Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Effective treatment of glossopharyngeal neuralgia using steroid pulse therapy: a case report
Masao OGAWAHideaki TSUCHIDA
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2017 Volume 24 Issue 4 Pages 336-340

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Abstract

患者は76歳の男性.6年前に三叉神経痛を発症し,カルバマゼピン(CBZ)が投与された.しかし,薬剤性過敏症症候群を発症してプレドニゾロン(PSL)が投与され,その後に痛みは改善した.2年前にも左三叉神経痛が再発したが,プレガバリンで改善した.今回,左奥歯から顎にかけての痛みが会話時に出現し,三叉神経痛の再発と診断してプレガバリンを開始したが十分に効果を認めず,嚥下痛や咀嚼痛のために固形物の摂取が困難になった.リドカインを口腔内へ散布したところ痛みが改善し,器質的所見を認めないことから,舌咽神経痛の発作と診断した.患者の強い希望によりCBZを開始すると痛みは改善したが,2日後に薬剤性過敏症症候群が発症した.CBZを中止し,PSLパルス療法を開始すると,薬疹のみならず疼痛も改善した.PSLを中止しても疼痛は再発しなかった.ステロイドパルス療法は,治療の困難な典型的三叉神経痛や舌咽神経痛に対して試みる価値がある治療法となる可能性がある.

I はじめに

舌咽神経痛は,発症頻度0.2~0.8人/10万人というまれな顔面痛疾患である13).数秒~数分間にわたる発作性片側性の疼痛で,舌後部,扁桃窩,咽頭,下顎骨直下,耳に分布する鋭く刺すような痛みが特徴であり4),三叉神経痛との合併例も報告されている5).今回われわれは,カルバマゼピン(CBZ)により薬剤性過敏症症候群を発症し,治療目的で施行されたステロイドパルス療法により,疼痛が寛解した舌咽神経痛を経験した.

II 症例

患者:76歳の男性.

既往歴:72歳時に胃がんに対して胃切除術.

現病歴:X−6年10月,左下顎に疼痛が出現したため当院口腔外科を受診した.三叉神経痛の診断のもと,同年11月からCBZを処方された.同年12月初旬,全身性の皮疹が出現し,皮膚科によって薬剤性過敏症症候群と診断された.プレドニゾロン(PSL)40 mg/日を3日間投与後,500 mg/日のパルス療法を3日間施行したところ,薬疹の軽減を認めたため,徐々にPSLを減量した.その経過中に三叉神経痛も改善し,以後,何度か軽い痛みが出現したが2~3日で改善した.PSLは3カ月後に離脱した(図1).

図1

1回目ステロイドパルス療法時のPSL投与量の変化

ステロイドパルス療法後に疼痛が改善した.以後,ピリピリする痛みが何度かあったが2~3日で改善し,3カ月後にPSL投与を終了した.

X−2年6月,会話に伴う左下顎部痛が出現したため,当科外来を受診した.会話や咀嚼などをトリガーとし,嚥下時痛は認めなかった.左三叉神経痛(V3)と診断し,CBZによる薬疹歴があるため,プレガバリンを150 mg/日から開始した.225 mg/日まで増量したところで症状が緩和され,3カ月後に終診となった.

X年9月半ば,左奥歯から顎にかけての鋭い痛みが出現し,当科外来を再受診した.三叉神経痛の再発と考えてプレガバリンを処方したが,300 mg/日まで増量しても効果は不十分であった.同年10月末になると嚥下時痛も出現し,咽喉頭部の内視鏡検査および頭頸部の画像検査を施行したが,器質的な異常はなかった.同年11月初め,普段の痛みは軽度であったが,舌を動かすと激痛が走り,会話もできない状態となった.同年11月半ばには嚥下時にも強い痛みが出現するため,流動食も飲めなくなった.摂食障害,嚥下障害が進行し,義歯装着も不可能となった.そこで,リドカインの点滴や8%リドカインの口腔内散布をしたところ,疼痛が改善したため,8%リドカインを舌根部や咽頭部へ定期的に散布させた.しかし,リドカイン散布による鎮痛効果は長続きしなかった.MRIで三叉神経への血管圧迫像は認められず,三叉神経領域にも異常はなく,舌根や咽頭部の疼痛がリドカイン散布で改善し,耳内に放散する疼痛や嚥下痛を伴うことから,今回の疼痛は舌咽神経痛による発作と診断した.同年12月半ば,1回目の三叉神経痛治療時,薬疹発症後のステロイド治療中に疼痛が改善したことを患者が思い出し,PSLによる治療を希望した.副作用を十分に説明したうえで,薬疹治療時のPSL開始量(40 mg/日)を2日間投与した結果,疼痛は軽減し,義歯の装着が可能となった.その後ステロイドによる副作用を懸念し,PSLの量を徐々に減量した(図2).PSLにより強い突発痛は消失したが,舌を動かすと痛みが出現して噛むことができず,ミキサー食の日が続いた.このような状況に耐えられず,患者はCBZの処方を強く希望した.薬疹歴があるため使用を控えていたが,やむを得ずCBZ 100 mgを開始したところ,疼痛は軽減した.しかし,投与開始3日後に全身に薬疹が出現し,CBZ内服を中止した.中止後も薬疹が改善せず,薬剤性過敏症症候群と診断されてステロイドパルス療法(PSL 1,000 mg/日)が開始されたところ,開始2日目から疼痛が寛解した.3日間のPSLパルス療法によって薬疹は改善し,以後PSL量を徐々に減量していったが,疼痛は再発せず,経過観察後に終診となった(図3).

図2

2回目ステロイドパルス療法開始までのPSL投与量

12/12にPSL(朝食後15 mg–昼食後15 mg–夕食後10 mg)を開始したところ疼痛が軽減し,義歯の装着が可能になった.ステロイドによる副作用を考慮して,40 mg/日を2日間投与した後は,徐々に減量していった.強い突発痛は消失したが,舌を動かすときの痛みが残存し,噛めないのでミキサー食が続いた.12/22に患者の強い希望でCBZ 100 mgを開始したところ,疼痛は軽減した.

図3

2回目ステロイドパルス療法時のPSL投与量の変化

12/25に薬疹が出現し,CBZを中止した.12/26に皮膚科へ緊急入院し,PSLパルス療法を開始した.急速に疼痛が改善し,PSLを徐々に減量しても疼痛は再燃せずに終診した.

III 考察

今回,同一患者で2度,CBZによる薬剤性過敏症症候群に対してステロイドパルス療法を実施した後に,三叉神経痛および舌咽神経痛が寛解した症例を経験した.

本症例では3度にわたって口腔内に痛みが出現し,初めの2回は三叉神経痛と診断されたのに対し,3回目は舌咽神経痛と診断した.この2つの疾患は類似した部位に疼痛を生じるため,両者の鑑別が必要となる.一般的に三叉神経痛は嚥下で誘発されないのに対し,舌咽神経痛は嚥下で誘発される.3回目の疼痛は国際頭痛学会の診断基準(表1)とも一致しており,器質的な原因が不明な舌咽神経痛と考えてよいと思われる.一方,過去の2回は痛みの誘因に嚥下が関与しないため,舌咽神経痛とは考えにくく,三叉神経痛の診断で間違いはないと考えられる.

表1 国際頭痛学会 舌咽神経痛の診断基準第3版beta版4
A. BおよびCを満たす片側性の痛み発作が少なくとも3回ある
B. 痛みは舌の後部,扁桃窩,咽頭,下顎角直下または耳のいずれか1つ以上の部分に分布する
C. 発作は個々の患者で定型化する痛みは以下の4つの特徴のうち少なくとも3項目を満たす
1.数秒から2分持続する痛み発作を繰り返す
2.激痛
3.ズキンとするような,刺すような,あるいは鋭い痛み
4.嚥下,咳,会話またはあくびで誘発される
D. 明らかな神経学的欠損がない
E. ほかに最適なICHD-3の診断がない

Rushtonらは,三叉神経痛と舌咽神経痛への移行例を報告しているが,両疾患が同時に発症するのはまれであるとしている6).解剖学的に,三叉神経の下顎分岐枝と舌咽神経枝との交通枝が認められており5),三叉神経痛から舌咽神経痛へと疼痛の性状が移行することは,不自然ではないと考えられる.

器質的な原因を伴わない典型的な三叉神経痛の原因としては,脳幹から神経が分枝したすぐ末梢部位の神経鞘が菲薄化した部位(root entry zone:REZ)において,近傍血管の圧迫刺激による脱髄化が生じた結果,求心性の過剰興奮が不随意に発症するという説が,最も広く受け入れられている7).舌咽神経痛も同様の機序で発症すると考えられている8).しかし,舌咽神経痛の多くは画像所見上,REZへの圧迫像などを認めないといわれており5),典型的三叉神経痛でも画像上は,REZへの血管圧迫所見を認めないものが少なくない9).本症例においても,神経への血管圧迫所見を認めないにもかかわらず,舌咽神経痛や三叉神経痛が発症した.痛みの発症機序は不明であるが,ステロイドパルス療法が奏効したことから,血管による神経圧迫以外の慢性的な炎症を伴う脱髄現象が,患者の三叉神経や舌咽神経に生じている可能性も考えられる.

典型的な三叉神経痛と舌咽神経痛の第一選択の治療法は抗痙攣薬の内服である.CBZは第一選択薬だがアレルギーなどの重大な副作用を起こすことがある.このような場合,バクロフェンやプレガバリン,ガバペンチンも有効とされており,日本ペインクリニック学会のガイドライン10)でもこれらの薬剤が推奨されている.一方,MRIやMRAなどの画像診断でREZへの血管圧迫像が認められる場合には,脳神経外科的手術の適応となり,難治症例に対しては,ガンマナイフやラジオ波焼灼術などの侵襲的治療も考慮される5).しかし,われわれの探したかぎり,舌咽神経痛もしくは三叉神経痛に対し,ステロイドパルス療法が有効であるとする報告は見つからなかった.本症例では,6年前の三叉神経痛および今回の舌咽神経痛発症時にステロイドパルス療法が施行され,二度とも疼痛が劇的に改善した.この事実は,典型的三叉神経痛や舌咽神経痛にステロイドパルス療法が奏効する可能性を示唆している.ステロイドパルス療法は副作用も多いが,手術療法やブロック療法に比べると侵襲度は低いと考えられる.したがって,標準的な薬物療法によっても強い疼痛が寛解せず,侵襲度の高い手技を行うことが困難な患者には,試してみる価値のある治療法ではないかと考える.

IV まとめ

典型的三叉神経痛および舌咽神経痛に対してステロイドパルス療法施行後,疼痛が寛解した症例を経験した.この1例をもって,ステロイドパルス療法の有効性を結論づけることはできないが,難治症例への応用の可能性を示唆するものである.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第49回大会(2015年7月,大阪)において発表した.

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