Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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SAPHO syndrome preceded by chronic recurrent back pain for seven years before the appearance of a skin lesion: a case report
Yuko NAKANORieko OISHIMasayuki NAKAGAWAKaoru SATONorie SANBEMasahiro MURAKAWA
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2018 Volume 25 Issue 1 Pages 20-23

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Abstract

症例は47歳の女性.背部痛を主訴として当科を受診し,MRIでTh6,7椎体前方に異常信号を認めたが,受診1カ月後には痛みが完全に消失していた.初診より7年後,両膝から下の痛みを訴え再度来院し,MRIでL3/4,4/5に脊柱管狭窄を認めたが,症状が軽度であったため,プレガバリンを処方し保存的に治療した.経過中に左胸部痛や背部痛を訴えたが自然に軽快,受診ごとに訴える部位が異なるため経過を観察していた.初診より7年6カ月後,左胸鎖関節の圧痛と両手掌の皮疹が出現したため,掌蹠膿疱症,胸鎖関節病変,脊椎病変を伴ったSAPHO症候群を疑った.しかし,保存療法のみで症状が軽快したため経過観察中である.SAPHO症候群は皮膚,骨関節病変を統合する概念である.病因の詳細は不明であり,寛解と増悪を繰り返すが,一般に予後良好な疾患である.皮膚症状よりも背部痛が先行した場合に診断は困難であり,本疾患を念頭に置いて診療にあたる必要がある.

I はじめに

synovitis-acne-pustulosis-hyperostosis-osteitis(SAPHO)症候群は,膿疱性皮膚病変と骨関節病変により構築される疾患概念である.今回,背部痛を訴え受診した症例で,MRIで胸椎椎体に高信号病変を認めたものの疾患を特定できず,初診より7年後に皮膚症状が出現し,初めてSAPHO症候群を疑った1例を経験した.ペインクリニック領域では診療する機会の少ない疾患であり,文献的考察を加え報告する.

なお,本症例報告については患者本人からの承諾を得た.

II 症例

患者は47歳の女性.身長158 cm,体重56 kg.ロキソプロフェンで皮疹が生じた以外は特記すべき既往はなかった.誘因なく左肩甲下付近の背部痛が出現し,11日後に当科を受診した.血液検査,胸椎単純X線で異常がなく,スクリーニング目的に胸椎MRIを撮影した.Th6~8椎体前方にT2脂肪抑制条件で高信号を呈する異常を認めたが(図1),初診より7日後には痛みが完全に消失したため1カ月の経過観察の後に終診とした.

図1

胸椎MRI(T2脂肪抑制):Th6~8椎体前方に高信号

初診より5年4カ月後,左鎖骨下の痛み,両膝屈側の痛み,腓腹筋痙攣(こむら返り)が出現したため,5年10カ月後,当科を再受診した.胸鎖関節を含む単純X線写真で異常所見はなく症状も軽度であったため,腓腹筋痙攣に対し芍薬甘草湯を処方した.2週間後,胸の痛みは軽快していた.以後,約1カ月ごとに来院したが,膝,足首,背部など,受診ごとに訴える部位が異なり,自然に寛解していた.6年8カ月後,腰椎MRIを撮影したところL3/4,4/5で変性椎間板,黄色靱帯の肥厚による硬膜嚢圧排の所見を認めたが,症状は軽度であること,また痛みの部位が一定しないことからプレガバリン25 mg/日を処方し保存的に治療した.7年5カ月後,左胸鎖関節の圧痛と両手掌の皮疹が同時に出現した.このとき初めて,掌蹠膿疱症,胸鎖関節病変,脊椎病変を伴ったSAPHO症候群を疑った.保存的治療のみで症状は軽快し,現在はプレガバリン,芍薬甘草湯の内服を継続している.

III 考察

SAPHO症候群は,1987年にリウマチ医であるChamotらにより提唱された疾患概念である1).synovitis(滑膜炎),acne(痤瘡),pustulosis(掌蹠膿疱症),hyperostosis(骨化過剰),osteitis(骨髄炎)の頭文字をとった症候群であり,骨関節の炎症と無菌性の皮膚炎症性疾患の合併が基本となる.日本においては10万人あたりの年間発症0.00144人と,まれな疾患である.診断基準,治療指針とも確立されておらず,ガイドラインは存在しない.診断基準についてはKahnらにより示され,2003年に改変されたものが現在最も適切とされている2)表1).それによると診断基準として,①掌蹠膿疱症,尋常性乾癬に伴う骨関節病変,②重度の痤瘡に伴う骨関節病変,③無菌性の骨肥厚症/骨炎(Propionibacterium acnesを除く)(成人),④慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)(小児),⑤慢性腸疾患に伴う骨関節病変があげられ,また除外基準として化膿性骨髄炎,骨腫瘍性病変,非炎症性の骨濃縮病変があげられている.診断基準の,⑤慢性腸疾患に伴う骨関節病変に関しては他の症候群と重複するため,SAPHO症候群の診断基準に含めるべきかについては議論があり,今後も診断基準は改変される可能性がある.

表1 SAPHO症候群の診断基準
Inclusion i) 掌蹠膿疱症,尋常性乾癬に伴う骨関節病変
ii) 重度の痤瘡に伴う骨関節病変
iii)無菌性の骨肥厚症/骨炎(Propionibacterium acnesを除く)(成人)
iv) 慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)(小児)
v) 慢性腸疾患に伴う骨関節病変
Exclusion 化膿性骨髄炎
骨腫瘍性病変
非炎症性の骨濃縮病変

Kahnらが提示し,2003年米国リウマチ学会第67回学術集会にて一部改変2)

本症例は脊椎病変に伴う背部痛で受診し,MRIではTh6~8椎体前方にT2脂肪抑制条件で高信号を呈する異常があった(図1).椎体辺縁部の所見はcorner lesionと呼ばれ,SAPHO症候群の脊椎病変に特徴的な所見である.初診から7年後に胸鎖関節炎と掌蹠膿疱症を同時に呈し,診断基準の①掌蹠膿疱症に伴う骨関節病変(胸鎖関節病変,脊椎病変)に該当したことで診断に至った.SAPHO症候群を疑う場合,化膿性骨髄炎などの感染症や骨腫瘍性病変との鑑別は重要である.本症例ではMRIで腫瘍性病変は否定的であり,感染性脊椎炎で認められるような椎間板の変化や膿瘍の形成がなく,血液検査でも感染症や腫瘍性病変を示唆する所見はなかった.

SAPHO症候群の長期予後は良好とされ,無症状の場合は経過観察が基本である.痛みがある場合,非ステロイド性抗炎症薬の投与が第一選択である.骨関節病変が重症な場合,コルヒチン,コルチコステロイド,ビスホスホネート,メトトレキサート,抗TNF-α製剤や,生検で培養陽性の症例では抗菌薬投与が有効との報告がある2)

脊椎病変はSAPHO症候群の約1/3に認められ,なかでも胸椎病変が最も多く,頸椎病変はまれである.その進行形式から,①非特異的脊椎椎間板炎型(脊椎終板の不整,骨硬化を伴うびらん,椎間板の狭小化),②骨硬化型(椎体の骨硬化性変化),③傍椎体骨化型(椎体全面の骨の架橋,椎間板の石灰化ないし骨化)の3型に分けられる3).Laredoらは脊椎病変を有するSAPHO症候群患者12症例のMRIを検討し,以下のような特徴を報告している4).① 12症例で,脊椎病変は合計24カ所認めた.②そのうち17カ所(71%)が単独椎体の病変であり,3椎体または4椎体連続した病変は3カ所(12%)であった.③すべての脊椎病変で椎体辺縁部のびらんがあり,うち96%でcorner lesionがあった.④ 12症例すべてに背部痛の症状が存在したが,受診時に特徴的な胸鎖関節炎と皮膚病変を合併していたのは6症例であった.しかし本症例では,背部痛と胸鎖関節炎や皮膚症状が同時に出現せず,出現しても軽度ですぐに自然寛解したため,早期の診断に結びつかなかった.早期に撮影したMRIでは胸椎椎体に特徴的なcorner lesionが存在しており,この所見に着目して鑑別疾患として考慮すべきであった.

SAPHO症候群の患者で,皮膚症状と骨関節症状のどちらが先行するかは症例により異なる.Hayemらは120症例のコホート研究で,皮膚症状先行が39%,骨関節症状先行が32%と報告した.また,同時の出現も含め2年以内に68%の症例で皮膚症状と骨関節症状がそろったが,38年を要した症例もあったと報告している5).本症例では,脊椎病変による背部痛の出現から7年5カ月後に胸部皮膚症状が出現したが,背部痛が自然寛解したため終診となった.このような疾患についての知識がないと,同一疾患と認識することが困難となる.

骨関節病変による痛みを主訴にSAPHO症候群の患者がペインクリニックを受診する可能性があるが,同時にその他の特徴的な病変を呈していない場合は診断が難しい.ペインクリニック領域では,腰痛を主訴とし,MRIの所見より脊椎転移性腫瘍を疑われたが,胸部単純X線写真で両側胸鎖関節の骨化過剰を呈していたことから診断に至った症例が報告されている6)

SAPHO症候群は皮膚科または整形外科領域で治療されることの多い疾患であるが,脊椎病変のみを呈した場合の診断は難しく,感染や悪性疾患の除外のために骨生検が行われることも多い.しかし長期予後が良好であることから可能なかぎり侵襲的な検査は避けるべきである.本疾患は痛みを主訴としてペインクリニック科への受診もありうるため,診断の際には,鑑別疾患として本疾患を認識することが重要である.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第50回大会(2016年7月,横浜)において発表した.

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