Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2019 Volume 26 Issue 4 Pages 331-336

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日 時:2019年5月25日(土)

会 場:米子コンベンションセンター

会 長:稲垣喜三(鳥取大学医学部器官制御外科学講座麻酔・集中治療医学分野教授)

■特別講演1

西洋医学による疼痛の緩和:帯状疱疹治療から学んだこと

眞鍋治彦

秋本病院(福岡市)緩和ケア疼痛科

帯状疱疹(herpes zoster:HZ)急性期の痛みはあまりに強烈であり,麻酔科医は手術室での業務の傍ら,硬膜外ブロック,浸潤ブロックなどを行って疼痛緩和に努めた.HZ急性痛を神経ブロックで軽減消失させれば帯状疱疹後神経痛(postherpetic neuralgia:PHN)を防止できるとの考えで,Pasqualucci(2000),Manabe(2004)らがランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)を行い,intensiveな神経ブロックはPHN予防に効果のあることを報告した.80年代後半になり,PHNを含む神経障害痛(neuropathic pain:NeP)の概念が提唱され,帯状疱疹と同様に局所麻酔薬による障害前治療,オピオイドの前投与などの方法により,NePを防止できることが示された.この考えは遷延性術後痛にも「pre-emptive analgesia」として適応された.

抗ウイルス薬aciclovirが日本で上市されたのは1994年で,この臨床経過の解析はHZ治療だけでなくNePを中心とする慢性痛治療にも役立った.

PHNに対する薬物療法は,70年代Taubの三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressants:TCAs)とphenothiazine併用の報告から始まる.1982年Watsonらは,RCTでアミトリプチリンのPHNに対する効果を実証した.2000年代になり,ガバペンタノイドの開発がNePとしてのPHNを対象として進んだ.NeP治療に関するガイドラインの第一選択薬筆頭は,2003年ではガバペンチンであったが,2007年ではTCAsとなっている.

2000年代に開発されたHZワクチンは,50歳以上への投与でHZ発症率が低下し罹患してもPHNへの移行が少ないとされている.近くより効果的なサブユニットワクチンが上市される.

■特別講演2

漢方薬による痛みの治療

世良田和幸

医療法人社団相和会渕野辺総合病院

昭和51年,漢方薬が薬価収載され,漢方の保険治療が可能となった.この年,私は医学部を卒業して麻酔科に入局しペインクリニック外来に出ることが許された.当時の痛みの治療に関しては日の出の勢いのペインクリニックであり,漢方薬に興味のあった私が,難治の痛みに対して漢方薬を処方するなど言下に否定された.当時の医療の最先端を行くペインクリニシャンにとっては,「漢方薬などと古くさいものを使うなど何事ぞ!」という気概があったに違いない.しかし,叱咤されたその先生たちも現在では漢方薬を処方しており,隔世の感がある.

「痛みの治療」,とくに急性痛に対しては,西洋医学でほぼ治療が可能となった.しかし,慢性痛に関しては厄介な症例にしばしば遭遇する.神経ブロック療法など西洋医学を駆使しても疼痛緩和が叶わないときは,自分の「痛み治療」のいくつかの引き出しを次々と開けて治療を行うが,当然,引き出しの多くは東洋医学が占めている.今回の講演では,簡単な漢方の総論と今まで約40年間培ってきた「痛みの漢方治療」についてお話ししたいと思います.

■一般演題1

1. 上肢帯状疱疹に伴う運動神経麻痺を疑った1症例

青木亜紀*1 遠藤 涼*2 大槻明広*2 稲垣喜三*2

*1鳥取大学医学部付属病院手術部,*2鳥取大学医学部麻酔・集中治療医学分野

帯状疱疹による脊髄運動神経麻痺はまれとされている.上肢の帯状疱疹に伴う運動神経障害を疑う患者に対し,入院による集中的な疼痛治療とリハビリテーションを行い良好な回復を得たので報告する.症例は69歳男性,既往歴に高血圧,脳梗塞があり降圧薬,チクロピジンなどを内服していた.左頭部~肩~上肢にかけて持続的な激しい痛みを自覚し,数日後に左半身の感覚の異常と握力低下を認めた.改善しないため近医を受診し,頭部CT検査を受けたが異常が認められなかった.その後,皮疹が出現し疼痛自覚より1週間後に近医皮膚科で帯状疱疹と診断され,抗ウイルス薬,鎮痛薬の処方を受けた.約1カ月後,疼痛と握力低下の改善がないため当科に紹介受診となった.左C6領域にアロディニアを伴うNRS 7/10の持続痛に加え,握力の低下(右34.4,左13.0)と徒手筋力テストの明らかな左右差を認めた.入院による加療を開始し,星状神経節近赤外線照射,リドカイン点滴,リハビリテーションを連日で行い,薬物治療も並行して行った.抗血小板薬を内服中であったため神経ブロックは行わなかった.入院2週間後には疼痛軽減,握力の回復を認め,4週間後には日常生活が可能な程度の疼痛と握力に回復したため退院とした.退院後1カ月で仕事復帰した.帯状疱疹による脊髄運動神経麻痺はまれであり,疼痛による運動制限と区別がつきにくいが念頭に置くべき症状であり,疑った場合は早期の疼痛治療の強化とリハビリテーションが重要と考えられる.

2. 疼痛軽減後に運動神経障害が顕在化した大腿部帯状疱疹の1例

田口志麻 仁井内 浩 梅田絢子 大下恭子 中村隆治 濱田 宏 河本昌志

広島大学病院麻酔科

【はじめに】帯状疱疹(HZ)は知覚神経障害による痛みが主症状であるが,まれに運動神経障害による運動麻痺を伴うことがあり,他の病態との鑑別が必要となる.

【症例】90歳男性.元来自力歩行可能であった.右大腿部に発疹およびピリピリした痛みが出現し,他院皮膚科でHZと診断され抗ウイルス薬および痛みに対してセレコキシブ200 mg/日,ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液16単位/日,プレガバリン75 mg/日を処方された.罹患直後は強い痛みにより右下肢を動かさず,介助下に車いすで移動を行っていた.発症後3週間で痛みが軽減し立位歩行を試みたものの,下肢脱力が生じ困難であった.廃用による筋力低下とプレガバリンの副作用を疑われ,当科紹介となった.当科初診時の主訴は右膝周囲の痺れと力の入りにくさだった.痛みは11段階評価(numerical rating scale)で安静時0,体動時5だったが,下肢の他動運動で痛みを生じずアロディニアもなかった.L2~3で知覚低下を認め,徒手筋力検査で右股関節屈曲および外転外旋は2/5,膝関節屈曲は4/5,伸展3/5の運動低下がみられた.右股関節の伸展と足関節の底背屈,内反外反,左下肢の運動は正常であった.限局する運動麻痺の所見より,HZによる運動神経障害が原因と推察された.痛みはコントロールされていたため,同日よりプレガバリンを中止したところ,痛みの再燃はなかった.徐々に膝関節の動きが改善し,当科初診より1週間で1本杖歩行,1カ月後には軽度の大腿部前面の痺れと股関節屈曲障害があるものの日常生活に支障なく歩行可能となった.

【考察・結論】痛みより運動麻痺を主症状とするHZを経験した.HZの運動麻痺は廃用症状や薬剤の副作用との鑑別が困難な場合があり,それに合併して薬剤による浮動性めまいや下肢脱力が生じると,歩行障害を悪化させる懸念がある.それらを念頭においた診察が重要である.

3. 多くの合併症を発症した多発性骨髄腫患者における帯状疱疹後神経痛の治療経験

中村久美子 福本剛之 角 千恵子 田村 尚

山口県立総合医療センター麻酔科

悪性腫瘍患者において,痛みは頻度の高い症状であるが,痛みの原因や部位が複数であったり,多くの合併症を有している場合,しばしばその治療に苦慮する.圧迫骨折を伴う多発性骨髄腫に,心不全・腎不全・帯状疱疹・小脳失調を併発し,骨折部痛と帯状疱疹後神経痛のコントロールに難渋した症例を経験した.

【症例】77歳,男性,経過;6年前,僧帽弁形成術を受けた際に単クローン性γグロブリン血症を指摘されたが無治療であった.6カ月前,腰椎圧迫骨折を認め,近医血液内科で多発性骨髄腫と診断された.入院での化学療法が奏功したが,輸液過負荷による急性心不全・腎不全をきたした.循環器内科に転科し症状は改善したが,経過中,左Th2領域帯状疱疹を発症した.プレガバリンを投与した時期に小脳失調が出現し副作用を疑い中止としたが,症状は増悪し当院神経内科へ転院となった.原因が判明しないものの栄養状態の改善とともに病状は回復し,胸背部痛を強く訴えるようになった.不整脈が認められ,転院1カ月後には心室細動を呈し循環器内科に転科治療が行われた.トラマドール/アセトアミノフェン配合錠が最大量まで投与されたが,夜間痛が強いため当科紹介となった.左Th2領域の知覚低下を伴う電撃痛と,脊椎多発骨折による痛みが混在していた.ガバペンチンは有効であったが,病状の変化の大きさと胸を締め付ける発作的な痛みに強い不安を訴えていた.定時オピオイドをオキシコドンに変更し,夜間は速放剤をレスキューとして使用した.クロナゼパムも併用し,認知行動療法を行った.化学療法を再開したが感染症を繰り返すため,いったん治療は中止され在宅でのレナリドミド療法に変更された.

【考察・結語】治療中の患者に合併症が現れた時,医療者は重篤であるほどその治療を優先しがちであり,患者も訴える余力を持たない場面が増えるが,可能な限り苦痛の軽減を図ることが重要である.

4. 治療成績から検討した帯状疱疹の診療上の問題点

延原弘明

鳥取ペインクリニック

帯状疱疹(以下HZ)の診療上,帯状疱疹後神経痛(以下PHN)への移行阻止は肝要な治療目標の一つである.その可能性について治療成績から検討を試みた.2008年10月1日から2018年9月30日までの10年間に鳥取ペインクリニックを受診した帯状疱疹ならびに帯状疱疹後神経痛の患者は917例である.そのうち,他疾患同時加療132例,経過追跡不能中断例160例,未終診治療中の81例を除外し544例を対象とした.治療は外来管理可能な神経ブロックと薬物療法の併用とした.発症から当院受診までの期間によって発症後30日未満338例をA群,発症後30日以上180日未満147例をB群,発症180日以上59例をC群に分け,①年齢,②発症~初診日数,③初診時VAS,④治療開始60日後VAS(or終診時VAS),⑤終診となるまでの診療日数,⑥神経ブロック数を検討項目とした.

【結果】A群/B群/C群の順で,①69.9/70.9/74.6(P=0.14),②15.4/60.2/1141日,③64/61/52(P=0.0005),④10.3/14.4/11.7(P=0.14),⑤162/236/364日(P=0.00003),⑥2.8/3.1/2.3回(P=0.03)であった.

【考察】発症初期の痛みの強さ,年齢,発症~初診日数の遅延などがPHN移行への要因といわれており,従来から言われている診療予後因子が裏付けされた.いずれも30日未満に治療開始したA群が強い痛みにもかかわらず短期間で終診となった.神経ブロック数で有意差が出たが,元来神経ブロック加療は制限下に置かれて全症例について施行数は必ずしも多いとは言えない.A群でも162日の診療を要したこと,さらに受診時VAS≧50の271例中86例32%が診療日数180日以上でPHNに陥っており,PHN阻止の観点から神経ブロック加療に過重な制限を置くべきではないと思われた.

■一般演題2

5. パンコースト腫瘍に起因した神経障害性痛に対してタペンタドールが奏功した1症例

岩下智之 安部睦美 中右礼子

松江市立病院緩和ケア・ペインクリニック科

【はじめに】今回われわれは,パンコースト腫瘍に起因した右上肢の神経障害性痛に対してタペンタドール(以下TD)を使用し,高い鎮痛効果が得られた症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.なお,発表に際して本人より口頭で承諾を得ている.

【症例】80歳代,男性.

【現病歴】201X年から右胸部異常陰影を認めていたが,希望にて精査は行わず経過観察の方針となった.201X+1年Y月からとくに誘因なく右肩部痛が出現.201X+2年Y+〇月に当院総合内科に紹介受診となり,精査にて右肺尖部腫瘍を認めたため呼吸器内科に紹介され入院.今後の疼痛マネジメント目的に緩和ケアチーム介入.

【経過】右頸部~上肢にかけてnumerical rating scale(以下NRS)7~10の痛みを認めた.右肺尖部腫瘍の腕神経叢浸潤による神経障害性痛と判断し,TD 50 mg/日を開始した.レスキュー薬としはヒドロモルフォン速放製剤1 mg/回とした.副作用対策にメトクロプラミドおよび酸化マグネシウムを併用した.TD開始後から痛みの軽減が図れ,100 mg/日まで増量したところNRSは1~2まで低下した.著明なオピオイド副作用は認めなかった.原病巣に対する放射線治療も開始となった.

【考察】パンコースト腫瘍は腕神経叢浸潤により難治性の神経障害性痛をきたすことが知られ,オピオイドの効果が乏しいことも散見される.TPはµ受容体作動作用に加え,ノルアドレナリンおよびセロトニン再取り込み阻害作用を有するため,侵害受容性痛のみならず神経障害性痛に対する鎮痛効果が期待できる.今回の症例では比較的少量のTDで有効な鎮痛が図れており,神経障害性痛への高い鎮痛効果が示唆された.今後は,仙骨神経叢浸潤や化学療法誘発性末梢神経障害性痛などに対する有効性も検討していく必要がある.

6. ブプレノルフィン貼布剤の退薬症候を回避するために,貼付期間を延長することが有効であった1症例

黒田ジュリオ健司*1 中條浩介*1 水田大介*1 簗瀬 賢*1 伊東祥子*2 野萱純子*3 白神豪太郎*1

*1香川大学医学部附属病院麻酔・ペインクリニック科,*2香川県済生会病院麻酔科,*3総合病院回生病院女性漢方外来・ペインクリニック科

オピオイドによる疼痛治療を終了する際には,退薬症候を回避するために,漸減したのちに中止することが推奨されている.今回,1週間貼布型ブプレノルフィン製剤(以下ノルスパンテープ®)の最小用量である5 mg製剤の自己中断により退薬症候が出現した患者に対し,2週間連続貼布することにより退薬症候を軽度に抑えて,ノルスパンテープ®による疼痛治療を終了できた1症例を経験したので報告する.

【症例】76歳,男性.X−1年10月ごろ,右腰背部と右臀部の痛みが出現,近医で治療を受けるも症状が改善しないため,X年11月当院を受診した.プレガバリン100 mg/日,セレコキシブ200 mg/日の内服に腰部硬膜外ブロック療法を併用したが,痛みの改善がなかったため,X+1年1月よりノルスパンテープ® 5 mgを追加した.痛みはNRS 10/10から5/10へ減少,その後症状は安定していた.X+1年12月に自己判断でノルスパンテープ®を剥がし,翌日から焦燥感,気分不良,不眠などの症状が出現,やはり自己判断で新規のノルスパンテープ® 5 mgを貼布し症状が改善したというイベントがあった.その後,ノルスパンテープ® 5 mgのみで痛みのコントロールは良好であったため,X+3年7月にノルスパンテープ®による疼痛治療を終了することを計画した.退薬症候の再現が想定されたため,最終回のノルスパンテープ® 5 mgの貼付期間を2週間に延長し,外来再診時に診察医が貼布剤を剥がした.その後,4~5日目に退薬症候と思われる軽度の焦燥感が一過性に出現したが痛みの再燃はなく,X+3年8月に終診となった.

7. 西洋医学と東洋医学を併用した脊椎手術後症候群の2症例~トリガーポイント注射と鍼通電療法~

延原英介*1 榊原賢司*1 延原 円*1 山本花子*1 蓼沼佐岐*1 本岡明浩*1 橋本龍也*2 中谷俊彦*3 齊藤洋司*1

*1島根大学医学部付属病院麻酔科,*2島根大学医学部付属病院緩和ケアセンター,*3島根大学医学部緩和ケア講座

【はじめに】トリガーポイント注射(TPI)や鍼通電療法(EAT)は,侵襲の少ない慢性痛治療法である.脊椎手術後症候群は対応が難しい疾患のひとつであるが,今回両方の治療を用いた2症例を報告する.

【症例1】30代男性.7年前,腰椎すべり症に対して後側方固定術(L5/S1)を受けた.腰痛は日常に支障をきたさない程度となったが1年前に増悪した.術後の慢性痛として,複数の施設で仙骨硬膜外ブロック・神経根ブロック等が行われたが効果なく当科に紹介された.EATで痛みはVAS 70⇒50 mmと軽減し3~4日程度の効果持続を得たため,週1回のEATを継続している.経過中TPIも行ったが,処置直後のVASは40 mmとやや効果が高かったものの2日後には痛みが増強し,患者の満足度は低かった.

【症例2】60代男性.15年前,右腰下肢痛で発症した腰椎椎間板ヘルニアに対し椎弓切除術(L5/S1)を受けたが,術後も右下腿外側の痛みが残存し,ADLが低下して当科に紹介された.持続硬膜外ブロックを経て,現在は週1回の通院で,月3回はTPI,月1回はEATを継続している.ときに突発的な痛みがあるものの,安静時のVAS 6 mmと比較的良好な効果を得ている.EATの方が効果の持続が長く痛みの再燃も緩やかだが,鎮痛効果自体はTPIの方が強いと患者は感じている.

【考察】TPIは,直後は高い効果が望めるが作用時間は短く痛みの再燃が急激なため,長期的な痛みのマネジメントに際して満足度につながらないケースがある.一方EATは,比較的長く緩やかな効果の持続が期待できるがTPIほどの鎮痛効果は望めない場合が多い.脊椎手術後症候群患者では多種多様な症状や訴えに応じた治療法の選択や併用が求められる.この2症例においてTPIとEATによる外来治療を継続しているが,症状の変化に応じて調整を行い,ADL維持に努めることが必要である.

8. 神経障害性疼痛に対し真武湯が有効だった症例

渡辺倫子

鳥取県済生会境港総合病院麻酔科

帯状疱疹後神経痛,根性坐骨神経痛など,神経障害性疼痛症例では冬季に痛みの増強がみられることも多い.ショウキョウを含む附子剤である真武湯を投与し,冷えで悪化した神経障害性疼痛の緩和を認めた症例を数例経験したので報告する.

9. 開胸術後痛を有する患者の反対側肺切除に多職種で介入することにより遷延痛が回避できた2症例

松崎 孝 小野大輔 栗田真佐子 更科紗和子 谷口 新 賀来隆治 森松博史

岡山大学病院麻酔科蘇生科

開胸術後痛が遷延する術前の因子として,不安の強さや慢性痛を有する症例が危険因子として報告されているが,遷延化を予防できる明確なガイドラインは存在していない.今回開胸術後痛を有する不安の強い患者が,反対側の肺切除が必要となった症例で,当院ペインセンターの術前からの早期介入により,術後疼痛管理が良好に施行され痛みが遷延しなかった症例を経験したので報告する.

【症例1】69歳,女性.身長157 cm,体重46 kg.2011年に肺がんで胸腔鏡下左上葉部分切除施行後に開胸術後痛が遷延したため,術後半年後からプレガバリンとリン酸コデインによる薬物療法を施行も痛みは継続し外来を定期的に受診し疼痛管理を施行.初回手術7年後に右肺がんに対して胸腔鏡補助下に右S8区域切除が施行された.

【症例2】56歳,女性.身長170 cm,体重65 kg.悪性黒色腫による左肺転移に対して,胸腔鏡補助下小切開による部分切除を施行後に,硬膜外チューブ抜去後から遷延痛に移行したため,術後2週間後よりトラマドール,プレガバリン,オキシコドンによる薬物療法を施行.4カ月後に右肺転移に対して,胸腔鏡下右肺部分切除が施行された.

2症例とも術前より多職種(周術期看護師,麻酔科医師,理学療法士,精神科)によるカウンセリングを行い,術後疼痛管理は硬膜外麻酔による自己調節鎮痛法と定期のアセトアミノフェン投与を施行した.硬膜外チューブ抜去後に痛みの増悪が認められたが,オピオイドの導入やトラマドールとデュロキセチンの内服導入と理学療法および睡眠の管理を行うことで良好な疼痛管理が施行でき,遷延痛を回避することが可能となった.

ペインセンターが術前より早期に介入することで,多職種間の連携を強化し多用式鎮痛を施行することが可能となり遷延痛を回避できたが,開胸術後痛を予防する手段に関しては今後も検討が必要である.

■一般演題3

10. 脊髄腫瘍による下肢痛に対し脊髄刺激療法が有効であり強オピオイドを中止できた1症例

渡邊愛沙*1 安平あゆみ*1 藤井知美*2 檜垣暢宏*1 萬家俊博*1

*1愛媛大学医学部附属病院麻酔科蘇生科,*2愛媛大学医学部附属病院緩和ケアセンター

【症例】40代,男性.X−18年に両足の痺れが出現し,近医でTh12~L2にかけての脊髄腫瘍(奇形腫)を指摘され,当院整形外科で摘出手術を予定されたが,腫瘍の摘出は困難で生検で終了した.その後,下肢の痺れや痛みが増悪したため,X−16年当科に紹介となった.

初診時,両下腿にNRS 6/10の痛みがあり,殿部から両下肢にかけて感覚低下を認めた.アミトリプチリン40 mg/日,リン酸コデイン80 mg/日投与したが,十分な鎮痛が得られなかった.モルヒネ徐放錠60 mg/日,塩酸モルヒネ錠を10 mg頓服で使用したが,NRSは5~6/10で経過した.痛みのため仕事が困難になりフェンタニル貼付薬0.84 mg/日に変更したが,痛みは軽快しなかった.脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:以下SCS)が痛みの軽減に有効と考え提案したが,当時MRI非対応であり,患者は躊躇していた.その後,MRI対応SCS装置が発売されたため,SCSトライアルを行った.SCSは痛みに有効であり,植込み術を行った.

植込み後翌日から頓服の塩酸モルヒネ錠が不要となり,その後8カ月でフェンタニル貼付薬を中止できた.強オピオイドを中止できたことで眠気と排尿障害が改善し,仕事を再開することができた.

【考察】神経障害性痛による強オピオイドの長期使用患者で,SCSにより強オピオイドを中止でき,副作用も軽減した症例を経験した.慢性痛に対する強オピオイドの使用は依存や乱用が問題となり,長期使用の効果と安全性は確立していない.SCSは難治性の神経障害性痛に対し有効な手段の一つであり,オピオイドを減量できる可能性がある.

11. 両側腰下肢痛に対して両側硬膜外神経剥離術が有効であった1症例

松尾綾芳 原田英宜 森 亜希 大野宏幸 山縣裕史 松本美志也

山口大学医学部附属病院麻酔科蘇生科/ペインクリニック

腰椎椎間板ヘルニアに伴う難治性の両側腰下肢痛に対して,両側硬膜外神経剥離術が有効であった1症例を経験した.

【症例】43歳,女性.主訴は腰下肢痛.X−6年に他院でL4/5腰椎椎間板ヘルニアの診断を受け治療を受けたが,X−4年に左腰下肢痛が増悪し当科紹介受診となった.腰椎X線写真で仙椎の腰椎化があり不安定さがみられた.MRIにてL4/5椎間板ヘルニアに伴う左L5神経根症と診断し,腰部硬膜外ブロックを施行し軽快した.X−2年,交通事故後より両腰下肢痛が出現し再受診した.MRIにて両側L4/5椎間板ヘルニアの増大を認め,両側L5神経根症の増悪と診断し腰部硬膜外ブロックを施行したが,改善と増悪を繰り返し休職となった.両側L5神経根ブロック後,両側L5神経根パルス高周波療法を施行し一時的に軽快した.1カ月以内に左腰部痛と左下腿外側部痛が再燃し,左L5神経根症状と考え硬膜外神経剥離術施行した.X線透視下経仙骨裂孔アプローチでスプリングコイルカテーテルを左L5椎弓根付近の硬膜外腔腹側に留置し,0.75%レボブピバカイン8 ml,ベタメタゾン2 mg,10%高張食塩水10 mlを3日間投与した.左腰下肢痛は改善したが,1カ月以内に右腰部痛と右下腿外側部痛が増悪した.L5/6椎間板ヘルニアによる右L6神経根症状と考え右硬膜外神経剥離術を施行した.前回と同様に,右L6椎弓根付近の硬膜外腔腹側にカテーテルを留置し,0.75%レボブピバカイン8 ml,ベタメタゾン2 mg,10%高張食塩水10 mlを3日間投与した.その後,リハビリテーションにて運動療法を継続し疼痛改善を認め,休職して約7カ月後に復職した.復職後も約6カ月間,腰下肢痛の再燃なく経過している.

【考察】慢性疼痛治療ガイドラインで慢性腰下肢痛における硬膜外神経剥離術は,推奨度1Bと施行が強く推奨されている.本症例のような難治性の腰下肢痛であっても,痛みの原因部位が特定できれば,硬膜外神経剥離術を多部位に行うことで治療効果が期待できる.

12. TNF受容体関連周期性症候群の筋膜炎によると思われる下肢痛の治療経験

熊代美香*1 仁熊敬枝*2 大西 藍*1 井上一由*1

*1香川県立中央病院麻酔科,*2香川県立中央病院ペインクリニック科

TNF受容体関連周期性症候群(TPAPS)の筋膜炎によると思われる強い下肢痛の治療を経験したので報告する.

【症例】41歳,男性.

【主訴】左鼠径部から大腿前面の強い痛み.

【現病歴】2年前に腹痛,高熱などの症状で当院消化器内科へ紹介され,TRAPSと診断され,カナキヌマブ(IL-1B阻害薬)投与を受けて全身症状は落ち着いていた.6カ月前から左大腿前面の強い痛みが出現し,整形外科等で精査を行ったが,腰椎,大腿部の器質的疾患は否定され,痛み治療のため当科へ紹介された.

【現症】痛みは左鼠径部から大腿前面に限局しており,歩行により増強.鼠径部,大腿前面に圧痛あり.大腿前面に軽度の痛覚過敏.血液検査は問題なし.

【経過】トラマドール,プレガバリン,デュロキセチン,NSAID,アミトリプチリン,ブプレノルフィンテープは無効.やや有効と判断されたガバペンチンとフェンタニル貼付剤を継続している.

腰部硬膜外ブロックでは強い放散痛が出現,大腿神経ブロックはやや有効.エコーガイド下にトリガーポイント注射(TP)と筋膜リリース(FR)(リドカイン+ベタメサゾン)もやや有効で,現在は外来でTPとFRを継続し著明な改善は見られないが,現状を維持している.

【考察】TRAPSは自己炎症性症候群の一つであり,発熱,皮疹,筋肉痛,関節痛,漿膜炎などを繰り返す遺伝性の疾患である.最も重要な合併症はアミロイドーシスであり,他にも筋膜炎,心外膜炎,血管炎,多発性硬化症などの合併が報告されている.今回の症例では全身症状はコントロールされていたが,強い下肢筋肉痛で生活に難渋していた.ステロイドの全身投与も考慮されたが,若年であり,安易には投与できないと思われた.エコーガイド下で観察すると筋膜近辺への薬液注入で他部位では見られない強い放散痛が生じることから,筋膜炎が強く疑われた.しかし,NSAIDはほとんど効果なく,いまだに質のよい疼痛コントロールは得られておらず,さらに治療法の検討が必要である.

13. 超音波ガイド下頸椎神経根ブロックにより手術回避できた頸椎椎間板ヘルニアの1症例

笠井飛鳥*1 曽我朋宏*2 川人伸次*2 田中克哉*3

*1徳島大学病院手術部,*2徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部地域医療人材育成分野,*3徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部麻酔・疼痛治療医学分野

【症例】73歳男性.

【既往歴】高血圧,脳梗塞,アルコール性肝硬変,肝細胞がん,慢性肺気腫,胸部大動脈瘤.

【現病歴】数十年前より頸部痛あるも無治療で増悪軽快していた.1カ月前に頸部痛,右肩痛が出現したため近医整形外科受診,頸椎XPにて頸椎変形指摘されロキソプロフェン,デュロキセチン処方された.その後も痛み増強傾向で不眠となり当科紹介受診された.頸椎XPではC5/6およびC6/7右側の椎間孔狭窄を認めた.画像所見と症状より頸椎神経根症を疑いエコーガイドで右C7神経根ブロックを施行したところ,痛みは消失したが効果は当日のみであった.1週間後に頸椎MRIを予定したが,痛みのため安静が保てず撮影できず,後日右C7神経根ブロックを施行したのち頸椎MRI撮影を行った.頸椎MRIではC5/6から尾側にC7椎体下端までmigrationした巨大な頸椎椎間板ヘルニアを認めた.早期の手術を希望されたため当院整形外科紹介,約2カ月後に全身麻酔による頸椎間孔的ヘルニア摘出術が予定された.手術待機中,確定診断目的に右C6神経根ブロックを依頼されエコーガイド下に施行したところ,数日間の効果を認めた.合計3回超音波ガイド下右C6神経根ブロックを行ったところNRS 1/10程度まで減少,手術延期となった.

【考察】急性の頸部神経根症の75%は自然治癒が期待できるとされ,保存的治療が第一選択となる.また本症例のようなmigration-typeの椎間板ヘルニアは自然吸収される可能性も大きい.しかし薬物療法の効果が乏しく,強い痛みでADLが大きく障害されている場合,患者は早急なインターベンショナル治療を希望することが多い.エコーガイド下に施行する頸椎神経根ブロックは比較的安全で簡便な手技であり,とくに本症例のような合併症の多い患者に対しては,外科的手術に先んじて試みるべき治療法と思われた.

14. 硬膜外自己血パッチと穿頭血腫除去術を同時施行した際に脊髄くも膜下血腫を生じた脳脊髄液減少症の1症例

簗瀬 賢 中條浩介 西部伊千恵 黒田ジュリオ健司 伊東祥子 白神豪太郎

香川大学医学部附属病院麻酔・ペインクリニック科

【はじめに】脳脊髄液減少症患者が頭部硬膜下血腫を合併した場合,硬膜外自己血パッチ(EBP)と穿頭血腫除去術を同時に行うことがある.今回EBPと穿頭血腫除去術を同時に行った際に,脊髄くも膜下血腫を生じた症例を経験した.

【症例】39歳女性.後頭部痛を訴え他院受診したが,頭部MRI検査では異常はなかった.頭痛は改善せず2カ月後に再度MRI検査を行ったところ,両側頭部硬膜下血腫があった.造影MRI検査にて硬膜周囲の造影効果があったため,脳脊髄液減少症に慢性硬膜下血腫が続発したと考えられた.当院入院6日目より硬膜外生理食塩水注入を開始し頭痛が改善したため,入院23日目にEBPと両側穿頭血腫除去術の同時施行が計画された.

【術中経過】プレセデックス0.8 µg/kg/hr併用局所麻酔下で穿頭し左右前頭部硬膜を露出した.痛みや神経学的異常所見の有無を確認しながら,第1/2腰椎レベルより挿入した硬膜外チューブより自己血を緩徐に14 ml注入したところ,突然意識レベルが低下した(JCS 300).プレセデックスを中止し直ちに術中CT撮像を行い,第1腰椎椎体上縁より上方で脊髄くも膜下血腫があり,髄液漏出部からくも膜下腔への血液流入が考えられた.意識レベルは徐々に改善し,痛みや四肢の神経症状がないことを確認した.頭部硬膜切開し両側硬膜下血腫を除去,ドレナージチューブを挿入し終了した.

【術後経過】術翌日のCT撮像で脊髄くも膜下血腫は縮小傾向であるため経過観察とした.頭痛は速やかに改善したが,術後10日目に失語,右上肢痺れ,痙攣が出現,頭部MRI検査にて左硬膜下血腫の再発があったが,保存的に症状は改善した.神経学的後遺症なく術後18日目に退院した.

【結語】EBPを施行した際に脊髄くも膜下血腫を合併した症例を経験した.プレセデックス投与により脊髄くも膜下血腫発生時の意識レベルの変化が修飾された可能性がある.

 
© 2019 Japan Society of Pain Clinicians
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