Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Effects of continuous fentanyl infusion on postoperative analgesia in posterior lumbar decompression: a retrospective study
Tomoki NISHIYAMA
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2020 Volume 27 Issue 2 Pages 176-179

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Abstract

【目的】1–2椎間の腰椎後方除圧術の術後痛に対するフェンタニル(F)持続静注の効果をレトロスペクティブに検討した.【方法】1–2椎間の腰椎後方除圧術症例で,術後鎮痛にF持続静注を行った33例(F群)と,通常の疼痛時鎮痛のみ行った14例(対照群)をカルテより抽出した.フルルビプロフェン50 mgを麻酔導入時に,アセトアミノフェン1,000 mgを手術終了時に投与した.F群は手術終了時よりF 20 µg/時間,ドロペリドール0.2 mg/時間を24時間持続静注した.対照群では持続投与しなかった.術後鎮痛は,レスキューとしてvisual analogue scale(VAS,0~10)5以上で,鎮痛薬を投与した.【結果】VASは0(帰室直後)から30分までF群が対照群より有意に低かった.【結論】1–2椎間の腰椎後方除圧術の術後,F 20 µg/時間,ドロペリドール0.2 mg/時間持続静注は,吐き気,嘔吐,頭痛の頻度を増加させなかったが,術後30分までしか有意な鎮痛作用を示さなかった.

I はじめに

脊椎手術は術後痛が強く,鎮痛にさまざまな方法が用いられる.フェンタニル持続静注13),モルヒネ静注,モルヒネ髄腔内投与,ケタミン静注,局所麻酔薬の創部持続注入など4)が報告されているが,術式も効果も一定せず,確立した方法はまだない.脊椎手術は手術する椎弓数,術式によって術後痛が異なり術後鎮痛法は術式別に検討すべきである.今回は1–2椎間の腰椎後方除圧術に限定し,さらに術者,麻酔科医が同一の症例を選択し,その術後痛に対するフェンタニル持続静注の効果を後方視的に検討した.

II 対象と方法

対象:過去2年間に行われた同一術者による1–2椎間の腰椎後方除圧術で,著者が全身麻酔を担当したASAリスク分類IあるいはII,検討項目が全部電子カルテに記載されている,術後鎮痛にフェンタニル持続静注を行った33例(フェンタニル群)と,通常の疼痛時鎮痛のみを行った14例(対照群)をカルテより抽出した.なお対象期間の最初は通常の術後鎮痛のみを行っていたが,途中からさまざまな鎮痛法を行った関係で,対照群は初期の症例,フェンタニル群は後期の症例となっている.

方法:術前麻酔の説明時に発表の同意を得ており,院内倫理委員会の承認(002)を得ている.

麻酔はミダゾラム,プロポフォール,フェンタニルで導入,ベクロニウムで筋弛緩を得て気管挿管した.維持は酸素,空気,デスフルラン,レミフェンタニルで行い,フルルビプロフェン50 mgを麻酔導入時に,アセトアミノフェン1,000 mgを手術終了時に投与した.

フェンタニル群では手術終了時より,インフューザー(楽々フューザーFC-PCA3-LOT30,スミスメディカル,東京)を用いて,フェンタニル20 µg/時間,ドロペリドール0.2 mg/時間を24時間持続静注した.対照群では持続投与しなかった.術後鎮痛のプロトコールに従い,レスキューとしてvisual analogue scale(VAS,0~10)が5以上で,1:フルルビプロフェン50 mg静注,2:ジクロフェナック坐剤25~50 mg挿入,3:ペンタゾシン15 mg静注を順にロックアウトタイム1時間で行った.

電子カルテの術後観察記録から,術後24時間の血圧,心拍数,呼吸数,酸素飽和度(SpO2),痛み(VAS 1~10),鎮痛薬使用回数,悪心,嘔吐,頭痛の有無を抽出して2群間で比較検討した.

統計処理は,χ2テスト(性別,椎間),factorial analysis of variance(ANOVA)(性別,椎間以外の背景因子,各パラメータ)で群間差の検定を行い,P<0.05で有意差ありとした.サンプルサイズ検定はpost-hocとしてG Power 3.1(キール大学,ドイツ)を用いて行い,effect size 0.25,α 0.05で計算した.

III 結果

サンプルサイズ検定でパワーは0.99であった.

対象の背景に有意差を認めなかった(表1).

表1 対象の背景
  対照群 フェンタニル群
年齢(歳) 64±15 65±15
性別(男/女) 6/8 22/12
身長(cm) 160±7 162±6
体重(kg) 61±6 64±5
手術時間(分) 79±14 75±9
1椎間/2椎間 7/7 20/14
出血量(ml) 78±15 72±18
フェンタニル(µg) 209±21 211±23
レミフェンタニル(mg) 0.35±0.022 0.34±0.019

平均±標準偏差あるいは人数

血圧,心拍数,呼吸数,SpO2は両群間に有意差を認めなかった.VASは0から30分までフェンタニル群が対照群より有意に低値を示した(図1).24時間の鎮痛薬投与回数は,対照群で4.5(中央値)(4~6:最小~最大)回,フェンタニル群で4(2~6)回と両群間に有意差を認めなかった.吐き気,嘔吐,頭痛は,対照群でおのおの5,3,3例,フェンタニル群で12,5,7例に認め,両群間に有意差を認めなかった.

図1

visual analogue scale

VAS:visual analogue scale,C:対照群,F:フェンタニル群,■:中央値,□:25%,75%パーセンタイル,バー:最大,最小,横軸の時間は分,hは時間,*:0分値に対してP<0.05,+:対照群に対してP<0.05

IV 考察

1–2椎間の腰椎後方除圧術の術後,フェンタニル20 µg/時間,ドロペリドール0.2 mg/時間持続静注は術後30分間のみ有意な鎮痛作用を示した.サンプルサイズ検定でパワーは0.99であることから30分以後に有意差がある可能性はきわめて少ない.したがってこの鎮痛法は術後30分という早期にのみ有効といえる.

フェンタニル持続静注はさまざまな手術の術後鎮痛に用いられ,フェンタニル単独では1 ng/mlの効果部位濃度が必要と報告されている5).Jinら6)は,薬物動態学に従い腹腔鏡下ロボット使用前立腺摘出術の術後鎮痛にフェンタニル20 µg/hを用い1時間後に10 µg/hに減量している.腹腔鏡下手術の術後はフェンタニル0.38 µg/kg/h以上で鎮痛が得られるが0.34 µg/kg/h以上では吐き気,嘔吐が増加する7).神立ら8)の検討では手術術式は不明だが,フェンタニル0.3~0.7 µg/kg/hで半数に十分な鎮痛が得られず,鎮静,呼吸抑制,嘔気・嘔吐などの副作用が多かった.青木ら9)はさまざまな手術の術後にフェンタニル0.6~0.7 µg/kg/hを用いたが,一部呼吸抑制が生じている.これらから術後痛に対するフェンタニル持続静注の投与量,効果,副作用はばらつきが大きく,効果より副作用のほうが強い印象を受ける.

脊椎手術では,頸椎手術後フェンタニル0.5 µg/kg/hでVAS 20~30/10010),腰椎後方固定術でフェンタニル1 µg/kg静注後15 µg/hでVAS 1~2/10を得ている1).Kimら11)の報告は脊椎固定術と形成術を合わせて検討しているが,フェンタニル12 µg/hでVAS 20~60/100,吐き気,嘔吐は66%に認められた.他にも脊椎固定術後フェンタニル10 µg/hでVAS 5~6/102),1椎間の固定術後フェンタニル0.125 µg/kg/hでnumerical rating scale(NRS)2~5/103)などの報告がみられるが,VAS 5/10(50/100)以上では決して満足な鎮痛とはいえない.しかしわれわれも30 µg/h以上では過鎮静や呼吸抑制が生じる症例がみられたことから,実際の臨床では投与量を20 µg/hに設定した症例が多かったために,今回は20 µg/hで検討した.フェンタニル投与量をµg/kg/hで設定するとフェンタニルのインフューザー充填が非常に面倒となり臨床にそぐわない.さらにµg/hの報告も多数認められる2,6,11)ことから,われわれはµg/hで投与している.

フェンタニル持続投与は対照群に比べて有意な鎮痛効果を術後30分間しか示さなかった.この理由を説明するべく考察は見つからないが,30分間だけの効果は臨床的に有用かどうか疑問が残る.脊椎手術後痛に対するフェンタニル持続投与の有用性に関しては,術式,年齢別で検討を行い,鎮痛効果と副作用を合わせた投与量の設定を行っていくべきと考えられた.

V 結論

1–2椎間の腰椎後方除圧術の術後,フェンタニル20 µg/時間,ドロペリドール0.2 mg/時間持続静注は,術後30分までしか有意な鎮痛作用を示さなかったが,吐き気,嘔吐,頭痛の頻度は増加しなかった.

本論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第53回大会(2019年7月,熊本)において発表した.

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