Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Mechanisms of pain in osteoarthritis and new developments in pharmacological treatment
Takashi ISHIDATakemi SEKIGUCHIMikito KAWAMATA
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2018 Volume 25 Issue 2 Pages 53-62

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Abstract

変形性関節症をはじめとする関節炎は,移動時に痛みが増強するため移動機能障害を招き,患者のQOLを著しく低下させることが問題となっている.関節炎の痛みの薬物療法として消炎鎮痛薬が用いられるが,長期投与による腎臓や消化管への副作用から,関節炎による痛みのメカニズムに基づいた,有効かつ安全な新たな治療法の開発が求められている.関節炎では,滑膜線維芽細胞や軟骨細胞からのIL-1やTNF-αをはじめとする各種炎症性サイトカインの放出が起こり,軟骨の変性や骨増生が起こる.炎症は関節内のみにとどまらず,関節周囲組織にも広範囲に波及する.慢性的な炎症に末梢神経や中枢神経における可塑的変化が生じ神経障害性疼痛の側面も持つようになり,痛みのメカニズムは複合的となる.さらに関節炎患者では,関節内の炎症や骨破壊だけでなく,骨髄内病変の出現により痛みが増強することが知られている.したがって関節炎では,関節・骨・骨髄の病変が相互に作用し,複合的なメカニズムにより痛みが増強する.本稿ではまず関節炎に伴う複合的な痛みのメカニズムを概説する.次いで,痛みのメカニズムに基づいた新たな鎮痛薬・鎮痛法について解説する.

I はじめに

変形性関節症をはじめとする関節炎の患者数は国内で約1,000万人と,慢性疼痛患者のおよそ20%を占め,痛みの有訴者率も高い1).さらに,関節炎は移動時に痛みが増強して移動機能障害を招き,患者のADLとQOLを著しく低下させるため,社会的損失も大きい.

現在,変形性関節症の疼痛治療として,おもに理学療法と薬物療法(内服薬,神経ブロック,関節内注射)が組み合わされ,これらの治療法では痛みがコントロールできない場合に,人工関節置換術が行われる2,3).しかし,人工関節には耐用年数があるため,早期に人工関節置換術を行うと,人工関節破損による再置換のリスクが高くなる24).また,人工関節置換術後は長期的にはQOL改善効果が低下し,人工関節の再置換を行った際には,初回と同等のQOL改善は望めない2,3).そのため,薬物療法で疼痛コントロールを行い,できるかぎり手術時期を遅らせる必要がある.

これまで,関節炎の薬物療法として非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)とアセトアミノフェンがおもに用いられてきた4).これらの薬物で痛みのコントロールが不十分な患者では,三環系抗うつ薬,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin noradrenaline reuptake inhibitors:SNRI)やオピオイドなどが用いられるが,これらを用いても十分な鎮痛が得られない場合も多い1,4).特に,NSAIDsはさまざまな副作用により薬物療法の継続が困難となることも多い.このため2014年にOsteoarthritis Research Society International(OARSI)から示されたガイドライン4)では,NSAIDsの長期使用は,消化管出血,心血管イベント,腎機能障害を増加させるため,投与量,投与期間を適正化すべきであると述べられている.そこで,有効かつ副作用の少ない,関節炎による痛みのメカニズムに基づいた新規鎮痛薬を開発し,NSAIDsに代わる治療法を確立することが求められている.

本稿では,変形性関節症をはじめとする関節炎と,関節炎の痛みの発症メカニズムを概説し,次いで最近の新規薬物治療法を紹介する.

II 関節炎のメカニズム

関節炎では,関節軟骨の変性,関節間隙の狭小化が起こる.次いで軟骨下骨の増殖と破壊が起こり,骨棘の形成が起こる.MRI像では,関節軟骨の変性,骨棘形成,軟骨下骨の障害のみならず骨髄内病変,滑膜炎などの所見も認められる5).過去の報告から関節炎のメカニズムには,①関節内でのサイトカイン放出による炎症,②関節の変形に伴う機械的刺激の増加,③炎症に伴う神経伸展・血管新生,④関節周囲組織への炎症の波及が関わっていることが示唆される6,7)

1. 関節内のサイトカイン放出

変形性関節症の痛みの発症には,滑膜線維芽細胞や軟骨細胞からのインターロイキン(interleukin:IL)-1βやtumor necrosis factor α(TNF-α)の放出が重要な役割を担っている(図17).IL-1βやTNF-αは滑膜線維芽細胞,滑膜マクロファージや軟骨細胞を活性化し,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)E2を含むさまざまな炎症性サイトカインの産生が促進され,関節内へと放出される.そして,炎症性サイトカインは侵害受容器の活性化や侵害受容性神経のチャネルの易興奮性を惹起し(末梢性感作),痛みの増強を招く8)

図1

変形性関節症による痛みの末梢性メカニズム

変形性関節症ではIL-1β,TNF-αの関節内への放出が起きている.機械的なストレスやIL-1β,TNF-αにより軟骨細胞が刺激され炎症性サイトカイン,PGE2が放出され炎症性痛を引き起こす.また,NGFの放出も同時に起こり神経伸長を引き起こし,痛みが増強する.

IL:interleukin,TNF:tumor necrosis factor,PGE2:prostaglandin E2,NGF:nerve growth factor,MMP:matrix metalloproteinase,COX:cyclooxygenase,NO:nitric oxide,VEGF:vascular endothelial growth factor

2. 機械的ストレスの増加

関節内に放出された炎症性サイトカインによって活性化された軟骨細胞が,マトリックスメタロプロテアーゼ(matrix metalloproteinase:MMP),活性酸素や一酸化窒素(nitric oxide:NO)などを産生し,軟骨の変性が起こる7).軟骨の変性が起こると,軟骨下骨への機械的なストレスが増加し,骨芽細胞からPGE2やIL-6の放出が促進する.骨芽細胞から放出されたこれらの炎症性サイトカインは軟骨細胞をさらに活性化し,MMP,活性酸素や炎症性サイトカインのさらなる産生を引き起こす7).さらに,機械的ストレス増加に伴う骨芽細胞や破骨細胞の活性化により骨増殖破壊が起こり,その結果骨棘を形成する9).骨棘の形成は局所的な機械的なストレスを増強し,痛みの原因となる10)

3. 神経血管増殖

変形性関節症患者では変形に伴う機械的刺激増加による局所的な虚血が起こる10).さらに,炎症性サイトカインの影響により,軟骨細胞や滑膜細胞が神経成長因子(nerve growth factor:NGF)や血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)を産生する7).VEGFにより軟骨下骨や滑膜で生じた新生血管は,細胞接着分子を発現しているため,関節周囲組織への炎症細胞の浸潤を促進し,関節内および関節周囲の炎症をさらに促進する11).NGFは,関節内組織への神経伸長を促し,痛みに対する感受性を亢進する結果,痛みが増強する1215)

4. 関節周囲組織への炎症の波及

関節の炎症は関節内のみにとどまらず,関節周囲組織(靱帯,軟骨下骨,骨髄など)にも波及する.その結果,関節周囲組織においても痛覚過敏が起こり,変形性関節症の痛みが増強する16).また,関節炎による慢性的な侵害刺激の入力により中枢性感作が起こり,さらに痛みが増強する16)

一方,関節炎が慢性化すると,末梢神経や中枢神経における可塑的変化が生じ,神経障害性疼痛の要素が出現する17,18).すなわち,関節や関節周囲の靱帯,軟骨下骨,皮質骨,骨髄などさまざまな組織で繰り返す炎症反応に伴い微小神経障害や神経伸長を繰り返し,神経障害性疼痛の要素が加わる.その結果,持続的な侵害刺激の入力と相まって,複合的な疼痛状態を呈するようになる17,18).さらにオピオイドへの感受性も,関節炎の慢性化に伴い低下することが知られている17).このように,臨床で遭遇する個々の患者の関節炎の痛みの受容のメカニズムは,病状や病期に応じて複雑に変化することを念頭に置く必要がある.

III 関節炎による痛みのメカニズム

関節炎の発症による関節炎の“痛み”のメカニズムは,以下の4つに分類できる.それぞれについて概説する.

1. 関節からの求心性神経線維

関節からの求心性線維の一部は筋肉,皮膚,骨からの求心性線維と合流し脊髄後根に入力している.また,関節に分布する神経の20%が有髄線維であり,80%が無髄線維である19).有髄線維はAβ線維とAδ線維に分けられ,無髄線維は求心性知覚神経と遠心性交感神経に分けられる19).Aβ線維は靱帯,滑液包,半月板に分布し,Aδ線維は靱帯,半月板,滑液包,骨に分布し,C線維は靱帯,半月板,滑液包,骨,滑膜に分布する20).関節軟骨には神経は分布しない20).このことから,関節の痛みはAδ線維およびC線維が分布する靱帯,半月板,滑液包,骨,滑膜から起こると考えられる.

2. 関節の痛みの受容

関節は健常者では機械的刺激と化学的刺激によって痛みが惹起される21).機械的刺激は関節の過伸展や過度の回旋により痛みが起こる21).また,化学刺激ではブラジキニン,PGE2,PGI2,セロトニン,カプサイシン,アデノシン,アデノシン三リン酸(adenosine triphosphate:ATP),サブスタンスP,TNF-α,IL-6などさまざまな化学物質の関節内注射で痛みが惹起され,それに対応するさまざまな受容器が存在することが示唆されている(図221,22)

図2

一次知覚神経終末における鎮痛ターゲット

関節内にはさまざまな痛みの受容や修飾に関与する受容体が存在している.これらの受容体に対して炎症性サイトカインが作用することで変形性関節症の痛みを惹起するため,鎮痛薬の開発のターゲットとしても注目されている.

TRP:transient receptor potential,ASIC:acid-sensing ion channel,TNF:tumor necrosis factor,NK-1:neurokinin 1,H:hydrogen ion,ATP:adenosine triphosphate,PGE2:prostaglandin E2

関節炎患者では正常可動範囲内での運動でも痛みが起こり,しばしば安静時にも痛みが起こる1,23).このことから,関節炎患者では機械的刺激の増加や侵害受容器の感受性の亢進が起こっていると考えられる.関節炎患者では,関節軟骨の変性により皮質骨への機械刺激の入力が強くなり,骨棘の形成により直接神経を圧迫することがある.さらに,関節内圧の上昇24)や皮質下骨の圧上昇25)を伴う.これらの結果,体動時の痛みの増強だけでなく,安静時にも自発痛が出現すると考えられる.

3. 痛みの強さと関節炎

関節炎患者では,画像所見により関節の狭小化や関節破壊像を認めても,痛みを自覚しない患者が多い26).そして関節の変形が進むと,むしろ関節が安定し痛みが弱くなることがある.実際,関節の破壊の程度と痛みの強さには関連がないことが知られており27),関節炎の痛みの強さには,骨棘の形成,滑膜炎の強さ28),骨髄内病変(炎症)5)が関与していると報告されている.特に,関節周囲組織(滑膜・骨髄)の炎症の強さが変形性関節症の痛みの強さに関与していることから,関節炎の痛みの少なくとも一部は,関節周囲組織由来と考えられる.

IV 関節炎による痛みと骨髄の関与

1. 関節炎と骨髄病変

脊髄後角では単一のニューロンがさまざまな組織(皮膚,筋肉,内臓など)からの侵害刺激を受容している29).そのため,内臓や深部の筋肉などに損傷や炎症が起こると,皮膚での関連痛が生じる30).関節炎では,骨・骨髄・滑膜・筋肉などさまざまな組織の炎症を惹起することから,これらの組織からの侵害刺激が脊髄後角に入力され,互いに増強しあっていると考えられる19,23).変形性関節症の痛みの強さに骨髄病変(骨髄浮腫)の程度が強く関与していることから3133),骨髄からの侵害刺激の入力が関節炎の痛みに強く関与していることが示唆される.

実際,骨髄内には痛みを受容する神経が存在することが示されており34),骨髄内圧の上昇が痛みを増強し35,36),除圧で痛みが軽減する37).さらに,骨髄吸引時には痛みが誘発され38),この痛みは皮膚への経皮神経電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:TENS)で軽減することが知られている39).これらの結果から,骨髄組織には圧変化に伴う機械的刺激に応答する侵害受容器が存在し,当該皮膚受容野への関連痛を起こしていることが示唆される.そして,関節炎患者では人工関節置換術を行うと,骨髄内圧が減圧されることに加え,サイトカインや感受性の亢進した骨髄内の侵害受容神経が除去され,痛みの軽減につながっている可能性がある.

2. 骨髄への侵害刺激と皮膚での関連痛

Ishidaら40)の報告によると,ラットの大腿骨骨髄内に留置したバルーンを拡張させ骨髄内圧を上昇させると,バルーン圧に応じて自発痛関連行動が増加し,大腿部皮膚で機械刺激逃避閾値が低下する.したがって,骨髄内刺激により自発痛と痛覚過敏が起こると考えられる.また脊髄後角ニューロンでは,骨髄内バルーン内圧上昇に応じて活動電位の発射頻度が増加するとともに,腰部・大腿外側部・膝部の皮膚への刺激に対しても活動電位を生じた(図340).これら骨髄内バルーン内圧上昇に応答するニューロンは,非侵害刺激から侵害刺激へと刺激強度の上昇に応じて発射頻度を増加させるwide-dynamic-range(WDR)ニューロンと,侵害皮膚刺激にのみ応答するhigh-threshold(HT)ニューロンで,非侵害刺激のみに応答するlow-threshold(LT)ニューロンは,骨髄刺激では活動電位を惹起しなかった.したがって,骨髄刺激では痛み感覚だけが誘発され,触覚などの感覚は惹起されないことが示唆された.さらにモルヒネの脊髄投与により,WDRニューロンとHTニューロンの興奮は抑制された40).以上の結果より,骨髄内に存在する一次知覚神経は侵害刺激のみを受容し,脊髄後角ニューロンに侵害刺激を伝達するが,この脊髄後角ニューロンは皮膚への刺激にも応答することが示された.すなわち,骨髄は侵害刺激を受容し脳へと伝導するとともに,関連した腰部・大腿外側部・膝部の皮膚への関連痛をも惹起することが明らかとなった(図3).過去の報告から,変形性関節症の骨髄病変がヒトの皮膚にも関連痛や痛覚過敏をきたす可能性が示唆されている3033).本研究から,関節炎における骨髄内の圧上昇が,実際に皮膚への関連痛を起こし,この関連痛が関節炎の痛みの強さに影響していることが示された(図4).

図3

大腿骨骨髄内侵害刺激に応答する脊髄後角ニューロンの特性(a)とその皮膚受容野(b)

a:大腿骨骨髄内刺激に応答する脊髄後角ニューロンの一部は皮膚侵害刺激にも応答する.脊髄後角レベルでは単一のニューロンが皮膚・筋肉・骨などさまざまな組織からの投射を受けているため,それぞれの組織からの刺激の入力が互いに修飾しあう可能性がある.

b:大腿骨骨髄内刺激に応答する脊髄後角ニューロンは腰背部から大腿部の皮膚の侵害刺激にも応答する.大腿骨骨髄内が刺激されると,この部位の皮膚の痛覚過敏が起こる.

(文献40より引用)

図4

関節組織から脊髄後角への侵害刺激の入力

脊髄後角では複数の組織(皮膚・骨・筋肉など)からの入力を受ける単一ニューロンが存在している.このようなニューロンが関連痛・関連痛覚過敏のメカニズムに関わっていると考えられている.変形性関節症では,皮質骨のみならず骨髄,筋肉,滑膜などさまざまな組織の炎症が起こり複数の組織からの侵害刺激の入力が痛みを増強している可能性がある.

3. 関節炎による関節内や周囲組織への神経伸長

ラットの膝関節炎を誘発すると,関節包,皮質骨,半月板でC線維に特異的に発現するcalcitonin gene-related peptide(CGRP)陽性神経の増加を認めた.逆行性神経トレーサーを膝関節内に投与したところ.ShamラットではおもにL3の脊髄後根神経節(dorsal root ganglion:DRG)に比較的限局してトレーサーが取り込まれていたのに対し,膝関節炎ラットではL1~5のDRGに幅広くトレーサーが取り込まれていた.ラットでは大腿神経はおもにL2~3髄節に由来し,坐骨神経はおもにL4~5髄節に由来する41).したがって,関節炎が起こる前は関節内に投与されたトレーサーがおもに大腿神経に取り込まれたものと考えられる.一方,関節炎によるL4,5のDRGへのトレーサーの取り込みの増加は坐骨神経由来の知覚神経への取り込みと考えられ,関節炎により大腿神経のみならず坐骨神経の知覚神経も側芽を関節内に伸ばしてきている可能性が示唆された.過去の報告でも関節炎モデルでは滑膜や骨膜でCGPR陽性神経やNF200陽性神経が顕著に増加しており,関節の神経可塑性が示唆されている42).変形性膝関節炎患者の人工関節置換術では,膝前面に皮膚切開がなされるのに,術後は膝窩部痛が生じること,大腿神経ブロックと坐骨神経ブロックを併用することで良好な術後鎮痛が得られることが知られている43).上記より術前に関節・関節周囲組織へ伸長した坐骨神経が手術操作により障害され,膝窩部痛に関与している可能性が示唆された.

以上より,関節炎によって,関節包,皮質下骨,半月板での痛み受容神経の増加,関節支配神経の脊髄後角ニューロンへの投射範囲の拡大が起こり,関節周囲組織(皮質下骨骨髄)の痛覚過敏が起こることが明らかとなった.すなわち,関節炎により関節の支配神経の量的・質的変化が起きていることが関節炎の痛みの一因と考えられる(図5).このような関節や関節周囲組織への神経伸長や側芽の増加と,関節炎の痛みが神経傷害痛の要素を獲得することとの間に,なんらかの関連性があると考えられ,さらなる研究が必要である.

図5

変形性関節症の痛みのメカニズム

変形性関節症ではさまざまな組織(骨,靱帯,滑膜,骨髄)の炎症による侵害刺激が互いに強めあって,痛みを増強する.また,関節の炎症により神経の伸展が促され,大腿神経・坐骨神経より側芽が伸びてくる.関節を支配する神経の量的・質的変化が関節痛に関与している可能性がある.

V 関節炎に対する薬物治療

現在,関節炎に関与するさまざまな蛋白が発見され,その蛋白をターゲットとした治療薬が開発されている(図644).特にNGFは関節炎のみならず他の炎症性疼痛への関与も示されており,炎症性疼痛の鎮痛ターゲットとして注目されている1214)

図6

変形性関節症のメカニズムと治療のターゲット

TNF:tumor necrosis factor,IL:interleukin,NGF:nerve growth factor,BMP:bone morphogenetic protein,FGF:fibroblast growth factor,PRP:platelet-rich plasma,PTH:parathyroid hormone,PTHrP:parathyroid hormone-related protein,MMP:matrix metalloproteinase,ADAMTS:a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs

1. 抗NGF抗体

NGFはtropomyosin receptor kinase A(TrkA)を活性化し,熱刺激や機械刺激,化学刺激などによる侵害受容器の感作を起こす1214).そのメカニズムの一つとしてNGFは酸や熱刺激を受容するtransient receptor potential cation channel subfamily V member 1(TRPV1)受容体の発現増加を促進する45,46).さらにNGF-TrkA複合体は神経細胞体へ逆行性輸送され,サブスタンスPやCGRPなどの神経伝達物質や受容体,チャネル,転写因子などの合成を促進する47,48).このNGFを鎮痛のターゲットとして抗NGF抗体の開発が行われている.抗NGF抗体(タネツマブ)は変形性膝関節症患者の歩行時の痛みを有意に改善したが,関節破壊や骨壊死進行が認められたため治験が一時中止されていた49).しかし,近年,その有用性が見直され第III相試験が再開され臨床での使用が期待されている.

2. 抗サイトカイン療法(IL-1β,TNF-α)

変形性関節症の発生には多種のサイトカインが関与しているが,そのなかでもIL-1βとTNF-αが軟骨の破壊に重要な役割を担っている7,50).IL-1βやTNF-α阻害を治療のターゲットとしてIL-1受容体阻害薬(アナキンラ)やTNF-阻害薬(エタネルセプト,アダリムマブ)が開発されている.アナキンラはリウマチ性関節症の治療には有効であるが,変形膝関節症では全身投与を行っても鎮痛効果は示されていない51).一方,エタネルセプトは関節内に注入することで重度~中等度の変形性膝関節症患者に対し鎮痛効果を認めた52).これらのような抗サイトカイン薬は全身投与を行うと易感染性を惹起してしまうため,関節内注射などの局所投与の有効性が期待されている.

3. ヒト血清アルブミン

5 kDa以下に限外濾過されたヒト血清アルブミンの膝関節内注入が,変形性関節症の治療法として試されている.ヒト血清アルブミンは,T細胞での炎症性サイトカインの産生を抑制することで変形性関節炎に対し鎮痛効果を示す53,54).米国で行われた第III相試験では,プラセボに比べてWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)を40%超える改善率を示した55)

4. メトトレキサート(methotrexate:MTX)

関節リウマチに対する標準的治療薬であるMTXであるが,近年,変形性関節症の治療薬としての可能性が模索されている.イギリスで行われたオープンラベル研究56)では,変形性膝関節症の痛みを43%の患者で30%以上改善させた.こうした研究から,MTXが変形性関節症の新たな治療薬となることが期待されている.

5. プレガバリン

神経障害性疼痛の治療薬として用いられるプレガバリンも変形性関節症の鎮痛薬として注目されている.小規模の臨床試験ではプレガバリンはプラセボ群と比較し変形性手関節症患者の疼痛スコアを低下させた57)

VI おわりに

変形性関節症を含む関節炎の痛みのメカニズムと,新規鎮痛薬について概説した.NSAIDsの長期使用は,もはやガイドライン上も推奨されておらず,新規治療薬の開発,実用化が待たれるところである.今後は関節炎のメカニズムを解明し,メカニズムに基づいた,安全でより有効な治療法の開発に期待したい.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第50回大会(2016年7月,横浜)において発表した.

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