性につながることが考えられる。
また,達成可能性が高い目標の心的対比は,目標指向的な環境の再解釈(Kappes et al., 2012),一般的でない手段の使用(Oettingen, Stephens et al., 2010),対人関係における効果的な和解(Schrage et al., 2019),交渉における統合的な解決策(Kirk et al., 2011)を促進させることが示されている。創造性は広い視野で物事を捉えることが要求される認知的柔軟性によってもたらされるが(Förster & Dannenberg, 2010; Zhang et al., 2020),心的対比を用いることで,認知的柔軟性が活性化され,創造性につながることが考えられる。
このように,心的対比は,創造性の2つの過程に影響を及ぼすことによって,創造性を高めることにつながるものと考えられる。
先行研究の課題Oettingen et al.(2012)は,心的対比を行うことで創造性が向上することを示した点で非常に興味深いが,課題も残されている。まず,課題の1点目として,文化差の問題が挙げられる。Oettingen et al.(2012)の結果がそのまま日本人においても当てはまるのかについては疑問が残る。たとえば,Toyama et al.(2024)は,欧米人が「困難な状態は,その目標を放棄して他の目標を追求すべきことを意味する」という信念を持つのに対して,日本の文化的背景を持つ人々は,「困難な状態は,諦めることを意味するわけではない」という信念を持っていることを示したうえで,日本人においては,欧米人で確認されている目標の達成可能性が高い簡単な目標ではなくて,目標の達成可能性が低い困難な目標において,心的対比によるポジティブな効果が見られることを示している。この知見を踏まえると,日本人においては,Oettingen et al.(2012)で示されているポジティブなフィードバックではなくて,ネガティブなフィードバックを受けたときに,心的対比の方略が有効になる可能性が考えられる。
課題の2点目は,Oettingen et al.(2012)で用いられている創造性課題が,収束的思考を測定するものであるという点である。Oettingen et al.(2012)では,収束的思考を測定するために,3組の洞察課題(言語的問題,数学的問題,空間的問題)を使用している(問題例:「4つの囲いに27匹の動物を入れて,それぞれの囲いに奇数の動物が入る方法を説明しなさい」)。創造的な問題解決には,古くから,新しいアイデアを多く生み出す拡散的思考と,アイデアを統合したり,現在持っている情報から1つの解を導き出したりする収束的思考の2つがあると想定されている(Guilford, 1967; Runco, 2010; Zhang et al., 2020)。しかし,拡散的思考と収束的思考は,必ずしも関連していないことが示されている。Guilford(1967)は,収束的思考が従来の知能にほぼ該当するのに対して,拡散的思考こそが創造性を支える認知的な働きであると捉えている。このように,収束的思考よりも拡散的思考が創造性をより反映し,創造的な達成の優れた予測因であること(Kim, 2011)に鑑みると,心的対比を用いることで拡散的思考が促進されるのかを検討する必要があるだろう。
課題の3点目としては,Oettingen et al.(2012)では,心的対比を用いることで創造性が高まることを示したが,そのメカニズムが検討されていないことである。心的対比を行うことによって創造性が高まるメカニズムとして,先に創造性の2つの認知経路として,認知的柔軟性と認知的持続性を挙げたが,それらは今の段階では実証されていない。今後は,心的対比が創造性につながるメカニズムの検討が望まれる。
本研究の目的と意義以上の課題を踏まえ,本研究では,日本人を対象にして,心的対比が創造性に及ぼす影響について検討することを目的とする。具体的には,日本人においては,ポジティブなフィードバックを受ける(目標の達成可能性を高める操作を行う)場合ではなくて,ネガティブなフィードバックを受ける(目標の達成可能性を低める操作を行う)場合に,心的対比を用いることで創造的パフォーマンスが向上するという仮説を検証することにした。また,そのメカニズムとして,認知的柔軟性と認知的持続性が媒介すると予想した。
創造性を測定する課題としては,先の議論を踏まえ,拡散的思考を測定する課題であるUnusual Uses Task(以下,UUTとする; Guilford, 1967)を用いることにした。UUTでは創造性を,流暢性(次々と数多くのアイデアを生み出せること),柔軟性(すでに確立された方法や既存の思考にとらわれずに考えることができるといったアイデアの多様さや柔軟さ),独創性(アイデアの非凡さや稀さ)の3つの側面から捉えることが多い(Baas et al., 2015; De Dreu et al., 2008)。UUTは創造性を評価するために長年使用されており,創造的な達成の良い予測因であることが示されている(Runco, 2008)。認知的持続性による経路においては,創造的な解決策を生み出すために比較的多くの時間を必要とするため(Acar & Runco, 2014; De Dreu et al., 2008),Taylor & Barbot(2024)は,認知的持続性は課題に費やした時間で運用できることを示している。そこで本研究では,認知的持続性の指標として創造性課題に取り組んだ時間を用いることにした。また,認知的柔軟性においては,自己報告による質問紙を用いることにした。
創造性は,21世紀の成功に必要なスキルのトップ10に選ばれている(Lohiser & Puccio, 2020)。人工知能の台頭が目まぐるしい現代においては,創造性の育成がますます重要になってくるため(Daker et al., 2020),これまでの創造性トレーニングとは異なる観点から創造性を高めることができる方略を提案することができたならば大きな意義があると考えられる。
Web上でQualtrics(https://www.qualtrics.com/jp/)による調査フォームを用いて実験を実施した。適切なサンプルサイズを設定するため,G*Power(Faul et al., 2007)を用いて事前に検出力分析を行った。その結果,検出力0.80(α=0.05)の場合,小さな効果量(f=0.15)を検出するには,432名の参加者が必要であることが示された。データ除外後のより信頼できる目標数を達成するために,600名の参加者を募集した。
実験参加者は,株式会社クラウドワークスに登録している18―60歳の成人600名であった。本研究のデータ除外基準(電子付録のTable S1参照)に従い,計168名を除外し,432名(女性225名,男性203名,その他4名,Mage=40.81歳,SDage=8.92)を分析対象者とした。実験への参加報酬は100円であった。
実験手続き実験手続き全体の流れを,電子付録Figure S1に示した。
参加者には,「創造性とは,新しく,独創的で,生産的なアイデアを思いつく能力のことである。近年,創造性の重要性が指摘されている。創造性は将来の社会的地位や成功を予測することができる」と説明した上で,「これから創造性テストを実施する」と教示した。
後述するフィードバック(以下,FBとする)の操作を行った。その後,注意力チェックを行い,「創造性テストの成績が,一般成人の平均以上のサンプルを集めているため,平均以上の成績をとることを目標とすること」と目標を提示した。その際,「平均以上に入れば,謝礼を支払うこと」を教示した(実際は,全員に謝礼を支払った)。その後,FBの操作チェックとして「創造性テストにおいて,平均以上の成績をとることができると思う」,「創造性テストにおいて平均以上の成績をとることは,自分にとって容易である」,「創造性テストにおいて,平均以上の成績をとることは難しい」(逆転項目)の3項目(7段階評定)と,目標達成の重要性として「創造性テストの成績が平均以上をとることは,自分にとって重要なことである」の1項目(7段階評定)に回答してもらった。
続いて,下記に示す目標追求の自己調整方略の操作を行い,創造性課題を実施した。最後に,「認知的柔軟性」の質問項目に回答してもらい実験を終了した。
なお,研究の実施にあたっては,著者が所属する筑波大学人間系研究倫理委員会の承認を得た(課題番号:筑 2022-194A)。
FBの操作Oettingen(2012)とSevincer et al.(2023)に従い,創造的人格尺度(Creative Personality Scale; Gough, 1979)から抜粋した15の形容詞(「創意に富む」,「洞察力に富む」など)をコンピュータ画面上に1つずつ提示し,それらが自分を表しているかどうかを5段階で評価してもらった。その後参加者には,「ここでの回答は,参加者の創造的な潜在能力を反映しており,この得点がこれから行われる創造性テストの成績を予測する」と教示した。
創造的人格尺度に回答した後,「得点を計算中である」という表示が画面上に15秒間提示されたのちに,次ページに遷移し,FBを行った。ポジティブFB群に割り当てられた参加者(n=218)には,「31点満点中,あなたの点数は25点でした。あなたの創造力は集団の上位20%に入っており,一般成人の平均より優れている」と教示し,ネガティブFB群に割り当てられた参加者(n=214)には,「31点満点中,あなたの点数は5点でした。あなたの創造力は集団の下位20%に入っており,一般成人の平均より劣っている」と教示した。
その後,次のページに遷移し,注意力チェックとして,「あなたの点数は何点でしたか」について自由記述で回答を求め,「あなたの点数は,集団のどの位置にいましたか」について,「上位20%」,「上位40%」,「下位20%」,「下位40%」の選択肢から,「あなたの創造力はどうでしたか」について「平均より優れている」,「平均的である」,「平均より劣っている」の選択肢から1つ選んでもらった。3問のうちの1問でも誤答した参加者を,注意力チェックに失敗したとみなした。
目標追求の自己調整方略の操作参加者を,空想群(n=137),反芻群(n=137),そして,心的対比群(n=158)のいずれかに無作為に割り当てた。目標(一般成人の平均以上の成績をとること)を提示した後で,Sevincer et al.(2023)に従い,各群においてTable 1に示した質問内容を想像し,できるだけ具体的にその内容を入力するように求めた(各問2分以上)。用いた教示文を,電子付録Figure S2に示した。
目標追求の自己調整方略の操作
1問目 | 2問目 | |
---|---|---|
空想群 | 目標を達成したことで得られる最良の結果について挙げる。 | 目標を達成したことで得られる2番目に良い結果について挙げる。 |
反芻群 | 目標達成を妨げる自分の中の最も重要な障害について挙げる。 | 目標達成を妨げる自分の中の障害として,2番目に重要なものについて挙げる。 |
心的対比群 | 目標を達成したことで得られる最良の結果について挙げる。 | 目標達成を妨げる自分の中の最も重要な障害について挙げる。 |
日常で用いている「モノ」(本研究では「缶詰の空き缶」)の通常とは異なる使い方をできるだけ多く自由記述させるUUT(Guilford, 1967)を使用した。教示文は「『缶詰の空き缶』の通常とは異なる使い方をできるだけ多く挙げてください。『創造的な』アイデアをできるだけ多く挙げてください」であった。制限時間は設けず,創造性課題に取り組んだ時間を計測した。
創造的パフォーマンスは,Guilford(1967)やFriedman & Förster(2005)に従い,以下の流暢性,柔軟性,独創性の3つの観点から採点した。
流暢性は,回答の数とした。柔軟性は,回答のカテゴリーの数とした。著者とは異なる2名の評定者(ともに経験豊富な評定者)が,すべての回答を確認したうえで,「容器」,「家具」,「道具」,「遊び」,「楽器」,「工作」,「装飾品」,「その他」の8つのカテゴリーを作成し,各参加者の回答がいくつのカテゴリーに属しているかを数えた。2名の評定者の一致率(級内相関係数(ICC)は,.79,95%CI[.62, .87]と高かったため,2名の評定者の平均値を用いた。
独創性は,2つの観点(希少平均,他者評定)から得点化した。まず,アイデアの非凡さや稀さを示す希少平均は,「1-(同じアイデアを創出した人数/全体の人数)」という式で算出した。希少平均は,創造性の定義である「新奇性」を捉えることはできるが,「有用性」を捉えることはできない(「新奇性」だけでは,突飛で常軌を逸したアイデアも独創性が高いと評価される)。そのため,本研究では2名の評定者が,各回答に対して「1. 全く創造的でない」から「5. 非常に創造的である」)の5段階で評定する方法を用いた。2名の評価者の一致率(ICC)は,.78,95%CI[.63, .86]と高い値を示したため,回答ごとに2名の評定者の平均値を用い,実験参加者ごとのすべての回答の平均値を算出した。
なお,2名の評定者には参加者がいずれの群に割り当てられたのかが知らされないように,盲検化されていた。
質問紙(認知的柔軟性)認知的柔軟性の方略を測定する「メタ柔軟性」尺度(外山,2024)を用いた。教示文は「あなたは,問題を解いていた時に,以下のことを意識的に実行しましたか」で,「多角的な視点で考える」,「広い視野で考える」,「発想の転換をする」,「視点を変えて考える」,「思い込みや固定観念を疑ってみる」の5項目に7段階評定で回答させた(M=4.56, SD=1.04, α=.88)。
FBの操作チェック項目(3項目のα=.84)において,ポジティブFB群とネガティブFB群で差が見られるのかどうかを確認した。その結果,群間で差が見られ(t (430) =9.00, p<.001, d=0.87),ポジティブFB群(M=4.58, SD=1.90)がネガティブFB群(M=3.15, SD=1.31)よりも得点が有意に高かった。よって,本研究におけるFBの操作は成功したと判断した。
目標達成の重要性の平均値(SD)は5.16(1.57)であった。理論的中央値(=4.00)との差は有意であり(t (431) =15.40, p<.001, r=.60),本研究で設定した目標が参加者にとって重要性の高い目標であることが示された。
創造的パフォーマンスの4つの指標間における相関係数創造的パフォーマンスの4つの指標(流暢性,柔軟性,独創性(希少平均),独創性(他者評定))間の相関係数を算出したところ,.20―.42(ps<.01)であった。
自己調整方略とFBが創造的パフォーマンスに及ぼす影響自己調整方略(以下,方略とする)とFBが創造的パフォーマンスに及ぼす影響を検討するために,方略(空想,反芻,心的対比)とFB(ポジティブ,ネガティブ)を独立変数,4つの創造的パフォーマンスの指標を従属変数とする2要因共分散分析を行った。その際,結果のパターンが目標達成の重要性の変動によるものではないことを確証するため(Oettingen et al., 2001),先行研究に準拠し,目標達成の重要性を共変量として投入した。
流暢性 流暢性の結果をFigure 1に示した。方略の主効果(F (2, 425) =27.73, p<.001, ηp2=.12)と交互作用(F (2, 425) =7.89, p<.001, ηp2=.04)が有意となり,FBの主効果(F (1, 425) =0.20, p=.653, ηp2<.001)は有意とならなかった。単純主効果検定を行った結果,方略の単純主効果は,ポジティブFB群(F (2, 425) =3.03, p=.049, ηp2=.03),ネガティブFB群(F (2, 425) =32.78, p<.001, ηp2=.24)いずれも有意であった。ポジティブFBを受けた際には,心的対比群(M=9.60, SD=5.26)が反芻群(M=7.58, SD=5.16)よりも流暢性得点が高かった。ネガティブFBを受けた際には,心的対比群(M=12.09, SD=5.46),空想群(M=8.70, SD=4.96),反芻群(M=5.65, SD=2.63)の順に流暢性得点が高かった。
方略とFBが流暢性に及ぼす影響
注)共変量として,目標達成の重要性を投入した。エラーバーは標準誤差を示す。
柔軟性 柔軟性の結果をFigure 2に示した。交互作用(F (2, 425) =5.53, p=.004, ηp2=.03)が有意となり,方略(F (2, 425) =2.86, p=.058, ηp2=.01)とFB(F (1, 425) =0.19, p=.666, ηp2<.001)の主効果は有意とならなかった。方略の単純主効果は,ネガティブFB群で有意となり(F (2, 425) =7.91, p<.001, ηp2=.07),心的対比群(M=5.55, SD=2.49)が空想群(M=4.06, SD=1.77)ならびに反芻群(M=4.69, SD=2.27)よりも柔軟性得点が高かった。ポジティブFB群では有意とならなかった(F (2, 425) =0.40, p=.673, ηp2=.004)。
方略とFBが柔軟性に及ぼす影響
注)共変量として,目標達成の重要性を投入した。エラーバーは標準誤差を示す。
独創性(希少平均) 独創性(希少平均)の結果をFigure 3に示した。交互作用(F (2, 425) =3.62, p=.028, ηp2=.02)が有意となり,方略(F (2, 425) =2.01, p=.136, ηp2=.01)とFB(F (1, 425) =1.97, p=.161, ηp2=.01)の主効果は有意とならなかった。方略の単純主効果は,ネガティブFB群で有意となり(F (2, 425) =3.92, p=.021, ηp2=.04),心的対比群(M=0.90, SD=0.07)が空想群(M=0.86, SD=0.08)よりも独創性(希少平均)得点が高かった。ポジティブFB群では有意とならなかった(F (2, 425) =1.69, p=.186, ηp2=.02)。
方略とFBが独創性(希少平均)に及ぼす影響
注)共変量として,目標達成の重要性を投入した。エラーバーは標準誤差を示す。
独創性(他者評定) 独創性(他者評定)の結果をFigure 4に示した。方略の主効果(F (2, 425) =4.27, p=.015, ηp2=.02)と交互作用(F (2, 425) =3.05, p=.048, ηp2=.01)が有意となり,FBの主効果(F (1, 425) =0.66, p=.416, ηp2=.002)は有意とならなかった。方略の単純主効果は,ネガティブFB群で有意となり(F (2, 425) =7.21, p=.001, ηp2=.07),心的対比群(M=2.73, SD=0.34)が空想群(M=2.52, SD=0.34)ならびに反芻群(M=2.54, SD=0.38)よりも独創性(他者評定)得点が高かった。ポジティブFB群では有意とならなかった(F (2, 425) =0.11, p=.898, ηp2=.001)。
方略とFBが独創性(他者評定)に及ぼす影響
注)共変量として,目標達成の重要性を投入した。エラーバーは標準誤差を示す。
認知的持続性 取り組み時間の平均値(SD)は304.225(228.59)秒であった。Kolmogorov-Smirnovの正規性の検定を行ったところ正規性が満たされていなかった(p<.001)ので対数変換したところ,正規性が満たされた(p=.189)。上記と同様の2要因共分散分析を行った結果,方略の主効果が有意となり(F (2, 425) =9.55, p<.001, ηp2=.04)。FBの主効果(F (1, 425) =0.28, p=.600, ηp2=.001)は有意とならなかった。交互作用も有意とならなかったが(F (2, 425) =2.60, p=.076, ηp2=.01),仮説検証のために下位検定を実施した。その結果,方略の単純主効果は,ネガティブFB群で有意となり(F (2, 425) =11.09, p<.001, ηp2=.10),心的対比群(M=2.49, SD=0.32)が空想群(M=2.32, SD=0.31)ならびに反芻群(M=2.32, SD=0.31)よりも取り組み時間が長かった。ポジティブFB群では有意とならなかった(F (2, 425) =1.13, p=.325, ηp2=.01)。
認知的柔軟性 方略の主効果(F (2, 425) =6.86, p=.001, ηp2=.03)と交互作用(F (2, 425) =4.51, p=.012, ηp2=.02)が有意となり,FBの主効果(F (1, 425) =1.30, p=.255, ηp2=.003)は有意とならなかった。方略の単純主効果は,ポジティブFB群(F (2, 425) =4.45, p=.012, ηp2=.04),ネガティブFB群(F (2, 425) =6.92, p=.001, ηp2=.06)いずれも有意であった。ポジティブFBを受けた際には,心的対比群(M=4.63, SD=1.10)と空想群(M=4.64, SD=0.99)が反芻群(M=4.19, SD=1.05)よりも認知的柔軟性の得点が高かった。ネガティブFBを受けた際には,心的対比群(M=4.94, SD=1.07)が空想群(M=4.33, SD=0.94)ならびに反芻群(M=4.52, SD=0.92)よりも認知的柔軟性の得点が高かった。
媒介効果 以上の結果より,ネガティブなFBを受けた際に,心的対比の効果が見られることが示された。そこで,ネガティブFB群において,心的対比が認知的柔軟性ならびに認知的持続性を媒介して創造的パフォーマンスに影響を及ぼすのかを検討するために,媒介分析を実施した1。分析の際には,共変量として目標達成の重要性を投入した。
その結果,媒介変数を投入する前の心的対比から創造的パフォーマンスの偏回帰係数は,媒介変数を投入することで減衰した(Figure 5)。そこで,間接効果の検証として,標本数5,000によるブートストラップ法(Preacher & Hayes, 2008)を用い,95%バイアス修正ブートストラップ信頼区間を算出した。その結果,創造的パフォーマンスの流暢性に対する心的対比の効果を,認知的柔軟性と認知的持続性が媒介することが示された(認知的柔軟性:間接効果=.80,SE=0.26,バイアス補正95% CI(95%CI)[0.35, 1.36];認知的持続性:間接効果=1.22, SE=0.31, 95%CI[0.65, 1.87])。創造的パフォーマンスの柔軟性,独創性(希少平均),独創性(他者評定)に対する心的対比の効果においては,認知的持続性は媒介しないが,認知的柔軟性が媒介することが示された(柔軟性:間接効果=.35, SE=0.16, 95%CI[.10, .73];独創性(希少平均):間接効果=.014, SE=0.004, 95%CI[.004, .019];独創性(他者評価):間接効果=.06, SE=.02, 95%CI[.02, .12])。
心的対比と創造性パフォーマンスの関連における認知的柔軟性と認知的持続性の媒介効果(ネガティブFB群)
注)心的対比は,心的対比群を「1」,空想群と反芻群を「0」とした。数値は上より,流暢性,柔軟性,独創性(希少平均),独創性(他者評定)の結果である。数値は非標準化係数である。
***p<.001, **p<.01, *p<.05.
本研究より,日本人においては,Oettingen et al.(2012)で示されているポジティブなFBではなくてネガティブなFBを受ける場合に,心的対比を用いることで創造的パフォーマンスが向上することが示された。Toyama et al.(2024)は,困難を経験することが必ずしも目標をあきらめて他の目標を追求することを意味しないと考える傾向がある日本の文化的背景において,心的対比の使用が困難な目標の追求を促すことを示したが,本研究はその知見を強化する形となった。
欧米人にとってはポジティブな自己を維持することが重要であるため(Kim et al., 2008),達成可能であると信じるかどうかに基づいて目標を追求するか放棄するかを精査する方略として,心的対比が機能する(Oettingen & Sevincer, 2018; Sevincer & Oettingen, 2020)。心的対比によって達成可能性が低い目標を手放すことは,ポジティブな自己を維持したいという欧米人の欲求を満たす。一方で,東アジアの文化的背景を持つ人々は,自分のネガティブな特性や改善可能な側面に選択的に焦点を当てるように社会化されている(Heine et al., 2000)。さらに,自己のネガティブな側面や改善可能な側面が強調されると,それを修正するために努力をする(Heine et al., 2000, 2001; Lin et al., 2022)。日本人は心的対比を,目標を追求するか放棄するかを決定する方略としてではなく,困難な目標に取り組むための問題解決方略として用いていると考えられる。
心的対比は,学業,対人関係,健康などさまざまな領域における目標追求を促進することが示されているが,本研究では,心的対比を用いることで創造性の代表である拡散的思考をも向上させることが示された。また,そのメカニズムとして,認知的柔軟性と認知的持続性が媒介することが示された。心的対比は,創造性の2つの過程に影響を及ぼすことによって,創造性の向上につながるものと考えられる。
ところで,心的対比を用いることで創造的パフォーマンスが向上するメカニズムにおいて認知的持続性が媒介するのは,流暢性のみであった。取り組み時間が長いほど,アイデアの量が増える,すなわち流暢性が向上することは様々な研究で一貫して示されているが,アイデアの質(独創性)については近年議論になっている(Gonthier & Besançon, 2024)。創造性研究においては,後に出したアイデアのほうが前に出したアイデアよりも独創性が高いことが示されており,これは「系列順序効果(serial order effect)」と呼ばれている。拡散的思考課題におけるこの系列順序効果は,現代の創造性研究で最も古く,最も強固な知見の1つ(Beaty & Silvia, 2012)とされ,多くの研究で証明されている(Bai et al., 2021; Beaty & Silvia, 2012; Cheng et al., 2016; Hass, 2017; Milgram & Rabkin, 1980; Wang et al., 2017)。この知見に従うならば,取り組み時間が長くなればなるほど独創性が向上することになるが,系列順序効果の解釈は,予想されたほど単純ではない(Gonthier & Besançon, 2024)。たとえば,Gonthier & Besançon(2024)は,流暢性の低い(少ないアイデアを生み出した)参加者の各アイデアの独創性は,流暢性の高い(多くのアイデアを生み出した)参加者の最終的なアイデアと同等かそれ以上であったことを示している。この結果は,独創的なアイデアにおける時間と努力の役割に疑問を投げかけている。本研究においても,認知的持続性(取り組み時間)によって創造的パフォーマンスが向上するのは流暢性のみで,柔軟性や独創性には影響を及ぼさなかった。取り組み時間と創造性の質(柔軟性,独創性)の関連や,アイデアの量と質の相互作用的な関係については,今後詳細に検討していくことが望まれる。
また,本研究で用いた拡散的思考課題(UUT)でのパフォーマンスは創造性と同型ではないが(Runco, 2008),創造的達成の良い予測因と考えられている(Kim, 2011)。今後は,日常的な創造的活動においても心的対比の使用が有効であるかについて検討する必要があるだろう。
さらに,本研究で設定した6群(方略×FB)間で,年齢や性別,実験の操作前に測定した創造性人格尺度得点に差は見られず(電子付録Appendix S1参照),群間の均衡化がある程度確認されたものの,今後は,心的対比の操作の前にも創造性を測定し,操作によって創造性が向上するのかどうかを厳密に検証する必要がある。
従来の創造性トレーニングは,創造性課題で必要とされる創造的思考スキルを直接教えるものが多い(Barbot et al., 2016; Vries & Lubart, 2019)。本研究において,心的対比を用いることで創造性を高めることを実証したことは,新たな方法で創造性を育成するための提言につながる可能性がある。創造性とはいわば,想像上の考えを現実に変えることであり,心的イメージのシミュレーションである(Giannopulu et al., 2022)。望む未来を想像し,ネガティブな内容を含め,起こりうる様々な可能性について未来をシミュレートする心的対比は,創造性を向上させる重要な方略となりうるかもしれない。
本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。
本研究は,JSPS科研費JP23K02884の助成を受けて行われた。
本研究のデータ除外基準と該当延べ人数,実験手続き全体の流れ,目標追求の自己調整方略の操作に用いた教示文について,J-STAGEの電子付録に掲載した。
「心的対比→認知的柔軟性/認知的持続性」ならびに「心的対比→創造的パフォーマンス」において,FBが調整効果を果たしていることを確認した。また,ポジティブFB群においては,いずれの創造的パフォーマンスの指標においても「心的対比→認知的柔軟性/認知的持続性→創造的パフォーマンス」の間接効果が見られないことが示された。本研究では,ネガティブFBを受けた際に心的対比が創造的パフォーマンスにつながるメカニズムを検討することを目的としているため,調整媒介分析の結果は記載しない。また,ポジティブFB群において,「空想→認知的柔軟性/認知的持続性→創造的パフォーマンス」も確認したが,いずれの創造的パフォーマンスの指標においても間接効果は有意とならなかった。