Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Two cases of the spread of complex regional pain syndrome treated by spinal cord stimulation
Ayumi YASUHIRANobuhiro HIGAKIShiho FUJIOKATomomi FUJIIToshihiro YOROZUYA
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2017 Volume 24 Issue 4 Pages 353-357

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Abstract

複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)の症状は,時に他の四肢に拡大する.われわれは,CRPSの症状拡大をみた症例に対し脊髄電気刺激(spinal cord stimulation:SCS)法を施行し痛みの軽減を得たので報告する.症例1は50代,男性.X−10年,転落外傷後の左大腿外側部の痛みに対しSCS埋め込み術を施行した.X−1年,同側の踵の痛みにより歩行不能となった.精査の結果CRPSの症状拡大と考えSCS埋め込み術を施行した.左大腿外側部および踵の痛みは改善し歩行可能となった.症例2は40代,男性.X−8年,右手根管開放術後に右手CRPSを発症したが胸部交感神経節切除術により痛みは消失した.X−6年,胸部手術後,創部のアロディニアが出現し,徐々に痛みは胸背部に拡大した.SCS埋め込み術を施行し痛みは改善した.X−1年,左臀部から左下肢にかけての痛みが出現し,精査の結果CRPSの症状拡大と考えた.SCS埋め込み術を施行し,痛みの改善と歩行距離の延長を得た.CRPSの拡大した痛みに対しSCSは有用と考えられた.

I はじめに

複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)の臨床的特徴には,痛み,皮膚の色調変化,腫脹,運動障害がある.通常患肢に限局するこれらの症状が時間の経過とともに他の四肢に拡大し,進展する場合があり,この症状拡大には,①contiguous spread,②independent spread,③mirror-image spreadの3つのパターンが提示されている(図11).CRPSに対し脊髄電気刺激(spinal cord stimulation:SCS)法が有効であったという報告が多数あるが,CRPSの症状拡大に対するSCSの有効性についての報告は少ない.今回われわれは,上記の3パターンの症状拡大をみた2症例に対して,SCSにより痛みの軽減を得たので報告する.

図1

CRPS I型患者で同定された症状拡大の3つの型を表した概略図

矢印は,広がりの方向を示す(文献1より抜粋).

なお本症例の報告については,症例の個人情報を特定できないように配慮したうえで公表することを,2人の患者に説明し同意を得た.

II 症例

【症例1】50歳代,男性.X−13年,仕事中に高所から転落し左腸骨稜を骨折,左外側大腿皮神経領域のしびれ感と電撃痛(図2,①)が残存し痛みのため歩行困難となり当科を受診した.痛みと運動障害の性状よりCRPSと診断され,薬物療法(アミトリプチリン,カルバマゼピン,メキシレチン)や硬膜外ブロックが施行されたが痛みは改善せず,X−10年にSCS埋め込み術を受けた.SCSにより痛み,歩行障害は軽減し[数値評価スケール(NRS)10→2],トラマドール塩酸塩アセトアミノフェン,プレガバリン,アミトリプチリン,デュロキセチンによる薬物療法で日常生活を行うことができていた.X−1年,とくに誘因なく患肢側の踵にアロディニアが生じ,歩行不能となった.精査を行ったが新たな器質的疾患は特定されず,CRPSの症状拡大(contiguous spread)と考えられた(図2,②).左踵に対するSCSトライアルにより痛みが軽減し歩行可能となったため,SCS埋め込み術を受けた.その後痛みは落ち着いていた(NRS 10→1)が,X年,とくに誘因なく右の外側大腿皮神経領域に左外側大腿皮神経領域と同様の痛みが出現し,歩行困難となった.再度精査を行ったがこの痛みを説明できる器質的疾患はなく,CRPSの症状拡大(mirror-image spread)(図2,③)と考えられた.すでに入っているSCSでは痛みの部位に刺激が得られなかったため,新たにSCSトライアルで効果を確認し,既存の使用していないリードと入れ替えた(図2,右).以後痛みはNRS 10から2~3に減少し,歩行改善を得ている.

図2

症例1の症状拡大パターンと胸部X線写真

左:①から②への拡大はcontiguous spread,①から③への拡大はmirror-image spreadと考えられる.

右:患者の左側に見える2本(➡)が,①の痛みに対し埋め込んだリードである.②に対しては尾側に2本埋め込んだが,刺激は1本のリードしか使用しなかった(⇨).③の痛みに対しては,これらのリードの位置では刺激を得られなかった.新たにリードを入れてトライアルを施行し効果を認めたため,尾側に入れていた使用していないリードを,トライアルで効果を認めた位置(⇒)に入れ直した.

【症例2】40歳代,男性.X−8年,右手根管開放術後に右手CRPS(図3,①)を発症したが,胸部交感神経切除術で痛みは消失した.X−6年,右自然気胸に対する胸腔鏡下肺部分切除術後に,創部にアロディニアが出現し,痛みが徐々に胸背部へと拡大した(図3,②).薬物治療では効果を得られず,X−5年,SCSトライアルで痛みの軽減を得たためSCS埋め込み術を施行し,痛みの軽減を得た(NRS 10→3~4).残存する痛みに対しリン酸コデイン,プレガバリン,ノイロトロピンの内服で経過をみていたが,X−1年に,とくに誘因なく臀部と左下肢の痛みとそれによる歩行障害が出現した(図3,③).精査を行ったが痛みを説明できる原因は特定できず,右手CRPSの症状拡大(independent spread)と考えた.SCSトライアルで痛みが軽減し歩行可能となったため,SCS埋め込み術を施行した(図3).その後痛みはNRS 10から3~4に減少し,歩行改善を得ている.

図3

症例2の症状拡大パターンと胸部X線写真

左:①から③への拡大はindependent spreadと考えられる.

中:②の痛みに対し埋め込みしたリード.

右:③の痛みに対し埋め込みしたリード.

III 考察

CRPSは,組織損傷後に創傷が治癒した後にも痛みが遷延するもので,多くの生体調節系が関わる症候群と考えられている.CRPSの診断には,四肢のいずれかに痛みが存在し,病期のいずれかの時期に,①皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化,②関節可動域制限,③持続性ないし不釣り合いな痛み・しびれたような針で刺すような痛み・または知覚過敏,④発汗の亢進ないしは低下,浮腫のうち自他覚的に2項目以上該当することが必要となる2).CRPSの治療には薬物療法や神経ブロック,SCSを含めた外科的治療法があげられる3)

CRPSの症状拡大については,Malekiらの報告1)によると,症状拡大が起こる平均期間は4.5年(7カ月~14.5年)であり,拡大パターンは3つに分類でき,それぞれcontiguous spread 27例(100%),independent spread 19例(70%),mirror-image spread 4例(15%)と,同側に連続的に拡大するケースが多いとしている.また,他の外傷などがなく自然に症状拡大をみた症例での拡大パターンを調べたvan Rijnらの報告4)では,CRPSの症状拡大パターンをcontralateral spread,ipsilateral spread,diagonal spreadに分類しcontralateral spread 24例(63%),ipsilateral spread 13例(34%),diagonal spread 1例(3%)と対称的に起こる確率が,同側に起こる確率より2~3倍高く,対角上に症状が現れるケースは有意に少ないとしている.CRPSの症状拡大のメカニズムは十分に解析されていないが,この拡大パターンと過去の研究結果から症状拡大が起きるメカニズムについて,次のようないくつかの推論が提示されている.①拡大パターンが対側に多く対角上にはほとんどみられなかったことより,CRPSの症状拡大が,全身脆弱性によるものではなく,脊髄または皮質で媒介された機序で起こる可能性が高い.②対側への症状拡大は,入力した感覚の情報が脊髄で変化することで対側に症状を起こしており,脊髄グリア細胞と炎症性サイトカインが背景で重要な因子となっている.③同側への症状拡大は,脊髄の1つのセグメントで起こった変化が,下行または上行線維路を経て軸索内輸送によって遠隔セグメントに到達して起こる.

今回われわれが経験した症例においては,とくに外傷などの誘因なくそれぞれ新しい痛みが出現し,血液検査や画像検査で痛みを説明できる器質的変化を認めなかったこと,またMalekiらの報告によるCRPSの症状拡大パターンに合致することから,これらの新しい痛みを症状拡大と考えた.2症例で3パターンの症状拡大がみられており,メカニズムについては現時点では推論の域を出ない.

一方,SCSは,脊髄に微弱な電気刺激を行うことで痛みを緩和させる治療法であり,CRPSに関しては,痛みの緩和と生活の質の改善において高いevidence-based medicineレベルとともに有効性が報告されている5)

SCSの作用機序は,ゲートコントロール説,Aβ求心線維の逆行性刺激,脊髄視床路の伝達調節,脊髄上位での抑制,抑制性神経調節因子の活性化,中枢性抑制機構や交感神経系への作用などが唱えられてきたが,いまだに不明な点も多い6)

われわれが経験した症状拡大をみた2症例において,SCSで痛みの軽減と歩行の改善を得た.症状の拡大が起きるメカニズムは不明な点が多いが,脊髄レベルでの変化によるメカニズムであるとの推論から,脊髄後索をターゲットとするSCSが有用である可能性が高いと考えられた.

CRPSの症状拡大3パターンに対し,SCSで痛みの軽減と歩行の改善を認めた症例を経験した.本症例ではCRPSの症状拡大が複数回みられることから,今後のSCSの適応については慎重に検討する必要がある.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第50回大会(2016年7月,横浜)において発表した.

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