Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2019 Volume 26 Issue 2 Pages 134-135

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I はじめに

がん性疼痛治療の目標は患者のQOL(quality of life)向上である.がん性疼痛の多くは,適切な薬物療法によって緩和することが可能であるが,オピオイド鎮痛薬や鎮痛補助薬による緩和が困難な難治性疼痛も1~2割程度存在し1),また薬物療法の有害事象によって患者のQOLが損なわれている場合もある.神経ブロック療法はがんに伴う難治性疼痛に対する有力な治療手段である2,3)が,施行可能な施設は限られており,そのニーズについても詳細はわかっていない.当院緩和ケアチーム(palliative care team:PCT)では神経ブロック療法を積極的に実施しており,その施行状況について報告する.

本報告にあたり,当院倫理委員会の承認を得た(整理番号30–J71–30–1–3).

II 当院PCTにおける神経ブロックの概要

当院は静岡県がん診療連携拠点病院に指定されている特定機能病院である.院内に50床の緩和ケア病床を有し,がんの診断,治療から看取りまで一貫した診療体制を敷き,PCTはがん治療期の患者から一般病棟における終末期の患者まで,さまざまなフェーズの緩和医療を担当している.2015年のがん登録数は7,178人,死亡患者数は1,102人であった.平日は毎日PCTの主要チームメンバー(専従の身体症状担当医,専従の緩和ケア認定看護師,専任の薬剤師)全員ですべての患者を診察しており,緩和ケア診療加算を算定している.腫瘍精神科医や臨床心理士との合同カンファレンスは週1回行っている.PCTへの主たる依頼目的のほとんどが痛みの緩和であった.神経ブロック療法を担当するのはPCTの身体症状担当専従医(2016年4月から現職)で,PCTへの紹介時から終診まで患者の診察を継続している.さらに,緩和ケア病棟入院中の患者にも,緩和医療科主治医からの依頼に応じて神経ブロックを実施している.

2016年4月から2018年1月までの22カ月間に症状緩和を目的としてPCTが介入した患者総数は471人であった.この期間に神経ブロックを施行した患者は94人で,うち58人がPCT介入患者,36人が緩和ケア病棟入院患者であった.実施した神経ブロックの総件数は127件で,おもな原発臓器は膵臓がん23例,直腸がん15例,胃がん10例,肺がん10例,子宮がん7例,などとなっていた.施行したおもな神経ブロックの内訳は,持続硬膜外ブロック58件,内臓神経ブロック30件,仙骨硬膜外エタノール注入法15件,神経根ブロック6件,持続くも膜下鎮痛法5件,上下腹神経叢ブロック4件,神経根高周波熱凝固法4件,などであった.持続硬膜外ブロックは,内臓神経ブロックや仙骨硬膜外エタノール注入法による除痛効果の判定を目的とした施行例が多かった(60.4%).

内臓神経ブロックは上腹部内臓痛に対して広く適応となる.当科では全例X線透視下で,Th12/L1(1例のみL1/L2)レベルでの経椎間板法によるアプローチを行い,無水エタノールを12~20 ml注入している.30例中1例で遷延性下痢を生じた以外,特に重篤な合併症は発生していない.この2年間において,再ブロック施行例はない.

仙骨硬膜外エタノール注入法は山室が考案した方法(表14)で,S4~S5神経支配領域に腫瘍による体性痛があり,痛みのために座位保持が困難な例が適応となる.サドルフェノールブロックと比較した場合,排尿や排便の機能を低下させずに会陰部の痛覚を遮断できることがメリットである.本法による膀胱直腸障害は1例も発生していない.

表1 仙骨硬膜外エタノール注入法の概要
➢適応:肛門部・会陰部の体性痛
  自排尿・自排便可能なサドルブロック不適応例
➢仙尾靱帯から頭側へ4 cm程度カテーテルを挿入
➢0.5%ブピバカイン2 ml/h程度持続注入で効果確認
➢無水エタノール注入直前に造影し薬液の広がり確認
➢無水エタノール注入スケジュール
 ・プライミング:1.2~1.5 mlを5分程度かけて分割投与
 ・持続注入①:1.2~2.5 ml/hで2時間注入
 ・1時間の注入休止時間:排泄機能や下肢脱力の有無確認
 ・持続注入②:1.2~2.5 ml/hでさらに2時間注入⇒終了
 ・硬膜外カテーテルはエタノール注入の翌日に抜去

当院PCTの身体症状担当専従医はペインクリニック専門医で,毎日の直接診療を通じて症状の詳細な評価が可能である.すなわち,主担当医や病棟スタッフとの情報共有により予測予後を含めた患者の状況判断を行い,侵襲的治療やカテーテル留置に対する忍容性などの総合的判断が可能であり,神経ブロックを迅速に実施できる.また,神経ブロック施行後の薬剤の調整やフォローアップ体制も十分であり,患者家族,主担当医,病棟スタッフからの信頼を得て,各診療科の協力体制も十分である.

当院においては各がん診療科の疼痛緩和に対する関心が高く,オピオイドは躊躇なく迅速に増量されている症例が多い.PCTへ紹介される患者の多くは難治性疼痛を抱えており,オピオイドや鎮痛補助薬の有害事象によりQOLが低下している例もみられる.神経ブロック施行時期は患者の生命予後が限定的となっている場合も多くPCT紹介時期が遅れる場合もあるため,特に積極的がん治療期における潜在的な神経ブロックのニーズはさらに高い可能性もある.

神経ブロック療法は劇的な鎮痛効果を発揮するが,痛みの評価のみならず患者の予後やおかれた状況をチームアプローチによって的確に判断することも重要である.また施行後のフォローアップも含めて痛みの予後を見据えた包括的な疼痛治療計画も必要である.神経ブロックを普及させるためには,病棟スタッフや院内職員を対象とする勉強会やレジデント教育実施の他,地域内での啓発活動を今後も継続するとともに,より的確な神経ブロックを実施して各診療科医師や病棟スタッフに成功体験を重ねてもらうことも大切である.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第51回大会(2017年7月,岐阜)において発表した.

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