2020 Volume 27 Issue 2 Pages 194-201
中本達夫
関西医科大学麻酔科学講座
従来,体表ランドマークやX線透視下に行われてきた神経ブロックに,新たな選択肢として超音波診断装置(US)が登場してはや十余年.ベッドサイドで簡単に使用でき,特別な造影剤などを用いずとも薬液の広がりや血管の確認のできるUSの優位性から,瞬く間にペインクリニックでの神経ブロックの補助デバイスとして認知されてきた.果たして,これからの神経ブロックはX線透視下とUSガイド下のどちらが主流となるのであろうか?
慢性疼痛診療における神経ブロックの位置付けは,慢性疼痛の悪循環を断ち切り1),心身医学的アプローチや運動療法をよりスムースに導入するための環境づくりであると考える.すなわち,痛み診療を行ううえで身体と心にアプローチできるデバイスが重要であり,まさにUSは痛みを診て,治し,癒せるデバイスであると考える.以下に,その根拠を述べていきたい.
1.超音波で診る:色んなものがreal-timeに見えるんです
その名のとおり,USは診断装置であり,種々の疾患の診断目的に広く使用・普及してきた.実際,体表からは見えない,臓器や神経や血管,筋肉,靱帯,骨……これらの形態だけでなく,血流や動き,硬さを計測ができることもUSの圧倒的な利点である2–4).運動器の痛みを考えた際,痛みの原因となるのは骨膜・筋膜・腱・靱帯や関節包・滑液包,そしてこれらを取り巻く血流や神経である.
X線では骨以外の構造は明確には識別不可能である.造影剤を用いても,関節などの内腔のレリーフ像がみられるにすぎない.USではすべての描出評価が可能であるが,唯一脊柱管内など骨で囲まれた空間の評価については,現時点では明確な優位性は示せていない5).USではさらにこれらの動きが確認できるため,動作に伴う形態の変化や癒着によるentrap syndromeなどの診断が容易に可能である.
2.超音波で治す
実際に診断や治療目的に神経ブロックを行う場合,ペインクリニックでは図に示す多くのブロックを実施してきたが,現在では三叉神経節ブロックや内臓神経ブロック・上下腹神経叢ブロックといった内臓神経叢ブロックを除くほとんどが超音波ガイド下に実施可能である(図1).むしろ,神経そのものや周囲の血管などが直接描出可能な場合,より正確に短時間で施行可能なものも少なくない6).事実,X線透視下とUSガイド下での比較では腰椎椎間関節性疼痛に対する後枝内側枝ブロックや7),変形性膝関節症における膝神経ブロックでは8),有効性に有意差はなく,被ばくが生じないUSガイド下のほうがよりメリットが大きいとの報告がなされている.
超音波ガイド下手技の進歩に伴う実施可能ブロックの増加
疼痛診療に用いられる各種神経ブロックの多く(下線)が,超音波ガイド下手技の進歩により実施可能となってきた.
造影CTガイド下ブロックであれば解剖が詳細に分かり,薬液の広がりも視覚的に確認しやすいとの主張もあるが,特別な設備の必要性や実施の場所が限定されることを考えると,USの併用によって相補的な解剖学的情報が付加されることから,X線透視下ブロックをより安全なものとすることも可能である(図2).
各種イメージガイド下穿刺手技における特徴と併用メリット
X線透視やCTガイド下手技では被ばくや設備の問題があるが,超音波ガイドは移動可能で場所を選ばず,X線やCTとの併用による補完的メリットも大きい.
さらには,最も頻度の多いであろう疼痛として筋筋膜性疼痛があり,これに対していわゆるトリガーポイント注射と呼ばれる手技が頻用されるが,トリガーポイントとはどこであろうか? そのトリガーポイントに繰り返し同じように薬液の注入は行えているであろうか? USの使用により,これらの課題はすべて解決可能である.一般に,トリガーポイントと呼ばれる部位は筋膜や筋膜間と一致することが多く,US上,筋膜の肥厚像として捉えられ,筋膜の重積との表現での報告もある9).患者からトリガーポイントへの針の刺入や薬液注入に伴って再現痛が得られれば,USガイド下手技では確実に再現性をもって同様の手技を繰り返し行うことが可能である.
3.超音波で癒す
著者はこれまで十数年にわたって,USガイド下手技普及のためにハンズオンワークショップのインストラクターを行ってきた.多くの場合,大学生がその描出のモデルとして協力していただくことが多いが,国内外を問わず,高確率で超音波プローブをあてて走査していると眠りに落ちるのである(図3).超音波には,骨折などでの骨修復の賦活や血流増加による創傷治癒促進効果があるとの報告もあり10,11),今後の検証が必要ではあるが,超音波には心の癒し効果もあるのではと仮説を立てている.
超音波ガイド下神経ブロックワークショップでみられるモデルへの癒し効果
多くのモデルは超音波プローブ走査に伴って眠りに落ちる(モデルの同意を得て撮影).
少なくとも,USガイド下手技においては,診断や処置で得られた画像をリアルタイムに患者と共有でき,視覚的に患者自身の病態や治療手技を理解しやすい.つまり,安心を与えることができるのである.実際,ブロック部位と患者の体位の関係でUSのモニターを直視できない際に,head-mounted displayを患者に装着させて手技を観察しつつ所見を説明する試みをしているが,小中学生という通常であればブロック手技に抵抗を感じる世代の患者にも好評である(図4).
head mount displayを用いた超音波ガイド下インターベンション手技
患者にhead mount displayを装着させて超音波画像を術者と共有することで,手技の解説を行いつつ患者に安心を与えている(患者・保護者の同意を得て撮影).
4.結論
理解しやすい視覚的情報の共有が可能なUSによる癒し効果であると考えている.
これらのことから,患者を的確に診て・治し・癒せるUSガイド下での神経ブロックはX線透視下手技よりも優れている.
文献
1) Vlaeyen JW, Linton SJ. Fear-avoidance and its consequences in chronic musculoskeletal pain: a state of the art. Pain 2000; 85: 317–32.
2) Peng PW, Cheng P. Ultrasound-guided interventional procedures in pain medicine: a review of anatomy, sonoanatomy, and procedures. Part III: shoulder. Reg Anesth Pain Med 2011; 36: 592–605.
3) Strakowski JA. Ultrasound-Guided Peripheral Nerve Procedures. Phys Med Rehabil Clin N Am 2016; 27: 687–715.
4) Chang KV, Wu WT, Lew HL, et al. Ultrasound Imaging and Guided Injection for the Lateral and Posterior Hip. Am J Phys Med Rehabil 2018; 97: 285–91.
5) Martins PH, Costa FM, Lopes F, et al. Advanced MR Imaging and Ultrasound Fusion in Musculoskeletal Procedures. Magn Reson Imaging Clin N Am 2018; 26: 571–9.
6) Park KD, Lee WY, Nam SH, et al. Ultrasound-guided selective nerve root block versus fluoroscopy-guided interlaminar epidural block for the treatment of radicular pain in the lower cervical spine: a retrospective comparative study. J Ultrasound 2019; 22: 167–77.
7) Han SH, Park KD, Cho KR, et al. Ultrasound versus fluoroscopy-guided medial branch block for the treatment of lower lumbar facet joint pain: A retrospective comparative study. Medicine (Baltimore) 2017; 96: e6655.
8) Kim DH, Lee MS, Lee S, et al. A Prospective Randomized Comparison of the Efficacy of Ultrasound- vs Fluoroscopy-Guided Genicular Nerve Block for Chronic Knee Osteoarthritis. Pain Physician 2019; 22: 139–46.
9) Kumbhare D, Singh D, Rathbone HA, et al. Ultrasound-Guided Interventional Procedures: Myofascial Trigger Points With Structured Literature Review. Reg Anesth Pain Med 2017; 42: 407–12.
10) Erdogan O, Esen E. Biological aspects and clinical importance of ultrasound therapy in bone healing. J Ultrasound Med 2009; 28: 765–76.
11) Murphy CA, Houghton P, Brandys T, et al. The effect of 22.5 kHz low-frequency contact ultrasound debridement (LFCUD) on lower extremity wound healing for a vascular surgery population: A randomised controlled trial. Int Wound J 2018; 15: 460–72.
八反丸善康
東京慈恵会医科大学麻酔科学講座
神経ブロックはペインクリニシャンとして習得しておくべき必須の手技と考えられる1).周術期の超音波ガイド下神経ブロックの広がりに比較するとペインクリニック領域における普及はいまだに限定的である.透視下(もしくはブラインド)神経ブロックで十分,習得に時間がかかる,脊柱管に対するブロックには使用しにくい,(透視下と異なり)血管内注入を同定できないなどが理由にあげられる.
透視下,超音波ガイド下両者ともに利点と欠点があると考えられるが,1.機器の特性,2.手技,3.学習者にとっての3点について述べたい.
1.機器の特性
透視装置はフラットパネルタイプ,Cアームタイプなどがあり,手術室内に配置されハイブリッドORとして活用されることもある.機器そのものが高額である以外にも,大きさのために部屋を広く取る必要があること,壁の遮蔽,防護具,被曝量のモニタリングなどコストがかかる.部屋の使用には「枠」が必要であり,他科との調整が必要である.
超音波装置は小型化,軽量化が進み,持ち運びに適しているため使用する場所を選ばない.比較的安価で,被曝もないため透視装置が抱えているデメリットは超音波装置にはないといえる.
2.手技
透視下の手技は,骨と針との位置関係を把握しながら行う.造影剤の投与により目的の神経に針先が到達したかが分かる.しかし,いったん造影剤を投与すると画面に造影剤が残ることになるため,一発勝負の要素も強い.慎重に針を動かしたとしても神経を誤穿刺することがある.一方,超音波ガイド下は軟部組織を同定しながら針を進めることができる.神経や血管を把握しながら運針が可能なので誤穿刺のリスクは透視下よりも低いと考えられる.得られる画質が体型や骨の変形の影響を受けやすいこと,椎体の高位確認は難しいこと,血管内注入の把握が困難なことが今後の課題である.
透視下ブロックは神経根ブロックや交感神経節ブロックなどに使用されることが多いが,超音波ガイド下ブロックは今まで盲目的に行われていた星状神経節ブロック,頸神経叢ブロックなどのリスクが高い部位への手技,肩関節や膝関節への注入などの手技を可視化することができる.さらに,腰部神経根ブロックは透視下との組み合わせで被曝量を減少できることや2),適応は限定的だが腹腔神経叢ブロックなどの深部の交感神経節ブロックへの応用も報告3)されている.
3.学習環境
某通販サイトで「超音波ガイド下」,「透視下」と検索すると,超音波関連の書籍は多数表示されるものの透視下ブロック関連の書籍は2009年に発刊された書籍1冊のみだった(雑誌ペインクリニックには定期的に特集が組まれることがあり,日本発の英文の教科書が発売されている).また,救急現場においては以前からFAST(focused assessment with sonography for trauma)と呼ばれる迅速診断に超音波が使用され,麻酔科医にとっては中心静脈穿刺,心臓,気道,肺,眼の観察など必須の技術になりつつある4).麻酔科医がペインクリニックを学ぶ際に超音波装置は慣れ親しんだデバイスといえる.
厚生労働省のホームページ内にあるNDBオープンデータから5),全国の外来における神経ブロックの件数をまとめたものを示す(図1).年々ブロック件数は減っていっているのに対して地域の件数の格差は大きい.地域別にみても件数の減少は続いている.医師の考え方の違いの可能性もあり,施設が限定的になっていることが考えられる.
神経ブロック件数の変化
左:全国の外来神経ブロック数は毎年減少している.
右:都道府県別の上位3地域と下位3地域の件数から地域差が大きいことが分かる.
4.結論
超音波装置は疼痛部位の観察,診断,治療に使用できる汎用性の高いデバイスである.また,麻酔科領域でも頻用されるようになっているため使用に関して敷居が低い環境が整いつつある.手技を超音波ガイド下に行い,透視下に確認することで,深部のブロックにも適応を広げることができる.デバイスの進歩や臨床研究により,超音波装置の仕様がpain interventionのgold standardとなってくるだろう6).
謝辞
本内容は第53回ペインクリニック学会のPros Consで発表させていただいた.このような機会を与えてくださった大会長の熊本大学山本達郎先生,座長の東北大学山内正憲先生,獨協医科大学山口重樹先生に深謝いたします.
文献
1) Hopkins PM. Ultrasound guidance as a gold standard in regional anaesthesia. Br J Anaesth 2007; 98: 299–301.
2) Yang G, Liu J, Ma L, et al. Ultrasound-guided versus fluoroscopy-controlled lumbar transforaminal epidural injections: a prospective randomized clinical trial. Clin J Pain 2016; 32: 103–8.
3) Baig S, Moon JY, Shankar H. Review of Sympathetic blocks anatomy, sonoanatomy, evidence, and techniques. Reg Anesth Pain Med 2017; 42: 1–15.
4) Davinder R, Joseph R, Kain Z, et al. Impact assessment of perioerative point-of-care ultrasound training on anesthesiology residents. Anesthesiology 2015; 123: 670–82.
5) 厚生労働省ホームページNDBオープンデータ.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177182.html(参照2020–04–01).
6) Griffin J, Nicholls B. Ultrasound in regional anaesthesia. Anaesthesia 2010; 65 Suppl 1: 1–12.
高谷純司
明野中央病院ペインクリニック
神経ブロックは,X線透視(透視)でしか,あるいは超音波でしかできない種類もあるが,それぞれの長所から,どちらでも可能な神経ブロックも多数ある.したがって透視と超音波を併用したいが,もし二者択一ならば,慢性疼痛治療では私は迷わず透視を選ぶ.その理由は,神経ブロックの優先順位である.
*神経根は末梢神経に分類されるが,本稿では神経根ブロックなどを中枢側≒深部のブロックに含めて説明する.
1.疼痛部位による優先順位
身体のあらゆる部位は,三叉神経ブロックと硬膜外ブロックで知覚遮断できる.また,交感神経依存性疼痛は硬膜外や星状神経節のブロックでよい.神経ブロックの選択順を考察する.
三叉神経ブロックでは,まずランドマーク法で頤神経などの末梢枝を狙う.無効なら透視でより深部にある下顎神経や三叉神経節のブロックを行う.表在の末梢枝ブロックでは,超音波で頤孔などのメルクマルを確実に観察できる1).しかし私はランドマーク法で行っている.成功率の高さ,合併症の少なさ,所要時間の短さにおいて,臨床上十分だからである.下顎神経や三叉神経節ブロックでは,神経は骨に囲まれているので透視が良い適応である.近年はこれらを超音波で行う方法も報告されているが2),その技術的な是非は十分に評価されていない.以上より,三叉神経領域のブロックを網羅するには,透視は必須で,超音波はときに有用である.
次に,硬膜外ブロックなど椎体近傍で行う手技について考える.目的の神経は骨格の周囲にあるので,やはり透視が有用であるが,ランドマーク法で可能なものもある.選択的神経根部ブロックには画像装置が必須である.抗血栓療法のためこれらが適応外の場合には,代わりにより末梢でのブロックを考慮する.超音波は出血リスクを減少させ得るが,これをもって透視よりも超音波が優れると誤解してはならない.この状況で末梢のブロックはそもそも次善策だからである.
末梢神経については,細く走行に個体差があることは,ブロックをするうえで無視できない.そのためランドマーク法よりも,神経を観察する超音波法が理にかなっている.
以上から,神経ブロックと画像装置を選択する順番は,第一に三叉神経末梢枝や硬膜外ブロックなどで,これらはランドマーク法で十分である.第二に神経根ブロックなどで,これは透視が適切である.そのあとに考慮するのが末梢神経ブロックで,これは超音波が有用である.
2.記録の質から考える優先順位
当院では整形外科医と情報を共有する.例えばMRIで頸部脊柱管狭窄を示した患者が,手術を前提とした高位診断のため当科に紹介され,頸部神経根ブロックを受ける場合を説明する.私は血管誤穿刺を避けるために超音波で行い,続いて造影し透視画像を保存する.その手間をかける理由は,ブロックした高位が計画どおりか,隣接する神経根まで薬液が浸潤していないかを客観的に示すためである.紙カルテでの他人が読めない汚い字と同様に,他人が理解できない画像は,patient recordとしての役割を果たさない.この点で透視は有利である.
3.ガイドラインから考える優先順位
慢性疼痛治療ガイドライン3)とペインクリニック治療指針4)から,それぞれの頻度を考察してみた(表1).「透視なしでは難しい」という含みがある左の群には中枢側≒深部の手技がある.対して右の群には「超音波でも可能な」末梢側≒浅部の手技がある.ガイドラインの推奨度と慢性疼痛へのエビデンスからも,透視を選択するという答えとなる.
X線透視 | 超音波 |
---|---|
神経根 経椎間孔 三叉神経節 上・下顎神経 胸・腰部交感神経節 腹腔神経叢 下腸間膜動脈神経叢 上下腹神経叢 不対神経節 |
三叉神経末梢枝 腕神経叢 星状神経節 頸神経叢 神経根 上肢の末梢神経 硬膜外 胸部傍脊椎神経 肋間神経 |
4.結論
慢性疼痛治療における神経ブロックでは,小技の多彩さではなく,治療に有効である点が重要である.したがって,それらの手技を可能にするX線透視が第一選択になる.
文献
1) Laher AE, Mahomed Z. The ultrasonographic determination of the position of the mental foramen and its relation to the mandibular premolar teeth. Acta Medica Academica 2016; 45: 51–60.
2) Nader A, Bendok BR, Prine JJ, et al. Ultrasound-Guided Pulsed Radiofrequency Application via the Pterygopalatine Fossa: A Practical Approach to Treat Refractory Trigeminal Neuralgia. Pain Physician 2015; 18: E411–5.
3) 厚生労働行政推進調査事業費補助金慢性の痛み政策研究事業「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班監修,慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ編集.慢性疼痛治療ガイドライン.東京,真興交易医書出版部,2018.
4) 日本ペインクリニック学会治療指針検討委員会編集.ペインクリニック治療指針.東京,真興交易医書出版部,2018.
田代章悟
鹿児島大学病院麻酔科
透視下神経ブロックを客観的に評価し,その魅力を粛々と伝えたい.
1.透視下神経ブロックの伝承
透視下神経ブロックの歴史は長く,さまざまな試みが行われ,膨大な実績と高い治療効果を積み重ねてきた.その確立された手技体系は安全性と確実性に優れ,今もなお神経ブロックのなかで重要な位置を占めている.筆者が以前所属していたNTT東日本関東病院ペインクリニック科では,その素晴らしい透視下神経ブロックの伝統と実績を目の当たりにし,実際にさまざまな透視下神経ブロックを行ってきた.そのような経験から,必要不可欠な治療手段であると実感するとともに,今後も透視下神経ブロックを着実に伝承していく必要性があると強く考える.
2.透視下神経ブロックの特徴
透視下神経ブロックでは,椎体や肋骨,卵円孔,椎間関節などの描出が明瞭であり,かつ,解剖学的同定に優れるため,ブロック針の穿刺位置や最終到達位置の確認や決定に有用である.また,針の描出においては,浅部から深部まで,初心者から上達者まで,どのような条件下でも明瞭に描出できるため,大きな特徴といえる.このように,明瞭な骨とブロック針の描出のもと,即時にそれらの位置関係も確認できるため,確実な運針が可能になる.さらに,造影剤の注入によって,その広がりを即時に可視化できるため,注入量の決定や,目的とするコンパートメント内や関節内へ確実に注入されているかの確認,血管内注入の確認などのさまざまな情報取得や判断を行うことが可能である.これらの利点は,神経ブロックの安全性と確実性を高めるだけではなく,超音波ガイド下神経ブロックに対しても高い優位性を誇る.とくにブロック針描出では,超音波ガイド下で初心者が苦労し,上達者でも深部アプローチでようやく描出できる点を,透視下では誰でもトレーニングなしにいとも簡単に描出することができる.それは,初心者にとって神経ブロック入門の大きな一助であり,深部の神経ブロックにおいては圧倒的に有利である.
3.X線被曝
一方,透視下神経ブロックの問題点としてはX線による被曝がある.対応としては,さまざまなX線遮蔽用品を身体に装着し,アンダーチューブ下に照射を必要最小限の範囲に絞った状態で間欠的に行い,さらにペアンなどでブロック針を保持することで,被曝量を大幅に減らすことが可能になる.このように問題点に対応すれば,透視下の利点を最大限に活かしたより安全かつ確実な神経ブロックが可能になる.
4.透視下神経ブロック各論
透視下神経ブロックのなかでも,難易度の高いガッセル神経節ブロックや胸腰部交感神経節ブロック,腹腔神経叢ブロック,神経根ブロック(C3–8以外)はまさに利点を最大限に活かした神経ブロックであり,透視下でなければ施行は不可能である.近年,超音波ガイド下にそれらの神経ブロックを施行できたという報告もあるが,いずれも深部のアプローチであるためブロック針の描出においては安全性や確実性に欠ける.また,最終的に高位同定や造影剤注入による情報取得目的に透視下を併用するのであれば,あえて超音波ガイド下で施行する必要性を感じない.頸部神経根ブロック(C3–8)や椎間関節ブロック,肋間神経ブロックにおいては,近年,超音波ガイド下での施行頻度が高いが,やはり高位同定が必須であるため最終的に透視下に頼らざるを得ない.また,ブロック針先端が薬液を確実に目的部位に注入できる位置であるかの判断に関しても,造影剤注入によって得られる情報に勝るものはない.以上のように,脳神経や,神経根と肋間神経を含む脊髄レベル,脊椎レベルの中枢アプローチでは,ほとんどの場合において透視下に大きな利点があると考える.それ以外の神経である末梢神経においては,元来,ランドマーク法による手技が用いられていたが,確実性に欠け血管や神経穿刺のリスクも常にあるため,超音波ガイド下にその立場を奪われたのは自然の流れである.以前は,ほとんどの場合,前述の中枢アプローチは透視下法で,末梢アプローチはランドマーク法で行うというようにすみ分けられていた.そのような流れで,超音波ガイド下が台頭した現在も,透視下にとって末梢神経はターゲットではないし,そもそも透視下のように骨をメルクマールにする手技は末梢アプローチに適さない.つまり,超音波ガイド下との末梢神経ブロックにおける優位性の議論は意味をなさない.
5.透視下神経ブロックの発展
このように透視下神経ブロックが伝承すべき素晴らしい手技であることを述べてきたが,さらにわれわれは発展させることも必要と考える.その一つが透視下と超音波ガイド下の利点を融合した方法であり,確実性のみならず,透視下の問題点である血管や神経穿刺のリスクと被曝量を低減できる.近年,高周波パルス法が発展しさまざまな神経ブロックに応用することで高い効果を認めるが,頸部神経根パルス高周波や肋間神経パルス高周波においては,透視下と超音波ガイド下の併用は有用である.頸部神経根や肋間神経のように比較的浅部のターゲットに対する超音波ガイド下では,ブロック針の明瞭な描出が可能であり,神経穿刺を伴うことなくより神経に近接した位置にまでブロック針を誘導することができる.その際に知覚神経刺激を用いるとさらに有用である.高位同定および造影剤による情報取得で利点のある透視下に,適宜,超音波ガイド下を併用することで,より安全性と確実性を高めることが可能になる.このように,透視下神経ブロックの発展において超音波装置の積極的な導入が必要であることは否めない.また,近年の試みの一つとして,傍正中型や椎間孔型の頸椎椎間板ヘルニアによる神経根症状に対して,従来の硬膜外カテーテル留置を応用した神経根へのアプローチを行っている(図1).経椎弓間アプローチにて硬膜外針を硬膜外腔に到達させ,カテーテルを留置することはこれまでと同様だが,カテーテルの誘導では,先端をターゲットである神経根の走行する椎間孔レベルに進める.その際にカテーテル先端の物理的な刺激で疼痛部位へのパレステジアが得られることも多い.その位置で造影すると,カテーテル先端に近接した造影剤の広がりが不良な部位を確認できるが,その部位がまさにヘルニアによる神経根圧迫部位である.真の神経根アプローチといえ,ドラッグデリバリーとしても最も適していると考える.その位置で生理食塩水による洗浄や局所麻酔薬とステロイドの混合液(総量1 ml程度)の注入を行うことで,通常の神経根ブロックでは効果が低い症例でも高い効果を認めることが多い.注入後は1時間の安静を保ち,安静終了時にカテーテルを抜去している.透視下神経ブロックの発展において,新しい手技の開発も必要であるが,神経根アプローチのようにあくまでも確立された既存手技を応用し,さらに安全性と確実性を追求することが何より重要であると考える.それは温故知新の概念であり,一つの確実な伝承の形と考える.
Th1/2椎弓間からの硬膜外穿刺によるC6/7左椎間孔へのカテーテル留置
カテーテル先端に近接した造影剤の途絶した部位がヘルニアによる神経根圧迫部位と考えられる(左,中).脊髄イメージの重ね合わせ(右).
6.まとめ
今回,透視下派として,透視下神経ブロックの利点を含めた絶対性,超音波ガイド下に対する優位性などを述べてきた.ペインクリニックの専門家であるならば透視下神経ブロックの手技獲得は当然であり,痛みからの開放のための大きな選択肢であることはいうまでもない.最後に,透視下神経ブロックは揺るぎのない素晴らしい治療手段であり,今後も着実に伝承され,さらに発展できる大きな可能性を秘めていると考える.
文献
1) 大瀬戸清茂.透視下神経ブロックについて~その有用性と展望.大瀬戸清茂編集.透視下神経ブロック法.東京,医学書院,2009, pp1–2.
2) 安部洋一郎.頸部神経根ブロック.ペインクリニック2013; 34: 359–66.