Journal of Japan Society of Pain Clinicians
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Analgesic effect of perineurally administered dexamethasone for arthroscopic shoulder surgery under interscalene brachial plexus block
Teiichi SANOJunichirou YOKOYAMA
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2020 Volume 27 Issue 4 Pages 281-286

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Abstract

【目的】斜角筋間腕神経叢ブロック(ISB)単独での,肩関節鏡手術におけるデキサメタゾン添加による効果を後ろ向きに検討した.【方法】ISB単独で関節鏡下肩腱板断裂手術を行った症例のうち,局所麻酔薬に1%メピバカイン10 mlと0.75%ロピバカイン10 mlを用いた52例を対象とした.局所麻酔薬にデキサメタゾンを添加しなかったC群(26例)とデキサメタゾン6.6 mgを添加したD群(26例)の2群に分けた.麻酔開始から導入完了までの時間(麻酔導入時間),麻酔開始後24時間以内の術後初回の鎮痛剤使用までの時間(麻酔効果時間),合併症などについて評価した.麻酔導入完了はC5,C6神経根領域の冷覚消失および運動神経遮断が得られた時点と定義した.【結果】C/D群の手術時年齢,手術時間,使用したアンカー数の中央値は68/69歳,75/78分,4/4個であり,両群間で差はなかった.BMIはD群で有意に低かった(p=0.027).C/D群の麻酔導入時間,麻酔効果時間の中央値はそれぞれ11/12分,494/746分であり,麻酔効果時間はD群で有意に長かった(p=0.001).【結論】局所麻酔薬にデキサメタゾンを添加すると麻酔効果時間が有意に延長した.局所麻酔薬としてのデキサメタゾンは術後鎮痛に有用であった.

I はじめに

肩関節鏡手術は,肩腱板断裂や反復性肩関節脱臼などのさまざまな肩疾患に対する標準的な治療法となっているが,全身麻酔で行われるのが一般的である.全身麻酔の補助的な麻酔として斜角筋間腕神経叢ブロック(interscalene brachial plexus block:ISB)が使用されることも多いが,近年ではISB単独での肩関節鏡手術の報告もある1).肩関節鏡術後の疼痛管理は課題の一つであるが,ISBに使用する局所麻酔薬にデキサメタゾンを添加することで,術後の鎮痛効果が延長するとの報告がある26).しかしその多くは全身麻酔を併用した報告であり,われわれが渉猟し得た限り,ISB単独での肩関節鏡手術における局所麻酔薬へのデキサメタゾン添加の効果を検討した報告はなかった.本研究の目的は,ISB単独での肩関節鏡手術において,局所麻酔薬にデキサメタゾンを添加するかどうかが術中・術後の麻酔効果にどのような影響を及ぼすかについて後ろ向きに検討することである.

なお,本研究は静岡県立総合病院の倫理委員会の承認を得ている(SGHIRB#2019087).

II 対象と方法

対象は2016年5月から2019年6月までに超音波ガイド下のISB単独で肩関節鏡手術を行った症例のうち,症例数の最も多かった関節鏡下肩腱板断裂手術(arthroscopic rotator cuff repair:ARCR)を行った245例のなかで,局所麻酔薬として1%メピバカイン10 mlおよび0.75%ロピバカイン10 mlを混合して全量使用し,同一術者がISBと手術の両方を行った52例を対象とした.局所麻酔薬の種類と量が異なっていた症例,麻酔と術者が異なっていた症例は除外した.症例は局所麻酔薬にデキサメタゾンを添加しなかったC群,局所麻酔薬にデキサメタゾン6.6 mgを添加したD群に分類したところ,C群26例,D群26例であった.症例の振り分けは手術時期によるものであり,2016年5月から2018年7月までの症例はすべてC群,2018年8月から2019年6月までの症例はすべてD群であった.

1. ISB

神経ブロックは超音波ガイド下に行い,斜角筋間アプローチで腕神経叢ブロックを行った.患者を仰臥位とし,頸部を軽度伸展かつ顔を健側へ向けて神経ブロックを行った.超音波はNoblus(日立アロカメディカル株式会社)を用い,高周波リニアプローブを用いた.神経ブロックには22Gカテラン針を用い,神経刺激装置は使用しなかった.カテラン針は平行法で前内側から刺入し,主としてC5,C6神経根を中心に神経ブロックを行った.横隔神経がブロックされないようにするため,前斜角筋の前方付近には薬液が広がらないように注意した.麻酔の神経遮断効果は,肩腱板筋力および肘屈曲筋力,肩~上腕のcold testで確認した.

2. ARCR

麻酔効果を確認してからbeach chair positionとして手術を行い,全例で肩峰下除圧を施行した.各ポータル作成時は,止血のために0.25%エピネフリン入りリドカインを2 ml用いた.関節鏡用灌流ポンプを用い,灌流液3,000 mlに対してアドレナリン1 mgを混ぜて使用した.肩甲下筋の全層断裂はsuture bridge法(SB法)で修復し,関節包側部分断裂はsingle row法で修復した.棘上筋,棘下筋の全層断裂はSB法で修復し,部分断裂(関節包側部分断裂および滑液包側部分断裂)はいったん全層断裂を形成した後にSB法で修復した.修復に際してsuture anchorを断裂サイズに応じた必要数を使用し,術後は肩外転装具(Kenbag®,洛北義肢)で固定した.術中・術後に尿バルーンは留置せず,術後は安全のため車椅子で病棟へ帰室し,術後の安静および食事制限は設けなかった.

3. 評価項目

神経ブロック有効度,麻酔開始から導入完了までの時間(麻酔導入時間),麻酔開始後24時間以内の術後初回の鎮痛剤使用までの時間(麻酔効果時間),麻酔開始後24時間以内に使用した鎮痛剤の使用回数(鎮痛剤使用回数24h),合併症について評価した.本研究の主要評価項目を麻酔効果時間とし,その他は副次評価項目とした.神経ブロックの有効度は過去の報告7,8)に準じて次のようにGrade分類した.Grade 1:手術中にまったく痛みを感じなかったもの,Grade 2:多少の痛みがあったが追加の麻酔は不要であり,手術・処置に支障がなかったもの,Grade 3:局所麻酔など鎮痛剤の局所投与が必要であったもの,Grade 4:オピオイド系鎮痛剤や静注用非ステロイド性鎮痛剤など鎮痛剤の全身投与が必要であったもの,Grade 5:麻酔が不十分であり他の麻酔(全身麻酔や腰椎麻酔など)へ変更が必要であったものとした(表1).本研究ではGrade 1~3を神経ブロック成功と定義した.麻酔開始は局所麻酔薬の投与開始時点と定義した.また麻酔導入完了は肩腱板筋力および肘屈曲筋力が徒手筋力テストで0~1程度,cold testで肩周囲および上腕外側の冷覚が消失した時点と定義した.麻酔導入完了は麻酔開始から5分ごとに評価した.初回鎮痛剤の使用時期については患者本人の希望とした.

表1 神経ブロック有効度
Grade 1 まったく痛みがない
Grade 2 多少の痛みがあるが追加の麻酔は不要
Grade 3 鎮痛剤の局所投与が必要
Grade 4 鎮痛剤の全身投与が必要
Grade 5 麻酔が不十分であり他の麻酔へ変更

Grade 1:手術中にまったく痛みを感じなかったもの

Grade 2:多少の痛みがあったが追加の局所麻酔などは不要であり,手術・処置に支障がなかったもの

Grade 3:局所麻酔など鎮痛剤の局所投与が必要であったもの

Grade 4:オピオイド系鎮痛剤や静注用非ステロイド性鎮痛剤など鎮痛剤の全身投与が必要であったもの

Grade 5:麻酔が不十分であり他の麻酔(全身麻酔など)へ変更が必要であったもの

男女比はχ二乗検定,男女比以外の項目はMann–Whitney U検定を用いて統計学的検討を行い,危険率0.05未満を有意差ありとした.統計ソフトはSPSS for Windows version 11.5J(SPSS Japan Inc.)を使用した.

III 結果

両群の男女数,手術時年齢,BMI(body mass index),手術時間,使用アンカー総数の中央値,第1四分位数,第3四分位数は表2のとおりであった.男女数,手術時年齢,手術時間,アンカー総数は両群間に差はなかったが,BMIはD群で有意に低かった(p=0.027).神経ブロック有効度,麻酔導入時間,麻酔効果時間,鎮痛剤使用回数24hの結果を表3に示した.C群における神経ブロック有効度はGrade 1が23例(88.5%),Grade 2が2例(7.7%),Grade 3が1例(3.8%)であり,Grade 4およびGrade 5の症例はなかった.D群における神経ブロック有効度はGrade 1が21例(80.8%),Grade 2が4例(15.4%),Grade 3が1例(3.8%)であり,Grade 4およびGrade 5の症例はなかった.両群ともに神経ブロック成功率は100%であり,両群間に有意差はなかった.麻酔導入時間の中央値はC群11分,D群12分であり,両群間に有意差はなかった.麻酔効果時間の中央値はC群494分,D群746分であり,D群で有意に長かった(p=0.001).鎮痛剤使用回数24hの中央値はC群2回,D群2回であり,麻酔開始後24時間以内に使用した鎮痛剤の使用回数はD群で有意に少なかった(p=0.038).局所麻酔薬中毒,嗄声,神経障害,呼吸障害など神経ブロックに伴う合併症は両群ともに認めなかった.

表2 患者背景
  C群 D群 P値
症例数 26 26  
デキサメタゾン 0 mg 6.6 mg  
男性/女性 20/6 15/11 0.139
手術時年齢** 68
[58.5/73.5]
69
[64.3/73.5]
0.694
BMI** 24.2
[22.7/26.0]
22.8
[21.6/24.0]
0.027
手術時間(分)** 75
[68/99]
78
[67/93]
0.798
アンカー総数(個)** 4
[4/5.8]
4
[2/5.8]
0.697

両群間で手術時年齢,男女比,手術時間,使用したアンカー総数に有意な差はなかった.BMIはD群で有意に低かった.

男性/女性は症例数

**手術時年齢,BMI,手術時間,アンカー総数は中央値[第1四分位数/第3四分位数]

表3 結果
  C群 D群 P値
神経ブロック有効度
Grade 1
Grade 2
Grade 3
Grade 4
Grade 5
成功率

23(88.5%)
2(7.7%)
1(3.8%)
0
0
100%

21(80.8%)
4(15.4%)
1(3.8%)
0
0
100%
 
麻酔導入時間(分)** 11
[10/13]
12
[10/15]
0.710
麻酔効果時間(分)** 494
[379/637]
746
[552/830]
0.001
鎮痛剤使用回数24h(回)** 2
[2/3]
2
[1/2]
0.038

神経ブロック有効度,麻酔導入時間は両群間で有意な差はなかった.麻酔効果時間はD群で有意に長く,鎮痛剤使用回数24hはD群で有意に少なかった.

神経ブロック有効度は症例数

**麻酔導入時間,麻酔効果時間,鎮痛剤使用回数24hは中央値[第1四分位数/第3四分位数]

IV 考察

ISBにおけるデキサメタゾンの鎮痛効果に関する過去の報告は散見されるが,デキサメタゾンの投与方法は主として静脈内投与とISBの薬液に混ぜて投与(ISB投与)のどちらかに大別される.Chalifouxら9)はISB単独での肩関節鏡手術において,デキサメタゾン(4 mgまたは10 mg)を静脈内投与したところ,鎮痛効果は有意に延長したが4 mgと10 mgでは差はなかったと報告した.またDesmetら5)はデキサメタゾン10 mgを静脈内投与とISB投与したところ,両投与方法ともに鎮痛効果は有意に延長したが,両群での差はなかったと報告した.一方デキサメタゾン4 mgでは,静脈内投与とISB投与のいずれでも鎮痛効果は延長するが,ISB投与のほうがより鎮痛効果が延長したとの報告もある3).使用するデキサメタゾンの量については2.5 mg,5.0 mg,7.5 mgで比較した結果,dose-dependentであったとの報告4)がある.手術をISBのみで管理していること,過去の報告からデキサメタゾンが少量であれば静脈内投与よりISB投与のほうが鎮痛効果を得られやすいと考えられたこと,術者が整形外科医であるためステロイドは静脈内投与より局所投与のほうが使い慣れていた,などの理由からわれわれはデキサメタゾンをISB投与で使用した.本研究ではデキサメタゾンを6.6 mg使用することで術後の鎮痛効果は有意に延長しており,ISB単独麻酔下での肩関節鏡手術においても,過去の全身麻酔の報告と同様の結果であった.われわれが渉猟し得た限り,ISB単独での肩関節鏡手術における局所麻酔薬へのデキサメタゾン添加の効果を検討した報告はなく,本研究はISBそのものの効果だけを評価できた点に意義があると考えている.上肢手術ではISBのみで管理する手術も多く,そのような手術においてもデキサメタゾン添加の同様の効果が期待できると思われた.

麻酔効果時間の中央値はC群494分,D群746分であり,本研究からはデキサメタゾン添加することで約4時間程度の鎮痛効果の延長が期待できる結果となり,延長時間に差はあるものの過去の報告でも本研究と同様な結果が示されている2,3,10).この4時間の差の臨床的意義は麻酔開始時刻や麻酔効果時間に影響を受ける.手術室の運営上,麻酔科医管理の手術が優先されるため,本研究のように術者が麻酔を行う手術は朝一番の手術ではなく午後から始まることが多い.例えば午後に麻酔を開始したとすると,D群では鎮痛効果が切れてくる就寝前あたりに一度鎮痛剤を使用すればよいが,C群では夕方と就寝中にそれぞれ使用する必要性があり,D群のほうがより良い睡眠が得られる可能性がある.麻酔開始後24時間以内の鎮痛剤の使用回数がD群で有意に減少しており,鎮痛効果が延長した効果の一つと思われ,先の推論を支持する結果と考えている.しかしながら,術翌日以降は鎮痛剤を定期内服する症例も多かったため,術翌日以降の鎮痛剤の使用回数については本研究では検討できなかったが,デキサメタゾン添加による術翌日以降への影響は少ないと考えられ,Kahnら10)も同様の報告をしている.

デキサメタゾンをISB投与することで鎮痛効果が延長する理由としては,ステロイドの血管収縮作用によって局所麻酔の吸収を抑えることで麻酔効果が延長するという報告3)や,侵害受容性C fiberの活性を抑制することで炎症伝達物質を減少させるためという報告4,6)がある.静脈内投与,ISB投与のいずれの投与方法においても,デキサメタゾンを使用することでISBの鎮痛効果は有意に延長しており,適切に使用すれば術後鎮痛に非常に有用であると思われる.一方,デキサメタゾンにより局所麻酔の麻酔効果が延長する際の欠点としては,局所麻酔に伴う合併症が発生した場合にその効果が延長する可能性がある点がある.ISBにおける局所麻酔の合併症の一つに横隔神経麻痺に伴う呼吸機能障害の報告1113)があるが,Sinhaら11)はISBを0.5%ロピバカイン20 mlと10 mlで行ったところ,いずれの量においても麻酔開始15分で93%の症例で横隔膜の運動麻痺を認めたと報告している.一方,Riaziら12)は0.5%ロピバカイン20 mlと5 mlで比較し,麻酔の質には差はなかったが5 mlのほうが呼吸機能は保たれていたと報告しており,局所麻酔薬量を少なくすることで合併症発生率が低下する可能性があると思われた.幸いにして本研究では局所麻酔薬中毒,呼吸障害などの合併症は発生しなかったが,今後は局所麻酔薬を減量して検討を続ける必要があると思われた.

本研究では局所麻酔薬として1%メピバカイン10 mlおよび0.75%ロピバカイン10 mlを混合して使用したが,C群およびD群ともに神経ブロック成功率は100%であり,デキサメタゾンによる神経ブロック有効度に対する影響はなかった.また麻酔導入時間も両群間で有意差はなく,デキサメタゾンによる影響はなかったと考えられる.Sakaeら3)は0.75%ロピバカイン20 mlにデキサメタゾンを4 mg混ぜて使用することで知覚神経の麻酔導入時間が短縮したと報告しているが,その要因は不明であるとしており,また運動神経の麻酔導入時間についての報告はなかった.本研究では麻酔導入時間は知覚神経と運動神経を分けずに評価していたため,デキサメタゾンが知覚神経および運動神経に及ぼす影響を個々に評価することはできなかった.

本研究ではいくつかの限界点がある.その1点目は症例を無作為に割り付けていないことである.症例の振り分けは手術時期によるものであり,C群が前半,D群は後半の症例であったため,麻酔の習熟度が結果に影響を及ぼした可能性は否定できない.2点目は麻酔後の呼吸障害を患者本人の訴えと術中に測定していたSpO2の推移で判断している点である.Sinhaら11)はISB後に超音波で横隔膜の動きを検討した結果,高率で横隔膜運動麻痺を認めたと報告しており,目立った症状がなくとも潜在的な横隔膜運動麻痺を呈していた可能性は否定できないため,呼吸機能については今後はより詳細に検討する必要があると思われた.3点目は本研究のようにデキサメタゾンを局所麻酔薬として投与することは,添付文書によると原則的には適応外と考えられることである.本研究結果からはデキサメタゾンの鎮痛効果が示されたが,使用に関しては十分に注意する必要がある.

V 結語

1.ISB単独での肩関節鏡手術において,局所麻酔薬にデキサメタゾンを添加するかどうかが術中・術後の鎮痛効果にどのような影響を及ぼすかについて後ろ向きに検討した.

2.デキサメタゾンの添加は神経ブロックの成功率,麻酔導入までの時間に及ぼす影響は乏しかったが,術後の鎮痛効果の時間を有意に延長させた.

3.ISB単独麻酔下での肩関節鏡手術において,デキサメタゾンを局所麻酔に添加して使用することは術後鎮痛に有用であった.

この論文の要旨は,日本ペインクリニック学会第53回大会(2019年7月,熊本)において発表した.

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