Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Motor function test as objective tool for evaluation of spinal cord stimulation trial in four patients with lumbar spinal cord stenosis
Aiko MAEDAHiroaki SHIOKAWASumio HOKA
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2020 Volume 27 Issue 1 Pages 75-78

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Abstract

腰部脊柱管狭窄症(LCS)は,おもに加齢性変化による脊柱管・椎間孔の狭小化から腰下肢痛などを呈す疾患である.安静時には症状が軽快することが多く脊髄刺激療法(SCS)の試験刺激中の効果判定が難しい.今回,LCS患者4例(57~85歳.女性1例,男性3例)に対してSCS試験刺激前後にTimed Up & Go test(TUG),10 m歩行時間,歩行距離測定の運動機能評価を行い,SCS試験刺激の有効性を検討した.SCS試験刺激後にTUG,10 m歩行時間の短縮率はそれぞれ14~59%,16~53%,歩行距離テストでは2.0~3.7倍に延長した.痛みの強さは1例で50%以上,2例で25%以上軽減し,1例で変化がなかった.客観的指標である運動機能はSCS試験刺激後に全例で改善したが,主観的指標である痛み評価は変化のない症例もあった.運動機能の改善はSCSによる疼痛抑制効果と脊柱管の血流改善効果双方が関与すると考えられた.運動機能評価を用いたSCS試験刺激の効果判定は,LCS患者本人と家族や医療者が共有できる客観的評価法として有用である.

I はじめに

腰部脊柱管狭窄症(lumbar canal stenosis:LCS)は,加齢性の脊椎変性に伴う脊柱管・椎間孔の狭小化により腰下肢痛や間欠跛行を呈す疾患である.年齢とともに罹患率が上昇する本症は,超高齢化社会を迎えたわが国で今後も増加することが予測される.LCSの治療の一つとして脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)が選択される場合がある.しかし,LCSでは安静時に痛みが消失することが多いことから疼痛の主観的評価のみではSCS試験刺激中の効果判定が難しい.今回LCS患者のSCS試験刺激効果判定に,疼痛スコアに加えて運動機能を用いて評価を行ったため報告する.

本報告は全患者からの承諾を得ている.

II 症例

【症例1】72歳,男性.数年前から両下肢の痺れと痛み,間欠跛行が出現した.近医ペインクリニックで薬物治療と腰部硬膜外ブロック治療を繰り返し行い,症状の改善がみられていた.しかし,数カ月前より徐々に上記症状が増悪したため当科紹介受診となった.患者の歩行姿勢はやや前屈位杖歩行で一般道路では20 m程度の間欠跛行がみられた.両下肢筋力は保たれ,両足背動脈触知良好であった.腰椎MRI撮像では軽度の腰部脊柱管狭窄を認めた.SCSの適応と考え試験刺激を予定した.Th12/L1より硬膜外穿刺を行い,2本の円筒型リードを第7胸椎中間位まで左右に挿入した.

【症例2】57歳,女性.2年ほど前から歩行時に左臀部から下腿外側,足背部,母趾にかけて痛みが出現し,次第に間欠跛行が出現した.これらの症状は前屈位歩行で改善がみられた.腰椎MRI撮像では,L4/5の椎間板膨隆とL5/Sの椎間板外側ヘルニアがみられたが脊柱管や椎間孔の狭小は僅かであった.当院整形外科を受診したが手術適応はないと診断された.腰部硬膜外ブロックや左L5神経根パルス高周波法(360秒)を行うと良好な鎮痛効果が得られたが,数週間で症状再燃を繰り返した.下肢筋力は保たれており,足背動脈触知良好であった.SCSの適応と判断し,試験刺激を行うことになった.Th12/L1より硬膜外穿刺を行い,Th10椎体上縁まで2本の円筒型リードを左右に挿入した.

【症例3】84歳,男性.数年前から長距離歩行で両下肢の痺れが出現し間欠跛行が増悪するようになった.1年ほど前から動作時に右大腿前面の電撃痛が出現するようになり,近医整形外科で薬物治療を行ったが改善しなかったため当科受診となった.腰椎X線撮影では変形性腰椎による高度の側彎症がみられ,腰椎MRIでは脊柱管狭窄と両L2/3/4椎間孔は狭小化がみられた.短距離の歩行には問題なかったが徒手筋力テストでは右腸腰筋と右大腿四頭筋でそれぞれ4/5程度に低下していた.足背動脈の触知は良好であった.腰部硬膜外ブロックを5回行い,それぞれ1週間程度の効果がみられたが,症状再燃を繰り返した.SCSの適応と考え,試験刺激を予定した.Th10/11より硬膜外穿刺を行い,Th8椎体上縁まで2本の円筒型リードを左右に挿入した.

【症例4】85歳,男性.数年前から左大腿前面に誘因なく電撃痛が出現するようになり,徐々に回数が増えた.また,同時期より徐々に長距離歩行で右臀部から下腿後面に痛みが出現し増悪したため当科受診した.腰椎X線撮影では変形性腰椎による側彎症がみられた.腰椎MRI撮像では各椎間の脊柱管狭窄と椎間孔の狭小化がみられた.両足背動脈触知可能で,下肢筋力も保たれており活動性は良好であった.以上より腰部脊柱管狭窄症と診断した.L2神経根パルス高周波法(360秒)や腰部硬膜外ブロックを行ったが効果は数日程度の持続であった.SCSの適応と判断し,試験刺激を予定した.Th12/L1より硬膜外穿刺を行いTh8椎体中間位まで2本の円筒型リードを左右に挿入した.

全ての症例で,定電流トニック刺激で患者の痛みの部位をカバーするように刺激を行った.刺激電極挿入前日に,主観的評価としてトレッドミル検査時の最大の痛みの強さを活動時の数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)で示してもらい,客観的評価として運動機能検査であるTime Up & Go test(TUG:椅座位から起立し3 m先の目印を回って往復歩行した後に元の椅子に着座するまでの所要時間を計測する検査法),最大速度での10 m歩行時間,トレッドミルによる歩行距離の測定を行った.また同じ評価をSCS試験刺激約7日後にも施行した(表1).全例で客観的評価として用いた運動機能は改善した.主観的評価として行ったNRSは症例2で50%以上の軽減,症例3,4で25%以上の軽減が認められたが,症例1では変化がなかった.

表1 症例1~4のSCS手術前後の運動機能評価(TUG:椅座位から起立し3 m先の目印を回って往復歩行した後に元の椅子に着座するまでの所要時間,最大速度での10 m歩行時間,トレッドミルを使用した歩行距離)とNRS
  症状 術前TUG(秒) 術後TUG(秒) 短縮率(%) 術前10 m歩行(秒) 術後10 m歩行(秒) 短縮率(%) 術前トレッドミル(m) 術後トレッドミル(m) 延長(倍) 術前活動時NRS 術後活動時NRS
症例1
72歳
馬尾型 90.0 37.2 59 61 28.4 53 52 120 2.3 9 9
症例2
57歳
神経根型 13.5 9.5 30 13.9 9.9 29 50 100 2.0 6 2.5
症例3
84歳
混合型 10.3 8.9 14 10.5 8.8 16 30 100 3.3 9 7
症例4
85歳
混合型 16.2 9.4 42 15.4 9.5 38 40 150 3.75 9 5

症例4で試験刺激直後にSCS植え込み術を行った.症例1は本人の希望で植え込み術を行わなかった.また,症例2は試験刺激期間中の運動療法が奏効し痛みの改善が得られたため,SCS植え込み術を行わなかった.症例3は試験刺激により患者の活動性が亢進したため狭心症発作が出現し,内科での精査を優先したためSCS植え込み術は行わずに経過観察中である.

III 考察

腰部脊柱管狭窄症有病率は高齢者の10%程度と報告されている.現時点の国内有病者数は580万人と推定され今後も増加すると考えられる1).本疾患は,脊柱管・椎間孔の狭小化により脊髄馬尾神経の圧迫や血流不全が起こり腰下肢痛や間欠跛行を呈す疾患である.前屈位や座位,あるいは安静臥床時には症状が軽快することがその特徴としてあげられる2)

初期のLSCでは薬物療法などの保存治療が原則であり,症状が軽度から中等度の場合は保存療法で70%程度の患者が有効であったと報告されている2).また,保存療法が無効の場合には,手術治療が推奨され,不安定性のない症例への除圧術の2年成績は保存治療よりも高い2).一方で,画像所見が乏しい場合や除圧術後の症状残存に対し整形外科手術の適応外である場合はSCSが選択されることがある.

SCSは神経障害性疼痛に効果が認められており,とくに腰椎手術後症候群に関しては保存療法や再手術療法よりも痛みの改善に優れていることが示されている3,4).その機序として,後索の逆行性刺激による脊髄後角抑制性介在神経の興奮による疼痛改善効果や順行性刺激による吻側延髄腹内側部(RVM)などの脳幹への刺激による下行性抑制系の賦活化および逆行性の感覚神経刺激による神経末端での血管拡張物質の放出による微小血流改善効果が示されている5,6).しかし,前述のようにLCSは安静時に症状が改善することから,SCS試験刺激中の効果判定は入院中に運動を行わない限り難しい.今回報告した4症例は全てSCSによりTUGや10 m歩行時間の短縮と歩行距離の延長が認められた.これらの効果は,SCSの神経障害性疼痛に対する効果と馬尾神経に対する血流改善効果双方によって得られたと推測した.

TUGは,立ち上がる,歩く,方向転換をする,座位に戻るという複数の課題動作を連続して遂行できることが必要とされ,機能的動的バランスの評価に使用される.13.5秒以上で転倒リスクが,30秒以上で起居動作や日常生活動作に介助を要するとされている7).また,10 m歩行テストは歩行速度を測定する評価方法で,高齢者のリハビリテーションで幅広く使用されている.とくに最大10 m歩行速度は屋内外での歩行自立や転倒リスクの判断基準として使用されている8).最大速度は1.2 m/秒以上で独歩自立の割合が高く,1.0 m/秒未満では要介護の割合や転倒リスクが高くなるとされている.また,トレッドミル検査は間欠跛行の程度を計測することができる.これらの指標を試験刺激中に確認することでSCS植え込み後にどの程度の活動が可能かを予測できると考えられた.これまでのSCSの関する文献は,痛みの視覚的アナログスケールや患者満足度のような,疼痛緩和の患者ベースの効果尺度を用いており主観的評価が中心である9).これに加えて運動機能の測定を行うことにより,SCS植え込み術の重要な目的である日常生活動作改善の程度が定量化される.よって試験刺激中に客観的指標による評価も取り入れるべきであると考える.

一方で症例1では主観的・客観的評価に乖離がみられた.本症例では客観的評価の意味が正確に理解できず,未診断であったが認知に問題があると考えられた.本疾患は高齢患者が多く,認知機能が衰えている可能性を考慮する必要がある.他方で,認知に問題がない場合でも両者の評価に乖離が生じる場合もあり得るため,今後も慎重な評価と植え込み術に至る基準の確立が必要であろう.

SCS試験刺激中の短期間の効果判定基準は定まっていない.しかし,SCS試験刺激期間中の運動機能測定は客観的評価法として,患者本人とその家族・医療者が共有できる指標となり得る.

IV まとめ

LCSの4症例に対してSCS試験刺激前後に主観的疼痛評価と客観的運動機能評価を行った.運動機能はSCS試験刺激の評価法として有用であると考えられた.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第52回大会(2018年7月,東京)において発表した.

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