Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Disc-FX® was effective for a huge lumbar disc herniation recurred after surgery: a case report
Kenji SHIDAAsae TAKETOMIReon KOBAYASHISatoru FUKUDAYutaka MASUDAHiroshi OTAKE
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2020 Volume 27 Issue 1 Pages 83-86

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Abstract

再発椎間板ヘルニアに対する治療ガイドラインは存在せず,患者個々の症状に応じた経験的な治療が優先されている.今回,再発した巨大なヘルニアに対してDisc-FX®が著効した症例を経験した.症例は27歳,女性.X−7年にL3/4,L4/5ヘルニアに対して,髄核摘出術が施行された.X−1年,腰痛と右下肢痛にて整形外科を受診した.MRIにてL4/5に脊柱管内の約70%を占める巨大なヘルニアの再発と椎間板変性を認めた.筋力低下や馬尾症状がないため,当科に紹介受診となった.初診時,腰痛とL5神経根領域の強い痛みを訴え,NRSは10で,SLRTは30度であった.薬物療法や神経根ブロックなどでNRSは6~7に低下したが,同一姿勢保持や歩行が困難で,疼痛性側弯を認めていた.そのため,椎間板内治療(Disc-FX®)を考慮した.Disc-FX®を用いて髄核摘出と髄核焼灼,線維輪縫縮を施行した.2日目に下肢痛は消失し,SLRTは80度に改善した.腰痛も徐々に改善しNRS 1~3に低下した.再発した巨大なヘルニアでも,Disc-FX®は試みるべき選択肢の一つと考えられた.

I はじめに

再発椎間板ヘルニアに対するガイドラインは存在せず,患者個々の症状に応じた経験的な治療が優先されている1).再発椎間板ヘルニアに対するmicro endoscopic disectomyやpercutaneous endoscopic discectomyの報告2,3)は散見されるが,Disc-FX®を用いた報告はない.

今回,再発した巨大な椎間板ヘルニアに対して,Disc-FX®を施行し,とくに下肢症状に対して良好な結果を得たので報告する.

なお,本報告は患者本人からの同意を得ている.

II 症例

症例は27歳,女性.X−7年にL3/4,L4/5ヘルニアに対して,小切開による髄核摘出術が施行された.X−1年に腰痛と右下肢痛にて整形外科を受診した.magnetic resonance imaging(MRI)にてL4/5正中に脊柱管内の約70%を占める巨大なヘルニアの再発を認めた.筋力低下や馬尾症状がないため,当科に紹介受診となった.初診時,腰痛と右下肢の強い痛みを訴え,疼痛性側弯を認めた.同一姿勢保持や歩行が困難であった.numerical rating scale(NRS)は10/10であった.右下肢の痛みは殿部から下腿外側足背にかけての痛みが主体で,L5神経根領域と考えられた.右下肢伸展挙上テスト(SLRT)は30度で,前脛骨筋や長母指伸筋の徒手筋力テスト(MMT)は5であった.膀胱直腸障害は認めなかった.初診時のMRI画像を示す(図1).ヘルニアによる脊柱管占拠率は,矢状断面72%,横断面67%であり,巨大なヘルニアを認めた.椎間板変性も伴っており,Pfirrmann分類でGrade IIIであった.ヘルニアが巨大であったことから,整形外科に治療方針を確認したが,再手術は行わない方針であった.そのため,神経ブロック治療と薬物療法を選択した.

図1

初診時 腰椎MRI画像

T2強調画像.左:矢状断,占拠率=b/a×100=72%.右:横断面,占拠率=c/d×100=67%

椎間板変性(L4/5):Pfirrmann分類,Grade III

薬物療法として,トラマドール徐放剤(100 mg)2錠/日,プレガバリン150 mg/日,デュロキセチン60 mg/日.神経ブロック治療として,仙骨ブロック,L5神経根ブロックにパルス高周波法を併用し,経椎間孔的に生理食塩水による洗浄法も施行した.しかし,初診から3カ月を経過してもNRSは6~7/10であり,同一姿勢保持困難と疼痛性側弯を認めた.そこで,Disc-FX®による椎間板内治療を考慮した.

Disc-FX®に先行して,ヘルニアのタイプを判定する目的で,椎間板造影を計画した.140 mm 21 Gブロック針を用いて,椎間板正中から後方に針先を誘導した.そこで,造影剤の注入を試みたが,腰部ならびに右下肢への強い再現痛を認めたため,注入不可能であった.Disc-FX®施行にあたり,カニューレや把持鉗子の挿入も困難ではないかと考えたが,挿入は容易であった.把持鉗子にて,髄核除去を行い推定1 g程度の髄核を摘出した.その後,ラジオ波発生装置(サージマックス®)を用いてターボモード各6秒6方向で髄核アブレーションを施行し,さらにヘモモード各6秒6カ所で線維輪モデュレーションを施行した.

Disc-FX®施行2日後には,右下肢痛は消失し,NRSは1/10となった.SLRTは30度から80度に改善した.腰痛も徐々に改善し約2カ月後には,15分以上の座位が可能となりNRSは2~3/10となった.疼痛性側弯も軽度となり,使用薬剤はトラマドール徐放剤(100 mg)1錠/日だけに減量した.残存する腰痛が椎間板性であることを疑って,Disc-FX®から4カ月後に再度椎間板内造影とデキサメタゾン3.3 mgの注入を行った.その際,腰部に再現痛を認めた.椎間板造影後のcomputed tomography(CT)による脊柱管占拠率は,矢状断面64%,横断面50%であった.術前のMRIとの直接比較は困難だが,CT上は椎間板ヘルニアが縮小傾向を示した(図2).

図2

Disc-FX®施行4カ月後 腰椎Disco-CT

占拠率,左:矢状断面64%,右:横断面50%.

MRI画像と単純比較は困難であるが,椎間板ヘルニアの縮小傾向を認める.

残存する腰痛に対して,Disc-FX®施行6カ月後にL4,L5後枝内側枝高周波熱凝固法を施行したが,腰痛は変化しなかった.椎間板ヘルニアの発症から1年を経過し,前傾で増強するNRS 1~2/10の腰痛は認められたが,同一姿勢保持も可能となった.

III 考察

本症例の特徴として,27歳と若年であり,術後に再発したヘルニアで,MRIにて脊柱管占拠率が約70%と巨大なヘルニアを認めた.さらにPfirrmann分類でGrade IIIの椎間板変性を認めた.痛みの特徴は同一姿勢保持困難や疼痛性側弯などから椎間板性腰痛が疑われた.右L5神経根症状を認めていたが,筋力低下はなく,膀胱直腸障害も認めなかった.整形外科では,若年で椎間板変性や不安定性が進行する可能性,固定術などリスクが大きい手術となる可能性を考慮し,保存的治療を優先した.

再発ヘルニアに対する治療ガイドラインは存在せず,患者個々の症状に応じた経験的な治療が優先されている.脊柱の不安定性,脊柱の変形または関連する神経根障害が存在する場合にのみ,再手術が選択肢として考慮されるとの報告1)がある.本症例では,少なくとも関連する神経根障害を認めており再手術の適応と考えられたが,上記の理由で整形外科医は手術を回避した.そのため,われわれは薬物療法と神経ブロックなどを駆使して治療を行ってきたが,症状の改善に至らず,低侵襲の椎間板内治療の一つであるDisc-FX®を選択した.

Disc-FX®は,直径3 mmのカニューラを通して手技を行うため低侵襲であり,①鉗子による経皮的髄核摘出術(manual discectomy),②ラジオ波ターボモードを用いた髄核焼灼(nucleus ablation)による蒸散,③ラジオ波ヘモモードを用いた後方線維輪の熱凝固による縫縮(annulus modulation)を同時に施行可能なシステム化されたキット製品である.ターボモードは長いエネルギー照射により焼灼を行い髄核の蒸散を目的とし,ヘモモードは短いエネルギー照射により線維輪の凝固収縮を目的とする.また,再発ヘルニアの場合には,神経組織やヘルニアは癒着や瘢痕を生じている可能性が高く,側方からアプローチするDisc-FX®は安全性が高い.

適応疾患は,後縦靱帯を穿破していないcontained typeの椎間板ヘルニアと椎間板変性疾患である.変性椎間板では,線維輪内層まで神経線維の侵入を生じ(deep nerve ingrowth),椎間板性腰痛の原因となる4).Disc-FX®はラジオ波ヘモモードによる線維輪凝固により,この神経線維を焼灼し変性椎間板由来の痛みを軽減できる5).変性椎間板では炎症性サイトカインの発現も確認されており6),生理食塩水による灌流は,疼痛関連物質の洗浄効果が期待される.本症例は,椎間板変性の存在を考慮すると,神経線維の迷入が関与していたことがうかがわれる.

変性椎間板や小さなヘルニアでは,椎間板造影・ブロックで再現痛を得ることが椎間板性腰痛の診断に必要となる.また,椎間板造影後のCT(Disco-CT)は,ヘルニアのタイプ診断も可能である.一方で,椎間板造影は感染のリスクを伴う.本症例の様に再発ヘルニアは,画像所見上MRIによるblack line(後縦靱帯)の判断が容易ではない.そのため,責任椎間板は明らかであっても,ヘルニアと後縦靱帯との関係性を評価するためには,椎間板造影を施行する意義があると考えられる.しかし,本症例では腰部と下肢への強い再現痛により造影剤を注入できなかったため,事前にヘルニアタイプの評価はできなかった.

本症例における下肢痛の速やかな消失は,ヘルニアが主に正中に存在したことから,椎間孔型のヘルニアに比較して,椎間板の減圧効果と線維輪縫縮効果が直接的に神経根部の減圧に作用したものと考えられた.腰痛の原因は椎間板造影時に腰部の再現痛を認めたことや後枝内側枝ブロックが無効であったことから椎間板性腰痛が考えられた.腰痛の軽減には数カ月を要したが,椎間板の減圧,焼灼による神経変性,生理食塩水の洗浄効果などが複合的に作用して,椎間板性腰痛が徐々に軽減したものと考えられた.

本症例の様な巨大なヘルニアでは,関連する神経根障害だけではなく,椎間板由来の痛みを伴っている可能性が高い.そのため,巨大なヘルニアであっても,本症例の様に椎間板内圧が高い症例やそれに伴う神経根症を有する症例にはDisc-FX®が有効である可能性があり,選択肢の一つとなると考えられた.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第52回大会(2018年7月,東京)において発表した.

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