2019 Volume 26 Issue 4 Pages 308-312
【目的】初期の帯状疱疹関連痛に対する神経ブロックの効果を検討する.【方法】本研究はヒストリカルコホート研究であり,2014年1月から2015年12月までに,帯状疱疹罹患後3カ月以内に当院を受診した患者を対象とした.痛みのスケールとしてはvisual analogue scale(VAS)を使用し,神経ブロックの有無を説明変数,来院時と発疹発症から3カ月後のVASの差を従属変数とし,神経ブロックの有無がVASの変化へ与える影響を調べた.【結果】対象人数は265名であった.共変量で調整した多変量線形回帰分析では神経ブロックはVASを有意に低下させることが示された(P=0.01).また,受診前期間が短いほどVASが大きく低下することが示された(P<0.0001).【結語】神経ブロックは帯状疱疹の痛みの緩和に有効であり,受診前期間が長いほど神経ブロックによる痛みの緩和効果は低くなることが示唆された.
帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)は最も頻度の高い帯状疱疹の合併症であり,感染により引き起こされる神経障害性疼痛である.帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスの初回感染が緩解したのち,脳神経あるいは脊髄神経の後根神経節内に長期に潜伏しており,それが再活性化されることにより引き起こされる1).PHNを含めた神経障害性疼痛に対する治療に対しては,三環系抗うつ薬や,セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬,およびプレガバリンなどの薬理学的治療の有用性が報告されており,本邦のガイドラインを含めた種々のガイドラインでも有効な治療として推奨されている2,3).また,インターベンショナル治療として神経ブロックによる治療も行われており,硬膜外ブロックや星状神経節ブロック,傍脊椎ブロックは単独でPHNの発生率を減少し,痛みを減少するという報告も認められている4–6).一方で,神経ブロック治療の有無がPHNの軽減に影響するかどうかに加え,受診前期間と痛みの軽減効果の相関を示した研究は少ない.
本研究では,PHNへの移行を防ぐために帯状疱疹初期からの神経ブロック治療が有効であるかどうかを検討した.
なお,本研究は仙台ペインクリニック倫理委員会の承認(承認番号2017–04)を受けたものである.
本研究は単施設ヒストリカルコホート研究であり,2014年1月1日から2015年12月31日までに,発疹出現から90日以内に仙台ペインクリニックを受診した,帯状疱疹初期の患者を対象とした.抗血小板・抗凝固薬を内服している患者,発疹の出なかった患者,あるいは初回のみの受診の患者は対象より除外した.
2. 臨床的特徴と主要評価項目年齢,性別,BMI,前駆痛の有無,アロディニアの有無,知覚低下の有無はカルテレビューにより入手した.受診前期間は皮膚の発疹出現から当院初回受診までの期間と定義した.空腹時血糖値が126 mg/dl以上,HbA1cが6.5%以上,経口血糖降下薬やインスリンを使用している場合,あるいはこれまで臨床的に糖尿病の診断を受けている場合には糖尿病と判断した.
痛みの評価としては,初診時および発疹発現後3カ月時にvisual analogue scale(VAS,mm)を痛みのスケールとして測定した.主要評価項目としては,初診時から発疹発現後3カ月時点でのVASの差を,VASの変化量として用いた.
3. 神経ブロック神経ブロックあり群では治療として各種神経ブロックを行った.どの超音波ガイド下神経ブロックあるいは透視下神経ブロックを使用するかの選択は,担当医師の自由意思により決められた.当院受診後,治療として一度でも神経ブロックを行った場合は神経ブロックあり群に含め,一度も神経ブロックを行わなかった群を神経ブロックなし群とした.
4. 統計解析背景因子の解析には連続変数の比較ではt検定を,カテゴリカル変数の比較にはフィッシャーの正確確率検定を用いた.交絡因子の調整には多変量線形回帰分析を用いた.本研究において,年齢,性別,BMI,受診前期間,前駆痛の有無,アロディニアの有無,知覚低下の有無,および糖尿病の有無を共変量として用いて解析した.統計解析にはSTATA version 13(STATA Corp., College Station, TX)を使用した.
2014年1月から2015年12月までに発疹出現後90日以内に当院を受診し,帯状疱疹と診断された患者のうち,除外基準に該当しなかった患者の265名を本研究における対象集団とした.神経ブロックあり群となし群での背景因子の比較を表1に示した.背景因子のうち,神経ブロックあり群では知覚低下の患者が,ブロックなし群と比較して有意に多かった(P=0.004).初診時VASは,ブロックなし群と比較してブロックあり群では有意に高い値を示した(P<0.0001).その他の因子については2群の間で有意な差は認められなかった.
背景因子 | 神経ブロックなし(n=64) | 神経ブロックあり(n=201) | 欠損(n) | P値* |
---|---|---|---|---|
患者要因 | ||||
男性,n(%) | 23(36) | 96(48) | 0 | 0.11 |
平均年齢,y(SD) | 64.1(12.5) | 65.9(13.6) | 0 | 0.35 |
平均BMI,kg/m2(SD) | 22.7(3.38) | 23.4(3.49) | 0 | 0.24 |
平均受診前期間,day(SD) | 18.4(19.2) | 22.0(16.4) | 0 | 0.16 |
症状,n(%) | ||||
前駆痛 | 42(66) | 137(68) | 0 | 0.76 |
初診時のアロディニアあり | 20(31) | 83(41) | 0 | 0.19 |
初診時の知覚低下あり | 18(28) | 99(49) | 0 | 0.004 |
合併症,n(%) | ||||
糖尿病あり | 10(16) | 28(14) | 0 | 0.84 |
痛みのスケール | ||||
平均初診時VAS,mm(SD) | 55.2(22.7) | 70.6(20.1) | 0 | <0.0001 |
*性別,症状,合併症にはフィッシャーの正確確率検定を用い,年齢,BMI,受診前期間,および痛みのスケールにはt検定を用いた.
表2に当院での神経ブロック治療の内訳を示した.対象となる265名のうち,201名がなんらかの神経ブロックによる治療を受けていた.神経ブロックには硬膜外ブロック,星状神経節ブロック,神経根ブロック,三叉神経ブロックが含まれ,その他のブロックには腕神経叢ブロック,傍脊椎ブロック,肋間神経ブロックを含んでいる.ブロックあり群には,単回のブロックから複数回のブロックまで含んでおり,一度でもブロックを受けた患者はブロックあり群として扱った.
神経ブロックの種類 | Total No(%)(n=265) |
---|---|
硬膜外ブロック | 157(52) |
神経根ブロック | 70(23) |
星状神経節ブロック | 93(31) |
三叉神経ブロック | 9(3) |
その他のブロック | 84(28) |
帯状疱疹の治療としての神経ブロックが,初診から3カ月後の痛みの変化に影響を及ぼすか,また,他の因子が痛みの変化に関連するかを調べるために,前述の共変量を用いて,多変量線形回帰分析を行った(表3).交絡因子を調整したのちも,神経ブロックは3カ月時の痛みの変化を有意に大きくすることが認められた(F9,255=3.78;P=0.01).多変量線形回帰モデルから,神経ブロックあり群では神経ブロックなし群と比較して3カ月時のVASが平均9.6 mm低下することが予測される.また,交絡因子を調整した結果,受診前期間は痛みの変化と逆向きの相関を示し(F9,255=3.78;P<0.0001),受診前期間が1日増加するほど,3カ月後のVASの変化が平均0.5 mm低下することが予測される(図1).
予測因子 | 回帰係数 | 95%信頼区間 | P値* |
---|---|---|---|
定数 | 44.2 | ― | ― |
神経ブロック | 9.61 | 2.03‐17.2 | 0.01 |
性別,男性 | -3.61 | -10.3‐3.05 | 0.29 |
年齢 | 0.07 | -0.19‐0.33 | 0.59 |
BMI | 0.05 | -0.88‐0.98 | 0.92 |
受診前期間 | -0.50 | -0.70‐-0.30 | <0.0001 |
前駆痛 | -1.40 | -8.19‐5.39 | 0.68 |
アロディニア | 3.56 | -3.22‐10.34 | 0.30 |
知覚低下 | 1.51 | -5.04‐8.05 | 0.65 |
糖尿病 | 2.17 | -7.22‐11.57 | 0.65 |
*多変量線形回帰分析には8つの因子を共変量として用いた.
神経ブロックの有無で分けたVASの変化と受診前期間の相関
神経ブロックあり・なし群ともに,受診前期間が長くなるに伴い3カ月後のVASの変化が小さくなっている.
次にサブグループ解析として,受診前期間を3分位に分け,受診前期間の短いグループから第一3分位,第二3分位,第三3分位とし,それぞれの期間における神経ブロックの3カ月後のVASの変化への影響を調べた.その結果,第一3分位,第二3分位と第三3分位では回帰係数に有意差は認めなかったものの,大きく異なっており,受診前期間により神経ブロックの痛みの緩和効果に違いがある可能性が示された(表4).
受診前期間(days),中央値(25,75%) | 患者数,n(%) | 多変量線形回帰分析* | ||
---|---|---|---|---|
回帰係数 | 95%信頼区間 | P値 | ||
第一3分位,4(2.5,8) | 92(35) | 13.5 | 3.00‐24.0 | 0.012 |
第二3分位,19(15,21) | 85(32) | 16.7 | -0.05‐33.5 | 0.05 |
第三3分位,36(29,51) | 88(33) | 5.59 | -10.1‐21.3 | 0.48 |
*多変量線形回帰分析には8つの因子を共変量として用いた.
本研究は当院における帯状疱疹初期の患者の3カ月後の痛みの変化に神経ブロックが及ぼす影響を調査したものである.対象となる患者の背景因子を神経ブロックの有無で分けると,両群での背景因子には有意な差が認められた.そのため,本研究では交絡因子の補正のために多変量線形回帰モデルを用いて解析を行った.共変量で調整した後も,神経ブロックの有無は3カ月後のVASの変化に影響を与えることがわかった.また,受診前期間の長さはVASの変化量に逆向きの相関を示した.
本研究では,発疹出現から90日以内の帯状疱疹初期の患者のうち,研究期間内に当院を受診した患者を対象としている.発疹から90日以上の持続する痛みが,慣習的なPHNの基準であり,本研究はPHNに移行する前の患者群を対象としている1).
本研究はヒストリカルコホート研究であり,交絡因子の影響を強く受けると考えられる.そのため,多変量線形回帰分析により交絡因子の影響を調整したうえで,神経ブロックの痛みの変化に対する影響を調べた.その結果,包括的な神経ブロックによる治療は,初診から発疹出現後3カ月後の帯状疱疹による痛みを軽減することが示された.
近年報告された,PHN予防に対する神経ブロックの影響を評価したメタアナリシスによると,単回の神経ブロックよりは,反復あるいは持続的な神経ブロックが有効であることが示されている7).本研究では単回,反復的,および持続的治療は,すべて神経ブロックあり群に含めており,それらの違いによる検討は行っていない.しかし,実際の臨床では,単回治療あるいは複数回治療の選択は,経過に応じて臨床医が判断するものであり,本研究の結果はより現場での治療を反映しているものであると考えられる.
神経ブロックによる治療が3カ月後の痛みの緩和に影響することとともに,受診前期間がVASの変化と逆向きの相関を示した.そのため,サブグループ解析として,受診前期間を3分位により3群に層別化し,受診前期間の影響を除いたうえで,個々の期間内での神経ブロックの痛みの変化に対する影響を調べた.その結果,有意差は認めなかったものの,第三3分位は第一3分位および第二3分位と比較して回帰係数の値が小さく,神経ブロックによる痛みの緩和効果は受診前期間が長くなるほど低下する可能性が示唆された.これまでにも,帯状疱疹発症から治療までの期間が長くなると治療の有効性が低下することが報告されており8),本研究でも同様の結果を示しており,神経ブロックによる治療は,帯状疱疹罹患後の比較的早期に検討されるべき治療と考えられる.
本研究の限界としては,神経ブロックの種類および治療期間が異なること,交絡因子の調整のためのモデル変数の選択の限界があげられる.本研究は神経ブロックの有無で解析を行っているが,神経ブロックの種類や治療期間については統一されていない.そのため,神経ブロックの種類による痛みへの影響の違いや治療期間の影響は解析に考慮されていない.またヒストリカルコホート研究であり,既知の交絡因子は補正できるが,未知の交絡因子は補正できない.そのため,今回のモデル変数選択において,予測因子に含めなかった変数については調整できていない可能性がある.一方で,本研究は,神経ブロック治療の有無の介入における治療の影響を評価したものであり,実際の治療に準じており,実臨床において価値のある研究であると考えられる.今後,ランダム化比較試験による結果が期待される.
本研究から,帯状疱疹罹患後初期の患者に対する神経ブロックによる治療は,痛みの緩和に有効であり,受診前期間が長くなるほど神経ブロックによる痛みの緩和への影響は低くなることが示唆された.
本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第51回大会(2017年7月,岐阜)で発表した.