Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2020 Volume 27 Issue 1 Pages 114-115

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I はじめに

プレガバリンは2010年に神経障害性疼痛へ適応となってから,ペインクリニック領域で広く使用されている薬剤である.今回プレガバリンの内服後に全身性の薬疹を発症し入院するに至った症例を経験したので報告する.

症例報告を行うことについて,患者本人に説明し同意を得ている.

II 症例

患者は78歳,男性.身長160 cm,体重72 kg.左特発性外転神経麻痺で当院神経内科より星状神経節ブロック治療を依頼され,当科通院中であった.神経内科ではプレドニゾロン10 mg,レバミピド,メコバラミンを処方されていた.

外来通院時に,両臀部,右大腿後面,下腿後面の痛みが増悪したことを訴え精査したところ,腰部MRIでL4/5/S1の脊柱管狭窄を認めた.プレガバリン(リリカ®OD)50 mg/日,セレコキシブ(セレコックス®)200 mg/日,の投与と1%メピバカインを用いた仙骨硬膜外ブロックを施行した.9日後の再診時も下肢の痛みが改善せず,プレガバリン100 mg/日へ増量した.

プレガバリン開始11日後に両側大腿内側に多形紅斑が出現,当院皮膚科紹介となった.薬疹と診断され,外用ステロイド薬処方と,プレドニゾロン以外の内服薬を中止し帰宅した.翌日に両手掌,両下腿,頭部まで多形紅斑が拡大し,発熱と倦怠感も訴えたため入院となった.入院後プレドニゾロン60 mg/日を開始し,第5病日に皮疹はほぼ消褪した.入院時の血液検査は,白血球10,200 µl,CRP 6.67 mg/dlと上昇していた.入院中に施行した薬剤誘発性リンパ球刺激試験(drug-induced lymphocyte stimulation test:DLST)では,セレコキシブ162%,プレガバリン172%,レバミピド171%,メコバラミン142%(正常値180%以下)と明らかな起因は認められなかった.その後はプレドニゾロンを漸減し,第14病日に退院となった.

退院後もプレドニゾロンの漸減を続け,皮膚症状,外転神経麻痺の症状も改善し2カ月後に投与終了した.皮疹はステロイドの内服で消褪したが,腰下肢痛は依然としてあった.整形外科にコンサルトを行い,退院3カ月後に整形外科でL4/5/S1開窓術を施行した.入院中に今後も使用する可能性のあるセレコキシブに対し内服テストを行ったが,皮疹の出現はなかった.術後経過は良好で,現在セレコキシブ内服のみで症状は落ち着いている.

III 考察

プレガバリンによる薬疹の報告は,海外では4例14),日本で3例57)であり,すべて神経障害性疼痛の治療に使用されたものであった(表1).皮疹出現までの期間は2週間前後が多く,プレガバリンの薬疹は細胞性免疫によるIV型アレルギーが関与しているものが多いと考えられた.Bamanikarが報告した症例は薬剤過敏症症候群を呈しており,治癒までに1カ月以上という重症薬疹であったが2),ほとんどの症例は原因薬剤の中止,ステロイドの使用1,2週間前後で回復していた.また皮疹の範囲は限局したものが多く,頭部から下腿にかけて全身性の多形紅斑を呈した症例は本例だけであった.

表1 プレガバリンによる薬疹の報告例
# 発表年 報告者 歳/性別 疾患 皮疹出現 投与量 皮膚症状 検査
1 2008 Smith1 36 F 頸部痛 2 W 不明 丘疹状紅斑 記載なし
2 2013 Bamanikar2 40 M 帯状疱疹後神経痛 2 W 300 mg 紫斑性皮疹 CRP↑
肝機能障害
3 2013 Burak3 48 M 多発性骨髄腫 2 M 300 mg 多形紅斑 記載なし
4 2013 吉岡5 44 M 交通事故後遺症 1 M 75 mg 多形紅斑 DLST(+)
5 2016 森岡6 67 M 腰痛 11 M 不明 多形紅斑 DLST(-)
6 2016 Inoue7 86 M 末梢性神経障害 2 W 不明 丘疹紅斑 DLST(+)
7 2019 Sahota4 37 M 下腿痛 2 W 不明 蕁麻疹 CRP↑

皮疹が発症した時点で内服していた薬剤は,当科よりプレガバリン,セレコキシブ,神経内科よりプレドニゾロン,レバミピド,メコバラミンであった.DLSTを施行したが陰性であった.DLSTは薬疹型により陽性率が異なっており,武藤らによると中毒性表皮壊死型皮疹61%,紅皮症型52%,Stevens-Johnson症候群48%,播種状紅斑丘疹型48%,多形紅斑型40%と述べている8).DLSTでは原因薬剤を特定できなかったが,セレコキシブ内服テストは陰性であること,レバミピド,メコバラミンは長期内服しており,発症11日前より内服を開始し直前に投与量を上げたプレガバリンが原因として強く疑われた.

今回は皮膚科医による迅速な診断と入院加療により皮膚症状の改善を行うことができ,重症薬疹に至ることはなかった.重症薬疹による死亡率は1~9%といわれている.プレガバリンもまれではあるが,全身性の重篤な薬疹が生じることがある.薬剤内容,投与期間にかかわらず,常に薬疹に関して注意を払う必要性があると考えられた.

本稿の要旨は,日本ペインクリニック学会第53回大会(2019年7月,熊本)で発表した.

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