The Japanese Journal of Psychology
Online ISSN : 1884-1082
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ISSN-L : 0021-5236
Examining construct validity about ambiguity scores that includes of bipolarity and coexistence of the Jungian psychological types
Junichi Sato
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Article ID: 96.24314

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Translated Abstract

This study examined the construct validity of ambiguity scores, including the bipolarity and coexistence between extraversion (E) and introversion (I), thinking (T) and feeling (F), and sensation (S) and intuition (N) using the Jung Psychological Types Scale for Coexistence (JPTS-C). Despite the bipolarity assumption, the JPTS-C uses two pairs of items, each scored on a 7-point Likert scale in a unipolar format-to measure the coexistence of between E and I, T and F, and S and N. The results were as follows. (a) Correlational patterns were found among the ambiguity scores for the three subscales on JPTS-C and the Two-Sided Personality Scale. (b) Ambiguity scores between E and I had a negative correlation with anxiety on attitudes toward ambiguity, and ambiguity scores between S and N had a positive correlation with enjoyment and reception on attitudes toward ambiguity, and a negative correlation with dichotomous belief, although ambiguity scores between T and F had a positive correlation with enjoyment and control on attitudes toward ambiguity. This suggests that construct validity about ambiguity scores for the three subscales on JPTS-C was confirmed and that each characteristic of ambiguity score was different for the three subscales.

Jungの「心理学的タイプ(Psychologische Typen: 以下,タイプ論とする)」(Jung, 1921 林訳 1987)によると,ある個人のタイプは,一般的態度(general attitude)と心的機能(psychological function)の二つの側面からなり,前者は「外向-内向(Extraversion-Introversion: 以下,E-Iとする)」から,後者は「思考-感情(Thinking-Feeling: 以下,T-Fとする)」および「感覚-直観(Sensation-Intuition: 以下,S-Nとする)」から構成され,それぞれが直交する構造を有する。外向(Extraversion: 以下,Eとする)と内向(Introversion: 以下,Iとする),思考(Thinking: 以下,Tとする)と感情(Feeling: 以下,Fとする),感覚(Sensation: 以下,Sとする)と直観(Intuition: 以下,Nとする)は互いに相反する性質をもち,EとIの間,TとFの間,SとNの間はそれぞれ対極性(bipolarity)をなす。これらの機能のうち,もっとも意識において分化しているものを優越機能,次に分化しているものを補助機能,逆に未分化で無意識的なものを劣等機能と呼ぶ。この場合,劣等機能は優越機能と相反する対極性が働きつつ,意識に対する無意識の補償作用が働いて,全体としてまとまりをもつとされている。

例えば,The Myers-Briggs Type Indicator Form M(以下,MBTI Form Mとする; Myers & Briggs, 1998)など,国内外の心理学的タイプの測定尺度のほとんどは,タイプ論の対極性に基づいているため,外向的と回答すれば自ずと内向的ではない評定となる1。佐藤(2005)は国内外のタイプ論の尺度を再検討した上で,Jungの心理学的タイプ測定尺度(Jung Psychological Types Scale: 以下,JPTSとする)を作成した。JPTSでは下位尺度得点を求めた後に心理学的タイプに類型化するため,回答形式は対極性の概念に基づいた多段階評定である(Figure 1)。

Figure 1

対極性に基づく回答形式(JPTS)

一方,タイプ論ではパーソナリティの発達過程が進むと,優越機能を頼りとし,補助機能を助けとしつつ,劣等機能は徐々に発達し,優越機能と相反しながらも共存するようになる(Jung, 1921 林訳 1987)。例えば,外向的でもあれば内向的でもあるといったように,両立しがたい一般的態度同士あるいは心的機能同士が高次のレベルで両立しうる(河合,1982, 1983; Meier, 1972 氏原訳 1993)。このような過程を個性化の過程と呼び,心理療法場面において人格発達の道筋として理解されている(Jung, 1921 林訳 1987; 河合,1983; Meier, 1972 氏原訳 1993)。そこで河合(1982)は,外向と内向,思考と感情,感覚と直観を両立しえないものとして測定するタイプ論の尺度に対して,両立しがたいものを両立させるこころの特徴に注目し,両立しうるものとして数量化を検討する意義について述べている。なお,河合(1983)はタイプ論で対極し合う概念を両立させることを「共存性(coexistence)」と呼んだが,佐藤(2022)ではそれを「対極性」と「共存性」に分けて捉え,タイプ論の概念が対極し合うことを「対極性」,共存し合うことを「共存性」,対極性と共存性を合わせて「両義性(ambiguity)」と呼んだ。EI間の両義性とはEI間が対極性をなしつつ同時に共存性をなすこと,TF間の両義性とはTF間が対極性をなしつつ同時に共存性をなすこと,SN間の両義性とはSN間が対極性をなしつつ同時に共存性をなすことを意味する。こうしたタイプ論の両義性は,一個人において横断的に発達する可能性があると考えられている。

一方,両義性の概念の測定については,従来のリッカート法を代表とする評定尺度法を用いると,一次元上の両極とみなされ,二律背反的に扱われてしまう限界があった(桑原,1991; 西村,2010)。その中でMordkoff(1963)はSD法の形容詞対を2つの単極尺度に変更してそれぞれを独立に評定することで,名義的に対極である形容詞対の中に機能的に共存しうるものがあることを見出した。これを受けて桑原(1991)は,自己イメージの対極的な側面を「パーソナリティの二面性」と呼び,対極性な側面から共存性を抽出する「人格の二面性尺度(Two-Sided Personality Scale-Ⅱ: 以下,TSPS-Ⅱとする)」を作成した。TSPS-ⅡではSD法の形容詞対をそれぞれ単一の尺度に変更し,回答者に対概念を意識させながら独立して評定させる。例えばTSPS-Ⅱでは「やさしい」にも「きびしい」にも当てはまる回答が可能となる。具体的には,対となる項目への独立した回答をa,bとした場合,|a ‒ b|が小さいことはaとbが同じ程度当てはまることなので,対概念の「共存しやすさ」を示すのに対し,|a + b|が大きいことはaとbが広く当てはまることなので,対概念の「幅広さ」を示す(桑原,1991)。

佐藤(2022)は,このTSPSの回答形式を参考にし,タイプ論の対極性と共存性を考慮に入れた上で,E,I,T, F,S,Nの概念を測るため,「共存性を考慮に入れた心理学的タイプ測定尺度(Jung Psychological Types Scale for Coexistence: 以下,JPTS-Cとする)」を作成した。JPTS-Cは,E,I,T,F,S,Nの各9項目,計54項目からなる。JPTS-Cの項目内容は,Jung派分析家2名による項目対の内容妥当性ならびに対極性の概念妥当性が確認されているJPTS(佐藤,2005)の項目対を用いた。JPTS-Cの回答形式については,TSPS-Ⅱのように対概念を保った項目(aとb)をそれぞれ独立して評定する(Figure 2)。

Figure 2

対極性と共存性に基づく回答形式(JPTS-C)

EI間の両義性指標(以下,K (EI) とする),TF間の両義性指標(以下,K (TF) とする),SN間の両義性指標(以下,K (SN) とする)は,それぞれEI間,TF間,SN間における対極性ならびに共存性の和を意味する。両義性指標の算出方法は,「態度の両価性(attitudinal ambivalence)」研究におけるKaplan(1972)のambivalence値を参考にした2。JPTS-Cの場合,対となる項目への回答をa,bとすると,各項目の両義性指標は |a + b| ‒ |a ‒ b| の式で表される。例えば,K (EI) はEI間のS+得点(Σ|a + b|)とS‒得点(Σ|a ‒ b|)を求めた後,|S (EI) + | ‒ |S (EI) ‒|の値を求める。この場合,K (EI) の値が高くなるほど,EI間の両義性が高いことを意味する。

佐藤(2022)は,JPTS-Cの各下位尺度の信頼性ならびに妥当性を検証したところ,(a)内的整合性についてはJPTS-Cの各下位尺度において確認されたこと,再検査信頼性係数についてはTとFを除くと許容範囲内にあること,(b)JPTS-Cの各下位尺度はJPTSとの併存的妥当性がおおむね確認されたこと,(c)JPTS-CのEI間に強い程度の負の相関,SN間に中程度の負の相関が示されたことから,EI間ならびにSN間で機能的対極性が認められたことが示された。また,一般的態度間ならびに各心的機能間の両義性と主観的適応感との関連を検討したところ,対極するEI間を共存させることは,個人と環境との適合感の良好さにつながることが示唆された。

しかし,対極し合う概念をどれだけ共存させうるかという,共存性を含めた両義性についてのJPTS-Cの構成概念妥当性は明らかではない。また,人格の二面性は従来の評定尺度法で扱えなかったパーソナリティの動的側面を捉えることから(桑原,1991; 西村,2010),同様の構造をもつタイプ論の両義性の特徴を明らかにすることは,パーソナリティの動的側面を捉えることにも繋がる。

そこで本研究は,一般的態度間ならびに各心的機能間における両義性の構成概念妥当性を,対極性と共存性の構造をもつ関連尺度から検討する。TSPS-Ⅱは,ポジティブ項目ならびにネガティブ項目ともに,各項目間が対概念として妥当であるかどうかの対立概念妥当性が検証され,各項目間の大半で負の相関関係が示されている(桑原,1991)。また,TSPS-Ⅱにおける形容詞対の「幅広さ」ならびに「共存しやすさ」は,JPTS-Cにおける対概念の「対極性」ならびに「共存性」に相当することから,形容詞対の「幅広さ」と「共存しやすさ」を合わせもつことを自己イメージの「両義性」と呼ぶこととし,JPTS-Cの両義性の構成概念妥当性を検討する関連尺度とする。なお,TSPS-Ⅱの両義性指標は,JPTS-Cと同様にKaplan(1972)のambivalence値を求める。JPTS-Cの両義性指標は,自己概念を対象としつつ同様の構造をもつ点から,TSPS-Ⅱの両義性指標と正の関係を示すと予測される。

また,タイプ論の両義性との収束的な概念として,曖昧さへの態度を取り上げる。西村(2007)は,曖昧さに接したときに主体に生じる多面的な評価や態度を「曖昧さへの態度」と呼び,曖昧さの享受や受容といった肯定的概念と,曖昧さへの不安や統制,排除といった否定的概念から,曖昧さへの態度を規定した。タイプ論の両義性は,対極し合うものを共存させる性質を有している点から,曖昧な状況を肯定的に認識すると考えられるため,曖昧さへの態度の享受や受容とは収束的証拠として正の関係を示し,曖昧さへの態度の不安,統制,排除とは収束的証拠として負の関係を示すと予測される。

さらに,タイプ論の両義性との収束的な概念として,二分法的思考を取り上げる。二分法的思考とは,世の中の複雑な事象を「白と黒」,「善と悪」,「勝者と敗者」のように中間を排した,二項対立的に捉えようとする思考のことである(Oshio, 2009; 小塩,2010)。タイプ論の両義性は,対極し合うものを共存させる性質を有している点から,二分法的な捉え方とは逆方向の意味をもつため,二分法的思考とは収束的証拠として負の関係を示すと予測される。

方法

調査内容

JPTS-C E,I,T,F,S,Nの各9項目,計54項目からなる。回答形式は対概念を保ったまま,EとI,TとF,SとNの項目と評定を左右に一つずつ配置する。「まったく当てはまる」から「まったく当てはまらない」までの単極型7件法で,得点化は7点から1点を与える。

TSPS-Ⅱ 人格内の対立的な二面性を表す形容詞対からなる尺度(桑原,1991)を用いた。望ましい意味をもつ語から構成された,ポジティブ側面を反映する30項目対と,望ましくない意味をもつ語から構成された,ネガティブ側面を反映する30項目対からなる。回答形式は対概念を保ったまま,互いの項目(aとb)を独立して評定する。得点化はそれぞれ7点から1点を与える。

曖昧さへの態度尺度 曖昧さへの態度を多側面から測定する尺度(西村,2007)を用いた。「曖昧さの享受」7項目,「曖昧さへの不安」6項目,「曖昧さの受容」5項目,「曖昧さの統制」5項目,「曖昧さの排除」3項目から構成される。「まったくあてはまらない(1点)」から「非常にあてはまる(6点)」までの6件法で回答を求める。

二分法的思考尺度 二項対立的に捉え,二律背反的に思考する尺度(小塩,2010)を用いた。「二分法の選好」5項目,「二分法的信念」5項目,「損得思考」5項目から構成される。「全く当てはまらない(1点)」から「非常によく当てはまる(6点)」までの6件法で回答を求める。

調査協力者

調査協力の負担を考慮し,調査を2回に分けて行った。1回目の調査は,JPTS-C,TSPS-Ⅱのポジティブ側面を反映する形容詞対,曖昧さへの態度尺度を関西圏の私立大学生231名(すべて女性,平均年齢19.6歳(SD=1.59))に実施した。調査時期は2023年5月から8月であった。2回目の調査は,JPTS-C,TSPS-Ⅱのネガティブ側面を反映する形容詞対,二分法的思考尺度を200名(すべて女性,平均年齢19.5歳(SD=1.94))に実施し,調査時期は2024年6月から9月であった。1回目の調査協力者と2回目の調査協力者の重複はない。

倫理的配慮

回答は無記名とし,調査協力は本人の自由意思に基づき,途中で離脱できることを紙面および口頭にて協力者に伝えた。調査の実施は1回目2回目とも,著者の所属先の武庫川女子大学心理・社会福祉学部心理学科研究倫理審査委員会にて承認された(承認番号:2023011ならびに2024022)。

結果

JPTS-C,TSPS-Ⅱ,曖昧さへの態度尺度,二分法的思考尺度の下位尺度ならびに両義性指標の平均値,標準偏差,α係数を求めた(Table 1)。JPTS-Cのα係数は.72 (S) ―.85 (E) を示した。TSPS-Ⅱのポジティブ側面ならびにネガティブ側面のα係数は.67(ネガティブ側面)―.74(ポジティブ側面)であった。曖昧さへの態度尺度のα係数は.67(曖昧さの統制)―.85(曖昧さの受容)を示した。二分法的思考のα係数は.69(損得思考)―.84(二分法的信念)を示した。

Table 1

JPTS-C,TSPS-Ⅱ,曖昧さへの態度,二分法的思考の下位尺度ならびに両義性指標得点の平均値,SD,α係数

尺度 平均値 SD α係数
an=231, bn=200
JPTS-C a
 E 32.71 10.15 .85
 I 46.37 7.72 .74
 T 36.95 8.37 .78
 F 49.74 6.85 .79
 S 40.39 7.28 .72
 N 39.66 9.50 .84
 K得点(EI) 56.07 13.40 .74
 K得点(TF) 70.33 13.94 .71
 K得点(SN) 63.45 11.49 .64
TSPS-Ⅱ
 合計(ポジティブ側面)a 130.33 13.40 .74
 合計(ネガティブ側面)b 125.92 14.05 .67
 K得点(ポジティブ側面)a 182.10 33.77 .82
 K得点(ネガティブ側面)b 188.66 36.00 .87
曖昧さへの態度尺度a
 曖昧さの享受 30.97 4.96 .81
 曖昧さへの不安 27.90 4.29 .73
 曖昧さの受容 19.52 4.59 .85
 曖昧さの統制 23.18 3.07 .67
 曖昧さの排除 11.63 3.08 .81
二分法的思考尺度b
 二分法の選好 17.55 4.40 .75
 二分法的信念 15.94 5.08 .84
 損得思考 21.67 4.04 .69
 合計 51.15 11.10 .88

また,JPTS-CのEI間,TF間,SN間の相関を求めたところ,EI間に強い程度の負の相関(r=‒.723, p<.001),SN間に中程度の負の相関(r=‒.416, p<.001)がみられたが,TF間は無相関(r=‒.117, ns)にとどまった。また,TSPS-Ⅱのポジティブ側面ならびにネガティブ側面の項目間における相関は,ともに中程度の負の相関(r=‒.438, r=‒.436; それぞれp<.001)がみられた。

そして,一般的態度間ならびに各心的機能間の両義性指標を比較するため,EI間,TF間,SN間における両義性指標得点について1要因3水準の分散分析を行ったところ,各群の主効果が認められた(F (2, 690) =52.87, p<.001)。下位検定の結果,TF間,SN間,EI間の順で両義性指標得点が有意に高かった。

次に,JPTS-Cの一般的態度間および各心的機能間の両義性指標得点とTSPS-Ⅱならびに曖昧さへの態度尺度,二分法的思考尺度との相関係数を求めた(Table 2)。JPTS-CとTSPS-Ⅱにおける両義性指標はambivalence値をK得点として求めた。まずJPTS-CのK得点間の相関係数を求めたところ,各K得点間で中程度の正の相関(r=.441―.495, それぞれp<.001)が認められた。また,JPTS-Cの両義性指標とTSPS-ⅡとのK得点との相関係数を求めたところ,JPTS-Cの各両義性指標は,TSPS-ⅡのK得点(ポジティブ側面)との間で中程度あるいは強い正の相関(r=.393―.575, それぞれp<.001),K得点(ネガティブ側面)との間で弱い正の相関(r=.154―.200, それぞれp=.004―.030)が認められた。そして,JPTS-Cの両義性指標と曖昧さへの態度尺度との相関係数を求めたところ,JPTS-CのK (EI) は曖昧さの不安との間で弱い負の相関(r=‒.225, p<.001),JPTS-CのK (TF) は曖昧さの享受ならびに統制との間で弱い正の相関(r=.205, p=.002; r=.155, p=.018),K (SN) は曖昧さの享受ならびに受容との間で弱い正の相関(r=.237, p<.001; r=.134, p=.041)が認められた。そして,JPTS-Cの両義性指標と二分法的思考尺度との相関係数を求めたところ,JPTS-CのK (SN) は二分法的信念との間で弱い負の相関(r=‒.158, p=.026)が認められた。

Table 2

JPTS-CとTSPS-Ⅱの両義性指標得点,曖昧さへの態度尺度,二分法的思考尺度の相関係数

尺度名 JPTS-C
K得点(EI) K得点(TF) K得点(SN)
a n=231, bn=200
**p<.01, *p<.05
JPTS-C
 K得点(TF) .448 **
 K得点(SN) .495 ** .441 **
TSPS-Ⅱ
 K得点(ポジティブ側面)a .486 ** .393 ** .575 **
 K得点(ネガティブ側面)b .199 ** .154 ** .200 **
曖昧さへの態度尺度 a
 曖昧さの享受 .068 .205 ** .237 **
 曖昧さへの不安 ‒.225 ** ‒.057 ‒.066
 曖昧さの受容 .054 ‒.075 .134 *
 曖昧さの統制 ‒.080 .155 * .026
 曖昧さの排除 ‒.112 ‒.117 ‒.089
二分法的思考尺度b
 二分法の選好 .115 ‒.037 ‒.001
 二分法的信念 ‒.014 .026 ‒.158 *
 損得思考 .038 .105 ‒.099
 合計 .053 .035 ‒.109

考察

第1に,JPTS-CのEI間,TF間,SN間における両義性指標が高いほど,TSPS-Ⅱの形容詞対間における両義性指標を高く示す相関パターンが認められた。これは,タイプ論における両義性が,対極性と共存性を含む両義的構造を有する点で自己イメージの両義性と共通することを意味している。これまでEI間,TF間,SN間における両義性に関しては対極性の検討のみだったが,本結果から共存性も合わせた両義性についての構成概念妥当性が,自己イメージの両義性の観点から確認されたと言える。なお,TSPS-Ⅱのポジティブ側面を反映する項目は意識内に共存して抽出しやすいと考えられることから(桑原,1991),タイプ論における両義性も,意識内に共存して抽出しやすい特徴を反映していることが示唆される。

第2に,タイプ論における両義性は,曖昧さへの態度と多面的に関わることが示された。まず,EI間の両義性が高いことは,曖昧な状況に不安を感じにくく,コントロールしようと思わない態度と結びつくことが示唆された。大学生女子においてEI間を両義的に保つことが周囲や環境との主観的適応感の高さと関わることを先に示したが(佐藤,2022),本知見からそれは曖昧な状況に不安を感じにくく,統制しようと思わない態度が関わっていたとも考えられる。また,TF間ならびにSN間の両義性が高いことは,曖昧さを魅力的なものと評価し,関与していくことに楽しみを見出す態度と関わることが示唆された。さらにSN間の両義性が高いことは,曖昧さをそのまま認めて受け入れる態度と関わることも示唆された。先に箱庭作品を用いた検討から,箱庭制作者におけるSN間の両義性は,作品の非言語的なイメージ表現の量や種類の多さ,また評定者による「強さ・エネルギー」の印象評価の高さと関わることが示されたが(佐藤,2023a),本知見からそれは曖昧さへの享受や受容といった態度が関わっていたとも考えられる。一方,TF間の両義性が高いことは,曖昧さを享受しつつも,曖昧な状況を否定的に評価し,知的に把握,対処しようとする態度とも関わることが示唆された。これは一部予想と異なっていたが,TF間の両義性が高いことは,一方でTF間の概念的水準の対極性(佐藤,2005)の高まりによって曖昧さの享受と関わりつつも,他方で合理的な判断機能であるTとFがともに意識に分化して働くことで,曖昧さを否定的に評価し,知的に把握,対処する方向とも関わったと考えられる。

第3に,SN間の両義性指標は二分法的思考と関わっており,SN間の両義性が高いほど,世の中の複雑な事象を明確に2種類に分割できる信念を持ちづらいことが示唆された。これは,SN間の両義性が曖昧さの享受や受容といった態度と関連する先の結果と対応するものである。

TF間とSN間の両義性は,ともに曖昧さの享受との間で正の相関関係を示す点で共通するが,TF間の両義性は曖昧さの統制との間で正の相関関係を示すのに対し,SN間の両義性は曖昧さの受容との間で正の相関を示すという点で差異がみられた。この差異は,TとFが合理的な判断機能であるのに対し,SとNが非合理的な知覚機能であるという,心的機能の性質によるものと考えられる。

先に述べたように,JPTSのEI間,TF間,SN間における概念的水準の対極性の妥当性は確かめられているが(佐藤,2005),実証的水準で言えば,JPTS-CのEI間については,強い負の相関結果から機能的対極性が強く(佐藤,2022),両義性指標得点の低さから共存性が弱い(佐藤,2023b)のに対し,JPTS-CのTF間については,弱い負の相関結果から機能的対極性が弱く(佐藤,2022),両義性指標得点の高さから共存性が強い(佐藤,2023b)ことが報告されており,本結果もそれらを支持していた。理論的には,一般的態度は発達過程における生得的な性質であるのに対し,心的機能は発達過程における適応あるいは方向付けの手段である(Jung, 1921 林訳 1987)。これらのことから,EI間はパーソナリティの変動しにくい側面であるため共存性が成立しづらいのに対し,TF間はパーソナリティの変動しやすい側面であるため共存性が成立しやすいとも考えられる(佐藤,2023b)。それゆえ,EI間の両義性の発達とTF間の両義性の発達は,その性質や方向性が異なることが示唆される。

本知見より,JPTS-Cの下位尺度の両義性指標に関する構成概念妥当性が確認されたほか,両義性指標の性質は下位尺度によって異なることが示唆された。本研究の限界については,調査対象が大学生女子に限られているため,一般化するには大学生男子ならびに成人男女のデータも必要である。また本研究は,共存性も合わせたタイプ論の両義性について検討したが,今後は共存性単独の妥当性検証がなされることも必要である。

利益相反

本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない。

関連する発表

本研究結果の一部は,日本心理臨床学会第43回大会(2024)にて発表された。

1

タイプ論の尺度の中にはパーソナリティの発展過程を捉えるため,対概念を排した単極形式の尺度Singer-Loomis Inventory of Personality(Singer-Loomis Type Deployment Inventory)もあるが(Loomis, 1982; Singer et al., 1996),対極性をまったく排しているため,共存性を捉えるに留まっている。

2

態度の両価性とは,人がある対象に対して,正の評価と負の評価を同時に持ちうる心的状態を意味する。Kaplan(1972)は,態度の正の構成要素と負の構成要素を弁別して評価し,それらの関数として両価性の水準を推定する方法を提唱した。具体的には,同一の態度対象に対して向けられた正と負の感情(Affect)の全体的な量をTotal Affect(以下,TAとする),態度の方向性を示す残差をPolarization(以下,POLとする)とした(TAは,態度における正の構成要素の水準(Affect of positive: 以下,Apとする)と,負の構成要素の水準(Affect of negative: 以下,Anとする)の絶対値を合計した値によって測定される(TA=Ap+|An|)。また,POLとは,ApとAnの合計値を絶対値にすることによって測定される(POL=|Ap+An|))。その上で,態度の両価性についての水準を,TAからPOLを差分するモデルで推定した。すなわち,両価性のambivalence値であるTA-POLは,Ap+|An|‒|Ap + An|で表される。このモデルからタイプ論の両義性指標を考えると,対概念の対極性の高さはTAに相当し,共存性の低さはPOLに相当するため,対極性と共存性の和を意味する両義性は,対極性の高さから共存性の低さを差分する,TAからPOLを差分するモデルで捉えられる。よって,JPTS-Cの両義性指標は,対となる項目への回答をa,bとすると,TAがa+|b|,POLが|a+b|で測定され,a+|b|‒|a+b|の式で表される。ただし,態度の両価性における負の構成要素はJPTS-Cの回答では正の値で表されるため,POLが|a+ (‒b) |すなわち|a‒b|となり,JPTS-Cの両義性指標は|a+b|‒|a‒b|の式で表される。

References
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