Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2019 Volume 26 Issue 2 Pages 131-133

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I はじめに

頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid cavernous fistula:CCF)は,海綿静脈洞とその中を通る内頸動脈との間に動静脈瘻を生じる病態である.特発性と後天性に分類されるが,多くは後天性に生じる.原因としては頭部外傷が最も多く,血栓,腫瘍,海綿静脈洞の手術歴,感染なども原因となる.典型的な臨床症状として眼瞼結膜の充血,眼球突出,眼窩部の雑音があげられるが,それらの典型的な臨床症状をきたさない場合には診断は必ずしも容易ではない.われわれは,頭痛を初発症状とし診断に難渋したCCFの1症例を経験したので報告する.

なお,本報告については患者本人からの承諾を得ている.

II 症例

77歳.女性.身長141 cm.体重59 kg.

既往歴:高血圧.

現病歴:X−35日に右眼周囲の疼痛が出現し,近医眼科を受診した.右眼周囲の疼痛と軽い複視および内斜視を認めたため脳神経外科受診を勧められ,X−29日に近医脳神経外科を受診し,頭部MRI,MRA検査を施行されたが,器質的異常は指摘されなかった.X−11日に疼痛が持続するため近医内科を受診し,頭部CT検査を施行されたが異常なく,三叉神経痛の疑いでX日に当科紹介となった.初診時,右額から右眼周囲,右耳介部にかけて刺すような疼痛があり,程度の強弱はあっても一日中持続していた.トリガーポイントはなく,疼痛のため診察中も右顔面を押さえ閉眼したままであり,詳細な脳神経学的所見をとることは困難で,動眼神経,外転神経麻痺の有無をみることはできなかったが,明らかな顔面麻痺や感覚障害はなかった.カルバマゼピン100 mgの内服で痛みはやや軽減したが,嘔気が強く光過敏も認めたため,三叉神経痛,片頭痛が疑われ,頭痛の程度も強く,その精査,治療目的に入院となった.スマトリプタンコハク酸塩3 mg皮下投与後50 mgの頓用と,アセトアミノフェン600 mgの頓用を開始した.スマトリプタンコハク酸塩により一時的に疼痛は軽減したものの,持続する頭痛の間に数秒間の針で刺すような疼痛が間隔をおいて一日中繰り返していた.また三叉神経痛の可能性も考慮しカルバマゼピン400 mg/日まで増量したが効果は軽度であり,ふらつきや眠気の副作用が出現したため中止し,バルプロ酸に変更した.その後,頭痛発作の頻度は減少したものの持続痛はあるため,二次性頭痛の検索目的に,X+4日目に当院脳神経外科に対診を依頼した.脳神経外科では頭部CT画像に異常はなく,頭痛が右半分に限定されており,髪を触れることで誘発され,右眼奥の疼痛を伴い,右後頸部に圧痛点を認めたことから,大後頭神経三叉神経症候群(great occipital trigeminal syndrome:GOTS)を指摘された.この時点で,バルプロ酸600 mg/日,スマトリプタンコハク酸塩50 mgとアセトアミノフェン600 mgの頓用により頭痛が軽減していたことから,大後頭神経ブロックなどのトライアルブロックは行わなかった.頭痛が上記内服により軽減し,夜間不眠,食欲不振も改善したため,以後外来で経過をみることとなり,X+7日目に一時退院となった.しかし,X+13日目に著明な複視が出現し,近医眼科で内斜視および外転神経麻痺を指摘された.Tolosa-Hunt症候群を疑われ当院神経内科に紹介となり,造影MRI検査でCCFが疑われ,脳神経外科での脳血管造影検査でCCFの確定診断に至った.経静脈的塞栓術が施行されて頭痛・複視ともに軽快し,X+36日目に退院となった.その後は頭痛も軽快し,退院時のトラマドール・アセトアミノフェンの合剤4錠/日内服も,治療後7カ月で不要となった.右眼外転神経麻痺は治療後約11カ月の眼科受診時に正常範囲となり,CCFは完治した.

III 考察

CCFは,①眼球結膜の充血浮腫,②拍動性の眼球突出,③眼窩部における血管雑音聴取の3主徴を呈する疾患である.その他の症状としては顔面静脈の怒張や外眼筋麻痺などを呈し,自覚症状としては複視や耳鳴り,頭痛などがある.おもに後天性に発症することが多いため,脳神経外科を受診されることがほとんどで,ペインクリニシャンがCCF患者を診断する機会はまれである.CCF患者が頭痛を主訴にペインクリニック外来を受診した場合でも,上記の3主徴がみられれば診断は可能であるが,本症例では頭部外傷の既往はなく,CCFの原因は不明であった.また,初診時よりCCFの3主徴は呈しておらず,右額,右眼周囲,右耳介部の疼痛と嘔気のみを訴えていた.

バルプロ酸やスマトリプタンコハク酸塩の内服も頭痛をいくらか軽減はしたものの,頭痛の持続時間や疼痛の性状から典型的な三叉神経痛や片頭痛とは異なる印象は否めなかった.

そのため,再度脳神経外科での精査を依頼したが,CCFの典型的な症状が認められなかったために,脳神経外科でも確定診断には至らなかった.

1週間入院のうえ内服薬を投与し,頭痛は自宅退院できる程度に軽減したが,消失することはなく持続していた.ある程度頭痛が軽減した理由としては,スマトリプタンコハク酸塩による頸動脈–静脈吻合の閉鎖作用や降圧剤によりシャント量が減少したためと推測された.

CCFは診断さえできれば,即効性,根治性ともに優れた塞栓術による治療が可能な疾患である.しかし,症例によっては長期に眼球運動障害や視力障害が残ったり,脳梗塞,脳出血といった重篤な神経症状を呈したりする場合もあり,早期の診断・治療が求められる疾患でもある1).CCFは一般的には良性疾患である2)が,眼圧上昇に伴う視力障害がある場合や,脳表静脈への逆流が強くみられるときには,すみやかに根治的治療を行う必要があり,その際は根治率が高い頸静脈的塞栓術が選択される3).内山らは4),結膜充血,眼球突出,視力障害,動眼神経麻痺などの11例の症状について検討した結果,塞栓術によりこれらの症状の予後は良くなり,治癒率は100%で頭痛の訴えはいずれの症例にも認められなかったとしている.

CCFの診断は脳血管造影検査で内頸動脈と海綿静脈洞との間に瘻孔を形成することで行われる.海綿静脈洞からの流出路となる眼静脈の拡張が大きければ,MRAでも流出した静脈を描出することが可能であり,再度近医脳神経外科から取り寄せたMRAの元画像(図1)でも海綿静脈洞内に速い血流を示す高信号を確認できた.

図1

前医脳神経外科病院で撮影されたMRAの元画像

右海綿静脈洞付近に高信号(→)が認められる.

本症例は,典型的なCCFの臨床症状を呈しておらず,初診時の身体所見でも異常が認められなかった.しかし画像検索で異常なく,薬物療法に良好な反応を示さなかった時点でも,造影MRIや再度MRAを撮影するなどの追加検査をすることで,診断に至ることができたのではないかと考えられる.尋常でない頭痛が続いていた場合はレッドフラッグサインとして早急な対応が必要であると判断し,再診察や画像の見直しを行うことや,また必要があれば他科とも協力し再度画像検索を行うことが重要であると痛感した.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第51回大会(2017年7月,岐阜)において発表した.

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