Journal of Japan Society of Pain Clinicians
Online ISSN : 1884-1791
Print ISSN : 1340-4903
ISSN-L : 1340-4903
Spinal cord stimulation for pain treatment of arteriosclerosis obliterans in a patient with cardiac pacemaker
Akihiro OTSUKIYuki ADACHIHiroyuki MINATORyo ENDOAki AOKIYoshimi INAGAKI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 27 Issue 1 Pages 39-42

Details
Abstract

心臓ペースメーカ(PM)移植後では,脊髄刺激療法(SCS)による誤作動が懸念される.今回,PM移植後の患者で安静時疼痛を伴う閉塞性動脈硬化症に対して,安全性に留意してSCSを実施し,疼痛緩和が得られた症例を経験したので報告する.症例は70歳代の女性で,下肢動脈狭窄に対し7回の血行再建術を施行するも痛みが続くためSCSを希望された.初診時の両下肢痛は安静時NRSで7/10であった.PM移植後であり,SCSによる誤作動がないことを確認する必要があった.PMをVVIモードでオールペーシングとし,刺激電極の位置,刺激強度,刺激周波数,PMの感度を調整しながら,機器間の相互作用がないことを確認した後,刺激を開始した.下肢痛は徐々に改善したが,PMの誤作動は確認されなかった.電極留置後7日目に刺激装置を植込み,11日目に自宅退院とした.退院時の下肢痛は,NRSで4/10まで低下した.PMとSCSの機器相互作用の要因として,脊髄刺激の位置,強度,周波数やPMの感度,モノポーラーなどがあげられる.パラメーターを調整しながら注意深く刺激電極を留置することで,PM留置後でもSCSが実施可能であった.

I はじめに

閉塞性動脈硬化症(ASO)の治療として運動療法と薬物療法,血管内治療による血行再建術や外科的なバイパス術が行われるが,難治性疼痛に対して脊髄刺激療法(spinal cord stimulation:SCS)も一つの選択肢となる.SCSは,末梢血管疾患による虚血性の痛みに対して効果があるといわれるが1),ASO患者では,虚血性心疾患や脳血管を合併することが多く2),抗血栓療法や人工透析を導入しているなど出血リスクが高い場合が多い.さらに不整脈に対して心臓ペースメーカ(PM)移植を行っている場合,PMの誤作動の可能性があることから,「ペインクリニック治療指針改定第5版」ではSCSを避けるとされていた3).今回,PM移植後の患者で安静時疼痛を伴うASOに対して,安全性に留意してSCSを実施し,疼痛緩和が得られた症例を経験したので報告する.

なお,本論文発表に際しては,患者から口頭で承諾を得た.

II 症例

患者:76歳,女性,身長139.4 cm,体重41.5 kg.

現病歴:73歳時よりASOに対して合計7回のステント治療およびpercutaneous transluminal balloon angioplastyを施行されたが両下肢痛が残存し薬物治療でも軽快しないため,SCSを希望され当科紹介となった.既往歴は,71歳からの糖尿病性腎症による維持透析と,75歳時の洞不全症候群に対する恒久PMの移植である.

初診時現症:安静時両下肢痛はnumerical rating scale(NRS)で7/10であり,アセトアミノフェン・トラマドール配合錠2錠/日の内服でも,長時間の歩行が困難な状況であった(フォンテイン分類III度).ペースメーカKORA250DRTM(Sorin,Milano,Italy)はDDIモード(back up rate 50 ppm)となっており,心電図では心拍数75/minの心房細動で,自己脈が大半であるため,PMへの依存は小さいと判断された.

治療経過:PMと脊髄刺激電極が互いに誤作動しないかを確認しながら脊髄刺激電極を留置するために,以下のような方法で刺激電極のトライアル留置を行った.最初にPMの誤作動が確認できるよう,VVIモード(back up rate 80 ppm,pacing rate)とした.PMのV sensing閾値は,自己脈のQRS波の電圧が12~14 mVであったことから,4~5 mVが適切と考えられたが,より鋭敏に感知されるよう2.5 mVとした.X線透視下に腹臥位で,左傍正中法でL2/3棘突起間から硬膜外穿刺を行い,脊髄刺激電極AvistaTM MRIリード(Boston Scientific Corporation,Valencia,CA,USA)を挿入した.刺激電極先端を治療上脊髄刺激電極が留置される最大高と考えられるTh8中央部に進め,パルス幅を210 µm,刺激周波数を5 Hzとし脊髄刺激を開始した.出力を徐々に8 mAまで上昇させたとき,心電図上でPM波形が変化せず維持され,自己脈が出現しないことを確認した.さらに,脊髄刺激電極の刺激周波数を40 Hzと100 Hzに変更して,同様に心電図が変化しないことを確認した.次にPM電極に最も近接すると思われるTh6まで脊髄刺激電極を高位に上げて,刺激電極の刺激周波数を5,20,40,80,100 Hzへ漸増し,出力を10 mAまで上昇させた場合でも,同様に心電図が変化しないことを確認した.最後に,PMのV sensingを最低値である1.0 mVに変更し,かつユニポーラー設定の場合でも同様に心電図が変化しないことを確認した.このことから,PMとSCS間で機器相互作用はないと判断した.その後,さらにL1/2より電極を1本挿入して,下肢にパレステジアが広がるTh9/10に刺激電極先端を留置した.病棟に帰室後に最大8 mA,40 Hz,35%の条件で刺激を開始し,両膝から両側踵に刺激があることを確認した.PMは術前と同じDDIモード(back up rate 50 ppm)の条件に復帰させた.刺激開始後,NRSは低下しなかったが,自覚症状として下肢痛は徐々に改善した.一方で,術後48時間にわたり心電図を持続的にモニターしたが,PMの誤作動は確認されなかった.トライアル開始7日目に,全身麻酔下に刺激装置Precision MontageTM MRI SCSシステム(Boston Scientific Corporation,Valencia,CA,USA)を右臀部に植込み後も合併症はみられなかった.植込み後2日目に24時間ホルター心電図検査を実施して,PMとSCSの機器相互作用がないことを確認した.植込み後4日目に自宅退院とした.退院時の下肢痛はNRSで4/10まで低下し,足がしびれて履けなかった靴が履けるようになった.

III 考察

SCSは,他の治療で奏効しない難治性疼痛に対して適応があり,腰下肢痛,複合性局所疼痛症候群,痛みを伴う末梢神経障害などの慢性疼痛症状の緩和においてますます重要な位置を占めるようになってきた4).重症下肢虚血に伴う痛みに対するSCS治療はエビデンスレベルも高く3),薬物治療や血行再建術のみで疼痛が改善しない場合の手段の一つとして考慮される.しかしながら,末梢血管に異常のある患者では,虚血性心疾患や脳血管障害に伴う抗血栓療法を行っていることが多く,神経ブロックなどの侵襲的な治療を適応することが困難である.本症例では,冠血管狭窄と中大脳動脈狭窄がありアスピリン治療を受けていた.硬膜外ブロックを行う場合,「抗血栓療法中の区域麻酔・神経ブロックガイドライン」では,アスピリンでは術前7日間の薬剤中止期間を設けるべきとしているが5),アスピリン単独では出血のリスクは低いとされている6).本症例では,維持透析中であり硬膜外穿刺による出血リスクは高いと考えられたが,脳梗塞の発症や虚血性心血管合併症の増悪,下肢血管狭窄の危険性も考慮して,手術当日のみアスピリンを休薬とし,非透析日に脊髄刺激電極留置を実施した.今回の治療では,合併症なく治療を完遂することができたが,安全性を勘案すれば十分な休薬期間を設けるべきであった可能性は残る.症例ごとに有益性とリスクを考慮して,抗血栓療法の中止期間やヘパリン置換を考慮するべきである.

末梢閉塞性動脈疾患における高い虚血性心疾患の合併のリスクは,同時にPM留置が必要な不整脈発症の危険因子になる可能性もあるため,本症例のようにPMとSCSの併用が必要となる症例も少なくないと予想される.しかしながら,SCSの刺激電流をPMが感知することでPMが抑制される懸念があるとする報告があることから7),PMとSCSの併用は避けるべきであるとされてきた.Romanóらは10例のPMとSCS併用例のうち,VVIモードでユニポーラー設定の1例でのみ,PMの誤作動がみられたと報告した8).PMの誤作動の原因は,SCSの刺激をPMが自己脈と認識するためにPMからの電気刺激が抑制されるためであり,機器相互作用の要因として,①SCSの出力(=パルス幅×刺激強度),②SCSの刺激周波数,③PMの感度,④PMとSCSの電極間距離がある.これらを抑制するための方策がいくつか考えられるが,Romanoらは以下の条件を満たせば,PMとSCSの併用は危険を伴うことなく行えると報告している9).それによれば,①バイポーラー電極を使用したSCSを使うこと,②バイポーラー電極が使えない場合は,機器相互作用が起こったら再プログラミングできるPMを使用すること,③電極の種類にかかわらず刺激条件はトライアルが終わってから決定し,条件を変えた場合は,継続的に心電図をモニターして機器相互作用がないことを確認すること,④SSTモードを避ける,などをあげている.これに加えて,Iyerらは,SCSの刺激電極とPMの電極をできるだけ距離を置いて留置すること,PMをバイポーラー設定で使用すること,PMが最も感度が高い状況でSCSによる干渉がないことを確認すること,なども指摘している10).本症例では,PMとSCSが最も機器相互作用を発生しやすい状況として,電極間距離をできるだけ近接させ,PMの電極をモノポーラーモードで感知閾値を最小にし,出力を実際に使用する場合の125%で,周波数を5~100 Hzに変えながら脊髄を刺激した.この条件で機器相互作用がないことを確認することで,実際の治療条件での安全性が担保されると考えた.さらに筆者らは,脊髄刺激電極留置後48時間の持続的な心電図モニタリングとジェネレーター留置後のホルター心電図で,機器相互作用がないことを確認した.

近年のPMやSCSの電極はバイポーラー電極が一般的であることから,両者の同時装着は十分可能であると考えられる.SCS留置時に適切にモニターすることで,機器相互作用なくバイポーラーリードのPM患者にSCS留置が可能であったとする複数の報告がある一方で,不整脈の検出や治療の実施などのPM機能に直接影響を与えたSCS症例は報告されていない11)

従来の周波数のSCS以上に疼痛緩和に優れているといわれている高周波SCS使用に関しても,PM併用の報告がある12).このように,PMとSCSの併用が可能という報告が多いが,やはり機器相互間作用の可能性は完全には払拭されない.それゆえ,刺激電極の挿入には危険が伴うことを考慮し,患者に十分な説明後に,パラメーターを調整しながら注意深く刺激電極を留置することが必要である.

IV 結論

PMとSCSにおける機器相互作用の要因として,各装置電極の位置,脊髄刺激の強度,周波数,PMの感度,モノポーラーなどがあげられる.パラメーターを調整しながら機器相互作用がないことを注意深く観察しながら,刺激電極を留置することで,PM留置後であってもSCSが実施可能であった.

文献
 
© 2020 Japan Society of Pain Clinicians
feedback
Top