Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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2020 Volume 27 Issue 2 Pages 202-210

Details

日 時:2020年1月25日(土)

会 場:昭和大学上條記念館

会 長:信太賢治(昭和大学横浜市北部病院麻酔科)

■セッション1

1. 硬膜穿刺後頭痛(PDPH)を生じた術後患者にPL顆粒®が著効した2症例

里元麻衣子*1 長澤実佳*2 小澤純子*2 落合亮一*1

*1東邦大学医療センター大森病院,*2東京蒲田医療センター麻酔科

【はじめに】脊髄くも膜下麻酔後に硬膜穿刺後頭痛(post dural puncture headache:PDPH)はたびたび経験する合併症の一つである.今回,整形外科術後の患者2例が脊髄くも膜下麻酔後PDPHを発症した.カフェイン製剤の院内在庫はなく,PL顆粒®を処方したところ著効し,翌日退院可能となった.

【症例1】32歳の男性.右大腿部転子部骨折に対して観血的整復固定術が予定され脊髄くも膜下麻酔を計画した.腰椎3/4に25G Quinche針で穿刺した.術翌朝より頭痛とめまいがありPL顆粒3 g/日処方され,著効し翌日退院となった.

【症例2】41歳の女性.左母趾末節骨骨折の抜釘が予定された.腰椎3/4に25G Quinche針で穿刺した.翌朝より頭痛があり,念のためCT検査を行うも異常は指摘されず,退院が延期された.同日PL顆粒3 g/日処方され,著効し翌日退院となった.

【考察】PDPHの発症率は患者因子および穿刺手技により報告にばらつきがあるものの,脊髄くも膜下麻酔後のPDPHは3%以下である.今回の症例は比較的年齢の若い男性と女性であるが,女性は観血的整復固定術時に同じ穿刺針で脊髄くも膜下麻酔を受け,頭痛を発症していない.両患者も穿刺は1回で神経症状は認めなかった.PDPHは硬膜穿刺後72時間以内に起こり加療を行わなくても1週間で軽快する場合が多く,別原因の頭痛を除外しなくてはいけない.中等度のPDPHに関して保守的な治療法はカフェインと鎮痛薬の経口投与で,中等度以上から高度のPDPHには頭痛が24時間続く場合に硬膜外ブラッドパッチが勧められ,有効度はGrade1Bである.経口カフェインは副作用が少なく使用頻度が高い.また,経口鎮痛薬はPDPHの症状緩和目的のために使用される.今回,施設にカフェイン単剤の在庫がないことから,PLを処方する経緯になった.しかしながら米国において,アセトアミノフェン−カフェイン合剤がPDPHの薬物療法として使用されており,PL製剤の成分はカフェインとアセトアミノフェンに抗ヒスタミン薬からなりPDPHの加療に適していると考えられる.

2. 頸椎神経根症の精査でPancoast腫瘍と診断された1例

荒川恭佑 上島賢哉 萩原信太郎 林 摩耶 中川雅之 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】頸椎神経根症を呈する鑑別疾患の中には,Pancoast腫瘍として知られている肺尖部腫瘍がある.今回,頸椎術後も続く頸椎症性神経根症としての治療経過中に発見されたPancoast腫瘍の症例を経験したので報告する.

【症例】77歳男性.潰瘍性大腸炎に対して内服加療中,40本/日の喫煙歴あり.X−3年ごろから右上肢の痛みとしびれの症状があり,頸椎症性神経根症として近医ペインクリニック科通院していたが,症状の改善が乏しかったため,X−6カ月に右C6/7内視鏡下除圧術を施行された.しかし,症状の改善がなくX年に当科紹介受診となった.受診時は強い右肩甲間部痛および右C8症状を認め,超音波ガイド下やX線透視下の右C8神経根ブロック治療および頸椎椎間関節ブロック治療を数回施行した.それでも症状改善しないため頸椎MRIを撮像したが,右C8神経根症の原因ははっきりしなかった.X+6カ月に血液検査でCRPとWBCの上昇を認めたため,頸椎の感染症を疑い,下位頸椎を中心に造影MRIを撮像したところ,右肺尖部に腫瘤性病変を認め,Pancoast腫瘍を疑った.当院呼吸器内科に紹介し,非小細胞肺がんと診断され,化学療法目的に近医へ転院となった.

【考察】Pancoast腫瘍は頸椎症性神経根症と誤診されやすいことで知られている.本症例も頸椎術後も続く頸椎症性神経根症として加療しており,経過中に頸椎MRIを2回撮像していたが肺尖部病変を指摘することはできなかった.Pancoast腫瘍は解剖学的位置関係からC8やT1神経根症状を呈することが多く,下位の頸椎神経根症の鑑別として常に念頭に置く必要がある.

【結語】頸椎術後も続く頸椎症性神経根症としての加療中にPancoast腫瘍と診断された症例を経験した.とくに下位頸椎神経根症では本疾患を念頭に置くことが重要である.

3. 作業療法により疼痛改善が得られた青年期発症の難治性複合性局所疼痛症候群の1症例

荒井 梓 加藤 実 岩佐亜矢 菅谷奈未 松井美貴 鈴木孝浩

日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野

種々の治療が無効で2年の経過を経た青年期の下肢複合性局所疼痛症候群(CRPS)に対し,作業療法が著効し鎮痛と日常生活の改善を認めた1症例を経験したので報告する.

患者は17歳女性,当院受診(X)−2年に左足関節を捻挫した.近医整形外科に通院し,約半年電気治療を行うも痛みは持続していた.X−1年には足の皮膚温低下,腰痛,食欲不振も認め,他院整形外科を受診し,CRPSの疑いで薬物療法や微小血管塞栓術を行うも無効であった.X−5カ月には他医で光線療法を行うも効果を認めず,原因不明の慢性痛として当院痛みセンターを紹介受診した.初診時には左下肢に電気が走るような痛みを認め,安静時NRSは3,発作時は8であり,硬性サポーターを使用して下肢を防御していた.左足関節周囲の触覚過敏とアロディニア,皮膚発赤,発汗低下,関節の可動域制限よりCRPSと診断した.治療経緯で薬物療法が無効であったことから判断し,若年者CRPSに有効性が得られやすい作業療法を開始した.当科でも3カ月ごとの外来診察は続けたが,治療の中心は作業療法であり,外来ではリハビリの進捗状況や疼痛・日常生活の改善度の確認を行うのみであった.患者は痛みに対しての不安は強かったが,大学生活にむけて疼痛改善を切望しており,自宅でも積極的にリハビリを行う姿を確認できた.その結果,X+5カ月には触覚過敏とアロディニア,安静時・発作時の痛みの軽減を認め,自宅で硬性装具を外すことが可能となった.X+6カ月には足関節のテーピングのみで通常速度での歩行が可能となった.疼痛改善,自発的なリハビリの継続により,X+8カ月には作業療法を終了できた.

経験的に小児のCRPSでは薬物治療は無効である一方,作業療法が奏効する場合が多い.本症例のような青年期に発症したCRPSでも作業療法の有用性が示唆された.

4. 抗がん剤後の末梢神経障害性疼痛は,温める? 冷やす? 冷やすことが著効した症例

権藤栄蔵 田邉 豊 天野功二郎 宮崎里佳 中村尊子 吉川晶子

順天堂大学医学部附属練馬病院麻酔科・ペインクリニック

抗がん剤に伴う末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropath:CIPN)による痛みは,治療に苦慮し非常に難治性である.症状の緩和に対し,温めることが以前から推奨されているが,近年,冷やす方が良いとする報告もされている.今回,すい臓がん患者の抗がん剤治療後に生じた末梢神経障害性疼痛症例で冷やすことで,痛みの軽減に良い効果が得られた症例を経験したので報告する.

【症例】60歳,女性.

【主訴】両手の痛み・しびれ感.

【現病歴】膵体部がん,stage IV,肺転移と診断され,受診8カ月前にイリノテカンが投与された.その後,オキサリプラチンに変更となり,そのころより両手の痛み・しびれ感が出現し増強するため当科に紹介受診となった.

【現症】両手の突き刺さる,皮膚が剥けるような痛み.夜間も痛くて不眠.アロディニアなし,低感覚あり.夜は温めるため手袋をしている.冷蔵庫の中に手は入れられない.NRS 8.両足にも同症状があるが,両手の方がつらい.オキシコドン10 mg/日,プレガバリン200 mg/日の効果は不明.

【既往歴】高血圧,糖尿病.

【治療経過】冷やしてみることを勧め,クロナゼパム0.5 mg寝る前の服用を開始した.受診1週間後,NRS 5となり「冷やすのが最高」と言われ,夜間良眠が得られた.オキシコドンとプレガバリンは減量が可能となった.その後,ステンレスを触ると気持ちよく,冷やすと楽でADLも向上し,手袋を工夫するなど常時,手を冷やすようになっていった.

【まとめ】CIPNによる痛みに対し冷やすことが著効した症例を経験した.CIPNの痛みは,非常に難治でありADLに支障が生じている患者は少なくない.温める,冷やすかどちらが良いか明確なエビデンスはない.文献的考察を含め報告し,先生方の経験・意見を伺いたい.

5. 前皮神経絞扼症候群に対して神経ブロックと薬物療法がそれぞれ著効した2症例

佐藤英恵 鈴木順子 岩澤雪乃 世戸克尚 後藤未織 鈴木孝浩

日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野

【はじめに】前皮神経絞扼症候群(ACNES)は,Th 7~12の肋間神経前皮枝が腹直筋を貫く部位で絞扼されることにより痛みを引き起こす疼痛症候群である.治療は神経ブロック療法が主で,絞扼部位を切除する手術療法が選択されることもある.今回,多発性のACNESに対し神経ブロックが有効であった症例と,抗血小板薬内服中のため施行した薬物療法が奏効した症例を経験したので報告する.

【症例提示】症例①:73歳男性,3カ月前から持続するVAS 100の右下腹部痛と歩行障害を訴え,当科を紹介受診した.右下腹部腹直筋外縁に限局する圧痛,Carnett徴候陽性を認めたため,ACNESを疑い,トリガーポイント注射を施行した.痛みは半減したが,すぐに再燃した.1週間後,エコーガイド下右腹直筋鞘ブロック(RSB)を行ったところ,VAS 26に痛みが軽快した.2年後,同部位に痛みが再燃したため,右RSBを再施行し軽快したが,左上腹部腹直筋外縁に限局する痛みを併発したため,左腹横筋膜面ブロック(TAPB)も合わせて施行した.右RSBと左TAPBを3回行い,PRS 2に改善したため終診となった.

症例②:79歳女性,6カ月前から左側臥位で誘発するVAS 42の左側腹部痛と睡眠障害を訴え,当科を紹介受診した.左下腹部腹直筋外縁に限局する圧痛,Carnett徴候陽性を認めたため,ACNESを疑った.右上腕動脈閉塞症でクロピトグレル内服中であったため,神経ブロック療法は行わず,プレガバリン25 mg/日の内服を開始した.1カ月間の内服でVAS 22まで痛みは軽快し,プレガバリン50 mg/日に増量したところ,睡眠障害も改善した.2カ月後,下腿浮腫出現のためプレガバリン25 mg/日に減量したが,痛みは再燃せずに経過している.

【考察】ACNESの治療には,絞扼部位への局所麻酔薬の注入が診断的治療となり得る.本症例①のように著効する症例も存在するため,局所注射が第一選択となる.しかし,本症例②のようにプレガバリンが著効したことから,神経障害性疼痛に対する薬物療法でもACNESの痛みを軽減できることが示唆された.

6. 脊髄損傷に伴う難治性下肢痛に対しCアームコーンビームCTを用い腹臥位で腰部交感神経節ブロックを施行した1症例

神崎正人 上島賢哉 荒川恭佑 林 千晴 萩原信太朗 林 麻耶 中川雅之 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】当院では通常,神経破壊薬を用いた腰部交感神経節ブロックはCアームX線透視下に側臥位で施行している.今回,側臥位の維持が困難な脊髄損傷患者の難治性下肢痛に対し,CアームコーンビームCTを用い腹臥位で腰部交感神経節ブロックを安全に施行できた1症例を経験したので報告する.

【症例】37歳女性,身長164 cm,体重40 kg.12年前交通事故で受傷し第1–3腰髄完全損傷と診断された.受傷2カ月後ごろより両膝全体に痛みを自覚した.内服加療されるも痛みは徐々に増強し耐えがたいほどになったため,受傷4年後に脊髄刺激装置植込み術が施行された.これにより痛みは一時的に軽減したが再燃したため,受傷9年後に当科を受診した.初診時両膝にNRS安静時4,体動時10の痛みを認め,下肢筋力は大腿四頭筋・腸腰筋で4/5,腓腹筋・前脛骨筋・長母趾伸筋・長母趾屈筋で2/5に低下していた.また,両下肢大腿部以下の知覚脱失と皮膚冷感を認めた.入院し腰部交感神経節ブロックを計画した.側臥位の維持が困難であり,電極リードが刺入方向にあったため,CアームコーンビームCTを用い腹臥位で施行した.CT画像で造影剤の広がりを確認後,第2–4腰椎レベルで無水エタノールを注入した.ブロック後合併症は認めず,両下肢の温感と痛みの半減を認めた.以後,疼痛増強時同処置を施行し,その都度痛みの軽減を認めている.

【考察】腰部交感神経節ブロックにおいてX線透視画像で造影剤が大腰筋内に流れる所見を呈すると神経破壊薬による腰神経叢の損傷をきたす可能性があるため,本所見の確認は重要である.本症例では造影剤投与後CT画像で針先の位置と薬液の広がりを確実に把握することで,同ブロックを腹臥位でも安全に施行することができた.

【結語】脊髄損傷に伴う難治性下肢痛に対し,CアームコーンビームCTを用いた腹臥位での腰部交感神経ブロックは安全かつ有効であった.

■ランチョンセミナー

ガバペンチノイドの神経障害性疼痛緩解作用メカニズム

田辺光男 尾山実砂 渡辺 俊

北里大学薬学部薬理学教室

神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改定第2版(2016年)の神経障害性疼痛薬物治療法アルゴリズムでは,ガバペンチノイドのプレガバリンとガバペンチンが第一選択薬に分類されている.プレガバリンは本邦において2010年に帯状疱疹後神経痛治療薬として承認後,2013年には神経障害性疼痛に適応拡大されているが,すでに発売から9年が経過している.そこに2019年4月,新たにミロガバリンが末梢性神経障害性疼痛を適応に承認発売され,神経障害性疼痛治療に使用されるガバペンチノイドに新たな選択肢が加わった.これらガバペンチノイドはGABAの構造類似体であるが,GABA受容体に親和性を持たず,電位依存性Ca2+チャネルのα2δサブユニットに特異的に結合することで神経障害性疼痛緩解作用を示すと考えられている.神経障害後に脊髄後角の一次求心性神経終末において増加したα2δサブユニットにガバペンチノイドが結合すると,過剰なグルタミン酸放出が抑制されて鎮痛効果につながる.一方,われわれは,ガバペンチノイドが上位中枢に作用して下行性ノルアドレナリン神経を脱抑制により活性化させ,脊髄内においてノルアドレナリン遊離を増加させてα2–アドレナリン受容体を介した鎮痛作用を示すことを明らかにしてきた.ガバペンチノイドのこの上位中枢を介する鎮痛作用もα2δサブユニットへの結合を必要としている.

本セミナーでは,α2δサブユニットを中心に神経障害性疼痛の発症メカニズムを振り返るとともに,ミロガバリンまで含めたガバペンチノイドによる上位中枢を介する下行性疼痛抑制系活性化による神経障害性疼痛緩解作用を行動薬理学的研究と電気生理学的研究により解説する.

■セッション2

1. 診断に難渋したリウマチ性多発筋痛症の1症例

林 千晴 上島賢哉 神崎正人 荒川恭佑 萩原信太郎 林 摩耶 中川雅之 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】頸部痛,腰下肢痛を主訴に当科を受診していたが,新たに両肩関節痛・両鼠径部痛が出現,頸部痛の増悪を呈した患者で診断に難渋した症例を経験したので報告する.

【症例】67歳男性.L4/5椎間板ヘルニアの複数回手術歴後も続く腰下肢痛と頸部痛,肩甲間部痛で当科を受診していたが,症状が軽快傾向にあったため自己中断していた.受診2カ月前よりの両肩関節痛,両頸部痛,両鼠径部痛を主訴に紹介受診となった.既往歴は双極性障害,右膝半月板損傷術後.現症NRS  9.BT 36.5℃.肩に夜間痛あり.歩行困難感を認めるが筋力低下なし.身体所見はJackson test+,Spurling test+.

【経過】採血では炎症反応上昇(CRP 14.4 mg/dl)と肝胆道系酵素上昇を呈した.現病歴の増悪や感染を疑い検査目的で緊急入院となった.画像所見では頸椎MRI,肩関節MRI,上腹部CT,腹部エコーで腫瘍性病変・炎症所見は認められなかった.股関節MRIでは大転子下に滑液包炎を認めたが有意な所見ではないとされた.その後血沈亢進を認めたため,膠原病の可能性を考え膠原病内科に紹介受診した.リウマチ性多発筋痛症疑いとして診断的治療に第8病日よりプレドニゾロン20 mgを内服開始したところ,NRSは9から5まで低下し第16病日に退院となった.退院後の経過は良好.

【考察】当初は現病の急性増悪を疑ったため,鑑別に至るまでに時間がかかった.リウマチ性多発筋痛症は中高年者に発症し,発熱や四肢近位部の疼痛を主訴とする炎症性疾患で診断基準として「Birdによる基準」が使用されるが,画像所見に乏しく特異的な症状は認められない.慢性疼痛患者の全身痛では既往症の増悪を疑いがちであるが,中高年者において炎症反応上昇や筋肉痛を認めた場合では膠原病疾患も鑑別にあげ,先入観にとらわれない診察が必要である.

2. 診断に難渋した乾癬性関節炎の1症例

湊 文昭 松原香名 山田寿彦 萩原信太郎 荒川恭佑 大岩彩乃 林 摩耶 中川雅之 上島賢哉 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】乾癬性関節炎は炎症性角化症である皮膚乾癬患者(有病率0.4%)の15%程度に発症する免疫介在性の慢性炎症性疾患であり,脊椎関節炎の一疾患である.今回われわれは,原因不明の椎体炎の精査中に,皮疹が出現したことにより診断に至った乾癬性関節炎の1症例を経験したので報告する.

【症例】64歳,男性.喫煙歴:20本/40年,飲酒歴:日本酒200 ml/日.既往に脂質異常症.

【経過】4年前から左腰下肢痛と後頸部痛があり,他院で腰部脊柱管狭窄症と診断された.2018年某日,当院を受診し,左腰下肢痛に対し神経ブロック療法を開始した.初診時,頸部に圧痛はなく,神経根障害を疑わせる所見はなかった.頸椎レントゲンではC2/3の椎間関節肥厚とC3/4の不安定性を認めた.血液検査では白血球数正常,CRP 0.53と軽度上昇を認めた.初診より6カ月ごろとくに誘因なく頸部痛が増強し,CRP 4.3と上昇した.頸部MRIを撮像したところ,STIR法でC4,C5椎体に高信号を認めた.発熱はなかったが,化膿性脊椎炎が疑われたため精査加療目的に入院し,抗生剤治療を開始した.血液培養結果は陰性であった.NSAIDsを開始したところ,痛みは著明に改善した.入院後に躯幹や四肢に皮疹を認め,第7日目に尋常性乾癬と診断された.CRPは低下傾向であったが,第12日目に再上昇したため乾癬性関節炎を疑った.NSAIDsを継続したところ症状改善したため,第22日目に退院した.

【考察】発熱がないことや抗生剤治療の効果が乏しいことから,化膿性脊椎炎は考えにくい状況であった.また,リウマトイド因子や抗CCP抗体は陰性であり,関節リウマチも否定的であった.乾癬の存在やNSAIDsが著効したことを含め,本症例は乾癬性関節炎の可能性が高いと考えられた.

【結語】原因不明の椎体炎の診断に難渋した症例を経験した.

3. 突発性難聴に対する外来通院における星状神経節ブロック治療の検討

中島 愛 橋本 誠 須賀大樹 中村繭子 小寺志保 加藤隆文 米良仁志

東京都保健医療公社荏原病院麻酔科

【背景】突発性難聴は,急性感音難聴をきたす代表的な疾患であり,一側高度感音難聴の原因として最も高頻度に認められる.その病態はいまだ不明であり特効的治療法も確立されていない.当院では突発性難聴の治療に積極的に取り組んでおり,基本的には入院加療とし,ステロイド全身投与に加え高圧酸素療法,星状神経節ブロックを行っている.しかしながら,近年ではさまざまな理由で入院ができず外来通院のみとなる患者が増えてきている.今までは入院加療の患者を対象に星状神経節ブロックの突発性難聴に対する治療効果を検討してきたが,今回はそういった背景を受け,外来通院患者における星状神経節ブロックの治療効果を検討した.

【方法】平成29年1月1日から平成30年12月31日までに当科を突発性難聴の治療目的で受診し,星状神経節ブロックを施行した39症例を対象に後ろ向き研究を行った.初診時聴力の重症度分類を基準とし,さまざまな観点から聴力回復効果を検討した.

【結果と考察】外来通院にて星状神経節ブロック治療を行った結果,58.9%(23/39)の症例において初診時よりも難聴の重症度が回復した.なかでも,初診時の重症度が低く,また発症から初診までの期間が短いものが聴力回復傾向にあった.外来通院となる患者は入院加療患者と比較して,初診時の重症度が低いこと,発症時期から当科初診まで1カ月以上経過している症例が多いことなどが特徴としてあげられる.

これらにさらなる考察を加え,報告したい.

4. 当科における末梢性顔面神経麻痺の最近の治療状況

武冨麻恵 信太賢治 小林玲音 松本美由季 福田 悟 鹿島邦昭 山本典正 竹村 博 増田 豊 大嶽浩司

昭和大学医学部麻酔科学講座

【緒言】当科では末梢性顔面神経麻痺(FP)の治療はステロイドと抗ウイルス薬による薬物療法に星状神経節ブロック(SGB)やリハビリテーションを併用している.しかし,SGBに関しては保険診療上の制約のため,頻回に行うことが困難である.そこで口輪筋の誘発筋電図(ENoG)で判定した重症度別にSGBによる治療方針を決定している.発症10日から2週間後のENoG値(患側/健側比)が10%未満を重症群,10%以上40%未満を中等症群,40%以上を軽症群とする.重症群の場合,初診から2週まではSGBを2~3回/週で行い,3から4週までは1回/週で,5から8週までは1回/2週で行う.中等症群は,4週までは重症群と同様であるが,4週後の麻痺スコア(柳原40点法)が20点未満は5から8週もSGBを1回/2週で行い,20点以上なら5週以降は経過観察とする.軽症群は2週までSGBを2~3回/週で行ったのち経過観察とする.SGBのリスクが高い症例は低反応レベルレーザーの星状神経節照射とする.なお重症群と中等症群の症例は共同運動,こわばり,眼裂の狭小化や口周囲筋の萎縮などの後遺症予防のため,発症早期から表情筋のストレッチ指導を行う.さらに発症5週目より口眼共同運動を制御するため開瞼運動を指導し,受診時にセルフリハビリテーションの状況を確認する.めまいや難聴,こわばりが残存したHunt症候群に対しては鍼治療を行う.

【目的】最近の当科のFPの治療成績を明らかにすること.

【方法】2018年8月から2019年7月までのFP患者の診療録を後ろ向きに調査した.調査項目は年齢・性別・原因疾患・合併症・初診までの待機日数・重症度・麻痺スコア・後遺症の有無とした.今回の検討では麻痺スコア36点以上で軽快とした.

【結果】症例数は71例(男性42例/女性29例)で平均年齢は53.5歳(4~90歳)であった.原因疾患はBell麻痺60症例,Hunt症候群10症例,手術後麻痺1例であった.待機日数の中央値は7日(1~77日),重症度は重症群16例,中等症群30例,軽症群23例,不明2例であった.軽快率は軽症・中等症群で100%,重症群で58.3%であり,待機日数とスコア改善率の間に負の相関(r=−0.60,p=0.0401)があった.後遺症出現率は軽症群0%,中等症群で8%,重症群で33.3%であった.難聴が残存した1例は鍼治療により回復した.めまいが残存した1例は鍼治療継続中であり回復には至っていなかった.

【結語】当科の治療方針では,早期に治療を開始すれば重症群であっても高い軽快率が得られた.

5. 医療従事者のストレスチェック制度

畑中浩成*1 田中秀治*2 田久浩志*2 松川隆一*3

*1国士舘大学大学院救急システム,*2国士舘大学大学院,*3山梨大学麻酔科

【はじめに】現代社会はストレスが多い,労働者は多忙で,他者とかかわりが少なくなっている.悩みの相談がしにくい.3年前からストレスチェック制度が導入された.労働者の自らの気づきを促してメンタル不調を未然防止する.また労働者の全体の結果から集団的に分析し職場環境整備する.今回,医療従事者に焦点を当てた.医療従事者はストレスが多く,退職したり休職したりすることがある.

【目的】ストレスチェック制度導入したことでどう職場環境が改善したかを調査した.

【方法】病院職員の集団分析結果を検討した.ストレスチェック制度では職業ストレス簡易調査として,質問が57項目ある.3分野からなる.最初は職場のストレス要因である.次にそれによる症状である.3番目は周囲の支援である.労働者が回答し,ストレスの度合を判断した.個人のデータを集積し集団分析した.

【結果】過重労働職場では高ストレス者が多かった.この制度が導入された為健康管理を行う土壌ができた.

【限界】ストレス要因が改善されず,制度は途上段階である.制度が必ずしも理解されていなかった.人事に利用される可能性があった.

【展望】匿名化してビッグデータ収集できるかもしれない.

6. 精神的健康度とうつ症状からみたペインクリニック治療の有効性

小林如乃*1,2 米良仁志*2

*1昭和大学医学部衛生学公衆衛生学講座,*2東京都保健医療公社荏原病院麻酔科

【目的】疼痛患者に対しては,痛みの症状の長期化やQOLの低下などを防ぐためにも,できるだけ速やかにペインクリニックでの治療が適切に行われることが望ましいと考える.強い痛みが長期化すると精神的健康度の低下やうつ症状がみられることも多い.ペインクリニックの治療を早期に開始している患者は精神的健康度が保たれていることをすでに報告しているが,今回はうつ症状の程度も視野に含めてさらに詳細なる検討を行うことを目的とした.

【方法】ペインクリニックに受診し痛みに対する治療を受ける患者(n=247)を対象にGeneral Health Questionnaire(GHQ:一般健康調査票,ハミルトンうつ病評価尺度(HRSD))を用いて心理検査を行い,GHQ総合得点を基に精神的健康度の高低を分け,また,痛みの症状が発現してから1カ月以内にペインクリニック治療を開始した場合と3カ月以降に開始した場合に分け,罹病期間と痛みのvisual analog scale(VAS)の値を従属変数として分散分析を行った.HRSDの総合点数についても同様の分析を行った.また,各変数についてPearsonの積率相関分析を行った.

【結果と考察】痛みの症状が発現してからなるべく早期にペインクリニックの治療を開始している患者は,精神的健康度が比較的保たれており,うつ症状も軽度であった.ペインクリニックの治療の開始が遅い患者ほど主観的な痛みの強さの程度は大きくなる可能性があり,精神的健康度の低下やうつ症状が重篤化することから,痛みへの適切な治療が速やかに行われることが大切であると考える.

■特別講演

3D解剖による四肢神経ブロックの解説

武田吉正

岡山大学病院集中治療部

神経ブロックを安全に施行するには解剖学の知識が不可欠です.しかし,従来の解剖学図譜は,印刷物であるため立体感(3次元的構造)を理解することが困難です.また,絵の奥にあるものを見ることができず,層構造の理解にも適していません.一方,臨床解剖を行えば理解が深まりますが,セミナーの開催日は限られており,時間的に制約されます.そこで,パナソニックと共同で,見たいときに,見たい方向から,見たい深度で,実写解剖を観察できる仮想解剖システムを開発しました.

多層解剖:解剖を段階的に行い,各層で高精細3D撮影を実施した.これによりバーチャルに解剖を進めたり戻したりすることを可能にしました.

多視点撮影:緯度・経度に沿って全球面上より高精細度撮影を施行した.これによりバーチャルに解剖体を回転させることを可能にしました.

多視差撮影:各撮影時に多視差3D撮影を行い,拡大縮小しても立体感が誇張されることなく,常に正しい立体表示を可能にしました.

講演ではこの3D解剖システム(MeAV Anatomie 3D®)を用い,四肢の神経ブロックに必要な臨床解剖を解説します.

■シンポジウム

「私の主義と手技」―安全・確実・超音波―

新堀博展

医療法人緩和会横浜クリニック

超音波ガイド下神経ブロックを始めた10年前は,教科書にある全ての神経ブロックを超音波ガイド下に行うことを目標とした.当然,超音波のメリットが大きなブロックもあれば,そうでないブロックもある.本音と建前が解離することもあり,セミナーでのみ説明し,臨床では使わないということもあった.しかし,超音波装置がペインクリニシャンに与えたメリットは非常に大きい.診断と治療の両面において医師,患者ともに大きな福音である.診断においては,とくに麻酔科出身の医師にとっては,これまで運動器領域の痛みは,トレーニングを受ける機会が少なく,診断に難渋することもあった.しかし,病変部を動的に直接観察できることで,痛みの原因検索の大きな一助となっている.もちろん神経ブロック治療においても効果は絶大で,従来のランドマーク法やレントゲン透視下法と組み合わせることで,より安全に確実にブロックを行うことができる.頸部から腰部まで,脊椎周囲の神経ブロックはペインクリニックでは施行頻度の高い治療であり,とくに星状神経節ブロック,硬膜外ブロックは基本的な手技である.故に過去の当学会においても,達人の先生方のブロック手技を供覧し,この手技の奥深さをあらためて認識した.では硬膜外ブロックに超音波装置を併用するメリットはあるか? 頸椎神経根ブロックや腕神経叢ブロックは超音波ガイド下に行うのが安全・確実・簡便というのは多くの先生方に受け入れられると思うが,硬膜外ブロック,とくに腰部硬膜外ブロックは職人技が現状のようである.さらに,星状神経節ブロックや腰椎神経根ブロックはどうだろうか? 麻酔科医なら慣れ親しんだブロックでも,痛みの診療にあたる医師は多科におよび,皆がこれらのブロックに精通しているわけではない.今回,脊椎周囲のブロックに関して,これまでのセミナーでの経験を踏まえて,超音波ガイド下ブロックの利点と限界,今後の課題について述べたい.

高冷地高齢社会で椎体骨折のADL低下を防止する骨穿孔術

田村 真

たむらペインクリニック

当クリニックは長野県佐久地方にあり,近年北陸新幹線が開通し首都圏への交通の便はよくなったものの,標高600メートルから1,300メートルの高所で,冬はマイナス15度程度まで下がる厳しい自然環境にあります.厳しい自然環境と日本の地方の特徴の高齢化社会状況での稲作や野菜づくりの肉体酷使の農業が中心の産業であります.その背景からペインクリニックを対象とした患者は多く,診療科を問わず頸腕痛や腰下肢痛を訴えた受診は上位を占めています.

なかでも,骨粗鬆症性圧迫骨折は凍った路面での転倒や葱や大根を抜いた時などの農業従事中に受傷することが多く,保存的治療で時間を費やすと高齢者はADL低下から心不全,肺炎を招くばかりでなく,家族全体を長期の治療や介護に巻き込むことにより就労が妨げられ家庭の経済状況悪化にまで影響を及ぼすことが見受けられます.

当院では,開業時から骨粗鬆症性椎体骨折には,時間を費やす安静からリハビリテーション,薬物などによる保存的治療を行わず,第一選択として椎体骨穿孔術を行っています.背景にある環境的社会的状況ばかりでなく,椎体穿孔術の痛みの取れ方と手技がX線透視さえできる環境であれば比較的容易に安全性にできることが理由にあげられます.効果は施行直後に著明に現れるものが多く,鎮痛薬の補助的治療もリハビリテーションも必要としない場合を多く経験してきました.以上から,侵襲の少ないブロック治療や薬物治療で経過を診るよりも,初診時から穿孔術を踏まえた診療を企てています.

今回,椎体骨折患者の骨穿孔術の適応を含め初診から施行までの流れ,穿孔術の具体的方法,穿孔術の実際の動画による紹介,治療後のフォロー,また著効例と効果のみられない症例を含めた治療成績を提示します.

長野県は椎体穿孔術が保険で認められる数少ない県の一つですが,椎体骨穿孔術が一般に認められ,ペインクリニックの一つの有効な方法となることを願っております.そして,痛みを早く取ることにより本人の笑顔ばかりでなく家族の笑顔,家族がかかわる地域,産業に及ぶまでの社会全体の笑顔を目指しています.今回このような発表の機会を与えられたことにより,ペインクリニック診療にかかわる方々からの意見を伺って,より安全で洗練された方法となることを目指したいと考えています.

ペインクリニックにカフェ併設の試み

橘 礼子

ひよしペインクリニック

開院して8年になるクリニックを改装し,令和元年5月,院内に庭を臨むカフェをオープンしました.

約10年前に自分自身の手術体験とその後の体調不良を通じてホリスティックな考え方が自分の医療の基礎となったこと,そしてペインクリニックの臨床に約20年携わり,自分なりに患者さんと向き合ってきた結果,「急性痛には治療は有効だが,慢性痛は自分で治せるもの」ということをほぼ確信し,カフェ空間を通してそのようなメッセージを発信したいと思ったからです.

改装前は,ベッド8台で透視下ブロック以外の主要なブロック治療を提供する通常のペインクリニック診療を行っておりました.その治療室を全面的にカフェに改装し,比較的広かった診察室その他の空間を,ベッド4台の治療室と診察室に改装,また待合室も縮小し,そこにアロマテラピーのサロンもオープンしました.アロマのセラピストがセルフストレッチの指導も行っています.

カフェでは,こだわりのコーヒー,紅茶,ハーブティと,できるだけオーガニックな材料にこだわった手作りのケーキを提供しています.慢性痛の患者さんの背景に必ず存在する「緊張」の開放のために,四季折々の庭の自然を見ながらリラックスできる空間を提供したいと思っています.

また,オープン以来「自分の身体は自分で治そう」をテーマに5回のイベントも開催しました.免疫と腸内環境に関する講演会,ヨーガ体験イベント,アクセサリー作りのワークショップ,高齢者向け健康体操イベント,そしてマクロビオティックな食養生に関する講演会です.

さほど広い空間ではないため参加者も毎回せいぜい20名程度ですが,患者さんたちが医療者と治療に依存するのでなく,まずは自分自身と向き合うきっかけ作りだけでもできればと思っています.

今回このような機会をいただきましたので,その取り組みを少し紹介させていただきます.

■セッション3

1. 電撃痛を伴った帯状疱疹痛に対しカルバマゼピンが著効した2症例

須賀大樹 橋本 誠 中島 愛 中村繭子 小寺志保 加藤隆文 米良仁志

東京都保健医療公社荏原病院麻酔科

【背景】急性期の帯状疱疹痛はおもに侵害受容性疼痛で,ときに電撃痛(電気が走るような痛み)の症状により治療に難渋し,他院から紹介されてくる患者も少なくない.今回,カルバマゼピン内服により電撃痛が著効した症例を2例経験したので報告する.

【症例1】68歳の男性,左頭頂部に発疹が出現し,その後水疱となり他院皮膚科を受診,左三叉神経第1枝領域帯状疱疹と診断され入院となった.入院後は経過良好で疼痛の出現もなかったが,退院後より夜間に3~5分で治まる左前額部から左後頭部にかけての電撃痛が生じ,激痛発作を繰り返したため再入院した.頭部CTや髄膜炎の検査では異常なく,疼痛コントロール不良のため当院麻酔科紹介受診となった.当科初診時,安静時痛は数値評価スケール(numerical rating scale:NRS)で1/10,電撃痛は1日4~5回で3~5分間続き,夜中にも生じるため眠れない状態だった.電撃痛に対してカルバマゼピン200 mg/日の内服を開始し,星状神経節ブロックも施行した.同日夜より電撃痛生じず,以後カルバマゼピンを漸減して中止した.現在,電撃痛の再燃なく外来通院中である.

【症例2】75歳の男性,左肘から左手首にかけて発疹が出現,C5~8帯状疱疹と診断され当院紹介受診となった.当科初診日,左上腕から左前腕のしびれと痛み(NRSで8/10)があり,星状神経節ブロックで治療開始した.初診1週間後より頻繁に生じる電撃痛が出現したため,カルバマゼピン200 mg/日の内服を開始したところ電撃痛が消失した.内服中止後も電撃痛の再燃なく外来通院中である.

【結語】カルバマゼピンはおもに三叉神経痛に使用される治療薬だが,電撃痛を伴った帯状疱疹痛にも著効した症例を経験した.

2. カルバマゼピンによる汎血球減少が疑われ,休薬に伴う疼痛増悪に対し眼窩下神経ブロックが奏効した三叉神経痛の1例

桑原沙代子 中川雅之 唐澤祐輝 林 摩耶 萩原信太郎 荒川恭佑 上島賢哉 安部洋一郎

NTT東日本関東病院ペインクリニック科

【はじめに】カルバマゼピンは三叉神経痛の特効薬だが,副作用が多い.汎血球減少のためカルバマゼピンを休薬したところ,疼痛が増悪し,血小板輸血後に神経ブロック療法を行い疼痛管理ができた1例を経験したので報告する.

【症例】80歳,男性.左第2枝特発性三叉神経痛に対し,外来通院中だった.数年前からカルバマゼピンの内服を開始し,200 mg/日内服で疼痛自制内だったが,X−3月から300 mg/日,X−2月から300~400 mg/日へ増量が必要で,神経ブロック療法の併用について説明を行っていた.X−1月,唾液に血が混じり,近医内科を受診した.血液検査で汎血球減少を認め,X月Y日,当院血液内科に精査入院となった.カルバマゼピンによる再生不良性貧血が鑑別の一つにあがり,Y日から内服を中止した.Y+7日,疼痛で洗顔困難となり,神経ブロックを希望された.Y+8日,眼窩下神経ブロックを予定したが,血小板低値が持続しており血小板10単位輸血後に神経ブロックを計画した.しかし,輸血後採血で血小板数は4.8万/µlだったため,別日に血小板20単位を輸血し,血小板数10.9万/µlを確認後,超音波ガイド下眼窩下神経高周波熱凝固を施行した.施行後から疼痛は消失した.翌日以降,出血や感染等の合併症なく,疼痛コントロールは良好である.

【考察】カルバマゼピンの副作用発現頻度は高く,内服中断せざる症例が多い.薬物療法で疼痛管理が困難となった場合,侵襲的治療が考慮される.眼窩下神経ブロックは体表のブロックだが,眼窩下動静脈と伴走しているため,出血のリスクがある.今回は輸血施行後に神経ブロックを行うことで,安全に施行することができた.

【結語】カルバマゼピンは副作用発現頻度が高い薬剤のため,定期的な採血検査が必要である.副作用があらわれた場合は直ちに中止し,他の治療に切り替える必要がある.

3. 終末期の骨盤内腫瘍による疼痛に対して三環系抗うつ薬が奏効した4症例

大橋祐介 鈴木陽子 向井敦子 鴻池紗耶 松石 純 横山和彦

昭和大学横浜市北部病院緩和医療科

【背景】骨盤内の腫瘍はしばしば侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の混合性疼痛を発生させ治療に難渋することがある.その場合,オピオイドに加えて鎮痛補助薬を併用する.三環系抗うつ薬(tricyclic antidepressants:TCA)は神経障害性疼痛に対して用いられるが,がん性疼痛に対しての有効性は確認されていない.がん性疼痛に対してTCAを使用する際,終末期では,抗コリン作用によるせん妄やQT延長などの副作用が懸念される.今回,終末期の骨盤内腫瘍による疼痛に対してTCAが奏効した4症例を経験したので報告する.

【対象】症例1:59歳男性,大腸がん,仙骨・腸骨転移.主訴は下肢痛.

症例2:40歳女性,子宮頸がん.主訴は会陰部痛.

症例3:58歳女性,直腸がん,仙骨転移.主訴は肛門部痛.

症例4:61歳男性,直腸がん.主訴は臀部痛,下肢痛.

【経過】TCA開始後生存期間は平均36.8日(19~58)だった.オピオイド,NSAIDs,アセトアミノフェン,プレガバリン,ケタミンなどの鎮痛薬を使用したが疼痛はSTAS-J 2以上だった.TCA(アミトリプチリン,アモキサピン)を25 mg/日から開始したところ,疼痛は改善し,STAS-J 1以下となった.TCA開始前に使用していた鎮痛薬は減量もしくは中止が可能だった.オピオイドはTCA開始前の約47%(18~87)に減量可能だった.TCA開始2週間以内にせん妄の出現はなく,心電図異常もなかった.

【考察】骨盤内の疼痛に対し,硬膜外ブロックや,とくに旧肛門部痛に対してくも膜下フェノールブロックなどを施行することがあるが,終末期では,凝固異常や感染症などにより適応外となる場合も多い.その場合,オピオイドに加えて鎮痛補助薬を併用するが,無効な場合でもTCAが奏効する可能性がある.

【結語】終末期の骨盤内腫瘍による疼痛に対し,他剤で難治性の場合,TCAが有効な場合がある.

4. 前立腺がん骨転移による痛みに対しデュロキセチンの投与が奏効した1症例

新倉梨紗 木内直人 板垣益美 関  絢 梶原一絵 鈴木孝浩

日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野

【はじめに】デュロキセチンはノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)であり,日本緩和医療学会による「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」が2014年に改訂された際,がん疼痛に対する鎮痛補助薬として追加された.しかし使用報告は化学療法後の末梢神経障害痛に関してが多く,がん自体の痛みに対する報告は少ない.今回,前立腺がん骨転移によるがん疼痛にデュロキセチンが有効であった症例について報告する.

【症例提示】64歳男性,前立腺がん肋骨転移による右背部痛に対し,泌尿器科よりNSAIDs,プレガバリンが処方されるも痛みの改善がないため当科に紹介となった.当科初診時にはVAS 68/100の右背部痛,肋骨転移部に一致,限局する持続痛であった.ADLおよび睡眠障害を伴っていた.トラマドール100 mg/日を処方するも効果なく,200 mg/日まで増量したが痛みの改善は認められなかった.オキシコドンに変更し,段階的に80 mg/日まで増量するも改善乏しく,慢性痛の中枢機序の関与を疑い,鎮痛補助薬としてデュロキセチン20 mg/日の内服を追加した.追加後1週間で右背部痛がVAS 30/100まで改善し,ADLおよび睡眠の改善がみられた.副作用は軽度のめまいと嘔気のみで内服の継続が可能であり,デュロキセチン60 mg/日まで増量した結果,痛みの再燃なく経過した.

【結語】本症例の痛みはオピオイド抵抗性であったが,デュロキセチンを補助薬として使用し,鎮痛が得られた.デュロキセチンは抗うつ作用のみならず,慢性痛に対しては下行性疼痛抑制系の賦活作用による鎮痛効果を発揮する.さらに基礎研究においては本薬の抗がん作用も報告されていることを鑑みると,慢性がん疼痛においてはデュロキセチンを早期投与することで良好に管理できる可能性が示唆された.

5. 低用量フェンタニル貼付剤による非がん性慢性疼痛の緩和

後藤良太 井関雅子

順天堂大学付属医院麻酔科・ペインクリニック

非がん性慢性疼痛へのオピオイド使用は,依存症を憂慮されることがある.低用量フェンタニル貼付剤で安全に疼痛緩和を行えた症例を経験したので報告する.

【症例1】80歳女性,1年半前に他病院でL5/S1の腰部脊柱管狭窄症とすべり症と診断,他クリニックで硬膜外ブロックは効果なし,トラマドール,プレガバリン,セレコキシブは効果なく気分不快や食欲低下があり継続困難であった.デュロキセチンが処方されたが自宅内歩行も困難のため,当科を紹介された.左L5神経領域中心の疼痛あり,左L5神経根ブロックや椎間板注入を行うも効果不明,リン酸コデインを少量内服後にフェンタニル貼付剤0.5 mg開始し,50~200 mの連続歩行で外出や家事を再開した.手術治療は本人希望なく,フェンタニル貼付剤とデュロキセチンの併用で経過観察中である.

【症例2】72歳男性.10年前から腰部脊柱管狭窄症による左坐骨神経痛に対しトラマドール・アセトアミノフェン配合錠とデュロキセチン,プレガバリンの内服治療とトリガーポイント注射,疼痛増強時に硬膜外ブロックを行っていた.2年前に発熱と左大腿痛が出現,MRI画像と定期的な腰部への鍼治療のエピソードから左腸腰筋膿瘍と診断,入院加療開始.運動・感覚障害はないが,安静時NRS 9のためフェンタニル貼付剤2 mgで維持.6週間の抗生剤で膿瘍退縮し疼痛も改善,フェンタニル貼付剤は減量・中止した.1年半後,左L5神経根症が増悪,腰椎手術希望あり,その間の疼痛緩和にフェンタニル貼付剤0.5 mg開始.診断目的のL5神経根ブロックで再現痛を得,L4/L5後方除圧術を施行.フェンタニル貼付剤を中止し,残存痛に対してトラマドール製剤を使用している.

【結語】低用量フェンタニル貼付剤は適応の高い患者の選択により,非がん性慢性疼痛の緩和に寄与する可能性がある.

6. 神経障害性疼痛患者を対象としたミロガバリンの使用実態下における安全性および有効性の検討

小林玲音*1 武冨麻恵*1 増田 豊*2 大嶽浩司*1

*1昭和大学病院麻酔科,*2東京クリニック

【目的】神経障害性疼痛患者を対象にミロガバリンの使用実態下における安全性および有効性を検討することを目的として,使用成績調査を実施した.

【対象と方法】2019年8月から2019年11月までの13週間にミロガバリンが投与された帯状疱疹関連痛患者7例(男性5例,女性2例,年齢71歳(67~78歳))を対象とし,当科の外来問診票を用いて安全性および有効性に関する情報を収集した.

【結果】7例のうち3例でデュロキセチン,またはトラマドール製剤が併用され,4例で神経ブロック療法が併用されていた.プレガバリンからの切り替えは5例であった.安全性解析において,副作用項目は7例19件記載された.おもな副作用は,眠気4例,口の乾き3例,体重変化3例,食欲変化3例,便秘または下痢2例であった.これら副作用が出現した症例のうちデュロキセチン,またはトラマドール製剤が併用されていた症例は,眠気1例,口の乾き2例,体重変化2例,食欲変化2例,便秘または下痢2例であった.内服中止の原因となった項目は1例で1件報告され,眠気であった.

痛み(NRS)の中央値(四分位範囲)は投与開始時(7例)で7(5~8),2週(7例)で5(4~5),4週(6例)で3(2~6.25),6週(5例)で4(1.5~4.5),8週(4例)で3(2.25~4.5)であった.投与開始時からの変化量は2週−2(0~−2),4週−2(−1~−5.25),6週−3(−1~−6),8週−3.5(−0.5~−5)で,2週4週6週で有意であった(Wilcoxonの符号付順位検定).

【考察】本調査期間に認められたおもな副作用は,これまでの国内市販後直後調査と比較して口の乾き,食欲変化,便秘または下痢が認められた.そのうち半数以上はデュロキセチンまたはトラマドール製剤が併用されていた.NRSは臨床的に意義のある改善が認められた.中止理由で多かった眠気に対して留意が必要である.

 
© 2020 Japan Society of Pain Clinicians
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