Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Retrospective study of long-term administration of tramadol in patients with chronic pain
Hisashi DATEYukio MORITATomoko KITAMURAAkira YAMASHIRONanae WATABIKIHidekazu WATANABENoriko TAKIGUCHIYusuke TSUTSUMIKouji IWANAGATomofumi CHIBA
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2018 Volume 25 Issue 4 Pages 238-243

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Abstract

【目的】慢性疼痛に対しトラマドール含有製剤(以下,トラマドール)が広範に使用されるようになった.そこで日常診療においてトラマドールを長期投与した症例について投与量,効果,副作用などの推移を調査することとした.【方法】当院の診療録を後方視野的に検索し,トラマドールを3年以上長期に投与した症例の投与量,痛みの程度,副作用などについて集計することとした.【結果】トラマドールは2,656例に投与され,そのうち,3年以上継続投与された症例が50例あった.平均年齢は約61歳,痛みの内訳は運動器疾患(腰背部痛)24例,運動器疾患(頸部上肢痛)14例,運動器疾患(下肢痛)7例,帯状疱疹後神経痛4例などであった.痛みの程度については,開始時の視覚アナログスケール(VAS)が平均70.7 mmであったが,投与後3カ月以降はおおむね40 mm以下に推移し,投与後約3年時には平均33.6 mmまでに改善した.おもな副作用はめまい・傾眠・倦怠感,悪心・嘔吐,便秘で,投与期間別に発現頻度をみると,開始後3カ月までの発現率が高かった.【結論】トラマドールを3年間以上継続投与した症例では重大な副作用はなく,トラマドールは患者の観察を行いながら注意深く使用すれば長期に使用できることが確認された.

I はじめに

腰痛症,変形性膝関節症,帯状疱疹後神経痛など,いわゆる慢性疼痛の増加が話題となっている.慢性疼痛に適応があるオピオイド療法としては,以前はリン酸コデインもしくは塩酸モルヒネ錠・末などに限られていたが,近年慢性疼痛の適応を有するオピオイドが次々と上市された.

トラマドール含有製剤(以下,トラマドール)もその一つであり,現在では慢性疼痛に対し広範囲に使用されるようになった.トラマドールは麻薬指定を受けていないが,成分自体はオピオイドに分類されている.しかし,海外では非がん性慢性疼痛に対するオピオイドの長期使用に関して3カ月もしくは6カ月に限定するガイドライン1)もあり,漫然と投与を継続するのは問題となっている.昨年わが国で発行された“非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン 改訂第2版”でも,投与期間については同様に記載されている2).強オピオイドの使用に関しては長期の安全性には問題があると思われるが,依存性の少ないトラマドール3)の長期投与に関しては,いまだ一定の見解は得られていない.トラマドールに関しては,臨床報告では3カ月までの短期投与の報告が多く,長期投与については1年投与の報告がいくつかみられるに過ぎない4,5).そこで,当院におけるトラマドールの処方を調査し,3年以上投与された症例について痛みの程度[視覚アナログスケール(visual analogue scale:VAS)],副作用,服薬量などの推移をみたので,その結果を報告する.

II 対象と方法

1. 対象

当院に来院している患者で非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drugs:NSAIDs)などの鎮痛薬の効果が不十分な非がん性慢性疼痛患者で,トラマドール(商品名:トラマール®カプセル,トラマール®OD錠,トラムセット®配合錠,ワントラム®錠)を3年以上継続服薬している症例を選択することとした.

なお,本調査研究は仙台ペインクリニックの倫理委員会の承認を取得して実施した(承認番号2017–05).

2. 調査項目

患者の年齢(2017年1月現在),性別,身長,体重,痛みの部位,トラマドール製剤の種類,投与量,痛みの程度(VAS),副作用,イベント(急性上気道炎,交通事故など)を電子カルテデータより調査することとした.投与量,痛みの程度(VAS),副作用などの調査時期は,投与開始時,投与約1カ月後,約3カ月後,約6カ月後,約1年後,約1.5年後,約2年後,約2.5年後,約3年後とした.

3. 解析方法

すべての統計解析はSPSS version 21(SPSS Inc.,東京)を用いて行った.数値はすべて平均値±標準偏差で示した.投与時期別のVASの平均値の比較には反復測定による分散分析を用いた.Turkey法を用いて多重比較を行った.

III 結果

1. 対象と背景

1) 対象について

2016年12月末日までに当院でトラマドールを処方した症例は2,656例で,3年以上投与している症例が55例あった.そのうち,一時服薬を中断した症例5例(6カ月中断:動脈瘤摘除術により来院せず,5カ月中断:来院せず,4カ月中断:急性上気道炎の増悪により来院せず,4カ月中断:治療終了との判断により一時服薬中止,3カ月中断:眠気,疲労感により服薬せず)を除く50例を,集計解析の対象とすることとした.当院でトラマドールを3年以上継続投与された症例は同薬の処方人数の1.9%(50/2,656)であった.

服薬連続症例50例について3年以降の経過をみたところ,46例が3年を超えて服薬しており,30例が現在も継続服薬中である.3年以降,服薬中止または終了した20例の理由の内訳は,治療終了:3例,来院せず:8例,転院,転居:7例,医師の判断により中止:2例であった.

2) 対象の背景

3年以上連続して服薬した症例50例の背景は,性別:男性21名,女性29名,年齢:61.0±12.0歳で最低年齢は25歳,最高年齢93歳であった.また,65歳以上の高齢者が18例,65歳未満が32例であった.痛みの原因疾患は,運動器疾患(腰背部痛)24例,運動器疾患(頸部上肢痛)14例,運動器疾患(下肢痛)7例,帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)4例などであった.

2. 服薬量の推移

トラマドールの服薬量の推移を図1に示した.投与開始時投与量は71.5±19.8 mgであったが,開始後約1カ月に平均100 mg/日を超え,その後服薬量は平均102.5~112.0 mg/日で推移し,開始後約3年では99.0±36.9 mgであった.

図1

トラマドール投与量の推移(mg/日)

平均値±標準偏差.投与開始約1カ月でほぼ必要な用量となり,その後の増減は少ない.

3.痛みの程度(VAS)の推移

投与開始時,開始後約1カ月,約3カ月,約6カ月,約1年,約1.5年,約2年,約2.5年,約3年のVASの推移を図2に示した.開始時VAS 70.7±20.7 mmから,開始後約1カ月には47.0±18.6 mm,開始後約3カ月には37.1±17.0 mmに低下し,約6カ月以降は平均40 mm未満を推移し,開始後約3年には33.6±20.2 mmまで低下した.

図2

痛みの程度(VAS)の推移

平均値±標準偏差.開始時VASと各時期におけるVASの平均値の比較では有意な差を認めた(*P<0.001,F=24.194).

統計学的検討の結果,開始時と服薬後約1カ月,約3カ月,約6カ月,約1年,約1.5年,約2年,約2.5年および約3年時点でのVASの平均値の比較では有意な差を認めた(*P<0.001,F=24.194).

4. 発現時期別副作用

投与開始後0~約1カ月未満,約1~約3カ月未満,約3~約6カ月未満,約6カ月~約1年未満,約1~約1.5年未満,約1.5~約2年未満,約2~約2.5年未満,約2.5~約3年のそれぞれの期間ごとに発現した副作用を表1に示した.副作用症状別発現率はめまい・傾眠・倦怠感,悪心・嘔吐,便秘の順に高かった.また,服薬開始後0~約1カ月未満:32%(16/50),約1~約3カ月未満:18%(9/50),約3~約6カ月未満:6%(3/50),約6カ月~約1年未満:10%(5/50),約1年以降6カ月ごとの副作用発現率は10%未満であった.

表1 発現時期別副作用
服薬期間 発現例数
(%)
悪心・嘔吐
(%)
便秘
(%)
めまい・傾眠・
倦怠感(%)
その他
(%)
0~
約1カ月未満
16 (32.0%) 5 (10.0%) 2 (4.0%) 8 (16.0%) 2 (4.0%)
約1カ月~
約3カ月未満
9 (18.0%) 1 (2.0%) 0 (0.0%) 5 (10.0%) 3 (6.0%)
約3カ月~
約6カ月未満
3 (6.0%) 2 (4.0%) 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1 (2.0%)
約6カ月~
約1年未満
5 (10.0%) 2 (4.0%) 0 (0.0%) 2 (4.0%) 1 (2.0%)
約1年~
約1.5年未満
4 (8.0%) 1 (2.0%) 2 (4.0%) 0 (0.0%) 1 (2.0%)
約1.5年~
約2年未満
2 (4.0%) 1 (2.0%) 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1 (2.0%)
約2年~
約2.5年未満
2 (4.0%) 1 (2.0%) 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1 (2.0%)
約2.5年~
約3年未満
4 (8.0%) 1 (2.0%) 0 (0.0%) 0 (0.0%) 3 (6.0%)

投与開始約1カ月以内の副作用発現が多く,約1年を過ぎると新たな副作用の発現は少なくなっている.

5. 背景別VAS

背景別の痛みの程度(VAS)の変化を表2に示した.

表2 VASの推移
項目 症例数 開始時VAS 約3年後VAS 開始時との差
性別 男性 21 71.3±20.1 38.5±20.7 32.8±30.9
  女性 29 70.3±21.8 30.0±19.8 40.3±34.2
年齢別 65歳未満 32 70.0±21.0 34.4±20.5 35.6±31.3
  65歳以上 18 72.0±21.3 32.1±20.8 39.9±35.8
疾患別 腰背部痛 24 74.4±17.1 28.4±17.3 46.0±22.0
  頸部上肢痛 14 69.2±18.3 34.0±21.2 35.2±33.3
  下肢痛 7 76.7±30.1 38.0±22.3 38.7±42.4
  PHN 4 67.8±39.0 27.0± 9.6 40.8±36.5

平均値±標準偏差.VASの変化量:[約3年時VAS-開始時VAS]

性別では“女性”,痛みの部位別では“腰背痛”,“PHN”において,開始時に比べ開始3年後では痛みの程度(VAS)に40 mm以上の低下がみられた.

IV 考察

近年,慢性疼痛に対して使用できる薬剤が次々と上市され,NSAIDs効果不十分例にも抗うつ薬やプレガバリン,オピオイドなど治療の選択肢が増えた.オピオイドは,鎮痛効果は高いが,副作用や長期投与の問題から治療期間が長期間に及ぶ可能性のある慢性疼痛患者には使用しにくい面もあった.トラマドールは2011年より各種製剤が慢性疼痛への保険適用が認められてきた.トラマドールは,他のオピオイドと比較して依存・嗜癖の問題がほとんどなく,呼吸抑制を起こす可能性もほとんどないといわれていることから6),使いやすい薬剤と考えられる.また,代謝物M1(O-デスメチルトラマドール)がオピオイドとしての中枢性鎮痛作用を有する7)とともに,トラマドール未変化体がノルアドレナリン・セロトニン再取り込み阻害作用による下行性痛覚抑制系を介する鎮痛作用を有し,種々の慢性疼痛に対する効果が期待されている8).ただし,オピオイド活性の高い代謝物M1は肝代謝酵素CYP2D6により代謝されるため9),CYP2D6阻害作用を有する薬剤と併用すると活性の高い代謝物の産生が低下し,鎮痛効果にバラツキが生じる可能性があるため注意が必要である.

当院においてもトラマドールを使用する機会が増えているが,日常診療においては,どのくらいの期間投与すべきかが問題となる.弱オピオイドであるトラマドールの投与期間については明確な指針はなく,トラマドールの臨床論文においては3カ月までの短期投与の報告が多く1013),長期投与に関しては1年投与の報告が散見されるのみである4,5)

痛みの程度(VAS)について井上らは長期投与試験(1年投与)において,開始時VASは平均64.3 mmであったが,4週:平均−22.3 mm,28週:平均−35.5 mm,52週:平均−36.5 mmの低下がみられたと報告4)している.今回は日常診療において調査されたもので,他の併用薬や併用療法などを行ってはいるが,開始時VASは平均70.7 mm,約1カ月:平均−23.7 mm,約6カ月:平均−33.6 mm,約1年:平均−34.5 mmの低下がみられ,開始後約1年までのVASの推移は井上らの報告と大きな差はなかった.

痛みの程度(VAS)は投与後約3カ月以降は平均30 mm台で推移しており,このことから,トラマドールは3カ月投与すれば一定の効果が得られるものと考えられた.ドイツのガイドライン1)では,3カ月で見直しをして,6カ月で休薬などを考慮するように指導しているが,今回の結果を考慮すると,投与3カ月後はトラマドール投与の継続の検討を行うにはよい時期であると考える.しかしながら,3カ月の時点ではある程度の鎮痛を得られていても,治療完了とする改善を得られない症例も存在する.実際今回長期投与を必要とした患者では,痛み改善による歩行量の増加や,重いものの運搬,冬場の雪かきなどの日常活動量の増加により痛みの増悪が認められた例などもあり,いずれも休薬や減量ができない症例であった.

強オピオイドの処方期間に関しては,ドイツのガイドライン1)や,日本ペインクリニック学会の非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン 改訂第2版2)などが示すように,3カ月もしくは6カ月が一つの目安になる可能性がある.弱オピオイドではあるが,依存性の少ないトラマドール製剤の投与期間については,これらの指針をそのまま流用するかどうかは議論があるのは事実である.しかし漫然と長期に処方してはならないことに関して異論はないであろう.オピオイドの長期使用で注意すべき副作用である痛覚過敏や性腺機能障害の有無は常にチェックしておく必要があり,痛みが軽減してきたときは,減量を試みる必要がある.しかし,慢性疼痛のオピオイド治療の第一目標はADL向上やQOL上昇であり,どの程度動けているかをチェックすることが最重要であろう.トラマドール投与症例の1.9%と少数ではあるが,3年以上の投与を必要とする症例のあったことは,VASのみで継続治療の可否を判断するのでは不十分であることを示している.一般の診療現場でも使用可能な,簡便に痛みのQOLを測定することができる適切な評価尺度の開発が望まれる.

患者背景別にみると年齢別では65歳以上の高齢者において比較的顕著なVASの低下傾向がみられたが,症例数が少ないため,今後はより多数例による客観的検討が必要であろう.

トラマドール投与後の副作用について,井上らの報告4)では96.3%になんらかの副作用発現がみられ,投与開始1週間では41.6%に発現したが,その後は,悪心・嘔吐,便秘,めまい,傾眠などおもな副作用の発現率は10%未満であったとしている.今回の調査研究では,投与開始後1カ月の副作用発現率が32%であったが,3年服薬症例における集計のため低値となっている可能性がある.また,特に問題となる副作用も認められなかった.トラマドールで特徴的といわれているめまい・傾眠・倦怠感,悪心・嘔吐,便秘の発現がおもにみられ,投与初期の発現率が高かった.この傾向は,小川ら5),上記井上らの1年投与の報告4)と同様であった.1年を過ぎていても悪心・嘔吐の副作用の発現が継続してみられているが,これはすべて同一症例であり,悪心が軽度継続していた.その他の副作用としては,発疹や搔痒,口渇,腹痛などがみられるが,トラマドールとの因果関係ははっきりしない.

トラマドールの長期投与を行う場合,痛覚過敏や性腺機能障害などの副作用の有無に注意しながら投与する必要がある.また,処方期間は3カ月もしくは6カ月が一つの目安になるかもしれないが,これらの期間で一定の効果は得られるもののADLの改善などが得られない場合は,さらに長期間の投与が必要な症例もあるため,そのような患者には,効果と副作用の発現に十分注意しながら投与していくことが重要と思われた.

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