2019 Volume 26 Issue 2 Pages 136-138
ペインクリニックの需要は増加しているが,外来の数は十分とはいえない.既存の古い中小病院では外来スペースが足りず人員増加も難しく,新規ペインクリニック外来開設に苦労する.われわれは,スペースも人員も増やせない病院で救急外来を利用しペインクリニック外来を開設したので,その利点と欠点を報告する.
われわれの施設は,28年前に設立した317床,外来17科,外来患者数630人/日,手術室3室,麻酔科関与手術数1,200件/年,常勤麻酔科医3名の病院である.
初年度は麻酔科医1名(麻酔科学会指導医,ペインクリニック学会認定医,臨床経験20年以上)が麻酔の合間に救急業務兼務を開始,麻酔科医の救急受け入れが435件/年,院内で患者が発生したときのみ不定期でペインクリニック診療を行った.2年目は,同一麻酔科医1名が平日日勤帯全救急受け入れ(1,157件)に対応し,兼務でペインクリニック外来を開設,平日(月曜~金曜,9~16時)予約制で1時間あたり2名,救急外来のウォークイン患者用ベッドで対応した(図1).ホームページにペインクリニック外来開設の案内を載せ,外来診療表に追加した.途中から手が空いたときに麻酔標榜医が,ペインクリニック,救急の研修目的で診療に参加した.看護師も救急外来の看護師が兼務した.入院ベッドをペイン,救急用に2床確保した.3年目,同様のシステムで運営し,日本ペインクリニック学会認定施設を取得した.認定証を外来に掲げた以外広報活動は特に行っていない.同年麻酔科医の救急受け入れは1,749件/年であった.
ペインクリニック外来(救急室)配置図
ベッド1,2は夜間休日のみ救急診察室として使用するので,平日日勤帯はペインクリニック診察室として利用.足りない場合は点滴用のベッド3も利用可能.スペースの正確なサイズは測定していないが,ベッド1~3は通常の外来にある診察ベッド,机は普通の事務机,ベッドと壁の間は椅子を置いて硬膜外ブロックが十分できる幅になっている.
ペインクリニック外来受診患者の疾患別内訳を表1に示す.初年度(9カ月間)19名は,すべて院内患者であった.外来開設した2年目に初診43名,認定施設取得した3年目に80名に増加した.耳鼻科から顔面神経麻痺,突発性難聴,皮膚科から帯状疱疹痛,帯状疱疹後神経痛,整形外科から腰痛の紹介が徐々に増えた(表1).院内でも評価されてきた結果と考えられる.また認定施設取得後は他院からの紹介患者も徐々に増えた.治療としては2年目に星状神経節ブロックが増え,3年目に硬膜外ブロックが急増した(表2).
疾 患 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
---|---|---|---|
帯状疱疹痛 | 1 | 5 | 44 |
帯状疱疹後神経痛 | 3 | 4 | 7 |
ベル麻痺 | 7 | 13 | 2 |
Ramsay-Hunt症候群 | 2 | 1 | |
突発性難聴 | 2 | 4 | |
頸椎椎間板ヘルニア | 2 | ||
腰椎椎間板ヘルニア | 1 | 3 | 1 |
視床痛 | 1 | ||
頸椎症 | 1 | ||
術後痛 | 1 | 1 | |
三叉神経痛 | 1 | 1 | 3 |
坐骨神経痛 | 1 | 1 | |
アルコール性末梢神経障害 | 1 | ||
腰椎圧迫骨折 | 2 | 6 | |
癌性疼痛 | 1 | ||
頸肩腕症候群 | 4 | 3 | |
虚血性疼痛 | 1 | 1 | |
神経因性疼痛 | 1 | 1 | |
多汗症 | 1 | ||
腰臀部痛 | 5 | ||
慢性膵炎 | 1 | ||
皮膚潰瘍 | 1 | ||
合計 | 19 | 43 | 80 |
治 療 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
---|---|---|---|
星状神経節ブロック | 142 | 370 | 199 |
腰部硬膜外ブロック | 11 | 15 | 66 |
胸部硬膜外ブロック | 5 | 2 | 134 |
頸部硬膜外ブロック | 7 | 12 | 9 |
肋間神経ブロック | 1 | 10 | 3 |
眼窩上神経ブロック | 1 | 28 | 30 |
眼窩下神経ブロック | 18 | ||
上顎神経ブロック | 2 | 4 | |
下顎神経ブロック | 4 | ||
腕神経叢ブロック | 7 | 1 | |
肩甲上神経ブロック | 3 | ||
トリガーポイントブロック | 3 | 3 | |
頸神経ブロック | 8 | ||
仙骨ブロック | 12 | ||
薬物投与のみ | 9 | 28 | 59 |
合計 | 178 | 486 | 564 |
わが国でのペインクリニック外来開設の報告は,500床以上の大病院のもの1,2)しかみられず,これらの病院では外来スペースも人員も十分で,大きな問題はないと考えられる.
しかしわれわれの病院のように古い狭い病院で既存の科で外来が占められている場合,新たな科の開設は難しい.しかし救急外来のウォークイン診察室は夜間・休日しか使用しないため,平日利用が可能となる.さらに救急外来は,モニター,緊急時対応薬品,器具はすべてそろっている.加えて,救急外来の看護師は緊急対応に慣れている.また当院規模の救急外来は常に救急車が入っているわけではなく,医師も看護師も時間に余裕がある.2床ある診察室で1時間2人までの予約制とすることで,救急外来担当麻酔科医と看護師で十分対応可能であった.そのため外来開設にあたり人員は特に増やしていない.さらに臨時用に点滴用のベッドも利用可能であった.ブロック針も麻酔に使用しているので新たに購入する必要はない.一部のブロックにエコーガイドを必要とするが,これも必要時だけ手術室か検査室から持参すればよい.欠点は,救急車が入っているときに予約患者に待ち時間が生じることであった.予約時に救急対応時には待ち時間が生じることを伝えてあるので特に問題なく,待ち時間は長くても20~30分以内であった.
救急外来というオープンスペースを利用しているが,ウォークイン対応の部屋を使うため,ドア,壁,カーテンで仕切られ患者のプライバシーは確保できる.さらにカーテンで救急スペースと仕切られているだけなので,緊急時にスタッフがただちに駆けつけることができる.
麻酔科医が救急外来と兼務し救急外来スペースを使用することで,既存の中小病院で負担なくペインクリニック外来開設が可能である.
この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第47回大会(2013年7月,さいたま)において発表した.