2019 Volume 26 Issue 1 Pages 77-84
※2019年1月12日(土)に行われたペインクリニック専門医認定試験の合格率は85.4%でした.
選択記述問題:以下の2題から1題を選び,所定の用紙に解答してください.(配点:15点)
20歳時より1日15本の喫煙歴があり,アルコールの多飲歴はない.42歳時の健康診断で高血圧(BP 150/87 mmHg)と糖尿病(HbA1c 7.8)を指摘され治療を開始したが,1年で自己中断した.53歳時,両趾先に針で刺すようなしびれ(痛み)が出現し,増強したために,再度,病院を受診したところ,BP 140/82 mmHg,HbA1c 8.2で,心電図異常はなかった.神経学的診察で,膝蓋腱反射とアキレス腱反射の消失,内果部振動覚軽度の低下と足部の知覚低下があり,治療再開となった.
本症例の診断名,その病態と治療法について述べてください.
<解答例>
疾患は糖尿病の経過中に膝蓋腱反射・アキレス腱反射,内果部振動覚低下を生じており有痛性糖尿病性神経障害と診断できる.
糖尿病性障害は血糖コントロール不良が慢性的に継続することにより発症,進行する.病態は,アルドース還元酵素活性化によるポリオール蓄積,プロテインキナーゼC活性化,酸化ストレス亢進に基づく炎症・蛋白糖化などの代謝異常と,細小血管障害による血流障害などに起因する末梢性軸索変性,あるいは節性脱髄による.代表的病型は多発神経障害であり,典型的には足趾・足底部から両側性に呈する痛みで発症し,慢性経過を辿るが,急性の経過を辿る場合もある.
急性の糖尿病性神経障害は,長期の高血糖状態に続く急激な血糖低下による場合のこと多いため,まず血糖コントロールを行うが,痛みが強かったり血糖コントロールが不良な場合は鎮痛薬を併用する.
慢性の場合は,軽症であれば,治療方法は血糖コントロールと生活習慣の改善だが,痛みが持続する場合は対症療法が必要である.
第一選択薬:アルドース還元酵素阻害薬,メキシレチン,デュロキセチン,プレガバリン,ガバペンチン,メコバラミン,三環系抗うつ薬
第二選択薬:ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出薬,トラマドール
第三選択薬:モルヒネ,オキシコドン,フェンタニル(経皮吸収型製剤),ブプレノルフィン(経皮吸収型製剤)
神経ブロック:腰部交感神経節ブロック
脊髄刺激療法
<参考文献>
日本ペインクリニック学会治療指針検討委員会編.ペインクリニック治療指針改訂第5版.東京,真興交易医書出版部,2016, pp131–4.
慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ編.慢性疼痛治療ガイドライン.東京,真興交易医書出版部,2018, pp86–7.
<解答例>
<参考文献>
日本ペインクリニック学会治療指針検討委員会編.腰部交感神経節ブロック.日本ペインクリニック学会治療指針改訂第5版.東京,真興交易医書出版部,2016, pp65–7.
塩谷正弘.腰部交感神経アルコールブロック.Med Postgrad 1998; 36: 181–8.
必須記述問題:以下の5題のすべてについて,所定の用紙に簡潔に述べてください.(配点:5題,各5点,計25点)
<解答例>
<参考文献>
細川豊史編.慢性疼痛治療~現場で役立つオピオイド鎮痛薬の必須知識~.東京,医薬ジャーナル,2015, pp173–9.
<解答例>
痛みを感じた際に,過度に恐ろしい結果になると予測する感情的な考え方.
痛みに影響を与える心理的な因子には,抑うつや不安などがあるが,破局的思考はそれらと独立して痛みの強さや生活障害に影響を与える臨床的に重要な因子として注目されている.痛みについて繰り返し考える「反芻」,痛みの脅威を大きくとらえる「拡大視」,痛みに対して無力に感じる「無力感」の3つの側面からなる.自記式質問紙pain catastrophizing scale(PCS)で測る.5件法(全く当てはまらない:「0」~非常に当てはまる:「4」),全13問から成り,総点で52点となる.
<参考文献>
松原貴子.第11章 痛みのリハビリテーション.日本疼痛学会 痛みの教育コアカリキュラム編集委員会編.痛みの集学的診療:痛みの教育コアカリキュラム.東京,真興交易医書出版部,2016, pp153–68, 327.
<解答例>
<参考文献>
日本ペインクリニック学会治療指針検討委員会編.ペインクリニック治療指針改訂第5版.東京,真興交易医書出版部,2016.
<解答例>
<解答例>
ヒドロモルフォンは半合成オピオイド作動薬で,構造的にはモルヒネと似ており,モルヒネとの違いは6-ケト基の存在と7–8位の二重結合の水素付加であるが,薬物動態や薬理学的性質は類似している.
代謝は肝臓で行われ,モルヒネと同様にチトクロームP450の代謝を受けず,グルクロン酸抱合による代謝である.
ただ,ヒドロモルフォンの代謝産物は主にヒドロフォルモン-3-グルクロニドであり,モルヒネのような活性をもつ6-グルクロン酸化代謝物は形成しない.腎機能障害の患者ではM6Gが蓄積する可能性があるため,6-グルクロン酸化代謝物をもたないヒドロモルフォンは腎機能障害の高齢者にとってはモルヒネに代わる選択肢となる.
ただ,グルクロン酸抱合体の蓄積により,腎不全患者に神経毒性が認められたという報告がある.
ヒドロフォルモン-3-グルクロニドはμオピオイド受容体に対するアゴニスト活性はヒドロモルフォンと比較し,1/2,280と低い.
モルヒネ経口投与からヒドロモルフォン経口投与に切り替える時の換算比は5:1である.モルヒネ注射剤からヒドロモルフォンへの変更は1日用量の1/8量を目安とする.
経口ヒドロモルフォン徐放性製剤では2 mg/日(経口モルヒネ換算で10 mg/日)が最少用量なので,より少ない量から始めることができる.また,ヒドロモルフォン徐放性製剤は1日1回服用のため,患者負担は少ない.
低/中用量から悪心,嘔吐,便秘,振戦などがみられる.脊髄内投与ではヒドロモルフォンはモルヒネよりも搔痒を起こしにくい.
モルヒネは速放剤や注射薬のようながん性疼痛に加えて激しい痛みにも適応はあるが,ヒドロモルフォンは経口(徐放,速放),注射薬も含め,がん性疼痛のみである.
欧州臨床腫瘍学会のガイドラインでは,がんによる呼吸困難の治療薬としてモルヒネ,ヒドロモルフォンを挙げているが,現在日本では保険適用外である.
<参考文献>
Twycross R, Wilcock A, Dean M, et al.ヒドロモルホン.武田文和,鈴木 勉監訳.トワイクロス先生のがん緩和ケア処方薬.東京,医学書院,2013, pp389–91.
それぞれの設問に適切な答えを2つ選んでください.(配点:30題,各2点)
解答:a,e
解答:c,d
解答:a,d
解答:a,c
解答:d,e
解答:a,d
解答:a,e
解答:a,e
解答:b,c
解答:a,d
解答:b,c
解答:b,d
解答:a,c
解答:a,d
解答:a,d
解答:a,c
解答:b,d
解答:b,e
(lysergic acid diethylamide:LSD)
解答:b,e
解答:b,c
解答:a,c
解答:c,d
解答:a,b
解答:a,c
解答:c,d
解答:a,b
解答:b,e
解答:c,e
解答:a,e
解答:a,b
以上
一般社団法人日本ペインクリニック学会
ペインクリニック専門医認定委員会