Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Effectiveness of methadone and intrathecal analgesia for intractable cancer pain in pediatric patients with malignant tumors: a case report
Kiichi MAEZATOToshifumi KOSUGIMiho OKAGUCHIShiro TOMIYASU
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2019 Volume 26 Issue 2 Pages 111-115

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Abstract

小児悪性腫瘍に伴う難治性がん疼痛に対し,メサドンとくも膜下鎮痛法(IT)を用いて良好な鎮痛を得た症例を経験した.症例は12歳,女性.3歳時に悪性末梢神経鞘腫を発症し放射線・化学療法を施行されたが再発し,12歳時には胸髄浸潤による対麻痺症状が出現したため緊急手術が行われた.一時的に症状は軽減したが痛みが増強し,オキシコドンが開始されたが効果なく,手術から4カ月後当院へ紹介入院となった.オキシコドンをメサドンへスイッチすることで第7病日には持続痛,体動時痛ともに改善.病状進行による食道通過障害が進行した第33病日にITを導入することで最期まで良好な鎮痛維持が可能であった.わが国における小児の難治性がん疼痛に対するメサドンやITの報告はないが,安全かつ効果的な1例を経験した.

I はじめに

WHOガイドライン「病態に起因した小児の持続性の痛みの薬による治療」1)(以下,小児のWHOガイドライン)によると,小児のがん疼痛は身体的,心理的,社会的,文化的,スピリチュアルな要因の統合の結果生じる,とされている.とりわけ身体的痛みが難治性であった場合,そのことが他の要因にも影響してQOLが著しく低下するので,適切な痛みのコントロールが重要である.今回われわれは,小児のがん疼痛に対する標準的薬物治療によって除痛が困難であった症例に対し,わが国ではまだ報告のないメサドン内服および持続くも膜下鎮痛法(IT)で適切な疼痛コントロールを行うことができたので,考察を加えて報告する.

なお,本患児のプライバシーの保護に十分配慮し論文として報告することについて,家族から文書による同意を得ている.

II 症例

患者:12歳,女性.

現病歴:3歳時に後縦隔原発の悪性末梢神経鞘腫と診断され,放射線・化学療法が施行された.発症から4年後に局所再発したため化学療法を再開したが徐々に腫瘍は増大し,12歳時には胸随への直接浸潤による対麻痺症状が出現した.緊急に椎弓切除術が施行され麻痺は一時的に改善したが,この時点で化学療法は中止となった.徐々に上背部と下肢の痛みが強くなり小児WHOガイドラインに則ってオキシコドンが導入されたが効果がなく,激痛となった手術から4カ月後に当院入院となった.

入院時所見:身長130 cm,体重30 kg.バイタルサイン,血液検査データに異常はなかった.心窩部と右背部に膨隆があり,入院後に施行したCTで膨隆部位に一致して巨大な腫瘍が認められ,第8~11胸髄を中心に脊柱管内に浸潤していた(図1).心窩部以下の体幹,下肢に感覚鈍麻があり,下肢の徒手筋力テスト(MMT)は両側ともに2/5であった.

図1

胸部CT:第7病日

巨大な腫瘍()が縦隔に存在し,腫瘍は心臓を前方へ圧排しており(),一部は胸椎脊柱管内へ浸潤している().

痛みは膨隆した背部から右腋窩にかけて認められた.仰臥位で下肢を屈曲させた姿勢で最も痛みが軽く,体動時に増強した.経口オキシコドン徐放性製剤40 mg/日,ロキソプロフェン180 mg/日,プレガバリン150 mg/日,クロナゼパム1 mg/日,ロラゼパム0.5 mg/日を内服していたが,患者の言動や表情などを評価して作成した痛みの他者評価であるカテゴリースケール(CS)(0:笑顔があり楽しく会話できる,1:日常の会話ができる,2:周囲に無関心で日常会話ができない,3:イライラや怒りの表出がある,4:泣きながら痛みを訴える,5:泣き叫びながら激しく痛みを訴える)では,安静時3~4/5,体動時は5/5であった.巨大腫瘤による体性痛,脊髄浸潤が原因の神経障害性疼痛,食道狭窄が原因の内臓痛の混在した難治性混合性疼痛と考えられた.

入院後経過:図2に,おもな疼痛治療介入とCSの推移を示す.入院時(第1病日)よりCS 5の非常に激しい痛みを訴えたことから,オピオイド持続皮下注やレスキューの使用を提案したが,患者は希望しなかった.このため,オキシコドン徐放性製剤を80 mg/日まで日ごとに増量したがまったく効果がなかった.難治性神経障害性疼痛と判断し母親にメサドン投与の必要性に加え,小児への投与がわが国では報告がないこと,副作用リスクなどを説明し承諾を得た.

図2

メサドン・くも膜下投与薬液量と痛みのカテゴリースケールの推移

心電図上QTcや電解質に異常のないことを確認し,第3病日にメサドンの添付文書どおりにオキシコドンを中止し一定時間経過した後に10 mg/日の内服で開始した.さらに胸部症状や眠気の増強がないことを確認後,第5病日に15 mg/日へ増量した.第7病日には体動時のCSが3~4/5に低下し,前述のCT検査も実施可能となった.眠気が許容でき,CS 0~2/5を目標にメサドンを50 mg/日まで増量した.経過中,重篤な副作用を認めなかった.

第28病日から下肢の筋力低下の進行,異常感覚を伴った神経障害性疼痛が増強した.また食道狭窄に伴い内服も困難となったため,ITに関して本人,母親に説明し同意を得た.ITを導入するまでの数日間は,オキシコドンの持続静注を併用し,第33病日に手術室においてミダゾラムで鎮静を行った後に第4/5胸椎椎間レベルより穿刺を行い,カテーテル先端を第2胸椎椎体上縁レベルに留置した(図3).カテーテル先端が上位胸椎レベルであるため,眠気などの副作用を考慮してまずフェンタニルを選択した.0.5%ブピバカイン100 mg/20 mlに生理食塩水80 mlで希釈したものを0.3 ml/h(ブピバカイン7.2 mg/day),フェンタニル0.5 mg/10 mlに生理食塩水90 mlで希釈したものを0.2 ml/h(フェンタニル0.024 mg/day)の2ルートで開始し,疼痛時はそれぞれ0.3 ml,0.2 mlの追加投与をPCA(患者自己調節鎮痛法)ポンプを用いて行った.痛みの程度をみながら適宜漸増したが有害事象は認めなかったため,フェンタニルを塩酸モルヒネに変更し,ある程度モルヒネ,ブピバカインの量が調節できてきた時点で1ルートとした.塩酸モルヒネ,ブピバカインはそれぞれ最高30.7 mg/day(1.28 mg/h),38.4 mg/day(1.6 mg/h)使用した.途中,モルヒネによるものと思われるミオクローヌスが出現することもあったが,モルヒネを減量してブピバカインを増量し,クロナゼパム内服の頓用で対応できた.経過中,上肢の麻痺や呼吸抑制などの有害事象は認めなかった.メサドンはITを導入した直後に本人の希望で中止したが,CS 3/5となったためいったん再開し,その後漸減していくことでIT開始から33日目(第68病日)に中止した.第49病日頃より幻覚などを中心としたせん妄症状がみられ,泣いたり,イライラした様子があり,CSでの評価はより慎重な判断が必要であったもののハロペリドールなどの抗精神薬を使用し対応したが,明らかに痛みが原因ではなかった.その後も,ITのみでCS 0~2/5の良好な鎮痛を維持することができた.第85病日に全身状態が悪化し死亡した.

図3

胸部X線写真

くも膜下鎮痛のためのカテーテル先端()が第2胸椎上縁になるように留置し,右鎖骨下の前胸部へ皮下ポート()を造設した.

III 考察

今回,オキシコドンで十分な鎮痛が得られなかった小児の難治性がん疼痛に対して,メサドン内服で副作用なく良好な鎮痛が得られた.小児のWHOガイドラインでは,オピオイドナイーブな小児にメサドンを開始する場合は少ない投与量で短い投与間隔,つまり100~200 µg/kgを4時間ごとにまず2~3回投与した後,100~200 µg/kgを6~12時間ごとに投与することを推奨しているが,オピオイドスイッチングについての記載はない.わが国においては投与開始後ならびに増量後の増量は,少なくとも7日間は行わないこととなっているが,本症例はメサドン投与前すでにオキシコドンを80 mg/日内服していた.わが国の成人におけるメサドンの投与量は約15 mg/日であるが小児への投与経験がなかったことから,わが国における成人の投与量からの体重換算比より少ない量から開始し,眠気などが増強すると考えられる3日目に,副作用のないことを確認して15 mg/日に増量した.以降は成人同様に副作用の発現に注意しながら,痛みの増強に合わせて増量を行い,ポータブルトイレ移行が容易になるなど良好なADLを確保できた.

わが国における小児に対するメサドン使用の報告はないが,海外にはいくつかの報告がある2,3).Anghelescuら2)は,がんによる痛みの治療やオピオイド減量過程の退薬症候回避などを目的にメサドンを使用した41名の小児における後方視的調査において,疼痛コントロールを目的に使用した患者で疼痛スコアが評価できた14名のうち9名(64.3%)で痛みが改善し,鎮静を要した症例(10名,24.4%)はあったものの呼吸抑制や不整脈など重篤な副作用は認めなかったと報告している.わが国においても注意深い観察のもとで使用すれば,メサドンは小児の難治性がん疼痛にも使用できる可能性がある.

食道狭窄により内服が不安定となった後はITにより鎮痛を維持した.くも膜下投与されるモルヒネは内服の1/300~1/100の量で同等の鎮痛効果が得られることに加えて,局所麻酔薬を併用することで難治性の神経障害性疼痛への効果が期待できる4,5).Bengaliら6)はオピオイドを含むさまざまな薬剤の全身投与で,除痛不十分,せん妄などの副作用のみられた15歳の肛門周囲扁平上皮がん患児の閉鎖神経浸潤に伴う腰下肢痛に対してITにより良好な鎮痛と副作用の改善が得られたことを報告しており,わが国においても小児の難治性がん疼痛治療の選択肢の一つとなることが示唆された.

小児のがん疼痛治療においては,痛みのアセスメントに苦慮する場合がある.本症例は,激しい痛みを怒りっぽさ,不機嫌さなどの態度で表現していたものと考えられたことから,WHOガイドラインに記載された「話すことができない小児の痛みの評価方法」に則って他覚的に痛みに関わる行動を抽出・評価し,行動を階層化することで痛みの程度の評価とした.約3カ月の入院期間中,前述のカテゴリーをもとに薬剤の調整やレスキュー投与を行ったが,大きなズレは生じなかったと考えている.その一方で終末期に向けては不穏,せん妄の出現に伴って痛み以外の原因による行動変化がみられ,CSによる評価が必ずしも痛みの増強を示したものではない,と考えられる場面もしばしば見受けられた.小児においてもさまざまな要素のすべてが統合された結果として痛みが出現していることを念頭に置き,全人的に対応することの大切さを改めて考えさせられた.

今回,小児の難治性のがん疼痛コントロールにメサドンおよびITを用いて,良好な鎮痛を最期まで維持することができた.わが国においてもこれらの方法が安全かつ効果的に使用できる可能性が示唆された.

本論文の要旨の一部は,第22回日本緩和医療学会学術大会(2017年6月,横浜)で発表した.

謝辞

このたびの疼痛コントロールにあたり,適切なアドバイスをしていただきました松田良信先生(市立芦屋病院)に心より感謝を申し上げます.

文献
  • 1)  世界保健機関編集. A1.4 メサドン. 武田文和監訳. 病態に起因した小児の持続性の痛みの薬による治療. 第1版, 東京, 金原出版, 2013, pp76–9.
  • 2)   Anghelescu  DL,  Faughnan  LG,  Hankins  GM, et al. Methadone use in children and young adults at a cancer center: a retrospective study. J Opioid Manage 2011; 7: 353–61.
  • 3)   Davies  D,  DeVlaming  D,  Haines  C. Methadone analgesia for children with advanced cancer. Peditr Blood Cancer 2008; 51: 393–7.
  • 4)  服部政治, 吉沢正巳, 増田律子, 他. がん性疼痛に対するくも膜下鎮痛法. 日本緩和医療薬学会誌2010; 3: 31–6.
  • 5)  日本ペインクリニック学会がん性痛に対するインターベンショナル治療ガイドライン作成ワーキンググループ編集. がん性痛に対するインターベンショナル治療ガイドライン. 東京, 真興交易医書出版部, 2014.
  • 6)   Bengali  R,  Huang  MS,  Guhur  P, et al. The use of intrathecal pump to manage intractable cancer pain in a pediatric patient: a case report. J Pediatr Hematol Oncol 2014; 36: e162–4.
 
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