Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2019 Volume 26 Issue 1 Pages 85-91

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日 時:2018年9月22日(土)

会 場:北海道大学医学部臨床講義棟

会 長:合田由紀子(市立札幌病院緩和ケア内科)

■ランチョンセミナー

臨床のニーズに基づく緩和ケアの基礎研究の紹介―がん患者における神経障害性疼痛とオピオイドの眠気―

下山恵美

東京慈恵会医科大学麻酔科学講座

がん性疼痛の治療の主軸はオピオイド療法であり,それにより80%以上の患者の疼痛緩和が得られるとされる.しかし,残りのオピオイドが効きにくい痛みのコントロールは困難なことが多く,さらなる治療薬の開発が求められている.また,このような難治性疼痛に対しては,高用量のオピオイドが投与されたり,オピオイドと鎮痛補助薬が併用され,副作用として眠気が問題となる.

難治性疼痛の代表的なものとして,神経障害性痛があげられる.がん患者における神経障害性痛には直接がんによる神経の圧迫や浸潤などによる神経障害性痛の他に,がん治療における化学療法によって惹起される末梢神経障害による痛みがあげられる.これらの痛みに対する治療薬の開発には,それぞれの痛みの発生機序の解明や治療薬の効果のスクリーニングのために,患者の病態に近い動物モデルが必要となる.本講演では,私たちが開発したがん性神経障害性痛と化学療法惹起性末梢神経障害のマウスモデルを紹介する.

がん性神経障害性痛モデルは坐骨神経近傍にMeth A sarcomaを移植して作成し,化学療法惹起性末梢神経障害モデルは大腸がん治療の第一選択薬であるオキサリプラチンをがん治療と同様の投与スケジュールで投与して作成した.いずれのモデルもcharacterizationを行い,患者と類似する病態であることを示した.さらに化学療法惹起性末梢神経障害モデルでは,ミトコンドリア保護作用のあるSSペプチドで神経障害が予防できることを示し,病態の機序にミトコンドリア障害が関与することを示した.オピオイドの眠気の治療薬の開発には,覚醒の維持に重要な役割を果たしているオレキシン神経系に着目し,オレキシンおよび非ペプチド性オレキシン2受容体作動薬がラットにおいてモルヒネによる鎮静効果を抑制することを示した.

■一般演題

ペインクリニシャンのキャリアパス~新専門医制度との関連~

山崎 裕

市立函館病院緩和ケア科

【目的】従前各学会において行われていた専門医研修制度は,2018年度より19の基本領域については日本専門医機構のもとに移管された.現在サブスペシャリティー領域については議論中であるが,ペインクリニック専門医のキャリアパスが今後どうなるかを考察したい.

【方法】北海道のペインクリニック専門医について,ペインクリニック学会以外の所属学会,専門医資格の有無について調査した.また,各基本領域学会における専門医資格の更新要件を調査し,ペインクリニック専門医と基本領域専門医の両立が可能かを検討した.

【結果】道内のペインクリニック専門医は82名で,そのうち麻酔科専門医は79名であった.また82名全員が麻酔科標榜医であった.各基本領域学会における専門医機構専門医の更新要件は,2018年4月時点で内科,外科,総合診療については未定であった.その他の学会については救急科を除き,各診療科の診療実績/症例提出が必須である(外科系ではNCDに登録した手術症例の提出が求められる).ちなみに麻酔科は手術麻酔症例以外でも,救急,集中治療,ペインクリニック,緩和医療の症例についても診療実績として認定される.

【考察】道内においては,ペインクリニック専門医は圧倒的に麻酔科出身者が多いことが明らかになった.新専門医制度では,ペインクリニックや緩和医療を専従で行っても麻酔科専門医の維持は容易と考えられる.一方,外科系の基本領域学会の専門医とペインクリニック専門医の両立は難しいと考えられた.将来的にペインクリニックや緩和ケアに興味をもつ若手医師には,基本領域として麻酔科専攻を強く勧めたい.

がん性痛の緩和に大量の局所麻酔薬を要した1例

萩原綾希子*1 菅原かおり*2 平川由佳*4 小田浩之*1 牧野 綾*1 今野なぎさ*3 山口郁恵*3

*1市立札幌病院緩和ケア内科,*2旭川厚生病院緩和ケア科,*3旭川厚生病院看護部,*4自衛隊札幌病院

【はじめに】がん性疼痛の管理には,慢性疼痛と比較して多様なオピオイドや鎮痛補助薬が使用可能であるが時として神経ブロック的手技が有効である.今回硬膜外ブロックが,がん性疼痛の緩和に有効であったがその経過において臨床的に困難な症例を経験したので報告する.

【症例】30代男性.X月に膵体部がん切除不能の診断を受ける.全身化学療法を施行したが病状は進行した.X+3月ごろから心窩部痛が出現し,ジクロフェナクとオキシコドン速放製剤を処方されたが痛みの改善が不良であったため緩和ケア科紹介となった.フェンタニル貼付剤の開始で痛みは改善しが,X+7月ごろから腹痛で救急外来をたびたび受診した.オピオイド増量が無効であったため入院した.腹部CT検査では原発巣の増大,腹腔動脈への広範な進展が認められた.Th8/9から硬膜外チュービングを行った.0.2%のロピバカイン持続注入は無効だったがキシロカインのボーラス投与でNRS 0となった.ロピバカインとモルヒネの持続注入でオキシコドン持続静注を離脱し,退院した.2週間後には痛みと倦怠感が増強し,緩和ケア病棟に入床した.NRS 0でないと納得できない気持ちから,最終的にはロピバカイン500 mg/日,モルヒネ40 mg/日の硬膜外持続注入にオキシコドン120 mg/日の持続静注を併用したが本人の満足する効果は得られなかった.0.5%ロピバカイン8 ml+モルヒネ10 mgのボーラス投与で短時間は満足する鎮痛効果があり家族で外出などを行った.病状が進行しX+10月死亡した.

【考察】膵臓がんの難治性の痛みに胸部硬膜外鎮痛が有用との報告は散見され,本症例でも一定の鎮痛効果を得られた.しかしボーラス投与を繰り返した結果,一日の局所麻酔薬の総量が大量になってしまった.ロピバカインは比較的安全性が高いといわれているが,200 mgのボーラス投与で局所麻酔中毒が報告されている.オピオイドの割合をより積極的に増やすべきだったのかもしれない.

緩和ケア領域の疼痛に対して,1.5%ケタミン親水軟膏が著効した3症例

井上真澄*1 安濃英里*1,2 小野寺勇人*1 佐藤 泉*1 平川 啓*1 菅原亜美*1 岩崎 肇*1 小野寺美子*1,2 高橋桂哉*1 神田 恵*1 神田浩嗣*1 笹川智貴*1 阿部泰之*2 国沢卓之*1,2

*1旭川医科大学病院麻酔科蘇生科,*2旭川医科大学緩和ケア診療部

【緒言】2004年より当院で調整を開始したケタミン親水軟膏(以下,KHO)は,臨床において多くの症例に用いられている.緩和ケア領域の疼痛に1.5% KHOを使用し,良好な症状緩和を得た3症例を報告する.

【症例】1.80代男性.左原発性肺がんに併発した帯状疱疹後神経痛(三叉神経第3枝領域)が出現.2.60代女性.直腸がん術後・仙骨転移に対して化学療法(ベバシズマブ+modified-FOLFOX6療法)中に,指先の痺れと疼痛が出現.3.70代女性.左上顎歯肉がん切除+左頸部リンパ節郭清術後,左頭部から頸部に医原性神経障害による疼痛とアロディニアが出現.

【方法】1.5% KHOを疼痛出現部位に塗布(4回/日まで)した.

【結果】全症例で著明な症状緩和を認めた.STAS-J(Support Team Assessment Schedule Japan)は3から1へ改善を認め,患者の満足度は良好であった.副作用の報告は無かった.

【考察】ケタミン塩酸塩は非競合的N-methyl-D-aspartame受容体拮抗薬として疼痛治療に用いられるが,解離反応・幻視・嘔吐などの副作用も指摘されている.今回,軟膏という局所投与にて中枢性副作用を最小限に抑えかつ症状が出現した末梢にて効果が発現し,良好な症状緩和を得ることが出来た.しかしながら,本剤は院内特殊製剤であり,臨床的な効果に関して不明である部分が多いため,今後もKHOの有用性を調査し,効能や作用機序を明らかにしていくことは,がん患者のQOL改善に貢献する可能性があると考えている.

総合病院精神科病棟に入院したがん患者の鎮痛対策に関する調査

小田浩之*1 奥村真佑*2 神山秀一*3 萩原綾希子*1 牧野 綾*1 平川由佳*1 松村直也*1 高田秀樹*2 合田由紀子*1

*1市立札幌病院緩和ケア内科,*2市立札幌病院精神科,*3市立札幌病院薬剤部

【目的】人口の高齢化に伴い,がんを合併する精神疾患患者(以下「がん患者」)の増加が指摘されており,がんに伴う諸症状への十分な対応が必要である.当院精神医療センターは身体合併症を有する精神疾患患者の入院を受け入れており,本調査はこの入院患者への対応を通じて,がん患者の鎮痛対策の現状を明らかにすることを目的とした.

【方法】当院精神医療センターが開設された平成24年4月から平成30年3月までに入院したがん患者の属性,オピオイド使用状況および緩和ケアチーム介入状況などについて,電子カルテ記事を後方視的に調査した.

【結果】対象がん患者は79名(入院回数87回).主な精神疾患は,ICD-10分類でF2(統合失調症・妄想性障害など)34名,F3(気分障害)14名,F0(認知症・せん妄など)13名,F7(精神遅滞)8名など.主ながん原発部位は,下部消化管22名,乳16名,婦人生殖器9名,肺6名,血液5名など.抗腫瘍薬投与,手術,治癒目的放射線照射などが行われた入院は55回,これらを行わず心身の症状緩和に努めた入院は32回.緩和ケアチームは30名に介入した.オピオイドは27名(うち緩和ケアチーム介入24名)で使用され,各患者の入院期間中の最大使用量(定期処方)は68.6±57.6 mg/日(経口モルヒネ換算.メサドン使用1名を除く)であった.電子カルテ上,痛みの訴えはさまざまで評価に難渋する事例も多くみられた.死亡退院は5名(うち緩和ケアチーム介入4名)であった.

【考察】精神疾患患者はがん性痛があっても受診行動につながらないことが多く,また診察の際にも症状の訴えが困難・非定形的で見逃されることが少なくない.背景には,向精神薬による症状の被覆や精神疾患による痛みの訴え方の変化,痛みに対する独特な意味付けが患者の行動様式を規定している場合もあると考えられる.がん患者に対する適確な鎮痛対策の実施には,これら背景要因を考慮したアセスメントが必要である.

骨転移に対する放射線治療効果

高田 優*1 小田浩之*2 合田由紀子*2 小松智子*3 松山茂子*3 萩原綾希子*2 牧野 綾*2 木津陽子*3 池田 光*1

*1市立札幌病院放射線治療科,*2市立札幌病院緩和ケア内科,*3市立札幌病院看護部

【目的】骨転移に対して放射線治療は有効であるが,転移形式(溶骨型,造骨型など)による治療効果の違いはあまり検討されていない.転移形式を含めた臨床因子と治療効果の関連について検討する.

【方法】2015年1月~2016年12月まで当院で骨転移に対して放射線治療を施行した症例を後方視的に確認.転移形式は治療直前のCTやMRIを用い,溶骨型もしくは造骨型のみを対象とした.臨床因子は年齢や性別などの検討の他,がん種や血液検査,全身状態などを加味した片桐スコアを加えた(Katagiri,2014).疼痛スコアはNRS(numerical rating scale)を用い,治療効果判定として鎮痛薬の増加なしに治療部位の疼痛スコアが0になった場合や疼痛スコアが2以上低下・もしくは25%以上の鎮痛薬減量ができた場合を治療効果ありと判定した.同一症例への複数部位への治療はそれぞれ評価した.

【結果】全部で183部位が対象,年齢中央値67歳(32~90歳),PS 0~2:159部位(86.9%)・PS 3~4:24部位(13.1%).溶骨型139部位(76.0%)・造骨型44部位(24%).照射部位は脊椎89部位(48.6%),骨盤骨49部位(26.8%).放射線の総線量は中央値25 Gy(4~60 Gy),照射回数中央値5回(1~30回).治療効果は治療完遂後中央値6日(0~29日)で判定し,全体として116部位(63.4%)が有効だった.単変量解析では溶骨型では81部位(58.3%)・造骨型では35部位(79.5%)が有効(p=0.01),脊椎転移は47部位(52.8%)・脊椎以外は69部位(73.4%)が有効(p<0.01),片桐スコアは0~4で53部位(81.5%)・5~10で63部位(53.3%)が有効(p<0.01)だった.これらの多変量解析で片桐スコア低値と脊椎以外の転移は有意に効果良好だが,転移形式は有意差なかった(p=0.12).

【結語】造骨型は溶骨型よりも効果が良好だが,溶骨型も約6割で有効だった.片桐スコア低値(他部位が落ち着いている)で有効であり,早期からの放射線治療の必要性が示唆された.

脊椎後方固定のインピンジメント周辺に発症した不顕性椎体骨折に対して脊椎骨穿孔術を行った1症例

太田孝一 中郷あゆみ 杉目史行 長井 洋

江別市立病院麻酔科

脊椎手術後に痛みが増悪するfailed back surgery syndrome(FBSS)が脊髄手術症例の5~33%に出現することが知られる.この一部に不顕性椎体骨折などの脊椎椎体由来の痛みが関与することがある.今回,脊椎後方固定術の椎体に骨髄浮腫がみられ,不顕性椎体骨折が疑われた症例に脊椎骨穿孔術を行い,良好な痛みの管理が可能となった症例を経験したので報告する.

【症例】66歳,男性.身長169 cm,体重95 kg.

【臨床経過】5年前より腰下肢痛が強く,痛みの治療をペインクリニックで行ってきた.2年前,腰椎脊柱管狭窄症にて腰椎後方固定術を受けた.当時より長時間の起立や歩行が困難なため車椅子を使用して生活していた.外傷の既往はなく,突然,腰下肢痛が出現して近医に受診した.神経学的に明らかな異常がなく,急性腰痛としてプレガバリン,ロキソプロフェンなどの鎮痛薬を投与した.2週間経過しても改善せず,左臀部より足首にかけての痛みが増悪して座位が困難となり車椅子移動ができなくなり,痛みのため不眠状態となったため入院治療を開始した.MRI検査で骨髄浮腫の所見がL5の部分に帯状に認められたため,不顕性椎体骨折と診断した.入院8日目に,ベッド移動でX線透視室にてL5脊椎骨穿孔術を行った.この治療により,体動時VAS 40/100程度に軽減して,寝返りや座位可能となり,車椅子移動も可能になった.残存する痛みに対してパルス高周波による脊髄後枝内側枝ブロックと仙腸関節ブロックを行い,入院20日目に退院して在宅治療に移行した.

【結語】脊椎手術後に突然の疼痛増悪した場合,低エネルギー外傷による不顕性椎体骨折が原因となることがある.

左肩痛により放射線治療時の体位保持困難な症例に対して,エコーガイド下腕神経ブロック(斜角筋間法)が有用であった1例

平川由佳*1 萩原綾希子*2 牧野 綾*2 小田浩之*2 合田由紀子*2

*1自衛隊札幌病院麻酔科,*2市立札幌病院緩和ケア内科

【はじめに】放射線治療の際,骨転移痛のために体位を保持できない症例を経験する.当院では緩和ケアチームに麻酔科医が加入しており,薬剤投与のみでは除痛困難であった症例に対してエコーガイド下腕神経叢ブロックを施行し,放射線治療を完遂できたため報告する.

【症例】94歳男性,左腎がん疑い,多発骨・肺転移疑い,膀胱がん術後,脳梗塞後.

【経過】平成30年3月X日,食欲不振で当院消化器内科受診し,CT上,左腎がん疑いおよび多発骨・肺転移の疑いで泌尿器科コンサルトされた.骨シンチ上,多発骨転移(左第2肋骨および第1~3腰椎・胸椎辺縁)を認めた.同4月X日,食事摂取困難になり補液・NST介入目的で入院,年齢やPSから未治療経過観察の方針となった.緩和ケア介入時の主訴は左肩周辺の痛みによる食欲低下と睡眠障害であった.左肩痛について主科より整形外科にコンサルトされ,左肩・肩甲骨には画像上明らかな転移を認めないが,左肩甲骨深部の痛みについては左肋骨転移も誘因と考えられ,関節拘縮を認めることから左肩関節周囲炎も指摘された.アセトアミノフェン,ロキソプロフェン,トラマドール,プレガバリンで疼痛コントロールを図ったが,いずれも本人の自覚症状は不変であった(NRS=8).左第2肋骨骨転移に対し放射線治療を予定されていたが,左肩痛による照射中の体位保持困難が予想されたため,照射前に腕神経叢ブロックを計画した.リニアプローベを用い斜角筋間法にて1%リドカイン10 mlを注入した(神経刺激併用なし).ブロック直後から疼痛軽減し(NRS 8→2),左上肢挙上肢位も可能になり,予定通り照射を施行できた.放射線治療終了後,疼痛はNRS=0~2まで軽減し,5月X日転院となった.以上,骨転移によると考えられる左肩痛に対し神経ブロックが奏効し,放射線治療が可能になり疼痛軽減およびPS改善に繋がった.

当院における腰椎椎間関節嚢胞の治療~CTガイド下椎間関節穿刺による嚢胞穿破~

原田修人*1 寺尾 基*1 岡田華子*1 赤間保之*1 竹田尚功*2 高田 稔*3 的場光昭*1

*1旭川ペインクリニック病院,*2永山ペインクリニック,*3神居ペインクリニック

【はじめに】腰椎椎間関節嚢胞に対する治療は手術療法が適応となるが,嚢胞が自然縮小する例があり,治療の第一選択はコルセット着用や安静による保存療法である.これらが無効な例には,椎間関節ブロック,椎間関節穿刺による嚢胞穿破が有用であるという報告もみられる.当院では腰椎椎間関節嚢胞に対しCTガイド下で椎間関節穿刺を行っており,治療効果について報告する.

【症例】当院を受診した腰椎椎間関節嚢胞患者6名.男性2名,女性4名.CTガイド下椎間関節穿刺試行回数は1回が3例,2回が3例であった.全例で施行後に痛みが消失し,穿刺による合併症は全例で認めなかった.

【考察】腰椎椎間関節嚢胞に対するCTガイド下椎間関節穿刺は侵襲も低く,有用であると考えられる.また,2回の椎間関節ブロックで症状が軽快した症例もあり,1回のブロックで症状が消失しない症例でも,再試行したほうが良いと考えられた.

【結語】腰椎椎間関節嚢胞に対するCTガイド下椎間関節穿刺は有効な治療法と考えられた.

脊髄刺激装置埋め込み患者への1,000 Hz無感刺激の有効性

岩崎創史 高橋和伸 山蔭道明

札幌医科大学医学部麻酔科学講座

【はじめに】脊髄刺激療法は硬膜外腔に刺激電極を挿入し,刺激装置から脊髄に微弱な電気を流すことにより,痛みを緩和する.従来は,5~50 Hzでの痛み部位への一致した刺激(以下:古典的刺激)が主として選択されていたが,現在は1,000 Hz以上の無感高頻度刺激(以下:高頻度刺激)が注目されている.当院外来で経過中に,7名の脊髄刺激装置埋め込み患者に高頻度刺激を設定し,その有効性と有害事象を観察した.

【方法】2018年1月から当院外来受診中の古典的刺激で治療を受けていた脊髄刺激装置埋め込み患者7名を対象とし,研究の同意を得た.周波数をすべて1,000 Hzと再設定し,電流は90 µで設定した.1カ月後の痛みの改善を,著効,有効,無効,増悪で評価し,改善症例では効果が実感された設定後日数を尋ねた.また高頻度刺激継続中の患者の有害事象を調べた.

【結果】高頻度刺激により4名が著効した.うち1名は電池消耗スピードが速く古典的刺激へ戻した.2名は高頻度刺激により痛みが改善せず,1名は増悪した.著効症例の1名は,自身からNSAIDs中止の申し出があり中止した.効果が実感された設定後日数はそれぞれ設定後3,4,7,7日後であった.著効症例の1名の患者に尿意切迫・頻尿がみられ,オキシブチニンテープで症状は消失した.

【結語】高頻度刺激は非侵襲的に設定が可能であり,電池の消耗や頻尿などの症状に留意しながら,脊髄刺激装置埋め込み患者の痛みの改善に試みる価値がある.

当科で施行した原発性局所多汗症に対する胸腔鏡下交感神経節切断術(ETS)の検討

山澤 弦*1 長門真美*1 御村光子*2 佐々木英昭*1 高田幸昌*1 宮本奈穂子*1 木村さおり*1 佐藤順一*1 重松祐輔*1 田村亜輝子*1

*1NTT東日本札幌病院麻酔科,*2NTT東日本札幌病院ペインクリニックセンター

原発性局所多汗症に対する胸腔鏡下交感神経遮断術(endoscopic thoracic sympathectomy:ETS)は発汗停止の治療効果は高いが,続発症である代償性発汗が手術結果の満足度に影響を与える可能性がある.今回,われわれは,当科で施行したETS症例に関して,治療効果,代償性発汗,満足度に関して検討したので報告する.

【方法】対象は2016年1月から2018年3月までの2年3カ月間に,当科でETSを施行した手掌多汗症と顔面・頭部多汗症の計82症例とし,術後1,2カ月後の診察により後方視的に評価した.【結果】発症時期は手掌多汗症では小学生以下が多く,頭部多汗症では社会人も多かった.手術時期は大学生以下が全体の45%であった.職業としては医療関係者,事務職,器械操作をする職種が多かった.発汗が停止したのは手掌多汗症で97.1%,頭部多汗症で83.3%であった.代償性発汗の自覚は手掌多汗症には82%,頭部多汗症には80%に認められ,背部,腹部に多かった.満足度は手掌多汗症97%,頭部多汗症100%であった.

【考察】手掌多汗症はR3または4,顔面・頭部多汗はR2で遮断するが,高位で遮断するほど代償性発汗は多くなる.にもかかわらず,顔面・頭部多汗で満足度が高いのは,他人から見える部位の発汗の減少,長い間悩んでいた症状からの解放が考えらえる.本検討は手術1~2カ月後の調査であるため術後満足度が高く,経年的に満足度低下も考えらえるが,手術を後悔した症例はなかった.手術治療の意義は大きいと考えられる.

片頭痛慢性化の漢方医学的考察

谷岡富美男*1 白崎修一*2 堺 一郎*2 大嶋重則*3 鎌田信仁*4 青木 充*5 後藤康之*6

*1さっぽろ麻生クリニック,*2札幌秀友会病院,*3新札幌豊和会病院,*4山谷医院函館ペインクリニック,*5旭山病院,*6クピドクリニック

片頭痛患者は脳の機能性過敏である気逆の素因をもっているが,ストレス・不眠・不安などの心理的要因や,物理的・身体的要因などにより,肝陽の過剰な昇発による気逆がトリガーとなり,片頭痛発作が発症すると考えられる.また頭痛発作による心陽亢進を制御する心血や心陰の消耗や,脾虚による生成不足,腎虚による虚陽の上浮などにより心陽が不安定に亢進すると,片頭痛が慢性化する一因となると推測される.心陽亢進を呈した慢性の片頭痛患者の病態について,f-MRIを用いた脳の機能的な神経活動に関する最近の報告を参考として,心血や心陰の機能に関与する心や肝・腎を中心とした五臓と気血水の面からその病態の考察を行った.対象:国際頭痛分類(ICHD-3β)で片頭痛と診断され,易驚性・臍上悸などの「腎陽の衰退」や浅眠・多夢などの「心陽亢進」の症候から桂枝加竜骨牡蛎湯や柴胡加竜骨牡蛎湯,柴胡桂枝乾姜湯,加味帰脾湯などの安神剤を用いた片頭痛患者25人.慢性の片頭痛患者では,肝気欝結や肝欝化火による肝火の上擾や,腎虚による虚陽の上浮などにより二次的に心の陽気が不安定に亢進する.また前頭前野(心)と大脳辺縁系(肝)の機能結合は,疼痛下降性抑制系の機能低下をもたらし,片頭痛発作のトリガーとなる肝陽を過剰に昇発させ,頻回の頭痛発作の原因となる.安神剤は,心や肝の陽気を安定させて心と肝の機能結合を緩和し,気逆の発生を改善する片頭痛の治療薬として有用と考えられる.

妊娠期の筋腫変性痛に対して芍薬甘草湯が有効であった1例

藤井知昭 三浦基嗣 長谷徹太郎 敦賀健吉 森本裕二

北海道大学病院麻酔科

【はじめに】妊娠期の子宮筋腫は,子宮増大に伴い栄養血管の血行障害のため出血性壊死による変性とそれによる痛みをきたすことがあり,保存的治療により痛みのコントロールが困難な場合には筋腫核出術が必要となる.今回,われわれは,筋腫変性痛に対して芍薬甘草湯が有効であった症例を経験した.

【症例】妊娠13週6日の30歳台女性.多発子宮筋腫(最大径16×10 cm)に伴う筋腫変性痛の管理目的に当院産科に入院した.ズファラジンおよびアセトアミノフェン静注薬4,000 mg/日を使用していたが,痛みのコントロールは不十分であった.入院2日目の血液検査で炎症反応の上昇を認めたため,予防的に抗生剤が開始された.同日,痛みのコントロールには硬膜外チュービングが必要と判断され当科紹介となった.痛みは強度で,アセトアミノフェンはやや有効なものの4時間程度で効果が消失した.産科より子宮収縮抑制目的で開始されたジクロフェナク25 mg屯用に加え,当科からは芍薬甘草湯5 g屯用の併用を提案し同日より開始した.感染リスクを考慮し,保存的治療で管理困難な場合に硬膜外チュービングを検討する方針とした.翌日より痛みは大幅に軽減し,次第に鎮痛薬の必要量も減少した.入院7日目に痛みは消失し,炎症反応も低下傾向となった.ジクロフェナクは1回使用したのみで,患者は芍薬甘草湯が痛みに最も有効であったと評価した.入院10日目に自宅退院となった.

【考察】筋腫変性痛の機序として,子宮収縮や子宮増大に伴う栄養血管の血行障害に起因する虚血痛が考えられる.芍薬甘草湯の子宮平滑筋弛緩作用により筋腫への血流が改善し,それに伴い虚血痛が軽減した可能性がある.

【結語】妊娠期の筋腫変性痛に対して,芍薬甘草湯は治療選択肢の1つとして考慮しても良いと考えられる.

その痛み,NSAIDsのせいかもしれません~浮腫により増悪した痛みに漢方薬という選択~

宮本奈穂子*1 御村光子*2 高平陽子*3 佐々木英昭*1 高田幸昌*1 木村さおり*1 佐藤順一*1 重松祐輔*1 田村亜輝子*1 山澤 弦*1

*1NTT東日本札幌病院麻酔科,*2NTT東日本札幌病院ペインクリニックセンター,*3札幌里塚病院麻酔科

今回,われわれは,術後鎮痛のために投与された,NSAIDs誘発性の浮腫に起因すると考えられる顔面痛に対し,星状神経節ブロック(SGB)と2種類の漢方薬を併用し,顔面痛と術後下肢痛双方に良好な鎮痛を得たので紹介する.

【症例】68歳女性.主訴:左顔面痛.現病歴:X−1年6月,歯科治療中に左顔面痛を生じ,歯性上顎洞炎の診断で歯根部の切開排膿後軽快していた.X年2月左足関節骨折プレート固定術直後から顔面痛が再燃増悪し,3月当科を紹介受診した.初診時,左頬骨から上顎こめかみにかけて持続性のズキズキする痛みがあり,顔面の浮腫,軽度歯痕舌と両下肢の著名な浮腫を認めた.術側左下肢は熱感を伴う腫脹とアロディニアを伴う痛みで触れることができなかった.片頭痛の既往がありこれも術後悪化していた.ロキソプロフェン60 mg錠を1日3回のほか,ジクロフェナク坐剤も併用しており,これらによる浮腫が上顎洞領域の過去の病巣と足関節骨折創に水滞と微小循環障害によるお血の病態が痛みの原因と考えた.そこで,NSAIDsを中止してアセトアミノフェン2,000 mgと五苓散15 gを処方しSGBを開始した.2週後,浮腫がひけるとともに顔面痛は軽快.さらに治打撲一方7.5 g併用開始してから1週後には下肢痛も軽減し,2カ月後にはテニスを再開するまで回復した.

【考察】NSAIDsは局所の消炎と鎮痛効果をもたらす一方,副作用である浮腫が新たな痛みの原因となった.五苓散は浮腫を改善し,治打撲一方が創傷の鎮痛と治癒促進に作用したことで新旧2つの病巣に効果があったと考えられた.一見関連のないように思える2つの痛みに対し,漢方学的な視点から原因を解析治療するという次の一手を持つことが,速やかな回復につながったといえる.

黄色靭帯骨化症により増強された帯状疱疹後神経痛の1例

笠井裕子 神田知枝 実藤洋一

地域医療機能推進機構(JCHO)北海道病院麻酔科

症例は79歳女性.左腰背部帯状疱疹に罹患し,近医で抗ウィルス薬治療を受けた.鎮痛薬を処方されたが便秘が不安で内服せず,3カ月半を経過して痛みが持続し当科を受診した.左背部から腸骨稜にかけて発疹痕があり,同部に自発痛と触刺激によるアロディニア,冷覚鈍麻を認めた.Th12/L1間で試みた硬膜外ブロックは22 G針が通過せず,XPで胸腰椎変性,腰椎椎間板症,L3圧迫骨折が確認された.内服薬処方(トラマドール,プレガバリン,抑肝散,十全大補湯など),局麻薬浸潤,肋間神経ブロック,エコーガイド腹横筋膜面ブロックなどを行い,左背部痛,下腹痛は軽快したが腸骨稜周辺に強度のアロディニアが残存した.内服薬によるふらつき,便秘への懸念から神経根ブロックを予定した.透視下に左Th12レベルで穿刺し,造影で同神経根像の一部途絶所見を認めた.局麻薬とステロイドを注入し,痛みは著明に軽減した.同日に行ったCT検査でTh12/L1左椎弓腹側の黄色靭帯骨化による脊髄圧迫が判明した.以上から,本症例の痛みの成因は,もともと器質的狭窄のあったTh12神経根に,帯状疱疹罹患に伴う神経炎症・虚血,浮腫による機械的圧迫が加わり生じた強度の神経障害性痛と推測された.

頸椎椎間板ヘルニアに併発した感染性胸鎖関節炎の1症例

高田幸昌*1 御村光子*2 木村さおり*1 佐々木英昭*1 佐藤順一*1 重松祐輔*1 田村亜輝子*1 宮本奈穗子*1 山澤 弦*1

*1NTT東日本札幌病院麻酔科,*2NTT東日本札幌病院ペインクリニックセンター

【はじめに】感染性胸鎖関節炎は前胸部のみならず肩・頸部痛の原因となることがある.今回,われわれは,頸椎椎間板ヘルニアの経過中に同側の感染性胸鎖関節炎を併発したと考えられた症例を経験したので報告する.

【症例】50代の男性.1週間前寝返りを契機に後頸部から右上肢にかけての疼みが出現.近医整形外科にてC 6/7頸椎椎間板ヘルニアの診断をうけた.NSAIDsおよびプレガバリン内服にて一時的に症状は軽減したが,徐々に疼みが増強したため当科受診となった.当科初診時には両頸部から右肩,前腕,第3~5指にかけてのしびれと自発痛を認め,Jackson testおよびEaton test陽性であった.また,左鎖骨下周辺にも痛みを訴えていた,血液検査ではWBC 13,000,CRP 10.51と高値であった.CTで胸骨体部レベルでの前胸部皮下および胸骨体部背側の前上縦隔脂肪濃度上昇を.MRIで右胸鎖関節腔の液体貯留および周囲軟部組織の腫脹を認め,胸鎖関節炎を併発していると考えられた.血液培養にてstaphylococcus aureusが同定され,感染性胸鎖関節炎の診断が確定された.入院のうえ抗生剤治療を開始したところ,速やかに鎖骨周囲の疼痛,腫脹の改善が得られた.約6週間の加療にて炎症反応の改善がみられ退院となった.また右頸部から上肢の痛みも軽快した.

【考察】胸鎖関節炎は本症例のような感染性のほか,自己免疫疾患に合併する非感染性が存在する.感染性胸鎖関節炎では肩関節痛(24%)や頸部痛(2%)も認めると報告されており,本症例では頸椎椎間板ヘルニアと同時期に,同側に胸鎖関節炎を併発したために症状が増悪したと考えられた.

術前からの不安の強い患者の腹腔鏡下手術後に遷延性術後痛を生じた1例

伊藤智樹 長谷徹太郎 前田洋典 三浦基嗣 藤井知昭 敦賀健吉 森本裕二

北海道大学病院麻酔科

【はじめに】遷延性術後痛は,手術前にない術後最低3カ月間続く,手術部位もしくは関連領域に限局される痛みとされる.今回,われわれは,腹腔鏡下胆嚢摘出術後,治療開始に時間を要した遷延性術後痛の症例を経験したので,これを報告する.

【症例】40歳台女性.X−1年8月,健康診断にて胆石の指摘を受けた.がんではないかと不安が強く,近医心療内科にて支持的精神療法が開始された.9月から両季肋部痛が出現し,10月前医外科にて腹腔鏡下胆嚢摘出術が施行された.手術は無事終了し,不安は軽減したが,術後も痛みが続いた.その後,徐々に痛みの性状が変化し,効果のあったロキソプロフェンも効かなくなった.手術をした前医で相談するも納得いかず,近医心療内科を再受診した.帯状疱疹は認められず,肋間神経痛としても典型的でない上,うつ病性の痛みとしては性状が異なると考えられたため,X年3月当科を紹介受診された.受診時のvisual analogue Scaleは27 mmで痛みが強くなる時は53 mmまで悪化した.痛みは両季肋部,臍,下腹部,背部で,右側優位であった.腹部は触るとちくちくした感じが強くなり,しびれは無かった.手術痕は右季肋部と臍にあり,触診で圧痛,知覚過敏,アロディニアは無かったが,知覚鈍麻を認めた.神経障害性痛の関与を考え,プレガバリン50 mgから内服を開始した.2週間のプレガバリン内服でVAS 13 mmに改善し,本人も画期的に変わったと表現した.台所作業も苦痛でなくなった.一時150 mg/日まで増量したが,現在は100 mg/日で安定している.

【考察】遷延性術後痛のリスク因子の1つとして,不安などの併存ストレス症状があげられる.不安の強い症例では遷延性術後痛が他の訴えに埋没してしまう可能性もあり,その鑑別が必要と考えられた.

■ティータイムセミナー

超音波ガイド下体幹ブロックの展望

田中暢洋

北海道大学病院麻酔科

本セミナーでは演者自身が手術室に従事しているなかで実際に施行している腰方形筋ブロックにおける現在の知見,および近年有効性が報告されているretrolaminar block(RLB)とerector spinae plane block(ESPB)を紹介する.

腰方形筋ブロックは胸腰筋膜をつたい傍脊椎腔へ薬液が流入することにより体性痛のみならず内臓痛をも制御し,上腹部も効果範囲となりうることからその隆盛をみた.しかし,最近ではその臨床的効果に対し懐疑的な研究が散見される.最近の報告も交えながら,作用機序や良い適応と考えられる手術を考察する.

当日はparavertebral block(PVB)に関しての詳細な紹介は割愛するが,PVBには気胸や低血圧といった合併症を起こす可能性が存在する.RLBは椎弓後面が穿刺目標となることからその安全性は高い.ESPBに関しても超音波ガイド下で施行すればPVBにおける傍脊椎腔の同定のようなskillも不要で簡便である.ともに安全性が高く,一定の臨床的効果が得られると期待されている体幹ブロックである.現在,その作用機序,とくに薬液の拡散に関する報告が盛んにされており,最近の知見の紹介をしながらペインクリニック領域への適用,応用を考察したい.

 
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