Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2020 Volume 27 Issue 1 Pages 103-105

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I はじめに

上肢の手術でターニケットペインを末梢神経ブロックで管理する場合,腕神経叢領域だけでなく肋間上腕神経領域に対する神経ブロック法の選択が重要となる.われわれは超音波ガイド下による腋窩部での肋間上腕神経ブロック法(肋間上腕神経ブロック腋窩法)に注目した1,2)

本稿作成にあたっては本人に説明,文書にて同意を得た.

II 症例

患者は77歳の男性,身長159 cm,体重72 kg.路上で転倒し,右上肢を受傷.右上腕骨通顆骨折と診断され,ターニケットを用いた上腕骨遠位部骨接合術が予定された(図1①).

図1

間質性肺炎(画像)をもつ患者の上腕骨通顆骨折(画像)の手術で実施した超音波ガイド下神経ブロック(写真・画像)

①:整復前の画像(A:上腕骨,B:橈骨,C:尺骨)

②:術前のCT(computed tomography)画像(両側蜂巣状変化あり)

③:肋間上腕神経ブロックの体位(ボランティア)

④:③のエコー画像(A:腋窩動脈,B:大円筋,C:上腕二頭筋,D:烏口腕筋,a:正中神経,b:尺骨神経,c:橈骨神経,d:筋皮神経,矢印:穿刺針,矢頭:局所麻酔薬で液性剥離する部位,点線:広背筋腱)

既往歴に間質性肺炎(Hugh–Jones分類III,%VC=72,PaO2=81.9 mmHg,PaCO2=30.8 mmHg,内服はプレドニゾロン15 mg/日,タクロリムス2 mg/日)があり,術後の急性増悪を懸念し,麻酔は全身麻酔ではなく神経ブロック主体で実施した(図1②).

III 経過

超音波ガイド下腕神経叢ブロック鎖骨上法(エコー画面で第1肋骨と鎖骨下動脈と腕神経叢に囲まれた空間にのみ0.375%ロピバカイン20 mlを注入)を実施し骨折部の痛みを軽減させ,腋窩が開くよう上肢を外転し,超音波ガイド下肋間上腕神経ブロック(腋窩皮下組織と広背筋腱の間の上腕筋膜上に0.375%ロピバカイン5 mlを注入し,液性剥離を実施)を行った(図1③,④).超音波機器はGEヘルスケア社Venue50のリニアプローブ12L,針はビー・ブラウンエースクラップ社のスティムプレックスDニードル100 mmを使用した.C5~T1領域のcold signの低下を確認し,20分後に上腕部ターニケット加圧および手術が開始された.手術は内側上顆直上から10 cmほど遠位側に皮膚切開を加え,内・外側から各々スクリュー固定を実施.手術時間150分(ターニケット加圧時間は120分)であった.術中患者は痛みを訴えず,血圧・脈拍の著明な変動もなかった.

手術は問題なく終了し(cold signの低下はC5~T1),血圧,脈拍の上昇もなく,呼吸様相も良好で,指示動作も可能であったため帰室とした.術後12時間は追加鎮痛なしで痛みを訴えず,明らかなしびれや麻痺も認めなかった.

IV 考察

ターニケットペインは強い痛みを生じ,四肢の手術では加圧部位とその末梢側全体,中枢側にも十分な鎮痛が必要となる.中枢側への痛みは経過時間とともに広範囲となる3).とくに上肢では肋間上腕神経が関与する上腕腋窩内側部の鎮痛法が確立されておらず症例に応じた対策を講じる必要がある.

本症例では間質性肺炎があり,全身麻酔(それに伴う陽圧換気および高濃度酸素使用)や横隔神経麻痺を避け,かつターニケットペインに対して上肢全体の十分な鎮痛を提供する管理が求められた.われわれは末梢神経ブロックによる管理を計画し,超音波ガイド下で実施することで神経損傷や血管穿刺などの合併症を防止し,手技の正確性を高められると考えた1,2,4).腕神経叢ブロックは肩から手指までの広範囲を確実に鎮痛可能で,斜角筋間法より横隔神経麻痺の発生(「経過」で示した部位に限局して薬液を注入することでよりリスクが減少するとの報告あり)が少ないため鎖骨上法を選択した4).腋窩法,鎖骨下法では加圧部位より中枢側(内側上腕皮神経や鎖骨上神経領域)や手術部位である橈骨神経領域が鎮痛不十分となりやすく不適切と考えた.

肋間上腕神経は腋窩上腕内側部の感覚に関与し,追加で神経ブロックを行う必要があり,肋間上腕神経ブロック腋窩法は同神経が第2肋間神経外側皮枝から分枝し腋窩で内側上腕皮神経と合流する広背筋腱表層(上腕筋膜上)をターゲットとする1,2).さらに,超音波装置を用いることで,その層をより確実に液性剥離できるとされている2).Pecs II block(pectoral nerves II block)で同部位の鎮痛を実施した報告があるが,本法より気胸のリスクがあり局所麻酔薬の必要量が多くなるため選択しなかった5).肋間上腕神経ブロック腋窩法には超音波ガイド下手技と盲目的に腋窩部の皮下に腹側から背側の方向へ針を進め,針を抜きながら局所麻酔薬を注入するblind法がある.肋間上腕神経領域全体をより確実に鎮痛できるという文献よりわれわれは前者を選択した2)

今回,120分のターニケット加圧に,痛みを訴えず横隔神経麻痺や全身麻酔への移行もなく超音波ガイド下末梢神経ブロックによって肋間上腕神経の支配領域を含めた十分な鎮痛が得られ,上肢のターニケットペインに対して良好な管理ができたと考える.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第53回大会(2019年7月,熊本)において発表した.

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