Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2019 Volume 26 Issue 4 Pages 321-330

Details

日 時:2019年5月11日(土)

会 場:大阪国際交流センター

会 長:廣瀬宗孝(兵庫医科大学麻酔科学・疼痛制御科学講座)

■特別講演

痛みの漢方治療とその科学的理解

戴  毅

兵庫医療大学薬学部薬物治療学[漢方医学]

急性痛に対して,NSAIDsをはじめとする現代の西洋医学的治療薬は奏効することが多いが,こと慢性痛になると難渋するケースがしばしば見られる.一方,漢方治療は慢性痛に効果を発揮する臨床報告が年々増加し,注目されるようになっている.

現代の漢方治療は,「病名治療」,すなわち西洋医学的な診断に応じた漢方製剤の使用と,「随証治療」,すなわち各患者それぞれの体質,体力,病状などを「証」として把握し,漢方理論に基づく漢方製剤の使用の2つがある.漢方理論に基づく「随証治療」は漢方医学本来の治療法であるが,実験研究,科学分析をベースに発展してきた西洋医学の知識背景にある現代の臨床家にとって「証」を見極めるのが至難であるため,現状では,腓腹筋痙攣の痛みに「芍薬甘草湯」,抗がん剤に誘発される神経障害性疼痛に「牛車腎気丸」を処方するような「病名治療」が主流となっている.

近年,科学的に漢方処方の薬理機序を解析する研究が数多く報告され,多くの漢方薬の薬理作用が現代科学の視点からも理解できるようになってきている.疼痛性疾患の治療に頻用される漢方薬とその構成生薬を解析すると,その大多数がその何れの構成生薬には,現代の薬理研究によって明確な鎮痛効果を示す単体化合物が含まれていることが分かる.一方,構成生薬の一つ一つを見れば必ずしもそのすべては鎮痛効果があるとは限らない,むしろ鎮痛効果を有していない生薬が数多く含まれている.こうした生薬(鎮痛成分を含まない)の薬理作用が現代で言う「鎮痛補助薬」の働きと類似する.

本講演では,痛みの漢方治療について,薬理学,神経科学分野の最新研究成果を紹介するとともに,現代科学の観点から疼痛治療における複合漢方処方の合理性を考察し,「鎮痛補助薬」としての漢方使用と,漢方と鎮痛薬(新薬)との併用を提唱したい.

■教育講演1

長期がんサバイバーに対するオピオイド鎮痛薬の適正使用

山口重樹

獨協医科大学麻酔科学教室

がん患者の予後が大きく改善,長期がんサバイバーが増加,がん性,非がん性ともに長期に痛みの治療が必要な場面も増えている.国際疾病分類ICD-11では,がん疼痛も慢性疼痛の一つして分類されている.がん患者でのオピオイド鎮痛薬使用全てが,世界保健機関方式がん疼痛治療法に則って行うものではなくなっている.一部の国においては,オピオイドクライシスとまで呼ばれるオピオイド鎮痛薬の不適切使用による深刻な問題が表面化,その問題が長期がんサバイバーにも及んでいる.今まで以上に,がん患者でのオピオイド鎮痛薬の適正使用が重要となっている.

痛みは,「組織の実質性のあるいは潜在性の障害と関連するか,または,そのような障害を表す言葉で表現される不快な感覚・情動体験」と定義される.一方,薬物依存の自己投与仮設は,「困難や苦痛を抱えている場合に,自分でその痛みや苦しみを緩和させるために,その緩和に役立つ物質や行動を繰り返していた結果,依存へと進行していく」と説明される.この両者をつなぎ合わせるのがオピオイド鎮痛薬である.オピオイド鎮痛薬は医療に必須の薬であるが,身体的な痛みの緩和に使用されるべきである.

オピオイド鎮痛薬への過度の怯えは,必要な患者にオピオイド鎮痛薬が適正量行き届かなくなってしまう可能性がある.オピオイド鎮痛薬の適正使用とは,必要な患者に適切に処方されることで,処方が控えられるということも不適切使用と言えよう.そのため,適切なオピオイド鎮痛薬処方の考え方の啓発が重要である.いかなる場合でも,オピオイド鎮痛薬を「必要な患者(必要な強い痛み)」に,「適正量(ときに必要最少量)」を,「適正期間(ときに必要最短期間)」投与されるべきである.

本講演では,長期がんサバイバーに対するオピオイド鎮痛薬の適正使用について議論したいと考えている.

■教育講演2

とって隠岐の外来超音波診療~肩こり・腰痛・五十肩の診かた~

白石吉彦

隠岐広域連合立隠岐島前病院

国民生活基礎調査(2016)で日本人の有訴率は,1位腰痛,2位肩こり,3位関節が痛む,となっている.MRIのない当院ではエコーを駆使して運動器診療を行う.動作分析と圧痛点の検索をし,fascia hydroreleaseを中心に注射治療などを行う.エコー下で注射をすることでmm単位の精度で治療部位を確認できる.このことは効果がなかったときにも,次の治療戦略を立てるために非常に重要である.

肩こりであれば頻用治療ポイントは肩甲挙筋,菱形筋,大後頭神経周囲.腰痛であれば多裂筋,最長筋,腸肋筋,腰方形筋に加え,仙腸関節など.いわゆる五十肩についてはエコー下肩峰下滑液包注射が基本となる.それでも残る痛みには肩甲上神経,腋窩神経などへのhydroreleaseが有効であることが多い.

効果が得られた場合には,なぜその部位が発痛源になったのかを考える.リハビリスタッフなどとともに患者の姿勢や癖,既往歴,生活全般あらゆる情報から原因を探り出し,再発予防のために生活改善への提案を行う.なお,リハビリ室を含め,すべての外来診察室にエコーが常設され,無線でPACSへ送信し,PACS上でも動画運用としている.

fascia hydrorelease

筋膜に加えて腱,靱帯,脂肪,胸膜,心膜など内臓を包む膜など骨格筋と無関係な部位の結合組織を含む線維性結合組織の総称をfascia(ファシア)と呼ぶ.筋膜を含むfascia上にはポリモーダル受容器が高密度に存在し,痛みに敏感で過負荷や寒冷刺激などで異常をきたすと,痛み,しびれに加えて,さまざまな機能障害が出現する.

筋膜性疼痛症候群を含むfasciaの異常に対して,いわゆるトリガーポイント注射が行われてきたが,局所麻酔を含まない生理食塩水,重炭酸リンゲルの注射で治療効果があることが分かってきた.

■シンポジウム

ペインクリニック保険診療について

野間研一

ペインクリニック野間診療所

兵庫県社会保険診療報酬支払基金では,毎月約170万件の原審査(会期5日)と再審査約32,000件(保険者)および約1,500件(医療機関)(会期2日)を医科審査委員135名で行っています.

そのうち,麻酔・ペインクリニック担当は3名(1名は兵庫県麻酔ペインクリニック医会から,1名は外科医会から,1名は大学代表)であり,連携を取りながら対応しています.

また,兵庫県の国保は117名の審査員中,麻酔ペインクリニック担当は1名である.社保と国保で審査に差異が出ないように麻酔ペインクリニック医会を通じて情報提供しております.

2017年10月14日,兵庫県麻酔・ペインクリニック医会総会で保険請求に関して医会としての指針を公開したので,これを参考に今回講演いたします.

ペインクリニックと診療報酬制度

天谷文昌

京都府立医科大学疼痛・緩和医療学講座

わが国の医療の大半は,保険診療制度のなかで行われている.保険診療制度は患者(被保険者),保険者,医療機関,審査支払機関によって成立している.患者は保険者に保険料を支払う.保険者は保険料を集めこれを運用し,医療機関を受診した患者の診療報酬を支払う.医療機関は診療報酬を請求し,これを受け取る.患者自身も病院で医療費を支払うが,これは診療報酬の一部負担金である.

診療報酬の請求と支払いを仲立ちするのが審査支払機関とよばれる団体であり,社会保険では「社会保険診療報酬支払基金(以下,支払基金)」,国民健康保険では「国民健康保険団体連合会」がその役割を担っている.患者に対して実施した診療行為と診療報酬点数を紐付けるのは医療機関であるが,審査支払機関は診療報酬の妥当性を診療行為や病名と照らし合わせてチェックし,適正な請求を担保する役割を担っている.保険者側も医療者側も,審査支払機関の判断に異議を申し立てる権利を有している.

支払基金は都道府県別に47支部が存在し,個別の審査委員会を有して診療報酬請求の審査を行っている.審査は原則として診療報酬点数表に基づいて行われるが,審査委員会に所属する医師および歯科医師が専門分野の診療報酬をチェックするピアレビューシステムにより審査の公平性を担保している.ただし,都道府県により専門の医師が不在の場合などがあり,審査結果に都道府県格差が生じない工夫が必要な場合も多い.

今後,都道府県別の支部間格差を解消し,審査の効率化を図るため,レセプトのコンピューターチェック,AIの導入,審査委員会の集約化などが予定されている.

保険診療の現状

川原玲子

がん研有明病院緩和治療科

日本では公的保険制度が整備され,ほとんどの医療機関で保険診療が行われている.保険診療では,各疾患に応じ検査や治療内容等が決められ,その制限内での治療等をする.公的健康保険制度に加入している被保険者は,医療費は医療機関の窓口では診療費用の3割(現役世代の場合)を支払い,残りの7割は保険制度で補填される.その方法は,各医療機関はカルテをもとに患者ごとに診療点数を記入した診療報酬明細書(通称レセプト)を作成し,診療報酬請求書とともに月ごとにまとめて審査支払機関へ提出する.審査支払機関では,各医療機関が提出したレセプトと診療報酬請求書を審査し,請求額が正当かを確認する.審査支払機関には,社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会とがある.審査済み請求書は,各健康保険組合および国,市町村などの保険者(健康保険の経営主体)に回される.医療機関が受け取る診療報酬は,この逆の経路をたどり,保険者から審査支払機関を通じて支払われる.

審査支払機関である社会保険診療報酬支払基金は,社会保険診療報酬支払基金法により設立された民間法人で,診療報酬請求の適正な審査と報酬の迅速な支払いを目的としている.審査というと査定される印象が強いようだが,査定することが目的ではない.保険診療はルールに基づいての診療であり,そのルールが守られているかを見ている.医療資源は有限のため,適切に資源を利用する必要がある.正しく審査することで,不適切医療の医療機関から適切に医療を行っている医療機関を守ることができる.また,コンピューターによる一律の審査を防いでいる.「医学的判断」により医療現場の実態を反映することができる.そして最終的には,支払い側に納得できるレセプトを作り,時代とともに変化していく医療の現場に対応して,適切に保険診療が行われるよう経済面からサポートしていくための審査であるということを強調したい.

■ランチョンセミナー1

SCSの新刺激戦略~最適な刺激選択の方法~

白井 達

近畿大学医学部麻酔科学講座

近年のSCS関連機器(電極,IPG)の発展は目覚ましく,治療成績の向上に寄与している.施行者の手技習熟に加え,腹臥位,傍正中アプローチなどの手技の確立により,適正な位置への留置が容易になったこと,dual lead stimulation,高頻度刺激などが選択肢として加わり,当初は難しいとされてきた体幹部痛を克服しつつある.当院では,メドトロニック社製のIntellis®の使用頻度が高いが,今回はその治療成果を中心に紹介したい.

failed back surgery syndrome(以下,FBSS)での使用が大半を占めるが,FBSS以外の症例においても,事前の診断的神経ブロックによる効果判定後にpuncture trialを行い,効果を確認し本植込みを施行している.一部,いわゆる適応外の病態(originが不明な痛み,心因性要素の強い痛み),poor indicationとされてきた痛みに対しても良好な効果を得ることを経験しており,併せて紹介したい.

high dose刺激では,想定されている上位中枢への作用,下行性疼痛抑制系の賦活効果に加え,stimulation paresthesiaを感じにくい特性を活かして,不要な部位への不快な刺激を防止することも治療の成績向上に寄与していると考える.

Intellis®プラットホームの活用で患者の活動状況を把握しやすく,充電状況の確認により患者の適性使用の把握も可能となり,莫大な患者データをタブレットで保管できる機能も大きな利点である.

ベクトリスリード®使用症例のMRI撮影も複数回経験しており,1.5テスラ以下の制限はあるものの,事前の撮影モードへの設定変更,検査室への連絡などの撮影時のシステム構築もできつつあり,問題なく運用できている.

今後もさらにSCSの需要が見込まれ,慢性痛の標準的治療となる日もそう遠くないと考えている.

EVOLVE WORKFLOW再考

助永憲比古

兵庫医科大学麻酔科学・疼痛制御科学講座

脊髄刺激療法は電極,刺激装置,刺激方法の発展が目覚ましく,さらなる疼痛改善効果に期待されているDrも多いであろう.また高齢化を迎えた日本では慢性疼痛患者の増加も相まって,脊髄刺激療法の需要は増加している.

しかしSCS未経験の若手Drにとっては,ややハードルの高い治療と考えられているようである.

従来のトニック刺激による脊髄刺激療法の考え方では,疼痛部位にパレステジアを一致させなければ疼痛緩和は得られにくく,手技の熟練が必要であった.またトライアルは覚醒下で行うため,疼痛部位にパレステジアが一致しない場合,処置が長時間となってしまい,患者だけでなく医療者側にも精神的,肉体的負担となり,SCS治療に対する苦手意識を植え付けてしまう.

しかし近年,SCS治療を始めるハードルが下がっていると考えている.適応の有無を事前に判断する必要はあるが,high dose刺激を使用するEvolve Workflowでは,腰下肢痛に対しTh 8-10正中に電極を置きさえすれば,パレステジアが一致しなくても疼痛緩和が得られる可能性がある.手技を定型化することで,処置時間の短縮や手技者による治療効果の違いを減らすことも期待される.

今回,US visitを通して得られた知見や米国と日本の違いなどを概説する.

SCSの改良により,今まで適応とならなかった疾患でも疼痛改善効果が得られた症例も経験しており,今後もペインクリニシャンにとっては,必要不可欠な治療手技の一つであることは間違いない.

これを機に,若手DrやSCS未経験のDrが,SCS治療の第一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いである.

■ランチョンセミナー2

しびれと痛みの病態と治療

芳川浩男

兵庫医科大学内科学講座(神経・脳卒中科)

軽い触覚・圧覚は,皮膚にある特殊な受容体を介して伝わる.これらの中には,メルケル細胞のようなAβ線維の自由神経終末(指先腹側に分布)とマイスナー小体のような被包化されたAδ線維の終末がある.この一次神経細胞体は後根神経節に存在し,中枢枝を出し後根を経由して脊髄の背側外側路(リッサウェル路)に入り,1~3髄節上行または下行して後角の細胞にシナプスする.後角細胞は二次神経細胞を形成し,前白交連で交叉し,反対側の前脊髄伝導路に軸索を送る.脊髄を上行し脳幹を横断して,視床の後外側腹側(VPL)核にある三次神経細胞に終わる.

一方,痛覚を伝える感覚受容体は侵害受容器である.Aδ線維は薄い有髄神経であるのに対して,C線維は無髄神経である.いわゆる「速い疼痛」は突然の,鋭い,限局的感覚でありAδ線維が伝え,C線維が伝える有害でズキズキする「遅い疼痛」を伴うことが多い.これらの線維の神経細胞体も後根神経節に存在し,その中枢枝は後根の外側部分を経由して脊髄の背側外側路に入る.後角にてシナプスした後,二次神経細胞は前白交連で交叉し,反対側の外側脊髄伝導路に軸索を送る.脳幹を通過する間,外側脊髄視床路は脊髄毛帯として知られている.外側脊髄視床路の二次神経細胞の線維は視床のVPL核に終わる.VPL核内にある三次神経細胞軸索は,内包後脚と放線冠を経由して大脳皮質の中心後回に投射し,痛みを認知する.

これらの感覚神経伝導路のどの高位レベルの障害においても,しびれや痛みは生じるが,神経障害性疼痛は,神経の損傷により引き起こされる疼痛であり,侵害受容器の興奮を伴わない点が侵害受容性疼痛と大きく異なる.代表的末梢性神経障害性疼痛であるFabry病,帯状疱疹後神経痛,糖尿病性神経障害に伴う痛み・しびれ,三叉神経痛,坐骨神経痛,手根管症候群,頸椎症性神経根症などの病態と治療に関して,中枢性と比較しながら概略を述べる.

■一般演題I インターベンションI

低侵襲心臓外科手術の術後疼痛に対して持続最内肋間筋ブロックにより良好な鎮痛を得た1例

寺内美紗*1 奥谷博愛*1 高雄由美子*2 助永憲比古*2 下出典子*1 多田羅恒雄*1 廣瀬宗孝*1

*1兵庫医科大学病院麻酔科・疼痛制御科,*2兵庫医科大学病院ペインクリニック部

【はじめに】低侵襲心臓外科手術(MICS:minimally invasive cardiac surgery)は,胸骨正中切開をする標準的な術式よりも侵襲が少なく,術後機能回復が早いことで近年増加してきている.しかし,肋間開胸によるアプローチは術後疼痛がしばしば問題となる.

今回われわれは,安全で鎮痛効果が高いといわれている最内肋間筋ブロックを施行し,術中に留置したカテーテルより造影剤を投与し,画像評価および術後の疼痛評価を行った.

【症例】65歳,女性(160 cm/44 kg).重症僧帽弁閉鎖不全症に対して第4肋間開胸によるMICSでの僧帽弁修復術が予定された.閉胸前に壁側胸膜と最内肋間筋の間に開胸部外側端よりシースを挿入し,0.25%レボブピバカイン20 mlを投与した.同部位にカテーテルを留置し,術後にカテーテルより造影剤を投与したところ,胸部背側に3肋間程度の広がりを認めた.その後,0.17%レボブピバカイン4 ml/hの持続投与で他の鎮痛薬を必要とせず疼痛コントロールは良好であった.術後3日目に持続投与を終了し,その後も体動時に軽度の疼痛を認めるのみで経過は安定していた.大きな問題はなく,術後12日目に退院となった.

【考察】最内肋間筋ブロックは,心臓血管外科手術のみならず,腎臓摘出術の鎮痛法としての報告もある.心臓血管外科手術における硬膜外・傍脊椎ブロックは,周術期に抗血小板薬や抗凝固薬使用を使用するため,血腫形成による神経学的合併症のリスクがある.また,retro laminar blockや脊柱起立筋ブロックは,高用量の局所麻酔薬を投与し除痛を得るため,持続投与による鎮痛効果には乏しい.

最内肋間筋ブロックの画像評価により,背部肋間への十分な薬液の広がりが確認できた.持続最内肋間筋ブロックは,MICSにおける有効な鎮痛手段となり得る.

両側手指II度熱傷に対して両側腋窩アプローチ持続腕神経叢ブロックを施行した1例

盛房槙子 本山泰士 佐藤仁昭 溝渕知司

神戸大学医学部附属病院麻酔科

両側手指II度熱傷に対して,両側腋窩アプローチ持続腕神経叢ブロックによる痛みのコントロールが有効であった1例を経験したので報告する.

症例は80歳男性,アルコールによる酩酊状態で両側前腕手指熱傷を受傷し当院形成外科を受診した.熱傷の深度は大半が浅達性II度熱傷で,一部が深達性II度熱傷と診断された.外来通院での処置を希望されたが,痛みのため経口摂取困難となり,受傷2日目に入院加療となった.

入院後アセトアミノフェン,トラマドールの内服により安静時痛は自制内となり,経口摂取も改善したが,1日2回の形成外科処置が必要であった.しかし,処置時の痛みが強くデブリメントが不十分となり,右手指には感染徴候も見られ,受傷5日目に当科に紹介となった.

両側腕神経叢ブロックを腋窩アプローチで施行し,カテーテルを両側に留置した.当初は0.25%レボブピバカイン10 mlの両側への間欠的な注入で処置時の疼痛軽減を行う方針とした.ブロックにより処置時の痛みが改善し十分な形成外科処置を行えるようになったが,ブロックの効果が消失する夜間に痛みが増強し,入眠困難になった.

受傷7日目より0.125%レボブピバカイン両側4 ml/hの投与を開始し,処置前に0.25%レボブピバカイン10 mlずつの追加投与を行い,良好な疼痛コントロールが得られた.以降治療を継続し,受傷10日目に全身麻酔下でデブリメント,植皮を施行された.受傷19日目に表皮の治癒が得られ痛みが軽減したためカテーテルを両側抜去した.以降は内服のみで痛みのコントロール可能であることを確認し当科終診となった.

本症例では,両側腕神経叢ブロックを腋窩アプローチで施行することにより,横隔神経麻痺をきたすことなく,また処置前の間欠注入と持続投与を併用することで処置時の十分な鎮痛を得るとともに,日常生活動作を保ちながら痛みのコントロールができた.

奈良県立医科大学における硬膜外癒着剥離術の施行状況と効果の検討

藤原亜紀*1 渡邉恵介*2 木本勝大*1 篠原こずえ*1 川口昌彦*1

*1奈良県立医科大学麻酔・ペインクリニック科,*2奈良県立医科大学ペインセンター

【はじめに】硬膜外腔癒着剥離術は,Epimed社のスプリングガイドカテーテル(Raczカテーテル®)を硬膜外腔に挿入し,癒着・瘢痕部位の近傍にカテーテル先端を位置させ,造影剤や生理食塩液を注入して液性剥離を行う方法である.本邦では2018年4月より保険収載され,広く行われるようになっている.当施設でも2018年5月から開始し,2018年12月31日までに23症例に施行した.今回,23症例に対する鎮痛効果と合併症の有無などを調べ報告する.

【結果】男性10人,女性13人.年齢67.35±12.15歳.疾患の内訳は,FBSS 11症例,腰部脊柱管狭窄症9症例,腰椎側弯症3症例である.施行前と施行1カ月後の比較では,痛みの強さの評価であるVASは68.81±15.96から57.38±25.96と低下し,群間に有意差を認めた(p=0.038).しかし,健康関連QOLの評価であるEQ5D5Lは群間に有意差を認めなかった.手技に関連した合併症は認めなかった.FBSSの1症例ではSCSは無効であったが,硬膜外腔癒着剥離術は効果を認めた.

【結論】硬膜外腔癒着剥離術は合併症も少なく,積極的に施行して良い治療と考える.

超音波下胸部経椎間孔的硬膜外注入法についての検討

波多野貴彦*1 深澤圭太*1 新堀博展*2 天谷文昌*1

*1京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室,*2横浜クリニック

超音波装置は,現在ペインクリニック領域においてさまざまな疾患の診断や治療に用いられ欠かせないものになってきており,以前はランドマーク法やX線透視下で施行していた神経ブロックも超音波下での施行が可能となってきている.

当施設では,これまでX線透視下で施行していた胸部経椎間孔的硬膜外注入法(以下,透視下法)を超音波ガイド下で施行している.

超音波下胸部経椎間孔的硬膜外注入法(以下,超音波下ガイド下法)では患者を腹臥位とし,リニアプローベを用いて平行法で施行する.まず肋骨に平行にプローベを置き,その後プローベを尾側へスライドすることで横突起,内肋間膜,上肋横突靭帯が描出される.さらに尾側へスライドさせると横突起が消失し椎弓板が描出される.内肋間膜の傾斜も大きくなり,この椎弓板と内肋間膜との間に椎間孔が存在し,椎弓板をくぐった部位で薬液を注入することで胸部経椎間孔的硬膜外注入が完成する.胸部傍脊椎ブロック(thoracic paravertebral block:tPVB)とのブロック針先端位置の違いや造影所見の違いなど,解剖学的理解が重要となる.

当科では,胸部帯状疱疹後神経痛など胸部神経根症状を呈する患者に対して超音波ガイド下法を用いており,透視室を使用する必要がないことや被曝のリスクがないことなど,透視下法に比べより簡便にベッドサイドで施行することが可能となった.

超音波下法での描出方法や穿刺方法,鎮痛効果や副作用,今後の課題などを踏まえ,若干の考察を加え報告する.

■一般演題II 痛みの診断

問診票記載の変化が痛みの軽減を客観的に知る目安となった症例

戸田 寛

京都桂病院ペインクリニック科

症例は77歳,女性.主訴は腰痛と右大腿外側痛.2017年3月ごろ,左腰部から左下肢に痛みを自覚,変形性腰椎症の診断で7月に手術を受けた.その後,左足の症状は改善したが腰全体のだるさと右大腿外側痛が続いた.内服の鎮痛薬(トラマドール・アセトアミノフェン配合,デュロキセチン,セレコキシブ)が処方されたが副作用などで継続できず,ジクロフェナク坐薬を毎日使用していた.2018年5月21日にかかりつけ医(内科医院)からの紹介で当科初診となった.初診時のVAS(視覚アナログスケール)は99,PDAS(日常生活支障度)は60であった.ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液,六君子湯を処方し,腰部にトリガーポイント注射(1箇所)を行った.初診から21日目(4回目の受診)にジクロフェナク坐薬を使用しなくなったことを確認した.その後,漢方薬は加味逍遙散に変方した.以後も自覚症状は徐々に軽減し,初診から74日目(9回目の受診)に右大腿の痛みは消失していた.引き続き残存する腰痛に対して漢方薬を変方しながら経過を見てきたが,毎回の受診時に記入する問診票のVAS,PDAS値は治療開始直後には低下傾向であったものの以後は一定の傾向がなくなり,客観的な治療効果指標が見当たらない状況であった.初診から207日目(19回目の受診),不眠の訴えがあり,漢方薬を抑肝散に変方したところ,睡眠状態が改善するとともに,VAS,PDASは不変であったが,それまでの問診票に細かく補記されていた自覚症状の書き込みがほとんどなくなった.数値からだけでは判断できない症状改善の兆しを知る経験ができたと考えている.今後も問診票の改良や活用法について検討していきたい.

反復性の無疱疹性帯状疱疹痛の治療経験

岩元辰篤 白井 達 打田智久 上原圭司 松本知之 森本昌宏 中尾慎一

近畿大学医学部麻酔科学講座

無疱疹性帯状疱疹(zoster sine herpete:ZSH)の発症は,症状診断によるところが大きく,しばしば確定診断に難渋する.今回,反復性のZSHが疑われた症例の治療を経験した.

症例は47歳,男性.X−6年7月,左腹部から背部(T10領域)の皮疹および痛みを自覚したとして近医皮膚科を受診.帯状疱疹の診断で抗ウイルス薬をはじめとする治療を受けたが残存する痛みに対し当科を紹介受診.3週間の入院による持続硬膜外ブロックとプレガバリンの内服治療で,同年12月にはプレガバリンを中止できた(帯状疱疹抗体(VZV-CF)16倍).X−2年6月,右胸部~腋窩部にかけてのピリピリした痛みを自覚.前回の痛みに類似していたことより,帯状疱疹の再発を疑い近医皮膚科を受診するが,無疱疹性のため確定診断には至らず当科を受診.分節性で特徴的な痛みの性状よりZSH(T3領域)を疑い(VZV-CF法16倍)治療を開始した.P-RF神経根ブロックを施行し,痛みは速やかに軽快,治療終了となった.X年2月半ばより,右前胸部に服が触れても痛みを感じるようになり,皮膚科,整形外科,内科を受診するが原因不明として,発症10日後に当科を受診.ZSHの再発,免疫不全を疑い精査したところ,HIV抗原/抗体が強陽性であり,現在当院血液内科が共観治療中である.

以上,反復するZSHが疑われた症例の治療を経験した.ZSHにおいては疑い例であっても,反復して症状が出現する場合は免疫不全状態を念頭に置いた診療が重要である.

発達障害(自閉症スペクトラム)による疼痛過敏の関与が考えられた1例

藤原 恵 茅野綾子 深澤圭太 天谷文昌

京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室

【症例】40歳女性.2016年3月に誘因なく左膝周囲の痛みが出現した.4月に前医皮膚科を受診し,リンパ管炎疑いの診断で抗菌薬治療が開始されるも改善なく,同月にセカンドオピニオン目的に当院の皮膚科を受診した.皮膚生検等の精査が行われたが明らかな所見はなく,脳神経内科を受診したが神経学的異常所見は認めなかった.7月に疼痛コントロール目的に当科紹介受診となった.当初は左膝周囲の痛みであったが,当科初診時は左下腿,左足関節,左足背,左足底にNRS 7/10の重い鈍痛があり,時々ナイフで細かく触れているような痛みも出現し,温めると悪化するとのことであった.左足関節に軽度の浮腫と左足背にアロディニアを認め,CRPSの臨床的診断基準を満たしたため,初診時に局所静脈麻酔を施行したが効果は一時的で,施行後数週間穿刺部の痛みが継続した.抗うつ薬や弱オピオイドは副作用が強く,また受診ごとに痛みの表現が変化し漢方薬を主とした加療を行った.徐々に改善傾向を示すも,痛みやストレスのため辞職し,家で過ごすことが多くなり,痛みへの不安や恐怖の表出も多くあった.2018年5月に,以前からの「生きにくさ」の表出があり,8月に心療内科を受診した.その結果,患者には聴覚・味覚の敏感等の感覚過敏があり,また他者とのコミュニケーションで生きにくさを感じていることから,自閉症スペクトラムの面を持つと診断された.患者は今まで自分の感覚を周囲から怪訝に反応されてきたことから自分の感覚はおかしいと認識していたが,感覚過敏は個性であり,その過敏が痛覚に対しても生じている可能性を伝えた.以降は,痛みとの共存を模索するようになり,新たな仕事も始めることができた.今回,心療内科の受診を通じて感覚過敏を肯定的に捉えることで,痛みに対する認識の変化が生じ,社会生活を維持できた症例を経験した.

当科腰痛患者452例での,腰仙移行椎とベルトロッティ症候群の発生頻度と腰痛治療成績

前田 倫 松村陽子 徐 舜鶴 菅島裕美 平井康富 大森 学

西宮市立中央病院麻酔科・ペインクリニック内科/外科

【序】日本人有訴率の第1位が腰痛であり,その多くは非特異的腰痛である.その腰痛患者の中には腰仙移行椎を有するもの,また,腰椎横突起から仙椎移行部の構造に変異のあるベルトロッティ症候群が含まれている.さらに腰仙移行椎とベルトロッティ症候群との合併症例に関しては認知度も低く詳細は不明である.

【対象と方法】2017.3以降に当科の初診腰痛患者452例のうち,腰仙移行椎とベルトロッティ症候群との合併例,腰仙移行椎がないベルトロッティ症候群について,その発生頻度,発症年齢,性差,左右差,仙腸関節ブロックでの治療成績(NRS:numerical rating scaleの推移),仙腸関節障害を示す仙腸関節痛診断スコア(scoring system for SIJ pain)との相関を後方視的に調査した.

【結果】腰仙移行椎とベルトロッティ症候群との合併症例は50例(全腰痛症例の11%),腰仙移行椎のないベルトロッティ症候群は30例(同6.7%)であった.発症年齢は,いずれも50代が最多であった.過去の報告と同様,性差は男性がやや多く(51.7~55.6%),左右差は左35.9%,右30.8%,両側23.3%であった.複数回の仙腸関節ブロック前後のNRSは,腰仙移行椎とベルトロッティ症候群との合併症例で7.60±1.50→4.51±2.94,腰仙移行椎のないベルトロッティ症候群でNRS 7.43±1.43→4.05±2.89といずれも優位に低下した.腰仙移移行椎のないベルトロッティ症候群18例中,scoring system for SIJ painについてはカットオフ値4以上の症例が12例であった.

【結語】慢性腰痛ではベルトロッティ症候群の関与を考慮する必要があり,また,ベルトロッティ症候群での腰痛には仙腸関節障害の関与が示唆された.

■一般演題III 薬物療法

さまざまな治療に抵抗性を示した難治性顔面痛の1例

植月信雄*1 加藤果林*2 鈴木堅悟*3 角山正博*3 福田和彦*2

*1京都大学医学部附属病院麻酔科・漢方診療ユニット,*2京都大学医学部附属病院麻酔科,*3京都大学医学部附属病院手術部

薬物療法およびブロック療法・外科的治療を行ったにもかかわらず,痛みの軽減が得られなかった右顔面痛の1例を経験した.

【症例】37歳女性,身長157 cm,体重46 kg.X−6年ごろに右頭頂部のぴりぴりする痛みを自覚し総合病院を救急受診したが,痛みは自然消失したため治療は受けなかった.その後,右頬部から目尻に持続性の痛みを自覚するようになり,痛みは経過とともに増悪した.X−5年に施行した頭部MRI検査で三叉神経の血管圧迫が疑われ,大学病院脳神経外科で入院精査するも,痛みの原因は三叉神経の血管圧迫によるものではないとの判断で,非定型顔面痛と診断された.その後いくつかの医療施設で薬物療法や神経ブロックが行われたが痛みの改善はなく,X−3年に心療内科に転医した.X−2年に歯科大学病院で右歯髄炎を指摘されて歯科治療を受けたが痛みは軽減しなかった.同年,てんかんの可能性が示唆され当院脳神経内科に紹介となり,頭部MRI検査で三叉神経と後下小脳動脈の距離が近いと指摘され当院脳神経外科に紹介となったが,痛みの性状が三叉神経痛としては非典型的であったため,痛みの評価および治療目的でX−2年6月に当科紹介となった.痛みの部位は右頬部およびこめかみで,痛みの性状はずきずきししぼるような痛み,痛みは持続性で発作痛なし,トリガーポイントがなかったことから非定型顔面痛と判断した.薬物療法(カルバマゼピン,プレガバリン,トラマドール製剤,フェンタニル貼付剤,漢方薬)および星状神経節ブロック・鍼灸治療を行ったが痛みの軽減は得られず,X−1年11月に当院脳神経外科で神経血管減圧術が施行されたが痛みの軽減は得られなかった.現在はカルバマゼピン800 mg/日,プレガバリン450 mg/日を使用しながら煎じ薬による漢方治療を継続している.

【結語】種々の治療に抵抗性の顔面痛の1例を経験した.

薬物療法中にセロトニン症候群を発症したと考えられた1症例

村谷忠利

洛西シミズ病院麻酔科

【症例】70歳男性.身長166 cm,体重52 kg.既往歴に膵臓がん術後があった.

【現病歴】腰部脊柱管狭窄症と術後筋力低下に起因すると考えられる腰下肢痛で当科を受診し,薬物療法を開始した.

【臨床経過】薬物療法としてトラマドール150 mg/日,バクロフェン30 mg/日,牛車腎気丸5 g/日を投与していた.しかし,症状改善が乏しいためデュロキセチン20 mg/日の追加投与を行った.投与後22日後,患者本人より「話しづらく,首がつっかえたような感じで,息苦しく落ち着かない.力を入れづらく体が硬い気がする.」と連絡があり診察を行った.診察時,落ち着かない様子で不安感が見受けられ,やや筋肉がこわばった感じであった.トラマドールとデュロキセチンによるセロトニン症候群を疑いデュロキセチンを休薬し,セロトニン症候群に関して患者本人に十分説明を行い経過を見ることとした.約2週間で症状は改善しとくに追加治療などは不要であった.

【考察】セロトニン症候群は症状として,神経・筋症状(腱反射亢進,ミオクローヌス,筋強剛など),自律神経症状(発熱,頻脈,発汗,振戦,下痢,皮膚の紅潮),精神症状の変化(不安,焦燥,錯乱,軽躁)があげられる.本症例でも,不安感や筋力の異常などが認められセロトニン症候群を疑った.2018年の日本ペインクリニック学会有害事象報告でも注意喚起されていたが,トラマドールとデュロキセチンがペインクリニック領域で頻用されるようになり,これらの薬剤併用によるセロトニン症候群の事例が増加していると報告されている.薬剤使用前の説明,発症時の患者への説明,対処方法などを周知しておくことが重要であると思われる.

【結語】トラマドールとデュロキセチンの併用によりセロトニン症候群を発症したと考えられた症例を経験した.

当院におけるがん性疼痛に対するヒドロモルフォン塩酸塩注の使用経験

宮脇弘樹*1 棚田大輔*1 橋本和磨*1 助永憲比古*2 永井貴子*1 高雄由美子*2 廣瀬宗孝*1

*1兵庫医科大学病院麻酔科・疼痛制御科,*2兵庫医科大学病院ペインクリニック部

【はじめに】本邦では2018年ヒドロモルフォン塩酸塩注(HM)が発売され,当院でも使用が増加している.今回,呼吸困難を伴ったがん性疼痛に有効であった症例を報告する.

【症例1】40歳女性.進行胃がん,腹膜播種,肺転移,肝転移.腹部のがん性疼痛に対しフェンタニル貼付剤2 mgでコントロールするも,その後胸水腹水増加したため,呼吸困難も出現.呼吸困難の緩和も兼ねてHMにスイッチしタイトレーション.2.4 mg/日にてコントロール良好となった.

【症例2】77歳女性.腎がん甲状腺転移.腎がんのがん性疼痛と甲状腺による気道圧迫による呼吸困難に対しHM 0.72 mg/日にて開始.症状の改善が見られたため,その後タイトレーションし2.16 mg/日にてコントロール良好となった.

【症例3】74歳男性.肺がん骨転移.骨転移部のがん性疼痛に対しフェンタニル注900 µg/日で対応するも,肺炎を併発.呼吸困難の緩和も兼ねてHMにスイッチしタイトレーション.2.64 mg/日にてコントロール良好となった.

【考察】HMはがん性疼痛と呼吸困難の緩和に有用であることが示唆された.モルヒネと比較しても腎機能低下患者にも安全に使用できることから今後は使用の増加が期待される.

あなたは患者ファーストの漢方薬処方ができていますか?(私の誤治経験の自省から)

藤原昭宏

藤原クリニック

私のクリニックには,帯状疱疹後神経痛,腰痛,膝痛などオーソドックスなペインクリニック関連疾患の患者が多く受診する.その痛みの疾患だけを対象とした神経ブロックなどの治療だけをしていたのだが,果たしてこれは患者を治していることになるのだろうか? という自問自答がいつしか私を鍼灸・漢方の世界に迷い込むきっかけとなった.

あまりに不健康に長生きした患者のなんと多いことか! 糖尿病や肥満をはじめとする生活習慣病を合併している事態を呆然と眺めているわけにもいかず,しかも患者は風邪もひく,飮食不節から便秘にも下痢にもなる,情緒不安定にもなる.紹介してくれるのはいいのだが,うつの患者も,受診する,果ては不妊の相談まで.

自分が誤治していることもわからずに漢方薬を処方していたことも多かった.小青竜湯はアレルギー性鼻炎にほとんど効かなかったし,便秘の患者に出す漢方薬は的外れが多く,糖尿病の適応がある漢方薬は大きな疑問符を私の頭に刻んだ.

ある調査によると,漢方薬をなんらかの形で処方している医師は現在80%を超えるという.某製薬会社のマニュアルとおりの,MRの勧めるとおりの,学会で話題になったとおりの処方をして得意満面になっている医者のなんと多いことか.

しかし,鍼灸・漢方をしている医師以外の方たちとの交流で,本物の漢方薬処方に触れるきっかけを得て今日に至っている.

今回は,具体的な私の不勉強からくる誤治の話も含めて,漢方薬処方を医師が患者ファーストにするにはどうすればいいのかも提言できればと思っている.

■一般演題IV インターベンションII

胸椎術後に生じた手術部位の分節性疼痛に対し,肋間神経高周波熱凝固術が有用であった1例

山崎広之 池永十健 稲田陽介 藤田摩耶 舟尾友晴 矢部充英 西川精宣

大阪市立大学大学院医学研究科麻酔科学

【症例】70歳,女性.Th11/12胸椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症,変性すべり症に対し,胸椎除圧術,胸椎後方椎体間固定術,腰椎除圧術を施行した.手術直後より両下肢の高度筋力低下を認め,胸椎除圧操作に伴う急性脊髄障害が疑われ,ただちに追加の椎弓切除術,片側椎弓根のスクリューの抜去を行った.術後4日目から左側胸部の電撃痛(VAS 80/100)が出現し,術後12日目には右側胸部にも同様の痛みを自覚するようになった.痛みの場所が両側Th11分節に沿っていることから,手術操作に関連するTh11レベルの神経障害性疼痛と考えられた.神経障害性疼痛治療薬の内服では除痛困難であり,当科で肋間神経高周波熱凝固術(RF)を行う方針となった.術後20日目に両側Th11の肋間神経RFを行い,左Th11領域の痛みは著明に軽減したが右側の側胸部痛は残存した.術後27日目に右Th10,11,12の肋間神経RFを行い,右側の痛みも軽快した.

【考察】本症例で治療対象となったのは脊椎術後に生じた痛みであり,脊髄や神経根の損傷を含めた難治性の神経障害性疼痛であると考えられた.硬膜外ブロックや神経根ブロックが有用である可能性も考えたが,まずは手術の影響を受けずに施行できる肋間神経へのRFを試みた.術中に損傷したと予測される部位より末梢での処置であったが,肋間神経RFは有効で痛みの寛解を得ることができた.

両側慢性硬膜下血腫による脳圧亢進が疑われた脳脊髄液漏出症の1症例

木本勝大*1 渡邉恵介*2 藤原亜紀*1 篠原こずえ*3 川口昌彦*1

*1奈良県立医科大学麻酔・ペインクリニック科,*2奈良県立医科大学付属病院ペインセンター,*3大阪暁明館病院麻酔科

【症例】54歳男性.事務職.糖尿病で内服加療中.X−60日,起立性頭痛,嘔気,聴力低下,肩こり,複視が出現した.X−45日近医受診し,頭部単純CTにて両側慢性硬膜下血腫,および造影脳MRIでびまん性硬膜肥厚像を認め,脳脊髄液漏出症(cerebrospinal fluid leakage:CSFL)が疑われ安静が指示された.X−5日,療養中の自宅で意識低下をきたし近医に緊急入院したが,保存的加療にて改善したためX−2日退院となった.X+0日当科初診時,起立性頭痛以外の症状は消失していたが,傾眠傾向,軽度構語障害を認めており緊急入院となった.X+3日にCT脊髄造(CTmyerography:CTM)を予定したが,処置室のモニター心電図上,一部2段脈および補充収縮を伴う心拍数30台の徐脈性不整脈を認めた.脳圧亢進を疑って手技を中止し,脳神経外科にコンサルトした.X+4日,穿頭血腫除去術が施行された.脳外科医と協議の上,髄液漏出に対する速やかな加療開始が望ましいと判断し,徐脈性不整脈は持続していたが,X+5日CTMを施行し,髄液漏出を確認した.X+6日およびX+11日の合計2回,自家血パッチ療法(epidural blood patch:EBP)を施行した.X+11日には徐脈は改善し洞調律となった.起立性頭痛は消失しX+18日退院となった.

【考察】血腫を合併するCSFL患者について,血腫除去を優先するかCTM/EBPを優先するかは症例ごとに異なり判断が難しい.本症例では,両側血腫による脳圧亢進により徐脈を呈していたと考えられ,血腫除去術に先行してCTMを施行していた場合,脳ヘルニアの危険性があった.血腫を合併するCSFL患者は重篤な経過をきたすことがあり,脳神経外科医との十分な連携が必要である.また処置時には心拍数モニターが必須である.

腰部交感神経節ブロックにより浮腫が増悪した慢性CRPSの1例

佐藤ゆかり*1 高橋亜矢子*1 植松弘進*1 博多紗綾*2 藤野裕士*1 松田陽一*1

*1大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学講座麻酔・集中治療医学教室,*2大阪大学医学部附属病院緩和医療センター

【はじめに】腰部交感神経節ブロックにより,痛みは改善したものの浮腫が増悪した慢性複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)症例を経験したので報告する.

【症例】34歳女性.左足関節骨折・ギプス固定後,左足の痛み,アロディニア,浮腫,色調変化,歩行障害が持続した.受傷後4カ月に前医でCRPSと診断され,硬膜外ブロック,腰部交感神経節ブロック高周波熱凝固法,神経根パルス高周波療法,脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)などのインターベンショナル治療が行われたが効果が得られず,受傷後8カ月に当科に紹介となった.神経ブロック併用リハビリテーションを行い,左足関節の可動域が改善し,杖なしでの短時間歩行が可能になった.さらに,SCSの再トライアルによりBurstDR刺激でアロディニアの範囲が縮小したためSCS植込を行い,受傷後1年8カ月に営業職への復職を果たした.しかし,復職して歩行時間が増えると左下腿・足の浮腫が悪化し,起床時には改善するものの午後にかけて増強するようになった.寒冷刺激による自発痛の増強と左足の皮膚温低下(健側より1.5℃低下)も持続したため,受傷後2年に左腰部交感神経節アルコールブロックを施行した.左足の痛みは改善し(NRS 7→4),左足皮膚温も健側より1.2℃上昇したが,左下肢の浮腫が増悪し1日中持続する状態となった.

【考察】CRPSにおける浮腫の発生機序は,急性~亜急性期は炎症性サイトカインや神経ペプチドなどの関与が知られている.しかし,慢性CRPS患者では浮腫が強い症例は比較的少なく,本症例でブロック後に浮腫が悪化した機序も不明である.

【結論】CRPS患者に対して腰部交感神経節ブロックを行う場合,罹患肢の浮腫が増悪する可能性を考慮する必要がある.

コルセット装着による外側大腿皮神経絞扼が疑われた1症例

永井義浩 深澤圭太 天谷文昌

京都府立医科大学疼痛・緩和医療学教室

64歳女性,155 cm,64 kg.関節リウマチ,間質性肺炎でプレドニゾロン40 mg内服,在宅酸素療法中.X−1年12月,第2腰椎圧迫骨折のため前医に入院し,保存的加療でコルセット装着の上,自宅で安静指示ありX−1年12月末に退院.X年1月3日ごろから誘引なく右大腿前面を中心とし,鼠径部から膝下10 cm程度に渡る範囲に徐々に痛みが広がってきたため前医を再受診.当初は帯状疱疹も疑われたが皮疹はなく,MRIなどで精査の結果L1/2/3の椎間板膨隆による右椎間孔狭窄(L1,L3)が原因の神経根症状を前医では強く疑われた.前医でプレガバリン150 mg,トラマドール200 mg,デュロキセチン20 mgの定期内服に加えて,アセトアミノフェン1,000 mg/回,ジクロフェナク坐剤を頓用してもNRS 10/10と改善が見られなかったため,X年1月16日に当科に紹介となった.

初診時には,時折電撃痛様の強い痛みが出現し,自ら車椅子から降りられなかった.身体所見では,ラセーグ徴候は陰性で,上前腸骨棘より足側5 cm程度の箇所と,鼠径部外側に圧痛点を認めた.診断的治療として同部位にトリガーポイント注射を実施すると,約10分で痛みが消失し容易に立位を取れるようになった.問診からは,前医退院後はコルセットをほぼ24時間装着しており,コルセットの辺縁が圧痛点に接触していることが判明したため,コルセットによる外側大腿皮神経絞扼と推測した.

初診以降,週1回のTPIを4回繰り返した結果,痛みの箇所は上前腸骨棘下の圧痛点を中心とした直径5 cm程度まで改善し,内服薬も減量できた.

本症例は,ステロイド内服に伴う肥満体型の患者が長時間のコルセット装着をしたことが原因と考えられる.

頸椎CTで環軸椎癒合を示した頸椎椎間関節症の1症例

中村 仁 石川慎一 林 文昭 南 絵里子 森本明浩 小橋真司

姫路赤十字病院麻酔科ペインクリニック

【はじめに】環軸椎関節症は後頸部痛が強いにもかかわらず,頸椎撮影診断で見逃されやすい症例の一つである.今回,環軸椎関節に高度変性を示した1症例を経験したため報告する.

【症例】症例は64歳,女性,身長158 cm,体重58 kg.8年前から頸部を右に回旋した際,右優位の後頭部から後頸部に疼痛が出現し,その後右回旋制限を自覚していた.頸椎回旋は右/左25/45度,外転は右/左25/45度で消炎鎮痛剤を内服していたが,徐々に頸部痛が強くなり当院紹介受診となった.頸椎CTでは頸椎環軸関節を中心に高度変性を示し,頸椎X線では両側C6/7の椎間孔狭窄を示した.初診時VASは56~75/100であったが,環軸椎関節ブロックにてVAS 23/100に改善,残った痛みは右C3/4/5椎間関節ブロックを行いVAS 5/100まで症状は改善した.

【考察】環軸椎亜脱臼を合併していない環軸関節症では画像診断は困難であるが,痛みの部位は頸部よりも側頭部から耳介にかけて痛みを示すことが多く,可動域制限(回線制限)を示すこともある.本症例では,痛みの部位は耳介後面で典型的とはいえなかったが,回旋の痛みと可動域制限を示し,さらに環軸椎の癒着を示していたため診断が可能であった.環軸椎関節ブロックによりVAS値も改善し診断と治療に有用であった.残存した後頸部痛は右C3/4/5椎間関節ブロックで効果を示しており,環軸椎癒合による隣接椎間へのストレスが残存しており鑑別が必要と思われた.

【結語】環軸関節に高度変性を示した頸椎椎間関節症の1症例を経験した.環軸椎関節および椎間関節ブロックが効果を示し診断と治療に有用であった.

 
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