Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2017 Volume 24 Issue 4 Pages 367-371

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日 時:2017年5月13日(土)

会 場:愛知県産業労働センター(ウインクあいち)10階

会 長:杉浦健之(名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学分野)

■特別講演

「筋・筋膜由来の疼痛と神経栄養因子」

水村和枝

中部大学生命健康科学部理学療法学科

慢性の筋・筋膜性の疼痛の原因にはさまざまなものがあるが,神経損傷や形態的炎症像がない場合も多い.その場合に何が痛みを起こすのか,本講演では神経栄養因子に着目してお話しする.1990年台に糖尿病性ニューロパチーや変性疾患の治療を目的として神経成長因子(NGF)の投与が行われ,副作用として筋性疼痛が報告されたのが筋性疼痛とNGFとの関わりの最初だと思われる.その後実験的に筋にNGFを注射すると,持続の長い筋機械痛覚過敏が生じることが報告された(Andersen et al., 2008).しかし,どのような病態で,何がNGFを産生するのか明らかではなかった.演者のグループでは,遅発性筋痛を筋・筋膜性疼痛症候群のモデルとして,その発生メカニズムを研究していたところ(Taguchi et al., 2005),これにNGFが深く関与していることを突き止めた(Murase et al., 2010).また,グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)の関与もあり(Murase et al., 2013),両栄養因子間に相互作用もある.また,これらの栄養因子を産生する細胞はマクロファージなどではなく,運動に関与した筋細胞/衛星細胞であった.これらの神経栄養因子は,従来,後根神経節細胞に運ばれてイオンチャネル,ニューロペプチドなどの発現を変えることによって痛覚過敏に関与すると考えられてきたが,それだけでなく,比較的短時間に末梢で筋細径線維受容器の機械感受性を増大させて痛覚過敏に関与している.これらの結果から,抗NGF抗体の鎮痛効果が予想される.実際,抗NGF抗体の臨床試験が行われており,変形性関節炎のみならず腰痛にも有効であることが報告されている(Kivizt et al., 2013).筋・筋膜性疼痛に悩む人は多く,神経栄養因子の側面から,今後新たな治療薬・方法が生まれることが期待される.

■学会教育セミナー

「痒みと痛みの脳内認知機構」

柿木隆介

自然科学研究機構生理学研究所システム脳科学研究領域統合生理研究部門

ヒトでの痛みと痒みの脳内認知機構を,高い時間分解能(ミリ秒単位)を有する脳波,脳磁図と,高い空間分解能を有する機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて解析している.

1.痛覚認知

痛覚に関連する小径有髄のAδ線維(first pain)と無髄のC線維(second pain)を,選択的に刺激することが可能となってきた.島前部,帯状回の一部,pre-SMAでは,C線維刺激により特異的に活動が上昇しており,second pain認知に特異的な部位である可能性が示唆された.

近年の痛覚研究のトピックスの1つは,運動の除痛効果である.しかし,その脳内メカニズムは十分には明らかにされていない.最近の私たちの研究により,運動の除痛効果には,筋肉や腱の動きや,関節位置覚刺激,すなわち脳への上行性シグナルによる影響と,運動皮質の活動による下行性シグナルによる影響があることがわかってきた.その作用部位としては,第1次体性感覚野,第2次体性感覚野,島回,帯状回が重要である.

「心の痛み」や,注意や情動と痛みの関連などに関する研究も紹介したい.

2.痒み認知

世界で初めて,通電刺激による痒み発生装置を開発し,痒みの脳内認知機構の解明を行っている.左右大脳半球の広範な部位に活動がみられ,痛み認知と類似しているが,楔前部(precuneus)は,痒み刺激時だけに特異的に活動がみられた.「他人の痒みは伝染する」が,その時には,島回と大脳基底核との相関が増すことが明らかになった.「掻くと快感を覚える」時には「報酬系」と称される大脳基底核の線条体と中脳が活動することを明らかにした.

ヒスタミンによっておこした痒みに対して,第1次体性感覚野に経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を与えたところ,優位な痒みの抑制がおこった.痒みの新しい治療法となる可能性がある.

■ブロック手技ワークショップ1

神経ブロック初心者のための「カダバートレーニングのすゝめ」

草間宣好

名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学分野

手術麻酔やペインクリニック診療において,超音波ガイド下神経ブロックは必要不可欠な手技となった.初心者が神経ブロックを学ぶための環境も,ここ十数年で大きく変化した.イラストや写真で解りやすく解説されたテキストが多数出版され,ウェブサイトやSNSからも情報を得ることが可能になった.また日本臨床麻酔学会は,神経ブロックの教育インストラクター認定制度を設け,学術集会などで開催されるハンズオンセミナーは,受付開始後すぐ定員が埋まってしまうほど盛況である.

外科系分野においては,内視鏡手術の普及や医療安全の見地から,臓器模型やVR(バーチャルリアリティ)シミュレータによる手術手技研修に加えて,生体ブタを用いたアニマルラボなどが開催されている.また海外ではカダバー(御遺体)を用いたトレーニングも広く行われている.国内においても2012年に「臨床医学の教育および研究における死体解剖のガイドライン」が公開されたことに伴い,カダバートレーニングの環境が整備されてきた.しかし,麻酔・ペインクリニック領域では,国内でのカダバートレーニングコース開催はまだ限定的というのが現状である.昨年,当施設でもThiel法固定カダバーを用いた神経ブロック講習会を初めて開催した.インストラクター・受講者ともに,カダバートレーニング未経験者がほとんどであったが,受講後のアンケート結果からは概ね好評であった.2017年3月,当施設において既存の解剖実習室に加え,「サージカル・トレーニングセンター」が開設されたこともあり,今後講習会を継続的に開催することを検討している.

今回,われわれが開催した講習会の内容やカダバーを用いた研究論文とともに,カダバートレーニングの有用性や今後の課題について紹介したい.

■ブロック手技ワークショップ2

「ペインクリニック外来で超音波を使いこなす」―日常診療における超音波診断・治療のコツ―

柳原 尚

名古屋栄ペインクリニック

痛みの診療において,麻酔科医は得意とする神経ブロックにいち早く超音波を利用し,その優位性を保持してきました.ところが,痛みを扱う者にとっては運動器障害に対する知見も必要であり,また神経に対する処置ですべての痛みが軽減するわけではなく,運動器への対応は麻酔科医の弱い分野でありました.近年,運動器の診断・治療において,整形外科医,さらには総合診療医のあいだで超音波利用の普及は目覚ましく,神経ブロックも施行されるようになりつつあり,痛みの診療において診療科の境界がなくなってきました.またマスコミでの取り上げが先行しがちですが,新しい筋膜リリース(ファスチア・リリース)の概念と治療法は着実に認められつつあり,われわれの診療範囲を拡げてくれます.麻酔科医によるペインクリニックにおいても,超音波ガイド下神経ブロックに磨きをかけるとともに,目の前のよくある運動器疾患の痛みに対して,すぐに対応できる知識と技術を持つ必要に迫られています.

今回,これから超音波装置の採用を検討されている,または神経ブロックだけに利用されている先生方において,神経ブロックとともに運動器疾患の診断と治療にあたって超音波をどう使いこなすか,そのコツについて前半スライドによる講義,後半ライブで解説しいたします.また超音波の診断・治療技術だけではなく,スタッフに対する教育,診療記録方法のシステムについても言及します.正確で,安全に,ストレスの少ない,そして楽しいペインクリニック診療に繋がれば幸いです.

講演内容:1.超音波の特性と組織・穿刺針描出のコツ 2.顔・頸・背部・腰部・臀部の神経ブロックにおける組織描出と穿刺針刺入経路,デュアルイメージング(超音波ガイド+X線透視造影)による対比 3.肩・上肢・胸部・下肢・膝・足における一般的運動器痛の病変描出と治療法 4.頸部・肩・腰における代表的筋膜リリース 5.超音波診療のシステム整備

■一般演題

帯状疱疹に合併した腋窩神経麻痺と腱板断裂の鑑別に難渋した1例

伊藤恭史 木村怜史 大石正隆 川端真仁 湯澤則子 角渕浩央

藤田保健衛生大学坂文種報徳會病院麻酔疼痛制御学

【はじめに】帯状疱疹にはRamsay-Hunt症候群のように運動神経障害を合併することがあるが,四肢の運動麻痺の合併は比較的まれとされる.また,肩関節挙上制限の原因として,腱板断裂などの鑑別が必要である.今回,われわれは,右腋窩神経麻痺と右腱板断裂を同時期に合併した,帯状疱疹の症例を経験したため報告する.

【症例】77歳女性,右肩から右前腕にかけての痛みが出現,同時期より右肩挙上,外転困難も出現した.第3病日に右前腕外側近位部に皮疹が出現し,第5病日に帯状疱疹と診断され抗ウィルス薬を開始された.第13病日には痛みの増強と肩関節の挙上制限のため他院整形外科を受診,肩関節周囲炎として,ヒアルロン酸の肩関節内への局注を開始された.しかし,その後も症状の改善なく,さらに別の整形外科を紹介受診し,頸椎MRIを施行されたが,とくに優位な所見は認めず,トラマドール,プレガバリンが開始された.第28病日,強い痛みが続き,患者ご自身の判断で当科を受診された.帯状疱疹痛と帯状疱疹による運動神経障害の合併と考え,アミトリプチリン,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液を追加,運動神経障害に対しメチルプレドニゾロンの投与を開始した.第35病日には疼痛の改善が認められたものの,右上肢の運動麻痺が持続するため,入院しリハビリを開始した.右肩関節単純MRIを施行したところ,腱板損傷を認め,部分的な腱板断裂が疑われたため当院整形外科を受診.腱板断裂と診断され,いったんは手術を予定されるも,神経伝導速度検査により右腋窩神経の重度の障害と診断されたため,現在は運動神経障害に対しリハビリを継続している.

【考察】本症例は,複数の整形外科を受診するも,運動麻痺の原因の診断に難渋した症例であった.診断,治療方針の決定には神経伝導速度検査が有用であった.今回の症例につき若干の文献的考察をふまえ報告する.

症状の聞き取りに難渋した,頭痛の1例

横地 歩*1 橋本実瑞貴*1 野瀬由圭里*1 向井雄高*1 高村光幸*1 鈴木 聡*1,2 丸山淳子*1,2 小西邦彦*1 丸山一男*1

*1三重大学附属病院麻酔科ペインクリニック外来,*2鈴鹿医療科学大学

【はじめに】問診は,難聴や認知機能によって,曖昧なものとならざるを得ないことがある.

【症例】95歳,女性.かかりつけ病院にて,多数の既往歴(骨粗鬆症,高血圧,脳梗塞,狭心症,等)に各種薬剤を継続中.薬剤には,ロキソプロフェンナトリウム錠60 mg(関節痛等に?,2錠分2)も含まれていた.1カ月ほど前から頭痛が増強.ロキソプロフェンナトリウム錠はその都度有効も,頭痛は増強した.画像検査等,原因検索が試みられたが,原因は不明.疼痛の緩和を目的に紹介受診となった.患者は介護タクシーで来院.車椅子にうずくまっていた.家族によると難聴が強く,かつ,近い記憶について物忘れがあるとのことだった.結局,多くの質問を家族が答える状況となったが,推測が多く痛みの様子や薬の効き具合は曖昧であった(ロキソプロフェンは在庫があり,頓服使用.当院受診の直前から,安息香酸リザトリプタン口腔内崩壊錠10 mgが開始されており,2回使用.効く様子とのこと).時間の経過にもかかわらず,十分な問診となっていないことを表明.できそうなことから進めていくことを説明した(頭痛の日記かメモを提案.薬剤の影響を危惧し,ロキソプロフェンナトリウム錠をアセトアミノフェン錠に変え,塩酸ロメリジン,呉茱萸湯,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液錠の併用を提案し処方).終わりがけ,患者は「注射をされるのではと心配していた」のでホッとしたと発言された.

【経過】翌日,電話で状況を確認.ロキソプロフェンやマクサルトは中止されていた.在庫の関係で,他の薬剤は届いていなかった.しかし,強い頭痛は減少していた(家族談).1週間後では頭痛がほぼ消失,1カ月後では,頭痛が消失していた(家族談).

【まとめ】たまたま良い経過となったが,問診は曖昧なままであった.その後の経過の把握には,家族のメモが役に立った.

超音波ガイド下腰椎椎間関節ブロックが腰痛の原因,部位診断に有用であった3症例

小林 充 高田知季 金丸哲也 加藤 茂 三村真一郎 藤本久実子 杉浦弥栄子

聖隷三方原病院麻酔科

【はじめに】腰痛の病態は多岐にわたるが,なかでも椎間関節由来の腰痛は頻度が高いと考えられている.しかし,画像診断で特異的な所見は認められず,責任椎間を正確に判断するのが困難なこともある.今回われわれは,治療抵抗性の腰痛に対して超音波ガイド下椎間関節ブロックを行い,特定の椎間関節が腰痛の原因と判断し,その後X線透視下に同部の椎間関節ブロック,後枝内側枝熱凝固を行うことで長期的な症状改善につながった3症例を経験した.

【症例1】64歳,女性.腰痛,臀部,大腿後面の痛みに対して硬膜外ブロックを行ったが,腰痛,臀部痛が残存した.右傍脊柱部に強い圧痛を認め,超音波ガイド下にL3/4椎間関節ブロックを行った.腰痛,臀部痛ともに改善したが,数日後に痛みが再燃した.その後,X線透視下に同部の椎間関節ブロックを行い,効果持続時間が延長した.

【症例2】50歳,女性.腰痛,大腿外側の痛みに対して硬膜外ブロックを行ったが,腰痛が残存した.左傍脊柱部に軽度圧痛を認め椎間関節症を疑ったが,責任椎間がはっきりせず,超音波ガイド下にL3/4,L4/5椎間関節ブロックを2回にわけて行った.L3/4椎間関節ブロック施行時,一時的に腰痛が半減したため,その後X線透視下に同部の椎間関節ブロック,後枝内側枝熱凝固を行い,長期的な鎮痛が得られた.

【症例3】74歳,女性.腰痛,下腿外側のしびれに対して硬膜外ブロックを行ったが,腰痛が残存した.圧痛は明らかでなかったが,仰臥位や回旋時の腰痛増強から椎間関節症を疑い,超音波ガイド下にL2/3椎間関節ブロックを行った.一時的に腰痛が軽減したため,その後X線透視下に同部の椎間関節ブロックを行い,長期的な鎮痛が得られた.

【まとめ】治療抵抗性の腰痛に椎間関節ブロックが有効であった.理学所見が典型的でない場合の原因診断や,責任椎間がはっきりしない症例における部位診断に,超音波ガイド下椎間関節ブロックは有用と考える.

原因不明の右季肋部痛の原因として副甲状腺機能亢進に伴う陳旧性多発骨折が疑われた1例

三田建一郎 瀧波慶和

公立丹南病院麻酔科

【症例】38歳女性,身長160 cm,体重48 kg.

【主訴】右季肋部痛,起居動作困難.

【現病歴】1年程前から誘因なく両側季肋部痛が出現し,起居動作,咳嗽時に強い痛みがあったが生活可能で様子を見ていた.半年程前に近医整形外科受診し,異常指摘されずNSAID内服と湿布の治療を受けたが改善しなかった.1週間前から右季肋部痛が増強し,臀部へ電気が走る感じも出現,起き上がりや寝返りが困難となった.2日前に当院外科を受診し,当科を紹介受診した(NRS 10).

【既往歴】特記なし.【内服薬】なし.【身体所見】バイタル異常なし.麻痺なし.車椅子で入室し,少しの動作で激痛が誘発,苦悶表情となった.全身皮膚外観異常なし.疼痛部位は右季肋部で手掌程の面積,発赤や腫脹なし,軽い触診で腹筋が緊張し強い痛みが誘発された.常に疼痛部位を左手でかばう姿勢だった.肋骨や脊椎の叩打痛はなかった.

【経過】神経障害性疼痛と考えたが,成人女性の原因不明のデルマトームに一致しない疼痛で,診断を鑑別しながら疼痛コントロールを行った.まず血液検査(血算,生化,膠原病検査)を行い,ALP3の上昇を認めた.右星状神経節ブロック(SGB)を行い,プレガバリンを処方した.7日目,NRS 2~3,歩行可能となり,SGBと内服薬を継続する方針とした.一方,CTにて両側坐骨と肋骨に陳旧性の多発骨折を認めた.14日目,MRIは異常なかった.DV含め外傷歴はないが食生活が不規則であることを確認し,骨密度測定にて重度の骨粗鬆症を認めた.採血でPTHとビタミンDの上昇を認め,副甲状腺機能亢進症と診断した.整形外科対診,栄養指導を開始し,他院内分泌内科に紹介した.28日目,痛みはほとんどなくなり日常生活は普通に行えるようになった.112日目,疼痛再発なく終診とした.

【考察】多発骨折に伴い,神経障害性疼痛が生じたと考えられた.SGBとプレガバリンによる治療が有効だった.

【結論】原因不明の疼痛に対して適切に対処し,疼痛コントロールを達成できた.

帝王切開術後の硬膜穿刺後頭痛にカフェインと五苓散の併用が著効した1症例

浅井明倫 杉浦健之 草間宣好 徐 民恵 太田晴子 加藤利奈 薊 隆文 梶山加奈 祖父江和哉

名古屋市立大学大学院医学研究科麻酔科学・集中治療医学分野

【はじめに】帝王切開術(CS)後の硬膜穿刺後頭痛(PDPH)は,授乳や新生児のケアなどを困難にし,患者のQOLを著しく損ねるため,速やかな対応が必要である.薬物療法の効果は限定的でエビデンスが乏しい.硬膜外自己血パッチの有効性は報告されているが,術後の抗凝固療法との兼ね合いもあり,実施のタイミングが難しい.このため治療に困難を伴うことが多い.今回,帝王切開後の硬膜穿刺後頭痛に対し,カフェインと五苓散の併用が著効した1症例を経験したので報告する.

【症例】36歳の女性,身長150 cm,体重52 kg.既往歴なし.妊娠38週6日で,潜在性胎児仮死に対し,脊髄くも膜下麻酔での帝王切開術が施行された.25GのQuincke針を用い,L3/4より正中法で2回穿刺が必要であった.術後経過は良好であったが,POD3に頭痛を発症.PDPHの診断で五苓散7.5 g分3,カフェイン0.6 g分3で投与した.内服直後より症状の改善がみられ,NRSが8/10から4/10へ軽減し離床が可能となった.POD5に頭痛は消失した.その後症状の再燃はなく,POD15に内服終了となった.

【考察とまとめ】PDPHは自然軽快する疾患であるが,今回の内服直後の反応を考慮すると薬物治療が著効したと考えられる.PDPHに対してカフェイン,五苓散の有効性の報告は散見されるが,併用の報告はない.自験例ではおのおの単剤で無効な場合でも,併用により症状の改善がみられた症例も数例あった.併用により相加的もしくは相乗的に作用した可能性もある.今後症例を重ねたさらなる検討が必要と考えられる.

大後頭神経三叉神経症候群(GOTS)や自律神経性頭痛,頸部椎間関節痛など複数の病態の混在により診断加療に難渋した症例

三村真一郎 高田知季 金丸哲也 藤本久実子 加藤 茂 杉浦弥栄子 小林 充

聖隷三方原病院麻酔科・ペインクリニック

症例は53歳,男性.X-22年より左眼窩部痛を認め,脳神経外科,神経内科,眼科,歯科,耳鼻咽喉科など受診したが原因不明であり,NSAIDsやアセトアミノフェンなどは無効であった.X-3年に当科紹介.既往に副鼻腔炎と片頭痛,幼少児の頭蓋底骨折があったが,画像診断上での器質的異常はなく,片頭痛とも性質が異なり,副鼻腔炎も十分に加療されていたため,眼窩部痛との関連性は低いとされた.当科初診時には眼窩部痛以外にも後頭部痛を認め,VASは80 mm.疼痛誘発因子は不明であったが,症状からGOTSを最も疑い,星状神経節ブロックと後頭神経ブロックを開始した.さらにアミトリプチリンやベンゾジアセピン系製剤,トラマドール製剤も投与したが,十分な効果は得られなかった.群発頭痛の可能性を考慮して,スマトリプタンも追加したが,吐き気などの副作用のために中止となった.漢方外来でも診察を受けたが,有効な薬剤は見つからなかった.本人の治療効果の印象から,X-2年からX-1年まで星状神経節ブロックとアミトリプチリン投与を中心に加療が継続された.X-1年に再度入念な診察を施行したところ,頸部に圧痛点があること,眼窩部痛はおもに日中に間欠的に生じ,流涙や眼瞼下垂が併発することを確認した.後頭部痛については左C2/3椎間関節痛の関与を考慮し,同部位の透視下椎間関節ブロックを施行.後頭部痛の軽減が得られたため,左C3後枝内側枝高周波熱凝固を後日施行した.後頭部痛は半減し,さらにエコーガイド下でのC2横突起をメルクマールとした,第2頸神経根ブロックを複数回施行.後頭部痛はVAS 20 mm程度まで軽減した.眼窩部痛については,GOTSだけでなく自律神経性頭痛の関与を考慮し,カルバマゼピンとプレガバリン,ラメルテオンなどの投与を開始.ロメリジンは無効であったが,次第にVAS 30 mm程度まで軽快した.現在も当科外来で加療継続中ではあるが,本症例について多少の考察を加え報告する.

星状神経節ブロック施行後に脊髄性ミオクローヌスを呈した症例

大橋雅彦*1 谷口美づき*2 植田 広*2 鈴木祐二*1 五十嵐 寛*3 中島芳樹*2

*1浜松医科大学医学部附属病院集中治療部,*2浜松医科大学医学部麻酔科蘇生学講座,*3浜松医科大学医学部医学教育推進センター

【症例】55歳女性.

【既往歴】椎間板ヘルニア,反復性うつ病性障害,過換気症候群.

【現病歴】1年前に猫ひっかき病を発症し,それに伴って右腋窩リンパ節腫脹が出現したため,診断目的でリンパ節生検を近医で施行した.生検施行後から右腋窩と右上肢に疼痛が出現したため,トラマドール,プレガバリンを処方されたが,疼痛は改善せず当院麻酔科へ紹介受診となった.当科受診後は,外来で1%メピバカイン5 mlを用いた,側方アプローチ法による超音波ガイド下星状神経節ブロックおよびトラマドール・アセトアミノフェン配合剤,デュロキセチンによる内服治療を行った.当科受診2カ月後,24回目の星状神経節ブロック施行から20分後に,右上肢に限局した不随意運動が出現した.意識は清明であり,感覚障害は認めず,局所麻酔薬中毒を疑う所見はみられなかった.神経内科にコンサルトしたところ,ブロックの刺激に対する脊髄性ミオクローヌスが疑われ,経過観察となった.その後,徐々に不随意運動は軽減し,ブロック施行から2時間30分後には不随意運動はほぼ消失したため帰宅とした.

【考察】本症例は,星状神経節ブロックにより脊髄性ミオクローヌスを呈したものと考えられた.ミオクローヌスとは,律動性の不随意性筋収縮運動であり,麻酔科領域では,脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔に続発した症例や麻薬投与によって誘発された症例の報告はあるが,星状神経節ブロックによって発症した例はきわめてまれである.今回の希少な症例について,文献的考察を交えて報告する.

トラマドール製剤とデュロキセチンの併用により誘発されたセロトニン症候群の3症例

中村好美 吉村文貴 山口 忍 杉山陽子 田辺久美子 飯田宏樹

岐阜大学医学部附属病院麻酔科疼痛治療科

【はじめに】セロトニン症候群は,セロトニン機能の異常亢進によって中枢神経系,自立神経系などの症状を呈す症候群である.セロトニン系を賦活させる薬物の投与により生じるが,単剤よりは多剤併用での発生率が高い.今回われわれは,トラマドール製剤投与中の慢性疼痛患者に対してデュロキセチンを追加投与し,セロトニン症候群を誘発した3症例を経験した.

【症例1】61歳男性.帯状疱疹後神経痛に対して,トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(3錠/日),プレガバリン(25 mg/日),ミルタザピン(15 mg/日)を内服中であった.追加の鎮痛薬を希望されたため,デュロキセチン(20 mg/日)を投与したところ,投与開始当日に焦燥感および動悸が出現した.

【症例2】74歳男性.頸椎症による頸部痛に対して,トラマドール塩酸塩(50 mg/日)およびプレガバリン(25 mg/日)を内服中であった.デュロキセチン(20 mg/日)を追加投与し,発汗過多および焦燥感が出現した.

【症例3】25歳男性.腰椎椎間板ヘルニア術後に残存する下肢の痛みのため,トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(3錠/日)を内服していた.デュロキセチン(20 mg/日)の追加投与により動機と発汗過多が出現した.

【考察】3症例ともにデュロキセチンの内服当日にセロトニン症候群の症状が出現し,自己中断にて翌日に症状は消失した.トラマドールとデュロキセチンはともにセロトニンおよびノルアドレナリンに対する再取り込み阻害作用があり,下行性疼痛抑制系を賦活する.今回経験したセロトニン症候群の3症例は,いずれもトラマドール製剤を内服しており,デュロキセチンを併用することでさらにセロトニン濃度が上昇したと考えられる.

【結語】トラマドール製剤とデュロキセチンの併用により誘発されたセロトニン症候群の3症例を経験した.セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害作用を有する薬剤の併用には注意が必要である.

 
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